「卵サンドのお代わりは」
マルコーの言葉に二人の女は即答で返事をする。
「頂くわ」
「勿論、お代わりします」
食欲があるのはいいことだと思いながら、マルコーはラストを見た。
「ところでブリックスに帰らなくていいのかね」
軍人達の噂話を聞いただけだがと前置きして、ホムンクルスがと切り出すとラストはわずかに顔を歪めた、人間とホムンクルスの喧嘩など珍しくはない、エンヴィーの性格なら暇つぶしに喧嘩を自分からふっかける事も珍しくはない。
「一度、帰った方がいいかしら」
「気になるなら、あたしが行って来ようか」
その言葉にマルコーだけでなく、ラストも驚いた、何故という顔の二人に街で欲しいものがある、それにクレープをもらったお礼もいっておきたいというのだ。
「三、四日もあればすぐに帰って来れると思うし、駄目ですか、先生」
「別に構わないが、何か足りないものがあるのかね」
「持ってきたつもりが忘れてしまって、茶葉と甘いものが少しなあと」
マルコーは頷いた、だが、一人で帰るのは大変だ。
「スカー君に送ってもらうかね」
返事に一瞬、詰まったが、頼れるのは間違いない、頼みますと返事をしたのだ。
いつもと違うわねと言われてマルコーは何故といいたげ顔つきになった、すぐには意味が分からなかったからだ。
もしかして助手の彼女がいないからと言われて、心配なだけだよと風邪がと呟いた、スカーと共にブリックスを出た彼女だったが、その翌日に風邪をひいてしまったと電話があった。
治るまで帰ってこなくていい、怪我人の数も少ないし、自分一人でも大丈夫だといってから、今日で四日目だ。
静かだなと思ってしまう、窓の外は雪一面の代わり映えしない景色で少し退屈な気持ちさえする、こんな時、彼女がいると、いいタイミングでお茶にしましょうかと声がかかるのだが。
そのときドアが開いた。
「お茶、入れましょうか」
とラストが声をかける、頷こうとした瞬間。
「忙しいなら後からって、いいましょうか、電話」
一瞬、えっとなった。
「あっ、誰だね、出よう」
自分の背中を見て彼女が笑っているなど気づきもしない、受話器を取り、もしもしと声をかける、すると、先生と声がした、今日の午後にはセントラルを出てブリックスに戻るという言葉に、マルコーは駄目だと反対した。
「まだ、声がおかしい、あと一日ぐらい寝ていなさい、助手ならいうことは聞くものだ、それにゆっくりしてきたらいい、いいかね」
「わ、わかりました」
受話器を置いて、ほっと息をつき部屋に戻ると紅茶の香りがした。。
美夜でしょ、どうだったとラストに言われて、マルコーは頷いた。
「早くこっちに帰りたいという」
紅茶に口をつけると燻製の香りがした。
「寒いのは苦手なのに」
「あらあら、それは」
どこか含みのある笑顔、まるで自分は知っているといわんばかりだ。
明日はブリックスへ帰るという時、少し買い物に出てくると言って出掛けた彼女が帰ってきたのは夕方、暗くなりかけた頃だった。
風邪が治りかけだろうと文句をいおうとしたが、はいと手渡された紙袋を見てスカーは無言になった、どうぞといわれて中を覗くと手袋が入っていた、防寒用だ。
「サイズは、どう、小さすぎたりしない、駄目なら明日、店に行って交換してもらうから」
何故、自分にとスカーは女の顔を見た。
「いや、セントラルまで送ってもらったし、手袋なんて消耗品だし、あっても困らないでしょ」
確かに、今、自分が使っているものはぼろぼろだったし、丁度良かったと思いながらはめるとサイズもあっている、正直、この女が自分に、こんなことをするとは驚きだ。
「どうしたの、少しぐらい、診療所でマッサージして小遣い程度には稼いでるのよ」
「いや、意外だと思ってな」
自分は、この男にどんな目で見られているのだろう、礼儀知らずな人間と思われているのだろうか。
「まあ、親戚のお姉さんから貰ったと思って使ってよ」
その言葉にスカーは一瞬、?という顔になった。
「あら、歳はあたしの方が上、でしょ」
てっきり自分の方がと思い、幾つだと聞くとむっとした顔で睨まれた。
「真顔で聞くのね、そういうことを」
まずい事を聞いたのかと思ったが、ふと気になった疑問を口にした。
「マルコーには何か買ったのか」
「んっ、まあ」
ままた今度と言葉を濁すようにくるりと背を向けられた。
(足りなかったのよ、お金)
プレゼントされたの手袋が高級品だとスカーが知るのは、ブリックスに戻った後だった。
ヒロインは寒いのが苦手です。
今回の風邪はすぐに治ったということで。