※この作品はR-18です。

黒ティルと僕と   作:やす、

192 / 201
神令ネスとリサナウトが綴る甲賀忍法帖!


忍法合戦で命を散らせた20人を救いハッピーエンドを目指すお話。


リサナウトのキャラが崩壊気味ですが最後までお付き合いください。


ネス「バジリスクですか?」 リサナウト「そうなのよ」

ケイオスリオンにある開店前のパチンコ店に並ぶ行列の中に一人の女性の姿が。

 

 

(ふふふ、この抽選で私は一番を引き当てる。これは予言ではないわ、確定事象の報告よ)

 

 

ニヤけを隠しながらクジを引き開封するとそこには1の文字が。

 

 

(後は開店を待つだけね)

 

 

既に確定した勝利を感じながら堂々とドアの前の椅子へと腰掛け開店を待つ。

 

 

【これより開店です!当店へお越しの諸君。悪魔の様な引きを!】

 

【いらっしゃいませー】

 

 

店員がドアを開きお辞儀をする店員には目もくれず店内を早足に進み迷う事もなくスロットコーナーへ行きバジリスクと書かれた島へ。

 

 

(この台よこの台)

 

 

バジリスクコーナーの角台へと座りサンドへとお札を投入しボタンを押すとジャラジャラと流れるコインが台の下皿へと。それを台へと投入し遊戯を始めてゆく。

 

 

(何故私がこの台、バジリスク絆に迷う事なく来たのかって?この台の設定は6なの。それも昨日の夜クロノスの力を使いこの目で見た確定された6。設定が6だとどうなるのかって?それは私が積む箱を見ていれば分かるわ)

 

 

あっという間に無くなってしまったコインを足す為に二枚目をサンドへ。

 

 

【バジリスクチャンス確定!】

 

 

(やっと来たわね。このBCを引く為に400ゲームほどハマってしまったけど設定変更のモードに引っ掛かっていればBTに入るはずだわ。6は確定してるからBCは天善で良いわね)

 

 

【甲賀卍谷】

 

 

(ふっ、確定された結果に争うつもりね。良いわ、相手になってあげる)

 

 

そう呟きながら三枚目を投入してゆく。

 

 

……………

…………

………

……

…

 

 

(6の癖に11回目のBCまでいくだなんて、まぁ良いわ。このATで取り返し捲れば良いだけの話よ!)

 

 

【ぐっはぁっ!!】

 

【ふはははは】

 

【バジリスクタイム〜終了〜】

 

 

(まだよ!私は諦めない!11回目のBC天井でATに当たったから次回のBCはAT確定よ!)

 

 

【ぐっはぁっ!!】

 

【ふはははは】

 

【バジリスクタイム〜終了〜】

 

「まだです!まだですっ!!」

 

 

【甲賀卍谷】ジャン

 

 

(・・・・・)

 

 

二度目のバジリスクタイム終了を見てガックリと肩を落としたリサナウトは無言で席を立ち店外へと。リサナウト、−95k。

 

 

(私に何が足りなかったのか。そうよ!愛よ!いくら設定が良くても原作への愛が無ければ台は答えてくれないわ!そうと決まれば、、、!)

 

 

高度な治療魔法を扱えるキル姫を思い浮かべある方角を見つめ不敵に笑うとその方へと走り出した。

 

 

 

「やっぱり来たわねリサナウト。でも私の国の店で不正を働こうだなんて考えが甘すぎるわよ」

 

「リサナウトがどうしたんだい?」

 

「あれが昨日の夜店に忍び込み設定を見ている姿が防犯カメラに映っていたわ。だからそれを利用させて貰ったのよ。彼女が座る台を予測し設定を1に変えさせて貰ったわ」

 

「リサナウトの能力はなんなんだい?」

 

「彼女の能力は刻を自在に巡る力よ。確かに脅威だけど私の勝ちね」

 

 

高笑いをするフェイルノートにパラシュがジト目を送る。

 

 

 

 

その頃ティルヘルムでは夕食が終わり各自部屋へと戻っていた。ネスも例外ではなくココアを片手に自室へと戻っていた。

 

 

「明日は任務もないしちょっと夜更かししちゃおっかな」

 

 

そう言いながら本棚から一冊の本を取り出しそれを持ち椅子へと腰掛けた時、異様な気配を感じ取り振り返るとドアにもたれながらこちらに目線を向けるリサナウトの姿が。

 

 

「私に気がつくとはにゃるわね。あなたに私の手伝いをさせてあげるわ」

 

「私の部屋から出て行って下さい」

 

「あぁ!ちょっと!?」

 

 

邪魔者を排除すべくドアを開けリサナウトを追い出すとバタンとドアを閉め何事も無かったかのように椅子へと戻り腰掛けた。

 

 

「その反応はダメね。マイナス50ポイントよ」

 

「!?」

 

 

先程部屋から追い出したはずのリサナウトが机の真横に立っていた。ドアが開く音も気配すら感じなかったのに。

 

 

「・・・出て行って下さい」

 

「嫌よ。私のお願いを聞いてくれるのなら出て行ってあげるわ」

 

 

ドヤ顔で見下ろしながら話す。その瞬間に杖で横一閃を繰り出した。

 

 

「どうして当たらなかった、そんな顔をしているわね」

 

 

無防備な横っ腹を狙った一閃は空を切り気がつけば背後から声をかけられていた。動きが早すぎる。目で追えないとか言う次元の話ではない。

 

 

「私はネスと戦いに来たのではないわ。もう一度言うね、私の手伝いをしてもらえないかしら」

 

 

手の内が見えない相手に戦いを挑めば返り討ちは間違いないだろう。リサナウトを睨みながらも話を聞く事に。

 

 

「過去に忍者同士の熾烈な戦いがあったわ。伊賀と甲賀の忍者が血を血で洗う戦いがね」

 

「それがどうしたと言うのですか」

 

「その戦いは言わば代理戦争。第三者の為に命を散らせた忍者達を私は救ってあげたいの。それにはネスの治癒能力が必要だわ。だから私と共に慶長19年に来て欲しい」

 

 

慶長と言えば安土桃山時代から江戸時代にかけての年号である。現在からでは約400年も前だ。

 

 

「そんな昔の戦いなど知りません。それに過去に戻る事は不可能です」

 

「クロノスの力を使えば刻の流れは私の思うがまま。もちろん報酬は出すわ。悪い話では無いと思うんどけど」

 

「お断りです」

 

「忍者達を縛る運命の鎖を断ち切るにはネスの力が必要なのよ!お願い!一生のお願い!」ドゲザー

 

「・・・・・分かりましたよ、、」

 

「ネスならそう言ってくれると確信していたわ」ドヤッ

 

 

ドヤ顔で手を差し伸べるリサナウトにかなりの警戒心を抱きながらその手を取った。

 

 

「交渉成立ね。じゃあ時間旅行(タイム・トラベル)へご招待よ」

 

 

リサナウトの背後に巨大な歯車が浮かび上がると空間に大きな扉が現れた。リサナウトに手を引かれ扉に入るとふわっと体が浮かび上がり何か抜ける様な感覚が。

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

「ここは・・・?」

 

「駿府城よ。静岡県にある徳川家の城と言った方が分かりやすいわね」

 

 

リサナウトが指差す方を見ると何百もの桜が咲き誇りその後に悠々と聳え立つ城が。その城下の広場には何人かの人の姿が見える。

 

 

「甲賀弾正に伊賀のお幻、風待将監に夜叉丸ね。他の人は徳川家康にそのお供よ」

 

「他の人の説明が雑ですね、それであの人達はここで何をしているのですか」

 

「見ていなさい。始まるわ」

 

 

弾正、お幻の開始の合図と共に風待将監、夜叉丸が動いた。見ると風待将監は長い手足を持ち背は曲がり背中が異様に膨らんでいる。

 

 

対する夜叉丸は精悍な顔付きの若者。それぞれが異様な殺気を噴き出しながら相対し動いた。

 

 

「これでも喰らいなおっさん!」

 

 

夜叉丸が両手を動かすと不可視の何かが将監へと放たれた。それを躱すべく巨大な庭石の後方へと身を隠す。

 

 

グルグルと岩と将監に巻き付いた何かはギシギシと音を立て締め上げてゆく。

 

 

「あれはなんですか」

 

「夜叉丸の武器よ。確か女の髪を撚り合わせ特殊な油で仕上げた縄だったはず」

 

「へぇぇ」

 

 

 

「ぐ、ぎぎぎ、、、」

 

「無様だぜ、甲賀のおっさんよぉ!」

 

 

夜叉丸が腕を張ると締め上げた黒縄が岩を砕いた。その刹那、岩を砕き一瞬緩んだ隙に身を屈ませ黒縄より抜け出し何かを口から吐いた。

 

 

 

瞬きをした瞬間に状況は目まぐるしく変わる。先程まで優勢であった夜叉丸の顔に何かが付着し取ろうともがきその肩に将監が手を置く。

 

 

「あれは?」

 

「将監の武器ね。彼の痰は恐ろしく粘度が高いの」

 

 

「良い様じゃな若造」

 

「・・殺す、甲賀者!」

 

 

顔に付着した何かを剥がすと前を睨み縄を打ち払う。それを躱し将監は城へと登ってゆく。

 

 

垂直に近い城壁を両手両足のみで駆け上がってゆく将監。その後を縄を使い城壁を登る夜叉丸。あれ程の身のこなしに観客の顔に汗が浮かぶ。

 

 

やがて城の頂上へと登り切り端端で睨み合う。そして両者同時に動いた。

 

 

「もう良い、やめさせよ」

 

【【やめーーーーーっ!!】】

 

 

徳川家康の声を受け静止の合図を出すと首に縄をかけられた将監、顔に口を向けられた夜叉丸が動きを止めギリリと歯痒ゆそうに睨んだ後広場へと降りてゆく。

 

 

「書を持って参れ」

 

 

家康が家来に告げると台にすずり、筆が持ち寄られ二つの巻物が手渡された。

 

 

「御主ら徳川の世継ぎを定める為に戦ってくれる所存があるのか」

 

「徳川家のためならず服部様のお許しが頂ければいつなりと」

 

「うむ、ならば伊賀衆甲賀衆の名を巻物へと書き記せ」

 

 

頷き両名が巻物を開き真白へと名を記してゆく。伊賀十名甲賀十名の名を記すと家康へと手渡す。その二つに命を書くと二つを空へと投げ打った。

 

 

二つの巻物を取り将監、夜叉丸が走りやがて姿を消した。

 

 

「あの、端的過ぎて何も分からないのですが」

 

「簡単に説明をしてあげるわ。伊賀と甲賀は何百年と両国同士で争いをしていたの。それを初代服部半蔵が不戦の約定を定め両国の争いを鎮めたのだけどそれを今徳川家康が世継ぎを決める為に不戦の約定を解いたってことね」

 

「はぁ、、」

 

「それよりも行くわよ」

 

「何処へですか」

 

「安倍川よ」

 

 

時刻は夕刻を刻み赤々しい夕焼けが見え始めた。その安倍川のほとりに二人の老人の姿が。

 

 

「妙な事になりおったわい」

 

「ほんに、そうですねぇ」

 

 

夕焼けに照らされるは甲賀弾正とお幻。どちらも神妙な顔付きで沈む夕日を見上げていた。

 

 

「400年もの争いの果てに孫の婚約でようやく和睦しようとした矢先に・・・」

 

「弦之助と朧はいまごろ土岐峠で会っておるかもしれん」

 

 

 

(あの二人って本当は戦いたく無かったんじゃ無いですか)ヒソヒソ

 

(そうね。あの二人は元々恋仲だったのよ。だけど、待って、動くわよ)ヒソヒソ

 

 

 

「婆、御主は甲賀卍谷十人衆を良く知るまいな」

 

「ふ、ふ、ふ。弾正どのこそ伊賀鍔隠れ十人衆を良く知るまいな。400年血と血を混ぜあおた魔性の術をーーー」

 

「何を抜かす。九人であろう」

 

 

冷たく弾正が語り音も無く五歩下がり懐から巻物を取り出した。

 

 

「間抜けの夜叉丸は偽の巻物と気付かぬようだな。どれ」

 

 

立ちすくむお幻の首から滴る血を指に取ると巻物を開き伊賀鍔隠れ十人衆に刻まれたお幻の名を血で塗りつぶした。

 

 

次に弾正がぷっと何かを吐くとお幻の首に針が突き刺さった。先程の針と合わせ十字に針が老婆の首に突き刺さる。

 

 

「この針には動物すら即死させる毒が仕込んである。・・これでも昔恋焦がれた女よ、水にて葬ろうか」

 

 

目をカッと見開き立ちすくむお幻を安倍川に流そうとした時一匹の鷹が上空から舞い降り巻物を鷲掴み上空へと舞い上がる。

 

 

「ーーーーー!!!」

 

 

鷹に気を取られた瞬間に死んだと思われたお幻が首を貫いた針を引き抜き弾正の胸へと突き立てた。

 

 

断末魔の悲鳴を上げ川へと倒れ込んだ弾正を見下ろした後崩れ落ちたお幻が折り重なり安倍川を流れてゆく。

 

 

「・・・・・・・」

 

「何ぼさっとしてるの!いきゅわよ!」

 

「ひゃい!?」

 

 

二人の結末に愕然としているとリサナウトにお尻を叩かれ我に返りリサナウトの後を追い川へと飛び込み二人を岸へと引きずりあげる。

 

 

「猛毒によりかなり体力を消耗していますが私にかかれば!」

 

 

寝かされた二人に杖を向け呪文を唱読し光の球を当てると青白い顔にふっくらと赤みが戻ってきた。

 

 

「まだ眠っていますけどこれで大丈夫です。この二人はどうするのですか?」

 

「刻の牢獄へ入れておくわ。もちろん甲賀と伊賀に分けてね」

 

 

リサナウトの背後に出現した二つの扉に二人を押し込んでゆく。

 

 

「次は甲賀に向かうわ。竜は出せるわよね」

 

「人使いが荒いですね」

 

 

文句を言いながらも竜を召喚し背に乗ると翼をはためかせ宙へと浮かぶ。

 

 

「西へ向かいなしゃい」

 

 

こうこうと山へと沈む夕焼けを目指し一匹の竜と二人が空を進む。目指すは甲賀。

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

登りゆく朝日に照らされる土岐峠を歩く二つの影が。

 

 

「いやぁ、、まさか弦之助様が伊賀の里へと夜這いに参るとは恐れ入った」

 

「たわけ」

 

 

長身の男の背後を歩くは鞠の様に太っちょな男。名を鵜殿丈助という。弦之助様と呼ばれた男は甲賀弾正の孫、甲賀弦之助だ。丈助の独り言を気にもせず山道を進む。

 

 

 

 

 

その様子を遥か上空から見下ろす者が。

 

 

「弦之助様よ弦之助様!やっとこの目で見る事ができたわ♪」

 

(うるさいですねぇ、、、)「それであの二人は何処へ向かっているのですか?」

 

「甲賀から土岐峠(御斎峠)を抜けて伊賀を目指しているわ。弾正とお幻が駿府城に呼ばれた事を弦之助が違和感を感じて朧に会いに行く。ざっと説明をするとこんな感じね」

 

「でも不戦の約定が解かれた今甲賀と伊賀は戦うのですよね、危険すぎます」

 

「まだその事は誰も知らないのよ。駿府からここまでは63里(251キロ)あるのよ。例え忍びの脚だとしても一夜はかかるわ」

 

「例えの意味が良く分かりませんが」

 

「こんな言葉を知っているかしら?急がば回れって」ドヤァ

 

 

ドヤ顔で語るリサナウトを無視して目線を二人の元へと戻してゆく。

 

 

 

 

 

「その件は甲賀重鎮共大変大不評です。ですが和睦が果たされ弦之助様が祝言をあげられるのなら俺ら家来は決して邪魔は致しませぬ。それどころか里を上げて万歳三唱のしだいで」

 

「かたじけない」

 

 

沈んだ声を出す弦之助に戯けた話をかけ伊賀を目指し歩む。

 

 

 

 

 

「どういう事ですか?」

 

「伊賀と甲賀は宿怨の一族。長年の恨みが互いにあるのだけど弦之助様が朧と結婚して幸せになれるのであれば丈助達は何も言わず賛成するって事よ」

 

「それ程までに慕われているのですね」

 

「弦之助様は甲賀の次期首領なのよ、彼が言えばカラスは白にもなるわ。でも決して抑え込んでいる訳では無いのよ。ラグナロクみたいな感じかな」

 

「成る程」

 

 

そう言われ妙に納得をしていた。ラグナロクも神令のリーダーだが私達に提案があれば受け入れ無理を強いる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「あれは」

 

「何やら掴んで飛んでいますなぁ」

 

 

二人が見上げた先に一匹の鷹が空を舞う。見れば何かがヒラヒラと靡いてる。

 

 

「丈助!あれをとれるか」

 

「もちろんでございます」

 

 

返事をするや鷹を追い山道を駆け走ってゆく。その姿は走るというよりも転がると言った方が正しいのだろう。ただでさえ丸い身体に息をたっぷりと吸い込み膨らんだ姿はまるで鞠の様。意志のある鞠が山道を転がりながら鷹を追う。

 

 

道中木にぶつかり岩にぶつかろうと構わず進みやがて天まで伸びた樹を転がり上がると枝に立ち飛ぶ鷹目掛け苦無を投げ打った。

 

 

異変に気が付き慌てて旋回したのだが丈助が投げた苦無が羽を掠め身を翻すが掴んでいた物が地へと落下してゆく。

 

 

甲高い鳴き声を上げながら降下し落ちた巻物を掴もうとしたのだが先に巻物を掴んだのは樹より転がり降りた丈助であった。

 

 

「鷹め、まさか巻物を掴んでおるとは」

 

 

弛ませた顔で巻物を開こうとした時異様な気配を感じ顔を上げるとそこに一人の老人の姿が。しわくちゃの顔に伸ばした白髭で老人だという事は分かるのだが異様に後頭部が伸びており常人では無い。

 

 

「それをこちらへ貰おうか」

 

 

丈助が手に持つ巻物を寄越せと手招きをする。その姿を見て丈助は考えた。

 

