僕は夢を見ていた。なんの変哲も無いいつもの日常の夢を。
僕の隣にはティルが居てくれて一緒に任務をこなし一緒にご飯を食べ一緒に眠る。代わり映えの無い毎日だけどそんな毎日が楽しくて充実していて。
「起きて、起きて」
「ん、、もー少し」
「早く起きないと間に合わなくなるかも知れないよ」
その言葉で僕は目を覚まし辺りを見渡すと僕の顔を覗き込むグラトニーの姿が。
「なんだグラトニーか」
「せっかく起こしてあげたのになんだとは失礼だと思わないのか?」
「そうだねごめん。グラトニーのお陰でよく眠れたよ」
うぅーんっと身体を伸ばしぼんやりしている頭をリセットしリュックを漁りパンとコーヒーを取り出していた。
「グラトニーも食べる?」
「本当に君は自由だね。、、一つもらうよ」
「ついでにコーヒーもあげるよ」
何も知らないグラトニーに渡したのはパンと噂の炭酸入りコーヒー。因みに僕も同じ物を飲む予定だ。
「へぇ、変わったコーヒーだね」
「アルマスってキル姫の一押しなんだよ」
二人同時にプルタブを起こしそれを一口。
「なんだいこのコーヒーは。凄く不味いよ」
「うえっ、何度飲んでも慣れない味だよ」
「なんでこんな物を持ってきたんだい?」
「三度目の正直ってやつかな?そろそろ行くね。また海鮮焼いてよ」
「海鮮?分かったよ。焼いてあげるから全部平らげてくれよ?」
そんなグラトニーに背を向けて次の扉を開けその奥へと進んでゆくと何も置かれてない部屋に出たのだがその部屋は薄暗くあまり見通しが効かない。
キョロキョロと見渡すと誰かが立っている事に気が付いた。
「へーーイ♪ここまで来るなんてナイスガッツね♪」
ん、この特徴のある話し方はプライドか。
「やぁプライド。ここを通して貰えるかな?」
「答えは、ノーだよ!」
手に銃を構えたと思うと光を集め始め魔弾を放ち始めた。それを右側へと走り避けてゆく。
「ちょこまかとアノーウィン!!」
薄暗い部屋のおかげでぼんやりと明るい魔弾を見失う事なく避ける事ができていたのだが逃げ回ってばかりでは勝つ事はできない。
「…………」
この魔弾も剣で弾く事はできるのだろうか?そう思った疑問を試すために七元をバットのように構え迫る魔弾を振りかぶり打ち抜いた。
するとパシュンっと心地良い音と手応えと共に打ち返す事ができた。この魔弾をぶつけてやろうと思い再び剣を構えプライドを挑発してゆく。
「プライド!わんもあぷりーず!」
「へぇ、、オッケー!ペインを希望だねっ!!」
再び放たれる魔弾を打ち返してゆくのだがなんだが野球をしているような気分になってしまう。
「これでデットね!!」
放たれた魔弾をプライドに向かい打ち返すべく剣を振り抜いた瞬間に眩い閃光が視界を奪い次の瞬間には鈍い衝撃が走り吹き飛ばされ背中を何かに打ち付けていた。
「ゔっ、、!ぐうっ、、」
「アハハ♪そのフェイス、最っ高にゾクゾクしちゃう♪」
「げほっゲホッ!!あぁくそっ!!」
どうやら魔弾を三つ重ねて撃ち出したようだ。一発目を弾けばその後ろにある魔弾とぶつかり閃光を放ち視界を奪った後三つ目を当てる策にまんまとハマってしまった。正面を焼き焦がされたような痛みと背中を壁に強く打った痛みに悶えながら立ちあがろうと力を込めてゆく。まだ立てる。まだ戦える。
魔弾を弾く事を意識されている以上迂闊に弾き返すのは危険だ。それならば回避しながら接近するしかない。
キラーズを両足へと意識してトントンっと軽くジャンプした後に一気に駆け出してゆく。
「ナイススピィ♪でもデットねっ!!」
放たれる魔弾をジグザグに動き回避しながら最短距離で接近してゆく。そして後数歩剣が届くという所でプライドがにぃっと笑い右目を瞑った。
「バーーーン♪」
床に魔弾放ち砕かれた床が飛散し僕の顔へと舞い上がり視界を奪ってゆくその中を駆けプライドへと向かう。
「僕の勝ちだよプライド」
左手で銃を持つ手を掴み右手の剣をしっかりと首筋へと向けていた。
「ちっ、どうして今のが見切れたんだい?」
「同じ手を使われた事があってね。おかげで僕の名前がヨハンに乗らずに済んだよ」
