剛は自分が怯えていた大蔵が真央の子供だと知り、「大蔵が持つ狂気の半分は真央の血を引いたものなのだ」と納得した。
大蔵が持つ残虐性は、一般の人間とは全く違うものだったからだ。父親が殺人者でも、母親が一般人である事は考えられなかった。また、剛は「真央が大蔵を見限っている理由は、おそらく自分が持っていない論理思考力を大蔵に期待したが、大蔵にそれ程才能がない事への失望だろう」事も理解した。剛は、死闘やセックスを繰り返す中で、人間が隠し持った心理を洞察する能力を高め続けて来ており、母子の関係を一瞬で理解した。
(寧々さんの情報組織と、真央の殺人組織を組み合わせることで、新しい組織を生み出せるかもしれない)
剛は自分の生き残りを超えた野心を持った。
「寧々さん。iibadatanの競合に情報を売るのはやめましょう」
「Karimと大蔵のみ殺し、iibadatanの内部に潜入します。この組織を買い取りましょう」
寧々は驚いた。
「殺人集団を買い取るというの?」
「そうです」
「寧々さんのネットワークで得た情報を元に、最も高い効率で殺人業務や政治業務が行えます」
(そこまでの拡がりを考えたことはなかった)
「暴力、裏切り、不安定の世界に生きている人間は、組織に忠誠心は持てない。ボス以外の個人の暴力と性の欲望を突いて、組織の機密を自発的に流させる仕組は優れている」
剛は(この仕組は、ボスが全てを獲る闇社会の弱さを突いている。他の人間は全て敗者であり、自分の欲望を満たすために寝返らせることが出来る)と考えた。
寧々は考えた。
(私は今までただただ人をコントロールするのが愉快だから、このシステムを築いて来た。共感できる人間など居ないから、ずっと一人でやって来た)
(事業の拡大には興味はない。だが、剛の言う通りに発展すれば、より世界が拡がるのかもしれない)
「あなたはこのシステムを通じて、何をしたいのかしら?」
「最終的には、一番強くて一番気に喰わない奴を、最も効率的に殺したいんですよ」
剛は子供のような顔をして笑った。
「寧々さんの仕組みを強化すれば、裏の裏で手を引いている人間を検知できる。その人間が一番弱い瞬間を見極め、殺し、殺しを隠すことが出来る」
「仕組みとして、どこを強化するつもりなのかしら?」
「政府官僚検察といった表の権力構造のCIOの取り込み、AI技術の進化、同志となる殺人組織の内製化ですね」
寧々は懸念を持った。前者2つはわかる。だが殺人組織の内製化は、今までの寧々の事業とはケイパビリティが全く異なる。
「殺人集団の組織化の意義は何なのかしら?」
「ユーザーからの信頼深化と、ネットワークの維持です」
「ユーザーは本ネットワークの存在が裏と表の社会に明らかにされることに、常に一抹の不安を持っている。"巨大化したユーザーの誰かが暴露するのではないか"と。そのため、暴露するユーザーは検知し、速やかに殺す仕組みが必要です。その安心感は、ユーザーの拡大や関係強化の基盤になります」
「それは確かにあ…」
寧々が美しい顎をうなづきかけた刹那、剛は獣のような速さでダッシュし、ダブルレッグのタックルで寧々を引っくり返した。
「ドンッ!」