ブリックスで働く事になって、初日から怪我人はやってきた、打撲、打ち身、骨折まではいかないが、結構忙しい、建物の地下の採掘での怪我人が出るらしい、大変なんだと思ったが、自分はマルコーのような専門の知識はないので助手として言われたことを思い出しただけでやるだけだ。
軍人も大変なんだとしみじみ思っていた矢先のことだった。
「先生、大丈夫ですか」
風邪をひいたみたいだとマスクをするマルコーの姿を見て不安になった、今まで具合が悪くなるのは自分のほうだった、なのに今度は反対だ。
医者の不摂生というやつだと笑うマルコーにジンジャーティー、食事は温かい、消化のよいもの、寝るときは湯たんぽを用意すると、看病されるマルコーを至れり尽くせりねとラストは呆れたように見た。
「まあ、若くはないんだから病気になったり具合が悪くなったりするでしょ」
「そ、それは人間だから、でも、初めてだし、でも大変な病気で、もし何かあったら」
「死ぬこともあるわよね」
(やめてぇぇーっ)
心の中でム○クの叫びをあげたい気分だ、そんな彼女の顔を見ながらラストは、うーんと難しい顔になった。
時計を見ると真夜中近い、部屋に入ってきたラストをマルコーは不思議そうに見た、すると本当に、ただの風邪なんでしょうねと言われ、えっとなった。
「もしかして、風邪じゃないかも、違う病気じゃないかって疑っているし、辛気臭いと言うのを通り越して、葬式に突入してるわよ」
「何だね、それは、美夜のことかね」
「心配しすぎだっていっても、想像力と妄想が変な方向に突っ走ってるのよ、もし、貴方、死んだら」
縁起でもないことを、確かに自分は若くはないが、そこまでと言いかけてラストを見た。
風邪も治りかけているので診療を始めたマルコーだが、その日は朝から雪が降っていた。
「やみそうにないな」
独り言のように呟いてしまう、返事がないのは一人だからだ、決して広くはない診療室だが、広く感じてしまうのが不思議だった。
自分が死んだ後の事など深く考えた、昨日、言われるまではだ、独り身なので誰かが埋めてくれたら、それで終わりだと思っていたのだ。
あれは引きずるわよ、今のうちになんとかした方がいいわよとラストに言われて考えてしまった、自分が死んだ後の事か、考えても仕方のないことなのだが、マルコーは思わずため息をついた。
「治って良かったですね」
「ああ、それにしても心配のしすぎだよ」
診療室の壁には奇妙な、例えるならキメラのような生き物とミミズがのたくったような文字の書かれた絵が貼られていた、彼女に言わすと気休めですからと詳しい事は教えてもらえなかった。
だが、それを初めてスカーが見たときは悪魔の邪教に違いないと言ってはがそうとしたので彼女と喧嘩になりかけたのだ。
「ドクター、少し離れた詰め所で怪我人が出たのですが、よろしければ」
その日の午後、怪我人が出た、それは、ただの平ではなく偉い将校なのか、現場で指揮をとっている人物らしく、スカーも同行するので助手の自分は来なくていいと言われてしまった。
「帰ってきたら熱い紅茶がすぐに飲みたい、寒くて、それどころじゃないだろうからね」
そう言われては無理について行くなんて言えない、はいと頷くしかない。
それは事故だった、突然、地面が揺れてスノーバイクを運転していたスカーはハンドルを取られてしまったのだ、後ろで体しがみついていたマルコーは雪の中に放り出されてしまった。
「んっっ、ここは」
雪の中だと思ったのに、暗いのは地面、地下なのかとマルコーは驚いた、時計を見ると夕食の時間はとっくに、いや、真夜中に近い。
「ス、スカー君っ」
たが、返事はない、周りを見回しても何もないというか、ぽっかりとした空洞になっていた、立ち上がって周りを確認し歩き出そうとしたとき、ボコボコと不思議な音がした、水音だろうかと思ったとき、目の前の地面から何かがぬっと現れた、思わず握りしめた拳に力が籠もった。
