「んあっ」
自分の寝言かなんだかよく分からない間抜けな声で目を覚まし辺りを見渡すと借りている部屋のベッドの上だという事を理解する事ができた。
確かトレイセーマでマサムネとアルテミスと戦った後アルマスに背負ってもらって、、、。
そこまで思い出しその後の記憶が無いことからアルマスの背で寝てしまったのだと判断しため息を吐いていた。
アルマスの背で寝た事が嫌なのでは無く迷惑をかけてしまった事,体力が続かない事へのため息だ。これを読んでくれている人なら理解してくれると思うけど念のためね?
そんな事を考えながらベランダへ向かい煙草に火をつけてその煙の行方を追っていた。これを吸ったら朝の鍛錬をしてシャワーを浴びていつもより多く朝ごはんを食べよう。そう心に決めながら。
ふぅっと煙を吐き出し煙草を灰皿へと押し込みいつも鍛錬をしている広場へとやってきていた。その後ひたすらに素振りをし最後に適当な木に向かい斬撃を刻む。下から斜めに斬り上げそのまま左へと剣を流す。最後に上段を斬り払うと木がゆっくりと四つに分かれ地へ倒れて行った。
それを見ながら煙草を咥えて火を付けていた。
「あの、鍛錬をするのは構いませんが木を斬るのはやめてもらえませんか?」
「あ、、うん、ごめんね」
木を切った事を注意されて申し訳なさそうに振り返ると困った顔をしているリルティルの姿が。
「昨日も木が切られていたのでアルマスの仕業かと思っていたのですがユウだったのですね」
「はい、すいませんでした」
日頃からアルマスはどんな事をしているのか気になったけどまぁいいだろう。その後話を聞くと今日はフェイルノートに用事があるから一緒にケイオスリオンに来ないかと言ってくれた。それに返事をしてから部屋へと戻りシャワーを浴びてからリビングへ朝食を食べに行く事に。
「はい、昨日の分も食べて下さいね」
「うん、ありがとね」
昨日の夕ご飯の残り物と朝のパンを食べながらリルティルに質問をする事に。
「フェイルノートにどんな用事なの?」
「大した用ではありません、少しお話に行くだけですよ」
「ふむ」
はぐらかされた?つまり国と国の大事な話なのだろうか?例えそうだとしても僕はケイオスリオンに行けるから良いのだけども。
「…………」
ケイオスリオンに居るのはパラシュだ。それも悪魔の力を取り込んだパラシュ。ブラックキラーズのグラトニーと戦う時のいい練習になる事は間違いないだろう。
そんな事を考えながら最後のパンを口に運び口元を拭きご馳走様と声をかけていた。
「何か準備するものはありますか?なければ今から出発したいと思います」
「んー、、、大丈夫、いつでも行けるよ」
「分かりました、では、行きましょうか」
「うん、お願いね」
そんな訳で僕とリルティルは城を出てケイオスリオンを目指して草原を歩いていた。この言い方は違うな、正確には歩いているのは僕だけでリルティルはふわふわと宙に浮かんでいた。
「どうしてリルティルは浮けるの?」
「さぁ、、、?どうしてなのでしょう?」
質問を疑問で返されなんとも言えない気持ちになりながらもケイオスリオンにたどり着く事ができた。リルティルが関所で受付をしている姿を見てから黒と赤色で作られた国を囲う壁を見ていた。
天使の国ハルモニア、獣の国トレイセーマ、そしてこの悪魔の国ケイオスリオン。三カ国ともそのイメージに合った国作りをしているのだろう。
「……………」
ここまで本格的に地獄の様な風景にするのはどうかと思うのだけれども。
「お待たせしました、行きましょうか」
「うん、お願いね」
リルティルが先を歩き僕はその後ろをキョロキョロしながら歩きながらそんな事を考えていた。大きなお世話だろうけど。
そんな事よりも今日は何かイベントでもあるのだろうか?先程から沢山の人達がどこかに向かって歩いてゆくのが見える。それに出店の様な店もちらほらと。
リルティルに聞こうと思ったのだけどなんとなくやめて無言で城までの道を進んでゆく。
「フェイルノートはこの奥に居ます。覚悟は宜しいですか?」
城にたどり着き城門をくぐり廊下を進み大きな扉の前でそんな事を言われた。フェイルノートはラスボスが何かなのだろうか?
