キル姫コラボシリーズ第三弾!
シンフォギア一期から二期に繋がる三ヶ月の間のお話。
原作、設定等理解し書いていますが粗相があるかも知れませがどうかお楽しみ下さい。
所々に小ネタがあります!是非探してみて下さい。
朝、目を覚まして一番にする事はパジャマを脱ぎランニング用に買ったウェアに着替る事。それから水を一口だけ飲んでタオルを首からぶら下げランニングシューズを履いて部屋を出て廊下を歩き城の前で準備運動をする。その時一人城から出てきた人に声をかけた。
「グラーシーザもランニングですか?」
「あたしは牧場にぎゅうにゅうを買いに行くところだ。それにあたしは走るのは嫌いだ、走ってもただ疲れるだけではないか」
「そうですか?こうやって早朝の空気の中を走るのは気持ちが良いですしその疲れも違った気持ち良さがありますよ」
「むだな労力だな。あたしはこうしてあるくほうが好きだ」
準備運動をするエルキュールをチラリと見た後返事も待たずにティルヘルムの町外れにある牧場の方へと歩んでゆくグラーシーザ。それを目で見送りながら準備運動をこなしスタートラインと決めている城へとかかる橋へ。
(よーいドン!)
心の中で合図をしてエルキュールは走り出した。彼女、エルキュール・神令・トールの日課であるランニング。城の周りを3周した後ティルヘルムの城下町にある喫茶店に行くのが彼女のルーティン。今日は何を頼もうか、そんな事を考えながら2周目を走ってゆく。
(あれは、、?)
そんな時彼女は道に空いた穴を見つけた。その穴は彼女が走る道の真ん中に空いており1周目を走った時に気がつくはずなのだが。見落としていた?そんな疑問を持ち走るのをやめて穴を観察する為に穴の側へ。
バケツ一つ分の大きさの穴を覗き込むのだが思っていたより穴は深く底が見えない程。それでも気になりしゃがみ込み目を凝らして見ると不思議な空間が見えた気がした。例えるなら空間がうごめいている様な空間。
まぁ良いやと彼女は立ち上がった。喫茶店に行った後オベロン様に報告をしようと結論を出し再び走り出そうと一歩踏み出した時地面が崩れエルキュールは穴へと落ちてゆく。
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
落ちながら伸ばした手は何を掴む事なくエルキュールは穴に飲まれてゆく。
………………………………………………………………
「いたたたっ、、ここは、何処?」
穴に落ちたエルキュールが辺りを見渡すとそこは見た事が無い世界だった。ティルヘルムと違い地面はアスファルトで舗装され多くのビルや家屋が立ち並ぶ。着地の時に打ったお尻をさすりながら立ち上がりさらに周りを良く観察していると突然現れたエルキュールを不審な目で見る人々の姿が。その目線に恥ずかしくなり俯いてしまう。
しばらくすると興味を失った人々は何事もなかったかの様に歩き始めた。それにため息を吐いた後今自分がいる場所は何処なのかを調べる為にエルキュールは歩み始める。
少し探索をして分かったことがある。この世界は千年王国では無い事。この世界に居る人はエルキュールと同じ言葉を話す事。多分イミテーションでは無い事。この世界に異族は居らずキル姫は存在しない事。まだ少ししか探索をしていないので確実とは言えないがこの世界は平和であるという事。その後エルキュールは元の世界に戻る方法を探す事にした。そうは言っても異世界に行く事は初めてであり元の世界に戻る方法は分からず困ってしまうのだが。
ため息を吐き太陽を見上げた。千年王国の太陽と変わらず日差しは暖かく心地良い。そんな太陽を見上げていると視界の端の空間から複数の光の球の様なものが現れ地面へと落ちてゆく。地面に落ちた球はオレンジ色の生き物へと姿を変えた。
