※この作品はR-18です。

黒ティルと僕と   作:やす、

153 / 201
リルティルと僕と

いつも起きる時間よりもずっと早くに私は目を覚ましていた。身体を起こし少しだけ夢に微睡んだ後立ち上がり昨日選んだ服をクローゼットから取り出していた。

 

 

ユグドラシルを切断したあの日からすっかり縮んでしまった私の身長に似合う服はお世辞にも可愛い服では無くどうしても可愛らしい服になってしまう。それでもその中からデートに相応しい服をと思い昨日選んだ服だ。

 

 

パジャマの上からその服を当てて姿見鏡にその姿を写しくるりと回る。その後後二つ程おしゃれをすれば完成だ。

 

 

時計を見ると約束の時間までまだ時間がある。それまで何をして時間を潰しましょうか、、、?

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

いつも通りの時間に目を覚ました。昨日帰ってからずっとティルから嫉妬を孕んだ視線を受け続け二人で部屋に入った瞬間にそれは爆発。それでも事の発端は?と聞くと悔しそうな顔で睨むのがとても可愛かった。

 

 

一度だけですからね、リルティルにもしっかりと念は押してありますが

 

うん、分かってるよ、帰ってきたらサフランに帰ろっか

 

もちろんです、それと分かっていますよね?

 

うん、分かってるよ

 

 

ベランダで煙草を吸いながら昨日のやりとりを思い出していた。とにかく今はリルティルを楽しませる事を考えなくては。

 

 

最後に深く煙を吸い込みそれを吐き出しそのまま灰皿へ。それからそーっと部屋に戻りいつもの服に着替えて待ち合わせの場所の城門に行くともうリルティルの姿があった。

 

 

おはようございます、今日一日よろしくお願いします

 

うん、僕の方こそよろしくね、その服可愛いよ

 

今日の為に選んだのですよ、そう言ってもらえて嬉しいです

 

 

 

そう言ってクルリと回ったリルティル。真っ白なワンピースにピンク色のヒール。それに蝶のワンポイントが付いた帽子がとても似合っている。

 

 

 

ユウはいつもと同じ服装ですね

 

そうなんだよね、お洒落に疎くてさ

 

 

いつもと変わらない僕を見て不満そうな顔をしたリルティル。そんな彼女に行こっかと声をかけると優しい声で返事をしてくれた。

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

たわいも無い会話をしながら草原を歩いていた。この方角からしてハルモニアに向かっているのだろう。少しだけそよぐ風を受けながら草原を歩いて行く。

 

 

それでね、大聖堂の上空を飛んでいたら撃ち落とされちゃってさ

 

それはユウが悪いと思います、もう争いは無いとはいえ警戒を解いている訳ではありませんから

 

はい、気を付けます

 

分かってくれれば良いのですよ

 

 

…少しだけ説教みたいになってしまった、それでも呑気なユウは気にする様子も無く笑顔で話を続けていた。それにつられて私まで笑顔でその話を聞いていた。

 

 

じゃあちゃんと手続きするね

 

当たり前ですよ

 

 

ハルモニアの関所で入国手続きを済ませ国内へと足を進めていた。

 

 

何処に行くのですか?

 

まぁ着いて来てよ

 

楽しみにしてますからね

 

あんまり楽しみにされると困っちゃうかな

 

冗談ですよ

 

ふむ

 

 

悪戯に笑いながらからかっていた。そして一軒のお店の前で立ち止まった。

 

 

ここで朝ご飯にしよっか、味は保証するよ

 

分かりました

 

 

先に扉を開けて開いたまま私が入るのを待っていてくれた。それにお礼を言って店内へと入ってゆく。

 

 

素敵なお店ですね♪

 

でしょ?前にフォルカスに教えてもらったんだ

 

 

珈琲の香りと神殿の様な神秘的な雰囲気の店内に心が躍ってゆく。

 

 

こっちだよ

 

 

手を引かれ窓際の席へと案内してくれたのだが、テーブルの上には予約席の札が。

 

 

あの、この席って、、、

 

昨日予約したんだよ、ほら、混んでたら嫌でしょ?その心配は要らなかったけど

 

ありがとうございます

 

 

少し広めな店内に他のお客の姿は無く言ってしまえば貸切だった。少し不安になる。

 

 

じゃあ好きなの選んでよ

 

はい

 

 

メニューを手渡されそれに目を通してゆく、これにしよう

 

 

はい、決まりましたよ

 

ん、じゃあ頼むね

 

 

店員さんを呼びメニューを伝えのんびりとした時間を過ごしていた。

 

 

あの、この後は何処へ行くのですか?

