ケイリオスリオンでの戦いの後僕はリルティルに背負われティルヘルムへと帰って来ていた。その後ご飯を食べてお風呂に入り睡眠をとり今に至る。
今日はリルティルと戦う日だ。僕がリルティルにお願いした事をリルティルは叶えてくれた。その成果を見せる時。
今日の朝の鍛錬はリルティルと戦うであろうコロシアムで行っていた。絶対に勝つという信念と少しの不安を胸に素振りをおこなっていた。そんな時。
「おはよ、相変わらず絶・頑張ってるわね」
「ん、おはよアルマス、ティニ」
「おはようございますユウさん♪」
思わぬ来客に素振りをやめてアルマスの方を見ていた。その肩の上にはティニの姿が。
「こんな朝早くにどうしたの?」
そう聞くとアルマスの表情が変わった。それを察して真剣に話を聞く事に。
「あのさ、私は奏官であるユウの事大っ嫌いだった。グリードに戦わせてばっかりで何もしないユウの事が」
「でも今は違う。グリードを救う為に毎日鍛錬して努力して勝てるかどうか分からない戦いに挑もうとしてる。だから、あのっ、その、、、」
悩んだ顔をしながら言葉を選ぶアルマスに向かい剣を向けた。
「いつだっけ?(私とも戦いなさいよ)って言ってくれたの。その言葉はさ、凄く嬉しかったよ。僕を奏官じゃなくて剣士として見てくれてるんだってね。だからさ、戦おうよ!」
「もぉう!私がそう言おうとしたのにっ!ユウの力、絶・私に見せてよね!」
「アルマス!?ユウさんはリルティルさんとの戦いを控えてるんですよ!?」
「大丈夫だよティニ」
「許可は取ったわ。ティニは大人しく見てなさい」
慌てるティニをコロシアムの席に座らせた後剣を構え僕と向き合い試合開始の合図と共にお互いに向かい駆け寄り剣を交わらせ合わせていた。
一撃一打、迷いのない剣技を繰り出し繰り合いまるで子猫同士が戯れ合う様な。遊びの範囲ではあるが一歩間違えばお互いを殺しかねない。お互いが真剣を使った遊び。
だけど僕もアルマスも遊びだなんて思ってはいない。この戦いはなんだろう、上手く言えないけどとても心地よいものだった。
剣と剣を交わらせ隙を探り合い睨み合うその姿は良きライバルの様だった。
「なかなかやるわね。もっと簡単に勝てると思っていたわ」
「僕の評価が上がったみたいで嬉しいよ」
「でも私にはまだラグナロクと戦った時のデウス・エクス・マキナの力があるわ。この力はみんなと繋がる最強の力。今その力を見せてあげるわ」
その言葉の後にうずくまり力を込めると背中から虹色の蝶の羽を出現させ宙に浮かび上がった。その姿は気高く、そして、美しい。
「本気で相手をしてあげる。上手く言えないけどこれが私の絶・応援なんだから!」
その前に立っているだけでビシビシと伝わる闘気。……ははっ、なんだよ、まだ朝なのに絶・熱い展開じゃん!