あれはなんだ?身長はエルキュールより少し高いぐらいで人間と同じ様な手足を持つのだが、例えるならオレンジ色の卵に手足が生えている様な。その胸部には緑色のパネルが輝き頭にはウサギの耳の様なものがピョコリと生え歩くたびにクモクモと柔らかそうな足音を出す。ただその生き物を見ていると誰かが叫んだ。「ノイズが出た」と。
叫び声を聞いた人々は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う。しかし誰かがノイズの攻撃を受けてしまった。
その時エルキュールは見た。ノイズに触れた人が炭の様になり崩れてゆくのを。そしてエルキュールはノイズと戦う事を決意した。ノイズに向かい走りながらキラーズを意識し信念斧・コマンド・トールを出現させランニングウェアから戦闘服へと姿を変えノイズの前へと立ち塞がる。
「ここは私が引き受けます!皆さんは早く逃げて下さいッ!」
高らかに叫び一匹のノイズに向かい戦斧を振り下ろしながら次の標的へと目線を向けてゆく。その時、手に握っていた斧の重みが消えその違和感の正体を調べるべく目を向けると斧が炭となりパラパラと崩れてゆくのが見えた。
「えっ、、、?」
斧は確実にノイズを捉えたのだがノイズには傷一つ付いておらずエルキュールが使う斧は灰となり崩れ去った。その瞬間にエルキュールは今まで感じた事のない絶望感に襲われた。だがエルキュールは神令されてはいるがエンシェントキラーズの一人であり七元徳の希望を担うキル姫。聞こえた悲鳴の主を助ける為に絶望を押し除けた。
「それでも私は、、、ッ!」
ノイズがエルキュールへ手を伸ばした瞬間に後方へと飛び辺りを見渡しノイズに襲われる人を見つけその方へと駆けてゆく。例え攻撃が通用しなかったとしてもエルキュールはキル姫としてのポテンシャルがあり神令されたトールの力を宿している。すぐさま女性を抱き上げ安全な場所を探し走り出した。
「もう安心ですよ、私が安全な場所へ運んであげますから!」
「娘が!娘がノイズに!」
叫びながら指を刺す方を見ると小さな女の子が一人泣き叫びながらノイズから逃げ惑っている姿が。そこに助けないという選択肢は無く母親を抱いたままノイズの群れの間を駆け抜け娘の側へ。
「ママッ!!」
母親を抱いたエルキュールの接近に気が付き娘が手を伸ばしその手を取る為に母親が手を伸ばした。手と手が繋がれようとした瞬間にその手は伸ばされたノイズの手に触れエルキュールの目の前で、腕の中で二人は灰となり崩れ去った。
「あ、あぁぁ、、、」
その光景にエルキュールの心は砕け呆然と立ち尽くしその場に崩れ落ち虚な瞳で触れようとするノイズを見た。その瞬間に歌が聞こえ目を向けると何かがノイズを貫き灰へと姿を変えた。
「あっちに生存者が居るよ!クリスちゃんお願い!」
「雪音!そっちは任せた。こっちは私達で片付けるッ!」
「わーったよ、おい、大丈夫か」
座り込んでいるエルキュールを抱き抱えながら両手に付いた弓を器用に操り矢を飛ばす。その矢はエルキュールが勝てないと悟ったノイズを容易く貫きノイズを消滅させてゆく。その光景を見た後エルキュールはクリスと呼ばれた少女の腕の中で意識を失った。雪音クリスが歌う歌を聴きながら。
しばらくしてノイズを片付けた二人が生存者を抱えるクリスの元へと。
「その子は?」
「気を失っちまってる。どーすんだよ」
「ノイズに囲まれ怖い思いをしたのだから無理もない。見たところ私達と年は変わらないぐらいだが親の姿を見ないと思うとはぐれたか…」
「それなら一緒に連れて行こうよ。あそこなら安全だし目を覚ました時ひとりぼっちなのは可哀想だよ、行こ!」
エルキュールを抱き抱えると足早にその場を去ってゆく。その姿にため息を吐いた後その後を追い二人が駆ける。
エルキュールは夢を見ていた。無数のノイズに囲まれ絶体絶命へと追い込まれる夢を。あと少しでノイズが触れるという時に大声を上げながら目を開け体を起こした。
