意を決して開いた扉の先はいかにも研究所らしかった。バイオ●ザートに出てきそうな筒型の水槽が何本も立ち並びその中は水で満たされているのか泡が上へと向かってゆくのが淡い光に照らされ見る事ができる。
見るからに怪しいのでそれに近付かないように進んで行くと鋭い何かを感じその場に立ち止まった。
「何奴」
その声を聞いた瞬間からゾクゾクと寒気を感じ嫌な汗が滲んでゆく。さっきのキル姫達とは次元が違う相手である事を本能が悟った。
深呼吸をしながら声が聞こえた方を見ると扉を背に僕を睨む黒髪の女性が立っていた。
「えっと、ラースで良かったよね」
「お前は、、ふっ、以前グリードに叩きのめされた奴か。何用だ」
「そのグリードに会いにきたんだよ。そこを通してくれるかな?」
「ならん。拙者はここを守護するようにと主君なら命を受けておる」
そう言った後にゆっくりと刀を抜き出しそれに合わせ剣を構えた。
「じゃあ僕が勝ったら通してよ」
「本気か?人間の分際でキル姫に勝てると本気で思っているのか?」
「思ってなければこんな所一人で来ないよ。かかってこいよ、ラース!!」
「良かろう。あの時拾った命を自ら捨てるその愚かさに免じて一撃で終わらせてやろう」
そう言った後に見据えていたラースの姿がボヤけ揺らめき消えていった。次の瞬間には眼下に迫るその姿が。
その一振りを見切り剣を合わせ距離をとった。
「一撃じゃなかったみたいだね」
「ほぉ、中々の腕前の様だな。だが、お前は既に拙者の間合いに入っておるぞ」
その言葉の後に姿を消した。そう思ってしまう程に素早く動き部屋には足音だけが響いていた。
「どこだ、どこから来る!?」
その姿を捉えるために四方を警戒するのだが目で追う事すらできず不意に放たれる剣技により至る所を斬られ血が垂れてゆくのだが不思議と痛みが無い。例えるなら髭を剃る時に顎を剃刀で切ってしまったように。それ程までの切れ味の刀。
どうする?壁に背を向け死角を減らすか?だが今居るのは部屋の中心だ。壁まで走る事など許されないだろう。
他に何がある?この目に見えない程のラースの動きを見極められる方法は、、、?
斬られた瞬間は痛くないのだが時間が経つとピリリとした痛みが押し寄せ痛みが邪魔で思考が働かない。それに迫るラースの剣技を捌かなければ。
それにしても強い。千年王国のキル姫達は霊装支配された能力を使うけどこのラースは能力は無いが自力が高すぎる。流石対キル姫制圧特殊部隊だ。
「くっ、、、」
そんなラースに押されじわじわと後退りをする僕の背が何かに当たった。チラ見するとあの筒型の水槽だった。
ん、一つだけ思い付いた。これがダメだったら諦めるしかないだろう。
「ひゃっはーーー!!ぶっこわれろー!」
よく分からん事を叫びながらその水槽を斬り払うとパリンっと音と共に大量の水が溢れ辺りに広がり大きな水溜りを作り出した。
「勝てぬと悟り自暴自棄となったか。哀れな」
「かゆっうまっ!」
剣を適当に振り回しながらそんな事を言っていた。もちろん気なんて狂ってない。
「その首拙者が貰い受けよう」
その言葉の後にラースが僕へと迫って来ていた。先程と同じ様に姿が見えない程のスピードで。だが。
「そこだぁ!!」
ラースの動きを完全に見切りその一閃を防ぎ驚いた顔を見た後に斬り払う。
「よしっ!どうした。かかってこいよ」
「ほぉお、水を溢しその跡で拙者の足取りを追ったか。さらにウツケの振りで拙者を謀るとは」
「正解!通してくれる気になったかな?」
「そこまでグリードに執着があると見える。だが。拙者の真打ちをくれてやる。それで終いだ」
ラースが刀を納めその柄を持ちながら腰を落とした。その姿に一片の隙も無い。ギュッと剣を握りしめて繰り出される攻撃に備えていた。
「ゆくぞ、黒式、、、、」
その言葉と共に姿を消した。位置を察する為に水溜りを見ると一瞬だけ揺らめくのが見えた。
「一紅閃っっ!!!!」
