また、だ、視線を感じて、そちらを見ると目が合ってしまう、慌てて彼女がそらすが、ばればれだ、だが、自分は気づいていないという感じでマルコーは視線をそらした。
まあ、一晩たって顔の傷が治っているのだ、気になるというより不思議なのだろう、いや、実際のところ自分でも鏡を見たときは信じられなかったのだから、周りが驚くのも無理はない。
その日は怪我人もなく、暇を持て余したマルコーは医学書を読もうとして眼鏡をかけようとしたが、ふと思い直して眼鏡を外した。
「先生、眼鏡かけないんですか」
「ああ、それほど読みづらくはないからね、何か、読んであげようか」
だったら、この本をと言われて渡されたのは医学の専門書というわけではではない、だが、それでもびっしりと文字が並んでいるが、これぐらいならとマルコーは読み始めた。
「大丈夫ですか、寒いし、部屋に戻っていてください」
任せてください、あたしがやりますよと専用の大きなスコップで建物の周りの雪をどかす彼女に、いや、大丈夫とマルコーは雪かきを始めた。
暇だからというのもあるが、じっとしていると体がなまってしまいそうなのだ。
「顔だけでなく体も若返ったんじゃないんですか、先生」
その日、夕食をすませた後、紅茶を飲んでいたマルコーは美夜の言葉に内心ぎくりとした、体の調子がいいのは事実だ。
若返ったというのは違うと思うがねと笑ったが、内心はもしかしてと思ってしまう、食事もいつもより多く食べた、シチューだけではない、パン、サラダもだ。
それだけではない、昼間の雪かきもそれほど苦には感じられなかった、昔なら終わったら腰が痛くてとなっただろう、だが、今は、それほどではない、心当たりがあるとすれば。
自分は一体何を飲んだのだろうと思ってしまう、ただのビタミン、栄養剤というものではない、以前より元気になったのだ。
血液、尿、とりあえずは自分で調べられそうなところから初めてみようと思ったのだが。
「おお、元気そうだ」
振り返ると女が笑っていた、自分に手招きをしながら、どうだと聞かれるが、どう返事をすればいいのかとマルコーは迷った。
「以前より元気に、いや、若くなった気さえするんだが」
「それはよかった、抱きあげて、少し歩いてくれ」
言われるまま、マルコーは抱き上げた。
「少し若返えったかの」
女の柔らかい声が耳元をくすぐるような感触に、普通なら内心焦ったりするのだろうが、相手が人間ではないので何故か平気だった。
「我は叶えただけ、紙がなくなっていただろう」
紙、願、意味が分からずマルコーは不思議そうな顔をした。
「あの紙には色々と書かれておった、それも古語で、願掛にしては欲張りすぎだが、仕方ない、扉を開くには十分過ぎる、だから、我が行くことができたのだ」
「もしかして、美夜の描いたお守りの」
「化け物よりも、人が一番、恐ろしい」
キメラやホムンクルスの方が力もある、ある意味、人間より強いのではないか、それを言葉にすると、とんでもないという言葉が返ってきた。
「誠に恐ろしいのは人、それも普通の人間が一番、恐ろしい」
自分の首に両腕を絡ませながら、はははと女は笑った。
「おもしろい、だから飲ませた、どんなことになるのかと思ってな」
何を言っているのか意味が分からない、まるでからかわれているような、不思議な感覚だ。
「我は芝居が好きでな、人だった頃には、よく観に行ったものだ、それも男女の恋物語が、泣いたり、笑ったり、時に気持ちは高揚し楽しくなる、ふふっ、楽しみじゃのう」
何が楽しみなのか、だが、その返事を聞く事はできなかった、目が覚めたからだ。
朝からいい天気だ。
「先生、今日はシーツを洗いましょうか」
部屋に入ってきた彼女の言葉に頷いて、起き上がろうとシーツを剥がそうとしたマルコーだが、思わず体を硬直させた。
(な、何故、こんな状態に)
「あっ、いや、今日でなくてもいいんじゃないか、それより」
何か、この状況をみられないための言い訳をと考えて、紅茶を入れてくれないかとマルコーは声をかけた。
「どうしたんです、先生、慌てたような」
何でもないと首を振り、顔をそらそうとすると、顔、赤いですよと言われて驚いた。
風邪じゃないですよねといいながらベッドに近づく彼女はシーツに手をかけた。
「先生も男の人ですから、生理現象って普通ですよ」
顔から火が出るというのはこういうことをいうのだ。
若いときならともかく、まさかこの年でと思いながら、マルコーはしばらくの間、伏せた顔を上げる事ができなかった。
少しだけ、エロネタです。
先生は大人なので、最初は、こんなものかなあ。