 

「これはこれは、確か伊賀小豆蠟斉ではござらぬか。いや、しばらくぶりです。いやはやこれより伊賀へ弦之助様と伊賀へと行こうとしていた道中でして。あいや、決して夜這いなどではござらんよ。駿府行きの話し、何やら胸騒ぎがございまして」

 

「あの鷹は伊賀のお幻様の鷹じゃその巻物は駿府よりお幻様が鷹に持たせた物、よこせぃ!」

 

「蠟斉よ、そこまで言うのなら一つ俺と遊びをせぬか」

 

「遊びだと」

 

「そう、忍法を使った遊びに勝った方がこの巻物を貰うと。どうだ蠟斉」

 

「若造が!遊びで命を落とす事もあると知れっ!」

 

 

言い終わるや蠟斉が足を下げ勢いを付け振ると離れた所に居た丈助の腹を蹴り上げバチンと鞭を打つかの様な音が響く。

 

 

「どうじゃ若造」

 

「おぉ、少し堪えたわい」

 

 

打たれた腹を撫でながらニヤリと笑い蠟斉を見下ろす。その姿を見て次は手を伸ばすと丈助の首に巻き付け締め上げる。

 

 

ぎじぎじと締め上げると丈助の首は脊髄の細さへと。

 

 

だが丈助はそこまで締め上げられた腕からするんと抜け出すとニンマリと笑う。

 

 

「蠟斉も年よのぉ、どれ、もっと打ってこんか」

 

 

ニマニマと蠟斉を笑う。対する蠟斉はあんぐりと丈助を眺めていた。

 

 

「俺の勝ちの様だな。巻物は貰って行くぞ」

 

 

高笑いと共に去って行く丈助をただ見送って行く。

 

 

 

 

 

 

「あの蠟斉という忍者は強く無いのですか?」

 

「相手が悪かっただけよ。蠟斉が振るう手足は普通の人間なら喰らえばひとたまりも無いわ。だけど丈助の弾力に富んだ体が威力を吸収し無効化したってところかしら」

 

「相性というものですね」

 

「そんなところよ」

 

 

 

 

 

上空より視線を向けると巻物を持った丈助が弦之助の元へと。

 

 

 

「弦之助さま」

 

「おぉでかしたぞ」

 

 

丈助より巻物を受け取った時山道からパキリと枝を折る音が。瞬時に顔を向けると着物を着たあどけない少女が姿を見せた。

 

 

「まっ弦之助さま」

 

「朧殿」

 

「どうして土岐峠へ?」

 

「爺の駿府行きに胸騒ぎがしよって伊賀に行けば何か知れると思い、朧殿こそこの様な場所にどうされたのじゃ」

 

「私も妙な胸騒ぎがして弦之助さまに逢いに行こうと」

 

 

そうであったかと朧に優しい視線を向けると背後に四人の姿が。

 

 

「朧さま、急に駆け出しては足元が疎かになりますゆえ」

 

「大丈夫ですよ朱絹。こうして弦之助さまに会えたのですから、、」

 

 

朱絹と呼ばれた女は真っ赤な着物を着直し朧へと少し困った顔をし直ぐに優しく微笑んだ。

 

 

「これはこれは甲賀弦之助どのに鵜殿丈助どの。それより先ほどこちらの方へ舞いった鷹を見ませんでしたか」

 

 

しゃがれた声で話すのは雨夜甚五郎。薄墨の肌に染みがより土左衛門を思わせる風貌。

 

 

「蠟斉の奴通りで言葉なく姿を消したと思ったら鷹を追ったのか」

 

 

頷きながらも目線は弦之助、丈助から離さずチリチリと敵意を放つのは蓑念鬼。ボサボサと長髪を背後へと流し袴の隙間から見える胸、腕は深い体毛に覆われている。

 

 

「それでお二人がたは何処へ参られるのか?」

 

 

優しく囁くは蛍火という女。紫の着物を赤帯で締め首元にはちろちろと舌を出す白蛇の姿が。

 

 

「伊賀の巻物ならばこれは返さねばならんな、何、まだ中は見ておらん」

 

 

弦之助が巻物を渡す姿を不満気に見届けた丈助。手渡された巻物を四人が中を開き目を通し一瞬驚愕の表情をとり直ぐさま巻き直した。

 

 

「甚五郎、一体何が書いてあるのかえ?」

 

「い、いえ朧さま。お婆様と甲賀弾正さま、あいたずさえて春の江戸を見物して帰ると」

 

 

巻物を懐にいそいそと詰め込みながら雨夜陣五郎は涼しげに答えた。

 

 

「まぁ。それは良い事で。そうだ、弦之助さま、丈助どの、良ければ鍔隠れの里に足を伸ばしてみるのは如何ですか」

 

「名案です朱絹。弦之助さまどうぞ伊賀へ来てくださいまし」

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にや弦之助、丈助の周りに五人程の人集りが。全く忍者というものは行動が早い。そう思いながら伊賀里へと歩く7人を上空から追跡してゆく。

 

 

「敵の根城である伊賀へ誘い込まれるなんて甲賀弦之助という男は気が緩みすぎてませんか」

 

「あの時伊賀者は巻物の中を見て弦之助様達には見せなかったの。つまり弦之助様達は不戦の約定が解かれた事は知らないわ。弦之助様は和睦を成せると信じてるから約定が解かれるだなんてこれっぽっちも思っていないし」

 

「さっきここまで遠くて巻物は届かないと言っていませんでしたか」

 

「それはさっきのお幻の鷹がここまで運んできたのよ!忍びの足とは言ったけど鷹とは言っていないわ」

 

「むぅ、じゃあまだ将監は甲賀へ辿り着いていないのですね」

 

「そうね。これからが忍法合戦の真骨頂の始まりよ」

 

 

 

 

 

 

しばし歩み一行は伊賀鍔隠れの里へ。爛漫な笑顔を浮かべる朧が弦之助の手を引きお幻屋敷を案内して回る。

 

 

 

 

 

 

「屋敷の中だと状況が分からないから中へ入るわよ」

 

「それだと見つかりますよね」

 

「私に任せなさい、不可視刻(タイム・インビジブル)!」

 

「えっと、今何をしたのですか?」

 

「私とネスだけ流れる刻の速さを変えたのよ。これで私達には彼らは見えても彼らから私達を見る事はできないわ。さぁ、私達も屋敷へ行くわよ」

 

 

自信あり気に語るリサナウトに押され手綱を操り屋敷の庭へと降り立った。

 

 

「こっちよ」

 

 

慣れた様子で屋敷を歩むリサナウトの背後を歩んでゆくと襖の前で立ち止まりそっと開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「お幻さまは死なれた」

 

 

甚五郎より手渡された巻物を開き血線の引かれた名を見て感情なく言い放つ。その瞬間筑摩小四郎、蓑念鬼、朱絹、蛍火、小豆蠟斎、雨夜甚五郎が一瞬目を開いたが言葉一つ発せず次の言葉を待つ。

 

 

「そして甲賀弾正も死んだ。朧様はこの事を知っておられるか」

 

「いえ、朧様にはお幻様、甲賀弾正は江戸の見物に行くと伝えてあるゆえ、巻物は見せておりませぬ」

 

「そうか」

 

 

薄気味悪く笑う男に指示を仰ぎ待つ。この男、薬師寺天膳はお幻が唯一対等に扱った男であり伊賀鍔隠れの里副統領である。

 

 

「天善様、夜叉丸どのは、、、?」

 

「名を消されておらぬところを見ると生きてはおるはずじゃ」

 

「、、、はい」

 

 

 

 

 

 

「なんだか天膳を見てたらイライラしてきたわ。一発やっちゃっても良いかしら」

 

「ダメです。それより初対面の人に良くそんな事思えますね」

 

「彼には何度も煮湯を飲まされてきたわ。ちょっと行ってくる」

 

 

その瞬間リサナウトの背後に歯車が浮き上がり動き始め姿を消した。

 

 

「ただいま。そうは言っても元の時間だからこう言う必要は無いわね」

 

「何をしたのですか?」

 

「天膳をギッタンギッタンのボコンボコンにしてきたわ。もちろん別の時間軸でね」

 

(はぁっ、、)

 

 

爽やかに髪をかき上げるリサナウトを冷ややかな目で見た後忍者の会話へと耳を傾けてゆく。

 

 

 

 

 

 

「この巻物と同じ物を駿府へ行った風待将監が甲賀へと運ぶはずじゃ。駿府を出たのがきのうの夕刻だとして50里走るのがせいぜいであろう。そこでじゃ、やつが甲賀に入るまでに討つ」

 

 

その言葉ににやりと口元を歪ませ念鬼、小四郎が立ち上がる。

 

 

「朱絹、甚五郎は里にて待て。我ら五人で将監を討って参る」

 

「天膳様、何も将監一人に五人も出向く必要は無いかと。それよりも甲賀弦之助に束でかかり蹂躙した方が良いのでは」

 

「たわけ。将監は弾正が駿府へと連れ行く程の腕を持つ。念には念じゃ。それに忍び同士の争いに一騎打ちなどの見栄は要らぬ。戦い勝ち確実に殺す。それがなりより大事よ」

 

 

不敵に笑みを浮かべ五人を引き連れ屋敷を出てゆく。

 

 

「まぁ天膳。皆を連れて何処に行くおつもりで?」

 

 

縁側を飛び越えた時たまたまそこを通りかかった弦之助一同と遭遇し思わず時が止まる。だが次の瞬間には次の言葉を吐く。

 

 

「これはこれは甲賀弦之助殿、それに鵜殿丈助殿であったか。そちらの伊賀入りを聞き客人をもてなす為宴を開こうと猪狩りに参るところでして」

 

「名案です!天膳!」

 

 

白々しく話す天膳へとキラキラとした眼差しを送り弦之助の袴の裾をぎゅっと握る。

 

 

「かたじけない。儂らも手を貸そう」

 

「いやぁ、客人の手を煩わせる訳にはいかぬ。それに行き先は伊賀秘蔵の狩場にて、これにて失礼致す」

 

「朧様、弦之助様、丈助どのは屋敷にてお待ち下さい」

 

 

弦之助に背を向けた瞬間に耳元まで開きそうな程に口を歪ませる。その後五人の忍びは姿を消した。

 

 

 

「良くあんな嘘を吐けますね」

 

「それが忍というものよ。どんな手を使ってでも相手を倒す。戦いに卑怯も何も無いのよ」

 

「むぅっ」

 

「それより天膳達を追うわよ。この屋敷には夜に戻ってこれば間に合うから」

 

「???」

 

 

今更ながら話の結末を知っているかのようなリサナウトに違和感を感じながらもリサナウトの背後をついて走って行く。

 

 

 

伊賀伊勢甲賀を跨ぐ山脈油日山を駆け渡る最中先頭を駆ける天膳が手を横に上げそれを受け一斉に動きを止めた。その先からカゴを担いだ男二人が駆けてくる。

 

 

えっほえっほと掛け声を合わせながら丸太の端部を担ぎ合いその中心には人が乗れる箱がぶら下がる。

 

 

「蛍火、一芝居うつぞ」

 

 

コクリと蛍火と呼ばれた少女がつまずき転び足を押さえ悶える。それを天膳が心配の声をかけほかの三人に目配せを送る。

 

 

可憐な少女の姿に男が目線を向け進む速度が下がる。

 

 

「蛍火」

 

 

天膳の声より早く男二人が絶叫の声を上げる。見れば喉笛に真っ白い蛇が巻き付き二つ小さな穴が空いている。

 

 

担いだ棒を落とし喉を掻きむしると男はやがて血を吐きその場へと伏せた。

 

 

「行け」

 

 

蛍火にそう命じ駆けるのを見送ると山籠へと「地虫十兵衛」と声をかけた。

 

 

「あいな」

 

 

ぶっきらぼうに答えた主は相変わらず籠の中だ。

 

 

「俺の足を殺しよってどうしてくれる」

 

「足とな、お前何処に向かっておった」

 

「駿府だ。俺の星占いによると弾正様に凶と出た。故に駿府へと向かう道中だったがとんだ足止めをくらったわい」

 

「星占いだと?それがお前の忍法か」

 

「いや、星占いは俺の趣味だ」

 

「・・・十兵衛、籠から出よ」

 

「おぉ、俺は出る足がないのじゃ」

 

「ならば引き摺り出すまでよ」

 

 

腰に携えた刀を引き抜き籠にて一太刀浴びせるとバラバラと籠が崩れ中の人の姿が露わに。

 

 

「ぬぅ、、」

 

 

籠に乗る人の姿を見て天膳はたじろいだ。中の人は、いや、人とは呼べぬ者。牛の様な顔付きにボサボサとした髪。それに両腕が両足が無くまるで芋虫のような男が鎮座していたのだ。

 

 

それでも地虫十兵衛に切っ先を向けているのだが不敵に十兵衛は笑う。

 

 

「伊賀者か。俺に何用だ」

 

 

刀を向けられるもギョロギョロとした瞳で天膳を見上げる。まるで四肢を持ち刀を持つ天膳など敵ではないかのように。

 

 

「問おうか。甲賀に如月左衛門という忍者が居る。その者は如何なる忍法を使う」

 

「室賀豹馬という忍者が居るはずだ。その者はどのような忍法を使う!答えよ!十兵衛!!」

 

 

天膳が声を荒げるも地虫十兵衛はヘラヘラと笑う。

 

 

「答えぬ、これでも俺は甲賀の忍びよ。仲間を売るほどうつけでは無い」

 

「そうかそうか。ならばしねぃ!」

 

「占う!汝の星を!!」

 

 

刀を上段に持ち振り下ろす瞬間十兵衛の喉奥にキラリと輝くものが。次に嘔吐のような音響と共に一尺はあろう短刀が口から飛び出し天膳の心の臓を貫いた。

 

 

「この事を相手が知れば俺は百年目だが知った時には相手が百年目よ」

 

 

ドサリと倒れた天膳より短刀を引き抜くと魚を飲む鵜の様に短刀を飲み込み喉奥へと仕舞い込む。

 

 

 

「あの男はどうやって短刀を吐き出したのですか?」

 

「気合いよ」

 

「えぇ、、、」

 

 

 

「将監にも凶の星が見えるか、、」

 

 

そう呟くと服を突き破り腹一面に鱗の様なものが姿を現した。そしてうつ伏せになると常人では追い付けぬほどの速度で地を這って行く。

 

 

 

「忍者って凄いのですね。それより天膳は回復させなくて良いのですか?」

 

「あいつは放っておけば良いわ。それより行くわよ!」

 

 

走り出したリサナウトの後を追いかけて山中へと消えて行く。

 

 

 

鬱蒼と茂る樹木に遮られ薄らと月が地面を照らす頃甲賀へと続く鈴鹿山脈を越える姿が。その者は両足だけでは無く両手をも使い地を這い進む。

 

 

「むっ」

 

「ぬぅ」

 

 

互いが存在を察し動きを止めた。今まで四つん這いだった将監が体を起こしヂロリと四名を見定める。

 

 

「将監だ!」

 

「風待将監!!」

 

 

小四郎と呼ばれた男が腰に携えた斧を取り将監へと構え投げようとした。その一歩遅く将監の痰を顔へとかけられその場へと疼くまる。

 

 

「おぉぉぉぉぉ!!」

 

 

そこへ念鬼が手に持つ棒で殴りかかると直立の状態から後ろへと跳躍し次に跳躍すると大樹の枝へとコウモリの様にぶら下がった。

 

 

「伊賀か」

 

 

恨めしげに見上げる三人を見下し呟く。

 

 

「将監、弾正より巻物を預かっておるはずだ!」

 

「その巻物をおいていけぃ!」

 

 

見上げた念鬼、蝋斎が叫ぶとポリポリと頭を掻いた後ニンマリと笑う。

 

 

「ほぉ、何故それを知っておる」

 

「我等伊賀鍔隠れのお幻一族であるぞ。知らぬ事など無い!」

 

「そこまで知っておるのならうぬらの名前、この人別帳から消してくれるわ!」

 

 

ぐにゃりと将監の口元が窄むと口から糸を吐き散らかしてゆく。木から木へ木から人へと粘着質の痰で紡がれた糸は伊賀忍者を絡め取りもがけばもがくほど身体に引っ付き動きを封じてゆく。

 

 

「どうした伊賀者よ!怖いか、この風待将監の綱が怖いか!」

 

 

か、か、か、と笑いながら枝より網へと移り四つん這いで綱の上を歩む。その姿は巣に掛かった獲物へと這い寄る蜘蛛の様。

 

 

「さて、どいつから冥土に送ってくれようかのぉ」

 

 

スルリと腰より山刀を抜きより一番近くでもがく蠟斎へと進んでゆく。

 

 

その時、月明かりの木漏れ日に照らされ蝶が姿を見せた。一匹では無い。無数に、何千との蝶が将監を囲うように舞い踊る。

 

 

「これはなんだ!」

 

 

叫ぶ将監の目線の先に膝を付き印を組む少女の姿が見えた。紫の着物を着て闇夜に紛れる姿が、蛍火の姿が。

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

幾千の蝶が羽を踊らせ優雅に闇夜を彩ると粘着質の網に鱗粉が降り注ぎ粉化粧を纏うと鱗粉に阻まれ将監が綱からづるりと落ちた。その瞬間地を這う白蛇が将監の首筋へとかぷりと噛みつき猛毒を流し込む。

 

 

「人別帳を出せ!将監!」

 

 

堪らず悲鳴を上げながらも懐に手を伸ばし巻物を取り出すと後方へと投げ打った。

 

 

「あっ!」

 

 

弧を描き飛んだ巻物は血を這う巨大な虫、地虫十兵衛が飛び咥えた。

 

 

「・・・・っ」

 

 

一瞬将監へと視線を向けた後甲賀へ向かい加速してゆく。

 

 

「やつを追えぇーっ!けっして甲賀に入れるでないぞ!」

 

 

粘着を失った綱より這い出た三人が地虫十兵衛を追い闇山道を走る。

 

 

「夜叉丸どのはどこ、生きておられるのか、、」

 

「・・・・・」

 

「答えなさいっこの甲賀者がっ!!」

 

 

