草原で僕は桃色の髪の少女と向き合っていた。その少女は僕を見ながら笑みを浮かべこう言ってくれた。
「マスター?早く私を見つけてくださいね?」
その少女の手を取るために一歩、また一歩と踏み出すのだがその少女は背を向けて何処かへと歩いていってしまった。僕の呼ぶ声に反応する事なく。
「ん、、、うぅん、、、、夢か…」
昨日ベッドではなく床で座禅を組んだまま寝てしまったせいか体のあちこちが痛む。それに何となく睡眠不足を感じる。
「そりゃ夢の中で催促もされるよ」
昨夜眠気に負けてしまった自分を恨みながらベランダへ行き眠気覚ましに煙草を吸う事に。煙草を咥え火を灯し風に乗る煙と晴れやかな秋空を見ながら意識を覚醒させてゆく。
「さてと、やりますか」
煙草を灰皿へと押し込み冴えた頭で部屋に戻り座禅を組みバイブスとキラーズの繋がりを意識しこんがらがってしまっている一本の糸を辿ってゆく。
「ん、見つけた。ここは?」
教会の近くにある崩れてしまった研究所、その地下室に居る。でもこの場所は以前の黒ティルとの戦いの時に崩れてしまったのに。
………考えても始まらない。そこに居るのならそこに行けば会えるという事だ。虎穴に入らなければ何とやらだ。
服を着替え玄関の傘立てに立ててある以前僕が練習で使っていたミスリルソードをお供にその場所を目指す事に。
「久しぶりに来たな、、、」
途中売店に寄って買った菓子パンを食べながら研究所跡地へと僕は来ていた。記憶にあった通りその研究所は瓦礫となっておりぱっと見では誰かが住んでいるとは思えないだろう。だけど。
「あったあった」
瓦礫を避けながら進み以前見つけた地下室へと続く穴を見つけた。そこにかけられているはしごを使い地下へと降りてゆく。
「へぇ」
はしごを降りた先はまだ使われているのか整備されており壁の上にはライトが取り付けられ光を放っている。誰かがまだ使っていると考えるのが普通だろう。ふと黒ティルを作り出した博士の事を思い出したけどあの人はラグナロク達に捕らえられ牢屋に入れられているはずだ。それならまた他の人が使っているのか?
「ふふっ」
こんな所を住処にしている人の事を考え少しだけ笑いながらその道を進んでゆく。ここなら教会も近いし住みやすい所なのだろう。僕は住みたいとは思わないけどね。
そんな事を考えながら歩いてゆくと扉が見えてきた。一応ノックをしてからその扉を開けて中へと入っていった。
「お邪魔しまーす」
ゆっくりと扉を開いた先の部屋には所狭しと何かの機械が置かれておりボタンやモニターが淡い光を放っていた。それを一つづつ見ているのだが素人が見ても分かるような物ではなく触りたい気持ちを抑えながら部屋を歩いてゆくとまた扉を見つけた。
ここまで来たのだからと謎の気持ちでその扉を開けようとそこへ歩いてゆくとその扉がゆっくりと開き誰かが出てきた。
「この先に進む事は私が許しません」
そう僕に言うのはピンクの長髪を黒いリボンで結び黒のマントと、、、そんな見た目の話は良いんだ。僕が探していた人、会いたかった人が目の前に居る。
「ティルっ!こんな所で何してるんだよ!?」
「ティル?私はグリードです。直ぐにこの場から立ち去るのなら見逃してあげましょう」
赤黒く輝く剣と冷たい視線を僕に向けそう言っていた。その辺はいつもの事だし何かのジョークだろうと気にせず僕はティルへと歩み寄ってゆく。
「やっと会えたねティル。ずっと探してたんだよ、帰ろっか」
そう言うと少し困った顔をして剣を納めてくれた。その手を掴むために手を伸ばした瞬間にふんわりと長髪が宙を舞いティルがいつも使っているシャンプーの匂いがした。
「カハッっ!?!!!??」
ティルの右手が僕のお腹に伸ばされた。正確には殴られたのだが。殴られた勢いで僕の体は少しだけ浮きその後呼吸ができない程の痛みと吐き気に襲われその場にうずくまった。
「うぉえっ!!ぁあ、、ぐっ、、、」
「命があるだけ良いと思って下さい」
うずくまりお腹を押さえ込む僕に冷たい声が聞こえた。痛みに耐えながら見上げるとゴミを見るように僕を見下すティルの顔が。
「とどめは刺さぬのか?」
「ラース、、、こんな人間の血をこの骸斬に吸わせたくありませんので」
「ならば拙者が」
誰か一人増えたようだ。少しだけ見上げると黒髪と振り上げられた刀が見えた。
「やめて下さいラース。誰が掃除をすると思っているのですか」
「ちっ、ならば逃げたとでも報告しておけ」
「はい、行きましょう」
そんな話をしながら二人は奥の部屋へと入って行った。
「まっ、、、待ってよっ!!」
閉まる扉に向かいそう叫んだのだが誰も返事をする事なくその扉は音を立て閉ざされた。
「っ、、、はぁ…」
しばらくのたうち回りやっと痛みが引いてきた。そのままその場に寝転がり煙草に火をつけ今の現状を考える事に。
多分何者かがキル姫を操りここに集めているのだろう。そう思い思い返せば教会でも町でもキル姫の姿を見ていない。そしてキル姫の記憶を消されている。それはキル姫も同じ事で記憶を消されているのだろう。
この扉の先に行けば全てが分かるはず。だけどそれを知るだけの力は僕には無い。このまま進めば命は無いだろう。
「ってて、はぁ」
ティルがラースとか言っていたからラグーナ島のキル姫も操られているはずだ。それならば…………そうだ!
千年王国に行こう。もしそこのキル姫まで操られていたらもう打つ手は無いけど霊装支配されているキル姫をまだここで見ていないという事はまだ希望はあるはずだ。
「いたたたたたっ、くそっ」
ミスリスソードを支えになんとか立ち上がり恨めしくその扉を見た後に背を向け来た道を引き返す事に。
「おととっ、はぁ」
まだ痛みでふらつく体をミスリスソードを杖代わりに歩いてゆく。
「っ、はぁ」
はしごをよじ登り瓦礫を避けながら歩きやっと家に帰ってくる事ができた。
「お風呂、、、明日だそんなもん」
汚れた体で構わずベッドに寝転がりふて寝を決め込む事に。ティルを奪還する。そう強く心に刻み込みまだ少しだけ痛むお腹をさすり気づけば眠りに落ちていた。