剛は凡庸に育っている。
アッパーな中流階級の家に産まれ、凡庸な身体と脳を持って産まれた。
父親は桑原自動車のエンジン設計主任。母親は専業主婦。
二人とも学校に凡庸な優等生として私立の一貫校に通い、大学から交際を開始した。
穏やかで優しい家族だった。
両親は中流階級と上流階級の中間位で、私立の一貫校でのびのびと育ち、小さなコミュニティで結婚していた。なぜこの両親から、剛の様な気性の子供が産まれたのか、不思議だった。
剛はそんな穏やかな家庭が好きだった。小学校4年までは、幸せな小学校生活を送っていた。
剛は凡庸だったが、厳密に言うと、凡庸なレベルではあるものの、幅広く優れていた。どれも天才少年ではなかったが、それなりに全国レベルに達するほどの実力を有していた。だが、剛は中途半端な自分の身体と脳に苛立ちを持っていた。
剛は幼い頃は、元々凡庸に優れていたから、特に追い詰められることも、何かを渇望することもなかった。だが、成長していく中で、剛は自分には穏やかな生活を楽しむ権利がないことがわかった。
剛は、凡庸な身体と脳を持っていたが、二点だけ、異常な性質を持っていたのだ。
一点目は、弱者を虐げる強者とは絶対に喧嘩をするという性質だった。相手との大きな実力差を感じても、ともかく喧嘩をする性質を持っていた。
だからこそ、何度も何度も惨めに負けた。だが、ただただ懲りずに、腹が立てば戦うのだった。そうした時は常に惨めに負けていたので、剛は小さい頃から空手、柔道、ブラジリアン柔術、レスリングをやっていた。
「挑まない方が死に近い」
負けるとわかっていても、強い相手と喧嘩を始めるか逡巡した時、この言葉が頭に流れた。小4の際に、実力で遥かに上で殺人者一家の洋介に無謀に喧嘩を挑んだのも、この思いからだった。
だが、初めは「挑む」という正義感だったものが、幾多の死闘を重ねる中で、「絶対に勝つ」という執念に変わった。特に、無謀に洋介に挑み、撃退され、凄惨な集団暴行を2年受け続けてからは大きく変わった。更に、「復讐しないと殺される」相手との死闘の中で、剛は「害獣を駆除する」快感を覚えてしまった。小6の際に、洋介を植物人間にした喧嘩を経て、その快感の探求は止まらなくなった。
弱者を虐げる強者を見つけると、以前は「こいつを倒さなくてはいけない」と感じていた。それがいつしか「こいつを殺したい」という残虐な願望に変わっていった。自分でも驚く程に残虐になれ、どんな時よりも生きている実感をヒリヒリと感じられるのだった。この時に自分の脳の奥から液体が噴射し、黒蛇が頭を蠢く感覚があり、剛はこの瞬間を愛していた。
二点目は、剛はまだ実感していなかったが、異常に強い性欲を持っていた。
ともかく「美しく、色気がある女性とセックスする」と決めたら、どんな手段を使ってでもその女性とセックスした。その女性が権力者・殺人者の恋人であっても、本人が権力者・殺人者であっても、全く躊躇する事はなかった。剛は常に強い男性から美女を奪い取り、犯す人生を送ることになった。そのため、必然的に強い男性との死闘を呼び込んでしまうのだった。
剛は、自分の特性と運命に深く立ち向かった。結果、苛烈で奇特な人生を送ることになった。