物言わぬ将監へ拾い上げた斧を振り下ろし打つ。血飛沫が上がり肉を裂き骨を折ろうと何度も何度も執拗に。

 

 

最後ぐちゃりと斧を打ち三人を追い闇夜へと姿を消した。

 

 

 

「ネス!早く将監へ回復魔法!」

 

「はいっ!」

 

 

原型を留めない将監へと回復魔法を放つとゆっくりと身体が再生しその身体を地へと横たわらせそれを刻の牢獄へと押し込んでゆく。

 

 

「忍者という者は、、、あれだけ傷付けられても生きているんですね、。」

 

「忍びを極めし者だからね。それより行くわよ!」

 

 

 

甲賀へ向かい這い走る道中、目の前に見た顔の男が立ち塞がった。その顔を見て十兵衛は目を丸くし唖然とした。

 

 

「どうした地虫よ」

 

 

ニヤニヤと口元を歪ませ十兵衛へと刀を向ける男は先程十兵衛が殺したはずの男、薬師寺天善。

 

 

「口から槍は出さぬのか、おぉ、咥えた巻物を離し槍を出してみせよ」

 

 

上半身を起こし冷や汗脂汗に塗れ天善を見上げた。口に巻物を咥えている。それは口を開け巻物を離した時が短刀を発射する合図となる。

 

 

手の内を知られ攻撃のタイミングすら読まれた十兵衛に残された手段は無い。そして後方へからは先ほどの伊賀者が迫る。

 

 

「・・・・ぐらぁぁっ!!」

 

 

かぽりと大口を開け発射された短刀は空を切りその男は十兵衛の背後へと。

 

 

「天善様っ!」

 

「手間かけさせよって。将監はどうした」

 

「とどめを、入れておきました」

 

 

返り血を浴びた蛍火を見て察し満足気に頷き巻物を開くと風待将監、地虫十兵衛の名を指ですくい上げた血で線を引く。

 

 

「同じ巻物は二つと要らぬ」

 

 

十兵衛が落とした巻物を開き見比べ一つに火を掛け燃やした。駿府より甲賀へ届けられし巻物は炎を上げやがて灰となり風に流れ消えた。

 

 

それを見届け闇夜に溶ける様に姿を消して行く。

 

 

 

「ネス!」

 

「もう大丈夫ですよ」

 

 

背中をざっくりと袈裟斬りにされた十兵衛の傷跡はすっかりと消えたのだが血に塗れた着物が傷の痛々しさを物語っている。

 

 

「たった一振りで脊椎を切断するなんて、、それで天善は何故生きていたのですか?」

 

「小説、漫画、アニメでその理由は変わるのだけど、、そうね。ファンキル風に言うのなら不死の付属スキルを彼は持っていると言うことね」

 

「それならば天善は死ぬ事のない不死の忍者、、、」

 

「そう。つまり倒すにはスキル封印が必要だわ」

 

「でもそんなものこの時代には存在しない筈です」

 

「それはどうかしら?そろそろ鍔隠れの里に戻るわよ」

 

 

そう言うとちらりとネスに眼差しを送るとため息をついた後指笛を吹き竜を呼ぶ。

 

 

「安心して、報酬はしっっかりと出すからね」

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

 

悪態を吐いた後咆哮と共に現れた竜に乗り夜空へと舞い上がる。

 

 

「伊賀へお願いします」

 

 

羽ばたき舞う竜を操り一行は伊賀鍔隠れの里へと舞い戻る。

 

 

 

その頃鍔隠れの里では甲賀弦之助、鵜殿丈助を歓迎する宴が開かれていた。が、二人を見る眼差しは敵意に殺気に溢れ形だけの歓迎といえるだろう。

 

 

「申し訳ありません。皆には敵ではないと言い聞かせてあるのですが、、、」

 

「余儀ない事じゃ、互い四百年もの宿怨そう容易く水に流せるものでは無いない。朧殿、儂らがこの呪縛を解き互いの里に風を通すのじゃ、清く真っ直ぐな風を」

 

「はいっ、弦之助さま!」

 

 

力強く語る弦之助に朧が縋る。

 

 

「朱絹どの〜俺にもお酌をしてはくれぬかのぅ」

 

「・・・・・はい、ただいま」

 

「やめんか丈助。あいや、家来の見苦しいところを見せた」

 

「いえ弦之助様、きっと和睦が成されればこの光景が里を交えてのものになるでしょう」

 

 

爛々と目を輝かせ弦之助を見上げる。そんな朧ににっこりと微笑む。

 

 

「・・・・朱絹どの、猪狩りに参られた者はおらんのか」

 

「そういえば。きっと今頃獲物を引き摺り里へと向かっているのでしょう」

 

「それにしてはちと帰りが遅すぎやしないか」

 

「考えすぎですよ。甲賀の地酒とは違った味わいがあります。どうぞ」

 

 

うーむと唸る丈助のお猪口へと酒を注ぐ。飲み干せばすぐに注ぎやがて丈助の顔は真っ赤に。

 

 

 

「それにしても異様な宴ですね、、」

 

「まともな人の姿をした人が少ないからね。何故だが分かるかしら?」

 

 

宴を覗き込むも五体満足の人の姿は数える程しかおらず異様な雰囲気を醸し出す。その答えをネスは分からなかった。

 

 

「伊賀甲賀はお互いが勝つ為に血を混ぜ合わせているのよ。血縁が近いものが混ざり続ければ奇形を産みやすくなるのだけど忍法も強い物が生まれるの」

 

「そうだとしても酷すぎます、、」

 

「それを弦之助様は危惧したのよ。お互いの里がこのままではいつか全滅するってね。だからお互いが争いをやめ歩み寄る必要があるって」

 

「成る程、ただ朧と結婚したかっただけではないのですね」

 

「朧と弦之助様は時期首領よ。上が結婚すれば下の者もし易くなるし良い手本になるわ。流石よ弦之助様は」

 

 

キラキラとした眼差しを弦之助へ送ると弦之助が辺りを伺う様子を見せた。

 

 

「どうしたのですか?」

 

「あいや、何か妙な視線を受けた気がして」

 

 

視線を泳がせるが当然二人の姿は見えずただ違和感のみが残る。

 

 

「いささか飲み過ぎたわい。朱絹どの、部屋を貸してはくれぬか」

 

「こちらへ」

 

 

立ち上がった丈助を案内すべく朱絹が先を歩く。そして案内された一つの部屋。

 

 

「どうぞ御ゆっくりお休みになってください」

 

「これはすまんのぉ」

 

 

一室へと入ると扉が閉められカチャンと金属の音が。うーむと唸り部屋を見渡せば窓には檻がかけられ天井には鉄板が被せられている。部屋というよりも牢屋に近い。

 

 

「伊賀め、余程何かを隠しておるとみえる」

 

 

格子がかられた窓から外を覗くが限られた視界に多くは見えず、そこへ丈助が顔を押しつけ始めた。

 

 

にゅるりと顔が格子を抜けると肩、お腹腰とにゅるにゅると格子を這い出外へと。

 

 

「どれ、少し夜の散歩と行こうかのぉ」

 

 

不敵に笑い夜の鍔隠れの里を闊歩してゆく。その頃宴は終わり弦之助も案内された部屋へと通されていた。

 

 

「・・・・・」

 

 

敷かれた布団に寝転ばず胡座をかき虫の音に耳を傾けていた。その時何かが這う様な音を聞き分け周囲の気配を聞くとトタトタと縁側を歩く音が。

 

 

その正体は朧であった。お盆に急須と湯呑み茶碗を持ち弦之助が居る部屋へと縁側を歩いていたのだ。そして弦之助の部屋へ縁側から続くなめくじが這った後を見つけつぶらな瞳を天井へと向け声を荒げた。

 

 

「甚五郎、出てきなさい」

 

 

しばしの沈黙の後ドサリと音と共に口に短刀を咥えた甚五郎が落ちてきた。

 

 

「甚五郎っ!まさかお前弦之助さまを、、」

 

「ミ、ミズヲクレェェェ」

 

 

落ちてきた甚五郎は水をくれと呻く。その姿は人の姿では無く赤子ほどあろうなめくじの様。

 

 

「オボロサマァ、、ミズヲヲ、、」

 

「いけません。可愛い伊賀者であっても弦之助さまに害意を持つのなら私は鬼となります」

 

 

地べたを這いずり縁側から落ちた甚五郎をキッと睨んだ後悲鳴が聞こえその方へと歩んでゆく。

 

 

 

「あれは?」

 

「甚五郎が朧の目によって忍法を解かれたのよ。今彼は縮んだ体を戻す事が出来ずに苦しんでいるわ」

 

「朧の瞳ですか?」

 

「そう。彼女の瞳はありとあらゆる忍法を打ち破る事ができる破幻の瞳を持っているのよ。いうのであればスキル解除ね」

 

「成る程、つまり天善を倒すには朧の瞳がいるって事ですね」

 

「そういう事。でも朧と天善は同じ伊賀組。まっ、この話は順を追っていけば分かるわよ」

 

 

 

視点を変え里を歩く丈助へ。この鍔隠れお幻屋敷は難解に作られている。同じ様な景色が続き入った者の方向感覚を崩しいざ屋敷に入ればありとあらゆる仕掛けが襲う。朧を嫁にもらう為何度か足を運んだ弦之助はともかく初場所である丈助はその迷宮を大いに楽しんでいた。

 

 

「ほほぅ、弾正さまの屋敷とは違ったカラクリが仕込まれておるのか」

 

 

注意深くも大胆に歩んで行くと自分を閉じ込めた部屋の前に朱絹の姿を見つけにししと笑いながら背後より歩み寄る。

 

 

「朱絹どの〜」

 

「きゃぁっ!?」

 

 

朱絹こそ丈助を閉じ込めた部屋の堅牢さを知っている。その為部屋に居ると思っていた相手に背後から声をかけられ上げた悲鳴は忍者では無く女の悲鳴であった。先程朧が聞いた悲鳴は朱絹の悲鳴である。

 

 

「おぉおぉ、俺に会えてそんなに嬉しいか。この早春の伊賀に浮かれ朱絹どのに夜這いを仕掛けよう思ったがまさか朱絹どのから部屋に参られるとは、これならば部屋にて待っておるべきであった」

 

 

ニヤニヤと朱絹を見下ろすと懐より短刀を取り出し睨む朱絹。

 

 

「忍法勝負を致しましょう」

 

 

丈助を睨みながら横っ飛び庭へと飛び出し宣言する。対する丈助は満足気に笑みを浮かべる。

 

 

「おぉ、その勝負乗ったぞ。俺が勝てばそちは俺が嫁に貰おうか」

 

「承知しました。私が勝てばその顔を二度と見せないと約束して貰いましょう」

 

 

鞠様な腹を撫で朱絹に目をやる頃には辺り一面真っ赤な霧が噴き現れた。

 

 

「なにっ!?」

 

「死ねっ!」

 

 

血霧に紛れ丈助の顔に一太刀浴びせたのだがその刃は弾力に富んだ頬に阻まれぽよりと跳ね返される。

 

 

「危ないあぶない、その刀は取り上げなければいけませんなぁ」

 

 

にやにやと笑う丈助に唇を噛み見上げる。その時血霧が晴れた。

 

 

「朱絹、一体丈助どのと何を・・・」

 

 

朧である。丈助の背後より姿を見せたその瞳を朱絹が見たのだ。

 

 

「これはこれは、いやぁ土岐峠で朱絹どのを見てから俺は朱絹にぞっこんでして懲りもせず夜這いをかけた所逆鱗に触れてしまいましてなぁ」

 

 

顎を指で撫で話す丈助にため息を吐き立ちすくむ朱絹の肩を抱き歩みでる。

 

 

「朱絹、今宵は私の横でお休みになって下さい」

 

 

未だ苦悶の表情を浮かべる朱絹と共に闇夜に消えてゆく。

 

 

「ふぅ、とんだ邪魔がはいったわい」

 

 

頭を掻き見上げると地面に残る跡を見つけた。

 

 

「はて、あれは、。、?」

 

 

丈助が見つけたのは奇妙な跡。なめくじが這った様に月灯にキラキラと輝く跡。その跡を辿り歩くとその先に主を見つけた。

 

 

「ミズヲクレェ・・・」

 

「うーーむ」

 

 

見たのは赤子程はあるなめくじ。だが水をくれと聞き覚えのある声を呻く。しばし悩んだ末丈助はそのモノを片手で持ち上げ尋問を始めた。

 

 

「お前は甚五郎か」

 

「ミズヲークレェー」

 

「そうかそうか水か」

 

 

耳をすませば何処かから滝が落ちる音が。その音の方へと行き轟々と落ちる滝壺へと甚五郎を突き出した。

 

 

「ほれ水だ」

 

「ミズゥー」

 

「俺の問いに答えたら水をやる。天善らは何処へ行ったぁ!」

 

「カゼマチショウゲンヲウチニ・・・」

 

「将監だと!?何故だ!答えよ!」

 

「スンプヨリトドケラレシマキモノ、フセンノヤクジョウガトカレタ・・・」

 

「あの巻物、やはり中を覗いておくべきであったか!して弦之助さまは!」

 

「心得たり!」

 

「なっーーーー」

 

 

先程まで萎れ弱る甚五郎が生気を取り戻し不気味な笑みを浮かべた後大口を開けた丈助の口の中へと入り込んだ。堪らず噛みちぎろうと歯を食い縛るが時既に遅し喉元で唾液を吸い膨らんだ甚五郎によりゴギリと音がした後丈助は滝壺へと落ちてゆき岩壁に甚五郎の嘲笑いが響く。この男は滝の飛沫を吸い丈助が気付かぬ間に元の姿へと戻っていたのだ。

 

 

 

「ネス!こっちよ!」

 

 

滝壺より流れ出した丈助を岸へと引き上げ回復魔法を放つ。

 

 

「丈助という男はただの女好きでは無かったのですね」

 

「そうね、あぁ見えても彼も甲賀卍谷の十人衆の一人よ。歓迎の宴に浮かれず状況を良く見て敵の真意まで辿り着いたわ」

 

「成る程、でもこれじゃあ弦之助が何も考えてないみたいです」

 

「うーん、まぁしょうがないわよ。次は甲賀に行くわ」

 

「分かりましたよ」

 

 

雲が陰り月が姿を消した夜空を竜が舞う。

 

 

 

夜明け前の頃甲賀卍谷弾正屋敷に沈着な顔が四つ蝋燭に照らされていた。

 

 

「どうも気にかかる」

 

 

顎に指を当て疑問を投げるのは室賀豹馬、周囲の人に顔を向けるが目は開けておらず、彼は盲目なのだ。

 

 

「十兵衛の星占いか」

 

「さよう」

 

 

相槌を打つのは入道の様な男。見れば頭に毛は無く眉も髭すらも生えておらず、名を霞刑部という。

 

 

「十兵衛の星占いは未だ外れた事はないからな。先程お胡夷を伊賀へと使わせた。女なら伊賀者も気をゆるそう」

 

 

蝋燭を見ながら言うのは如月左衛門。彼の顔は特徴がなく一つあげるのであれば糸目の男。

 

 

「弦之助さまは未だ伊賀から帰らず、このまま祝言まで帰ってこぬつもりなのでしょうか」

 

 

溜息を吐く女。日牡丹の様な美女、名を陽炎という。

 

 

 

「あぁ、豹馬様よ、、画面で見るよりずっとカッコいいわ・・・」

 

(はぁ、、、)

 

 

 

甲賀一党幹部達を見て歓喜の声を上げるリサナウトにため息を吐きながら会議の声に耳を傾けてゆく。

 

 

 

 

「将監も未だ駿府から帰らぬし十兵衛も戻らぬ。何か嫌な予感がするが」

 

 

ジッと目を開き視線を投げるが言葉は帰らず沈黙。その時豹馬か顔を上げた。

 

 

「何者かが甲賀へと入ってくる」

 

 

豹馬の言葉に一同の視線が集まり次の言葉を待つ。

 

 

「北から、、これは忍びの脚じゃ」

 

 

甲賀の北部といえば琵琶湖を指す。伊賀とは反対の方向だが。

 

 

「弾正さまか将監か」

 

「いや、足取りに狂気がある」

 

 

豹馬は盲目だが耳が発達し僅かな音すら耳に届く。他の者が聞金を用いて音を聞くも何一つ聞こえず。

 

 

「どれ、ワシが様子を見てこようか」

 

 

入道の様な男、刑部がニヤけ風の様に走りでた。

 

 

「はて」

 

「どうしたのじゃ豹馬」

 

「この屋敷の側に奇妙な音が聞こえる。小柄な者と長身な者、何方も女じゃ」

 

「忍びか?」

 

「あいや、人でも無く忍びでも無い、、だが敵意は無さそうじゃ」

 

「なら捨て置くか。これ以上面倒事は勘弁だ」

 

 

 

その言葉にどきりと驚く二人。

 

 

「流石よ、流石だわ豹馬様!まさか刻を超えて私達の足音を聞くだなんて♪」

 

(もう嫌ですこの人、、、)

 

 

歓喜の声を上げるリサナウトに冷たい目線を向けてゆく。

 

 

 

その頃朝日が照らし始めた卍谷に五つの影が。

 

 

「まだ眠っておる様だな」

 

 

念鬼が囁くが蠟斉は不安気に里を見渡す。ここは甲賀卍谷、言えば敵地。

 

 

「怖がるな、いざ気付かれても弦之助の命で呼びに参った使者を名乗れば良い」

 

「伊賀に誘き出す手もあるか」

 

 

含み笑い谷を見渡す。未だ寝静まり物音一つしない怨敵の里を。進むは謀略の道。

 

 

「むっ」

 

「如何なされた天善さま」

 

「我らの他にこの場に立っておる気がしたのだが、、」

 

 

見渡すが人の気配は他四人を除き無い。だが確かに気配を感じたのだが。

 

 

念鬼、小四郎が辺りを探るが人はおろか獣すら居らず。その報告を受け天善は「気の迷いだ」と呟き「いけ」と言った。その言葉の後殺気立った四人が甲賀の里を歩む。

 

 

「ぬぅ!?」

 

「どうしたのだ蠟斉どの」

 

 