赤黒い煌めきと共に振り抜かれた一閃を受け止めるとあまりの威力に壁際まで吹き飛ばされてしまった。
「あぐっ!くそっいてぇ、、」
「良くぞ防いだ。だがその様子では次は耐えられぬ。行くぞ!」
全身が痛む中次に繰り出されるラースの一撃を防ぐ策を頭をフル回転させて考えていた。
「黒式、、、、」
考えが纏まる前にラースが一紅閃の体制をとった。それならばなんとかするしか無い。
「一紅閃っっ!!!!」
迫る恐怖に喝を入れ立ち向かおうと心を奮い立たせると身体の奥から何かが湧き上がってくるのを感じしっかりと目を見開いた。
見える。ラースが刀を振り抜こうとする姿が。それならばやる事は一つ。
「おぉりゃぁぁぁぁ!!!!」
ラースが刀を振り抜こうとした瞬間に剣を刀に当て勢いで鉄棒の様にクルリと前転し着地と同時に七元をラースの首元へと運んだ。
「僕の勝ちだ、ラース!」
「くっ、どうやらその様だ。殺せ」
斬りやすい様に首をグッと突き出され慌てて剣を納めた。
「そんな事しないよ。僕はティルに会いたくてここに来たんだし」
「情けを掛けるつもりか、主君の命すら全うできぬ拙者を生かすなど生き恥を晒せと申すのか」
「うーーーん、、、また海鮮取って来てよ。楽しみにしてるからさ」
「海鮮だと?っつ、、、頭が、、、」
「ゆっくり思い出しなよ」
頭を押さえたラースを見ながら煙草に火を付けゆっくりと歩き出し次の扉を開けた。
………………………………………………………
扉を開き前を向くとこの部屋は倉庫の様だ。通路は確保されているのだが大きな箱や良く分からない物があちらこちらに置いてある。それに天井には配管が通っている。
きっとこの部屋にも誰かが居るのだろう。警戒を解く事なくゆっくりと進んでゆく。それにしても身体に付けられた傷がもう治癒している、流石ネスの回復魔法だ。今度お礼におやつでも買ってあげよう。
そんな事を思いながら前を向くと積み上げられた箱の上に座る一人の女性の姿が僕に視線を向けていた。
「こんな所に来るなんて、ラースを倒したのですね」
この落ち着きがあり涼しげな声に聞き覚えがある。えっと、ラストだったかな。
「こんにちわラスト。そこを通してもらえるかな?」
「答えるまでの無い質問ですね」
静かな部屋に矢を引き絞る音が響いた。その音を聞き急いで近くの障害物の後ろへと隠れ様子を伺う。
「隠れても無駄ですよ」
ギリギリと引き絞り放たれた矢は障害物を容易く貫きながら入り口の方へと飛んでいった。
(どんな威力してんだよっ!)
考えられない矢の威力に焦りが募る。だけどここで焦れば相手の思う壺だろう。深呼吸をして落ち着いを取り戻そうとしていた。
(ラストとの距離は大体5メートルぐらいか?この障害物を上手く使い接近しなければ)
チラチラと様子を伺い状況を把握してゆく。だが相手は弓使いだ、容易く接近はできないだろう。
グルグルと頭の中を回転させ策を捻り出そうとしていた。
「そこですね」
冷たい声と共に放たれた矢が僕の前の箱を貫いた。考える時間は無い。
(くそっ、煙草が吸いたい、、、)
命を狙われるプレッシャーをかけられ身体がニコチンを欲する。だが煙を立てれば的にしかならないだろう。
ソワソワしながら辺りを前を見るとどうやら僕が隠れている障害物は段ボールのようだ。一度開けられたのか包装が甘い。ん、これなら。
策を思い付き畳まれた段ボールの上蓋をこちらへと曲げて付いてきていたテープで軽く固定しそこに火のついた煙草を挟み込んだ。
それを見て身を屈めながらゆっくりと移動してゆく。
やがてテープが火種に焼き切られピョコリと段ボールの蓋が跳ね上がった。
「そこっ!!」
その動きに瞬時に反応したラストがすかさず矢を打ち込んでいた。その隙に前方の障害物へと移動してゆく。
「くっ、上手く騙したようですね」
「褒めてもらえて光栄だよ」
前方にあった長い台の後ろに身を潜めた。これなら流石に矢で撃ち抜くことは無理だろうと煙草に火を付けていた。
(後4メートルぐらいか?)