「ありがとねアルマス、、。ならさ、僕も全力で立ち向かうよ!」
剣を構え意識を覚醒させてゆく。深く呼吸をしてからギュッとネックレスを握り締め手を離した。
そして合図も無いのにお互いが同時に動き出した。
「ハァァァァァッ!!」
宙を舞いながら手から氷弾を放ち僕へと接近してくる。その氷弾を切り崩し飛行するアルマスと剣をぶつけ合う。まだみんな寝ているであろうがそんな事お構い無しに感高い金属音をコロシアムに響かせながら。
そしてギリギリと睨み合い剣と剣で押し合ってゆく。その後後方へ下がり剣を振りかぶる。
一振り、二振り、剣を振うたびに防がれ剣をぶつけ合わせてゆく。楽しかった、こうしてアルマスと戦える事が。嬉しかった。全力でぶつかってくれる事が。
遠慮なんていらない。純粋に力を試し合う試合に心が昂ってゆく。
「せいっ!」
「おっと!」
水平に斬り払ったのをしゃがんで回避し立ち上がりながら剣を突き上げる。それを予測していたかのように身体を翻し回避された。
突き上げた剣を振り下ろしながら踏み込み斬り込む。その剣筋がアルマスの羽を掠めた。
「っう!なかなかやるわね!絶・燃えてきた!」
「かかってこいよ!アルマス!!」
羽をはためかせ上空へと浮かび上がり羽をしぼませ僕に向かい滑空しながら剣を振るう。それを僕は逃げずに真っ向から受け止めた。
重たい金属音の後にその勢いで後ろへと押されてゆく。しっかりと踏ん張っているのにも関わらずジャリジャリと音を立てながら足元が滑っている。
それに耐えながら前をみるとアルマスの瞳が見えた。迷いの無く真っ直ぐに燃えるような闘志を宿した瞳で僕を見るその目が。
それを見てははっと笑い声が漏れた。そして鍔迫り合う剣を斜めに向け力を逃した。
「うわぁ!?」
急な力の変化に対応できなかったアルマスが変な声をあげながらバランスを崩した。その瞬間に足を高くあげアルマスの背を踏み付けた。
膝に手を置き全体重をかけると飛んでいたアルマスが地面に落ちその隙に首へと剣を運んだ。
「はぁ、まさか負けるだなんて思ってもいなかったわ」
「努力したからね。本当にありがとね」
「それは良いけどいつまで足乗せてんのよ」
そう言われて慌てて足を退けるとアルマスが立ち上がり服に付いた砂を叩き落としていた。
「背中向けてよ。踏んだから汚れてる」
「ん、助かるわ」
僕に背を向けその背に付いた足跡を丁寧にきれいにしてゆく。こんなもんか?
「ありがと。絶・強くなったわね。その感心したわ」
「みんなのおかげだよ。僕1人だったらこうはなれなかった」
そしてお互い何も言わなくても手を差し出し合いその手をしっかりと握り合った。
「もおぅ、、、アルマスもユウさんも無茶するんだから…」
健闘を讃えあう僕たちを見てティニが困った顔をしていた。きっとティニの苦労はこれからも続くのだろう。
「三人とも、朝食の準備ができましたよ」
そんな僕たちの元へリルティルが来てくれた。
「どうして私達の居場所が分かったのよ?」
「あれだけ大きな音を立てていれば誰だって気付きますよ」
そう言われてアルマスが間抜けた顔をしていた。そんな訳でみんなで朝ごはんを食べる事に。
「それでさ、ギルったらまた散らかしっぱなしで出て行ったのよ」
「それはアルマスも同じです」
アルマスとティニのやりとりにリルティルが相槌を打つ。そんな中僕はリルティルを見ていた。ティルと同じティルフィングである彼女に勝つ事ができたならティルに勝てる可能性は高まるだろう。だけど。
「パンを落としましたよ?」
「えっ?あっ、ごめんね」
一度戦い完封された相手との再戦。あの時感じたティルフィングが持つ底知れぬ脅威を思い出してどうも怖気付いてしまっていた。
「はい、どうぞ」
そんな事を考える僕のことなど知らずにリルティルは食後のコーヒーを目の前へ置いてくれていた。
「リルティルってティルと戦った事があるんだよね?どうだった?」
「グリードは強かったですよ。私一人では勝ち目はありませんでした」
「でも、私には仲間が居ましたし。それに、マスターが居てくれましたから」