「うん、覚悟はできているよ。なんでそんな事を聞くの?」
「少し気になりましたので。失礼します」
「お邪魔します」
そう言いながら扉を開くと広い部屋が見えた。その奥に四人のキル姫達の姿が見えよく見るとテーブルを囲いその上に置かれたお菓子やお茶を楽しんでいる様で。僕達に気が付いたのかその視線をこちらへと向けてくれていた。
その奥に置いてある椅子に座る紫髪の少女の姿が見える。この城の主でケイオスリオンの支配者、フェイルノートだ。
「ようやくのご到着ねリルティル。それに主役もちゃんと連れて来たようね」
「はい、彼は覚悟はできているようです」
主役?覚悟?一体なんのことだ?
「そう、そこのお前」
「はい?」
「パラシュと戦いたいそうね」
「うん、お願いできるかな?」
「私は構わないわ、その前に何故パラシュと戦いたいのか理由を述べなさい」
高圧的な態度で話すフェイルノートに理由を説明していた。この話は他の四人も聴いてくれたみたいでアスカロン、アフロディーテが賛同の言葉をかけてくれた。
そんな中高座に座るフェイルノートが脚を組み替え頬杖をついた。
「ふぅん、お前は駒の為に命を賭ける気なのね」
「駒?僕はティルの事を駒だなんて思った事はないよ」
「奏官からしたらキル姫は駒の様な物でしょ?プレイヤーと例えてあげましょうか」
「チェスでも将棋でも囲碁でも戦うのはその駒、プレイヤーは盤を見ているだけ。違うかしら?」
「…………っ」
「答えられないようね。それもそうね、今まで駒の後ろでのうのうと生きてきた人には酷な質問だったわね」
その質問に答えられず焦りと苛立ちに襲われた。確かにフェイルノートが言う通り僕はティルの後ろで何もせず見ていただけだ。奏官と言う立場でしてやれる事と言えば言葉をかけてあげるぐらいだった。そんな過去の自分を思い出し目を伏せた。
「お前、誰が私から目を逸らして良いと言った?」
「答えなさい。たかが駒一つの為に何故お前は命を賭けるのか」
「それがどれ程に無謀で愚かな事か理解しているの?」
色々考えて悩んでフェイルノートに答える答えを見つけようとしたのだが何一つ良い答えは浮かばなかった。その代わりに煙草を咥え火を灯し煙を吐き出すと剣を引き抜きその切っ先をフェイルノートに向けた。
「僕がどれ程に無謀で愚かで馬鹿な事をしようとしているのかは理解しているよ。現にこうして君に剣を向ける事も含めてね。僕には君の質問に上手く答える事はできないけど一つだけ言える事がある、僕はティルを助ける為ならば命なんて惜しくない、そう思える程にティルには助けて貰ったしお世話になっていた、それに僕はティルの事が大好きだからさ」
そう言い切った後に少しの沈黙の後フェイルノートの高笑いが部屋に響いた。
「ふん、パラシュ、アスカロン、準備はできているんでしょうね」
「あぁ、もちろんさ」
「はい!いつでも行けますっ!」
「お前の覚悟の言葉は聞かせて貰ったわ、次はその覚悟を見せて貰おうか」
席から立ち何処かへ歩いて行ったパラシュとアスカロン。そして席を立ち僕の方へ来てくれたもう一人の女性。
「ユウさんこちらへ。部屋を用意してありますわ」
「??」
事態を飲み込めず困惑する僕の手を取りドアを開け廊下を進み部屋へと案内してくれた。
「えっと「ユウさんの狂おしい程の愛、私には伝わりましてよ。後私から言える事は生きて彼女の元へ辿り着いて下さい。以上ですわ」
そう言ってアフロディーテは部屋から出て行った。その部屋に残されたのは未だ困惑している僕だけだ。