前を歩く小豆蠟斉が歩みを止め前のめりとなっていた。身体は前に出ているのだが足が出ていない奇妙な光景。

 

 

「地面がワシの足を掴みおった!!」

 

 

蠟斉が叫び足に目をやると確かに両足が地面より這い出した両手に掴まれている。

 

 

【出会え出会えぇっ!!甲賀卍谷に曲者がはいりよったぁーー!!】

 

 

突如張り裂ける様な怒声が卍谷へ響く。驚愕する五人に向けられたのは幾つもの目と武器と殺気。

 

 

「ちがう!我ら伊賀の使者なり!甲賀弦之助さまのお申し付けより甲賀へと参ったのじゃ!」

 

 

慌てて手を振り弁解を告げるが【何故伊賀使者が北から参った!不審の案がある、奴らをひっとらえろーーっ!!】っと先程と同じ声が叫ぶ。あわや弁解の余地無しと悟ったのか武器を構え争う姿勢へ。

 

 

立ち並ぶ甲賀忍者に相対するは筑摩小四郎。大勢の忍者を前に口元に手をやり前を向く。その時ひゅるひゅると風がなう音が。

 

 

その時甲賀忍者の一人の顔が柘榴の様に裂けた。風の音のみで顔を裂いた。

 

 

 

「あれは!?」

 

「小四郎の忍法ね、彼は空気を吸い真空を作り出す事ができるの。簡単に言うとかまいたちを作る事ができるのよ」

 

 

 

不可視の忍法にたじろぐが多数に無勢。遂に蛍火が誘い出した何万の蝶と共に姿を消した。

 

 

「血迷い伊賀へと攻め入るのならその礼は客人へと返すぞ」とセリフを残して。

 

 

 

 

「酷い、、」

 

 

殺戮の跡を見てネスが顔を背けた。彼方此方に骸が転がり血が地に染み込み黒く染まる。杖を振るい魔弾を飛ばすのだが幾ら高度な回復魔法を使おうと死人が蘇る事は無かった。

 

 

「戦いとはこういうものよ。分かっているでしょ?」

 

「そうですが、、、」

 

見下ろすリサナウトの表情も愉快なものでは無く神妙な顔つきで手を合わせていた。

 

 

「この様な事が四百年も続いているのですね」

 

「そう、なるわね。争えば争うだけ血が流れ怨念のみが残る。血を血で洗い続けた歴史の一部だわ」

 

「・・・」

 

「こんな言葉を知ってる?雨降って地固まる」

 

「知ってますけど」

 

「四百年降り続いた雨が止んだ時きっとこの二つの里は強固に固まるわ。だから私達でその雨を止ませるわよ」

 

「・・・はいっ!」

 

「行くわよ」

 

「待って下さい」

 

「?」

 

「お祈りを」

 

 

深く頭を下げた後弾正屋敷へと向かう。

 

 

 

 

早春の山道を伊賀へと向かい駆ける者が。木から木へと飛び移り地面に降りたと思えば跳び木へと移り、人離れした運動能力の主は如月左衛門の妹、お胡夷である。しばし進んだ後小川を見つけ木より降りると手で水をすくいごくごくと飲み込む。水面に映る姿は野生美に満ちた豊満な肉体の美女。

 

 

顔に付いた水を拭い再び走り出そうとした時前方を睨んだ。

 

 

「これはこれは甲賀のお胡夷どの」

 

「・・・・」

 

 

天善である。彼らが退却し土岐峠を歩む時お胡夷を見つけ先回りをしていたのだ。

 

 

「伊賀に弦之助さまがお泊まりに来ておる。そちも一緒に伊賀へと参らぬか」

 

 

優しい笑顔で話すのだが視線は肉体を刺す。その不審な視線をお胡夷は感じ取り身構えた。

 

 

「弦之助さまは無事か」

 

「何を申す、我らが客人に手を出す理由などない故、それに不戦の約定があるではないか」

 

「ならばその衣服に付いた血はなんじゃ」

 

 

甲賀での殺戮の跡だ。彼らの服にも返り血が飛び只事では無い様子。

 

 

「これは、、先程甲賀にて伊賀入りを進めに参ったのだが何を血迷ったか霞刑部どの、如月左衛門どのにさんざんな目にあわされましてなぁ」

 

「天善さま」

 

 

芝居を打つ天善に痺れを切らした小四郎が催促する。相手は小娘一人に何を迷う事があると。

 

 

「さ、参ろうか」

 

「卍谷の衆に聞いてくる」

 

 

そう告げた瞬間に少女は姿を消した。そう思わせる程に跳躍し高枝へと飛び移ったのだ。

 

 

「天善!俺に任せよ」

 

 

逃げたお胡夷の後を追うは念鬼。風の様に木々の間を抜けながらお胡夷を追う。

 

 

「やっ!」

 

 

木々へ移る瞬間反転し苦無を投げ放った。そのまま木へと着地し次に振り返ったのは念鬼の叫びを聞いた時だった。

 

 

「!?」

 

 

振り向いた目に写ったのは投げ放った苦無を長い髪の毛が掴みこちらへと投げ返す姿だった。この念鬼という男は毛を自在に操る事ができる忍者。

 

 

苦無を避けもつれた時、木々をぬい飛来した棒がお胡夷の鳩尾を捉え木より落ちた。

 

 

霞む視界に最後に写ったのは欲望と殺気を抱いた念鬼の表情だった。

 

 

「殺すなよ念鬼」

 

「何故だ天善」

 

「捕え塩蔵に放り込む。弦之助を討つ為の囮になろう。人別帳から名を消すのはその後でも良いわ」

 

 

納得がいかないまま気を失ったお胡夷を担ぎ伊賀を目指す。その後を降り出した雨が追いかけて行く。

 

 

 

その頃卍谷弾正屋敷に甲賀の忍びが詰めかけ室賀豹馬の言葉を待っていた。皆顔には怒りを表し手には武器を持ち今にも伊賀へと向かいそうなほど。

 

 

「豹馬どの我らに伊賀を討てと!」

 

 

一人が叫ぶと堰を切った様に怒声が溢れる。だが。「伊賀には弦之助さまが居られる」の言葉に沈みまり返っていた。

 

 

「刑部は奴らの言葉を聞いておったはずじゃ、奴らはなんと言っておった」

 

「将監一人にあれ程骨をおったでは無いかと。もしや服部家との約定が解かれたのでは!」

 

 

そう考えれば合点がいく。未だ戻らぬ弾正、将監、十兵衛が伊賀に討たれたとすれば。

 

 

「ワシが様子を見てくる」

 

「刑部、わしも行く」

 

 

戸に手をかけた刑部に声をかけするりと立ち上がったのは如月左衛門。その姿を見てニヤリと笑うと戸を開け放った。

 

 

 

 

雨の東海道を一人走る男が居た。雨具もささず懸命に走るのは伊賀忍者夜叉丸であった。

 

 

弾正に偽の巻物とすり替えられ熱田まで走り気が付き戻り焦りを抱き懸命に走る。人別帳に恋人である蛍火の名に朧の名も合った。二人に何かあればと考えるだけで心臓を握られる程の思いだ。その時、夜叉丸を呼ぶ声が。

 

 

早る足を止め辺りを見渡す。ざあざぁと雨に濡れる石垣と古びた寺の土堀。人気はない。

 

 

「おぉぉい。夜叉丸」

 

「その声は、、天善さまか」

 

「そうだ。今は姿を見せられぬが薬師寺天善だ」

 

「姿を見せられぬとな、もしや殺されたのですか」

 

「、、、、そうだ。儂とした事が風待将監に討たれたのだ」

 

「殺されたのが天善さまで良かった。それより、大御所様の命により服部家との約定が解かれました!」

 

「なにっ!?」

 

 

その時天善の声を真似ていた事を忘れ左衛門が叫んだ。

 

 

「声が違う、天善さまではないな!?」

 

 

その時土堀の影から走り出る者が。すぐさま黒縄を放ち縛り上げた。

 

 

「甲賀者か!名を名乗れ!」

 

「、、、、、き、如月左衛門っ」

 

 

その名に覚えが合った、人別帳に書かれた甲賀一党の名だ。ここで奴を殺せば俺の顔も立つ。そう思いさらに縄を縛り上げる。

 

 

その時夜叉丸が声にならない声で呻いた。見れば首を大きな手が鷲掴みにし夜叉丸を持ち上げているではないか。

 

 

その正体は霞刑部で合った。彼が地面に溶け込み気付かれぬまま夜叉丸を背後より締め上げたのだ。

 

 

しばらくして宙に上げられた夜叉丸の手足がダラリと下がった。

 

 

 

「ネス、夜叉丸に継続回復魔法はかけれる?」

 

「もちろんです、でもなぜ?」

 

「後で分かるわよ」

 

 

 

「すまない、驚きのあまり天善の声を忘れたわ」

 

「やはり約定がおかれおったか」

 

「されば弦之助さまの安否が気にかかる」

 

 

そう言うと左衛門は土を集め山を作りそこに夜叉丸の顔を押し付けた。泥に付けられたのは夜叉丸の死に顔。そこに自らの顔をおしつけてゆく。

 

 

しばらくして顔を上げると左衛門の顔は夜叉丸の顔へと変わっていた。

 

 

「いつ見ても気味が悪いのぉ」

 

「人の忍法にケチを付けるな。行くぞ」

 

 

夜叉丸が着ていた服を着ればその姿は伊賀の忍者夜叉丸そのものだった。

 

 

「これは?」

 

 

着替えの最中懐より転げ落ちた物を拾い見つめる。紫の球があしらわれた髪飾り。

 

 

「こいつ女装の嗜好があったか」

 

「ほぉ」

 

 

それを懐に仕舞い込み二人は伊賀を目指す。完全に姿が見なくなった頃二人が夜叉丸の元へと駆け寄ってゆく。

 

 

「片手で人を持ち上げるとはすごい力ですね、、、それに左衛門の忍法も恐ろしい、」

 

「見ての通り大男だしね、それに彼は樽を投げて戦うわ。そして左衛門はあの顔すら本当の素顔なのか誰にも分からないのよ」

 

 

樽?その言葉に疑問を持っていると回復した夜叉丸を刻の牢獄へと詰め込んでいた。

 

 

「伊賀に急ぐわよ」

 

 

二人のキル姫が雨の土岐峠を駆けてゆく。

 

 

 

鍔隠れの里離れにある小さな小屋の中でお胡夷は目を覚ましていた。辺りを伺おうに暗く視界が効かず。その時戸が開き松明を持った小豆蠟斉が姿を見せた。

 

 

「娘」

 

 

そう問われるが返事はせず床に伏せたまま。蠟斉が歩き松明を積み上げられた俵に差し込み再び「娘」と声をかけた。

 

 

「不憫じゃかお前の返答次第では生きて此処を出れぬと思え。卍谷の忍者、室賀豹馬の忍法は如何に」

 

「如月左衛門はどの様な顔をしておる、若いのか歳を召しているのか、肌は黒いのか白いのか」

 

 

段差に腰掛け巻物を広げながら問う。だがお胡夷から返事は無い。忍者にとって忍法とは他言無用の業。それを他の里、しかも敵に漏らすなど如何なる拷問を受けようと決して口を割る事は無い。

 

 

「それを私が言うと思いで」

 

 

鼻で笑いお胡夷がやっと口を開いた。その顔を掠め蠟斉の手が飛び俵を裂いた。それにお胡夷が目を丸くする。手刀がまさに字の如くの切れ味で俵を裂いたのだから。

 

 

「言わぬなら次はお前の耳を削ぐ、次に片腕を、乳房を」

 

 

蠟斉の忍法を見てお胡夷は目に涙を溜め肩を落とし床に視線を落とした。

 

 

「ならばお前の忍法を聞こうか」

 

 

蠟斉の前には無防備な可憐な少女。揺らめく松明に照らされる豊満な肉体に微かに笑いながら俯く肩に手を置いた。殺すのは手篭めにした後で良いと思いながら。

 

 

「はて」

 

 

蠟斉は疑問を抱いた。お胡夷の左肩に置いた右手が離れないのだ。力を込め引っ張ろうともビクともしないのだ。そしてお胡夷を跳ね除ける為に出した左手も吸い付き離れなくなった。

 

 

「教えてやろうか、私の忍法を」

 

 

焦る蠟斉の目に不敵に笑う少女が写りそして気が付いた。お胡夷に吸い付いた手が萎びている事に。

 

 

「ーーーーー!!!」

 

 

悲鳴をあげようとした時柔らかく温かいものが口を塞いだ。それは唇だという事に気が付いた時と意識を無くしたのは同時だった。

 

 

ミイラとなった蠟斉から離れ少女は部屋の角におうおうと血を吐いた。自身の血ではなく小豆蠟斉から吸い取った血だ。このお胡夷は相手の血を吸う忍法を使う女。

 

 

ミイラと化した蠟斉と巻物を俵に隠し再び元いた場所に這いつくばる。生きて必ず甲賀へ、弦之助さまにこの巻物を見せなければと強い意志を固めながら。

 

 

 

ミイラと化した蠟斉へと回復魔法を放つと煮干しの様な身体がやや元に戻った。

 

 

「また継続回復魔法ですか?」

 

「そうよ。仮死なら回復されれるのでしょ?」

 

「そうですけど。それにしても人間からここまで血を吸い取るとは恐ろしいですね、、」

 

「さらにお胡夷は美少女よ、相手を謀り討つ事もできるわ」

 

「まるでサキュパスですね」

 

 

 

再び塩蔵の戸が開いた。戸を開けた主は松明に照らされる衣服の乱れたお胡夷を見た。

 

 

「おい、ここに蠟斉が来たであろう」

 

 

問いを問うが答えは無く啜り泣く声だけが微かに聞こえる。

 

 

「殺せ、伊賀者に手篭めにされ秘密を漏らした私を、、、」

 

「ほぉう、蠟斉め、歳だとは思っておったがまだまだ現役であったか」

 

 

ニタニタと笑い毛深い腕でお胡夷の顎を上げる。目を背けて両頬に涙を流す少女。乱れた衣服の隙間から溢れんばかりの乳房に片足に残す下着は鬱蒼とした陰部を隠す事なくぶら下がる。

 

 

少女の哀れな姿に情欲が湧き起こり忽ち熱り勃たせる。どうせ殺す女。それならばーーーーー。

 

 

袴を下ろすと魅惑の両脚を大きく開く。それでも抵抗せず啜り泣く娘の秘部へ男根を押し当てようとした。

 

 

その瞬間体を起こし念鬼を抱きしめた。お胡夷は全身で血を吸う事ができる。衣服がはだけた今念鬼の血を吸い切るのには1分もかからないだろう。

 

 

「!!」

 

 

だが念鬼の身体を覆う体毛に阻害され肌に肌を密着される事ができずにいた。

 

 

「残念だったな小娘。むぅんっ!!」

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

その頃左衛門達は鍔隠れの入り口に居た。

 

 

「ワシは弦之助様を探してくる。左衛門は」

 

「わしはお胡夷を探す、何かを掴んでおるやもしれん」

 

 

散、と言い二手に分かれ敷地内に足を踏み入れると一人の少女が左衛門を見つけ駆け寄った。

 

 

「夜叉丸どのっ!蛍火はずっと身を案じておりました、、、」

 

 

左衛門を硬く抱きしめたのは蛍火であった。離せと声をかけても胸に顔を沈め全く離れようとせずその行為のされるがままに。

 

 

しばらくすると蛍火が顔を上げた、目に嬉し涙を滴らせた顔を。その表情を見て左衛門は悟った。

 

 

「俺がそう容易く討たれるかよ、そうだ。お前に土産を買ってきたぞ」

 

 

懐より取り出し渡すのは先ほどの髪飾り。満面の笑みで受け取ると早速髪へと。

 

 

「忍術修行ばかりじゃ可愛げがねぇからな。して、状況は」

 

「はい。弾正は死に地虫を討ちました。そして私が風待将監を討ったのですよ。この手で」

 

 

すらりと細い腕を見せ笑みを浮かべる。それでも左衛門は何一つ変わる事なく「でかした」と答えた。

 

 

「それに先程天善さま達が甲賀の娘を捕え塩蔵へと幽閉してあります」

 

 

その言葉に流石の左衛門の眉をひそめた。昨晩見送った妹に違いないと。

 

 

「そうか。それで誰が観ておる」

 

「蠟斉どのが先程見に行きましたけど」

 

「あの爺ではダメだ。俺が行く」

 

 

歩き始めた左衛門に蛍火が立ちはだかった。

 

 

「いけません。夜叉丸どのが他の女子に、それも甲賀者の女子に会うだなんて、、、!」

 

 

先ほどの可愛らしい顔から一転、鬼の形相で左衛門を睨む。がやれやれと頭を掻き答えた。

 

 

「バカ、俺がお前以外の女に目移りすると思ったか?」

 

「いえ、決してその様な事は、、」

 

「だから俺が行くんだよ。どんな女子か知らんが色気使いは俺には通用しないからな」

 

 

歩き出した左衛門に蛍火が声をかける。

 

 

「夜叉丸どの、塩蔵は彼方でございますが」

 

「あーはははははっ、しばし駿府の街並みに浸かりすぎたか」

 

 

蛍火が指差す方へと歩いてゆく。

 

 

 

 

鍔隠れの里の離れに建てられた塩蔵。その戸を開け薄暗い蔵に少しの光が差した。その光に照らされていたのは幾千の念鬼の体毛に串刺しにされずるりと地に伏すお胡夷の姿だった。

 

 

「夜叉丸か、今戻ったのか」

 

「あぁ」

 

 

短く呟き念鬼の横を通りお胡夷の元へ。

 

 

「たった今討ったところよ、まだ息があるやもしれんが時期に死ぬ」

 

 

左衛門は見下ろす。全身に細かな穴が開き血を流すお胡夷を。痙攣している妹を。

 

 

「疲れた」

 

 

どっかりと腰を下ろし欠伸を一つし体を陰にお胡夷の手を握る。

 

 

(お胡夷)

 

(兄さま、、)

 

(あぁ、わしじゃ)

 

(お胡夷は蠟斉を討ちました)

 

(よくやった)

 

(俵の間に巻物を隠しました)

 

(あぁ)

 