そう言って懐かしむ様に遠くを見た後僕の方を向いて微笑んでくれた。
「後少ししたら試合をしましょう。片付けは私がしておくのでユウはゆっくりしていて下さい」
「僕も手伝うよ。何かしてないと落ち着かなくてさ」
コーヒーを飲み干し空いたお皿を持ってキッチンへ。スポンジに洗剤を垂らし食器を洗っていた。僕が洗った食器をリルティルが拭き棚へと戻してゆく。
そんな二人に会話は無く気まずくない沈黙が流れていた。
「先にコロシアムに行ってるね。時間になったらお願いね」
「分かりました」
そう言って部屋を出てコロシアムへ。何かをしようと思い考えたけど何もする気になれず寝転がりながら煙草を吸っていた。
(フゥーーーー)っと煙を吐き出すとその煙は空中を漂いゆっくりと風に流されその姿を消した。また煙を吐き出すと同じように消えてゆく。
…………………
「戦う前に少し話をしませんか?」
二本目の煙草に火を付けようとした時に優しい声が聞こえその方に目を向けるとリルティルの姿が。
「ん、良いよ?どうしたの?」
返事をして咥えていた煙草に火を付けていた。
「本来なら私はユウを止めるべきなのです。人間がキル姫と戦う事など死ににゆくようなものですから。でもユウは私が出した試練を超えてしまった。少しでも弱音を吐けば、諦めて貰えれば私がグリードの元へ行くつもりでしたのに」
「…………」
「お願いです、今からでも遅くはありません。諦めて貰えませんか?」
「僕の事を心配してくれてありがとね。でもさ、もう覚悟は決まってるんだよ」
煙草を揉み消してリルティルの方を向きそう言うとその顔は真剣そのものだった。
「そう言うと思っていました。天使と戦い獣を手懐け悪魔を退けたその力。私に示して下さい」
宙に浮くリルティルが炎を纏いその手に持つ剣が宙へと浮かび上がった。
「私に勝つ事ができれば明日天上世界へ帰してあげます。さぁ、剣を抜いて下さい」
「うん」
ネックレスをギュっと握りそれを離した後ゆっくりと剣を鞘から引き抜き両手でしっかりと握り構えた。
「世界樹に振るったこの力、今はあなたに振るいます。どうか負けて下さい」
その言葉の後からどうしようも無いほどの恐怖を感じていた。天使でも獣でも悪魔とも違う。どこか暖かく恐ろしい程の強さに。だけどそれを振り払い意識を覚醒させてゆく。
「どっからでもかかってこいや!!」
自身を奮い立たせる為雄叫びを上げ相手を見定めてゆく。リルティルは宙に浮き手に持つ剣も宙に浮いている。それがどう振るわれるのか、その他にも攻撃手段があるのか。それを見極めたい。その為にも攻め込む。
瞬時に反撃ができるように剣を構えながらリルティルの元へと駆けてゆく。だが警戒しているのかまだ攻撃をしてくる事はなかった。
それならばと思い剣を振るうとリルティルが姿を消した。
「!?」
辺りを見渡しても音もなく姿が見えない。元から浮いているから足音で探す事もできない。空を見上げても姿が見えず浮かび上がった訳ではなさそうだ。
考え困惑していると剣だけが振り下ろされた。
「っ!あぶねっ!」
それをギリギリで回避してその方を睨んでも何も見えない。完全に姿を消してしまっている。
「早く降参して下さい。でなければ戦闘不能に追い込みます」
どこからか声が聞こえるって事はこのコロシアム内には居るってことだ。だが、見渡しても気配を感じても全くと言って良いほどに何も分からない。
そうしているうちに再び剣が現れ僕を切り裂こうと振われた。それをなんとか弾き返すとその剣は溶けるように姿を消してゆく。
(攻撃する時だけ姿を見せるのか?それなら実体は見えなくなっているだけなはずだ……)
不可視の相手に戸惑い攻略法を考えるのだがその隙を与えられるはずもなく剣が振われてゆく。先程までなんとか合わす事ができていたが避けられない攻撃に傷を付けられ始めていた。
(そこにあるのに見えない。見えないのにそこにある)
これが攻略のキーワード。この空間を何かで色をつける事ができればきっとリルティルの姿が見えるはずだ。
「次で終わりにします。後は私達に任せて下さい」
(焦るな、考えろ。何か策を出せ……っ!)
