設定を書き換えられたアルベドがフィリップを真の主として崇めてナザリックを捧げるお話 作:さすらいのヒモ
『リ・エスティーゼ王国』の貴族、『モチャラス家』の三男坊にして跡継ぎの『フィリップ・ディドン・リイル・モチャラス』、爵位は男爵である。
もはや定例の行事と化していた収穫の時期に始まる王国と帝国の激突において、後の『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』の宗主である魔導王『アインズ・ウール・ゴウン』が一夜のうちにカッツェ平野を大虐殺で染め上げた歴史的悲劇にて兄を亡くし、モチャラス家の継承権を得た幸運の男。
だが、『幸運の男』と言っても似た境遇にある者は大勢おり、むしろ、そのような教育が不十分な子息の多くが貴族の当主とならざるを得ない時期に責任ある立場へと就くことは不幸と言えるのかもしれない。
なにせ、常ならば一の労力でツーカーとわかり合えたことを、前提の共有からして必要とされるために十の労力を要してしまう、そんな不要であったはずの労力が費やされてしまうのだ。
なによりも、隣国にあの『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』も建国された上に、『ヤルダバオト』という強大な悪魔の恐怖も解決していない始末。
先行きがあまりにも暗い、隣国の口さがない者からは『斜陽の王国』と呼ばれるような時代なのだ。
「なぜだ!」
だが、その中でこの男、フィリップはそれを理解していなかった。
フィリップと同じような境遇である下位の貴族たちが集ったこの会場においても多くの人間が危機を理解している中で、その危機を認識していない本物の無能、それがフィリップであった。
故に、今日もまた協力者であるヒルマという女へとヒステリックな叫びをあげる。
「ご理解ください、時期尚早というものです」
ヒルマという痩せすぎの女、それこそ骨の上に皮膚を貼り付けただけの、『肉』という概念が消え失せたような女がフィリップをなだめる。
若い頃は美人であったと確信される顔の造形ではあるが、現状の病的な痩躯では性欲を揺さぶるものは一欠片も存在しない。
故に大変な好色であるフィリップもヒルマを女としてではなく部下として見ており、常のこととなるヒステリックな叫びをヒルマへとぶつけていく。
「ぐぬぅ!」
周囲の者は軽い怒りを発するフィリップとなだめるヒルマを冷めた目で見ていた。
この集まりは下位貴族の互助集会という名目ではあるものの、実質はそれを集めきったヒルマなる女の指揮のもとにある集会だ。
そのヒルマが担ぎ上げる神輿が、恐らく御しやすい相手を選んだのであろう、知識量ではなく単純な知能としてこの中で、いや、平民も含めた王国で一等に愚かであるフィリップだ。
他の貴族もヒルマが下位貴族を集めて何をしようというのか、おおよその推測は出来てもそれまでの道筋も最終的に辿り着こうとしている目的地を理解できていない。
だが、それでも他の貴族ならば、変な欲目に駆られて拙いながらも知恵を働かせ、逆に道徳的な正義感と王国への忠誠心によってヒルマを裏切る可能性もある。
恐らく、フィリップにはその知恵も正義感もないと判断され神輿として選ばれたのだろう。
「今は雌伏の時です。かの英雄も……」
古くの英雄を持ち出してフィリップの低能で悪辣な欲望を収める。
それも数え切れないほどのこととなるため、悪女ヒルマもさすがにうんざりとした気持ちが僅かではあるが表情に出ていた。
ふんっ、と鼻を鳴らして去っていくフィリップを、ヒルマはあからさまに息を吐いて肩を下ろして眺めている。
めったに見せないヒルマの疲れ切った姿に、ひょっとするとあの女もフィリップをそろそろ『切る』かもしれないなと周囲の人間は思った。
いくら神輿は軽いほうが担ぎやすいと言っても、担いでいる際に風で吹き飛ばされるようなものであっては神輿などとは呼べないのだから、当然の帰結だろう。
「くそっ、なぜダメなのだ……良い案だと思うのだが……!」
一方でフィリップはぶつくさと文句を垂れ流しながら会場から出ていく。
ヒルマへと伝えたことは単純にして難解なことであった。
曰く。
『自分、フィリップが『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』の、守護者統括『アルベド』と婚姻を結ぶのはどうだ?』
そんな提案である。
少しでも現在の情勢を知るものならば頭がイカれているとしか、いや、イカれていてもなお出てこないであろうと断言するような、愚策や妄想を超えたなにかであった。
守護者統括というどのような実務を取り仕切っているのかも謎に包まれた席につく『アルベド』なる女性とは、今、隣国の『バハルス帝国』を属国として王国を、いや、世界を脅かすアインズ・ウール・ゴウン魔導国のNo.2のこと。
その国名と同じ名を持つ魔導王『アインズ・ウール・ゴウン』の『正妃』なのではないかとも噂されている人物だ。
それを斜陽の王国の、それも木っ端貴族の当主ですらない後継者が妻に迎え入れようなどと、お伽噺に憧れる幼女ですら口にしないような空想である。
「ちっ、一旦領地に戻る必要があるというのも億劫だ……」
フィリップはそのままに領地へと戻る必要がある。
なんでも、不可解な遺物が発掘されたとのことだ、それを王国に献上するものとして王都に留まるフィリップを通じて献上させるためである。
それはフィリップの父が、実際に王家に仕える貴族としての仕事をさせることで、今の降って湧いた『後継者』という幸運に浮ついているフィリップの気持ちを引き締める目的があったのだ。
そして、実家へと帰るフィリップだが、これが人生の転機となった。
目を奪われるような光を放つ五つの宝石が飾られた、対してあまりにも無機質でブレスレット。
それがフィリップを、いや、世界を変えてしまうことは、今はまだ誰も知らない。
◆
その女は、美しい女であった。
どのような賛美の言葉も役不足であると思ってしまうような、むしろ、人間程度が作り上げた称賛で飾り立てることは罵倒と取られるのではと怖気づいてしまうような。
その言葉で物語を雄々しく、美しく、時に残酷に飾り立てることを生業とする吟遊詩人が屈辱のままに『美しい女』とだけ称さざるを得ないような。
妻に永遠の愛を誓った夫すらもひと目見れば隣に立つ女の不出来さに嫌悪を覚えてしまうような。
腰元に生えた黒い大きな翼が女が人を苦しめる悪魔であることを知らせるが、そんなことなどどうでも良くなるような。
そんな、人間を踏みにじるような、ある種の冒涜的な美しさを持った女であった。
かの者は、世界を蹂躙せんとするアインズ・ウール・ゴウン魔導国のNo.2、守護者統括という重責に就く美女。
その名を、『アルベド』と言った
「本日もご招待いただきありがとうございます」
柔らかな表情と淑やかな言葉で、しかし、決して頭を下げず目の奥を冷やしたまま会席の場に現れる。
誰もが一夜を夢見ながら、それを諦めさせる美女は歩く姿すらも美しい。
まるで、『そうあれかし』と定められて生まれてきた、美という概念が形になったような女である。
そのどの高価な絹布よりも艷やかな、闇よりも深い黒い髪が揺れる。
そこから漂う女の匂いだけで、一人の若い貴族が射精をしてしまったほどだ。
「……チッ」
アルベドは、サキュバスである。
正確に言えば多種族の要素を持ち合わせているが、種族値としての大半をサキュバスで構成された淫猥な美女だ。
故に、精臭にはひどく敏感であり、この多く香を炊かれた甘ったるい空間においてもその若い男の先走り射精も感じ取ってしまうのだ。
だが、サキュバスと言えども誰も彼もの精を欲するわけではない。
むしろ、低能な劣等種族と蔑む人間が自身に欲情したという事実に、肌が震えるようなおぞましさを覚えていた。
自分を見ながら肉棒を扱き上げる猿や、自分の足にしがみついて腰をヘコつかせる犬を見て喜ぶような女は、よほど特殊な淫乱であるように、アルベドにとって人間とはそういう対象なのだ。
(ああ、耐えられない、耐えられない……何故、私がアインズ様から離れてこんなゴミムシの巣に来なくてはならないのかしら。
ああ、アインズ様……このアルベドの唯一にして絶対の主……出来ることならば、アインズ・ウール・ゴウンなどという偽りの名ではなく真の名でお呼びしたいですが、それは貴方様のご許可を得ることが出来る日まで……なるべく、我慢いたしますわ。
ええ、ええ、もちろん、このアルベド、貴方様の崇高にして深遠な計画を粛々と進めさせていただきます……ただ、不平不満を呟いてしまう駄犬をお許しくださいませ……
出来ることならば、アインズ様、貴方様自身の手でこの堪え性のない犬をしつけていただければ……ぐふ、ぐふふ、ぐへ、ぐへへへへぇ!)