(兄さま)

 

(あに、さま)

 

 

兄弟だからこそ分かる指問答。やがて答えなくなったお胡夷の手をそっと離した。して無数に並ぶ俵を睨み立ち上がった。

 

 

「どうしました夜叉丸どの」

 

「この女が俵に何かをした様だ」

 

 

一つ一つ隙間を探り見つけ当てた巻物を手に取ると外へと放り投げた。

 

 

「あっ」

 

 

弧を描き飛ぶ巻物を目で追うと地面より這い出した男がそれを掴み取る。霞刑部だ。

 

 

【出会え出会えーーーっ!!甲賀者じゃぁー!!】

 

 

大声で叫ぶ念鬼の横を通り抜け刑部と共に左衛門が走る。屋敷を右に曲がり追い曲がるとその目に飛び込んだのは家来を左右に跪かせ巻物を読む甲賀弦之助の姿だった。

 

 

 

泣くでも笑うでもなくただ巻物を読むと丸め込み懐に仕舞い込んだ。

 

 

「くっ!」

 

 

天善が苦悶の声をあげた。

 

 

「左衛門、刑部。里に帰ろう」

 

 

 

塩蔵で二人を刻の牢獄に詰め込み屋敷正面に行った二人が見たのは異様な光景だった。縁側に三人、庭には数多くの忍者が居るのに誰一人として攻めようとしないのだ。そしてけしかける念鬼を天善が制している。

 

 

「天善!何故奴らを討たぬ!」

 

「あやつの瞳術、それを何か儂らは知らぬ、」

 

 

天善が恐れるのは弦之助の持つ瞳術であった。それ故に攻める事が出来ず地団駄を踏む。

 

 

「えぇい!この腰抜けめ!かかれぇー!」

 

 

制する天善を振り切り兵へと命出す。その瞬間に伊賀忍者が六人弦之助達へと襲いかかる。

 

 

「来るか」

 

 

そう呟くとゆっくりと瞳を閉じやがて開いた。

 

 

弦之助の開かれた双眸は金色の閃光を放った。それを見た者が突如自刄をし同士討ちを始めたのだ。

 

 

「・・・・・」

 

 

一瞬にして六人の兵が死んだ。甲賀弦之助が堂々と歩けば伊賀忍者がじりじりと後退し道を開け只々見送ってゆく。

 

 

朧が泣き叫ぶが言葉もかけず振り返る事もなく歩く。その時弦之助は何を思っていたのか。

 

 

 

「待てっ!甲賀弦之助!」

 

 

その時一人の忍者が叫んだ。筑摩小四郎である。口元に手を添えひゅるひゅると風をなう。

 

 

「小四郎、、やめておくれ、、、」

 

 

術を仕掛けようとする小四郎の足に朧が縋る。その時見てしまった。朧の瞳を、金色に光る双眸を。

 

 

ばしゅりと音がして小四郎が倒れた。小四郎は自らの術で顔を裂いたのだ。

 

 

三人が去った後鍔隠れの里にはざあざあと降る雨の音と朧が啜り泣く音だけが聞こえていた。

 

 

 

 

「あれが弦之助の忍法、、、」

 

「そう、あの瞳を見た者は我を失い自らを斬るか味方を攻撃するのよ。敵意を跳ね返すっと言えばいいかしら」

 

 

説明するリサナウトの声も強張っている。何度か隣の台で見た事はあるのだがまさかこれ程の光景とは思いもよらなかった。

 

 

立ちすくむ伊賀忍者同様二人も雨に打たれながら立ちすくんでいた。

 

 

 

 

「朧様!あの様な失態、、これが手下であれば万死に値しますぞ!」

 

 

 

彼らが去った後屋敷内で天善の叫び声が響いた。あの時弦之助を見ず小四郎を見た朧への叱咤の声。

 

 

「天善、、許しておくれ、、」

 

「謝るのなら儂では無く伊賀先祖代々の霊に詫びなされ、そして朧様が戦いの一線に立つ事が何よりの供養」

 

「私には、、弦之助様は討てませぬ、、」

 

「そのせいで小四郎は目を潰し盲人となった。今や甲賀とは怨敵同士、甘えた事を言うておる場合ではござらん!」

 

 

天善の叱咤に朧はただ下を向き俯く。その様子を見て他の者はため息を吐いた。

 

 

ふと朧が立ち上がり襖を開け別の部屋にゆき何かを持ってすぐに戻ってきた。

 

 

「私は婆様に言われてました。私の目は忍法を破る破幻の瞳と。この目が小四郎を傷付けたなら私は目を潰します」

 

 

床に置かれた壺を開封し中身を手に取ると両目に塗りたくった。

 

 

「それは?」

 

「闇七夜の秘薬ーーー」

 

 

朧の手を天善が取り上げ見たその顔は、その目は塞がれていた。

 

 

「私も伊賀の娘、、天善の言う事は重々承知、、ですが私はどうしても弦之助様とは争えませぬ、、、」

 

 

塞がれた瞼から大粒の涙が伝う。

 

 

「天善さまぁーーっ!!」

 

 

突如けたたましく響く声の後乱暴に戸が開けられ見ると息を切らした兵が一人。

 

 

「先ほど里前にこれが!」

 

 

手渡されたのは弦之助が持ち帰った巻物と一通の書。巻物は元より書を開き目を通し天善は書を握り潰し破り捨てた。

 

 

「天善さまっ!一体何が書かれていたのですか!?」

 

「果し状じゃ、甲賀弦之助からの。おのれ、、!」

 

 

荒く呼吸をし天善は言った。「旅支度を整えよ」と。

 

 

 

 

 

その頃二人は伊賀山中にある秘湯に来ていた。季節は春であるが雨に濡れれば寒く身体を温める為に。

 

 

「いいお湯ですね、何故ここに温泉がある事を知っているのですか?」

 

「CZで何度も見たからね。それより弦之助が送った書に付いて説明をするわ。簡単に言うと巻物を駿府へと届けに行くと書いてあったわ」

 

「でも巻物は伊賀へと返したのですよね」

 

「そうだけどそう書けば伊賀衆が追いかけて来ると読んだのよ。それにもし余人に手を出せば全滅の天誅が下るとも書いてあるの」

 

「なるほど。思い切った事を書きましたね」

 

「弦之助様の覚悟の現れね。あと少ししたら私達も追うわよ」

 

「次は何処へ?」

 

「関の宿よ」

 

 

ゆっくりと身体を芯から温めた後キラーズを使い濡れた服を乾かすと竜に乗り関を目指す。

 

 

 

 

空が暗み生き物が身を潜める頃弦之助は宿の一室で神妙な顔付きで一点を見つめていた。散っていった五人の事、それに気付かず未来に思い馳せていた事。

 

 

爺に将監に十兵衛に丈助にお胡夷。里の仲間を殺されながら自身はのうのうと夢うつつ。己自身に怒りを灯し伊賀にも腑が煮え繰り返る程の怒りがめらめらと燃え盛る。

 

 

だがそんな心境でも朧の顔を浮かべるだけで燃え盛る怒りが鎮まるのだ。裏で手を引いた魔性の女であるのに関わらず彼女の笑顔を思い浮かべるだけで。

 

 

考えが纏まらぬまま天井を仰ぐと片隅に何かが見えた。

 

 

蛇だ。そう気づき刀を抜いたのと蛇が飛び掛かるのは同時であった。忍者は常に身の回りを警戒するのだが動物の侵入までは把握できずまんまと間合いに入られていたのだ。

 

 

「ぐっ」

 

 

飛びかかる蛇に白刃を当てたのだが何かが弦之助の顔に当たり目を覆った。

 

 

 

「弦之助さま!!」

 

 

異変に気が付き部屋へと駆けつけた三人に告げる。「目を潰された」と。

 

 

戦いの最中に弦之助最大の武器である瞳を塞がれたのだ。

 

 

「弦之助さまの目が見えぬなんて!!」

 

 

 

夜に響く悲鳴のような叫びを聞き屋根の上に居る二人がニヤリと笑った。伊賀忍者、念鬼、蛍火である。天善の命令により東海道へと抜ける二人を追い走っていたのだ。

 

 

「上手くいきましたね」

 

「おぉ、これで弦之助も敵ではないわ」

 

 

蛍火が操る蛇に持たせた卵には闇七夜の秘薬がたっぷりと詰められていた。あの朧が持ち出した薬からヒントを得ての作戦だったが功を奏した。

 

 

「して蛍火、蝶は出せるか」

 

「出せますけども如何なされました?」

 

「蝶を東へと飛ばし二人を誘い出す。その隙にあの二人を討つのよ」

 

「しかし、、念鬼どの、危ない事は避けた方がよろしいのでは?」

 

「なぁに、盲人二人を目開きが襲うのだ。こりゃあ楽だぞ」

 

「・・承知した」

 

 

蛍火が印を結ぶと夜空を幾千の蝶が彩り舞う。その群れは東へと進む。その群れを追い二つの声が聞こえた後念鬼は飛び降り宿へと向かう。

 

 

「おぉ!」

 

 

宿に入り一室の戸を開け念鬼は歓喜の声を上げた。部屋に置かれた行灯が照らし出すのは目を開ける事ができない二人。

 

 

「伊賀者か」

 

「そうだ弦之助!その首、この蓑念鬼が貰い受けるっ!!」

 

 

大声で笑い手にした棒を構え走り出した。

 

 

「見よ、豹馬」

 

「見えぬ豹馬に見よとは酷よのぉ弦之助!おぉぉぉぉ!!??」

 

 

その時念鬼は見た。部屋奥に座る室賀豹馬を。薄暗い部屋に襴と輝く黄金の双眸を。

 

 

「終わりました弦之助さま」

 

「おぉ、流石我が師じゃ」

 

「いえ、拙者は弦之助さまの夜の代役にすぎませぬ」

 

 

弦之助に瞳術を仕込んだのは室賀豹馬であった。彼の目は夜のみ開き死の閃光を放つ。伊賀忍者が豹馬の忍法を知りたがった訳がここにある。

 

 

「すまぬ、見失った」

 

 

二人が宿へと戻り目にしたのは自らの髪を首に巻いた念鬼の姿だった。

 

 

「蝶は何方へ飛んだのだ」

 

「東へ」

 

「ならば西へ行け。奴はそこにおる」

 

「分かった。このわしが行く」

 

 

その時糸の様な目が怪しく光った。

 

 

 

雨の道をひた走る女の姿が。蛍火である。彼女は峠を越え東海道へと出ようとしていた。その時。

 

 

「おぉぉぉーーーーい、蛍火ー」

 

 

呼ぶ声が。念鬼の声だ。

 

 

「念鬼どの!私はここに居る」

 

 

降り頻る雨の中見えた姿に駆け寄り聞く」

 

 

「して」

 

「おぉ!甲賀弦之助と室賀豹馬を討ったぞ!なぁに、盲人二人大根を切るより容易すかったわ!」

 

 

豪快に笑う念鬼に安堵の声をあげる。

 

 

「流石です。それで残りの二人は?」

 

「陽炎という女は手傷を負わせたが逃げられた。あの女の言葉につい身震いを起こしてな」

 

「それで陽炎はなんと言ったのです?」

 

「おぉ、夜叉丸を討ったのは如月左衛門というおとーー」

 

 

そう言いかけた時蛍火が念鬼の手を握り般若の顔で念鬼を見上げ叫ぶ。

 

 

「その女などどうでも良い!何故念鬼どのは左衛門を討たなかった!いや、これは・・・天意かも知れませぬ、私に如月左衛門を討てと、、!」

 

「左衛門が討てるか蛍火。奴は何者に化けるか分からんぞ」

 

「左衛門が誰に化けようと見破らずにはおけませぬ、、!」

 

 

恋人を討たれた怒りに我を忘れ念鬼の手をぐっと握る。そして気が付き後ろへと飛んだ。

 

 

「ほぉ、見破るか蛍火」

 

「如月左衛門!!」

 

 

蓑念鬼は深い体毛に覆われた忍者。しかしこの念鬼の腕には体毛が無かったのだ。すぐさま印を組む為両腕を前に出した。それより先に左衛門が横にないだ刀が蛍火の胸を深々と突き刺さったのだ。

 

 

ぐらりと揺れた蛍火の体は深い谷底へと落ちてゆく。

 

 

「・・・蛍火よ、忍の争いは修羅の地獄ぞ」

 

 

谷底を見下ろし呟く。この言葉を聞いたのは如月左衛門のみであった。

 

 

 

 

 

「ネス!来るわよ!」

 

 

その言葉の後ドサリと人が一人落ちてきた。それをリサナウトが見事抱き一行は広場へと降り立つ。

 

 

「心臓を一突き、、でももう大丈夫ですよ」

 

 

寝かされた蛍火に回復魔法を放つ。

 

 

「本当に忍者という者は恐ろしいですね、、あんな瞳術を使う男が二人も、そして誰にでも化けれる男まで、、」

 

「そうね、、これが長きに渡る忍法を合わせた結果よ。それより念鬼は大丈夫だった?」

 

「もちろんです。すでに回復してますよ」

 

「ありがと。次は桑名に行くわよ」

 

「案内お願いしますね」

 

 

谷底より舞い上がった竜が雨夜を舞う。

 

 

 

伊賀甲賀から駿府に行くには東海道(国道1号)を進むほかない。だが甲賀組に先に行かれた伊賀組は追い越す為に海路を選び桑名にある港に来ていた。

 

 

「なんと、七里も船に乗るのか、、」

 

 

怯えた声をあげるのは雨夜甚五郎。彼の忍法は体の水分を調節し体を自在に変える事。それには塩と水が不可欠なのだが両方を含んだ海に落ちたらと思うだけで背筋が凍り付く思いだった。

 

 

「いつまで子供の様に駄々を捏ねておる。船が参ったぞ」

 

 

顔にベソを浮かべながら桟橋を恐る恐る渡り伊賀一行は舟へと。他の乗客に紛れ船部屋に立つのだが誰も伊賀一行に近寄ろうとしなかった。

 

 

それは小四郎が居たからだ。術を破られ顔を割いたが一命を取り留めこの旅に同行していた。痛た痛たしい傷を隠す布には血が滲み乾き黒ずむ。その不気味な姿に気味悪がり近寄ろうとしなかったのだ。

 

 

「朱絹、雨夜と共にここに居れ。儂は朧さまと別室へゆく。その部屋の前に小四郎を立てておけ」

 

「どう言った要件で?」

 

「朧さまに甲賀と戦えと言って聞かせるのじゃ。旅には付いて参ったがその心の奥底は分からん」

 

 

なるほどと納得した朱絹が朧へと伝え二人は別の部屋に。その後小四郎を連れて部屋の前に。

 

 

「潮風は冷えます。これを」

 

「朱絹どの、かたじけのぉござる、、」

 

 

部屋の前に座る小四郎に自らの着物をかけ元いた部屋へと。

 

 

 

「天善、私に何用かえ」

 

「朧さまの覚悟を聞きに参ったのじゃ」

 

「・・・・」

 

 

その言葉に朧は俯いた。

 

 

「私は、、、」

 

「はっきりと申してくだされ朧さま!伊賀の名にかけて甲賀と戦うと!」

 

「私にはそれはできませぬ、、それに私の瞳は塞がれております」

 

「後五日もすれば目も開くでしょう。甲賀弦之助を倒せるのは朧さまの瞳だけなのですぞ!」

 

「私は、この五日のうちに弦之助様に斬られようと思う」

 

 

弱々しく呟いた言葉に天善が叫ぶ。

 

 

「やむを得ぬ」

 

「私を殺すのかえ、天善」

 

「いや、殺さぬ。朧さまには生きて貰う、命の精をそそぎこむのです。伊賀の精を」

 

 

顔を上げ見上げた朧の目を掴み天善は言う。儂の女房になりなされと。

 

 

「たわけ」

 

 

そう言い手を振り払うのだが手が腰に伸び引き寄せられる。

 

 

「そのほかに朧さまの考えを変える方法は否!」

 

「やめてくだされ天善、、」

 

「おぉ、口ではそう言いながらも乳房が熱くなってきておるではないか。なぁに、他の者は別の部屋、叫んでも聞こえまいぞ」

 

「誰かっ!朱絹!甚五郎ーー!!」

 

 

朧の悲痛な叫びを小四郎は聞いていた。小四郎と朧は年少期を共に過ごした仲であり小四郎は朧の事を実の姉の様に慕っていた。そんな姉が今自分のいる部屋の奥で手篭めにされようとしているのだ。小四郎は居ても立っても居られず立ち上がるのだが再び座り直した。

 

 

小四郎は天善直属の部下であり刃向かうことは決して許される事ではない。だが。

 

 

「小四郎ーー!助けておくれ!!」

 

 

朧の叫びを聞くたびに心は揺れ動き拳を硬く握る。そして。

 

 

「天善さまっ!!どうかおやめくだされ!!」

 

 

小四郎は立ち上がり殺される決死の覚悟で部屋へと押し入った。その瞬間に音が止み沈黙。

 

 

「姫様!」

 

「小四郎が助けてくれたのかえ」

 

「いえ、おれはなにも、、」

 

 

目を塞がれた二人には見えなかった。天善の首に巻きつく大きな手を。その主はニヤリと笑うと壁へと溶け込み姿を消した。

 

 

「十九人しか居らぬ、、、」

 

 

船部屋にいる甚五郎がポツリと呟いた。

 

 

「どうしたのですか甚五郎どの」

 

「この部屋にはわしらを除いて二十の人が居った!今数えたのだが傘を被った奴が消えておる!見よ!これを!」

 

 

部屋の片隅に残されたのは傘と衣服。誰を見ても裸の者はおらず聞けば誰の物でも無いと答えた。

 

 

「甲賀者がこの船に乗っておるのだ!」

 

 

叫び刀を抜くと辺りを見渡し壁を切り付けながら部屋の外へと飛び出した。

 

 

「何処だ!何処にいる!!」

 

 

走りながら辺りを見渡すが人の影も形も無い。その時壁からにゅっと出た手が甚五郎を掴み放り投げた。

 

 

「あ、朱絹!!」

 

 

宙を舞いながら甚五郎は叫びそして海へと落ちた。海を覗き込むと異様な光景が。

 

