少しずつ進めていきます。
雷鳴
勝利。
勝利であった。
後にカタルゴと呼ばれる大陸北部で生起した古代文明開花以来の一大決戦は、スパルタリアの軍人王である簒奪者オルラッケスがスパルタリア=アルテーナ間では最大規模の国境"大北境"及び、その南部一帯を制して幕を閉じた。
すでにアルテーナの北部深くに突き刺さったスパルタリア本軍を止められる者はなかった。
進撃の都度、スパルタリアの版図は広がり続けるであろうことは誰も、敵でさえ疑わない。
戦争の王とまで讃えられるオルラッケスはしかし、どこか違和感を感じていた。
それは極めて原始的、そして無根拠な直感である。
ーーーーー
3日間の準備期間でバルカはその生涯で初めてでありながらも十分な成果を残したと言える。
ガレリアに集落の特に兵站の為の進軍経路設定、各種物資を村落内からかき集める作業の指揮を任せた。
これはガレリアの勤勉さも相まって円滑に進んだと言える。
全体としてバルカ率いるファナリスの軍団は戦士が50名、非戦闘員が30名である。
物資は少量を各自が携帯した上で、非戦闘員によって運搬される手筈だ。
順調に収集は運び、内容物も集落内または近辺での入手が可能であることを前提としたため、他勢力への秘匿は完璧であった。
また、運搬する物資の総量は出発前にバルカによって試算されており、それに基づきかき集められた主だった各種物品は以下の通りとなった。
糧食:80人分×30日分(1日1人あたり干し肉300g穀類を焼いた堅パン30g×5切)+αで現地調達
*1日当たり全軍で24kgの干し肉と12kgの堅パンを消費。決戦前日は2倍まで捻出するので総量は約五割り増し。
*水は天然の泉と川に沿っての進軍なので逐次入手可能。
・各種燃料:油50Lほど(この際に"燃える水"が湧く泉を近隣に発見。これも油に含む。)
・被服:包帯相当の布20cm幅を10m×10
・武具:刀剣50〜60(これらは精錬技術が未熟なためほとんど使い物にならない粗悪品)
・防具:脛当て(全員分所有。革が主流。局所を青銅などの金属で覆ったものも有る。これは主に指揮官級の人物がマントなどと並して装備する。)、マント(毛皮などの厚手のもの。丈夫。個人所有が多いが上等なものは指揮官が装備。)
*ファナリスにとっては脚力の重視と物資不足から胴体の防御は毛皮を重ねている程度。
*その強力な脚力のによる蹴りが破壊力そのもので有る為、実質的な武具は脛当てである。
また、形ばかりではあるが練兵をミョルンに一任させた。
常識的には、狩りなどの実戦経験豊富である村落の戦士を教官として選出するのだが、この場合は極めて短期間に高い精度を求められる為、寧ろミョルンによる単純な指示かつ単調な身体能力の強化を目的とした訓練による作業的な練兵が考慮された。
ミョルンはガレリアとは対照的な荒っぽさと快活さを持ち、偏見や複雑さを嫌う。
常識に欠く面がある一方で、博識ではない分選択肢や指示が枝分かれせず簡潔であり決断力に富んでいた。
また、まだ重大にも関わらず極めて高い戦闘力と、自然と身につけた効率的な独自の格闘センスを持ち合わせていた。
決断力、簡潔な指示、そして性別問わず圧倒してみせる単純な武力。
これらは一種のカリスマ性となって若い戦士たちの、特に熟慮を臆病と捉えやすく勢いに身を任せる傾向が強い猪突猛進型の熱心な実力至上主義的な青年層から支持を受け易いとバルカは予測した上で彼女に教官を任せた。
結果は上々、バルカが帰還後出陣する際に行った事前視察では、単純な指示への反応速度は極めて高い段階にあった。
生傷だらけで爛々と目を光らせた戦士達の士気は極めて高く、教官として彼らを鍛え抜いたミョルンのカリスマが開花していたことを示していた。
バルカはこの3日間で大いに成果を残した。
言わば営業である。
ガレードナと共に周辺の集落を訪れては、各集落でガレリアの故郷でのデモンストレーションと同じことをしては大義を宣言、協力を求めた。
閉鎖的、非干渉的なファナリスの社会においてら珍しく、広く名士で知られるガレードナという戦士が恭しくバルカに従う様は、大義の正当性と説得力を持たせたのみならず、以前から燻っていたスパルタリアとアルテーナによるファナリス民族と文化の圧迫感への反抗心に火をつけた。
最終的には大中小合わせて十以上の集落の賛同と戦士250人、非戦闘員300人を戦力として得ることに成功する。
北は大北境の南10キロメートルの山中、南は大峡谷から北に50キロ、元の集落からは100キロ近く離れた集落まで、切れ端山脈の東とアルテーナの西部領域に挟まれた細長い南北の領域に点在しているファナリスの共同体が暫定的に誕生したのである。
東カタルゴのほぼ全て(スパルタリアは西カタルゴにまで及んでおり、スパルタリア側の集落とは非接触)の集落が賛同したこの事実は、長年の間ファナリス達が溜め込んでいた不満の公への、古代の国際世界への最初の発露であった。
1日の猶予を残して目的である戦力増強を成功させたバルカは、北端の大北境以南10キロの集落へと向かった。
彼の目的は何か?