「良かった、目を覚ましたんだね。うなされてたから心配だったんだよ」
荒く息を吐きながら声の主を探すと足元に居る人を見つけた。狐色のショートカットで顔の左右で髪を結っている女の子を。
「私は立花響。九月十三日産まれでO型、身長はこないだの測定で157センチ。好きなものはご飯&ご飯!」
「はぁ、、」
しっかりとエルキュールの目を見ながら話す少女に警戒心を宿しながらも相槌を打つ。どうやら立花響という少女は話し出すと止まらなくなるようで。
「寝起きでそんなに話しかけたら可哀想でしょ。はい、温かいものどうぞ」
「ありがとうございます、、」
立花響の話を遮りエルキュールの横にあるテーブルへとカップを三つ置き微笑む女性。名を聞くと友里あおいという。
「それであなたの名前は?」
「私はエルキュール・神令・トール。エルキュールって呼んでください。それよりあのノイズと呼ばれていた生き物は、私が敵わなかったノイズを倒したあの3人は一体、、、?」
エルキュールの問いに顔を見合わせた後まずノイズの事から説明をしてゆく。[ノイズ]それは特異災害の総称であり人間のみを襲い触れた人間を炭素へと変換する。ノイズにはあらゆる攻撃が通用せず一度現れればノイズの自壊を待つしかない。
「それならあの時ノイズを倒した3人はっ、あの時聞こえた歌は、、?」
「それは」っと話を始めた立花響を遮り友里あおいが説明をしてゆく。
特異災害であるノイズに人類が対抗できる唯一の手段[シンフォギアシステム]聖遺物の欠片に歌を適合させる事により起動し聖遺物の力を纏う事ができる。適合した者は装者と呼ばれ立花響は先程の3人のうちの一人。
「装者が歌う事によりシンフォギアシステムはバトルポテンシャルを発揮するわ、エルキュールちゃんが聞いたのはその歌ね」
「なんで私に説明させてくれなかったのですか、あおいさん」
「だってこの説明ぐらいしか出番なさそうだし」
友里あおいの言葉に二人が顔を見合わせる。その時部屋の何処かから強くキーボードを叩く音が。藤尭朔也である。
「あはは、、それであっちにいるのが藤尭朔也さん。あおいさんと二人で二課のオペレーターをしているんだ」
立花響が指差す方を見ると多くの機材が並びその中で手を挙げる男性の姿が。
「ニ課?ニ課とは一体?」
「特異災害対策機動本部のニ課よ。通称S.O.N.G.。政府直属の機密部隊で……」
友里あおいが説明を始めた時エルキュールが強く机を叩いた。驚く二人をエルキュールが睨む。
「お願いです、私にシンフォギアを下さい。私はノイズと戦いたいのです」
「戦うって言ったってさ、落ち着いてエルキュールちゃん!」
「私には守れませんでした。目の前で、この腕の中で親子を死なせてしまった。殺して、、しまった。わたしに、私に力があれば、、、守る事ができた、、、のに、、、」
静まり返る部屋にエルキュールの嗚咽が響く。二人にはエルキュールにかける言葉が見つからずただすすり泣くエルキュールを見守る事しかできなかった。
しばらくして泣き腫らした目を擦りながら二人に向かいエルキュールが頭を下げていた。
「ごめんなさい、取り乱しました」
「もう落ち着いた?」
「先ほどよりは、、」
そう言って温かかった物を手に取り一気に飲み干した。
「もう一杯淹れてあげよっか?」
「いえ、もう大丈夫です。それよりこの世界は何処なのですか?千年王国では無さそうですけど」
エルキュールの言葉に困惑を浮かべたのだが朔也と声をかけると短い返事の後キーボードを打つ音が。しばらくしてどの検索エンジンを使っても千年王国という場所は見つからないとの返事が返ってきた。
「そうですか、、ならこの世界にキル姫は、異族はいるのですか?少し見た限りでは見当たりませんでしたけど」
