剛は移動の際、寧々のうなじを食い入るように見つめていた。
左側に3つ集まった黒子があり、真ん中は寧々の印象に違い、少し大きく庶民的な印象があった。剛はその黒子に欲情した。
(舐め回したい)
(大蔵と闘って生きて帰れるか、わからない。今日寧々さんを貪ってやるか)
(澄ましたこの女はどこまで乱れるのだろう?玲香と同様で、遥かに強いオスに征服されたい性欲は極度に強いのだろう)
死を前にして、剛は冷徹な情熱を燃やした。寧々の奥の部屋は軍事司令部の様に、世界の衛星情報が表示されており、全てで20余りのディスプレイが設置されていた。
(盗撮と、軍人達が自ら撮影した動画だな)
寧々は幾つかの動画を放映した。
そこには、世界の屈強な軍人が激しい殺人とセックスをしている、夥しい動画があった。剛は画像の内容自体には何一つ、驚きも感銘も受けなかった。
(想定通りだ)
「世界中から勝手に送られてくるのよ」
「勝手に?暴力や金を使って、送らさせているのではないのですか?」
「違うわね。私が何も頼まずとも、世界中の軍人や諜報者が自分のデータを送ってくる」
剛は心から驚いた。
剛が裏の世界を軽蔑していたのは、結局暴力の欲望と恐怖に取り憑かれた人間しか、相手に出来ないからだ。剛はもっと世界最高水準の科学者やエンジニア、経営者、芸術家と働きたかった。彼ら彼女らは結局、暴力のリスクを取る必要はない。裏の世界に関わる専門家は、各領域の二流所だった。
剛が驚いたのは、世界中の軍人や諜報者が自発的にデータを送る事、寧々のシステムの精緻さだった。動画全ての顔は高度に処理され、本人確認出来ない状況に仕上がっていた。ユーザー個々のコンプレックスにパーソナライズされた、性と暴力の動画が自動提案されていた。動画は長い動画の中で、1秒単位で編集され、自動提案されていた。リアルタイムで世界中の人間が大金で売買を行っていた。
「剛君。このシステムの感想を言いなさい」
「その前に、この中で最も人気があるコンテンツを観せてください」
寧々は「All users」を選択し、「Sort by sales amounts」で検索し、動画を観せた。
「感想は4つです。
①暴力でない、自発的なインセンティヴで投稿、売買が為されている点
②パーソナライズされた自動提案が精緻である
③ハイスキルなユーザーが全幅の信頼を置くセキュリティを実現している
4つ目は、他の検索条件で観せてもらいたい動画を観たら、伝えます」
「もったいぶるわね。いいポイントね」
(こいつは勘がいい。私が重視している設計を明確についている)
寧々のシステムが革新的なのはアンダーグラウンドで、極めて秘匿性が高く、暴力や性が最高レベルに高い中で、上記3つの要件を満たしている点だった。
(この男は裏と表両方で成り上がれるな)
「あなたはKarimの組織をどうしたいの?」
「あの組織は残虐さや猟奇性に酔いつつある、衰退した組織です。関心はない。自分に降り掛かる火の粉を払ったら、関与度を最小化したいです」
暴力や性に狂っている動画を観ていると、剛は徐々に冷めざめとして来た。
「俺は無理矢理殺したり、犯したりしても、何の快楽も感じないです」
「殺し合いたい奴を殺す。セックスしたい奴とセックスする。それだけです」
寧々は自分の考えが徐々に変化して来た。今まで孤独に20年間、世界中の軍人や諜報者が殺人・暴力・セックスのデータを授受するシステムを構築し、運用し続けて来た。
(この男となら、もっと面白いことが出来る気がする)