そう言うと手から銃を離し床へと転がるのを見てから剣を納め煙草を咥えそれに火を付けていた。
「君は一体何処へ向かっているんだい?」
「この研究所の最奥かな?できればそれまでに会いたいんだけどね」
「ふうーん?それより君の事何処かで見た事があるような気がするよ」
「ゆっくり思い出しなよ。またカクテル作ってね」
「カクテル??ん、オッケー♪最高なのを作ってあげるよ♪」
「楽しみにしてるよ。じゃあまた今度ね」
プライドに背を向けて次の部屋へ続く扉を開けその奥へと進んでゆく。
…………………………………………………………
次の部屋は何も無くだだっ広い空間が広がっていた。何処にでもある広い普通の部屋。ただ一つ問題を挙げるとすればその部屋の中央に槍を持った女の子が佇んでいる事か。
「えっと、エンヴィーだったよね?トマトジュースあげるからここを通してくれないかな?」
「ダメです。私は誰も通すなと言われていますので」
「交渉は決裂だね。じゃあ僕が勝ったら通してもらうよ」
「今交渉したつもりだったのですか?まぁ良いです。あなたを殺した後そのジュースを頂きます」
やっぱりトマトジュース飲みたいんだっと心の中でツッコミながら剣を構え戦闘態勢へ移り相手を観察してゆく。
赤黒い槍を両手で持った華奢な少女は蔑んだ瞳で僕へと眼差しを送っている。殺意を込めたその眼差しを。
「そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ」
「うるさいですね」
お互いが距離を詰め剣と槍をぶつけ叩き合わせギリギリと睨み合う。
巨大な矛先に鋭く尖った尻手。その両端を武器として使うだろう。気を付けなければ。
「食らいなさい!」
矛先を跳ね上げ剣を浮かせるとクルリと回り尻手の一突きをなんとか躱し飛び退き距離を取ってゆく。
「危なかったよ」
「まだ軽口を叩く余裕があるのですね。嫉妬しちゃいそうです」
「次は僕の剣技を見せてあげるよっ!」
走る僕に向かい突き出された矛先を躱しその間へと割り込んでゆき一閃を繰り出すのだが槍を立て柄で塞がれた。その隙にその柄へ向かい手を伸ばした。
「よしっ!」
「くっ!離して下さい!」
「ここを通してくれるなら離してあげるよ!」
エンヴィーが柄を離せと力を込めるがそれに追従する様に動きその手を離さずについて行くのだが。
「えいっ!」
「アーーーーーオッ!!!」
上を意識しすぎてガラ空きの股間を蹴り上げられその痛みに思わず手を離してしまいその場に倒れ込んだ。
「ちょっ!ちょっとタイム!そこは無しだって!!」
「いいえ、死んで下さい!」
うずくまり手を突き出す僕に向かい突き出された槍を転がり避けようとしたのだが左肩を抉られてしまった。
「あぁもうっ!!」
とりあえず痛い。股間と肩と痛みが渋滞する中なんとか立ち上がり距離を取るべく壁際へと下がってゆき傷口を押さえため息を吐くと徐々に痛みが引いてゆくのを感じていた。
(お菓子じゃなくてご飯に連れて行こう)心の中でネスに感謝しながら再び剣を構えエンヴィーを見据えてゆく。
さーてここからどうするかだ。武器相性とはいわないけどかなり手強い相手だ。とにかく槍の扱いに長けている。その牙城を崩さなければ。考えに考えた結果僕の口から出たのは悪口だった。
「貧乳っ」ボソッ
「!! 今、なんて言いましたか?」
「貧しい乳って言ったんだよ。小声で言ったんだけど聞こえちゃった?」
「別に私は気にしていません。貧乳はステータスです」
「じゃあアルテミスの隣に居ても何も感じないんだ?」
「はい、これは個性です」
…………どうやら作戦は失敗だったようだ。貧乳を気にする事なく平然と胸を張られてしまった。
「…………そうだよね!うん!貧乳って良いよね!一度揉んでみたいと思っていたんだよ!」
剣を納め両手を突き出しモミモミと揉むような動きをするとサッーーっとエンヴィーが引いた顔をした。
「な、何を言い出すのですかっ!?」
「貧乳は世界を救うんだよ!早く揉ませてよ!!」
そのままニヤニヤしながら近づいてゆくと槍を離し両腕で胸を守るように手を組んだ。今だっ!!