ガレードナや、2日の間に増えた者たち。
バルカの思想に共鳴し、彼に忠義を誓った同行者たちは名士ガレードナに問うた。
ガレードナは一言、"戦が呼ぶのだ"とだけ言い、その後は何も言わずに追従した。
カタルゴの広範な大陸では移動速度が速いことは極めて重要である。
故に、戦場で本格的に精鋭騎馬を実用化したオルラッケスは極めて有能である。
が、この大陸で最も鋭く、疾い存在はファナリスである。
これは遥か後にバルカ一族によってこの大陸の全容が完全に解明された後でも変わらなかった。
恐ろしいまでに強力無比な脚力は、圧倒的速度と驚異的持久力とを持ち合わせる。
如何に雄大な大地をも踏破し尽くしてしまうその潜在能力は、高度に知的な思想への共鳴、もとより信念や熱意によって更なる高みに押し上げられるのだ。
彼らは生まれながらの戦士であり、獣の如き闘争本能と、古来の弱肉強食に生きる中で育まれたチカラへのリスペクトと原始的忠誠を甚だしく有していた。
この日、正しくバルカは過去現在未来において最高最強の盾と矛を得た。
ーーーーー
バルカがたどり着いた先は殺し合いの真っ最中であった。
画面越しに見つめるような、今まで自分が経験してきた幾億年の闘争の歴史を、その全てを一瞬で再体験させられたような熱量が体に迸った。
千切れ飛ぶ首、腕、足、指、耳、鼻、目玉、臓物。
匂うのは糞尿と血と汗と涙、そして死。
吹き荒れる暴力と殺刃の嵐が吹き荒れる。
大北境の会戦。
その場にバルカは居合わせることに成功した。
バルカは骨の髄までチカラそのものである。
故に理解した、この日この時この戦を見て、知り、考え、探し、創り出すことでのみ全容すらわからぬ巨的との戦いに勝利を見出せるのだと。
そう、理解した。
コンマ遅れてやってきたガレードナ達は、バルカの変化に気づいた。
彼の体が一回り大きくなったように感じられるのだ。
威風堂々、泰然自若。
圧倒的存在感を放つバルカに目を奪われつつも、彼の見つめるその先と目をすすめた。
目の前の光景に一同は衝撃を受けた。
自分たちの知らぬ世界であった。
荒れ狂う血の海で人が溺れているのだ。
しかも、素人目に見てもわかるほどに一方的である。
黒い旗を掲げた軍の兵士が、赤い旗を掲げた軍の兵士を只管に殺しているのだ。
一際目立つのは幾つかの、頭ひとつ突出している部隊だ。
その全てが同じ戦法をとっている。
敗走している若い兵士たちを、体格も良く、戦い慣れしている様子の周囲に比べても特に上等な鎧兜を着ている屈強な兵士たちが淡々と殺していくのだ。
弱卒を狙う効率性と感情を挟まない合理的軍事行動を行えるのは、極めて高度な統率力をもつリーダーの存在が必要不可欠だ。
ジッとバルカは見つめていた。
5人ほどの有能な敵将を、そして彼らを束ねる危険な指導者を。
そして彼が描き始めているのは集落帰還後の更に後の城塞奪取後、この戦争の幕引きを飾る大勝利への戦略である。
テンポ良くサクサク行きたい。