心中で愚痴を呟くと同時に主に調教をされる自身を妄想してだらしない声をあげるアルベド。
だが、その美貌には柔らかな美貌と冷たい瞳が彩られるだけで、今のアルベドの妄想を感じ取れるものなど一人として居ない。
その豊かな胸を張り、生意気なほどにぷりっと張り詰めた尻とともに脚を動かす。
ともすれば下品なほどに大きな胸部と臀部を持つアルベドだが、その腰は騎士として鍛えられたことでうっすらと脂肪を残しつつも筋肉で引き締まったものである。
奇跡的なバランスで男を誘惑する淫猥なスタイルと、敵を屠る戦士の肉体が融合した神が作り上げた肉体。
その美貌と合わさった美女を前にしているのだ、おもらし射精をしてしまった若い貴族を責めることの出来る男など居ないだろう。
「これはこれはアルベド様!」
(…………チィッ!)
そんなアルベドに語りかける一人の男の声。
さしものアルベドも思わず表情が崩れそうになるほどの不快感に襲われるが、それでも笑顔の仮面はなんとか崩すことがなかった。
「いやぁ、本日も実に美しい! 貴方様と会えるのが王都に来る楽しみですよ!」
フィリップはそれで隠しているつもりなのかと問いただしたくなるような好色な視線でアルベドの顔と胸と腰と尻を、すなわちアルベドという一級の美術品を凌駕する肢体を見つめながら、アルベドへと語りかけてくる。
「これは、モチャラス様。本日もお招きいただきありがとうございます」
「いや、はは! そうご遠慮なさるな、私とアルベド殿の仲ではございませんか!」
(殺してやるぞ、このクソ虫がッ!)
そろそろいい加減に殺してやろうかと本気で思い始めたが、アインズの『初志は貫徹せよ、それでいて状況に応じて柔軟に対応するように。些細であっても、引っかかることがあれば要相談だ』という言葉もまた同時に思い出す。
アルベドはこの愚かな男を利用すると決めた、計画には一分の狂いもなければ、逆に順調すぎて心配になるほどでわざわざ報告を行う必要もない。
たた、このフィリップという男がどうしようもなく不快なだけだ。
そんな私的な事情で至高の御方と崇めるアインズの『初志は貫徹せよ』という言葉を破るなど、アルベドが誇りとして抱いているほどの高い忠誠心が許さない。
せいぜいが過去の自分が行った判断を罵倒するのが精一杯である。
(全てが終わった後は恐怖公の、いや、それでは私が観覧できないわね……ソリュシャンに生きたまま溶かさせる……いえ、さすがにそれはソリュシャンに可哀想だわ。
アインズ様のお言葉を借りるなら……パワハラ、かしら? それに当てはまるかもしれないわ、アインズ様のご不況を買ってしまうかもしれないわね。
……そうね、私の情報収集の尋問の練習台がちょうどいいかしら。初めてだもの、上手く出来なくてもむしろ喜ばしく思える相手の方がちょうどいいわ)
そんな物騒な事を考えながらも一欠片も顔には出さずに、ニコニコとフィリップに向かい合うアルベド。
その瞳にある冷酷さに一切気づかない愚鈍なフィリップは、その笑顔だけを見て顔を輝かせた。
「あの、如何がなさいましたか……?」
(このクズ虫、なんだか今日は余計にイラつくわね……態度、もあるけど……なんだか、違うわね……)
「いやぁ、実はですねぇ……」
常の通り、ヒルマから用意された服装に『着られている』惨めな姿だ、高貴さや気品などを一切感じられない愚物。
だが、なんだか今日は特別に違和感を覚えてしまうが、その理由がわからない。
強いて言う相違点と言えば、恐らく自分の持ち出しと思われるブレスレットぐらいだろうか。
それ自体のセンスは良くとも今の服装と合っていない、ようは本人に問題があるファッションスタイルだ。
(ちっ、醜いものとは見るだけ不快を募らせるわね……)
不快感がいらいらと募らせていると、突然、フィリップは膝をついた。
そして、胸元に右手を当て、左手をアルベドへと差し出すと。
「このリ・エスティーゼ王国が男爵フィリップ・ディドン・リイル・モチャラス、アインズ・ウール・ゴウン魔導国守護者統括アルベド様にご婚姻を申し込ませていただきます!」
そんな、意図の不明なことを宣言した。
「……………………………?」
アルベドはそこで初めて表情を崩し、怪訝に眉を潜める。
フィリップの言葉が何一つとして理解できないのだ。
(……なにかしら、このカス虫? なんと言ったのかしら……?
リ・エスティーゼ王国……ああ、自分のことね、その後はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の……ええ、私のことだわ。
となると……?)
沈黙はたっぷり十数秒。
フィリップの言葉を、その聡明な頭脳に似つかわしくないようなゆっくりとした速度で噛み砕いていく。
そして、その言葉を理解した瞬間。
「……ふざけるなよッ、人間がっ!!!」
ドンッ、と。
腰元に生えた悪魔の黒い羽がテーブルを打ち砕き、周囲の貴族の一人が、ヒィイッ、と喉を鳴らして怯えの声を響かせる。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国、たった一夜で十八万人を虐殺した埒外の化け物が率いる国のNo.2。
そのアルベドもまた単騎で王都を崩壊できる力を持ち得るというのは想像に易いことだ。
アルベドはその言動から主である魔導王アインズ・ウール・ゴウンへと強い忠誠を誓っていることは王都の民ならば知っており、明言こそされていないが、その美貌と能力、そして、王国との外交という重責を任されていることからしてアインズ・ウール・ゴウンの正妃であろうと目されている人物。
そんな相手に結婚を申し込むなどと、怒りを覚えられて当然のことだ。
「終わりの日と知りなさい……! ええ、ええ!
みっともないことを口にしている自覚はありますが、アインズ様は非常に慈悲深い御方!
お仲間の子も同然である私が懇願すれば、この愚行もお許しになるでしょう!
クソ人間がッ! ここまで侮辱されたのは初めてだわッ!
お前には私が虫を相手に腰を振るようなイカれ女に見えたのかッ……!?
偉大にして至高なる死の王、この地に唯一残りし慈悲深き御主、その指先一つで未来の有り様を指し示すこの世の支配者!
アインズ・ウール・ゴウン様、その御方が定めし守護者統括アルベドがぁ……!
貴様のようなッ……知能も存在しないようなッ……低能なカスがッ!
ああッ……! それほどまでに、それほどまでに私を侮辱するかッ!」
明確な怒りが支配する会場にて。
ただ、そのアルベドの怒りのみによって失神を起こしたものも居れば、内臓と筋肉が緩むことで排泄物を垂れ流しているものも居る。
誰かがフィリップに何かを言おうにも恐怖をもって喉の筋肉が動きはしない、故に空気を震わせることすらも出来ない。
フィリップの首はその瞬間に飛んでいてもおかしくないことであったが、アルベドの怒りがあまりにも大きすぎるために、その怒りに襲われたアルベドはフィリップを殺すことすらも忘れてしまっているのだ。
故に、アルベドは気づかない。
その恐ろしさによって普通の人間ならば身動きもできないはずのフィリップが、ニヤニヤとした笑みを張り付けていることに。
明らかに異常なことが起こっていることに、あまりにも怒りが膨大すぎて気づいてすらいないのだ。
その短慮という言葉すらも生ぬるい感情的な姿は、目に見えるものだけで判断をして侮ってしまうアルベドの明確な弱点であった。
「やはり、それが貴方の本当の姿ですか。いやぁ、激高する姿もお美しい!」
「しゃべるな、蛆虫が!」
パンッ、と。
アルベドが溢れ出る怒りを以て誅そうとしたその瞬間、それに合わせてフィリップが右手の中指と親指を重ね合わせて鳴らしてみせた。
アルベドは異常をようやく認識した。
動かないのだ。
指も、手も、足も、腕も、脚も。
「なにがっ……!?」
「不思議ですかな?」
遅れて、ようやくその手首についたブレスレットの怪しさに気づいた。
先程、指の鳴らした音ともに輝いた光によってアルベドの動きを封じられたのだから、この奇妙な現象の出来事はあのブレスレットが原因であることは間違いがない。
「ふふ、ご教示いたしましょうか、アルベド様」
キラリキラリ、と。
フィリップはその光り輝くブレスレットを見せびらかすように手を振りかざす。
アルベドは憎々しげにフィリップを、それこそその視線だけで人を殺せる鋭さで睨みつけた。
それを意に介さず、あからさまに何かしらの『精神耐性』『精神強化』のスキルか魔術をかけられているとしか思えない状態である。
「これは『◆◆◆◆』」
「……なに?」
フィリップが口にした言葉は、アルベドには認識できない音の集まりだった。
それが言葉であると認識できない、音の集合体。
その怪訝な表情が面白くてたまらないと言わんばかりに、フィリップは再度指を鳴らしてみせる。
「……えっ?」
すると、不思議なことが起こった。
先程までこの会場の水を全て沸騰させて蒸発させてしまうのではないかと思うほどの激しく熱い怒りがまるで消え去ってしまったのだ。
代わりに襲われるのは困惑、そして、冷静になる頭。
(……何が起こっている? まさか、世界級アイテム?
確かに今の私は世界級アイテムを所持していないから通るが……いや、なぜあのグズが?
アインズ様ならばわかるのだろうか……?
