※この作品はR-18です。

チカラの器   作:ヤン・デ・レェ

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だいぶ間が空いてしまった。
あ、遅くなりましたが注意です。主人公の設定とかはあんまり参考にしなくていいです。


帰還と宣言

身を寄せ合って夜露を凌ぎ、日の出とともに洞穴を後にした。

 

昨日の謎の兵士達を目にしたからか、まだ見ぬ脅威への警戒は緩まず、蓄積している疲れも重なり皆無言でまゆみ続けた。

 

道中はただただ風の音と野鳥の囀りばかりが耳に届いた。

 

進み続けること3時間、山を抜けた。

 

1時間ほど前から鬱蒼とした山の緑が視界の端々から徐々に削がれていたのを思い出した。

 

周囲の木の幹は細く低木ばかりになり、草木の向こうに平らな焦げ茶色の大地が見えた。

 

それはファナリス達の苦難を癒せるほどに豊かな魅力を放ってはいなかったものの、不安感を煽る背後の謎の存在から意識を避けられるという意味では、潰えかけた竈門に数本の薪をくべるくらいには力を持っていたようだ。

 

すっかり緩やかになってきていた高地の傾斜の残りを滑り落ちるように進んだバルカ一行は、ついに目的地を遠望する平地へと足をつけた。

 

遠くに見えるのは目的の集落だった。

 

円形の集落はその周囲を簡素だが丈夫そうな木製の柵で覆っていた。

 

さらに正面と思しき所には4メートルには及びそうな大きな両開きの木の門がある。

 

所々に高く組まれた木の台のようなものも作られており、こちらに気づいたのもその上に上がっていた者が最初だろう。

 

隣にいるガレリアが"前までなかったのに"と漏らした。

 

ガレリアすら初めて見る集落の姿からは威圧感が滲んでおり、後ろから息を飲む音が聞こえた。

 

ただ、比較的大きさを感じる規模を誇るそれは、疲れ切っていた一行にとって頼もしさと達成感をも覚えさせた。

 

足早に進もうとする者達を、その身で遮りバルカが言った。

 

自分たちがあくまで部外者であること。

 

唯一この集落に繋がりを持つガレリアに詳細を説明してもらうべきであること。

 

この二つを説明し、一列で進んできていた一行を三列に縮めると、ガレリアを先頭にして自身はその傍についた。

 

急ぐ様子を見せないように、要らぬ誤解を招かぬように気をつけながら集落へと歩み始めた。

 

集落へと進む赤髪の集団に気づいたらしく、向こうが騒がしくなってきた。

 

木材を組み合わせ造られた門の前に来ると声がはっきりと聞こえた。

 

「ガレリア!よかった!無事だったのか⁉︎」

 

「門を開けろー!!」

 

そんな声が異口同音に響いていたが、開門を支持する一際張りのある声が響いたことで声は静まり、門がゆっくりと開いた。

 

髭面の男、若く逞しい若者、女、子供、老人。

 

周りを囲まれてしまった。

 

警戒は感じられるがまちまちであり、奇異と喜びや安堵の感情の方が強い様だ。

 

人の輪に包まれた方も包んだ方も両者ともに動かことがまるでできない様に静かだった。

 

人混みの中をかき分けて出てきたのは赤い髪を長く伸ばした髭面の男だ。

 

一際立派な肉体をもつその男が一歩踏み出す前にバルカとガレリアが一歩近づいて見せた。

 

緊張もあるが、目の前の男にはバルカは見えていない様にガレリアへとその視線を縫い付けていた。

 

「おかえり。ッ本当によかった。」

 

「…ただいま。父さんも元気そうで何よりだ。」

 

するりと言葉が交わされた。

 

そこに抵抗は無く気づけば彼らはひっしと互いをその腕の中に収めて離すまいと肩を震わせていた。

 

徐々に周囲からはすすり泣く声が漏れていった。

 

彼らの涙は喜びと安堵に満ちていた。

 

無言で数分の間そうしていると、ガレリアと彼女の父親だろう男はお互いの肩に埋めていた顔を上げて周囲を一度見回した。

 

二人の目元が大地の向こうに見える大きな大きな沈みかけの眩い日の光を受けてきらりと光っていた。

 

安堵の高揚は部外者への警戒を解く方向にも強める方向にも動きうる。

 