キル姫、異族と検索するのだが先程と同じ様にどの検索エンジンを使っても検索する事はできず。
「じゃあさ、エルキュールちゃんの事みんなに教えてよ、私もみんなの事を教えてあげるからさ」
「分かりました。私は-------」
エルキュールが口を開いた時自動ドアが開き姿を見せた二人。特異災害対策機動部第ニ課司令官、風鳴弦十郎と風鳴翼の二名である。
「君が響くんが連れてきた生存者だね」
「エルキュール・神令・トールっていうんだって。エルキュールちゃんって呼んであげて」
「うむ。エルキュールちゃん歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます。それと助けてくれてありがとうございます。えっと、あと1人は何処に?」
エルキュールの疑問は姿を見せぬ雪音クリスの事であった。立花響、風鳴翼はさっき見た装者の2人。エルキュールを救ってくれた雪音クリスにもお礼を言いたいのだが。
「雪音は少し人見知りなとこがあってな、礼なら私から伝えておく」
「そうですか、、分かりました。じゃあ私の話を聞いてくれますか?」
エルキュールの座るソファーの元へ皆が集まってからエルキュールが話を始めた。エルキュール自身の事。異族の事。異世界よりこの世界に来た事を。話を終え顔を上げると誰もが複雑な表情をしていた。
「神器より抽出したキラーズとマナで産み出された生命体、キル姫か、、、」
「そんな事が可能なのでしょうか?」
「うむ、にわか信じがたいが、、、」
ソファーに座る少女を見るのだが姿は人と変わりがなく違いを見つける事はできなかった。それでも本人がそういうのであればそうなのだろうがどうしても信じきる事はできなかった。
「それじゃあエルキュールちゃんはキル姫で穴から落っこちてここに来たんだ」
「そう、なります。あの穴は一体なんだったのでしょうか?」
「それならこちらで既に調べてあります。これを見て下さい」
モニターを見ると何かのグラフが表示されており藤尭朔也が説明を行ってゆく。
「これがエルキュールちゃんがこちらの世界にやってきた時のグラフ、そしてこれがノイズが現れた時のグラフです。見比べてみると同じ様な波長をしています」
「つまりエルキュールちゃんがこちらに来た原因としてノイズが関係しているという事か」
「その可能性は大いにあり得ます。もしかしたらソロモンの杖を使用した人が居るかもしれません」
「あの、ソロモンの杖って?」
「あぁ、ソロモンの杖とは聖遺物の一つでバビロニアの宝物庫の扉を開きノイズを発生させる事ができる杖だ。聖遺物にはまだ謎が多く断言はできんが」
「なるほど」
「それとすまないがエルキュールちゃんの事を少しこちらで調べさせて貰いたい。なに、調べるといってもちょっとした身体検査程度だ」
「分かりました。それと私の斧を治す方法はありませんか?」
エルキュールがキラーズを意識すると光と共に斧が現れた。そうはいってもノイズにより炭素変換された斧刃は無く柄だけなのだが。
「それもこちらで調べておこう。貸してくれるか」
「はい、お願いします」
立ち上がり風鳴弦十郎へ柄を渡すと受け取った風鳴弦十郎の腕が下がった。
(お、重いッ)
弦十郎が受け取った柄は長さは約80センチほどなのだが想像を超える重みを感じたのだ。もしこれが完全な戦斧であるなら持つ事は不可能であっただろう。キル姫という存在は半信半疑であったがこれ程の物を当然の様に扱うところをみると納得がゆく。しかし弦十郎は何事もないかの様に柄を鑑識へと回す。
「今日はもう遅い。エルキュールちゃんの検査は明日にするとして今日はもう休め」
「はい、それで私はどうすれば良いでしょうか?」
「そうだな、クリスくんと同じ部屋を使ってくれ。そこで話を聞いているんだろ」
弦十郎の言葉の後ドアが開くとそこには顔を真っ赤にした雪音クリスの姿が。先ほどの提案に納得がいかず反論を叫ぶ。