限界まで頭をフル回転させ一つだけ思い付いた。これがダメなら諦めるしか無い。
閃いた事を試す為にコロシアムの壁際まで走り煙草の箱を開くと残っている煙草全てを指に挟んだ。その全てに火を付けるとモクモクと煙が辺りに漂い奇跡的に僕が向かった壁際が風上だったようでその煙は下へ、下へと流れてゆく。
その煙が揺らめいた。
「そこだっ!!!!」
揺らめきに向かい振り下ろした渾身の一振りに手応えを感じそのまま押し切ると不可視の剣が弾き飛ばされ地面に落ちた。
そしてその揺らめきに向かい剣を振りかざした。
「リルティル、そこにいるよね」
ゆっくりと揺らめきの中からリルティルが姿を見せてくれた。その顔は嬉しそうでどこか悲しみを宿していた。
「煙草の煙で私の居場所を探しだしたのですね。見事な作戦でした」
「僕が煙草を吸っていなければ負けていたよ。ありがとね」
一息付くとどっと疲れが押し寄せその場にへたり込んでいた。そんな僕の横にリルティルが座ってくれていた。
「ユウ、手を出して下さい」
「こう?」
手を差し出すとその手を両手で握ってくれた。そして僕の中に何かが流れ込んでくるのを感じていた。
「今のは?」
「私のキラーズを使いユウを強化しました。これが私からできる最善の応援です」
「それをしてリルティルには何も影響はないの?」
そう聞くとキョトンとし笑みを浮かべてくれた。
「私には何も問題はありませんよ。少し力を分け与えただけなので」
「良かった、、、なんか無理してるのかなって思ったからさ。それよりどうして姿を消す事ができたの?」
「私の纏う炎の熱で蜃気楼を作り出しその中へ隠れたのです。あっ、ユウが同じ事をしようとしてもできませんからね?」
「流石にそんな事しないよ、てか良くそんな事思い付いたね」
そう言って二人して笑っていた。
「そういえばレーヴァは?一度戦ってみたいんだけど」
「そう言うと思って探したのですが任務に出てるのか見つからなかったのです。一応家に置き手紙はしておいたのですが…」
「ふむ」
「そろそろ夕食の時間ですね。お疲れのところ申し訳ありませんが作るのを手伝ってもらってもよろしいですか?」
「うん、僕にできる事なら手伝わせて下さい」
その後リルティルと二人で台所に立ち夕ご飯を作っていた。今日の夕ご飯はエビチリとチャーハンのようで。
「リルティルって中華好きだよね?」
「美味しいですからね、嫌いでしたか?」
「そんな事ないよ?気になったから」
人数分作り終わり食卓へと運んでゆくとみんなが集まってきてくれていた。
「オベロン様、リルティル、アルマスにティニ、ギルも長い間お世話になりました。明日天上世界に帰るよ」
「以前ここに来た時より顔付きが変わっておる、覚悟を決めた良い顔になっているぞユウ殿」
「私に勝ったんだから負ける事は絶・許さないんだから!」
「私には何もできませんけどここでユウさんの勝利を祈ってますね」
「兄さんなら絶対グリードさんを連れて戻ってくるぜ!また二人で遊びに来てくれよな!」
「ユウなら大丈夫ですよ」
みんながかけてくれる言葉に泣きそうになりながら忘れられない夕ご飯を食べる事ができた。
ご飯を食べ終わりいつもよりゆっくりとお風呂につかり部屋に戻りベッドに腰掛けて剣の手入れをしていた。無茶な使い方をしたためか少し刃にかけが見える。丁寧に砥石で研ぎタオルで水気を切り油を塗ってあげる。
「ふむ」
磨かれた刃は美しく輝きその刀身は僕の顔を写すほどに。その美しさを眺めた後ゆっくりと鞘に収め眠りに就こうとしていた。そんな時扉が乱暴に開かれた。
「お酒持ってきたから飲みましょうよ!」
「アルマスたら、、、ユウさんごめんなさい」
「うん良いよ。飲もうか」
アルマスが持って来てくれたお酒をテーブルの上に並べてちょっとしたパーティが開かれていた。
「兄さん、あっアルマス居たのかよ」
「何よ、私が居たら嫌だって言うの?」
「そんな事ないぜ、俺も混ぜてくれよな」
そしてドアが開きリルティルが半身を覗かせていた。
「みんなここに居たのですね」
「リルティルも来たのね。飲みなさいよ」
「はい、ほらオベロン様も」
「う、うむ」
扉を全て開けてオベロン様の手を引きながら部屋へと入って来ていた。
「乾杯しましょうよ、ユウが勝つ事を祈って」
そう言ってアルマスが人数分のコップにお酒を注いでゆく。それが終わると一人ずつにコップを手渡してくれた。
「みんないい?いくわよ、絶・かんぱーーい!」
「兄さんじゃなくてアルマスが音頭とるのかよ!?」
「良いじゃないですかアルマスらしくて」
はしゃぐ五人を見ながら楽しい時間が過ぎてゆく。夜が開ければ始まる戦いの事を少しだけ考えながらもその楽しげな雰囲気に飲まれてゆく。