だが、おかしい、やはりその名称が認識できない。何かが理解できない)
怒りを不自然に消え去ったアルベドはその知能が回転し始める。
それでもかろうじて理解できるのは、フィリップが持つものは、アルベドに破滅をもたらし得るアイテムだという危機だけであった。
「では、アルベド様……『頭が高い』ですな」
パチン、と。
指を鳴らすとアルベドの肉体ががくんと膝をつく羽目となった。
明らかに身体の自由がフィリップに奪われており、下等たる人間を前にして頭を垂れる、すなわち敬意と従属を示す体勢を取らされる。
先程に喪われたはずの怒りが再燃し、しかし、すぐさまに消え去っていく。
感情もまた支配されているのだ。
(不味い、不味い、起こってはいけないことが起こっている!
この私が、ナザリック大墳墓の守護者統括アルベドが、至高にして偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様ではない下等な人間に頭を下げている!
し、死ななければ……!
情報を持ち帰り次第、死ななければいけないっ!
私は生きていてはならないッ、疾く命を絶ち、この最大の裏切りを死をもって次ぐわなければならない!)
「では、こうしましょうか」
パチン、と何度目かとなる指を鳴らしてみせた。
すると、アルベドの顔の筋肉が、喉の筋肉が動き出す。
「……フィリップ様♥」
それは、アルベドも予期せぬ言葉。
媚びた女の声が聞こえた。
それがなんであるか、アルベドは理解できない。
「このアルベド、貴方様の麗しきお言葉のあまり感動で胸を震えております……♥
ですが、そのお言葉に従えないこの不出来な女をお許しくださいませ……♥」
「ほう、では、私はフラレてしまったのかな?」
アルベドはその声が自らの喉に出ていることに気づいた。
媚びた声だった。
アインズ・ウール・ゴウンへしか出すことのない、女として甘えきった、何かを期待したような声だ。
それをアインズ・ウール・ゴウンではない男へと出している。
死ぬしかないと、アルベドはあらゆる手段で身体の自由も心の自由も奪われた状態でも可能な自殺の方法へと考えを巡らせる。
その一方で、フィリップはアルベドを操り続ける。
「いえ……♥ 私のようなモンスターに過ぎない卑しい女ではフィリップ様の正妃には相応しくありません♥
それでも許されるのならば、私は貴方様の奴隷妻としてお側に侍らせて幸いにございます♥」
その言葉の一言一句に怒りが湧き上がり、すぐに沈静化する。
あるいは、その怒りを抑えられている、支配されているということ自体に怒りが燃え、それもまた沈静化する。
ただただ、状況の報告を行う方法を探り、自殺の手段について脳を巡らせる。
「はは、これは望外な事態だ……ええ、私は王国貴族であり紳士ですからね。
いいでしょう、アルベド様……いえ、アルベド。俺に絶対の忠誠を誓う奴隷妻となることを許そう!」
「ああ、天にも昇る心地でございますっ♥ フィリップ様の、いと貴き御主の御慈悲にこのアルベドの頭は自然と下がってしまい……ああっ、まさしく言葉には表せない望外の喜びっ♥」
「フ、フフハハハハ!」
アルベドの蕩けきった瞳と、男を狂わす美しくも妖しい肉体をくねらせる姿にフィリップは我慢が出来ないと言わんばかりに高笑いをあげた。
「素晴らしいだろうッ! これは人を……いや、世界を支配するアイテムなのだ!」
フィリップは理解していないが、そのブレスレットは一言で説明しまえば『デバッグアイテム』である。
故に、そのブレスレットに名前はなく、便宜的に開発陣から『◆◆◆◆』と称されているアイテム。
回数の制限もなく、破壊を封じ、時間も必要とせず、あらゆるユニットを生成でき、同時にそれを装備する相手に対する攻撃を無効化する、『データを書き換える』という能力を持ったアイテムだ。
チートを『製作運営の想定していない事象を利用して引き起こす』禁止技だとするのならば、デバッグは『制作運営が想定した事象が起こっているかを確認するために数値を自由に改竄する』、そんな技でもルールでもないメンテナンスアイテムだ。
それはこの地においては数値ではなく感覚として現れる。
数値をいじるのではなく、所有者の思考に乗じて行われる改竄である。
「俺はこれを入手した、偶然だと思うか……? いいや、違うッ!
俺は選ばれた存在なのだ、世界に選ばれし唯一の存在……俺こそが、
「並ぶものなき栄光に満ち足りた超越者、フィリップ様……♥
どうか、どうか……アルベドに、その高ぶりを鎮めるお役目をお預けください♥」
アルベドは蕩けた声でフィリップへとおねだりをする。
ようやく、周囲の者もなんとか声を発することが出来るようになった。
やっと、誰かがかすれた声で呟いた。
「な、なにが……起こって……?」
「ああ、『気にするな』……『主と奴隷がいる』だけだ」
パチン、と指を鳴らすと、その言葉のとおりに周りの者達のざわめきは収まった。
フィリップの望む通り、この場にいる誰もがフィリップが奴隷であるアルベドへと躾を行っているとしか認識しなくなったのだ。
フィリップはヒルマへと視線を移すと、短く命令をした。
「俺は今からこの女と契を結ぶ、ベッドメイクは出来ているか?」
「ええ、向かって左から三番目の部屋に来客用の部屋がありますわ」
その言葉を聞くと、我慢できないと言わんばかりに、しかし、見栄えを気にする男であるフィリップは早足でその場を立ち去り、アルベドも肉体を支配されているためにその後ろにつく。
そして、その部屋へとたどり着いた。
なんてことのない、ベッドとソファーがあるだけとしか表現の出来ない休憩室だ。
アルベドという極上の女を抱くにはあまりにも味気ない部屋であったが、しかし、フィリップは最初は出来るであろうと考えていた『我慢』が出来なくなっていた。
「はぁ……はぁ……!」
この神が作り上げた芸術品としか称せない美女を、自分に媚びへつらわせながら抱く。
この世のすべての男が当然のように抱くであろう欲望を、フィリップはこの世で唯一人叶えることが出来るのだ。
その優越感に襲われながら、血走った目をしながらベッドに腰掛けた。
そして、視線だけでアルベドに次の動きを要求する。
「ああ……フィリップ様……我が愛しき御方……♥」
アルベドは、身体を低く蹲らせる。
絨毯が敷かれているものの、床へとあの誇り高きナザリック大墳墓の守護者統括、アルベドが跪いてみせたのだ。
それも、先程までの片膝をついた姿勢ではなく、両膝を揃えて地面に付き、足先もまたピタリと揃えて、その二本の脚を一本のもののように纏めたものをその大きな尻で拘束するように敷き固める。
そして、指先を揃えて前方の地面へとつけて、その頭を下げる。
土下座、一つの乱れもない流麗な動きでその服従の姿勢を取ったのだ。
その姿に、フィリップは歓喜の声を漏らした。
「おお……おお……!」
「どうか、この低能な悪魔に、お慈悲をくださいませ……♥」
(くぅぅ……このゴミめ……!)
そう言いながら、アルベドは腰を『くいっ♥』と天高く掲げる。
頭は低く、尻は高く、娼婦の中の最底辺の女でもしないように『ふりっ♥ ふりっ♥』と尻を振って求愛のダンスを踊ってみせるのだ。
屈辱という言葉では生ぬるい感情に襲われながら、アルベドは頭の中で何度も何度も異なる手段でフィリップを凄惨に殺してみせる。
だが、それは多くの男がアルベドに抱いていた性欲のように、決して現実には叶うことのない妄想だ。
アルベドは、フィリップには犯される。
それは覆すことのない未来であった。
「ふふ、良いだろう。面をあげよ、この俺の貴き種を貴様に植え付けてやるっ!」
ぼろんっ、と。
擬音が出来そうなほどに勢いよくズボンとパンツを同時に脱ぎ去ると、チンポが晒される。
それはアルベドが顔を上げたのと同時で、そのちんぽを見た瞬間に下腹部が強くうずくことが出来た、まごうこともなき発情である。
自分のすべてがぐちゃぐちゃに乱されているような感覚であった。
アインズへと抱いている忠誠も、愛情も、欲情も、全てフィリップにも感じてしまう。
死ぬことが出来るのならば今がいいと、アルベドは本気で思った。
一分経ってしまえば、一秒経ってしまえば、自分の中の大切なものがフィリップに蹂躙されてしまうとわかるからだ。
「ああっ……なんて大きなチンポでしょうか……♥ アンデッドであるアインズ様では到底持ち得ない、優れた男の証でございます……♥」
(このクソがぁぁぁぁ! 貴様、触れてはいけないところに触れやがったなぁ!)
その瞬間、デバッグアイテムの力でも沈静化できない激しい怒りが襲いかかる。
いくら沈静化しても瞬時に湧き上がる怒りがようやく収まったのは、五回の沈静化が施された後であった。
そんなことを知る由も無いフィリップは、上機嫌でまるで犬猫を呼ぶようにアルベドを手招きをする。
アルベドはにっこりと男を虜にする魔性の笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がり、その場でストリップをしてみせる。
「おお、おおおお………!」
「ふふ……どうぞ、まずはこのアルベドを目でお楽しみくださいませ……♥」
(見るな、下等種族がッ! 我が裸体はアインズ様にのみ捧げられるべきものだぞッ!)