 

まだ内緒だよ、でもあまり期待しないでね?

 

ふふっ、そうしておきますね

 

 

視線を窓に移しハルモニアの景色を眺めていた。

 

 

リルティルは何処の国が一番好き?

 

私は、、、そうですね、ハルモニアが好きです

 

良いよねハルモニア、歴史を感じるしお洒落だし

 

建物や景色だけでは無くハルモニアに暮らす人々もキル姫も素敵です

 

聖鎖だっけ?

 

そうですね、確か天使を身に宿しているはずです

 

リルティルはそういうのはあるの?

 

私はありませんね、どうしてなのでしょうか?

 

さぁ?でも見た目は天使みたいだよ

 

褒めても何も出ませんよ

 

それは残念

 

 

そう言って二人で笑っていると店内に似合う店員さんが料理を運んでくれた。

 

 

ありがとね

 

ありがとうございます

 

 

私はカフェオレとサンドイッチ。ユウはコーヒーとサンドイッチ。二人同時に手を合わせて頂く事に。

 

 

コーヒーカップを両手で包み込む様に持ちフーフーと冷ましてから一口口に運んでゆく。

 

 

んっ、美味しいです♪

 

でしょ?オススメなんだよ

 

 

彼の方を見ると少し得意げな顔でコーヒーを飲みながらサンドイッチを食べていた。

 

 

どうしたの?

 

いえ、なんでもありません

 

早く食べないと冷めちゃうよ

 

そうですね

 

 

少し見惚れていたのだろうか、気づけば彼はサンドイッチを食べ終わりコーヒーを飲んでいた。慌ててサンドイッチに手を伸ばし口へと運んでゆく。

 

 

慌てなくて良いよ、のんびりでさ

 

待たせる訳にはいきません

 

んー、まだ煙草も吸いたいからさ

 

分かりました

 

 

そう言うと彼は口に煙草を咥えた。でも火をつける様子はなかった。

 

 

あの、急かしていませんか?

 

ええっと、、、あっ、ごめんね

 

吸われても構いませんよ

 

いや、待つよ

 

コーヒーの香りと混ざる煙草の匂いは嫌いではありませんので

 

じゃあもう少ししたらね

 

 

そう言うと彼は咥えていた物を箱に戻して私を見つめていた。

 

 

どうかしましたか?

 

いや、こうしてリルティルと二人なんて久しぶりだなってさ

 

そうですね、また修行をつけてあげましょうか?

 

うーん、、、

 

 

煮え切らない返事の後に苦笑いを浮かべていた。それを見ながらサンドイッチを食べ終わり残っているカフェオレを口にしていた。

 

 

それを見て彼は煙草を咥え火を灯していた。

 

 

煙草、いつから吸っているのですか?

 

えっと、昔僕を助けてくれた奏官が居てさ、その人が咥え煙草でキル姫に指示をしていて、それがすごくカッコよくてさ、それからだよ

 

それはいつの頃ですか?

 

んー、僕が18の頃だったかな

 

ユウ、煙草は二十歳になってからです

 

ごもっともです

 

 

……先程から説教みたいになってしまっている。気を付けなければ。

 

 

行こっか

 

 

彼が煙草を灰皿へ押し付け立ち上がった、それに合わせて私も立ち上がった。

 

 

ごちそうさま

 

ご馳走様でした

 

 

そのままお会計もせずドアへと歩いて行きドアを開けてくれた。

 

 

あの、お会計は、、、

 

もうしてあるよ、行こ

 

 

少しだけ戸惑いながら外へ出るとパタリとドアが閉められた。

 

 

次はこっちだよ

 

 

そう言って笑顔で私の手を掴み歩き出した。私に歩幅を合わせながら。

 

 

手を引かれ次にたどり着いた場所はハルモニア遺跡と呼ばれる場所だった。

 

 

ここはハルモニアが建国される前からあった遺跡で今はその広さから迷路として遊べるんだよ

 

詳しいのですね

 

前からここに来たかったんだよ、こういうの好きでさ

 

 

無邪気な笑顔で私の手を引きその遺跡へと入ってゆく。その時にチラリと遺跡の見取り図が見えたのだが本当に大丈夫なのだろうか?

