何度も夜中に目を覚ましやっと眠れたと思ったら窓から差し込む朝日で目を覚ましてしまった。時刻は午前5時。する事も無くベランダで煙草を吸う事に。
窓を開けてベランダへ行き煙草に火を付け山から登る太陽を見ながら煙を吐き出し考えをまとめていた。
(マスター、奏官、桃色の髪の毛)これがキーワードなのだろう。その単語を呪文の様に唱えているのだが何も思い浮かばずにため息と共に煙を吐き出していた。
そんな僕のお腹がぐぅと鳴った。こんなに悩んでいるのにお腹は空くのだ。何か食べようと部屋に戻り冷蔵庫を開けても何も入っておらず諦めて教会にある喫茶店へ行く事に。いつもの服に着替えて少しだけ早歩きで教会を目指して歩いてゆく。
「おはよーおじさんいつもの」
「あいよ」
いつも通りのメニューを頼み再び窓際の席へ。そこから景色を見渡しながら煙草に火を付けていた。
「あい、お待ち」
「ありがと、この教会ってなんか祀ってあったよね?」
「あーっと、確かキラーズの元になった伝説の武器だったろ?」
「それってどこの部屋だっけ?」
「ここを出て左に曲がって真っ直ぐだよ、何でそんな事聞くんだ?」
「なんか引っかかっててね、それと僕は一人だよ?」
「おぉ、まぁ食えよ」
昨日と同じ二人分の朝ごはんを食べながら考えていた。マスター、奏官、桃色の髪の毛、キラーズ。少しだけどヒントが揃ってきた気がする。
「ごちそうさまでした」と言いながら喫茶店を出てその武器が祀られている部屋へと僕は来ていた。その扉にある説明文を読んでみるとこの部屋には神器のレプリカが置いてあるとの事。その文を熟読してからドアを開けて部屋の中へと入って行った。
「へぇぇ、すごいじゃん」
その部屋の中にはガラスケースに入れられた武器が展示されていた。その一つ一つに名前と説明文が書かれており知らない人でも識別は可能だろう。
なになに?レーヴァテインにデュランダル、フライクーゲルにアロンダイト。これじゃない。
アルテミス、草薙剣、ロンギヌスにパラシュ。これでもない。その他の武器を見ながら歩いていると部屋の最奥に一本の剣が祀られている事に気が付きそこに足を進めていた。
{聖剣、ティルフィング}
そう書かれている剣を眺めていた。透き通る様な水色の刀身に同じく水色の持ち手の美しい剣を。
「ティルフィング……」
(マスター♪)
誰かに呼ばれた気がして振り返り部屋中を見回したけど誰も居なかった。だけど色んな事を思い出せた。その瞬間に僕は教会の広場へと駆け出していた。
広場の真ん中に立ち指笛を吹き鳴らすと空から真っ黒な竜が舞い降りてきてくれた。その背に飛び乗り頭を撫で目的地を伝えていた。
「ワスレナにある古城にお願い!」
そう伝えると咆哮を響かせたあとゆっくりと舞い上がり空へと羽ばたいていった。僕は誰かとこの竜に乗った事がある。そしてその呼び方を教えてもらっていた。だからこうしてポチを呼べたんだけど。
しばらく空の旅を楽しんでいるとゆっくりと下降してゆき僕が伝えた目的地に降りてくれた。ポチの背から降りてその場所を眺めていた。
今はもう瓦礫となってしまっている古いお城。僕はここに誰かと来てその誰かがここで何かと戦っていた。思い出せ、あの時の記憶を。
「そんなに強い相手だったの?」とその人に問いかけたはずだ。
[たまにはスキルを使おうと思いまして]
そう答えてくれたはずだ。確かミノタウロスと呼ばれる異族と戦った後の会話。
「この近くにおじさんの家があるんだけど場所は分かる?」
そう竜に問いかけると頷き背をかがめそれに飛び乗ると羽ばたいてくれた。
しばらく進むと一軒の家が見えてきた。ワスレナと冥花繁殖帯の境目というへんぴな所に建てられた家。そこに僕は誰かと来たはずだ。ポチに降ろしてもらいその玄関をノックし返事を待っていた。
「誰だ」
「お久しぶりです、僕だよ」
「おぉ、その声は」
返事をもらい一歩下がると玄関が開けられおじさんが顔を出してくれた。
「久しぶりだなユウ、コーヒーでも飲んでいきなさい」
「ありがとね、お邪魔します」
おじさんに案内されて久しぶりのおじさんの家の中へと入って行きリビングにある椅子に腰掛けていた。
そうだ、僕はここに誰かと来た事がある。それとおじさんともう一人誰かが居たはずなんだ。
「おじさんってここで誰かと住んでいたよね?」
「おぉー?そうだったか?」
