やっと主人公がジンという設定を出せた。
ほんのちょっとだけどね。
進み出た数人の屈強な男達。
バルカより一回りばかり小さいが、横幅は寧ろ上回るほどの頑強さと分厚さを誇っている。
ここでバルカは一つのことに気付いた。
軽く周囲を見渡しても、若い衆も成人も皆体に荒い仕上げの胴鎧を纏っているのだ。
分厚い動物の革でできたものや、鹵獲品なのか交易品なのか真新しい青銅の鎧や使い古された鉄製の鎧に見えるものなど種々多様であるが、統一して鎧を紅く着色しているのが目を引く。
当初はあまり心地の良くない歓迎への警戒のあまり見落としていたのだろう。
彼らは自分たちが入る前から何らかの目的があり準備のために武装していたのではないか、そう思って隣のガレリアと少々離れたところで群衆からバルカについて聞かれているミョルンに対して目配せした。
彼女達も異変には気付いていたようでコクリと頷くと周りから聞き出すために動き始めたのだが、バルカが動こうとするとそれを遮る者があった。
「待てよ…俺たちはまだ心から納得してねぇぞ。」
「オメェよ…救世主だか何だか知らないが、本当に強いのか?なぁにお前が敵じゃないと証明しろとは言わねぇ。」
「そうだとも。俺たちにとってガレリア様は命に変えても守らなきゃなんねぇ存在なんだ、そんな方を救ってくださったアンタが敵か味方かなんて聞くのは野暮ってもんだからな。」
「ただ…アンタが本当に俺たちと一緒に戦ってくれるってんなら少しでも疑念を俺たちがもたねぇように証明して欲しいんだ…俺たちは元々戦闘民族って人間に呼ばれるくらいには猛々しいもんでな。」
いつの間にか周囲には先ほどよりも二回りも大きな人の輪が出来ていた。
人々の興奮と注目は黒髪の救世主とやらに注がれている。
「さっきから何にも喋らねーし、動かねーし。お前が本当に俺たちの救世主だってんならよ、俺たちを率いるだけの腕っ節がなきゃ何ねぇよな。」
「あぁ。だからよ、是非とも俺たちを相手にアンタのチカラってものを示して見せてくれよ。」
その言葉を最後に若いファナリス達は獣のような格好の臨戦態勢に入った。
バルカは無言で仁王立ちするに留まったが、明らかに纏う空気が変わっていた。
誰かが生唾を飲み込む音すらも聞こえるほどの緊張と静寂がその場にいる全ての人々を襲う。
ヴァっッあぁぁぁ!!!
6人の若いファナリスは一斉に雄叫びをあげたかと思えば、6人同時の蹴りを放った。
ヒュ ボッ!!!!
全力。
常人は愚か人間の達人にすら不可能の域へと達する成人したファナリスの本気の蹴りが凡ゆる方向から炸裂した。
骨肉が裂け、粉々に砕け散り無残な屍を野に晒すことになると誰もが思うほどの人を超越した速度と破壊力を前に、観衆は悲鳴とも完成ともからぬ声を上げて結果を待った。
野に伏せていたのは若い6人のファナリス達であった。
何が起こったのかわからないと言った表情をした者、反応の前に意識が刈り取られたのか気絶してぴくりとも動かない者、溜め込んでいた息を一思いに吐いては目を白黒させる者。
意味がわからないと言った様子なのは観衆も同じであった。
彼らが見たものはおよそ人間ではない、正に超人、或いは神話の中の魔人やジンを想起させるほどであった。
彼らが見たものとは何か?
蹴りが炸裂した。
死が目の前まで迫り来る中でバルカはあくまで冷静であった。
神速とも言える速度は強烈な風圧と砂埃を生んだが、ファナリス達からは自分の姿がよく見えるようで悲鳴や息を飲む声が聞こえる。
よそ見をするのは流石にいけない、そう思い最も右から振り抜かれた健脚を一つ握りしめた。
ギョッとした若く屈強なファナリスと目が合った。
すまんな。
そんなことを心のうちで謝罪し一思いに左側の5人の一切を薙いだ。
のしり、そんな効果音がつきそうなほど本人からしたら重みのある薙ぎだったのだろうが、観衆からしたらビォッッ‼︎‼︎という恐ろしい風圧と共に繰り出される人体を用いての新手の斬撃である。
脚掴まれたファナリスは鼻血を出して真っ先にダウンし、彼の右隣つまりは2番目の被害者は足払いの要領で蹴りを繰り出した際の態勢が災いして頭に、気絶した彼の胴体が直撃し脳震盪を起こしたのち気絶した。
3人目の被害者は気絶した2人目の体が飛んできてもらい気絶、4人目は左の2人がダウンして道が開けてしまい脚を握られている彼の頭と頭がゴッツンコして即気絶した。
5人目は4人目が崩れ落ちたのに反応して受け身を取ったのだが、脚を掴まれている彼という名の人体ツヴァイヘンダーの頭が胴体にめり込み撃沈、泡を拭いて倒れた。
最後の6人目は敢えて攻撃を振り抜かんとしたが、あと一歩というところで5人目が撃沈した瞬間にバルカが脚を離した例の彼が高速で飛んできて衝突、轟沈した。
沈み込んだ6人の勇者を目の当たりにして、観衆は心配そっちのけで称賛と大歓声をバルカに送った。
事情を聞き終えて群衆に紛れ込んだミョルンやガレリアが声を張り上げて彼の名を叫んだ。
救世主バルカ!!
