剛はまともに闘っても、まだ洋介には勝てない。その現実を謙虚に直視し、剛が見出した勝機は次の通りだ。
① 自分を彼の奴隷だと思わせ、油断を誘う
② 洋介が最も弱い時期に闘う
③ 洋介の予想を数段階上回る残虐さで闘う
④ 一発の打撃で致命傷を加える
⑤ 最低でも意識不明にして、復讐の機会を断つ
この2年間、洋介の油断を誘うために、ともかく彼の凄惨で倒錯した集団暴行に従って来た。信じられないような従順さで、何もかもに従った。洋介に対し、自分が洋介を恐怖する奴隷だと思っているよう、命懸けで演技して伝えて来た。
洋介の最大の弱みは、殺意を持つ相手と今まで闘っていないことだ。彼の周囲の人間は、洋介自身や家族を恐れ、誰もが彼に闘いを挑まなかった。2年前の剛が初めてで、それ切りだった。
(洋介はおごっている)
一発致命傷を与え、洋介が今まで感じたことがない殺意がある攻撃を追加する。驚いている5分程度の間、洋介はクイックに反撃する思考力を戻せないだろう。狙う急所は、顳顬(こめかみ)、金的、首元に決めた。
時は、洋介が一番闘争心を失っている時。洋介は水曜に祖父の家で夕食をとっている。墓地の先にある、薄気味悪い家だった。荒れた家で育つ祖父は穏やかな祖父が大好きで、道場でも木曜だけはやや和やかだった。洋介は祖父の家で夕食を食べて帰る際に、ダウナー系の覚醒剤を摂っていた。
剛が尾行し、洋介の生活を調べ尽くしたところ、洋介はこの瞬間が一番闘争心を失っていることを突き詰めた。洋介の父親と二人の兄は殺人者である。残虐な洋介であっても悩むところがあるようで、祖父にだけは心を開いて、気持ちを緩ませているようだった。剛が観察し続けている洋介は、この時だけはセンチメンタルな雰囲気があった。
武器は、まだ非力な剛が操作でき、一撃で洋介の意識を断つもの。選ぶのは、難しかった。金属バットでは攻撃力が小さい。日本刀は重く、操作が難しく、高かった。
剛は金属バットの強化版がベスト、と判断した。
剛は蒲田の溶接工場のお兄さんと仲良くなり、最も軽いが、最も硬い金属を溶接し、バットの先につけた。お兄さんには、自分が稔をかばってから凄惨な集団暴行を受けている事、相手が殺人者の弟である事、このままでは友人が自殺するので相手を殺す必要がある事を必死で伝えた。お兄さんは剛の覚悟・身体の傷・鍛え上げられた身体を見て、相手を殺さない事を条件に溶接を行ってくれた。
「あんちゃん、相手を殺すなよ」
「いや、殺します。そうしないと、俺が殺されます」
「駄目だ。お前の人生が壊れるぞ」
「いや、殺します。最低でも二度と意識は戻らない状態にします」
トドメを刺す時、日本刀が必要だった。ここは、鎌倉の刀剣屋に深夜忍び込み、入手した。だが、当たり前のことだが、売り物は厳しく管理されていた。裏に埃まみれになっている、錆だらけの刀を持ち去った。
「時は満ちた」
「俺の人生を変えてやる」
剛はダウナーな洋介を襲うため、墓地の奥に潜んだ。