「えぇっと、なんか犬みたいなのと」
「犬?そう言われてみれば何かの遠吠えで朝起きていた様な気がするわい」
そう言いながらコーヒーの入ったコップを二つカウンターに置いた。それを僕が取りに行くと焼酎の瓶に花が生けてあるのを見つけた。
[それー♪花鳥風月ー♪]
そうだ、この焼酎は誰かが好きなやつだ。それをここに来た時四人で飲んでいて…。
「ユウ、ユウ」
「えっ?」
「さっきからどうしたんだ、ボーッとして」
「何かが思い出せそうで思い出せないんだよ、もう少しで思い出せそうなのに」
そう言うとおじさんも何かを考えている様な顔をしながらコーヒーを飲んでいた。
「確かユウは誰かと一緒にここに来ていた、儂が教会に依頼してその任務を受けて」
「そうだね、問題は誰と来たかだよ」
そこまで話して二人して考え込んでいたけど答えは見つからなかった。
「ご馳走様。また遊びにくるよ」
「いつ死ぬか分からんから早く来るのだぞ」
「長生きしてよね」
そう言って家を出て待っていてくれたポチの元へ。頭を撫でて次の目的地を伝えていた。
「次はハナ奏官と出会った町にお願い!」
僕の言葉に返事をして大空へと羽ばたいてゆく。町の名前は分からないけど行けば分かるはずだ。
ポチの首にしっかりと掴まっていると何度も僕の方を見ている事に気が付いた。きっと目的地が分からないのだろう。
「えっと、確か、、、焼け焦げた建物とその近くに川があるはずだよ」
ポチに頼み低空飛行をしてもらい色んな町を見下ろしているとやっと記憶にある町を見つける事ができた。その街の広場に降ろしてもらいふらふらと散歩する事に。
そうだ、ここで誰かと誰かが戦っていたんだ。その時に火事が起きてこの建物が燃えたんだ。
焼け焦げた柱だけが残っているその建物を見ていた。まだ片付けられていなくて良かった。
…それで誰が誰と戦っていた?確かハナ奏官と仲の良い女の人と僕の相棒だったはずだ。
[私が本気なら5分もかかりません]
そうだ、そう言っていた。思い出せ、なぜ戦ったのかを。
…………その先は全く思い出せないでいた。なんだろ、記憶がすっぽりと抜けてしまったかのように全く思い出せない。
ため息を吐いてから煙草に火を付けそのまま地面に座り込んでいた。そんな僕を町の人達が変な目で見ていたけどまぁ良いだろう。
再びため息を吐き立ち上がるともう日が沈みかけていた。
「帰るか」
ふらふらとポチの背に乗り自宅まで送り届けてもらう事に。
「ありがとねポチ、お礼に何か食べるかい?」
そう問いかけるとギャアギャアと鳴きながら翼をはためかせて何かを伝えようとしてくれたのだが全く伝わらなかった。
僕が困惑していると諦めたのか羽ばたき空へと飛んでいった。
(ごめんねポチ…)
心の中でそう呟き何度目か分からないため息を吐きながらアパートの階段を登ってゆく。
「ん?」
階段を登り切り自宅の玄関を見るとポストから封筒のようなものが顔を覗かせていた。それを引き出し送り主を見ていた。
なになに?フォトスタジオトゥルース?フォトスタジオって事は写真か?
それを片手に玄関を開けてベッドに座り開封してみる事に。
[写真は常に真実を写しますわ!これぞトゥルース!]
よく分からないキャッチコピーが書かれている封筒を破ると何枚かの写真が出てきた。そうだ、千年王国に遊びに行った時に写真を撮ったんだった。
記憶を紐解きながら写真を見て僕は衝撃を受けた。紫色の髪の毛の少女を僕と桃色の髪の女の子で挟み笑顔の写真。僕と桃色の子は笑顔だが真ん中の子は何処となく不機嫌そうだ。
[私皇帝ってもっと心の広い人だと思ってました]
そうティルが言った言葉を思い出していた。
「ティルって誰の事だ!?僕はティルと一緒にいた!それなのに何故僕は今一人なんだ!?」
僕は全てを思い出した。僕は奏官になる為に故郷であるコーラル村を出てここに来た。そして教会でティルと出会いティルのキラーズと僕のバイブスが適合しずっと一緒に居た。
流れる涙を気にすることなくベランダに行き煙草に火を付けた。
そうだ!僕とティルはキラーズとバイブスで繋がっている。それを辿ればもう一度ティルに会えるはずだ!
そう思い付き煙草を灰皿へ押し込み部屋の真ん中で座禅を組みその繋がりを意識していた。
絡まった糸のように複雑な繋がりを紐解くように辿って行きながら僕はいつの間にか眠りに落ちていた。