寧々は、剛が「玲香のほうがいい」と言った様な、自分に媚びる様な答えをするようであれば、剛を殺そうと考えていた。退屈に感じるからだ。
(寧々さんは何かの武器をセットしたな)
剛は、寧々が一切顔色を変えないが、この瞬間に寧々の瞳が一瞬強ばったこと、右腕に力を入れたことを見逃さなかった。
(寧々さんは諜報者としては一流でも、殺人の才能は俺のほうが上だ)
この瞬間で、剛は確信した。殺人で大事なのは、一切の殺気を相手に与えないまま相手を殺す事だからだ。
(そのまま率直に話そう。寧々さんは俺の全てを盗撮盗聴しているのだから、俺の本音は知っているだろう)
剛は直観で判断した。
「玲香とは比較出来ない程、彩香のほうがいいです」
玲香の母親である寧々に対し、本音を言い切った。
「彩香は個性的でクリエイティブな女です。玲香は優秀だが、無個性なMです。Mの度合いは狂って来ていますが。僕の気が荒み、(無個性な人形を破壊したい)衝動に駆られた時に奴隷にしています。玲香もそうされることを楽しんでいます」
寧々は相変わらず全く顔色を変えない。
「よく知ってるわよ。正直に答えたわね」
寧々は、剛が玲香をイカせた後に顔に跨って大便を噴射している様子を、まざまざと思い出した。何度も再生したシーンだ。
「なぜ玲香はつまらない女になったと思っているの? 」
「父親がよほどつまらない人間だったんでしょうね。あなたの個性を完全に消しているわけだから。無個性だが、他人の指示に優秀に動けるような」
剛は淡々と答えた。
(俺はこんな話をしている時間はない。寧々はプロの諜報者だから、殺すしかいな)
剛が動こうとした刹那。
「あなたに見せたいものがあるわ。見たいかしら?それとも、ここで殺し合いしますか?」
(よく俺の心を読んでいる)
読まれた攻撃では、寧々の空間では自分は殺される、と剛は理解した。
「見せてください」
寧々はボタンを複雑に操作し、奥の部屋に通した。
(いつでも剛を殺すことはできる。この男が私の世界にどう反応するのか、見てみたい)
寧々は自分の要塞の中では、設備の隅々から侵入者を殺人する機能を起動することが出来た。
寧々は剛に対する好奇心を抑え切れなかった。寧々は他人を全く信用しないので、自分が20年間構築し続けて来たシステムは決して他人に明かさなかった。勿論、システムが扱うデータが軍人と諜報者の殺人・暴力・セックスに関わる動画だったために一般人にも話せなかったが、仕事の仲間に当たる人間も一人も居なかった。人間に対する特殊な好奇心を持つ寧々は、ただ一人でコツコツと極端に偏った世界を築き上げていたのだった。
剛は寧々の気持ちを掴みかねていた。実際に会っても、寧々が自分を性の対象として並々ならぬ情熱を持っているとは、まだ断定出来なかった。彩香・葵・沙耶家族で、1人のメスを惹きつければ、同じ遺伝子を持つメスを全て征服できることは知っていた。だが、それを忘れる程、母の寧々と、娘の玲香は違っていた。