地面から顔を出したのは人、いや、女の顔だ、ゆっくりと地面から、それは顔を出した。
「生きておるか」
返事をした後、はっとした、油断させ襲ってくるかもしれないと思ったが、仕掛けてくる気配はない。
「地下の水脈が近い、ここは危険」
地面から上半身を覗かせたのは女は手招きをした。
「おまえさんはホムンクルス、キメラなのか」
相手は軽く首を傾げた、意味が分からないと言いたげに、手招きされて迷ったがマルコーはついて行くことにした、驚いたのは女の下半身は地面の中で、まるで水の中を泳いでいるような動きだ。
「私と一緒にいた男を知らないか、肌の黒い大柄な男なんだが」
思い切って尋ねると相手が振り返った。
「知らぬ、だが、地には落ちていない、と思う」
女の顔を見て、マルコーはおやと思った、この顔をどこかで、いや、こんな人ではない生き物を見たのは初めてだ、ホムンクルスでもキメラでもない、では一体、なんだ。
「どうした」
「いや、似ている気がした、知っている人に」
「私は人間だからな」
えっっ、マルコーは驚いた、すると相手は生きているとき、昔は人だったと続けた。
「ここまでだな、頼む、私を抱き上げてくれるか、外に出たい」
言われて迷ったのは無理もない、だが、ここまで来てと思って決心した、女は両手を伸ばし、マルコーの首にしがみついた、引き抜くようにして女の体を抱き上げる、驚いたことに下半身は魚のように鱗で覆われていた。
そのまま進めと言われてマルコーは歩き出した。
「なあ、似ているというのは、おまえの女か」
「い、いや、そうではない、だが」
慌てて否定する、だが、帰りを待っているのだろうと言われて、そのことには素直に頷いた。
「外に出る前に、これを飲め」
小さな土の茶碗を渡されて中を覗くと水が入っていた、悩んだのは無理はない、ただの水には思えなかった。
「アクア・ウイタ、ルルドの泉、呼び名は色々とある、飲めば長寿、不老不死になるというが」
「賢者の石、まさか」
石はいろいろな形を持っている、鉱物、液体、様々だ、この無色透明の水が。
「賢者の石というのが、何なのかわからんが、不老不死は人の体では無理だと思うぞ、それにな、これを飲んだところで不老不死にはなれん」
確かに、人間の肉体で不老不死というのは簡単な事ではないだろう、では、これを飲む事にどんな意味があるのか、そんな疑問を抱いてしまう、飲めばいいのかと迷ってしまう、だが、ここまできてと思い、迷いながらマルコーは相手を見た。
気がつくとスカーは雪の上で寝ている自分に気づいた、背中にはコートが掛かっていた、マルコーのものだ、慌てて周りを探したが、姿が見えない、トランシーバーは壊れていなかった、急いで人を呼びかけつけてくれた数人の男達と探したが、どこにいるのかわからない。
「お、おい、あれなんだ」
「向かってくるぞ、あれ馬か、馬鹿な、こんな雪の中」
近づいてくるのは獣だ、だか、人が乗っていると一人が叫んだ、駆け寄ろうとしたスカーは驚いた、その生き物は虎だ、だが、全身が真っ赤で額には角がある、キメラなのかと思った時、背中から降りてきたマルコーが、無事だったのかとスカーに声をかけた。
「助かった、本当にありがとう」
マルコーは自分を乗せてきた生き物に声をかけた、すると。
「医療師殿」
男の声が響いた。
「アクア・ウイタの効果は早ければ明日には現れる」
「し、喋る、人の言葉を話せるのか」
「あれが、世の中で一番嫌いなのは泣くことだ、特に女が泣く事を嫌がる、だから飲ませたのだ」
何を言っているのか、だが、マルコーが声をかけようとした瞬間、背中を向けた生き物は駆け出し、あっという間に見えなくなった。
「さ、さあ、帰ろうか」
自分に声をかけ何があったと聞こうとするスカーから慌てて視線を逸らし、マルコーは灯りの見える方へと歩き出した。
久々にハガレンUpです、数日前に前回のラスト部分を少し書き直してました。
次回は少しはラブラブな話を書きたいと思っています。