…………………………
……………………
………………
……………
…………
………
……
…
「あれで良かったのよねリルティル」
「はい、ありがとうございます」
「別にお礼を言われる事はしていない、それにあの男の目には輝きが宿っていたわ。私程では無いけども」
「さ、見せて貰うわユウの輝きが本物かどうか。精々楽しませて貰うわ」
ひらりと高座から降り歩いてゆくフェイルノートの後ろをついて行く。
…………………………………………………………………………
「…………」
アフロディーテに部屋に案内されてからしばらくが経ったのだが音沙汰はなくやっと困惑から立ち直っていた。だが事態を飲み込めておらず部屋に置かれているソファーに座っているだけなのだが。
ボーッとしているとドアをノックする音が。それに返事をするとドアが開きシユウが入ってきた。
「うがぁ、これを渡しに来たぞ!」
「ん、ありがとね。なになに?」
シユウから手紙を渡されたそれを読んでみると12時になったらその扉から出ろと書いてあった。
「何かあるのかな?」
「お祭りだぞ!シユウは見てるだけだからつまらないぞ!」
「お祭り?そういえばここに来た時沢山人が集まってる場所があったね。どんなお祭りなの?」
「いーーっぱい敵を倒すんだ!」
「ふむ」
説明をしてくれたけどよく分からずに煙草に火を付けていた。まぁなんとかなるだろう。そのまま視線を動かすと煙の間から時計が見え時刻はもうすぐ12時になろうとしていた。
最後に煙を吸い込みそれを吐き出し煙草を灰皿へ押し込み席を立った。それに合わせてお菓子を食べていたシユウが僕へと視線を向け立ち上がった。
「お前、、、頑張れ!」
「うん、ありがとね。行ってくるよ」
笑顔で手を振ってくれるシユウに手を振りゆっくりと言われた扉を開けてその中へと入ってゆく。
【これより第三回ケイオスリオン国王選抜総武会を開催致します!!さぁ全悪魔人の皆様!じゃんじゃん賭けちゃって下さい!】
「???」
扉を開けて長い廊下を進み広場に出ると耳をつんざく様な放送が響いていた。困惑しながら辺りを見渡すと沢山の観客が席を埋め尽くし異様な殺気を放っていた。
【ここで財を成すか財を散らすか、良いんです!好きな様に賭けちゃえば!もちろん公営ギャンブルですから安心して下さいネ】
何となく話が見えてきた。僕はここでアスカロンとパラシュと戦う。その勝負の勝敗を賭けのネタとしているのだろう。
(まぁ良いんだけどさ)
【はい、それでは各選手とオッズの紹介です!東軍、パラシュ率いるケイオスリオンの先鋭部隊!その数何と100!パラシュとアスカロンを抜いても100の戦士が西軍へ襲いかかります!そのオッズは控えめの3倍!】
【対する西軍は天上世界のコーラル村出身のユウ選手だ!何と一人!たった一人でこの悪魔の集団へと立ち向かいます!気になるオッズは100倍!100倍です!!】
【ここで一攫千金を狙うか、安定して稼ぐか。その掛け方はあなた次第!締め切りまでまだ時間はありますから慌てず考えて下さいネ】
その放送が止んだ後にパラシュ率いる東軍がスタジアムに姿を見せた。真っ黒い鎧いを着込み手にはそれぞれ武器を構え、見る限り剣と斧に槍、それに弓と銃を持っている様だ。
ケイオスリオンの兵士、それも精鋭部隊。僕よりも戦い慣れているだろう。
「……………」
圧倒的な戦力の差、例えるなら猫の巣に入るネズミの様。勝ち目なんて無い。
「……………」
