第1話:始まりの分岐点
「なんだこいつは?」
奈落にて、姿形も心も変わった南雲ハジメの前に現れたのは奇妙な魔物。ファンタジーで出てくるサキュバスにも似たような女人型の魔物。サキュバスだと断定しきれないのは、その顔が完全に悪魔顔なせいだろう。
他の魔物とは風変わりなだけに多少警戒するハジメ。
「キィぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「!!」
金切り声にも似た奇声を発するサキュバスもどき。ハジメは攻撃してくると直感し、一瞬のうちに“ドンナー”を引き抜く。
ーーードパンッ!!
“纏雷”で電磁加速の準備をしつつ、狙いを定め、引き金を引く。そんな動作をこれまた一瞬のうちにやってのける。それはサキュバスもどきの認識を軽く凌駕し、攻撃はおろか、動くことすら許さない。
紅色の雷光はサキュバスもどきの額を穿ち、勝負はハジメの勝利であっさりと決着が着いた。
「…なんだったんだ?」
事なきを得たのはいいが、あまりにもあっさり倒せてしまった。奇妙だと感じた分、拍子抜けしてしまうハジメ。とはいえ、終わったことにいつまでも気を取られているわけにはいかない彼は「まぁいいか」と呟いた後、サキュバスもどきの死骸を回収する。目的はもちろん、喰らう為。
*
しばらくして、適当な場所で野営するハジメ。
今日の戦果を放り出し、“纏雷”で焼いていく。次々と丸焼きにされる魔物達。そこにはあのサキュバスもどきもいる。ハジメは「いただきます」と言うこともなく、肉にかぶりついていく。力をつける代わりに苦痛が伴う食事。しかしハジメは慣れたものだとお構いなしに食していく。
最後はサキュバスもどきの丸焼きだ。それを見た途端、ハジメはサキュバスもどきを倒した時のことを思い出す。
「…そういや、あれ以降こいつと同じやつ出なかったな…」
魔物は各階層のボスを除けば、その階層の中で同じ魔物が何頭もいるはずなのだ。しかし、そのサキュバスはあの一体だけ。それも別にボス級の強さというわけでもない。最初の奇妙だという直感と相まって少し胡乱な眼差しをこんがりと焼けたサキュバスもどきの肉に向けるハジメ。
「…まぁなんにせよ、喰えばわかるか」
魔物を喰えば、その魔物の固有魔法を手に入れられる。喰った後、ステータスプレートを見ればサキュバスもどきが何をしようとしていたのかがわかる。疑問解決の最短ルートを見出したハジメは、いつものように女体型の魔物を喰らった。
ーーーー喰ったな?
そんな声を聞いた気がした。
「ーーーーーっ!!ぐっ…!!がぁぁぁあぁぁぁ!!」
その途端、ハジメはいつもとは少し違う苦痛に襲われた。いつもの肉体が破壊される激痛ではない。例えるなら、身体の中がゆっくりと溶かされていくような鈍く、いやらしい感覚。なにより、体の芯が燃えるように熱い。
のたうち回るよりも身を抱きしめて耐えたくなるような、なにかが込み上げてくる。
「ーーは……やく、水…を……」
急いで“神水”を服用するが、
「……なん……だ…と!?」
“神水”はその反則的な治癒力を発揮しない。
それもその筈、なぜなら元よりハジメは
今、ハジメの身に起きているのは、『破壊』ではなく、『変態』。
生まれてこの方感じたことのない苦痛についに脳が処理しきれなくなったのか、ハジメは意識を失ってしまった。
*
「……クソッ。なんだったんだ…!」
目を覚ました矢先、悪態をつくハジメ。どれだけ眠っていたのか、身体は倦怠感を訴え、実は目も少し霞んでいる。だから、自分の身体がどうなっているのかわからない。
ただ、そんな状況でも一つ違和感に気づいた。
「…あれ?俺の声ってこんな高かったか?」
それに気づいた後の行動は早かった。神水の水溜まりに体を向け、覗き込む。そして、目のかすみが治り、そこに映った“自分に”ハジメは驚愕のあまり石のように固まった。
せっかく伸びた身長は元のそれよりも縮み。
代わりに白い髪が、背中まで伸び。
引き締まった身体は服の上からでもその変化がはっきりとわかるほど細く靱やかに、そして丸みを帯び。
胸元は身長的に十分『実っている』と言えるほど膨らみ。
臀部は引き締まりながらも丸く、大きく、柔らかく。
そしてトドメに前を確認すれば、案の定、男として大切な勲章が剥奪されている。
徐々にハジメの止まった時が動き始める。現状を頭に無理矢理叩き込んで理解していく。そして、呑み込んで……
「ンな………。なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
呑み込めきれなかったらしい。
驚愕のあまり、ハジメは魔物の力を得た時以上に動揺し、絶叫した。
南雲ハジメの身体が完全無欠に女のそれとなっていたのだから。