 

 

こっちかな?

 

どうでしょうか?

 

あそこを左に行ってみよっか

 

そこはさっき通りました

 

うーん、じゃあ右かな?

 

そのまま行くとスタート地点に戻ってしまいます

 

えっと、あはははは、、、、は、

 

もう、しっかりして下さい

 

 

私の心配通りに迷子になっていた。辺りを見渡そうにもユウの背丈以上の壁に囲まれている為見渡す事は無理そうだ。

 

 

私が浮いて出口まで導きますね

 

本当にごめんね

 

 

ふわりと宙に舞い空から遺跡を見渡すと出口へと続く道を見つける事ができた。

 

 

こちらです

 

ごめんね

 

 

何度も謝る彼を出口へと導いてゆく。

 

 

はい、出口ですよ

 

本当にありがとね、助かったよ

 

そんなに謝らないで下さい

 

うん、ごめんね、あっ

 

もう、、、

 

 

はぁっとため息をつきその後の予定を尋ねてみた。次はケイオスリオンに行く様だ。

 

 

歩き出そうとした時一人の女の子が転んでしまい大きな声で泣き始めた。辺りを見ても両親の姿は無さそうだ。

 

 

ちょっと待っててね

 

 

私が駆け寄ろうとする前に彼はその女の子の元へ。しゃがみ込み目線を合わせて優しく語りかけていた。

 

 

大丈夫?怪我見せて

 

うん、、、

 

これぐらいなら大丈夫だよ、お母さんは何処にいるかな?

 

私、迷子になっちゃったの

 

じゃあお母さんが来るまで一緒にいてあげるよ

 

ほんと?

 

うん、リルティルも良いよね?

 

もちろんです、大丈夫ですか?私達が側に居てあげますね

 

 

私が女の子の頭を撫でてあげると落ち着いてくれたようだ。

 

 

リルティル、ちょっと見ててね

 

 

そう言って返事をする前に駆け出して行きジュースを持って帰って来た。

 

 

はい、これ飲みなよ

 

お兄さんありがとう♪

 

 

それからしばらくしてこの子のお母さんが来てくれた。何度もお礼を言われながらその場を後にする事に。

 

 

ごめんね、時間が無いからさ、ほんとは歩いて行きたかったけど

 

 

そう言うと彼は指笛を吹いた。それからしばらくすると上空より一匹の竜が舞い降りてきた。

 

 

乗って

 

もうっ

 

 

竜に跨り私に向けてくれた手を掴みその後ろへと。私が跨ったのを見てから竜の頭を撫で手綱を引いていた。

 

 

竜の羽ばたきに合わせて帽子を押さえていた。

 

 

帽子が飛んだらどうするのですか

 

ちゃんと拾いに行くさ、それより飛ばすよ、ポチ

 

あっ

 

 

合図の後に咆哮を響かせ一気に加速した。その勢いに耐えるべくギュッとその背中にしがみついていた。

 

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

はぁ、整えた髪が乱れてしまいました

 

本当にごめん、小さい子だったから放って置けなかったんだよ

 

大丈夫ですよ、そのかわり美味しいご飯をご馳走して下さいね

 

任せてよ、その前に行きたい所があるんだけど良いかな?

 

構いませんよ、今日はユウにお任せしてあるので

 

ありがとね

 

 

手を繋ぎゆっくりと足並みを合わせてゆくと人混みが見えてきた。

 

 

この人達は何に並んでいるのですか?

 

ゲバルト劇場に並んでるんだよ、えっと、ゲバルト伯爵って覚えているかな?