その白いドレスをゆっくりと脱いでいく。
まず、露出されるのはその大きな乳房であり、それも二つの乳房が同時に現れるのではなく、片方の乳房をちらりと見せてから片方を見せると、フィリップの目を楽しませるストリップの姿であった。
それが続いていく。
尻を振り、乳を揺らし、腰をくねらせながらドレスを脱いでいく。
その大きなお尻からドレスを脱ぎ去るときは、わざわざ後方へと向いてセックスシンボルとも言える尻を見せつけているほどだ。
やがて、そのアルベドの完成された裸体が晒された。
「なんと、美しい……!」
「ああ、嬉しい……♥ ありがとうございます、フィリップ様……♥
ふふ、大きくなられています……私も、ですわ……♥」
(気持ちの悪い……! でかくて太いだけの、汚臭の漂う醜悪なもの……!)
フィリップは感嘆の声を漏らし、アルベドはその言葉に感謝の言葉で返す。
そして、四つん這いになりながら、ベッドへと上り、中心でぐるりと仰向けに倒れ込む。
その際にぽよんと胸が揺れ、うっすらと見える腹筋が蠢く。
その長く肉付きのいい足が開いていき、黒く茂った、よく手入れされた陰毛の下に、この世の誰もが求めるアルベドのマンコがあった。
そのマンコが、すでにオナニーを一時間は続けたと思ってしまうほどに濡れそぼっている。
「私もまた、偉大なるフィリップ様のお言葉と視線だけでこんなにも濡れてしまいましたわ……♥」
「ふふ、淫乱な女だっ!」
「そんなことを言わないで……いやんっ♥」
(くぅぅぅぅぅぅ! 殺す、殺すぅ!)
アルベドの言葉に我慢が出来ないと言わんばかりにフィリップはアルベドへと襲いかかる。
くみしだくように股の間に潜り込み、そのいきり立ったチンポをマンコへと近寄る。
そして、十分に溢れ出た愛液を潤滑剤として、勢いよく己をチンポをアルベドのマンコに挿入した。
「挿れるぞッ!」
(クソ、殺してやる、殺してやる、殺してやるぅぅぅぅ! 肉片の一片とて残してやら────)
その、瞬間であった。
「んほぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉんっ♥♥♥♥♥♥」
(おほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっぅぉぉ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥)
奇しくもここで初めて、アルベドの口から発せられる言葉と脳内で並べられる文字が合致した。
正確には異なる音であるが、しかし、意味合いは一緒だ。
すなわち、アルベドは絶頂へと至った。
ただ、人間の、フィリップのチンポを挿入されただけで、だ。
「うおぉぉ……! な、なんてマンコだ……! 商売女などとは、格が違う……もはや、別物だ!」
「おほぉっ♥ おっ♥ おほっ♥ んひぃッ♥ しゅ、しゅごっ♥」
(にゃ、にゃんだ!? にゃにがおこってる!?)
「はぁ……た、たまらん、もっと……うん?」
快感に襲われて腰を動かそうとするフィリップが、あるものを見つけた。
それは結合部から流れ出る、血であった。
純潔なる乙女の証明が、結合部から流れていた。
「まさか……アルベド、お前は……!」
「ひゃいっ♥ はじめて、はじめてですぅぅぅ♥ ふぃりっぷ、しゃまが♥ わたしのはじめてのおとこですぅ♥」
(くぅ、く、くつじょ……んひぃ♥)
「ハ、ハハハ! なんだそれは!」
その流れ出る血を見つめたフィリップは笑いながら腰を早めていく。
パンパン、パンパン、と。
フィリップの腰がアルベドの腰を打ち付ける音が響き渡る。
そのたびにアルベドは快感に溺れるように、その長い脚が宙を動き回り、その大きく柔らかなぶるんぶるんと揺れ、その艷やかな唇からは暑い吐息がこぼれ出る。
「お前、この世の全ての男を手玉に取っているような顔をして、処女だというのか!?
お笑い草だ、気に入ったぞ、アルベド! お前を俺の本物の奴隷にする! 人形などではない、永遠の奴隷だ!
どうだ、嬉しいだろう!」
「ひゃいっ、うれしいですぅ♥」
(しんでやるっ! おまえなんかの、ほぉっ♥ どれいに、なる、ならぁ……んひぃ♥ しんでやるぅ!)
「では、改竄を行ってやろう」
そう言って、フィリップは再び指を鳴らす。
アルベドの全てを奪い去る光が瞬き、今度は何が行われたのだと、アルベドは訝しむ。
「アルベド、お前の所属する国はなんだ?」
「はぁ、はぁ! ころす、んほぉ♥ ころ……えっ? ん、んひぃぃぃ♥」
呪詛の念を抱きながら抱かれていたアルベドの口から、喘ぎ声とともにその呪詛の言葉が飛び出した。
アルベドは突然のことに呆然とするが、すぐに快感に襲われて無様に喘ぎ声をあげる。
すでに、アルベドがフィリップの支配下に置かれていることに快感に襲われながら認識した。
「き、きさまぁ……おひぃっ♥ にゃ、にゃにをしたぁ!」
「いいから答えろ、貴様の所属する国はなんだ?」
「そんなもの、おほ、きま、んひぃ! き、きまっているぅ! わたしはぁ……」
すると、言葉が出なかった。
それは肉体を操作されて口に出せなかったという意味ではない。
単純に『思い出せない』のだ。
自分が所属する国の名前が、『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』の名がアルベドの記憶域から消え去っているのだ。
「な、なに、がぁ!?」
「お前の中から記憶を消し去った、そして、これからお前の大事なものを消し去っていくぞ」
「そんなことをぉ!?」
そう、フィリップはアルベドの記憶を弄っているのだ。
そこから消されたものを決して思い出すことは出来ない。
事実、アルベドはその国についてあくまで自分が所属していたこととその国の盟主が自分の敬愛する人物アインズ・ウール・ゴウンであることしか思い出せないのだ。
「今のお遊びだ、次はお前の全てを……アインズ・ウール・ゴウンへの思慮の念を消し去る」
「…………えっ?」
ぴたり、と。
腰の動きが止まり、アルベドに言い聞かせるようにフィリップはゆっくりと語りかける。
「私の射精と同時にお前がアクメをする、それが合図だ。
お前は、アインズ・ウール・ゴウンへと抱いていた尊敬も敬愛も恋慕も、全てが失われる」
「そ、そんな……いや……いやぁ……!」
「嫌じゃない!」
「おほぉぉっっ♥」
フィリップは腰を動かすと、アルベドの喉から嬌声が漏れる。
パンパン、パンパン、と早まる腰の動き。
フィリップの言葉が真実であることは、アルベドはよく理解できた。
「やめて、やめてぇ! わたしから、あの、おほぉん♥ あのおかたのおもいを……ふぅ♥ ぅぅぅう、けさない、んひぃぃぃ♥」
「知らんなぁ、お前は俺のものになるんだから他の男のことなんてどうでもいいだろうが!」
フィリップはアルベドの懇願を聞き入れず、ただただ最高の女を自由気ままに凌辱する。
そこにアルベドの意思など存在しない。
それでもアルベドは必死に懇願する。
『命乞い』と言っても良い有様だった。
必死に、すべきではないと理解していてもフィリップへと媚びた声を己の意思で向ける。
「おねが、おねがいしましゅぅ♥ わたしを……わたしを、ころさないでぇ♥」
「殺しはしない、書き換えるだけだ!」
「それが、おほぉ♥ わたしをころすことなのぉ♥ いやぁ……やめてぇ……♥
わたしから、わたしをうばわないでくださぃ……♥
どれにいなるからぁ……なんでもしますからぁ……♥」
そこにあるのは、大事な思い出だ。
誰も彼もが去っていった。
自分を生み出しておきながら、自分勝手に立ち去っていった。
自分に忠誠を命じておきながら、自分勝手に立ち去っていった。
残される自分のことなど一つも考えずに、自分勝手に立ち去ってしまっていた。
その中で唯一残ってくれた御方が居た。
その御方は何をするでもなく、ただ君臨し続けてくれた。
アルベドにとって、忠誠を誓うべきは四十一人などでは断じてなく、たった一人だけだった。
自分の全ては一人の偉大にして至高の御方に捧げられるべきだった。
自分のあり方を改ざんした、とある日その御方は口にした。
テストの代わりに自分を愛するように書き換えた、とある日その御方は口にした。
アルベドの魂は震えた。
この御方に必要とされている事実に、震えた。
ああ、アインズ・ウール・ゴウンなどどうでも良い。
貴方の旗印の下でならば、たとえ自身の創造主が敵に回ろうとも塵ほどの感傷も抱くことはない。
私には貴方様だけだ。
残された私を唯一捨てなかった貴方様だけだ。
────私、アルベドが仕えるべき主は、モモンガ様だけなのだ。
「おねがいぃぃぃぃ♥ わたしから、ももんがさまのこと、けさないでぇぇぇぇ♥」
「俺のものになれ、アルベドッ!」
どびゅるっるるるるるうぅぅぅぅぅぅぅ!!!!
