(気づいたか、やはり)
剛は真央の視力や聴力が下がったタイミングで、適宜殺す積りだった。特殊ガスprm354の免疫は必要量の1/4しか与えなかった。
(自分の無能を認めず、提携の話を聞かなければ、この場で真央を殺す)
「……。戦略を立案できる人材を雇って、決めていくわ」
「あなたにどの人材がベストか、見極められる力はありますか?その人材は戦略立案する能力はあっても、戦争や殺人の経験はあるのか?その人材はなぜ各国の軍事部門でなく、iibadatanを選ぶのか?」
(このクソガキが…)
真央はそもそもここまで挑戦的に問われたことも、議論したこともなかった。
「あなたにそれが出来ると思うの?」
「出来ます。あなたの愚鈍な旦那と息子をすぐに殺す位は」
(拉致があかない。時間がない。殺そう)
剛はそう思い、座った状態から、一気に間を詰め、右フックを放った。真央は素早く首を下げた。コンビネーションで放った左ボディフックも腰を素早く下げ、回避した。
(反射神経が全く違う)
剛は口の中を歯で噛み切り、口の中に貯めた血を真央の眼に噴きかけた。
真央は、剛が先程Karimや大蔵に口から毒物を攻撃した事を瞬間的に思い出し、必要以上に腕で眼を覆った。その瞬間に剛は思い切り真央の股間に向け、下段から蹴り上げた。真央は初めて股間を狙われ、大きく前傾した。その首を絞め、剛は真央の頭から地面に落とした。頸骨が折れるはずだった。それでもなお、真央は地面直前で首をずらし、骨を守った。頸骨にひびは入り、額から鮮血した。真央は脳への衝撃の強さで、床に直撃後に失禁した。
剛は真央の背中を獲り、左右の脚を腰に巻きつけ、首を締めつけた。真央は呼吸ができず、意識が遠のいた。
(このまま殺される…)
確信した。
「…あ、あなたと話します…」
真央が呻いた。剛は真央を抱きかかえ、席に座らせた。ダラっとする身体を、椅子と机の間に挟み込んだ。
「おおおぉっぇぇっ…」
真央は脳への衝撃で、消え入りそうな声を出して何度も嗚咽し、胃液と血を机に垂れ流した。
(確実に素手で殺されていた…)
真央は産まれて初めて、死ぬ恐怖を覚えた。
剛以上の筋力やスピードは何度も見たことがあった。だが、剛の攻撃は殺人に対して合理的で、全く無駄がなかった。汚い、変則的な攻撃をするタイミングが読めなかった。剛は、真央の目前で自分が口からの毒物でKarimと大蔵を殺したから、真央が反射的に恐怖を感じ、判断力が下がる事を予測していた。また、美しく強い真央が、股間に向かって強い攻撃を受けたことがない事も予測していた。
(この男は異常に狡猾で、しつこいんだ…)
真央は初めて殺される感覚を味わった。Karimにも誰にも、力でねじ伏せられる経験はなかった。真央にとっては初めての経験で、なぜかすっきりと心が晴れ渡る様な感覚を覚えた。朦朧とした真央は、力を絞って、剛に聴いた。
「…ご、剛君。どうすれば、iibadatanは大きく賢く進化出来るの?」
「あなたが言う通りに愚鈍でも、私が愛した男が作り上げた組織なのよ。私が馬鹿でも、あなたの考えを理解しないで譲る気はない」
真央は剛に本音を話した。
(思ったよりも謙虚だ。真摯に向き合おう)
「僕は真央さんから組織を奪うつもりはないです。ベストなのは、同じ使命やビジョンを持って、戦略を共有して一緒にやることです」
「僕は民間で、一流の諜報機能と殺人機能を同時に持つ組織を創りたいのです。そこで、一番賢く強く、害悪がある人間を合理的に抹殺したいのです」
真央は素直に聴いた。