 

はい、式の司会をしていた人ですよね

 

そうそう、その人がやっている劇場なんだって

 

そこへ行くのですか?

 

違うよ、こっちだよ

 

 

そう言われてもう少し歩いた所で立ち止まっていた。ここも劇場のようだけど人の姿は無く先程の劇場と比べると見劣りしてしまう。

 

 

モラベガ劇場ですか?

 

うん、知ってる?

 

聞いた事はありませんね

 

僕も昨日知ったんだ、リルティルはお芝居とか好き?

 

見た事はありませんが興味はありますよ

 

良かった、行こっか

 

 

ドアを開けて貰い城内へと入ってゆくと二人の女の子がお出迎えをしてくれた。

 

 

ややや!お前は昨日の男!

 

ふぇぇん、怖いよぉぉ

 

ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったけどまだ劇はやっているかな?

 

任せんしゃい!

 

特別に二人の為にステージを開けてあげる

 

ありがとね、リルティル、こっちだよ

 

 

手を引かれステージに一番近い席に二人並んで腰を下ろした。辺りを見回しても他の観客の姿は見えない。

 

 

ユウってこういう所が好きなのですか?

 

そう言うわけじゃ無いけど、なんか惹かれちゃったんだよね、ほら、始まるみたいだよ

 

 

そう言われてステージに目を向けると開演のブザーと共にカーテンが上がり先程の二人が。スポットライトを浴びると私達に向かって深々と頭を下げていた。

 

 

ねぇねぇ、知ってる?こんな喜劇をねぇ、知ってる?

ねぇねぇ、知ってる?こんな悲劇をねぇ、知ってる?

 

 

 

今日演ずるのは

 

一国を護ったお姫様と

 

そのお供の男の話

 

深く心を引き合わせ合った二人に

 

それを引き裂く運命の鎖

 

さぁさぁ、寄ってらっしゃい

 

見てらっしゃい

 

皆の者、ハンカチの準備はいいかー!

 

涙無しでこの劇はみれないよぉ〜

 

 

いよぉぉぉぉぉー!!!

 

あ、始まり始まりぃぃ!!

 

 

 

暗転。次に目を飛び込んできたのは白いカーテンに浮かび上がる二つの影。どうやら影芝居のようだ。

 

 

 

私は、私は、お姫様、だけど普通のお姫様なんかじゃない

 

おぉ、姫よ、この世界を救いたまえ!

 

分かりました、この力、民の為に振るいましょう

 

 

悪い奴らをバッサバサ切り裂いて、お姫様は進む、この世界に平穏を取り戻す為に

 

 

その後ろを男が走る、姫様が斬り払った悪者を踏まないように跳ねながら

 

 

姫様、私も力添えします

 

いりません、わたし一人で充分です

 

姫様は確かに強い、だけどその心はガラスの靴のように美しく脆い。私に心を護らせて下さい

 

 

真っ直ぐに視線を逸らさずに男は姫様を見つめそう言った。

 

 

さぁ大変、お姫様泣いちゃった。声をあげてわんわんと

 

 

それでも男は微笑み告げる。私に心を護らせて下さいと

 

 

血に塗れた剣を納め姫様は言う。お願いしますと

 

血に塗れた手を握り男は言う。必ず御守りしますと

 

 

さぁさぁ、かくして結ばれた二人。戦いの中、争いの中で結ばれた絆は深く深く、

 

 

痛みの中、血に塗れ結ばれた絆は硬く、硬く、

 

 

二人の愛は硬く、深く。しっかりと結ばれました。

 

 

そんな二人にいくつもの困難が降り注ぐ

 

その度に剣を振るい

 

その度に癒しを与えた

 

 

 

二人が目指すのは悪者の主が住まう大きなお城。

 

そこの主を倒せば世界に平穏が訪れる、そう信じて。

 

二人は目指す

 

二人は進む

 

 

姫様は剣を振るい

 

男は心を癒し

 

 

共に進むは薔薇道

 

二人で進めば痛くない

 

 

さぁさぁ、二人はついにお城へ乗り込んだ

 

道は開かれた、さぁさぁ

 

 

悪者達を斬り伏せて二人は進む

 

血だらけの道を踏み越えて二人は進む

 

 

グハハハハハ、よく来たな

 

お前が悪者の主だな!?覚悟しろ

 

ふん!この世界は我が手の物に!

