※この作品はR-18です。

チカラの器   作:ヤン・デ・レェ

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山の中を通り平地を迂回して、ガレリアの集落を目指しています。


山路

北端に何故ファナリスがいるのか?

 

それは簡単な問題だ。

 

ファナリスにも歴史があり、その過程で一部のファナリスたちが大峡谷の西の果てに辿り着き、そこから北端へと渡ったんだろう。

 

その間に姿はヒトに近づけて、より周りの環境に適した形を目指したんだろう。

 

ま、結果はどちらかというと人型の方が捕まえやすい様だがな。

 

歩みを進めるごとに緑が深くなる。

 

山の道ですらないところを通っているのだから暇だ。

 

退屈な時間をずーっと黙ってられるほどにみんなの精神は健全ではない状態にある。

 

少しずつ話し声が立ち始めた。

 

先頭のバルカたち3人は互いのこと、これから向かうガレリアの故郷のことを話した。

 

ガレリア曰く、彼女の故郷は独立した集落の中でも最も大きいらしい。

 

そこの長がいわゆる一帯のファナリス達の代表者の様な存在で、あまり社交性がなく閉鎖的な村落生活が伝統である彼らの中でも有名人らしい。

 

如何にもこうにも、他の集落とはどこも不干渉主義らしく、しかし若者の中では今の奴隷狩りへの敵意が芽生えており、ファナリスという種族の大きな括りで状況を考えている人々が増えている様だ。

 

ガレリアはそんな話を少し息を切らしながら熱心に語っていた。

 

自身がその奴隷になりかけたことは、彼女の中にあった古臭い概念を払拭したのだろう。

 

10人ほどの一行は半刻ほど経つとまた黙って先へ進んだ。

 

足元は不整地だからか、余計に体力を奪われてしまう。

 

怪我人は何処か息苦しそうにしている。

 

山の高さは徐々に、しかし確実に上がってきている。

 

山々はまだその高さを残している。

 

バルカを除いて多くが疲労を感じずにはいられなかった。

 

山に入って暫く経った、夜の暗さは所々に降りかかり始めている。

 

蒼さから黒に周囲の色味が変わっていく。

 

 

やや向こうに灯りがあった。

 

 

⁉︎

 

 

集団の周りを緊張が覆った。

 

すかさずその身を隠す。

 

戦闘になればバルカ1人なら負けることはないが、今は怪我を負った仲間がいる。

 

誰も犠牲にならない安全策を選んだ。

 

木々と茂みに身を隠しつつ、じっと30メートルほど離れたところにある光源を見つめる。

 

 

炭を塗って艶を消したであろう黒い軽鎧。

 

顔を包んだ黒い頭巾。

 

そして、馬。

 

武装した兵士と、馬。

 

 

今現在、アルテーナ共和都市連合に正規の騎馬兵はいない。

 

しかし目の前の十数の兵士たちは明らかに規格化された兵装を纏い、険しい山地に整然と野営を張っている。

 

練度の高さ、装備品の鉄製品の多さ、そして騎馬。

 

導き出されるのは一国、スパルタリア王国。

 

本来であれば、これは領土侵攻と取られるほどの愚行である。

 

隣国の、しかも国境線からは大いに内側へと侵入しているのだから。

 

ここにいるファナリスたちからしたら目の敵だが、今ここで争うべきではない。

 

そう思い周囲に小声で指示を出す。

 

 

ガレリア、仲間を2つに分けろ。

 

片方は怪我人、もう片方は健康な奴らだ。

 

今日はここから離れたところに野宿する。

 

その時の見張りは交代で行う。

 

寝る位置は今言った2組を、怪我人を安全な岩壁とか、後ろから襲われづらい所で寝かせろ。

 

なるべく岩穴なんかを探してそこで眠る。

 

大きな岩穴なら敵が入り込んできても音が反響して、集団ならその音も大きくなるから早めに気づける。

 

 

 

わかった。と静かに返事をして列の後ろの方へと姿勢を低くして向かう。

 

 

ミョルン、一応ではあるが殿、最後尾を俺と一緒にしてほしい。

 

頼めるか?