バルカはこの時上手く先手を打ったと言っていい。

 

彼はガレリアへと彼女の集落から歓迎されるためにしてもらいたいことを前もって伝えていた。

 

大きく二つの事柄は単純である、彼女の身にこれまで起きたこと、そしてバルカの実績である。

 

初対面の際に受けた第一印象というのは強烈である。

 

万人が駄作と言う映画でも、人生でその人が最初に見た映画がそれであれば、それは彼や彼女にとって最良の映画となりうるのだ。

 

多くの社会において意味即ち価値とはその存在の本質に依存しない。

 

生産と消費、受領と供給の構図にある限り、ある社会や集団の内で有効な意味即ち価値というものは受け取る側が決める物だと言える。

 

この宇宙でバルカを知るものはそれこそ、彼に救われたガレリアやミョルン達ファナリス一行と彼によって商品を強奪された奴隷商人の一団のみである。

 

ましてや後者に至っては殆どが彼によってもはや命は無く、悪評を広めようもない。

 

今彼の持つ評価は過去現在を通してガレリアやミョルン達ファナリスによる被救済者側の命の恩人という評価のみであり、それは彼らにとって彼の存在が未だ完全なる正義であるという証明でもあった。

 

ガレリアは自身の父親にことのあらましを伝えようとしたが、それより先にバルカの周囲の若いファナリスたちが彼に突っかかっていった。

 

彼らにとって赤い髪ではない者とは部外者であり、部外者とは家族を拐い二度と返さない悪魔の類に相違なかった。

 

「部外者は出て行け!」

 

「ここから立ち去れ!」

 

「お前は何者だ!」

 

「連れて行った仲間はどこだ!」

 

「これまで連れて行かれた仲間は何処にいる!」

 

「彼女のこともお前が拐ったのか!」

 

事情がわからず頭ごなしの罵倒には届かずとも不満不安不信の横溢が目の前に広がっていた。

 

暴力に訴えてはいないものの、彼らにとってバルカの存在は勇敢なガレリアに捕らえられた部外者の類に見られていた様だ。

 

背が最も高く若いファナリスよりも頭二つほど大きなバルカは彼らをじっと見ていた。

 

特に何を言うこともなく彼女を、ガレリアを待った。

 

今自分が何かを言ったとしても悪い刺激にしかならないと考えたためだ。

 

「いい加減にしろ!!」

 

バルカを囲んでいた者達が一様に肩をびくりと震わせるほどの大きな声が響いた。

 

怒髪天を衝くとはこのことだ。

 

我に帰った様に若者達は周囲を見渡す。

 

ガレリアは元より、先ほどから集落のファナリス達に介抱されていたバルカに助けられたミョルンをはじめとした奴隷の鎖から解かれた彼女たちからも強く非難する視線が刺さった。

 

顔を青くした彼らはすごすごと周囲の人混みの中に紛れてしまった。

 

ガレリアはゆったりと輪の中心へ、バルカのもとへ向かい彼の傍に寄り添った。

 

人々は彼女が何をするのか、今度こそ何が彼女に起きたのかその納得を得ようと注目し始めた。

 

彼女は何も言わない。

 

注目されるのを待ち、悠々と立ったまま。

 

先ほどの若者達も目を向けていく。

 

注目は最高潮に至った。

 

スゥ…

 

彼女はゆったりと深く息を吸い込み一歩前へ進み出た。

 

「私達はみな人間の商人によって捕らえられ、奴隷として酷使される間際でこの男に救われた!!」

 

驚きの波紋が広がり、人々はこぞってガレリア以外の一行の顔を見る。

 

ミョルン達は肯くばかりだ。

 

さらなる説明を!そんな勢いを纏って衆人の視線はまたガレリアに固定された。

 

ガレリアは不敵な笑みを浮かべると、先ほどの大音響さえも霞むほど声を張り上げた。

 

「周囲を武装した悪漢に固められ、水も十分に飲むことができなかった苦痛ばかりの旅路を終わらせてくれたのは彼だ。彼の獅子奮迅の活躍によって私たちは自由と尊厳を取り戻すことができたんだ!それだけじゃない!彼は私たちを一人として欠けることなく此処へ送り届けてくれた。私達の集落へ!」

 