 

そうはさせない、この世界は私達が護る!

 

 

二人は、二人は争った

 

二人は、二人は戦った

 

 

剣を交え

 

剣を合わせ

 

傷を作り

 

傷をつけ

 

 

その争いは

 

日が登り

 

日が暮れても続く

 

 

それでもそれでも

 

始まりがあれば終わりがある

 

 

これで最後です!

 

グァァァァ、やられた!

 

 

悪者の剣を弾き

 

深々と剣を突き刺した

 

 

見事お姫様、悪者をやっつけた!

 

見事お姫様、悪者をやっつけた!

 

 

我を倒してもこの世界に平穏は戻らぬ

 

そんな事はありません、私が平穏へ導きます

 

 

それはどうかなお姫様

 

 

そう言い生き絶えた悪者!

 

血に濡れた手を握り男は告げる

 

 

共に世界に平穏を

 

はい、と返事のお姫様、さぁさぁ二人の凱旋だ

 

 

そこのけ、そこのけ姫様が通るぞ

 

この世界を救ったお姫様のお通りだ!

 

 

ひれ伏す民を見ながら進む

 

二人は進む、そして宣言をする

 

 

この世界に平穏を取り戻したと!

 

 

たちまち沸き立つ拍手の喝采!

 

民は崇め祈りを捧げた!

 

 

さぁさぁこの話はここで終わり

 

続きは無いのかって?あるんだよね

 

そうそう、この話には続きがあるの

 

 

民の一人が男を槍で突き刺した!

 

 

さぁ大変!まぁ大変!急いで駆け寄るお姫様!

 

 

それを合図に武器を構えた民衆は

 

 

二人を囲むのは護っていたはずの民衆だ!

 

 

何をするのですか!

 

 

二人の強い力は再びこの世界に争いを巻き起こす

 

そうなる前にその芽は摘まなくては!

 

 

哀れ哀れお姫様

 

哀れ哀れその男

 

護った相手に裏切られ

 

今は逃げる身、急げ急げ

 

 

民衆は振るう、剣を槍を

 

民衆は放つ、弓を銃を

 

気がつけば崖に追い込まれ

 

慌てふためくお姫様、その時男が言った!

 

戦わないでと男は言った!

 

 

さぁ大変

 

まぁ大変

 

 

二人を包むは沢山の武器

 

二人を包むは沢山の殺意

 

 

姫様は男を背負い走る

 

男は姫様に背負われた

 

その時!

 

一本の矢が男の命を討ち取った!

 

 

それに気が付いたお姫様

 

その心は壊れてしまった

 

 

さぁ大変

 

まぁ大変

 

 

心が壊れたお姫様は剣を振るう

 

護っていたはずの民に向けて剣を振るう!

 

 

あっという間に辺りは血の海へ!

 

あっという間に辺りは血の海へ!

 

 

海に一人立つはお姫様

 

血に濡れた一人のお姫様

 

 

最後にお姫様はその剣で

 

最後にお姫様はその剣で

 

 

その身を斬り裂き

生き絶えた!

 

 

そしてその世界には平穏が

誰も居ない世界に平穏が

 

姫様が望む平穏が

 

民が望む平穏が

 

 

訪れましたとさ

 

 

 

ねぇねぇ、これって悲劇?

 

ねぇねぇ、これって喜劇?

 

 

 

閉園のブザーと共に幕が降りた。その音でハッと意識を取り戻し頬を伝う涙を指で拭っていた。

 

 

ねぇねぇ、どうだったお芝居!

 

私達頑張ったんだよ!

 

はい、とても良いお芝居でした

 

 

えへへ♪褒められちゃった!

 

あはは♪褒めてもらえちゃった!