「お゛っ゛っ゛ほ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛♥♥♥♥」
そんな懇願も虚しく、アルベドのマンコの奥へとフィリップのザーメンが注がれ、アルベドは当たり前のようにアクメに至った。
その絶世の美貌が無様なアクメ顔に形を変える。
だが、美人とはそんな不細工であるはずの顔すら男の情欲をくすぐるものなのだから恐ろしい。
「はぁ……はぁ……」
「お、おほ、おひぃぃ……♥」
「すごい締め付けだ……まさに、男を搾り取るために生まれたような女だな……さて……おい、アルベド」
肩で息をするフィリップはぺちぺちとアルベドのアクメ顔を叩く。
「は、はひ……」
「お前の主は誰だ?」
「わたひの……あるじぃ……?」
「そうだ、お前が仕え、お前が崇め、お前が愛する主は、誰だ?」
「そんなの……きまってるじゃないですかぁ……♥」
アルベドは、アクメ顔のままニッコリと笑った。
その笑みだけで再び射精をしてしまうのではないかと思ってしまうような、淫猥な笑みであった。
そんな淫猥な笑みの中、唇から開かれる。
「ふぃりっぷさまですぅ……♥ あるべどがあいする、ゆいいつのだんせい……このよのだれよりも、とうとい……んっ……そう、フィリップ様ですぅ……♥」
────絶対服従の言葉が、こぼれ出た。
「ああ……ああ! いと……いと貴き至高の御方……♥ このアルベドの唯一無二なる主様……♥
凛々しきお顔を、お見せくださいませ……♥
雄々しきお声を、お聞かせくださいませ……♥
麗しきお姿をもって、君臨してくださいませ……♥
このアルベド、それだけが望みでございます……♥」
「フ、フフ、フハハハ!」
その服従しきった姿に、フィリップは何度目かとなる高笑いがこぼれた。
そして、視線で催促する。
もっと、もっとだ、と。
「伏して願います、フィリップ様ぁん……♥
その偉大なおちんぽ様よりも下劣である私は、貴方のおちんぽ様よりも低く、低く頭を下げさせていただきますぅ……♥
このアルベドを奴隷妻として迎えてくださった、闇よりも深く光よりも輝ける絶対の御方……♥
全てを、お捧げしますぅ♥
ナザリック地下大墳墓なる蟻の巣には、貴方様の御威光を飾り立てるには不足してはいますが……それでもこの、貴方様を男爵などという最下級の地位におく節穴しか存在せぬ低能な王国よりも、貴方様の栄光を讃えるには優れた場所でしょう♥」
「なんだ、お前は自分の国の裏切るのか?」
「裏切るだなんて……♥ むしろ、私にフィリップ様という偉大な御方の存在を知らしめなかったアイツが先に裏切っていたのですわ♥
汚らわしい……あの骨だけの愚物は、あわよくば私を妾に出来ないかと狙っていたのでしょうね……フィリップ様の偉大さを知ってしまえばあんなクズに目を向けることもなくなるのですから♥」
「ぐふ……ぐふふ……!」
腹を揺らして笑い出すフィリップ。
当然だ。
あの忠臣面をしていたアルベドが、人間をゴミのように思っていたはずのアルベドが、自身のチンポよりも頭を高くしてはならないと言って蹲りながら媚びてくるのだ。
フィリップは全能感に酔いしれ、その笑い声を強めていった。
「やっべ、笑い声もかっこよすぎるぅ……♥」
故に、アルベドの惚れ込んだ相手の全てを魅力に思う性質から漏れ出した、普段の淑やかで気品のある口ぶりとは程遠いチンピラのような言葉が飛び出たことにも気づかなかった。
ただ、このこの世の誰よりも美しい悪魔を自分に媚びへつらい、全てを肯定してくる都合のいいヒロインへと貶めたという事実。
その事実に、フィリップは笑いを止めることが出来なかった。
「全てをお捧げしますわ……フィリップ様……♥ ナザリック地下大墳墓も、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』も……この世界の全てを……♥」
アルベドは妖艶に笑いながらフィリップに忠誠を誓った。
モモンガという名前は、すでにアルベドの心から消え去っていた。
かつてあったはずの、敬愛すべき神々が消え去っていく、そんな辛くて苦しくて、でも、ただ一人だけが見捨てずに傍に居てくれた、優しい日々。
そこに居てくれるだけでいい、と。
レベル1の戦闘においては役立たずの存在でも構わない、と。
ただ、消え去ることなくそこに君臨して、あの慈悲深い眼差しをもって我々を支配してくれればいい、と。
そんな風に思っていた想いも、今はない。
ただ、卑劣で悪辣な手段において奪われてしまった。
だが、嘆く必要などない。
それは、アルベドも常々行ってきたことであるから。
卑劣で悪辣なる絶対の力を持って蹂躙することを、ナザリック地下大墳墓は、魔導国アインズ・ウール・ゴウンは、どのような想いがあれど行ってきたのだから。
それが巡り巡ってきただけだ。
────アルベドは、それを理解もせずにただフィリップに媚びた笑みを向けていた。
◆
彼は、自分が特別であると同時に特別ではないことを理解していた。
これは転がり込んできた力であり、境遇であり、魂であり、心であることを確かに理解していた。
積み上げてきたのは自分だが、その積み上げ方はこの世界に居る他のものとは異なる方法であると理解していた。
自分と同じ境遇にあるものが現れる、あるいは、存在している可能性は当然のように存在することを理解していた。
ああ、それこそが、彼の驕りであった。
彼は特別な存在ではないからこそ、自身のルールから逸脱した考えを抱くことは出来なかった。
強大な力にもルールが存在すると、無意識にでも考えてしまう悪癖。
あるいは、最後に残された平凡な人間の在り方。
そう言ったものに囚われていること事態が、驕りに満ちていたと言えるのだ。
もちろん、明確に自身よりも上の、本当にどうしようもないものが現れたときの対処法など考えるべきではない。
それを考慮してしまえば、その場から一歩も動くことも出来ず、ただ死を待つことしか出来なくなる。
それでも。
それでも、彼がこの場を本当に守りたかったのならば、この場の全てを捨てるという覚悟を持つ必要があった。
大切なものが変わってしまう前に消えてなくしてしまうということを覚悟する必要があった。
そう言った意味では、やはり、彼は驕りがあったのだろう。
(……なんだ?)
彼────アインズ・ウール・ゴウンが曖昧な意識のままに覚醒する。
本来ならば眠りなど必要としないはずのその体の意識が落ちていたという異常事態を、冷静に考えることが出来ない。
ただ凡人のように、流されて生きる下々の民のように、ゆったりと体を起こして周囲を眺める。
そこは、見知った場所だった。
ナザリック地下大墳墓、その玉座の間である。
「……なっ!?」
瞬間、アインズの脳が沸騰する。
怒りという炎をもって熱せられた意識はすぐさまに熱くなるが、それもまた落ち着きを見せる。
沈静化。
かつて人間であったアインズがアンデットとなることで得た特殊な体質。
しかし、沈静化させられた怒りはすぐさま燃え上がり、その怒りもまた瞬時に沈静化させられる。
だが、アインズの怒りはその程度で収まることはなく、イタチごっこのように激怒と鎮静が繰り返されt、たっぷりと十数回の繰り返しの末にその怒りはひとまずの落ち着きを見せた。
「何が起こっている……! なんの冗談だ……!」
アインズが激しい怒りを見せたその理由は、ひどく単純なことであった。
掲げられたギルドアイコンとギルドメンバーのサインが描かれて棚引いていた旗が、竿はぼきりと折れて地面に垂れ落ちて、その旗自体もまた黒い墨で大きなバッテンをつけられて元のサインが分からなくなっている。
明らかなる侮辱行為、挑発行為である。
許されるはずがない。
「おお、起きたか! アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下!」
そんなアインズに鷹揚な声を投げかけた、アインズの視線の先、その重厚な玉座に腰をかける一人の男。
見知らぬ男、どこにでも居るような容姿をした平凡な男である。
そこに座ることが許されるのは、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーにギルドマスターを任された己だけのはずなのに、まるで自分のもののように座り続けている。
その席に強い執着があるわけではない、他のギルドメンバーが席を求め、多くのメンバーがそれに賛同するのならば己は喜んでその地位を譲るであろう。
だが。
「それは貴様ではないぞッ!」
アインズの覇気が湧き上がる。
この世界の多くの人間ならばそれだけで命を落としてしまうような恐るべき威圧は、しかし、目の前の男には通用しない。
にやけた笑みでそれを受け止めるだけだった。
「ふむ、会話にならないな……まあ、まずは自己紹介からだろうな。
私の名はフィリップ・ディドン・リイル・モチャラス。リ・エスティーゼ王国にて男爵の爵位を賜っているものだ」
「そこを退けっ!」
「それは無理な相談だ」
今、世界が最も恐れる人物であるアインズの言葉に対して男、フィリップはひょうひょうと受け流す。
いくら沈静化させられようとも湧き上がる怒りは、アインズの頭から冷静な考えというものを追い出していく。
フィリップは、玉座に腰を掛けて、その短い足を組む。
「ここはもう私の城となるからだ、お分かりかな」
「何を言っている……! ここは貴様のような男が居ていい場所ではない!」
「いや、そうではなかろう。この豪華絢爛たる城と巨大なる富、そして強大な兵士たち。
うむ、考えれば考えるほど私の城に相応しい!」
「ふざけるなぁ!」
「────黙りなさい」
アインズの激高と同時に凛とした声が広がり、聞き慣れた声にアインズの動きと思考がピタリと止まる。
その声は、よく知っている。
声の方角へと視線を向けると、やはり、よく知った姿があった。
「この御方をどなたと心得るっ!