救世主バルカ!!!
救世主バルカ!!!!!
周囲は徐々にバルカコールで埋め尽くされ、人々は確信を深めた。
特に、ガレリアへの支持が厚い若い衆からの熱烈な叫び声は老若男女問わずに人々の背を押した。
バルカは勝利を誇り腕を掲げようとして、やめた。
「私とも手合わせしてくれんかね。」
その声が響くと周囲はしんと静まりかえった。
「私はガレードナ。貴君が救い出してくれたガレリアの父であり、この集落の長でもある。いうのが遅くなったが娘を救ってくれたこと、ありがとう。」
髭を蓄え、武骨な剣を携えた漢が手合わせを申し出たのだ。
彼は先ほどガレリアと抱き合っていた男。
「と、父さん!もういいじゃないか。集落では指折りの実力者6人がかりでも勝って見せたんだよ!彼と一緒に戦うべきなんだ。もう何もせずに傍観していられないんだ!彼らだって、本当はみんなの背を押すために、彼の力を、私を信じて戦いを挑んだんだ!」
ガレリアを支持する若いファナリス達は、黒髪の救世主に光を見たガレリアを信じて共に戦うことを決意し、一族の協力を取り付けるために必敗の勝負に臨んだ。
結果は功を奏したが、集落の長たる彼はどこが納得できないというのか。
ガレリアは外部への不干渉主義を貫こうとする父親を含む長老連中への怒りを爆発させんとしていた。
距離を父親と詰めようとするガレリアのことを、バルカが駆け寄り手を広げ遮った。
「ガレリア、待ってくれ。長との手合わせとやらで勝利を収めることが俺という存在の証明ならば喜んで引き受けよう。ただ、俺が勝った暁には悪習を捨ててもらう。勝利への犠牲は我々を囲う腐った枠とする。」
ここで初めてバルカが声を発した。
溌剌としてよく通る彼の声は人々の鼓膜に深い印象を与えると共に、この勝負へと意識を向けさせた。
「…それで構わんよ。貴君がいかに強大な力を持っているのかは先のひと薙でよく理解している。これは私の勝手なケジメのようなものだ。」
バルカはガレリアの元を離れると人の輪の中央に戻り、2人は向かい合った。
「だがッ!「こちらこそ構わんよ!俺という存在が世界に何をもたらすのか知るための第一歩だからな。」
「ガレリア、心配はいらん。娘の恩人の命を奪うなど言語道断だ。お前の父がそんな愚行を犯そうか。正々堂々と彼の胸を借りるだけだ!ッ行くぞ!!!」
ガレリアが更に何かを言おうとする間を与えずに、ガレードナは駆け出した。
先ほどの若いファナリスの勢いに任せた攻撃とは全く異なる歳を重ね磨き抜かれたその脚技と、ファナリスには珍しい剣を用いた特異な攻撃は隙がなく、剣同様に武骨な印象を受ける。
初めの1分ほどは超近距離でのガレードナによる一方的な攻撃だった。
防戦すらせずに淡々と攻撃を捌くバルカを前に冷や汗を垂らすガレードナはしかし攻撃の手を止めなかった。
斬撃の次に豪脚が襲う、隙間なく突きつけられる攻撃を交わしつつも攻撃を繰り出さないバルカはついに距離を取った。
先ほどのファナリスとは格が違うと理解したバルカはその肉体から自らの獲物である長剣を引き摺り出すと構えもほどほどにガレードナと刃を合わせ始めた。
合を重ねるごとに高速化する双方の剣技は周囲に火花を散らし、人々はその美しさに見惚れた。
ガレードナは189cm、バルカは200〜cmである。
バルカとの剣戟は急激に加速し、ガレードナの限界と共に彼の剣が上空に弾かれた。
甲高い金属音の後大地に突き立てられた刃に映るガレードナの表情は案外にもスッキリとしていた。
「…勝負、ありだな。」
「ああ。私の負けだ。…なる程、確かに貴君が味方であれば心強いな。」
「あぁ、後悔はさせんよ。最後に、どうせだから信じるに値するチカラというものをご覧に入れよう。」
バルカは自身の剣の刃に指を軽く触れさせた。
「俺が救世主なのか否かは諸君が決めたまえ。ただ、俺のチカラに率いられ栄光と勝利を求める者は俺に従うがいい!!」
バルカは指を刃の上で滑らせ、血を流してみせた。
瞬間人々の前に眩き白熱の巨体が現出した。
煌々と耀く30m以上はあろうかという神々しきジンの如き巨人の出現は、神秘がその意存在を反映させていた古代において莫大な威力を発揮した。
神秘渦巻くこの光景を前に、先ほどまでの出来事の一切を忘却してみせた様に、人々は赤子から老人に至るまで地に伏して目の前の神聖なる存在への畏敬と恭順を示し始めた。
ミョルンとガレリアをはじめとする最初のファナリス達は、自分たちを救い出したかの存在への驚愕と更なる信頼と忠誠を芽生えさせていた。
此処にファナリスの大いなる統率者が生まれたのであった。
次回から参戦かな。