前を向けば沢山の目が僕に向けられている、その瞳一つ一つから僕を殺してやるって思いが感じられる。
「はは、」
膝が笑い始め涙が溢れそうになっていた。今すぐにでもこの場から逃げ出したい。後ろ指を刺されてもいいからお家に帰りたい。
「ーー」
「ユー」
立ち尽くす僕の前にパラシュが居た。近付いてくるのに気が付かなかったようだ。
「ユウ、君はここで逃げ出す様な人じゃないはずだ。僕に見せてくれないか?君のティルフィングへの想いを、それに挑む覚悟を」
それだけ言ってパラシュは自軍へと戻って行った。そんなパラシュを僕は呼び止めていた。
「パラシュ」
「ん?」
「この賭けは僕も参加できるのかな?」
「それは可能なはずだよ」
「ならさ」
ポケットから財布を取り出してパラシュへと渡す。
「僕の全財産を賭けるよ」
「うん、どっちにだい?」
「もちろん僕にだよ。お願いね」
「ふふっ、聞くまでもない質問だったね。最後君と戦える事を待っているよ」
スタジアムを歩き受付の人と話しているパラシュを見て煙草咥え火を付けた。もう膝の震えは無い。
【さぁさぁ!皆さん賭けましたか!?もう間も無く締め切らせて頂きます!】
【はい、これより第三回ケイオスリオン国王選抜総武会を開催致します!!】
【ルールは単純明快!最後にスタジアムに立っていた軍の勝利!勝つ為ならばどんな卑怯な手段を使おうとここでは許されます!何故なら我々は悪魔ですから!正々堂々戦うのは不名誉!】
【では、両軍前へ!!!】
一際大きな歓声を聞きながらスタジアムに書いてある場所へと足を進めた。僕の前には100の兵が。それを見ながらネックレスをギュッと握りその後煙草に火を付けた。
【位置につきましたね?では、試合、開始っっっ!!!!】
開始の合図と共に怒声を上げながら迫る兵士達。剣、槍、斧を持った兵士が前線を務めその左右から弓、銃を持った兵士が僕を狙う。
「相手は一人だ!!殺せ!!」
「内臓をぶち撒けてやれ!」
「その首を引きちぎれ!」
悪魔らしい事を言いながら迫り来る軍を見ながら咥えていた煙草を吐き捨てその群れへと飛び込んでゆく。
剣を振り槍を突き出し斧を振り回す兵士達。多勢に無勢だがここに秘策がある。身を守れる様に剣を構えながらひたすらに群れの中を駆け回る。その効果はすぐに現れた。
「ギャァァァァァ!!!」
「俺に攻撃するんじゃねぇ!!」
僕を取り囲む空間で同士討ちを始めた。これだけ人が密集した空間で武器を振るえばそうなるだろう。それに相手は鎧いを着ているが僕はジーパンにシャツに上着だ。身軽さではこちらの方が上だ。
これで少しは数を減らせる。そう思っていた時だった。
「相手の策に嵌るな!10人を残し残りは下がれ!」
パラシュの指示が響きそれに合わせて陣形を変え始めていた。その時を待っていたんだ。
下がる部隊へ向かい駆け出し斬り込んでゆく。そしてすぐさま反転し兵が居ない場所を陣取る。
「指示を受けないと攻める事もできないの?」
「やろぉ!!!おい!下がるな!攻め込むぞ!!」
「さっきからその手に持っている武器は飾りなの?撃ってきなよ!」
「撃て撃てー!!一発当てればこっちの勝ちだ!」
パラシュの指示を無視してこちらへと進軍をしてくれた。後は身を守るだけだ。
「やーい非正規雇用兵士」
「おたくの年収いくら?」
「お前の雇い主メスガキ〜」
再び戦場を駆け回りながら挑発に挑発を重ね場を掻き回してゆく。統率の取れていない相手だからこそ通じた作戦だろう。
我ながらせこい作戦だがかなりの数を減らす事ができた。後は残った兵士をどうするかだ。