 

甚五郎の身体が膨らんだと思うと一気に縮んでゆく。水を吸い含まれた塩が水分を外へと逃したのだ。

 

 

「甚五郎どのっ!」

 

 

朱絹が着物を脱ぎ捨て海に飛び込んだのだがそこにあったのは甚五郎が着ていた服だけであった。

 

 

 

 

「甚五郎はどうするのですか!」

 

「任せてちょうだい!絶対者の砂時計(スキル解除)!」

 

 

リサナウトがスキルを使うと海中へと溶け出した甚五郎の身体が元へと戻り海面に浮かび上がった。

 

 

「忍法はいわばスキル。解除してしまえばこっちのものひょ!」ドヤァ

 

 

竜が浮かぶ甚五郎を拾い上げ刻の牢獄へと。

 

 

 

 

「天善!貴様何故生きておる!」

 

「ふふふ、知れた事よ」

 

 

刑部は驚愕した。先程締め殺し完全に心臓が停止したはずの天善が不敵に笑い立って居たのだから。

 

 

「だがワシを捕えることはできぬ!」

 

 

ぬっと刑部の身体が溶け床に同化し音も飛沫もなく床内を動き回る。

 

 

「天善さま!私めが!」

 

 

海より戻りし朱絹が血霧を噴いた。すると人型の血が壁を動くのが浮かび上がった。

 

 

「終いじゃ!霞刑部!」

 

 

浮かび上がった人型目掛け天善が刀を突き刺すと影が声もなく叫びを上げ壁から血が伝う。

 

 

「・・・」

 

 

天善は巻物を開き壁を流れる血を指ですくうと霞刑部の名に線を引いた。その後雨夜甚五郎、蛍火、蓑念鬼の名にも線を引いた。

 

 

「これで互い残りは四人」

 

 

煌々と海面に沈みゆく陽を見ながら天善は呟いた。

 

 

 

 

「ネス、刑部に継続回復魔法」

 

「今のうちに回復させて牢獄に入れてはダメなのですか?」

 

「色々あるのよ」

 

「むぅ」

 

 

 

 

しばらくし弦之助達は宮(熱田)を超え鳴海、池鯉鮒(知立)へと辿り着いていた。池鯉鮒からさかい橋を越えると東海道は尾張地方を抜け岡崎へと入る。そのさかい橋のふもとになにやら人集りが。

 

 

誰しもが杭に立てかけてある板を目にし興味あり気に見るのだが気味の悪さ故にすぐその場を去る。しかし四人の旅人はその板の前を離れなかった。

 

 

一人が板を外し川へと浮かべ一人が花を摘み板の上に乗せると手を離した。人型の血が付いた板は静かに流れてゆく。

 

 

「刑部、仇は討つぞ」

 

 

流れゆく板に目を瞑り手を合わせた弦之助が目を開き前を向いた。

 

 

「刑部を討ったか。敵ながらあっぱれじゃ」

 

「あれをここに置いたという事は伊賀は先に進んでおるようだ」

 

「ならば待ち伏せに気をつけなければな」

 

 

一行は池鯉鮒を抜け岡崎を目指していたのだが既に日は沈み進軍は諦め池鯉鮒の東にある駒場に宿を取るために向かっていた。

 

 

 

 

 

その少し後にネスとリサナウトは板を回収しスキル解除をかけ出てきた刑部に回復魔法をかけ刻の牢獄へと詰め込んでいた。

 

 

「うへぇ、、まさか裸で出てくるなんて、、」

 

「刑部自体は同化できるけど服は無理だからね」

 

「そろそろお腹が空いたのですが」

 

「そうね、ご飯にしよっか」

 

 

現在地は池鯉鮒。この地名は旅人が美味しい魚を食べれる様にと付けられた地名であり辺りには魚料理を出す店が数多く並んでいる。その中から一軒のお店を選び二人が入ってゆく。

 

 

「へぇ、鯉こくってあまり良いイメージが無かったのですが美味しいのですね」

 

「この時代には汚染も無いし綺麗な水だからね。水清ければ魚棲まずって言葉を知っているかしら」ドヤッ

 

「すいません、鮒味噌を下さい」

 

「・・・・」

 

 

 

時は進み駒場を目指し弦之助達は夜の草原を歩いていた。その時一匹の鷹が異様な羽音を頭上でたてた。

 

 

「あの鷹巻物を掴んでおる!」

 

 

見上げた弦之助が叫び陽炎と共に鷹を追い走る。その場には傘を被った二人が残された。

 

 

「あ、待て」

 

 

豹馬が声を上げたが鷹に釣られた二人は既に闇夜に消えていた。

 

 

二人が残されたのは凛と静寂が鳴る平原。そこに一つ砂利を踏む音が鳴り二人同時に視線を向けた。

 

 

「ほぉ、やはり甲賀弦之助は盲人となっていたか!」

 

 

音の主は不敵に笑う薬師寺天善。蛍火、念鬼の消息が絶えた為あの作戦が上手く行っていたか不安であったが傘の隙間より月が照らす弦之助の顔を見て勝ちを確信した。

 

 

「奴らしくじったと思っておったがあれは左衛門が化けたものか。なかなかの奇策よ」

 

「薬師寺天善か」

 

「ふふふふ、貴様らの為に用意した見世物はいらんかったようだな」

 

「いや、心眼でしかと見た。礼を言う」

 

「これも心眼でみえるかっ!」

 

 

天善の一閃をひらりと避け刀も構えずにニヤリと笑う。その様子を見て天善がたじろぐ。

 

 

「甲賀弦之助っ!貴様は儂が討ち果たす!」

 

「それは残念じゃ」

 

「あ?」

 

「儂と豹馬にはおぬしの死に様が見えぬからな」

 

 

笑う弦之助を見た後室賀豹馬へと視線を向けた天善は見た。傘の隙間から溢れる金色に光る豹馬の双眸を。

 

 

「ぬぅぅぅぅぅ!!」

 

 

それでも天善は二人へと向かい駆け出し刀を振るう。だが、振りかざした刀は己を向き自らの首を裂いた。

 

 

天善は五歩よろけ草むらへと倒れ込んだ。

 

 

「弦之助さま!」

 

「おぉ、鷹はどうであったか」

 

「逃しましたが巻物は取り返しました」

 

 

月夜に透かし巻物を読み上げると不満げに弦之助が言う。

 

 

「して、鷹の主は」

 

「分かりません。草むらに紛れてはおるやも知れませんが月明かりだけでは探しきれません」

 

「そうか」

 

 

あの鷹はお幻の鷹。もしかしたら朧が近くに居ると考えていたのだが肩透かしを喰らい安堵のため息を付いた。

 

 

「さて、お主達は先に岡崎を目指せ。わしはこの死体に用を済ませてから追いかける」

 

 

死んだ天善を担ぎ左衛門が闇夜へと消える。

 

 

 

「おぉぉぉぉおーーい」

 

 

しばらく歩いた時何処からか呼ぶ声が。三人は足を止め声の在処を探す。

 

 

「男の声か」

 

「左衛門では無い」

 

「では一体誰の声でしょう」

 

「おぉぉぉぉぉおーーい。天善さまーー」

 

 

もう一つの声の後一人の男が姿を現した。両手に鎌を握り顔に白い布を巻いた男。筑摩小四郎。

 

 

「小四郎か」

 

「そこに居るのか天善さま!いや違う!甲賀者!」

 

 

まだ距離は合ったのだが耳にひゅるひゅると風がなう音が。その後弦之助が被る傘がぱっと切り裂かれた。

 

 

「こちらへ!」

 

 

陽炎が二人の手を引き草むらへと身を隠す。その頭上で鷹が羽音を立て鳴き喚く。

 

 

「そこか!」

 

 

三人の手前の草が真空に触れぱっと葉を散らす。盲目の忍者だがかまいたちの業は健在であり目の見えぬ小四郎を鷹が誘導し三人は窮地へと立たされた。

 

 

「拙者が囮になる。陽炎は弦之助さまと行け」

 

 

その言葉に陽炎が顔を向けると豹馬は既に路上へと踊り出し右手には月に輝く白刃が握られていた。

 

 

草根を掻き分け草原を進む弦之助達の頭上でけたたましく鷹が鳴く。その音を頼りに小四郎がゆらゆらと歩んでゆく。

 

 

「伊賀猿!後ろ!」

 

 

豹馬が叫ぶとふらりと小四郎が振り返った。

 

 

「お主、名は」

 

「室賀豹馬」

 

 

答えたと同時に身を屈ませながら小四郎へと向かう。その時傘の後ろがぱっと弾けた。

 

 

室賀豹馬の盲目は生来のものであり盲人となり日が浅い小四郎よりも感覚に優れ優位に立てるはずであった。が、忍者とは常人より五感に優れており小四郎も忍者なのだ。振り下ろされた刀を鎌で受け止めるともう片方の鎌で押さえ込んだ。

 

 

「見よ、小四郎」

 

 

豹馬の双眸が金色に輝くのだが小四郎は盲人。目を見れなければ瞳術は掛ける事ができない。呆気に取られる間も無く豹馬の顔面が真空により割かれた。

 

 

刀を地面に刺しそれに縋り立ったまま動かなくなった。

 

 

 

 

「豹馬様っ!!ネス!早くはやく!!!」

 

「分かりましたよ。私の全力の回復魔法で!」

 

「あっ!それはダメよ!継続回復魔法!」

 

「一体なんなんですか!ほんとに!!」

 

 

 

 

小四郎は彷徨っていた。先程相対した室賀豹馬の気配は消えたのだが倒れた音が聞こえない事に。目の見えない小四郎は不安に駆られ手当たり次第に鎌を振るうのだが空を切り疑心暗鬼へと。

 

 

「小四郎どの小四郎どの」

 

「おぉ、朱絹どの」

 

 

ぱたぱたと走り寄る音と声。それは同じ伊賀忍者の朱絹だった。

 

 

「どうしてここに、池鯉鮒の宿に朧さまと居たのでは」

 

「小四郎、、。私を殺して!」

 

 

不意に抱き寄せられ甘酸っぱい匂いが鼻に香る。聞こえるのは朱絹が啜り泣く声。

 

 

「一体宿でなにが」

 

「如月左衛門が宿に押し入り朧さまをむごたらしめ、、。もう伊賀の負けでございます、、」

 

「なっ!姫さまが」

 

 

小四郎はよろけ尻もちを付いた。そこに朱絹が覆い被さる。

 

 

「そなたはその時何をしていたのだ!まさか朧さまを置いてのうのうと逃げてきたのではあるまいな!?」

 

「私はその時縛られて、、隙を見て逃げ出しこの事を天善さまに伝える為恥を忍んで逃げおおせました」

 

「そなたにも死んでいただきたかった!朧さまの代わりに!」

 

「小四郎、私を殺して!殺して!生き恥を晒す私を!」

 

 

抱く朱絹から香る女の匂いが小四郎の頭を痺れさせる。そして杏の吐息が小四郎の顔へと吹きかかる。

 

 

「小四郎、死のう」

 

 

朱絹の声では無い。そう気が付いた時意識は既に無かった。

 

 

「女の声色は疲れる」

 

「見事な声帯模写でした」

 

 

小四郎から離れすくりと立ち上がった女は陽炎。彼女が情欲に燃える時吐く吐息は毒へと変わる。盲目である事を利用し左衛門の声真似で近づき小四郎を討ち取ったのだ。

 

 

「人が来る」

 

 

弦之助の声の元二人は再び草むらへと身を隠した。

 

 

 

「小四郎どの、小四郎どの!」

 

 

二人歩いてきた人は小四郎の死体を見つけ一人が縋り泣く。もう一人は俯き体を震わせていた。

 

 

「傷は無いのに、傷は何処にも無いのに」

 

 

朱絹が顔を上げ立ち往生する豹馬に気が付き白刃を携え歩み寄る。

 

 

「朱絹、そこに誰かおるのか」

 

「えぇ、ここに甲賀者が一人死んでおります。顔が裂け誰か分かりませんがきっと室賀豹馬という男」

 

 

そう言って豹馬の胸へと白刃を突き立てた。その時初めて豹馬は地面へと倒れた。

 

 

「朱絹!仏を辱めるのはやめてくだされ!私は天善が霞刑部を晒し者にするのも嫌でした。小四郎と相打ちになる程の男を蔑ろにする事は小四郎を蔑ろにするのと同じ!」

 

「まだ甲賀者の肩をお持ちになりますか!忍び同士の戦いに慈悲など無用です」

 

「仏に手を出す事は私が許しませぬ、それより小四郎を弔いましょう」

 

 

一瞬朧を憎悪を込めた目で見た後白刃をしまい草むらへ人が入る程の穴を掘り小四郎を埋め手を合わせた。

 

 

「あと伊賀者はあの二人のみ。私と左衛門で一気にかかりましょう」

 

 

草むらで隠れ見る陽炎が左衛門に言うと深く頷き刀の柄に手をかけた。それを弦之助が制する。

 

 

「朧を討つなと仰られるか」

 

 

この後に及び躊躇う弦之助へと鋭い視線を向けると首を横に振り「人が来る。この時間に訝しい行列が」と。

 

 

その言葉に草むらへと戻ると東より此方へと向かう行列が。

 

 

「曲者だ!」

 

 

既に朧達と行列は目の前の距離であり行列より武士が刀を構え前へと出る。朱絹が小四郎の鎌を持ち朧の前へと出た。

 

 

「私達は大御所さまのお召しによりいそぎ駿府へと向かっている者です。お手前さま達はいずれの方でしょうか」

 

 

「大御所さまだと。お前達何処の者だ」

 

「伊賀の国鍔隠れが郷土です」

 

「何!伊賀鍔隠れとな」

 

 

低い声で鎌を構えながら告げると奥にある籠から女の声が。籠から出ると武士が止めるのも構わず二人の前へと。

 

 

「もしやそなた達は服部半蔵さまとの約定が解かれ甲賀と戦っておる者ではないか?」

 

「そうですが、、」

 

「そちら名は朱絹と朧とはもうさぬか」

 

「はい、そちらは?」

 

「将軍家御世子、竹千代さまにお乳をまいらせた阿福じゃ」

 

 

朱絹は困りながらも返答をした。何故この女はその事を知っているのか。徳川家とこの戦いになにが関係しているのか。

 

 

「そちらの名は忘れもせぬ。伊賀お幻が誇らしげに書いた十名の名を。そちらは竹千代さまの為に選び出された大事の忍者じゃ」

 

 

朧と朱絹はこの言葉で察した。

 

 

「して、そこに倒れておる男は何者かえ」

 

「甲賀者の室賀豹馬という忍者です」

 

「それはでかした!して、甲賀は残り何人じゃ」

 

「三人」

 

「うむ、伊賀衆の残りは何処に居る。もう駿府へと向かったのかえ」

 

「伊賀は私達二人」

 

「残りは」

 

「死にました」

 

「は?」

 

 

その言葉に阿福は顔を強張らせた。まだ約定が解かれて四日と経っていないのに既に十五人も死んでいる事にーーー。

 

 

 

 

 

 

一向が去った後二人は小四郎を掘り起こし二人を回復させ牢獄へと詰め込んだ後ネスが深いため息を吐いた。

 

 

「本当にやるせない、、この戦いの意味を知ってしまったのですね」

 

「そうね、怨敵同士とはいえその事を第三者に利用されてるなんて思ってもいなかったでしょうね。だからこそ私はみんなを助けたいのよ」

 

 

行列に連れられ歩きゆく朧と朱絹の背に目を向けながら呟く。

 

 

「残るは伊賀二人に甲賀三人ですね」

 

「違うわ。伊賀三人よ」

 

「まだ生き返るのですね。本当に死をなんだと思ってるんですか天善は!」

 

「ほら、賀正フォルカスとかコラボのアズサだって何度でも蘇るし。しょうがないわよ」

 

「それで私が納得すると思います!?」

 

「と、とにかく追うわよ!」

 

「あっ!待ちなさい!!」

 

 

 

 

 

 

阿福一行は東へと進み吉田(豊橋)の宿へと来ていた。吉田宿とは多くの宿が立ち並ぶ宿街であり永生二年に牧野古白が城を築き城下町として栄えた場所だ。その中でも一際大きな宿を選びそこで休息を取っていた。ずっと朧の上を飛んでいた鷹も屋根に止まり羽を休めていた。

 

 

「何者だ」

 

 

宿を見張る武士の前に現れた一人の男が答えず顎で宿を指す。

 

 

「ここは今宵貴人がお泊まりじゃ、他所へ行け」

 

 

しっし。と手を振るとその手を掴み関節を取る。と悲鳴を上げ宿より武士が駆け寄る。

 

 

「曲者!」

 

「であえであえっ!!」

 

 

三人の武士が刀を振るうがひらりと身を躱し手刀を肘に喰らわせるとたちまち刀を落とし悲鳴を上げる。

 

 

「何事でしょうか!」

 

 

宿の奥より飛び出した朱絹が叫び見るとその男は天善であった。

 

 

「違います!この男は伊賀の忍者薬師寺天善さまでございます」

 

 

天善と武士の間に割って入り弁解すると武士が刀をしまいため息を吐く。なんだ味方か。と。

 

 

「朱絹。それよりも話がある」

 

「はい」

 

「小四郎を殺した甲賀の陽炎が夕暮橋の麓におるのじゃ。儂について参れ」

 

 

その言葉に鋭い忍者の目をした。

 

 

「甲賀者なら拙者達も行く」

 

 

奮い立つ武士に天善が口を開く。

 

 

「ほぉ、常人が忍びの戦いに首を突っ込もうとは余程その命が惜しくないとみえる」

 

 

天善の言葉に震え上がり慌てて両手を突き出し振った。

 

 

「行こうか」

 

 

風の様に走る忍者二人を安堵した目で見送ってゆく。すると走って行ったはずの天善が宿へと歩いて来るではないか。

 

 

「あの鷹がここにおるという事は朧さまがこの宿におるはずじゃ」

 

 

天善の言葉に武士達は困惑した。

 

 

 

「小四郎を殺したのは豹馬ではないのですか」

 