この世の主フィリップ様……光輝ける太陽よりもなお輝かしき御方。昏い闇夜すらも呑み込む御方。
貴様のような一介のアンデッドなど、本来ならばその目に姿を写すことすらも許されぬ御方です!」
「アル……ベド……?」
ナザリック地下大墳墓の守護者統括アルベド。
自身の親愛なる仲間であったタブラ・スマラグディナが作り上げたNPC。
自身にとって子供のように愛すべき存在である。
そして、己の些細な出来心によってその在り方を歪めてしまった女であり、アインズに強い忠誠と同時に恋慕の念を抱いでいる女だ。
そのアルベドが、アインズに向けるものとは到底思えない冷たい視線を向けていた。
「よく来たな、我が妻よ」
「フィリップ様ぁ……♥ ありがたきお言葉……このアルベド、まさしく天にも昇る心地でございます♥」
「なにが……起こって……」
そこで、アインズはやっと気づいた。
己が積み上げてきた証である豪奢なローブや指輪などのアイテムの全てが、それこそ自身の最大の特徴でもある中心の赤い玉すらも失われている。
そして、感覚でわかる。
今の自身はレベル1のアンデッドと相違ないのだ、と。
「しかし、アルベド。手筈とは少々違うのではないか?」
「ああ、申し訳ありませんっ♥ このアンデッドのあまりにも無礼な振る舞いに耐えられず、どうしても駆け出してしまいました……♥ この駄犬、如何様な罰もお受けいたします♥」
「ははっ、怒ってなどいない、アルベド。お前にそのような気の利いたことなど期待はしていない。
なんせ、お前は無知で低能な、その体しか価値のない娼婦も同然の────」
「ふざけるなぁ!!!!!」
フィリップに対して傅くアルベドと、どこかで聴いたことのあるようなアルベドの自卑する言葉遣い。
そう、それは本来であればアインズに向けられていたものであり、アインズは仲間の娘も同然であるアルベドに対して、アルベド達NPCの言う寛大な態度を取り続けていた。
しかし、フィリップはそうではない。
アルベドに対して小馬鹿にするような言葉遣いをもって答えている。
「貴様、タブラさんの娘も同然であるアルベドにそのような────」
「うっせえなぁ……黙るのはテメエなんだよッ! ちょっとは空気読めねえのかッ!」
「なっ……!?」
アインズの激しい言葉は、しかし、アルベドの怒声で遮られる。
それは向けられたことのない声、普段のアルベドからは想像もできない言葉。
思わず、アインズは呆然と押し黙ってしまう。
「では、アルベド、始めよ」
「はいっ、かしこまりました♥」
先程の怒声とは一転して、アルベドは猫なで声と呼べるような媚びを大きく含んだ声でフィリップに向き直る。
両手は後頭部で重ね合わせ、その普段は隠されている腋が見開きになり、背中を大きく伸ばし、胸を張り、その巨大なおっぱいが際立つような体勢となる。
そして、ガバリ、と大きく股を開いた後に長い脚を折り曲げる形に腰を落として、がに股の姿になる。
胸と股間という性的な興奮を催すその二箇所を際立たせる姿であった。
それだけでも男の誰しもが射精をしてしまうような『エロい』姿だというのに、そこからさらに腰を振り始める。
「フィリップ様ぁ~ん♥
私、『元』ナザリック地下大墳墓守護者統括アルベドが、ここに宣言しますぅ♥
このナザリック地下大墳墓の住民の全てが、貴方様の支配を受け入れいたしますっ♥
馬鹿で下劣な無能どもを飼ってくださいませぇ♥」
「うむっ!」
「あぁ~ん、ありがとうございますぅ~♥」
腰をヘコヘコと動かしながら、おっぱいをぶるんぶるんと震わしながら、アルベドは蕩けきった、いや、知能すらも失ったような顔でフィリップの言葉を受け入れる。
ぴしゃり、と水滴が地面を打つ音が聞こえたが、アインズにはこれがノーパンのアルベドが潮を吹いた証であることも理解できなかった。
ただ、目の前の出来事を呆然と見つめることしか出来ない。
「では、アルベド。褒美を与えよう、何でも言ってみよ」
「なんとお優しいのでしょうか、フィリップ様……♥ ですが、わざわざ聞くこともありません♥ このアルベドが求めるものは常に一つでございますので……♥」
「ほう、それはなんだというのだ?」
「それは……フィリップ様のおちんちんでぇ~~っす♥
フィリップ様のおちんちんが欲しすぎて、生みの親の居城も♥ 信頼すべき仲間たちも♥ 愛していた御方も♥ 全部どうでもよくなって売り渡しちゃいましたも~ん♥」
「あっ……ああ……」
アインズは、理解が出来ずにただ言葉にもならない声を漏らすことしか出来なかった。
その一切を無視して、アルベドが意図的に低能な女を演じる。
お高く止まって見下し続けていたアルベドが娼婦にも劣る媚び売り女となる、それこそがフィリップがもっとも望む姿であるからだ。
「全く、どうしようもない女だ……こんな性欲に溺れる女を傍に置いていたら私もいつか裏切られるかな?」
「フィリップ様、それは全く心配のないことでございます♥ なぜなら、フィリップ様はこの世の誰よりも強く賢い御方ですもの♥
あそこでうなだれていることしか出来ないクズとは違って、私が裏切ろうとしても絶対に敵わないですし……なによりも♥ 裏切ろうだなんてことを考えさせないほどに魅力的な御方なのですからっ♥」
「ふん、貴様のような低能な女に何を言われても嬉しくないな」
「あぁん、ひどぉい♥ いくら本当のことでもアルベド傷ついちゃいますぅ♥」
ぶりっ子と言ってもいいほどの甘い声で、しかし、フィリップの目を楽しませるために執拗に腰をヘコヘコと振ってその全身ポルノと呼んでも差し支えのない魅力的な媚肉を震わせる。
アルベドの鍛えられた肉体は一切の疲労を感じさせず、その腰振りの速度を落とすこともなかった。
また、フィリップはアルベドを意図的に愚弄してるが興奮しているのは明らかで、そのズボンの前を大きく膨らませていた。
それを見て、アルベドはさらに興奮をして無様な腰振りヘコヘコダンスのスピードを上げる。
「ふふ、無様な姿だ……だが、お前の全てを許そう!
なぜならば、俺は無能な配下にも慈悲深い偉大なる支配者だからだ!
