先生の助手、恋人とか、彼氏はいるんですかね、怪我をして医療室にやってきた軍人の言葉にマルコーは、すぐには言葉が出てこなかった。
「さあ、どうかな、そういった色恋、恋愛の関係の事は、あまり聞いたことがないからな」
「デートとか誘ったら駄目ですかね」
「いや、それは」
自分に聞かれても答えようがないと困った顔をするマルコーだったが、駄目よと即答したのはそばにいたラストだ。
「あなた歳は、まだ三十の手前よね、年下はお断りだから彼女、速攻で断られるわね」
若い軍人は少しショックを受けた顔になるが、ラストは気にする様子もなく手当が終わったら出て行ってと男を追い出した、少し冷たすぎないかと思ったマルコーだったが、彼女は少しも気にする様子も、いや、悪びれることもなくも男ばかりの職場だと女ってだけでモテるのねと肩を竦めた。
少し気落ちしたように年下は駄目ですかという青年の後ろ姿をマルコーは他人事ながら少し可愛そうになってしまった。
「断り方にしても、もう少しだな」
「あら、結果は分かっているなら下手な希望を持たすより、きっぱりはっきり、断った方がいいのよ」
多分、恋愛の何たらをいったところで男の自分に勝ち目はないんだろうとマルコーは、そうかいと頷くしかなかった。
「デートくらいいいんじゃないのかい、相手が年下でも」
その日、夕食の後マルコーはデートくらい構わないのではとミヤに切り出した、すると、本気でいってるんですかと暗い顔つきで自分を見る、思わず自分は大変な地雷を踏んでしまったのかと思ったほどだ。
「助手として少しでも仕事を覚えて、早く役に立ちたいですし、それに以前言いましたよね、不感症って、体だけでなく気持ちもです」
「もしかして、誰かいるのかしら、好きな相手が」
横からラストが援護ならぬ、こちらの心臓を撃ち抜くような台詞をかけてくる、心臓に悪い。
先生の台詞に、隣でラストが笑っている、それこそ、我慢できないといいたげに。
「全然、気づいていないというか、あれだけ自覚がないのも凄いわね」
二人きりになったときラストに思い切り笑われてしまった。
「まあ、仕方ないわね、恋愛、そういうことあまり無縁だったみたいだから、で、どうするの」
「どうするって、何」
このまま助手でいるつもりといわれて悩んでしまった。
「一応、先生の足腰が立たなくなったらというか、介護はしますって、でも、冗談というか、本気にしてないと」
問題は、そういうことじゃないと思うけどと言われて、うーんとなってしまった。
その日、雪かきをしていると手伝おうかと先生がやってきた。
先生、好きですといっても多分、無理だろうなあと思ってしまった歳が離れているとかいって断られそうな気がする、いや、そうなったら玉砕以前に気まずくなってしまうのは目に見えている、もしそうなったら、お先真っ暗だ、やはり、このままずっと助手としていた方がいいのだろうか。
それに、うまくいったとしても不感症だよ、思い出しても正直、ズドンと落ち込んでしまう。
「ああっ、嫌、どうにでもなれいだよ」
雪の中にダイブする、両手足を広げてだ、頭もだけど体も冷える、ああ、こんなにぐだぐだと、しかも恋の悩みなどお釈迦様でもだ、起き上がろうとした時、寒くないのかもねと言われて驚いた。
「せ、先生っ」
「何か、悩みごとかね」
(悩んでいるんです)と心の中で呟いた。
「良かったら話してみないかね、少しはすっきりするんじゃないかね」
「ありがとうございます」
「もしかして恋愛、色恋かね」
「ええっ、ど、どうして(まさか、先生がから、そんな台詞が出てくるとは)」
この時、はっとした、もしかしてラストが援護射撃をしてくれたのかもしれない。
「告白しても振られるのが目に見えているというか」
真面目、そのものだから、告白して振られたらショックだ、先生は何か思うところがあるのか、少し考え込むような表情になった。
「そうだな、確かにイシュヴァール人のムンク、僧侶というのは、真面目で融通がきかないところがあるように思うが」
先生の言葉に、えっ、何言ってるの、今、確か、僧侶、ムンクって、格闘するのは一名だ。
「だが、それは昔の事だ、今は僧侶でも、スカー君も、ああ、見えていがいと」
あのー、ムンク、坊さん、スカー君、もしかして、勘違いしている、いや、見た目以前に、あのいつもむっすりとした無言で怖い目つきで睨まれたら会話なんて成り立たないし。
「相談は、また今度に、ここは外で、寒いし」
それで、結局のところ、話は次回に持ち越したって訳なのね、それは先送りというか、解決にもなってないと思うんだけど、ラストの言葉にマルコーはがっくりとなった、やっぱり、そう思うかねと同意を求めるが、返事よりも、じとーっとした目で見られしまうと言葉が出てこない。
「悩みすぎているから駄目なのよ」
「どうしろと、つまり受け入れろと、年の差とか、大体、周りから見てあわないだろう」
しばらく前から自分の事を保護者という立ち位置ではなく、恋愛感情ありきで見ていると言われて、まさかと思っていたのだ。
悩むって事は答えが出てるんじゃないの、その言葉にマルコーは言葉がでてこない、確かに傍から見れば仲がいい、そういう風に誤解されてもおかしくはないだろう。
あんなところ(朝○ーッ)まで見られてしまったしと思いながら、その日の夕方、休暇を取ってブリックスへ行く事をオリヴィエに告げた。
先生はラストから聞かされて、彼女の恋心に気づいてるということで。
その方が動きやすいかなあと思ったのです。