剛が失われていた脳の奥から、拓が自殺する前日の背中の記憶を思い出すと、剛の脳は急速に動き始めた。
剛の脳の中で、様々な記憶が蘇って来た。
拓をはじめとした家族に愛された記憶や思い出、幼馴染達と夢中に遊んだ記憶、一生懸命に空手や勉強に取り組んだ、懸命に努力したのに洋介にボコボコにされて馬鹿にされた、洋介に凄惨ないじめを受けて誰も助けてくれなくて悲しかった、ずっと耐えて隠れて空手を練習し続けた、殺す思いで洋介に立ち向かって植物人間にした…。龍太を植物人間にした後に、全員血だらけで初めて葵と彩香とセックスをした…。
そうした中で、剛が特に強い記憶を取り戻したのは、寧々の記憶だった。正確に言うと、寧々と実力差を感じ、寧々に挑戦しなかった自分だった。
剛は今まで(自分が寧々とセックスするに値するレベルに達していない)と直観的に感じていた。
だから、セックスしたい思いがあっても、寧々だけは口説いていなかった。だが、自分が拓の自殺を乗り越え、大蔵を殺せば、それに値する男になり、寧々を完璧に征服できると本能的に感じた。
自分が拓の自殺を乗り越えられるとは全く思えなかったからだ。
大蔵も、寧々と同じように(今の自分だと殺される)と挑戦することから逃げていたからだ。
「寧々!俺はお前を完全に征服して犯しまくって、殺し切ってやる!」
剛は絶叫した。
そして、意識を取り戻すために、自分の失明しかかった右眼を抉り出して、地面に投げつけた。物理的なショックを自分に与えないと、(致死幻覚薬物の世界から意識を取り戻せない)と感じたし、(どうせ失明するなら必要ない)、と感じた。洋介や龍太を殺した際に剛の脳内に蠢いた黒蛇が、今までに感じた事がない程に脳内を走り回っていた。
(いつも追いつめられた時に脳で蠢く黒蛇が出て来た。俺は必ず勝てる)
剛は蘇った。この瞬間から、冷静に大蔵の殺しから生き残る方法を計画し、準備して行った。気が狂った様に、冷酷になった。
寧々はこの剛を盗撮・盗聴していて、歓喜した。
剛は寧々にとって、小学4年から気にかけ、盗撮・盗聴している男だった。剛が行っている喧嘩もセックスも全て、自分が雇っているスパイを使って、盗撮・盗聴していた。その剛が完全な墜落から蘇ってみせたのだ。しかも、自分を犯す事で奮起している。
寧々は拓の自殺で自暴自棄になり、大蔵の脅迫に怯え、致死幻覚薬物で苦しんでいる剛をずっと冷酷に見ていた。墜落していく剛に失望し、冷めきった眼で剛の様子を見下しながらも、寧々はなぜか、いつもよりも激しくオナニーをしていた。それは、寧々が剛が復活することを直観していた。
「寧々!俺はお前を完全に征服して犯しまくって、殺し切ってやる!」
こう剛が自分の右眼を地面に叩きつけて絶叫した時、寧々はいきなり自分の名前を絶叫され、心臓を一気に貫通させられるような感覚を覚えた。その後に、寧々は今までに感じた事がない絶頂を迎えた。
それは、寧々がずっと心に刻み込んでいたEgorに殺されかけ、犯され蹂躙された瞬間を超えるものだった。