 

 

無邪気に笑いながら私達の周りを回る二人に頭を下げてお礼を伝えていた、

 

 

でもね、もう終わりなんだ

 

残念だけど、終わりなんだ

 

 

急に態度を変えて落ち込む二人にどうしてですか?と問いかけた。

 

 

もう劇を続けるお金が無いんだ

 

無理をしていたけどもう限界

 

哀れな二人

 

明日からは路頭に迷うんだ

 

最後に観てくれてありがとう

 

 

涙を流しながら頭を下げた二人。そんな二人に彼が近づいてゆく。

 

 

じゃあ次はティルヘルムのお城で劇を見せてよ、その分のお金も今支払うからさ

 

 

そう言ってカバンから財布を取り出し中身を全て手渡していた。

 

 

おぉーーー!!神よ!!

 

この世に神は生きておったか!

 

約束だよ?いつなら良いかな?

 

いつでも行くよ!

 

なんなら今からでも!

 

今からは、、、リルティル、いつならいいかな?

 

そうですね、一週間後にお願いできますか?

 

ははぁぁぁ!!この命に変えても!

 

この約束を守り抜きとうございます!

 

 

何度も頭を下げる二人に見送られながら劇場を後に。そのまま彼のおすすめのお店へと足を運んでいた。

 

 

本当にお人好しですね

 

そうかな?良い劇だったからみんなにも観て貰いたくてさ

 

それは分かりますけど、何もお金を全て渡す事はありませんでしたよね?

 

 

もう二人の前にはジュウジュウと音を立てるハンバーグが置かれていた。私の言いたい事に気が付いたのだろう。申し訳なさそうな顔で頭をかいた後ごめんねと呟いた。

 

 

念のため少し多めに持ち合わせてきて良かったです

 

帰ったら返すね、ほんとにごめん

 

いえ、今日のお礼です、私がご馳走しますよ

 

あはははは、、、ごめん

 

 

何度も私に謝る彼。普段はもう少しだけ頼り甲斐があるのに今日は普段より頼りなかった。

 

 

この後はどうするのですか?

 

トレイセーマに行く予定だよ

 

分かりました

 

 

それでね。と喋る彼、それに相槌を打ってゆく。このお店は関所に居るパラシュに教えてもらったお店でここのハンバーグは絶品のようだ。

 

 

見ててねと言ってまだ音を立てるハンバーグをフォークで押さえナイフで切り込んでゆくとミディアムに焼かれた身から滴るような肉汁が。

 

 

私も何度かハンバーグを食べた事はありますけどこんなハンバーグは初めてです♪

 

見た目だけじゃ無いんだよ、ほら、食べてみなよ

 

では一口、んんっ美味しっ!

 

でしょ?何しろあのパラシュが絶賛しているんだからね

 

確かに、仕事しかしていない印象がありますね

 

でもそんな事ないみたいだよ、こないだもアスカロンとティルヘルムに遊びに来てたし

 

パラシュの私服は一度見てみたいですね

 

その時も同じ服だった気がするけど、、、

 

 

たわいも無い会話をしながら食事を楽しんでした、だけど

 

 

ご馳走様、ごめんね本当に

 

構いませんよ、私の我儘に付き合って貰っていますので

 

 

お会計を済ませると何度も頭を下げながらドアを開けてくれた。そして表に出ると指笛を吹き鳴らした。

 

 

もう時間が無いから急ぐね

 

分かりました。

 

 

竜に跨ると私に手を伸ばした。それを掴み竜に跨ると手綱を引き空へと舞い上がって行く。

 

 

先程店内で見た時計は18時を指していた、もう夕暮れ時と言うのに何処に行くつもりなのだろうか。そんな疑問を抱いていた。

 

 

そんな疑問を持つ私を乗せた竜はトレイセーマの関所へと降り立っていた。入国手続きを済ませトレイセーマへと入って行く。

 

 

ちょっと歩くけど大丈夫かな?

 

構いませんよ

 

ありがと、ほら

 

はいっ

 

 

手を繋ぎトレイセーマの街並みを歩いて行く。この姿を誰かに見られるとか考えて無いのだろうか?