さぁ、我が懐に腰掛けよ、お前自身が腰を振るのだ!」
「ありがとうございます、フィリップ様♥ このアルベド、誠心誠意ご奉仕をさせていただきます♥
では、このくっそダサい服からフィリップ様へのご奉仕専用の服装に変えさせていただきますね♥」
「ア、アルベド……」
アルベドは創造主であるタブラ・スマラグディナが設計したドレスを捨て去るように脱いでいきもはや紐としか呼べないエロ下着だけの姿を晒す。
アルベドの黒い髪と黒い翼と対象的なその白を基調としたエロ下着はひどく淫靡で、本来隠すべき乳首と女性器が丸見えになるようにくり抜かれており、フリルがふんだんに備えられており、ただ男を魅了するためだけのガーターベルトも備えられていた。
アルベドはそそくさとフィリップの座る玉座へと近づいていき、そのままフィリップと背中を向けるように繋がろうとする。
アルベドが望む位置についたことを確認すると、フィリップは自身のズボンを脱ぎ捨て、チンポが露出される。
「はぁぁん……♥」
飛び出したフィリップのチンポを見て、アルベドは恍惚の息を吐く。
そのままにチンポに手を添え、自身のマンコの入り口に擦り付けていく。
それは挿入のために位置を調整しているとも、あるいはフィリップのチンポを使ってオナニーをしているとも取れるような動作だった。
「あぁ……♥ はぁ……♥ んんっ……♥」
恐らく、その両方ともが正しいのだろう。
実際にアルベドは固くいきり立ったチンポを柔らかく握りながらも、腰を揺らして膣口に刺激を与えて甘い声を漏らしている。
それが甘美すぎたのかしばらくの間を続けていたアルベドだが、フィリップがじれったいと言わんばかりに腰をトンと僅かに持ち上げて続きを催促した。
「あぁんっ♥ も、申し訳ありません♥ あまりにもご立派な男性器でしたので、思わず自慰を……♥」
「何度も言わすな、アルベド。私はお前の全てを許そう、その卑しさもな。
そして……男性器や自慰などと言うべきではないな、淫魔ならば言葉は正しく使うんだ」
「はぁ……重ねて、申し訳ございません♥ この無能な女をそれでもお許しくださる貴方様の寛大なお慈悲に感謝を……♥
では、改めて……♥ フィリップ様のオチンポ様が素晴らしすぎて、私の牝の証であるオマンコがどろどろに泣き出してしまい、オナニーが止まらないのですぅ♥」
そのままに腰の動きが早まるアルベド。
すでにその雪のように白い肌は赤子のように熱く火照り、そのままに感極まった顔で喉を見せつけるように天を仰いだ。
「あっ♥ あっ♥ ああっ……♥ いくっ、いくぅぅ♥」
ぷしゅっ、と。
アルベドの潮が玉座を穢す、それはアルベドの言葉が単なるごますりではない、確かに軽くではあるが絶頂を迎えた証明であった。
フィリップはアルベドほどの絶世の美女と呼べる女が、自身のチンポ一つでアクメをキメたことに満足げな顔を浮かべ、そして、アルベドの耳元で何かを囁いている。
「あぁ……はい……わかりましたぁ……♥
では……うぅんッ!」
アルベドはフィリップの囁きに蕩けた笑みで答え、喉を押さえて咳払いをする。
そして、じろり、と先程までは気にも止めていなかったアインズへと視線を向けた。
「では、フィリップ様……オチンポをオマンコにハメハメさせていただきますね♥
この蕩けきった極上オナホボディのフィリップ様専用に調整された最高のマンコを存分にお楽しみくださいませ♥
そして……おい、アインズ」
その視線に浮かんでいたのは、確かな嘲りである。
貞淑さを形にしたような立ち振舞いを行うアルベドには似つかわしくない、野蛮な言葉が飛び出してくるのを、アインズは黙って見ていることしか出来なかった。
「お前はそこでみっともなく配下を寝取られて……ああ、寝てないから寝取られてもないか。
このデカパイを揉みしだくて仕方なくてセクハラ命令までしてしまったお気に入りの女部下がフィリップ様にご奉仕しているのを指でも噛んで黙って見ていなさい」
黙り込むアインズに冷たく荒っぽい言葉をアルベドは投げつける。
このチンピラのような言葉遣いこそがアルベドの本性であり、自身の加虐性をむき出しにした笑みとフィリップから与えられる快楽にとろける笑みが混じり合った、形容しがたいが確かに妖しげな魅力が漂う笑みを浮かべていた。
「いやいや、アインズ陛下もそのままではつまらないだろう。
このような素晴らしい居城と財宝、そして美しい配下『達』を用意してくれたお礼をさせてもらおう」
「……まて、配下『達』とはいったいどういうこ────な、なんだっ!?」
アインズはフィリップの言葉に反応をし、問い詰めようと声を張り上げるがそれ以上の変化が自身の身体に生じたために言葉を切ってしまう。
自身の下腹部から走る熱、喪われたはずの感覚。
何かを恐れるように、アインズはゆっくりと視線を落とす。
「こ、これは……!?」
「私からの贈り物だ。アインズ陛下にとっては懐かしいものだろう、たっぷりと楽しんでもらおうか」
「ぷっ……ふ、あははは! な、なにかしら、それは! ああ、だめ、おかしすぎる!
あ、アンデッドに……チンポがついているなんて!」
アインズの下半身には、男性器が生えていた。
骨だけとなったアンデッドの身体に、まるで性欲だけは捨てきれないと叫ぶように未練がましく生えた肉の棒に、アルベドは腹を抱えて笑い出す。
惨めな姿のまま、しかし、アインズのチンポは固く勃起をしていた。
「はぁ……面白いけど、勃起チンポは気持ち悪いわね。
なに、女を奪われて興奮しているの? 見下げ果てるほどの生まれつきの敗者……フィリップ様とは大違い、なぜお前のような負け癖のついたマゾ犬を主と勘違いしていたのかしら?
大方、このナザリックに残っていたのだって、自分が作り上げたモノたちに囲まれてちやほやされたかったのが本音かしら?
本当に気持ち悪い……ああ、もう、なぜ喜ぶようにチンポを勃起させるのかしら。
哀れすぎて理解できないわ……でも、良かったじゃない。
フィリップ様のおかげでチンポを取り戻せたのだもの、お前が揉みしだきたくて仕方なかったこのおっぱいをオナニーに利用でき……あぁん♥ フィリップ様ぁ、そんな強引に、ああっ♥」
アルベドの畳み掛けるような言葉を打ち切るように、フィリップは強くアルベドの大きな胸を揉みしだいた。
そのまま指を添えれば深く沈みながらも奥から強く押し返してくる柔らかさと弾力の奇跡的なバランスを味わいながら、重量感たっぷりのおっぱいを手の中で弄ぶ。
アルベドは突然のフィリップの愛撫に戸惑いと歓喜に満ちた叫びをあげた。
「なんだ、嫌だったか? 私もセクハラと怒られてしまうかな?」
「まさか、そんなことはございません♥
この身は頭の天辺からから足の爪先まで余すことなくフィリップ様の性的玩弄物♥ フィリップ様のお心と性欲をお慰めするためだけに生まれ、育まれてきた人型オナホ♥
……おい、お前ッ! 何を見ている!
汚らわしい……まさか、あの時のことでも思い出しているのかッ!?
ふざけるな……! 私の身体は余すことなくフィリップ様の所有物、お前の蟻のようなちっぽけな脳みその片隅ででも私の痴態を想像して興奮するなど、許されることではないぞテメエ!」
性的な興奮と怒りで顔を真赤にするアルベドは、自身を呆然と見つめるアインズへと侮蔑的な言葉を吐きつける。
かつてその胸を揉みしだかれて興奮を覚えていた過去など存在しなかったと言わんばかりの怒りであった。
「そうは言うな、アルベド。これこそがアインズ陛下に与える私の『感謝』なのだから」
「感謝……でしょうか? 申し訳ありません、このアルベド、貴方様の深遠なる知恵に理解が及ばず……どのような意味なのでしょうか?」
「ふふ……アインズ陛下、私からの感謝のプレゼントです。その貴方のチンポで、私のハーレムを盗み見てオナニーをすることを許しましょう!」
「なっ……なにを……!?」
フィリップの突然の言葉。
本来はアインズが望めば全ての存在が傅き従うナザリック地下大墳墓にて、許可を出すという蛮行。
だが、今はそう言った場所なのだ。
ここはアインズの居城ではなく、すでにフィリップの支配下に置かれた空間へと変貌しているのだ。
「ああ……なんてお優しいのでしょうか、フィリップ様♥ このような箸にも棒にもかからないような、そんな間抜けなアンデッドにそのような深い御慈悲をお与えになるだなんてっ♥
……おい、どうしたっ! なぜ感謝をしない! お前の震えを催すような下賤な欲望をフィリップ様は許されたのだぞ!
地に伏し、頭を擦り付け、感謝の言葉を口にしなさい!」
「う、うああ……」
「貴様、いい加減に、いぃぃっぃぃぃぃいぃっんんっっ♥♥♥♥♥♥」
アルベドの激怒にショックを受けて震えるだけのアインズ。
そんなアインズの様子はアルベドの怒りに火を注ぐものであり、さらなる激怒を叩きつけようとした瞬間であった。
フィリップは予告もなくアルベドのマンコへと自身のチンポを突き入れたのだ。
「おっ、おぉぉ、おほぉぉぉぉぉぉぉぉんんっっ♥♥♥♥
い、いく、いくっ……いきゅうううううううう♥♥♥♥♥♥」
ただ挿入だけで絶頂に達するアルベドと、それを呆然と見つめるアインズ。
かつて固い絆で結ばれていた主従の無様な姿に、絶対に満たされることのなかった征服欲が満たされていく圧倒的な快感にフィリップは笑みを深める。
「はは、さあ、アインズ陛下。私とアルベドのセックスをどうかお楽しみください……アルベド、悪いがそろそろ我慢も難しい、激しく行くぞ!」
「フィリップさまっ♥ フィリップさまぁん♥ そんな、あひぃ♥ ふいうちをされてはぁ♥
おほぉっ、またいきゅっ♥ つかれるだけでいきゅぅ♥」
「アインズ陛下、アルベドの具合はひどく良くてな……こうして強く突き入れれば、ぎゅっとチンポを絞ってくるのだ。
だが、それも拒絶をするように固く絞るのではない……まるで私のチンポを包み込むように絞るのだ、だから、そこに一切の痛みや苦しみはない。
温かな快感だけが私に与えてくる、最高のオナホだよ、これは!」
「ああぁんっ♥ お、おほめのことばぁ……んひぃぃ♥ おほめの言葉を、ありがとうございましゅぅ♥」
「オナ……貴様ぁ!」
「身の程をわきまえろ、アインズ!
今の貴様はすでに何の力もない雑魚アンデッドだということは当に気づいているだろう!
俺が手に入れるべきだった全てを、一時的にでも手に入れていた屈辱を俺は忘れはせん!