「なっ!なんであたしと同じ部屋なんだよ!?おっさんと同じ部屋で良いじゃねえか!」
「俺の部屋は女子は立ち入り禁止だ。響くんの家も考えたが未来くんが居る。それに翼の部屋は論外だ」
「よろしくお願いしますクリスさん。それと助けてくれてありがとうございました」
「ったく、冗談じゃねえ。それならあたしはここのソファーで寝る」
前に立つエルキュールを押し除け真っ直ぐにソファーを目指し歩む。その手を弦十郎が取った。
「クリスくん」
んだよ。と言いながら振り返ったクリスは弦十郎の目を見た。その気迫の籠った眼差しに殺され渋々承諾し踵を返す。
「と、いう訳だ。ほら良い子は帰った帰った」
弦十郎に追い出される形で部屋を出て各自家へと帰ってゆく。
「朔也、悪いがエルキュールちゃんの斧を大至急調べてくれ」
「分かりました」
「頼んだぞ」
(俺だけ忙しいすぎるだろ、、)
弦十郎が部屋を出た後朔也が小言を呟く。
「ボヤかないで」
それをあおいに叱咤された後不貞腐れた返事と共に作業を開始してゆく。
「翼さん、クリスちゃん、エルキュールちゃんまたね!」
「私も帰ろう。雪音、エルキュールを頼んだぞ」
去ってゆく二人を見送った後無言で歩くクリスの後ろを付いて歩きクリスが入って行った部屋へと入ってゆく。
「あのっ」
「好きにしてろ。あたしは寝る」
話そうとするエルキュールに聞く耳も持たずベッドに寝転がると深く布団を被り会話をしない意思を示されエルキュールは仕方なくソファーへと座り部屋を見渡した。
部屋にはベッドとソファー、机しか無く良い言い方をすれば良いシンプル。悪く言えば生活感が無い。そんな中ベッドの物置に置いてある何かを見つけた。それは何かのCDアルバム。この部屋で唯一趣を感じられる物だった。
明日聞かせてもらおう。そう思いソファーへと寝転がり目を閉じてゆく。
次の日エルキュールが目を覚ました時にはクリスの姿は無く少しの寂しさを感じていた。それを掻き消す様にドアがノックされ返事をすると弦十郎の姿が。
「おはようエルキュールちゃん。寝起きのところすまないが今から検査をさせてもらうよ」
「おはようございます、了解です。クリスさんは何処へ?」
「さぁな、あいつの事だ。どっかで飯でも食ってるだろ」
それからエルキュールは多忙を極めた。身体測定から始まり血液検査、レントゲン撮影、CTによるスキャン。それから運動能力のテスト。ありとあらゆる事が調べられデータとして記されてゆく。それだけで半日以上が過ぎ部屋に戻って来れたのは日が落ちる頃であった。
(疲れた、、)そう思いながら部屋へと入り見渡してもクリスの姿は無くソファーに座り帰りを待っていたのだが眠気に勝てず横になり毛布を被った。
しばらくしてエルキュールがうとうとしているとドアが開き毛布の隙間から覗くと雪音クリスの姿だった。クリスはベッドに腰掛けるとCDを手に取りコンポへと入れてゆく。寝ているエルキュールを気遣ってか最小の音量で音楽を聞き手でリズムを取りながら歌を口ずさむ。その姿はとても楽しそう。
声をかけるのはやめよう。そう思いエルキュールはそのまま眠りへと落ちてゆく。
「司令。どうしてクリスちゃんとエルキュールちゃんを同じ部屋にしたのですか。まだ空いている部屋はあったはずです」
朔也は疑問を司令である弦十郎へと尋ねた。すると返ってきた言葉は。
「クリスくんの性格の軟化が狙いだ。彼女はシンフォギア装者で此方へ協力してくれているがいつ姿を消すか分からないからな。エルキュールちゃんはクリスくんを縛る鎖だ。っと、これは司令としてだが本心はクリスくんの心のケアを目的としている。戦争で両親を失ったクリスくんは心に残した傷の為か俺達はもちろん響くん翼とも馴れ合おうとしない。だから少しでも人と触れ合い昔の雪音クリスを取り戻して貰いたい。そう思ってだ。それよりエルキュールちゃんの検査結果は」