「撃て撃て!!」
号令と共に僕に向かい魔弾と矢が放たれていた。だが、キル姫達の攻撃に比べたら生ぬるい。躱し弾きそして考える。
スタジアムの壁際を陣取り弓と魔銃を構える兵は20人程、それ以外の武器を扱うのは30人程か?それなら先に遠距離武器の方を片付けよう。そう思い壁際へと走ってゆく。
「来たぞーー!撃て撃て撃てーー!!」
「逃げたぞ!!殺せぇ!!」
僕に気が付いたのか集まり走る僕に銃口を向けそのまま魔弾を放ってきた。それを弾き弓使いへと弾き返し残りは僕の後方へと飛んでゆく。
敵の集団へ飛んでいった魔弾は敵にぶつかり炸裂し悲鳴と共に倒れる音が。それを聞きながらさらに進軍してゆく。
「く、くるなぁ!!」
「はい、お疲れ様でした」
壁際の銃使いを倒し見渡しても遠距離武器を使うのはこの人で終わりのようだ。後は残った兵士を叩けば終わりだ。
(残りの兵士もキル姫よりは強くないだろう)そう思いながら敵陣へと斬り込んでゆく。
僕の予想は当たり兵士達は大して強くは無かった。見掛け倒し、とまでは言わないけども。
最後の兵士に一太刀浴びせそれが倒れるのを見届けてから煙草に火を付けていた。
「あれだけの兵士を倒してしまうなんて、、、その強さ、あぁ、羨ましい、、、」
コツコツと足音を鳴らしながら歩いてきたのはアスカロンだった。羨むような目線を僕に向けながら剣を引き抜いていた。
【さぁみなさん!面白くなって参りました!!ユウ選手が我がケイオスリオン悪魔の兵を退けましたっ!次はカルマキラーズのアスカロン選手と対戦だ!これは目を離せませんっ!!】
「流石に疲れたよ。楽させてもらえるかな?」
「いえ、全力で行かせてもらいます!嫉妬の氷があなたを倒せと疼くんですっ!」
笑いながらそう言うとマジに返されてしまった。それならばこちらも全力でぶつかるだけだ。
「じゃあさ、恨みっこ無しだよ!」
咥えていた煙草を吐き捨て剣を振るうとそれに合わせ剣をぶつけられ鍔迫り合いギリギリと火花を散らしながら目線をぶつけ合う。アスカロンの視線にさっきまでの羨むような目線ではなく必ず勝つと決意の込められた目をしていた。
「………!」
鍔迫り合うのをやめ後方へ飛び退かれた。その後勢いを付けながらの一振りが迫る。
それを受け止めると刀身から何か細かい粒が僕に向かい降り注いだ。
「っつ!」
その粒が僕の顔に付着するとじんわりと冷たく直ぐに滴り流れていった。これは氷の粒か?
考える間も与えられず振われる剣を防いでいた。その度に粒が僕へと降り注いでゆく。
気が付けば服はぐっしょりと濡れてしまい動きづらさを感じていた。これがアスカロンの狙いなのだろうか?それならば一気にカタを付けなければ。
「アスカロンっ!!」
踏み出し一気にアスカロンへ向かい剣を振り上げ睨むとその顔は不敵な笑みを浮かべておりそれに気が付き後方へと飛び退いた。
「ユウさんはもう私の間合いに入っています。覚悟して下さいね」
アスカロンが剣に冷気を纏わせそれを振るうと一気に気温が下がった。まるで冷凍庫の中に入ってしまったような痛みを感じる程の寒さに。
マサムネと同じように地面を凍らせるのかな?そう思いながら剣を構え直そうとしていた。
「えっ!?凍ってる!?」
「このアスカロン・D.plugレヴィアタンが司るのは全てを凍てつかせる嫉妬の氷。もう逃れられませんよ」
小さな氷の粒を飛ばし服に水を吸わせそれをこの冷気で凍らせ身動きを封じる作戦か。って感心してる場合じゃない!