 

 

当たり前だろッ。ミョルンはそう言ってバルカの体を軽くこずいた。

 

 

 

12人のうち健常な状態なのは6人、そしてバルカも含めて7人。

 

負傷しているのは4人、それと奴隷商人を合わせて5人。

 

隊をわけて傷病者組を3人に護衛につかせて先に行かせる。

 

残りは細く間隔を開けて伸ばした一列で、ゆっくりと例の野営を監視しながら後続する。

 

間違いのない様に慎重に、しかし速やかにそこから移動する。

 

例の騎馬の一隊が、なんの目的でここにいるのかはわからない。

 

しかし、なんの誤りもないままその日を終えることを願った。

 

 

 

10分は進んだだろう。

 

伸びきった列をもとに戻す。

 

最後尾のバルカ達も何事もなく通り過ぎることができた様だ。

 

小さくはあるが夜露を凌ぐのには十分な洞穴を見つけて、そこを寝床に今日は休むことにした。

 

バルカとミョルンが最初の番として入り口に陣取ると、一行は安心し切って微睡んだ。

 

 

 

 

月明かりが最も明るくなるころ、バルカ達が通った道からややそれて、整地されている山道を進む一団あり。

 

綿を詰めた布を蹄に被せて防音した騎馬兵集団である。

 

闇夜に溶け込む為に黒い軽鎧を見に纏った彼らは、夜に敵の目を盗んで行動するようにスパルタリア王国第五代国王オルラッケス1世から命じられた、騎馬隊の中でも選りすぐりの精鋭によって組織された特殊部隊である。

 

隊長はイャーロ。

 

通称はスパルタリアの騎馬執政、叩き上げの元傭兵であり現王第一の家臣。

 

スパルタリア騎馬隊を実際に育て上げたのは彼だと言われている。

 

215cmの巨躯をいかして通常より一回り大きな剣を巧みに操る兵である。

 

彼が率いる兵も同様に強く、現在暗黒大陸でスパルタリアしか有していない貴重な騎兵戦闘のスペシャリスト達である。

 

イャーロを先頭に彼らが向かう先はここ一帯、つまりはスパルタリア王国とアルテーナ共和都市連合に走る縦の国境線の南部一帯の防御の要、アルテーナの誇る五大要塞の一つモラデューク城塞である。

 

彼らの目的は要塞の攻略、アルテーナとの国境線の中でも要塞化に適していると言われる南部を奪取し、そしてその戦勝による国威発揚とアルテーナとの貿易で優越を勝ち取るためである。

 

だが、イャーロは少々の違和感を感じていた。

 

歴戦の勘からかはさておき、野営の準備が整って間も無く、此方を伺う様な視線と強い力を感じたのだ。

 

その力を発するものはこの山の中腹より上は上へと登って行った。

 

ここへ来る途中にイャーロも見たあの洞穴の辺りだ。

 

気にはなるし異様であったが、今は任務を優先することにしたイャーロは、分散させていた各隊を一斉に進軍させる命令を副官へと下した。

 

野営を片し、着々と進む行軍準備と各方角から示される合図の中、イャーロは違和感を心にしまい愛馬に跨った。

 

 

 

だが、この時イャーロは第三勢力となりうる存在への違和感を見逃したことが後々に致命傷を与えることを知らない。

 

 

 

 

 

翌日、南部国境の中点、端切山脈の山頂付近にあるモラデューク城塞の駐屯軍は突如現れた黒い騎馬兵団との野外戦に敗れて籠城、包囲される。

 

信じがたい報せを受けて連合議会は急遽1万近くの軍を組織して南部へと向かわせた。

 

翌日、イャーロ軍全体の半数に当たる、進軍を命じられた別働隊と思われる黒尽くめの騎兵隊と駆けつけた1万のアルテーナ軍が接敵。

 

当日の夜に夜襲を受け、アルテーナ軍1万は三千の兵を失い後退、続いて翌日の朝に平地での会戦にも敗北し、その数を五千以下に減らした。

 

これから約二日間、両方面で小競り合いが続いた。

 

モラデューク包囲は三日目に入り、別働隊の進軍も二日目に入った。

 

監視所と村落が襲われる中、黒い騎馬隊出現から四日目に大きな動きがあった。

 

連合議会が更に1万の兵をモルデュークへと向かわせたのだ。

 

このことは他の国境線を手薄にし、スパルタリアの進軍を援けることになる。

 

二日後、スパルタリア王国がアルテーナ共和都市連合に突如宣戦布告、と同時に進軍を開始した。

 

進軍開始地点はモルデューク城塞の北、切れ端山脈の北端の関所だ。

 

連合都市は正規軍の実に5割に相当する2万の兵を南部に向かわせており、北部に残った半数の正規軍の前には、今までにないほどの巨大な軍勢が現れた。

 

スパルタリア軍の総勢は5万3千、総指揮官は国王オルラッケス1世。

 

対するアルテーナ北部軍の総勢は2万1千、総指揮官は時の権力者ユリウス・アルテナス。

 

後にスパルタリアの零落と呼ばれる第一次カタルゴ戦争が遂に始まった。

 

 




こんなもんかな。
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