キラーズを両足に意識して一気に駆け出しエンヴィーへと飛びつき押し倒した。
「貧乳ばんざーーーーいっ!!」
「い、いやぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
エンヴィーのお腹の上に座り見下ろすと目に涙を浮かべたエンヴィーの姿が見えた。
「僕の勝ちだよエンヴィー!!」
「分かりました!分かりましたから早く退いて下さいっ!!」
「あっ、ごめんね」
慌てて身を引くと起き上がり思いっきりビンタを食らった。
「この変質者!!乙女の敵ですっ!!」
「本当にごめんね、、、でも勝つ為の作戦だったんだよ」
「良いから早く私の前から消えて下さい!!!」
「・・・・はいっ」
口の中に広がる血の味を噛み締めながら次の部屋へ続く扉を開けていた。戦いには勝つ事ができたけど大事な何かを失ってしまった気がする。
盛大にため息を吐きながら部屋を見渡すと広い部屋にポツンとソファーが置いてありその上に寝転がる女の人の姿が見えた。
起こさないように近づくと長い銀髪が見えてきた。どうやらスロウスがお昼寝中のようだ。そうなればやる事は一つだ。
足音と気配を殺しながらゆっくりと次の扉へ進んで行くと背後から異様な殺気を感じ恐る恐る振り返ってゆく。
「私が寝てる隙に通ろうだなんて考えが甘すぎると思わないの?」
「僕は平和主義だからね。できれば戦わずに通りたいんだ」
「ふぅーん。めんどくさいけどそこを守れって言われてるからね。容赦しないよ」
ソファーから起き上がり伸びをした後長髪をかき上げると狂気を孕んだ瞳で僕を見据えゆっくりと剣を構えた。
「っ!!」
その瞬間から爪先から頭の上まで縮み上がるような恐怖を感じていた。間違いなくこのスロウスは強い。だけど僕はそれに立ち向かわなければいけないんだ。
「ここを通させてもらうよ」
剣を構えしっかりと柄を握りしめ全身へとキラーズを意識し前を向きスロウスを見据えた。
「面倒なの嫌いだから、さっさと死んでね」
タッっと足音が聞こえた瞬間には眼下に迫るスロウスの姿が。そのまま勢いを付けた一振りが迫る。
それを剣を立て防ぐとギャリギャリと金属が擦れ合う音が響き反撃に出ようとした時にはもうその姿は無かった。
「ふぁーあぁ。ねぇ、やるならちゃんと相手してくれない?こっちは滾ってるんだけど」
背後から首へと伸びる剣に言葉が出なかった。一瞬すぎて理解が追いつかない。
「一撃じゃつまらないからね。痛ぶって痛ぶって痛ぶって、自分から殺してくれって頼むまでは遊んであげる」
その言葉の後に背中を蹴られ前へと押し出されながら振り返るとスロウスの姿が。
「遅い」
僕の前にあったスロウスの姿が消えると同時に背中に焼けるような痛みが走る。
「ーーーーーーっっ!!!!」
傷口を押さえる事など忘れ剣を握りしめるのだがもうその姿は無く再び身体の何処かを斬られた痛みだけがその場にあった。
「はあっ、はあっ、はあっ、、、」
ヤバい。強すぎる。速さも剣技も別格。こっちは本気なのにスロウスは遊びとしか捉えてない。その証拠に致命傷は与えずただ痛ぶっているだけだ。