まだ服は完全に凍り付いておらずまだ身体は動かせる。なら取るべき手段は一つだ。
なるべく動作を大きくしこれ以上凍らないようにしながら後方へと下がり剣を地面へと突き刺した。
「降参のつもりですか?諦めない心があると思っていたのに、、、」
「僕はね、ティルを絶対に助けるんだ。そのためならプライドも恥全部捨てる覚悟だよ!」
上着を脱ぎそのままシャツをアスカロンへ向かい投げた。それを剣で切る隙にズボンとパンツを脱ぎ去った。
「服が凍るなら脱げば良い、それだけだよ」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
全裸となった僕を見ないように顔を伏せた隙にその首へと剣を突き付けた。
「……私の負けです、、、その勝利への執着心、羨ましい・・・」
剣を落とし項垂れたアスカロンを見てアナウンスが響いた。
【なんとユウ選手アスカロン選手を打ち負かした!この試合どうなるか検討が付きませんっ!!ですが次は冷血の斧使い、パラシュ選手の登場だっ!!】
その後スタジアムの扉が開きその奥から大斧を担いだパラシュがこちらに向かい歩いて来ていた。
「君なら僕にたどり着くと思っていたよ。悪いけど僕は君のモノを見ても何とも思わない、恥じらった隙を狙おうだなんて思わない事だね」
「うん、分かってるよ。勝負だ、パラシュ!!」
剣を構えパラシュに向かい走り出した。走るたびピタピタと太ももに当たるけどそんな事構っていられない。
「見せてあげるよ。僕の斧をね」
ブォンと音を立てながらパラシュが斧を振り下ろすと地面が軽く揺れ風圧が僕にかかった。そして半分程埋まってしまった斧を片手で軽々と引き抜き担ぎ直していた。
「斧が埋まった隙を狙おうだなんて思わない事だね。その弱点は克服済みさ」
冷酷な眼差しで鋭く僕を睨んでいた。あの大斧を剣の如く振り回し唯一の隙である地面に埋まった時すら克服している。それに至るまでどれ程の努力をしたのか検討も付かない。
そんな事よりもパラシュだ。威力、機動力それに技術をあわせ持ったパラシュを僕は倒さないといけないんだ。とりあえず動きを見切るために大きく後ろに下がり間合いを取ることに。
「僕がそれを許すはずないだろ。さぁ、見せてくれよ、君の勝利への信念を!」
一気に間合いを詰められ斧を軽々と振り回してゆく。動きを観察するどころか避ける事すら精一杯のこの状況。一発でも貰えば身体を真っ二つにされかねない。
徐々に徐々に後方へ下がりながら最善の最適解を探すため頭をフル回転させてゆく。ん!ひとつだけ思い出した。
「かかってこいやパラシュ!」
飛び退き間合いを詰められる前に手を突き出し手招きをしてやった。少しでも怒らせて冷静さを欠けさせそうと。
「ふっ、甘いね。戦場では冷静さを欠けさせれば敗北に繋がる。その手の挑発には乗らないよ」
全裸で手招きをする僕を見ても涼しい顔のパラシュ。だんだんと悲しくなってきた。
「いくよ」
再び距離を詰められ縦横無尽に振り回される斧をなんとか回避しながらある隙を伺っていた。
その隙はすぐにやってきた。パラシュが斧を左から右へと振るう瞬間だ。そのスイングが僕の前を過ぎた瞬間に剣で斧を押しやった。
「君は何がしたかったんだい?無策でこんな事をしたのなら愚かなだけだよ」
斧を振るう勢いを剣で押しバランスを崩させるつもりがパラシュには通じなかった。スイングの勢いと剣で押した勢いを力で止めギロリと僕を睨んだ。
そして身体を半回転させた状態から力を込め僕を押し返してゆく。腕に力を込め、足に力を込め全身に力を込めて押し返しているのに容易く僕は押し飛ばされて地に伏した。
(あはは、こりゃあ勝てないかも)
あまりの力の差にそんな事を思ってしまった。一度思ってしまったマイナスな事はすぐに僕の心を蝕んでゆく。
「君が立ち上がらないのならこのまま殺してティルフィングは僕達が捕らえケイリオスリオンの駒として扱うよ。あの力は役に立ちそうだからね」