「小四郎は豹馬を倒した。が、その後現れた陽炎に討たれたのじゃ。陽炎は男に抱き付くと息が毒に変わるらしい。小四郎の死体に傷が無かったのはその為。男の儂には陽炎は討てぬと思いそちを呼んだのじゃ」

 

「小四郎を討ったのは陽炎、、、」

 

「そうじゃ、陽炎が憎いか」

 

「はい、この手で血に染めなければ気が済みませぬ」

 

「うむ、見よ、陽炎がまだ居るぞ!」

 

 

目を向けると橋の手すりにもたれ黄昏を眺める陽炎の姿が。

 

 

「天善さま、ここは私めに」

 

 

深く頷くのを見た後小四郎の鎌を手に陽炎へと向かう。

 

 

「陽炎。待ち人はまだ来ぬのか」

 

「ようやく来よったところ。まんまと誘き出されよって」

 

 

夕焼けを見る目を朱絹へと変えゆっくりと懐より短刀を取り出し構えた。それに天善の前に朱絹が立つ。

 

 

「勝負じゃ、陽炎!」

 

 

着物より左肩を出し血霧を噴き出しながら迫るとたちまち辺りは赤い靄へと包み込まれる。その中で鬼の形相を浮かべる朱絹は散っていった伊賀の怨念を背負った悪魔の様。

 

 

「冥土の土産に見よ!伊賀忍法!小四郎の仇っーー!!」

 

 

血霧の中視界を塞がれた陽炎へと大鎌を振り下ろそうとした右手を天善が掴み止めた。

 

 

「て、天善さまっ!」

 

「天善は死んだ。主こそこの如月左衛門の変貌ぶりを冥土の土産にとくと見てゆけ」

 

 

あっ、と思う間もなく陽炎の握る短刀が朱絹の胸を貫く。手を解かれた朱絹は川へと落ち血をなびかせながら流れてゆく。

 

 

「じきに朧も逝く。お前の血で地獄のつゆ払いをしやれ」

 

 

顔に付いた血霧を拭い陽炎はにんまりと笑う。

 

 

 

 

流れる朱絹を川下にて待ち構えていた二人は朱絹を岸に引き上げ回復魔法をかけていた。

 

 

「甲賀の中で一番怖いのは左衛門ですね。あれが化けて中に居ると考えただけでも恐ろしい、、」

 

「もうすぐ左衛門も討たれるわ。しばらくここに居るわよ」

 

「え、あの左衛門が?」

 

「そうよ」

 

 

 

 

東より見えた阿福の家来の姿を見て陽炎を逃した左衛門は一人橋の上に佇んでいた。

 

 

「これはこれは阿福殿の御家来衆。如何なされました」

 

 

大勢の家来を前に平然と左衛門は言う。

 

 

「あ、朱絹どのは何処へゆかれました」

 

「朱絹なら甲賀弦之助を追って彼方へと向かいました」

 

「何、女一人で甲賀者を追わせたのですか」

 

「さよう。先程この橋の上で弦之助に深手を負わせましてね、死物狂いで逃げるのを追わせたのじゃ」

 

 

左衛門が落とす視線の先には橋を染める血の水溜りが。

 

 

「おぉ、それ程の深手を負わせたのなら弦之助もじきに死にましょう。して、天善どのは何故この場に残ったので」

 

「朧さまをお守りするためじゃ。甲賀にはまだ如月左衛門という忍者がおる」

 

「陽炎という女忍者は」

 

「ふふふ、陽炎は儂が飼い慣らした」

 

「飼い慣らしたとは」

 

「池鯉鮒の宿場で儂が捕まえましてね、忍者といえ所詮は女。抱けば惚れ惚れた男になんでも喋り申した。弦之助がここに居るという事も陽炎から聞いた事で」

 

「おぉ、それは頼もしい」

 

「して陽炎が薬師寺天善を訪ねて参ったら手数だが通してやってくれ」

 

「しかと心得た。して、薬師寺天善どのは不死の忍者だと聞いておりますが」

 

 

その言葉に左衛門の背に汗が伝う。

 

 

「聞けば天善どのは如何なる傷を受けようと蘇る忍者と。例え首を斬られようと蘇る不死の忍者。その術が見てみとおござる」

 

 

左衛門の体が跳ね上がった。見れば傘を被った男が左衛門の腹に刀を突き通している。

 

 

「不服かもしれんが如何でしょう。天善どの」

 

 

最後に左衛門は見た。傘の男が自分と同じ顔をしているのを。その後体を仰け反らせ川へと落ちた。

 

 

「陽炎が如月左衛門を訪ねて来ると申したな。飛んで火に入る蜻蛉とはこの事よ」

 

 

流れ行く左衛門を嘲笑った後家来と共にその場を去ってゆく。

 

 

 

 

 

 

「本当に、、あれを殺す方法は無いのですか」

 

「本人が言うには首を切り落とすか死体を燃やすと完全に死ぬらしいわよ」

 

「私の魔弾で焼き払いましょう」

 

「それはダメよ!私達が手を出す事は歴史を歪める事になるわ」

 

「どの口がそれを言いますか!」

 

 

 

 

 

阿福一行は吉田を出て東海道を降り浜松で宿を取っていた。そこへ一人の女が姿を見せた。

 

 

「あの、伊賀の薬師寺天善という方はこちらに居られるでしょうか」

 

 

声をかけられ見張りの武士が見て目を奪われた。声をかけた絶世の美女に、柔らかな声色に見上げる瞳にごくりと唾を飲む音が。

 

 

「名をなんと言う」

 

「陽炎です」

 

 

少しの沈黙の後陽炎は宿へと通された。

 

 

「朧さまはどちらへ」

 

「まずは天善どのにお会いくだされ」

 

 

案内する武士の目線を受けながら天善が待つ部屋へと通された。戸を開けると蝋燭に照らされる天善か鎮座していた。

 

 

「左衛門。朧は何処に」

 

「しっ。戸の前に奴らが立ち聞きしておる。寄れ」

 

 

座る天善の横に立ち膝で陽炎が寄る。

 

 

「何故です。あなたは薬師寺天善として信用されているはずです」

 

「あぁ、儂は信用されておる。だがお前は信用されておらんのだ」

 

「朧に?」

 

「阿福に。あの女は疑り深い。奴にはお前を犯して堕としたと言ったが逆に罠にかけられたのだと言う。しばし儂らと旅をせい。駿府までまだ三日とかかる、そのうちに朧を仕留めれば良い」

 

「そう、ですね」

 

 

立ち上がろうとした陽炎が体勢を崩し天善の膝に手を付き顔を見上げた。その顎に天善が手を伸ばす。

 

 

「そうだ陽炎。まずは奴らを信じさせようではないか」

 

「と、申しますと?」

 

「奴らにはお前を池鯉鮒で犯したと伝えてある。それが半信半疑であるなら見せ付けてやるのよ」

 

 

天善の手が着物へと伸び隙間から乳房を摩る。それに嫌々と首を振るが構わず揉みしだく。

 

 

「左衛門、、、!」

 

 

陽炎は察した。これが左衛門であるのなら自身の忍法を知っておりこの様な事をするはずが無いと。しかし乳房を揉む男は目をぎらぎらと輝かせ獲物をいたぶる獣の様。

 

 

そうなるのも仕方ないのかもしれない。蝋燭に照らされるのは着物を乱し隙間から見れる肌は雪の様に白く赤みを帯び熱を滾らせる美女。この美女が吐く息が毒だとは誰も思わないだろう。

 

 

裾を開き手を伸ばせばくちゅりと水音が溢れ天善は耳元まで口を広げた。

 

 

「良いか」

 

 

そう問うと頷く間もなく陽炎へ覆い被さり熱く濡れほそぼる秘部へと。

 

 

 

「ぐっ」

 

 

短く呻き天善は陽炎の息を吸い死んだ。しばらくして陽炎は天善の下より這い出し短刀を首に突き刺し歩き出した。

 

 

戸の向こうが騒めく。天善が殺された事より裾も襟も乱れた半裸にちかい女が血に濡れこちらへと歩いて来たのだから。

 

 

陽炎が戸を開けようとした時戸を破り槍が一本出た。それをひらりと躱し矛先の下を掴んだ時もう一本の槍が突き出され陽炎の太腿を突いた。

 

 

「あっ」

 

 

呟くも戸を破り押し入った武士に捕まり縄をかけられ床へと転がされる。

 

 

「何の騒ぎ」

 

 

騒ぎを聞きつけ姿を見せたのは阿福。床に転がされる女を見て背後に控えた朧へと殺せと命じた。

 

 

「朧っ!甲賀伊賀戦いに他人の力を借りるとは恥とは思わぬか!!」

 

「・・・」

 

「お前が誰に守られようと甲賀弦之助さまは必ずお前を討ち果たす!」

 

「・・・弦之助さまは何処に居られる」

 

「甲賀の忍びがそれを言うものか。これ以上口を聞くのもけがわらしい、さっさと私を殺すと良い」

 

 

床より鬼の形相で見上げ睨む。その目に写った朧は目を開けておらずただ俯いたまま。

 

 

「朧、早くこの女を殺し」

 

「いえ、殺さぬままの方が良いでしょう」

 

「この女を囮に旅をすれば甲賀弦之助さ、、がきっと現れます。その時巻物を取り返し駿府へと行けば良い話です」

 

 

朧の言葉に納得した阿福によりこの場は鎮められた。次の日浜松の宿より行列が出た。一つの籠には阿福、もう一つの籠に朧、もう一つの籠に陽炎。そしてもう一つの籠を持ち一行は掛川へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「また死にましたね。一体何度目ですか」

 

「えっと、四回目ね」

 

「どうせ今回も蘇るんですよね。分かってますよ」

 

 

 

 

 

 

掛川の宿に着いた一行は別々の部屋へと。宿前に見張りが立ち陽炎にも二人見張りが着いた。

 

 

「・・・」

 

 

見れば見張りの武士は若造と年老いた武士。どちらも男。それも籠に居る陽炎へと情欲を孕んだ視線をちらちらと向ける男。

 

 

「ごめんなさい、傷が痛むので薬を塗って貰えはしないでしょうか」

 

 

籠より槍を刺された脚を出す。行燈に照らされ艶かましい脚に二人の武士が寄る。

 

 

「すまんがわしの印籠を持ってきてはくれんか?この女に死なれたら何を言われるか分からんからな」

 

「それが自身の物であるなら自分で取りに行っては如何ですか」

 

「わしはこの女を見張る役目が阿福様より言い付けられておるのだ」

 

「それは俺も同じ。万が一人が来た時に言い訳は申しておく」

 

 

子供地味た喧嘩に心の中で嘲笑いながら咳を二つ。

 

 

「それと宜しければお水を下さいませんか」

 

 

「よし、わしが取ってくる」

 

 

陽炎の頼みに一目散に部屋から出て行った老兵を目で見送った後陽炎へと視線を戻す。着ている着物は乱れに乱れ白い肌に縄が食い込み身を捩る度に恥部を晒す。

 

 

「お主、逃げたくはないか」

 

「逃げとぉございます」

 

「俺と一緒に逃げてくれる気はあるか」

 

「はい」

 

 

 

しばらくして湯呑みを持った老兵が戻ってきて陽炎へと湯呑みを差し出そうとした。

 

 

その湯呑みは陽炎に渡す寸前で床に落ちた。若兵が老兵の首を手で締め上げたのだ。陽炎の誘惑に駆られた男は女王蜂に従う蜂の様に忠順に働いた。

 

 

手足を縛る縄を切ると手を伸ばした。

 

 

「その前に水を、、」

 

「後ではいかんのか、急がねばならん」

 

「無ければ唾をくだされ」

 

 

 

 

陽炎は宿中を探し回った。静かに忍び部屋を一つづつ周りやがて見つけた。朧が休む部屋を。

 

 

戸を少し開け寝入る朧を見つけた時背後から手を掴まれ振り向き陽炎は肝を潰した。手を掴んだのは薬師寺天善であったから。

 

 

 

 

掛川を出てた一行は東海道に立て札を立て藤枝の宿へと来ていた。辺りは暗く霧がかかり鬱蒼とする。そこに女の悲鳴が響き渡る。

 

 

ときに阿福が泊まる宿の上に荒寺があり悲鳴はそこから響いていた。

 

 

 

「まさか息が毒に変わるとはな。お前の忍法が何か知らなかったのが仇となったわ」

 

 

荒寺の内陣に座り蝋燭に照らされながら盃を傾け時折何かをぷっと吐くと悲鳴が上がる。それをにやにやと眺めていた。

 

 

見れば陽炎が衣服を剥がれ円柱へと縛り上げられていた。その鳩尾から腹にかけ伊と加の文字が。

 

 

「弦之助は来ぬな」

 

 

呟きぷっと何かを吐くと再び悲鳴が上がる。

 

 

「奴の目は塞がれておるが立札の事は噂に聞くはず。甲賀卍谷の首領は味方の命が危ないと聞いても来ぬほど情が薄いようじゃな」

 

 

机に並べられた針を咥えるとぷっと吹いた。その針は陽炎の腹に刺さり文字を記す。加の下に目と記された。

 

 

「どうだ、伊賀攻めは。もっと悲鳴をあげれば弦之助が来るやもしれんぞ」

 

 

目の下に´が記された。

 

 

「ひ、一思いに殺しや!」

 

「おぉ、殺してやる。殺すには惜しいが朝まで時をかけゆるゆるとな。さて、お前の死に目を弦之助が見るか弦之助の死に目をお前が見るかどちらが先かのぉ」

 

 

ぷっと針を吹いた。陽炎の鳩尾から腹にかけて[伊賀]の文字が浮かび上がった。

 

 

「天善!もうよしとくれ!私は我慢ならぬ、、、!」

 

 

響き渡る悲鳴に耐えかね下の宿より朧が天善を止めに入ったが打ち払い朧が横たわる。

 

 

「我慢ならぬ?こやつらに殺された八人は既にこの世におらんのですよ。まさかこいつを許し放てとおっしゃるのですか」

 

「・・・殺すなら一思いにするのが慈悲じゃ」

 

「忍者に慈悲など無用。それにあの陽炎の悲鳴こそ弦之助を誘き寄せる罠なのですぞ」

 

 

天善がじゃらりと机に置いたのは無数の針。次は左の乳房に伊の文字を記してゆく。

 

 

 

 

 

「もう私は我慢できません!リサナウトがなんて言おうがあの男は私が焼き尽くします!」

 

「待って、もう来るから。こんな言葉を知ってる?ヒーローは遅れて登場するって」

 

 

 

 

 

突如縛られた陽炎が床に落ちた。むっと顔を歪ませた天善が叫んだ。

 

 

 

「甲賀弦之助ぇ!!」

 

 

弦之助は来た。町人の噂を聞き足を進め陽炎の悲鳴を聞きこの荒寺へと来た。

 

 

蝋燭に浮かび上がる弦之助の手には刀が。天善も刀を構えずかずかと進む。

 

 

「朧はそこにおるか」

 

「おぉ、居るとも。儂の嫁の朧がな。お前に見せてやれんのが不憫極まりない」

 

 

弦之助の目は未だ開かずそれでも豹馬より鍛えられた目無しの剣術で天善と対等に渡り歩く。

 

 

されど刀を受けきれず下がり片足を縁の下へと落としその瞬間右肩を突き刺された。

 

 

「伊賀甲賀忍法争い、雌雄ここに決したり!」

 

 

上段へと刀を構えた天善が踏み出した時荒寺の床板を踏み抜いた。そこへ下段より白刃が舞い天善の首を皮一枚残し切り裂いた。ごつりと刀より伝わった衝撃の後倒れる音を確かに聞いた。

 

 

「朧、そこに居るのか」

 

「はい、弦之助さま」

 

「儂と戦え、刀はあるか」

 

「いえ、持ち合わせておりませぬ」

 

「刀を持ち寄れ、今の儂なら討てる。儂は目を塞がれ右手を潰された」

 

「私も目を塞いであります」

 

「何故だ」

 

「戦いが見たくなくて」

 

 

すき通る沈黙の後下の宿よりどたどたと足音が響き松明を掲げながら武士が登ってくる。

 

 

「弦之助、さま、、」

 

 

誰かが弦之助の足を掴んだ。空かぬ目で見るとそれは陽炎であった。

 

 

「弦之助さま、朧を、、、!」

 

「あぁ、儂は朧を、、、討つ」

 

 

それを聞き笑を浮かべた後がっくりと顔を落とした。

 

 

「弦之助さま、阿福の兵が来ます。縁の下へ」

 

「朧」

 

「私は弦之助さまとは戦えません。ずっとこの旅の道中弦之助さまに斬られたいと願っておりました」

 

 

弦之助は悟った。朧は謀ったのでは無くずっと和睦を夢見ていたのだと。

 

 

兵が階段を登り庭へとたどり着き松明で照らし出されたのは縁側に座る朧と横たわる陽炎そして首が落ちた天善の姿。

 

 

誰しもが驚き異様な光景に息を飲んだ。

 

 

「狼狽えるでない。この天善が不死の忍者という事は承知であろう。誰か抱き起こし首を置いてやれ」

 

 

阿福の命令に震え上がりながら身体を抱き起こし首に頭を乗せる。

 

 

その時消えたはずの天善の瞳に生気が宿りむくむくと首と胴体が繋がろうと蠢いた。

 

 

「っ!!」

 

 

して天善見た。縁側に座る朧を、見開かれた朧の双眸を。

 

 

天善は死んだ。朧の破幻の瞳により忍法を破られ死んだ。登りゆく朝日に照らされた顔は苦悶の表情を浮かべていた。

 

 

「この役立たずめが!」

 

「阿福さま!縁の下に男が居られる!きっと甲賀弦之助という男に違いありません!!」

 

 

縁の下より捕えられた弦之助を迎え一行は駿府へと向かう。

 

 

 

 

 

「陽炎は大丈夫ね。ネス、一応聞くわ。天善に回復魔法は使える?」

 

「いいえ、無理です。私には死者を蘇らせる事はできません」

 

 

頷くとリサナウトが見開かれた天善の瞼を落とした。

 

 

「この男も忍法争いの被害者なのよ。長き宿怨の戦いのね」

 

 

一つの風が吹く中二人は天善に向かい手を合わせた。

 

 