ポタポタと全身のどこかから垂れる血の音だけが妙にはっきりと聞こえてくる程に精神を研ぎ澄ませているのにあまりにも無力。それでも剣を構えるのはやめずにスロウスを見据える。
「もっと泣き叫べば良いのに。そしたら嬉しくてすぐ楽にしちゃうかも」
「残念だけどその希望には応えられないね」
「今、イラッとした」
こうして喋っている間にも治癒は進み痛みはもう無い。なら丁度いい餌を演じるまでだ。両手で持っていた剣を右手で持ちながら左肩を押さえ辛そうな表情を浮かべ俯いた。
「まだ楽にはしないから」
再び姿を消した瞬間に左足を横へと突き出すと確かな手応えを感じた。
「あっ」
「そこっ!!!」
よろけたスロウスに向かい一閃を繰り出すとそれを見切り空中で身体を捻りながら回避し着地と同時に後ろへと飛び退いた。
「ベーーっだ」
「…………」
その時付けたお腹の傷を手で触ると手に付着した血をペロリと舐め取った。
「ふぅーん?やるじゃん」
「褒めてもらえて嬉しいよ。ついでにそこを通してくれるかな?」
「それは無理。やっぱり気が変わったから一撃で殺してあげる」
再び姿を消したスロウス。その時血に濡れた身体がひんやりと冷えたのを感じその方へと剣を振るうと確かな手応えを感じそのまま鍔迫り合った。
「この速さについて来れるんだ」
「スロウスのおかげだよ。なんでかは言わないけどねっ!!」
力ずくで剣を押しやり一閃を繰り出した時にはもうそこに姿は無い。すぐさま空気の流れを感じるのだが四方八方どこを感じても感じられない。
(まさかっ!?)
上段へ剣を横に構えるとその隙間からスロウスの顔が見えた。振り上げた剣を振り下ろす姿と共に。
「しまったっ!!」
パキンっと甲高い音と共にあまりの威力に剣を手放してしまった。そして見上げると空中で一回転するスロウスの姿が。
「じゃあね」
その言葉と共に振り下ろされる剣の柄を握り止めるがそのまま体制を崩しマウントを取られていた。
「ぐっ、、、くっぅぅっ、、、!!」
「まだ耐えるんだ。早く楽になっちゃえば良いのに」
上から降り下ろされる剣を必死に止めているのだが体勢が悪くジワジワと押されてゆく。
「ねぇ、早く死んで。私寝たいんだけど」
「君みたいな美人に殺されるならそれも良いかもね」
もう目の前に迫る剣に諦めの言葉が出てしまった。そんな時脳裏に浮かんだ。あいつの笑顔が。
[マスター、今日はどこに行きましょう♪]
そうだ。あと少し、あと少しでティルに、ティルに会える!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
諦めかけた自分に喝を入れブリッジでスロウスの身体を浮かせその隙にマウントから脱出し剣を拾い上げそれを鞘へと納め腰を落とした。
「黒式、、、、」
「くっ!」
「一紅閃光っっ!!!!」
そしてスロウスが振り返るよりも早くその首へと剣を押し付けた。
「僕の勝ちだよスロウス」
「あぁーあっ。まっ、そこそこ楽しめたから良っか。早く殺しなよ」
「そんな事しないって。通らせてもらうね」
剣を納め次の扉へ向かい歩いてゆくと力が抜けその場に倒れ込んだ。
「あははは、、、、はぁっ」
小さく笑いその後意識を手放していた。