大蔵の父親のKarimは物理的な駆除として、殺人を行なっていた。
実際に、彼の組織名iibadatanは、アラビア語で「駆除」という意味だった。iibadatanは物理的に殺す事に合理的に徹する強さがあった。
だが、妻の真央は殺人に違う見解を持っていた。
真央は物理的な駆除に加え、相手を精神的に屈伏させること、支配することに才能と関心を持っていた。同じ殺人者であっても、Karimと真央には本質的な違いがあったのだ。
2人の間に生まれた大蔵は、恵まれた体躯を持っていた。
16の時には、身長190cm、体重120kgになった。どの競技をやっても、専門家から「必ず世界トップになる」と保証された。実際に、大蔵はレスリングのジュニア世界選手権では優勝していた。大蔵は主にレスリングをベースに格闘技を学び、システマやサンボといった軍隊格闘技も習得していった。並外れた身体能力・運動神経・格闘能力は、明らかにKarimと真央の突出した才能を受け継いでいた。更に、8才から銃器や爆破物の処理も習得していた。
Karimは大蔵の成長に満足していた。だが、真央は違った。
(Karimのやり方では組織の限界が来る。物理的に殺すにしても、ナチスの大虐殺の様な規模の殺戮が許されるわけではない)
(もっと精神的な支配を取れ入れて、組織を標準化して拡大したい。目に見えない脅威を広げ、社会全体への影響力を拡大したい)
真央は表社会も含めた、より大きな発展を求めた。大蔵にも、精神的な支配を行う力、表社会で台頭する能力を求めた。大蔵にはハーバード大学に入学するよう求めた。20人の家庭教師が大蔵の勉強をサポートしていた。
真央自身は多忙な選手生活と並行しながら、某国立大学を卒業している。
だが、真央は論理思考力の才能はなかった。真央の国立大学の学位は、学長に一回セックスさせてやることで獲った。学長は世界的なスターである真央とのセックスに狂い、自分で真央名義の学位卒論を書いた程だった。真央は欧米でまとまった期間教育を受けておらず、フィギュアスケートで世界の頂点に立ってからも、常に欧米社会から白い目で見られて来たコンプレックスがあった。
真央は自分自身が圧倒的にフィジカルに優れているので、知的な能力への憧れが強かった。だからこそ、大蔵の論理思考力のパフォーマンスの低さに強い苛立ちを覚えた。
だが、大蔵は、真央が要求する論理思考力の才能がなかった。
母に認めてもらいたい一心で必死で勉強するが、いつも期待を裏切っていた。常に勉強で勝てなかったのは、剛・毅・玲香だった。明らかに自分のほうが勉強しているのに、勝てない。大蔵は才能の差を感じていた。
大蔵は産まれてから常に男社会から異様なプレッシャーを強く受けていた。
自分が殺人者集団という、特殊な環境に産まれたことも理解していた。大蔵はそうした背景から、過度に母性を求め、母親である真央を崇拝していた。極端な男社会で生きているために、女性に対して歪んだ憧れを抱いていた。それが真央が認める玲香への崇拝にも繋がったし、女性に対して心を開けない性質をつくった。
大蔵は、真央が女神のように感じていた。ほぼ黒人の肌を持つ大蔵には、真央の肌はシルクのように真っ白に見えた。真央は賢く、美しかった。だが、大蔵が真央を崇拝する一方で、真央は大蔵のことを忌み嫌っていた。自分の汚点だと考えていた。
「脳みそが腐ってんのか、お前は。恥晒しなんだよ」
「でかくて腕っぷしが強いだけの牛だよ。お前は」