ラストの方を覗こうとしたが打ち抜かれそうと判断しため息を吐いた。近づけば近づく程射撃が正確になるだろう。それでも勝つためには近づかなければならない。
上へと登る煙を眺めてゆくと天井にある配管が目に写った。シルバーの氷結防止が施された鏡のように反射するその配管が。
(ヤバいっ!!)
そう思った時にはもう遅かった。カキンっと硬い物を弾く音と共に矢が僕に降ってきた。
「ーーーーっっ!!!!」
その矢は僕の足の甲へと突き刺さり鋭い痛みを感じさせてくれた。
(くっそっ!配管に矢を反射させて撃ち抜いたのか、、、!?」
撃ち抜かれた足を引きずりながら物陰へと移動してゆく。次は上の配管にも気を付けなければ。
突き刺さった矢を無理やり引き抜きため息を一つ。治癒魔法がなかったら行動不能に追い込まれていただろう。
「いててててっ」
後距離は3メートル程だ。この距離なら走ればラストに攻撃する事ができるだろう。だが。それは相手も同じだ。一発を避けれれば僕の勝ち。一発当てれればラストの勝ちだ。
「ラスト!今から僕はここから出て君に攻撃する」
「宣戦布告ですか?それに動揺した私が矢を外すと思いでしょうか?」
「さぁ?どうだろうね」
さて。宣戦布告をしたのは良いのだがこれからどうしようか?僕を撃ち抜くために僕に矢を向けているはずだ。その一発をどうにかすれば僕の勝ちだ。
ん、これなら。そう思いカバンから食パンを一枚取り出しいつでも走り出せる体勢をとった。
物陰からひらひらと食パンを振るとそれに向かい矢が放たれた。今だ!!
一気に駆け出し前を見ると弓を構えるラストの姿が。
「覚悟」
照明の光に淡く照らされたラストはとても美しく軽く目眩を起こしそうだ。
ギリリッと引き絞る弦の音で我に返り意識を高め前を向く。
「沈めっ!!」
その言葉と共に放たれた矢をしっかりと見極めその矢を弾き返した。
「!!」
「僕の勝ちだよ。ラスト」
剣先を突き付けそう宣言するとため息と共に弓と矢を置いてくれた。
「あー疲れた」
そう言いながらラストの横に座り煙草に火を付けていた。
「あなたは何者ですか?ただの人間ではないようですが」
「人間だよ。ティルに会いに来たんだよ」
「呆れました。それと煙たいのですが」
「あっ、ごめん。もう少し我慢しててよ」
手で煙を扇ぐラストを見ながら最後に一口煙を吸い込みそれを灰皿へと押し込んだ。
「じゃあ僕行くね。またハープの演奏聞かせてよ」
「……今少しだけ誰か思い出したような気が、、、?」
考えるような仕草のラストを横目に次の部屋へ続く扉を開けた。
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……………………
次の扉を開けるとそこは円柱が何本も立ち並んだ部屋だった。その光景を不思議に思いながらゆっくりと進んでゆく。
しばらく進むと次の部屋へと続く扉が見えてきた。辺りを見渡しても誰の姿を見る事は出来ずそのまま扉へと近づいて行く。
「!!」
その時風切り音と共に飛来してきた何かを身を屈め回避しその何かの後を目で追ってゆく。
「よく躱したね。流石ここまで来ただけの事はあるよ」
パシっとその何かを掴み僕へと向けやっとその飛来してきた物の正体が分かった。
赤黒い大きな刃を付けその長さはグラトニーと同じぐらいの巨大な斧だ。
「やぁグラトニー。一応聞くけどここを通してもらえるかな?」
そう聞いた僕を鼻で笑い言葉を続けた。
「そこは通さないよ。どういう理由でここに来たのかは知らないけど。僕を倒せたら通る事を許可するよ」
まぁ、無理だと思うけどね。そう言って斧を構え直していた。それに立ち向かうべく七元を構え攻撃態勢へとうつる。
「こいよグラトニー!勝負だ!」
「勝てない勝負に挑むか、、そういう姿勢は嫌いじゃないよ」