朔也を見ずモニターを眺めながら返事を返す。返された言葉に言葉では無く検査結果をモニターへと映し出した。
「身長は翼さんと変わりはありません。スリーサイズもほぼ同等。血液検査、CT、レントゲンの結果も異常は見られません。それと運動能力の件なのですが」
「どうした」
「はい、検査のデータでは運動能力は装者と同等、もしくはそれ以上と出てます。戦闘能力までは分かりませんが近いものはあると思われます。今はまだ検査の途中段階での報告なので追記があるかも知れません」
「なるほど。思っていた通りだ」
「司令?」
「あぁ、いや、なんでもない。斧の柄の方は」
「未だ解析できておりません。地球上に存在しない素材を使っている為かあらゆる検査方法が歯が立ちません」
「分かった。引き続き頼んだぞ」
弦十郎が出ていった後(今夜も徹夜か)っと項垂れる。その横にカップが置かれた。
「はい、温かいものどうぞ」
「温かいものどーも」
それからしばらくの日が経った。相変わらずクリスさんとはすれ違う生活を送っているが二課の人とは以前よりも仲良くなり気軽に話ができる程に。それと響さんの親友である小日向未来という少女にも会った。二人に会った時に「うちの響が迷惑をかけてごめんなさい」っと謝られ慌てて撤回する響さんが可愛かった。それから誰かと一緒なら外出しても良いと言われ響さんと未来さんとお好み焼きを食べに行ったりニ課のみんなでカラオケに行ったりと充実した日々を過ごしていた。翼さんは装者であるがトップアーティストという顔を持っておりその歌唱力に感激してしまった。残念な事にその場にクリスさんの姿は無かった。
確かに充実はしているのだが私の心には癒えない傷が残っていた。それはあの時の親子の事だ。助けてあげたい、希望になりたいと強く願ったのに私に力がない為に死なせてしまった事を私は忘れる事はできないだろう。
あの時の事をソファーに座りながら考えているとドアが開きクリスさんが入って来た。
「まだ起きてたのかよ。さっさと寝な」
「あの、クリスさん」
「なんだよ」
「少しだけお話をしませんか」
「話だけなら聞いてやる。先に言っておくがあたしの事を話すつもりは無いからな」
「はい、ありがとうございます」
私はクリスさんに装者になりたいという事を話した。力が欲しい。誰かを守れる様な、誰かの希望になれる様な力が。今の私ではノイズと戦う事はできず人を助ける事はできないと。
「装者っていうのはな、聖遺物と適合した奴しかなれないんだよ。お前が適合していないのなら装者になるのは無理だ。それにお前は異世界から来たんだろ?こっちの事考えてる暇があんなら元の世界に帰る方法を探しな」
返ってきた答えは辛辣なものだった。だけど私は諦めきれず装者になりたいと伝えた。
「バカも休み休み言え、シンフォギア装者ってのは遊びじゃねえ。あたしだってやれるのならお前にやりたいぐらいさ」
「どうしてそんな事を言うのですか?装者なら誰かを守れるし希望にだってなれます」
「あたしは歌が大っ嫌いだからさ。腐れ縁であいつらの手伝いをしているが本当は装者になんかなりたくねぇ、歌も歌いたくねぇんだよ」
「それは嘘です!だってクリスさんはあんなにも楽しそうに歌を歌っていたじゃないですか!」
「お前、、聞いていやがったのか!ちっ。その事は誰にも言うな」
そう言ってクリスさんは部屋を出て行った。残された私は後を追う事ができずただ見送る事しかできなかった。
次の日ニ課で私の身体検査の結果を聞いていた。その時尋ねたのだがやはり私には装者としての才能は無かった。分かっていた結果だった。キル姫である私が装者になれるはずが無いと薄々気付いていたのだがいざこうして現実を突き付けられると心がチクリと痛む。