 

 

……差し出された手を繋いでしまう私も私なのだけど。

 

 

立ち並ぶお店や私達を見る人々に目もくれずただ街並みを歩いて行きやがて山道の入り口で立ち止まった。

 

 

うーん、、、ちょっと暗いから危ないかも

 

ここに行くのですか?

 

そうだよ、ちょっとごめんよ

 

 

そう言って彼は私の身体を持ち上げお姫様のように抱っこしてくれた。そして山道を登って行く。

 

 

ユウは大丈夫なのですか?

 

うん、昨日来たから大丈夫だよ

 

 

日を木々に遮られ薄暗い道を進んでゆく。私の視界は彼の顔を見上げる事しかできなくて少し不安になってゆく。

 

 

 

ここだよ、間に合って良かった

 

 

そう言ってゆっくりと降ろしてもらった。「ほら」の声で指を指す方を見るとトレイセーマを黄金色に染める夕焼けを見る事ができた。

 

 

凄いです♪よくこんな所を見つけられましたね♪

 

それなりに頑張ったからさ、その、楽しんで貰いたくて

 

その気持ちは伝わってきましたよ、ありがとうございます

 

女の子とデートなんてした事なかったから緊張しちゃったよ

 

 

そう言って彼は笑い煙草を咥え火を灯していた。

 

 

そういている間にもゆっくりと日は沈みやがて星々が輝き始めていた。

 

 

そろそろ帰ろっか、今ポチを呼ぶね

 

待って下さい

 

 

指笛を吹こうとした彼を制した。

 

 

どうしたの?

 

あの、一つだけお願いがあるのですが

 

うん、聞くよ?

 

 

優しく微笑む彼に一呼吸してからその願いを伝えた。

 

 

えっと、ん、、、ごめんね

 

大丈夫です、そう言われると思っていましたので

 

ん、、、

 

後一つだけ、もう一本だけ煙草を吸っていて下さい

 

分かったよ

 

 

私に背を向けて煙草に火を灯す光が見えた。その間に満点に輝く星空を見上げていた。

 

 

お待たせしました。もう良いですよ

 

うん、じゃあ帰ろっか

 

 

指笛の音の後に翼をはためかせ竜が舞い降りてきた。それに跨りティルヘルムの城へと帰って行く。

 

 

ありがとうございました、楽しい一日でした

 

うん、僕も楽しかったよ

 

また、連れて行って下さいね♪

 

 

そう言って私は彼の元を離れて二人が使っている部屋のドアをノックしていた。

 

 

失礼します

 

 

そう言って部屋に入るとドアに鍵をかけた。

 

 

どうしたのですか

 

グリード、、、貴女に謝らなければいけない事があります

 

なんでしょう?

 

 

その返事を聞いた瞬間に私はグリードに飛び付き胸に顔を埋め声を殺して泣いていた。私が泣き止むまでグリードはただ頭を撫でてくれていた。

 

 

よしよし

 

うぅぅぅぅ、、、くりーど、、、

 

落ち着いたらで良いので話して下さい

 

もう大丈夫です。今日ユウと過ごして分かった事があります。私はユウとマスターを重ねていただけでした

 

マスター、、あの時のマスターですか?

 

はい、グリードを淘汰し神に抗った私を支えてくれていたマスターです。彼もユウと同じように誰にでも優しく自分の事を犠牲にしても相手の事を考えている人でした

 

 

長い年月を掛けそれを忘れていたのに彼はその記憶を呼び覚ましたのです、命をかけてグリードを助けに行く姿を見て。

 

 

私、最後にキスをせがんだのですが、断られてしまって、、、それではっきりとそう思いました。ごめんなさい、私の一時の感情で迷惑をかけてしまって

 

 

リルティル

 

はい

 

夜も遅いですが身体を動かしに行きませんか?

 

………………そうですね、お願いします

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

お風呂に入ってから部屋に戻ろうとすると鍵がかかっており困っていると鍵が空き部屋から二人が出てきた。

 

 

先に寝ていて下さい

 

少しグリードをお借りしますね

 

う、うん

 

 

そう言って何処かに行ってしまった二人を見送りベッドに寝転んでいた。そして今日の事を思い出しながら眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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