「彼は初めて会ったその時から一度として私たちの誰のことも蔑ろにしなかった。見ず知らずの私たちのことを、常に先頭に立ちどんな脅威をも跳ね除けて守ってくれた!だから私たちは一人として欠けずに此処に辿り着けたんだ!」

 

一息に言い切ったガレリアの後に続いて歓声が響く。

 

観衆は最早、正に絵に描いたような英雄の存在に疑いを持っていない。

 

周囲は何時の間にか英雄の凱旋を喜ぶ観衆の如き興奮に満ち溢れていた。

 

歓声が聞こえる。

 

意味などない言葉や叫びがこだまする周囲を鎮めるようにガレリアは手で正面に横一文字を引いた。

 

興奮に浮かれた人々はさらなる英雄譚を求めて聞き耳を立てた。

 

「彼と共に此処へと着くまでの数日間、私たちは大切なことを彼から教えてもらった。それは私達に決定的に足りないことだ。」

 

一度言葉を切ったガレリアは、バルカを自分と並び立たせた。

 

人々の期待はより高まった。

 

「彼は言った。私達の安穏を乱す敵がいることを。自分はその敵を討ち、世界を真の平穏へと導くために来たのだと。」

 

「私は奴隷になりかけた身だ。私の命と尊厳を守り、魔の手から解き放ってくれたのはほかでもない彼であり、私は彼に返しきれない恩がある。彼は私達に教えてくれた、これまで私達がどうして奴隷にされるのを恐れて暮らさなければならなかったのか。どうして私達の同胞の生活や幸福が踏みにじられなければならなかったのか。彼は教えてくれた、私達は抗うことをしてこなかったのだと。いや、くだらない伝統や習慣に縛られたり、一族の繁栄というちっぽけな欲に足を引っ張られていたのだと。」

 

「私は彼に変わってはっきりと宣言しよう。彼は、彼こそが救世主であると!彼は私たちをこの現状から救うに足る人物だと!」

 

「彼は私達に勇気と結束をもたらしてくれる。彼は決して私たちを騙そうとする敵なんかじゃない!今までただじわりじわりと奪われていくことしかしてこなかった私達が未来を切り開き、子孫へと民族の繁栄を継承していくための第一歩なんだ!彼は私たちと共に戦ってくれる!彼の背中を追い、我々の怒りを解き放ち勝利を掴むのだ!」

 

熱量は徐々に徐々に上昇を続けた。

 

先ほどまで懐古的に周囲の反応を観察していたガレリアの親族達一族の重鎮も多くが雄叫びを上げて黒髪の救世主誕生への熱狂に身を委ねていた。

 

観衆の興奮は耐えがたいほどに膨張していた。

 

ガレリアの壮大かつ抽象的で極めて剛毅な大演説は、ファナリスという民族が生まれながらにして抱いていた戦闘民族としての本能と誇りを大いに刺激し、彼らの興奮と戦意の高揚を促し興奮にとどめを刺した。

 

ぽっとでの怪しい救世主へと此処まで熱狂できるのはガレリアの功績である。

 

彼女はこの集落出身であり、他の集落とは基本的に交流しないという一族の伝統へと疑問を投げかけるような柔軟な思考の持ち主であった。

 

そのため彼女は長らく続いていた人間により一族が奴隷狩りの被害にあっていることに対しての調査と対抗策を講じることを求めたのだが、沸きらない長老連中によって一向に進展はなく結局彼女もその被害に遭うこととなった。

 

このことは次期首長としての期待以上に彼女への人気と信頼を高めることとなり、彼女が被害にあったことによって本格的に対抗策が練られることとなった。

 

若い衆からの支持は極めて厚く、彼女の叱責一つで先ほどの騒ぎがおさまったのもこのためである。

 

彼女の帰還はその矢先であり、そのことをガレリア本人は知らなかったが、彼女の積み重ねてきたことは此処に際して大きな威力を持ち、彼女の支持者を火付け役として黒髪の救世主誕生への熱狂をもたらすこととなった。

 

 

バルカを歓迎するムードが着々と整えられる中で喜色満面の人混みをかき分けて、屈強な男数人がバルカの前へと歩み出たのだ。

 




読むときに主人公の見た目とかが特定されてると、なんというか自分視点で読めないよね。僕はあんまりそういうの得意じゃなくて、やっぱり自分だったら…って思ってしまうからね。
主人公の設定は髪が黒い、大柄、くらいにします。
*優男ではない。
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