さて、これからどうするかだ。とりあえず思い付いたのは距離を取り斧を投げた時を狙う。この円柱に斧をぶつけさせ動きを止めるか、だがそれは弱点になると理解しているはずだ。
「威勢が良いのは最初だけかい?来ないなら僕から行かせてもらうよ」
考えをまとめる暇もなく大斧を持ちながらグラトニーが駆け寄りその斧を振り上げる。
「くっ!」
その斧を地面へと振り下ろすとコンクリートでできているであろう床が砕け破片が散らばった。その光景に怯むとギロリと睨み上げその目線と同時に斧を振るう。
斧の軌道を見切り後退しながら回避してゆくが一振り、二振りと追撃が迫る。
「!!」
交代してゆく僕の背に何かが当たった。振り返る余裕は無いがきっとこれは円柱だろう。そんな僕に冷めた顔のグラトニーが迫る。
「ここまで来たから骨がある奴だと思っていたけどガッカリだよ。まぁ良い、僕の糧になってもらうよ」
「そう簡単にはいかないよ」
リルティルのキラーズを意識しその力を剣へと込め振り下ろされる斧へと向かい剣を突き合わせた。
ギギギギっと耳障りな金属音を立てながらその一振りを耐え忍ぶ。
「へぇ、こんな力を隠してたんだね。あのまま潰れていたらつまらないから良かったよ」
「褒めて貰えてうれしいよっ!!」
ギリギリと押し合い剣を斜めに傾けて力を逃しその隙になんとか距離を取る。
「いててっ、くそっ」
あの斧を受け止めてから両腕が痺れる様に痛む。生身で食らったら真っ二つだろう。
「休む暇は与えないっ!」
腕に気を取られた僕にパラシュが迫る。斧の柄を持ち替えながら短、中距離をカバーしながら大斧を振り回す。さっきは円柱を支えに斧を耐えることができたが何もなければ耐えることは無理だろう。
「このペチャパイ」
考えに考えた結果僕の口から出たのは悪口だった。
「今、なんて言った?」
「ペチャパイって言ったんだよ。気にしてるの知ってんだよ」
顔を真っ赤に染めて俯いたと思ったら身体をプルプルと振るわせ始めた。
「殺す。君がどれだけ泣き叫ぼうと殺すっ!!」
少し涙を浮かべ怒りの表情と共に斧を振い始めた。それをギリギリで回避しながら後方へ下がってゆく。
「誰かに揉まれたら大きくなるんじゃない?揉んであげよっか?」
「死ねっ!!!」
大きく身体を捻り勢いを付けた一閃を屈んで避けるとその斧は円柱に抉り込んだ。
「っつ!!」
「僕の勝ちだよグラトニー」
円柱に挟み込まれ抜けなくなった斧の隙間から剣先をグラトニーへ向けて突きつけていた。
「僕とした事がこんな挑発に乗るだなんて、、、」
「通してもらうね」
七元を収めグラトニーの横を通り過ぎようとした時にミシミシと嫌な音が聞こえてきた。
「危ないっ!!」
グラトニーの一撃に耐えられなかった円柱がグラトニーへ向かい倒れ始めていた。それに気が付いていないグラトニーを抱きしめ飛び退いた。
「大丈夫?怪我はなかった?」
「あぁ、、何故君は僕を助けたんだ」
「僕はここを通りたいだけだし。それに誰かが怪我をするとこは見たくないしさ」
「よく分からない人だよ君は。それよりその、胸の上の退けてくれないか?」
「えっ?」
身体を起こそうと手に力を入れるとフニフニと柔らかな感触。手元を見ると僕の手はグラトニーの胸を揉んでいる事に気が付き慌てて飛び退き頭を下げ謝っていた。
「違う!これはたまたまで!!」
「分かってるさ。助けてもらった事に免じて許してあげるよ」
少しムスっとした表情のグラトニーを見るとなんだか身体の力がぬけその場に寝転がった。
「疲れたからきゅーけ」
「…敵だった僕にそんな無防備な姿を晒すのかい?」
「敵だった。だから大丈夫でしょ」
「はぁ、君と会話をしていると頭が痛くなるよ」
「寝るから少ししたら起こしてよ」
「本当に君はなんなんだい?」
呆れた目線を向けると既に寝息を立てる彼の姿を見て盛大にため息を吐き出した。