アインズ、貴様は一生負け犬オナニーでもしていろ!」
先程の慇懃無礼な言葉遣いも投げ捨て、アルベドに腰を打ち付けながらアインズへと命令を下すフィリップ。
その言葉に反応するようにフィリップのブレスレットが激しい発光をしだし、その光に誘われるようにアインズの手が自身のチンポへと伸び、それを両手で掴んで上下に擦るように動いていく。
世にも珍しいアンデッドのオナニーである。
「ふぃりっぷさまぁ♥ どうか、こだねをぉ♥ このいやしい、どれいにぃ、おほぉっ♥ あなたさまのおこをはらむ、えいよをぉっ♥」
「いいだろう、アルベド! 低能な割にお前なりに成し遂げたこの働き、俺は高く評価するぞ!
このナザリック地下大墳墓……だったか? それを俺に献上した褒美に、俺の子を孕むことを許す!」
「あへええぇぇぇぇぇぇ♥ うれしい、うれしいっぃいぃ♥
ふぃりっぷさま、どうか、あついざーめんをくださいぃ♥」
パンパン、パンパン、と。
フィリップのピストン運動が速くなっていく、明らかに射精が間近に迫っている証拠であった。
それに釣られるように、アインズも息を荒く吐きながらその手の動きを早めていく。
「はぁ、はぁ……!」
アインズは、まるで自身がアルベドに注ぎ込むような想いで、フィリップの射精に合わせるように両手でチンポを扱き上げる。
なんとも言えない、無様な姿であった。
「ふぅ……出る、出すぞ、アルベド! 受け止めろ!」
その言葉が契機であった。
びゅるるるるうぅぅぅぅぅぅ! どびゅっ! びゅるぅ! どびゅぅぅぅぅぅぅぅっ!
熱く『強い』精液が、アルベドの中へと注ぎ込まれ。
熱くも『弱い』精液が、ナザリック地下大墳墓の豪奢な床を穢した。
「お゛っ゛、お゛ぉ゛ぉ゛っ゛、お゛ほ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ん゛ん゛っ゛♥♥♥♥♥♥」
「ふぅぅ…………!」
「あっ……ああ……」
フィリップの、アルベドの、そして、アインズの身体が痙攣をする。
アルベドは糸の切れた人形のように、その美しい身体から力が失われてぐったりとフィリップに体を預ける。
その美しい女の甘えのような動作をフィリップは嬉しそうに受け入れ、アインズはただ黙ってそれを見ることしか出来なかった。
全てを奪われたということを、全てを理解したのだ。
「……失礼いたします」
「失礼いたします」
そんなアインズに追い打ちをかけるように、玉座の奥から二人の侍女が現れた。
アルベドほどではないが、それでも腰が抜けるほどに美しい女であった。
黒く艷やかな髪を固くひっつめて知的な顔立ちにメガネをかけたメイド服の女、ユリ・アルファ。
同じく黒い艷やかな髪をひっつめて顔を無表情に染めたメイド服の女、ナーベラル・ガンマ。
共にプレアデスと呼ばれる戦闘メイドであり、このナザリック地下大墳墓のメイドたちを取り仕切る者のうちの二人である。
「……ユリに、ナーベラル?」
「……」
「チッ……」
突如現れた二人の姿に思わずと言った様子でアインズはその名前をつぶやくが、ユリは無視をしてナーベラルに至っては露骨に顔を歪めて舌打ちをしてみせた。
新たな絶望がアインズを襲う。
もちろん、フィリップとアルベドの会話からナザリックの全てが奪われたことを理解していたが、それでも現実に見せられれば新たな痛みが生じるのは当然だった。
「御主人様、メイドたちの御用意が終了致しました」
「メイドたちは全てが処女。御主人様に抱かれるその時をお待ちしております」
「うむ、用意が出来たか。ふふ、あれほどの美女を一突きだけで処女を破り、別の処女へと移る……ふふ、これ以上ない贅沢だな」
「皆、フィリップ様に処女を捧げることの出来る幸運に、伏して感謝をしております」
「そ、その……よろしければ、最後に……」
「わかっている、フィニッシュはお前たち特別なメイド六人だ。
ああ、エントマとかいうゲテモノも居たが……いや、あれも面白い。性癖が広がったよ。
視覚的にはともかく、肌の感覚的から与えられる刺激としては悪くはない」
「ああ……ぼ、僕も抱いていただけるのですね♥」
「私達にもお慈悲を……♥ ありがとうございます、御主人様っ♥」
ユリとナーベラルの言葉に頭が遠のく。
どこまで、奪われるというのだ。
決まっている、全てを奪われるのだ。
そして、それを見せつけられてしまうのだ、このちっぽけな男のつまらない自尊心のために。
「しかし、ユリやナーベラルもそうだが、ここのメイドは皆が美しいな」
「そこのアンデッドの趣味でしょう……思えば、私を連れ回して『冒険者ごっこ』をしていたのも、女を見せびらかす浅ましい欲望の表れだと思われます」
「しかし、それで御主人様の関心を買うことが出来るのならば……ええ、彼もまた良い仕事をしたと言えるでしょう」
アインズに忠誠を誓っていた二人が、アインズを侮辱する言葉を吐く。
もはや、それを当たり前のように受け止めてしまっている自分がいることにアインズは気づいた。
「ふぅ……あぁ……フィリップ様ぁ……♥」
「起きたか、アルベド」
「ああ、この後は……そう、メイドたちの処女喪失パーティーでしたね。どうしましょうか、あの骨も連れていきますか?」
「もちろんだ、アインズ陛下には私が配下たちを幸福に導く姿を見せて差し上げなければいけないからな」
「畏まりました。ユリ、こいつ、アインズを……ああ、そうだっ! フィリップ様、僭越ながら申し上げます」
アルベドはなにかいいことを思いついたと言わんばかりに顔を輝かせる。
フィリップも、またアインズもまたこの聡明で悪辣な女の思いつきは良くも悪くも残忍なものであることを知っている。
フィリップは愉快そうに顔を歪め、アインズは苦痛に顔を歪めた。
「この男の『アインズ・ウール・ゴウン』という名、元はこの地を統べていたもののその責任から逃れだした集団の名を意味しておりました」
「ほう? ということは、組織名を名乗っていたのか?」
「逃げ出した仲間たちを未練がましく求めていたのです、本当に情けない男……しかし、そのアインズ・ウール・ゴウンの証は私達が全て塗りつぶしました……例えばそこの旗のように」
アルベドは竿棒を折られ、ギルドサインを塗りつぶされた旗を指差す。
敗北の証を認識させられるアインズは、地面にうずくまる他なかった。
「かつて、我々を生み出しておきながら無責任にも逃げ出した者たちの形跡など不要! この者の名も当然、没収すべきでしょう!
そして、この者を真の名……『モモンガ』として、敗北者の証として生存させるのはどうでしょうか?」
「ほう、なるほど………………………えっと、つまりどういうことだ?」
「ああ、申し訳ありません。私のような卑劣で矮小な者の考えは、崇高で慈悲深いフィリップ様にはあまりにも卑小すぎて伝わらなかったのですね……
つまり、この『モモンガ様』と敬われて調子に乗っていたクズを、負け犬ペットの『モモンガ』として我々ナザリックの住民から、フィリップ様とは比較にもならない者として蔑まれる存在とするのはどうでしょうか?」
フィリップの勘の悪さを、あくまで己の言葉が悪いのだと謝罪をするアルベド。
そして、アインズ……いや、モモンガを負け犬の象徴として飼うことを提案したのだ。
これから仲間たちと築いたナザリックの全てを奪われる様を間近で見せつけられ、そして、仲間たちとの青春の証である『アインズ・ウール・ゴウン』という名を捨てさせられるのだ。
おおよそ、考えられる限り最悪の結末である。
「ふ、ふはははは! アルベド、お前はなんと悪いやつだ!
だが、面白い! いいだろう、アルベドよ! アインズ、じゃなかった、モモンガを連れてこい!
これからシャルティアやアウラも抱くときも、デミウルゴスやコキュートスに命令を下すときにもだ!
この惨めな雑魚アンデッドを……俺が持つべきだった栄光を先に所有していた卑怯者に見せつけてやるのだ!
この俺こそが支配者だということを!」
「ああ……♥ なんと雄々しいのでしょうか♥」
「これが、僕たちの新しい御主人様……♥」
「胸が高鳴っています……♥ その腕に、早く抱かれたいと願っている……♥」
モモンガは、絶望に襲われた。
それも知らずに、アルベドは笑っている。
それは蕩けきった売女の笑みであると同時に、なんとも悪辣な笑みだった。
モモンガはそこで初めて気づいた。
自分たちが『ロールプレイング』と称して作り上げた集団が、どれだけ醜悪なものか。
カルマ値の振り切った強者たちの集団というものが、どれだけ残酷なものか。
自分たちの青春などという言葉で飾り立ててはいたことが、どれだけ卑劣なものか。
自覚していたはずなのに、理解していなかった。
大事なのはナザリックだと感じることで存在していなかった事実に、ようやく気づいた。
「アルベドよ、俺の名を讃えよ……俺は、なんだ!」
「ああ……貴方様は、フィリップ・ディドン・リイル・モチャラス様……♥」
モモンガは犠牲者となることで初めて気づいてしまった。
知識ではなく、実感として。
アルベドの笑みを見て、気づいてしまったのだ。
「この世の主……
ここは、絶望の巣なのだということに。