「そんな事はさせないよ」
剣を杖代わりにフラリと身を起こし再び剣を構え考える。力も上、技術も上。それならばこの作戦に賭けよう。
今までの戦いの疲労が募る自分を奮い立たせゆっくりと息を吸い吐き出す。全身が悲鳴をあげる今、この策がダメならもう終わりだ。
「こいよパラシュ。とっておきを見せてあげるよ」
「何か策があるようだね。なら、真っ向から潰すだけだ!」
パラシュが駆け出し大斧を振り上げ振り下ろした。その瞬間。
覚醒させた意識で振り下ろされる斧の裏側に剣を押し当て振り下ろされる力を使い自身をパラシュの元へと引き寄せた。その勢いで一回転しその首筋へと剣を突き付けた。
「僕の勝ちだ、パラシュ!」
「……………………そうだね、君の勝ちだ、ユウ」
長いようで短い沈黙の後パラシュが斧をその手から離した。
【ここに今!!雌雄が決されました!!勝利したのは西軍のユウ選手だっっっ!!!皆様の期待を大きく裏切りこの第三回ケイオスリオン国王選抜総武会を制したのはユウ選手だぁっっ!!】
アナウンスの後会場からは割れるような悲鳴と僕を罵倒する声が。僕ってそんなに期待されてなかったのかと思うと悲しくなる。
「言いたいように言わせておけば良いよ。紛れも無く勝ったのはユウだ。それとやっぱり、その、隠してくれないか?」
「あっ」
なんだかんだ全裸だという事を思い出し急に恥ずかしくなっていた。
「隠したいのは山々だけど服がないんだよね」
せめてと思い手では隠しているのだがこの姿はあまりにも情けない。身とモノを縮こませていた。
「お疲れ様でした。お見事でしたよ」
そんな僕に服を渡してくれたのはリルティルだった。急いでそれに着替えカバンから煙草を取り出しやっと一息つく事ができた。
「リルティル、まだ隠しておくのかい?もう話しても良いはずだ」
「そうですね。ユウ、あなたは私が出した試練をクリアする事ができました。明日私と戦い勝つ事ができれば天上世界へ返してあげます」
急に真面目な表情となり話をされたので理解が追いつかない。
「えっと?」
「あらかじめ三カ国と三人には話をしておいたのです。ユウと戦いその中で少しでも弱音を吐いたら私に伝えて欲しいと。ラグナロク達が手を貸してくれたのは予想外でしたけど」
それを聞いて僕の口から出た言葉は感謝の言葉だった。それを聞いてリルティルは優しく微笑んでくれた。その視界の端に黒い影が写り僕の身体が持ち上げられた。
「うがぁぁぁ!!ユウ!よくやったぞ!シユウが褒めてやる!」
「はいっ!ユウさん凄いですっ!私だけでなくパラシュまでも倒してしまうなんて、、、あぁ、羨ましいっ」
「うふふっ。これも愛が故の力ですね♪私痺れてしまいましたわ♪」
シユウに担がれた僕を二人が褒めてくれていた。そして。
「ユウ、君にならできるはずだ、ティルフィング奪還をね。僕に勝ったんだから負けるのは許さないよ」
担がれる僕に向かいパラシュが手を伸ばしてくれた。その手をしっかりと握りしめた。
………………………………………………………
「見事な戦いだったわパラシュ、アスカロン。褒めてあげるわ」
「お礼を言われるような事はしていないよ。僕はユウと全力を出して戦っただけさ」
「私もですっ、それよりフェイルノートが持っているケースはなんですか?ずいぶんと大きいみたいですけど」
「これね、ちょっとした儲けよ」
高座の横に置いてあるケースを足でツンツンと突くその姿にパラシュが何かを悟ったようだ。
「僕達に賭けずにユウに賭けるとは呆れたよ」
「賭け事とは常に裏を詠むものよ、パラシュ。それにうちには大飯食らいが居るからお金がいくらあっても足りないのよ」
「ふっ、そうだね」
テーブルに置かれた沢山の料理を次から次へと口に運んでいるシユウへと視線を移した。
「まるで吸い込むみたいに食べてますね、、、」
「うがぁ!おかわりだ!!」
呆れる三人を見てアフロディーテが笑みを浮かべるのであった。