落ち込んだ私を響さんと未来さんが慰めてくれたのだが私は上の空で。そんな時ニ課に警報が鳴り響いた。
「ノイズの発生を検知!場所は東京都渋谷区!」
「うむ。行けるか」
「はいッ!もちろんです!」
「無論だ」
「あたしは行かない。行きたい奴で行ってこい」
「分かった。翼、響くん。直ちに現場へ急行せよ!」
ラジャーと返事をした後二人はニ課を飛び出して行った。その後クリスさんも姿を消していた。
「監視カメラとのリンク成功しました。現場の映像出ます」
ニ課にあるモニターに二人が戦う姿が映し出されていた。それを私は眺めていた。何百ものノイズとたった二人で戦いノイズを蹴散らしてゆく。その姿は私の理想であり希望その物であった。その時画面の端に二人が気が付かない所でノイズが人を襲うのを見つけた。場所はあの時二人と行ったお好み焼き屋の近く。ノイズと戦う力を持たない私にできる事それは、、、。
「私も行きますッ!」
「おい!待て!」
弦十郎さんの言葉に振り向かず足も止めず私はニ課を飛び出し現場へと走った。
「翼さんッ!あれっ!」
「くっ!この距離では間に合わんッ!」
悲鳴を聞き振り向いた二人の視線の先にはノイズに襲われる人が。助けようにもこの距離では遠距離を攻撃する方法を持たない二人には間に合わない。それでも懸命にその場に向かい駆ける。
「もうダメ、間に合わないッ!」
ノイズの手が触れようとした瞬間影が踊り出し人を抱き抱え空高く飛び上がりビルの屋上に降り立った。
「エルキュールちゃん!」
「この人は私が守ります!だから二人はノイズをッ!」
「でかしたエルキュール!天羽々斬に散れッ!」
最後に残ったノイズが翼の持つ刀により一刀両断となり姿を消した。
「おーいエルキュールちゃーーん!」
地面からエルキュールに向かい手を振る響に手を振り応える。見る限り地上にノイズはおらず殲滅できたと考えエルキュールはビルから飛び降りようとした。
「エルキュールちゃん!上っ!!」
上?そう思い空を見上げると青空を舞う大きな鳥達の姿が。それが鳥だと思っているとその中の一匹が身体を捻り槍の様に姿を変えビルの屋上に居る二人に向かい降下し始めた。その時エルキュールは響の言葉の意味を知った。あれは鳥ではなくノイズだと。
敵が上空から降下し攻撃してくるのであれば飛び降りれば格好の的となる。その為エルキュールはビルからビルへと飛び移りながら逃げる事を選んだ。しかしその逃走も長くは続かなかった。次に飛び移ろうとしたビルがなくなり戻る道はノイズにより塞がれてしまっていたのだ。
ノイズと戦う手段を持たないエルキュールは装者である二人を待つ事しかできない。だがその二人は遥か下の地上、どれだけ急いだとしてもこの場には間に合わない。ノイズに囲まれ逃げ場を失ったエルキュールが最後にできる事は抱いた人に覆い被さる事だった。エルキュールは死ぬ事は怖くない。だが一度持たせた希望を絶望へと変えてしまった自分が許せなかった。せめてこの人だけでも助かればと思い身を盾にしたのだ。
「ごめんなさい、、ごめんなさい、、助けられなくてごめんなさい、、希望になれなくてごめんなさい…」
覆い被さり泣きじゃくるエルキュールの頬に手が触れた。そして(ありがとう)と言葉をかけ微笑んだ。
全てを諦めたエルキュールに対しこの人はお礼を言った。この状況で、絶体絶命の状況で。全てを諦めたエルキュールに再び希望の火が宿る。
(そうだ、私はまた過ちを犯すところだった。私はこの人の希望になる。この信念を貫くッ!!)
頬を伝う涙をそのままに再びエルキュールは立ち上がり女性を抱いた。そしてこの人を救う為ビルを飛び降りる決断をした。
「しっかり私に掴まっていて下さいッ!」
走り出したエルキュールの居た場所にノイズの槍が刺さる。それを振り返らずにエルキュールは屋上を蹴り大地を目指し跳んだ。
(着地地点には二人が居る。あとは…ッ!)