「この戦いを見送りに行こっか」

 

「はい」

 

 

春風に舞う竜が目指す場所は駿府城の辺り。安倍川。

 

 

 

 

夕焼けが沈む頃大勢の兵に囲まれ朧と弦之助が相対していた。

 

 

「これはこれは服部どの。いや、なに。先程争う二人を見つけたものですから。この忍者勝負の見届け人としてお呼びした次第で。けっして私は伊賀甲賀の争いに手など貸してはおりませんよ」

 

「聞かぬことまで話されますとかえって疑われますぞ」

 

 

 

服部半蔵は見上げた。刀を持つ少女と目が開かず利き手を潰された青年を。

 

 

「甲賀弦之助、朧。この戦いに異存はないな」

 

 

両者の返事を聞き服部半蔵は巻物を開き立ち上がった。

 

 

「この服部半蔵検分致す、両者立て」

 

 

すくっと立ち上がった二人が刀を構え向かい合う。

 

 

「早う始めんか!朧!!」

 

 

阿福の叱咤が飛ぶ。それでも朧は弦之助を見上げていた。

 

 

「大好きです、弦之助さま」

 

 

にっこりと微笑み持つ刀を逆刃に変え自らの胸へと刺し地へと伏した。

 

 

その時弦之助の瞼が開いた。そして足元に蹲る朧を見た。

 

 

「朧」と呟き巻物を取りに歩む。

 

 

「誰か!あの男を殺したもれ!」

 

 

阿福の命令に武士が弦之助へと群がる。そして見た。弦之助の黄金に輝く双眸を。

 

 

巻物へとたどり着くと拾い上げ歩む。朧の元へと行き抱き上げると安倍川へと入ってゆく。

 

 

人別帳より甲賀弦之助、朧の名に線を引くと上空で舞う鷹へと投げた。

 

 

「伊賀勝ちじゃ。城へ持ってゆけ」

 

 

抱く朧へと目を向けた後刀を取り自らの胸に突き立てると崩れ川を流れてゆく。奇しくも祖父母と同じ安倍川を。

 

 

 

 

「二人は大丈夫だった?」

 

「はい、やはり覚悟が合っても自害とは本能が拒むもの。二人共すっかり回復しましたよ」

 

「ありがと。じゃあ甲賀へと戻るわよ」

 

 

 

再び夕焼けを追いかけ竜が空を舞う。

 

 

 

 

翌日の朝甲賀卍谷弾正屋敷へと辿り着いたリサナウトが刻の牢獄を解いた。

 

 

「さぁみんな出てらっしゃい!」

 

 

空間が曲がり歪むとそこに居るのは甲賀伊賀両名十九人。されど忍者といえ場の展開について行けず困惑を浮かべたがすぐさま争う姿勢へ。

 

 

「もう戦いは終わりよ。そしてもうみんなは自由なの」

 

「何者かは存ぜぬが邪魔をするならば討つ」

 

 

ぷっと甲賀弾正が針を吹いた。それは空を飛び木へと刺さった。次に風待将監が痰を吐くと空を切った。

 

 

夜叉丸が黒縄を振るい念鬼が毛を伸ばすが目標へ当たる事は無い。

 

 

「私に戦う気は全く無いわ。でも、やるのなら相手になるわよ」

 

 

一同は目を疑った。誰の忍法も捉える事はできずまんまと両名の真ん中で威張るリサナウトに。

 

 

「もしやお主はあの時の」

 

「正解よ豹馬様、あの時の忍者でも人でも無い者は私達よ」

 

 

ドヤ顔で答え指指す方には顔を俯かせるネスの姿が。

 

 

「ずっとこの戦いを私達は見ていたの。そして傷付き倒れた人を回復させていたのよ」

 

「それは何故に」

 

「決まってるじゃない。甲賀と伊賀を救う為よ」ドヤァ

 

 

確かに討ち討たれ死んだはずの奴がこの場にいる。この摩訶不思議な光景こそが偽りで無く真実。

 

 

「して、この戦いの結末は、弦之助さまと朧の勝負の行方は」

 

 

陽炎の声に弦之助と朧が目を背けながら言葉を待つ。

 

 

「そうね、二人共甲賀伊賀の名にかけて戦って最後はお互いの胸に刺し合って相打ちになったわ」

 

 

その言葉に二人が安堵のため息を吐く。

 

 

「そういえば天善さまは?」

 

「ごめんなさい。私には死んだ者を生き返らせる事はできませんでした」

 

 

「しかし怨敵が生きているのであれば討ち果たすまでよ!」

 

「ほおぅ、甲賀と同意見とは癪だが気が合うのぉ」

 

 

霞刑部と念鬼の間に赤黒く輝く斧が振り下ろされる。

 

 

「もう戦いは終わりだって。じゃあ甲賀に聞くわ。この戦いで一瞬でも手を抜いた人は居る?」

 

 

リサナウトの言葉に首を横に振る。

 

 

「次は伊賀に聞くわ。この戦いで全力を尽くさなかった人は居る?」

 

 

その言葉に首を横に振った。

 

 

「それが答えよ。みんな全力で戦って引き分けたの。それで良いじゃない。それでも文句があるのならみんなの忍法を大声で叫んでやるわ」

 

 

ドヤ顔のリサナウトに困惑するが一人リサナウトの元に歩みでた。

 

 

「どなたかは存じませんがありがとうございます、、」

 

「わたしはリサナウト・針枷・クロノスよ。あっちはネス・神令・スクルド」

 

 

深々と頭を下げる朧に頭を上げるよう言って顔を合わせた。

 

 

「後はみんなの番よ、長く降った雨は止んだ。だから次はみんなの手を取り合うのよ。じゃあ帰ろっか」

 

 

リサナウトがクロノスの力を使い刻の扉を開こうとした。

 

 

「あれ?えいっ!えいっ!なんで?!クロノスの力が使えない!?」

 

 

何も無い空間に向かい必死に叫ぶリサナウトに困惑の目線を向けていた。

 

 

「このバカナウト!さっき朧の顔を見たからですよ!」

 

 

リサナウトの横っ腹に杖の一閃が叩き込まれ地面を転がる。それに追撃が加えられてゆく。

 

 

「痛い!痛い!ちょっと、叩かないでよ!」

 

「嫌です!早く私を元の時代に帰しなさい!」

 

「あの、、もし行くところが無ければ伊賀へと来ませんか?」

 

「「はえ?」」

 

 

 

あれから少しの時が流れた。伊賀と甲賀はお幻、弾正により独自の約定が打ち立てられ四百年の戦いに幕が下された。二人の印が書かれた書は伊賀にある敢國神社に納められたようで。

 

 

それでも長年の怨敵同士で合った為気を許す事は無かったのだけど一人が動いた事により事態は変わった。

 

 

「お胡夷、ワシと猪狩りに行かんか」

 

 

左衛門宅に姿を見せた刑部がお胡夷に言うと申し訳なさそうに首を振った。

 

 

「すまん刑部どの、今日は念鬼どのと猪狩りに行く先用が入っておる」

 

「ほ?」

 

「時間じゃ、私は行く。また誘ってもらえぬか」

 

 

ぱたぱたと出てゆくお胡夷を人形の様に見送った。

 

 

「左衛門!良いのか!伊賀は敵だぞ!?妹を止めんか!」

 

「もう戦いは終わった。それに妹の遊び相手が誰であろうとわしの知った事でないわ」

 

 

ごろりと囲炉裏の横に寝転がったままの左衛門に唖然としたままの刑部。

 

 

最初は伊賀もお胡夷を疑ったが人懐っこく爛漫な彼女に誘われ遊びに出るうちに伊賀から甲賀へと行く者も現れた。

 

 

「なに、俺に祝言の日取りを占えと」

 

「はい、十兵衛どのの星占いは外れた事が無いと聞きまして」

 

「良い日取りを教えてくれ」

 

 

地虫十兵衛の星占いの噂を聞きつけ夜叉丸、蛍火が甲賀へと。

 

 

「うわー凄く上手!ねぇねぇどうやって彫ったの?」

 

 

お胡夷にあげた木彫りの梟の腕を見込まれ筑摩小四郎が甲賀の子供達に木彫りを教えに来たり。その後ろには朱絹の姿も。

 

 

「ほぉ、伊賀の酒もなかなか良い物じゃな」

 

「飲み過ぎるで無いぞ丈助」

 

「そう言う蠟斉こそ足がおぼつかんではないか」

 

 

「か、か、か。伊賀者は釣りも甲賀に勝てぬようじゃな。どれ、水に溶けて魚を探した方が早いのではないか」

 

「言わせておけば、、、!伊賀の釣法見せてくれる」

 

 

そんな感じでお胡夷から広がった輪が実を結び和気藹々と交流を深める様になっていた。私達も伊賀甲賀の人と馴染み親しみ始めていた。

 

 

「ネスどの」

 

「はい、どうしました豹馬」

 

「最近弦之助さまが何やらお悩みの様子で、拙者が聞いても何も言わず。良ければネスどのが様子を見に行ってはもらえぬか」

 

「分かりました。でも余所者の私より豹馬の方が話しやすいのではないでしょうか?」

 

「余所者にしか言えぬ事もあるのだろう」

 

「はい、後で様子を見に行ってきます」

 

「かたじけない。して、連れのリサナウトは何処に」

 

「バカナウトなら伊賀へ遊びに行ったはずです」

 

 

その頃。

 

 

「其方へ逃げたぞ!」

 

 

お胡夷が叫ぶ。そこには山道を走る猪の姿が。その行く先には念鬼が構え待つ。

 

 

「逃さぬ!」

 

 

毛を操り猪の行手を阻むと方向を変え一目散に逃げ走る。その足を地面より生えた手が掴む。

 

 

「リサナウト!今じゃ!」

 

「任せてちょうだい!えぇーい!」

 

 

木より飛び降りたリサナウトが猪を一刀両断。

 

 

「やりましたなぁ!今夜は猪鍋でございます!」

 

「まっ、私達にかかれば当然の結果よね」

 

「「「「あーはっははは」」」」

 

 

 

そして最初は困惑していた住民達も仲良くする上を見て徐々に交流を始め今では里同士で交流が始まり輪が広がってゆく。

 

 

 

「ほんに、何があるか分かりませんねぇ」

 

「そうじゃなぁ」

 

 

土岐峠中腹にある広場で夕焼けを眺める二人の姿が。

 

 

「そろそろ祝言の日取を考えねばならんな」

 

「遂に和睦を成し遂げ、これが後五十年も早ければ、、」

 

「言うなお幻」

 

 

そっとお幻の肩に手を置いた。その日の夕刻時にネスは弦之助の自室を訪ねていた。

 

 

「失礼します」

 

 

返事をもらい部屋の中へ入ると書を机に置きネスへと視線を向けた。

 

 

「豹馬が心配してましたよ。何か悩んでいると」

 

「見抜かれておったか」

 

 

ふぅっと息を吐き視線が宙を泳ぐ。

 

 

「私で良ければ話して下さい。決して他言はしませんよ」

 

「・・・・」

 

 

少しの沈黙の後ゆっくりと口を開いた。あの時の戦いで最後まで朧を討つ事を躊躇っていた事、伊賀に攻められている事を気が付かずうつつを抜かしていた事、私情を優先し仲間を裏切る様な事、こんな自分が時期首領で良いのかと。辛そうに話すのをうんうんと頷きながら聞いてゆく。

 

 

「はっきりと言わせて貰いますけどあの行為は甲賀の忍者として恥じる事だと私は思います。規則を破り謀られたとはいえ危機感が無さすぎです。でも一人の男としては私は正しいと思いました。どんな状況でも朧への愛を貫き共に死を選ぶ選択を私は尊いと思います」

 

「確かにあの時バカナウトは嘘を吐きました。でも忍者とは常に裏をかく者ですよね?誰も知らないのなら闇に葬るべきです。もし過去を悔やむのであれば未来に目を向けて下さい。きっと過去の事なんて忘れてしまうぐらいに眩しい未来が弦之助に、いや、甲賀と伊賀に訪れると思います」

 

 

話し終えた後少ししてから弦之助に頭を下げられていた。

 

 

「かたじけない。して」

 

「はい?」

 

「キル姫とは如何な強さなのか儂は興味がある。一つお手合わせ願えぬか」

 

「私で良ければお相手しますよ。でも瞳術を使うのはやめて下さいね」

 

「分かっておる」

 

 

弾正屋敷の庭で刀と杖がぶつかり合う音を聞き豹馬は満足気に頷いた。

 

 

 

季節は流れ夏を過ぎ実りの秋へ。そんなある日伊賀甲賀共に朝から慌ただしく人が行き交う。

 

 

「お似合いですよ弦之助さま」

 

「そうであるか」

 

 

普段の着物とは違う紋付袴着に着替え身なりを陽炎が整えていた。

 

 

「あれから半月も経ち、早いものです時の流れは」

 

「ほんに、そうであるな」

 

「祝言、あげてしまわれるのですね」

 

「以前よりあげる予定であったしそれを陽炎も承知であろう」

 

「少し寂しくなります、弦之助さまが遠くへ行ってしまわれる気がして。弦之助さまのお世話も朧がするのでしょう」

 

「最後に一つ抱きしめてはもらえませぬでしょうか」

 

 

着付けが終わり弦之助が立ち上がり陽炎の頭へと手を乗せた。

 

 

「すまぬがこれで勘弁してはくれぬか」

 

(意地悪)

 

「今なんと?」

 

「いいえ、紋付袴が似合うと申したのです。もう立たないと送れますよ」

 

 

陽炎が襖を開いた。

 

 

 

その頃伊賀では朧のしゃっくりが止まらず大騒動が起きていた。白無垢までは着替えたのだが度々出るしゃっくりに化粧ができず刻々と時間だけが過ぎてゆく。

 

 

「朧さま、しゃっくりなら水を飲むと止まります」

 

「ありがとう蛍火」

 

 

手渡された湯呑みで水を飲むのだがしゃっくりは止まらず。

 

 

「あら」

 

「止まりませぬ、、」ヒャック

 

「姫さま、しゃっくりは背を叩くと止まるそうで」

 

「小四郎、私の背を叩いてはもらえぬか」

 

「承知、姫さま、あいすまぬ!」

 

 

小四郎が背を叩くのだがまだしゃっくりは止まらず。

 

 

「申し訳ありませぬ姫さま」

 

「いいえ、ありがとう小四郎」ヒャック

 

 

「朧さまがおいでなさった、念鬼、抜かるでないぞ」

 

「もちろんよ蠟斉」

 

 

しゃっくりをしながら縁側を歩く朧に二人が屋根の上から飛び降りた。

 

 

「「だぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「さらに俺も、しゃぁっ!!」

 

「ひっ」

 

 

三人に驚かされしゃっくりは止まったのだが朧は気を失いその場に倒れた。

 

 

「「「朧さまっ!?」」」

 

 

 

祝言が執り行われるのは伊賀敢國神社。弦之助はすでに待っているのだが朧の姿が見えず。

 

 

「朧さま来ませんなぁ」

 

「もうしばし待てばよい」

 

 

しばらくして朧は来た。念鬼に背負われて。

 

 

「申し訳ありませぬ、、このような姿で、、」

 

 

訳を話すと大いに笑い声をあげられ赤面するが弦之助を見つめる。

 

 

「朧どの、これから両家手を携え共に表の世に出でん事を」

 

「はい、、、!」

 

 

甲賀伊賀衆に見守られながら盃を交わした。

 

 

 

「うん!良いわね!絶好のシャッターチャンスだわ!」

 

「静かにしてなさい!このバカナウト!」

 

 

式の最後に神社の片隅に一本の桜の苗が植えられた。その桜は天善桜と名付けられた。

 

 

式が終わるとリサナウトが刻の扉を開いていた。

 

 

「みんなありがとね。これからずっと仲良くするのよ」

 

「ありがとうございました」

 

 

みんなに頭を下げネスが扉を抜けてゆく。

 

 

「あっそうだ。これ記念にあげるわ」

 

 

リサナウトが手渡したのは先ほど撮った写真。それを朧に渡していた。

 

 

「ほんにありがとうございました、このご恩はずっと忘れませぬ!」

 

「良いのよ別に。あっ!!」

 

 

朧の瞳を見た事によりクロノスの能力が消え刻の扉が閉じてしまった。

 

 

「・・・悪いけどまた少しだけお邪魔させてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

刻の扉を抜けて戻ってきたのは私の部屋だった。飲みかけのココアはまだ湯気をたており本当に元の時間に戻ってきた事を実感する。

 

 

「そうだ」

 

 

さっき置いた本をしまい別の本を取り出す事に。その本の題名は[甲賀忍法帖]少し長いけれど1ページ目から目を通してゆく。




ここまで目を通して頂きありがとうございました!何となく思い付いた事をつらつらと書き連ねていたら長くなってしまいました。


バジリスク、甲賀忍法帖は小説、漫画、アニメ共に名作なのでもし原作が気になったら方は目を通して頂けると幸いです。


これより下はおまけです。







「ぬ」


さっきまで屋敷の中に居たはずなのだが気が付けば何もない空間に一人。


「ようやく会えたわね天善」


そして何とも奇妙な衣服を着た女が1人。


「何じゃお主は、何故儂の名を知っておるのじゃ」

「それは知る必要は無いわ。あなたはここで私に倒されるのだから」

「ほぉう、殺すには惜しい美貌だが容赦はせぬぞ」

「どっからでもかかって来なさい。既に私の勝ちは確定しているのよ」


自信あり気に話す女に向かい一閃を繰り出す。


「なに」


一閃は空を切り女の姿は無い。


「私はここよ」


そして背後から声が。振り返ると拳を構えた女の姿が。


「これは今まで私の財布から旅立った諭吉の分!」バキッー

「これは天善スタートのATがワンセットで終わった時の分!」ドコォー

「そしてこれがーーーーー今まであなたに心を折られたスロッターパチンカーの分!!」オリャリャリャリャリャ!!


渾身の右ストレートが天善の頬を捉え身を崩し床へと沈む。


「今回はこれぐらいにしておいてあげる。次私の邪魔をしたらもっと酷い目に合わせてあげるわ」


最後髪をかき上げる女を見て天善は気を失った。
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