見上げたエルキュールの視界に槍となったノイズが迫る。一回は反対側のビルを蹴り跳ぶ軌道をずらし躱した。しかし追撃の槍は避ける事ができない。
「ちょせぇッ!!」
槍はエルキュールを捉える瞬間に灰となり消えた。向ける視線の先には同じくビルから落下しながら弓を構えるクリスの姿が。
「しっかりそいつを抱いてろ!ノイズはあたしが片付けるッ!」
重力により加速する落下速度をものともせず正確に寸分狂わず矢を放ち着地する頃にはノイズを全て撃ち抜いていた。
何度もお礼を言いながら女性は去って行った。それを見送った後クリスがエルキュールの胸ぐらを掴む。
「お前なにバカな事してんだよ!良いか?お前はノイズと戦う事はできねぇ、家で大人しくしてれば良いんだよ!」
「それでも、それでも私は人を助けたい。希望になりたい!戦う事ができなくても人を助ける事はできます!」
「じゃあさっきのあれはなんだ!?あたしが居なかったらあのままノイズにやられてたぜ?」
「またクリスさんには助けられましたね。ありがとうございます」
「答えになってねぇよ!前も言ったがお前は自分の世界に帰る事だけを考えてりゃあ良いんだよ」
「雪音、その辺にしておけ」
翼に言われ舌打ちをして手を離すとエルキュールに背を向けた。
「装者でも無い奴が戦場に出てくんなよ」
そう言って歩み始めた。
「でもッ!エルキュールちゃんが居なかったらあの人は助からなかったよ!死んじゃってたんだよ!」
「それはお前らが気が付かなかったからだろ!?あたしならそんなヘマはしないね」
「そこまで言うのであれば見せて貰おうか。その実力を」
しまったとクリスが口を押さえるが一度吐いた言葉は飲み込めず悶える。そこに響から「私からもお願い!一緒にみんなを守ろうよ!」と追い討ちがかけられる。
「それなら私にも手伝わせて下さい。三人の装者が居れば戦ってもらっている間に私が人を助ける事ができます!」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
あっという間に丸め込まれたクリスに反論の余地は無く悔し混じりに「しょうがねぇな」と呟く事しかできなかった。
「クリスさん、、ありがとうございます!じゃあハグです!」
「うわっ!急に抱きつくなッ!」
「嬉しい事があったらハグをするって私の仲間が言っていたので」
「じゃあ私も!クリスちゃんハグだよー♪」
「お前もかよ!なんなんだよッ!離せ!」
(……ふっ)
二人に抱きつかれ嫌がる素振りは見せるが満更でもなさそうなクリスを見て翼は笑った。
その後四人でニ課へと帰り勝手に飛び出したエルキュールは弦十郎にこってりとお説教を喰らったのだがその顔は晴れやかでニコニコとお説教を聞いていた。
「それと弦十郎さんに一つお願いがあります」
「どうした」
「私を三人と共に戦場に行かせて下さい。既に三人の承諾はもらってあります」
「ダメだ。エルキュールちゃんはノイズと戦う事はできない。それは承知の上での発言か」
「もちろんです。私は人を助けたい、希望になりたい、この信念を貫きたいのです!」
頭を下げるエルキュールの後ろには三人の姿が。その目に決意が示されているのを弦十郎は悟った。
「分かった。だが決して無茶な事はするな」
「はいっ!ありがとうございます!やりましたみんな♪」
三人に抱き付くエルキュールを見て弦十郎は笑った。
「ったくよぉ。お前もあのバカと同じとはな。こっちがまいっちまうぜ」
「あのバカって誰の事です?」
「あのお節介焼きだよ」
「誰の事でしょう?」
部屋にてエルキュールとクリスが話す。普段なら部屋に入るなりベッドに寝転がるクリスなのだがベッドに腰掛けソファーに座るエルキュールと会話をしていた。そこに口こそ悪いがあの時のような棘は無かった。
「そうだ。あの時なんの音楽を聞いていたのですか?」
「あ?これだよ」
クリスから渡されたCDはジャケットが色褪せ年季を感じさせる。そのジャケット写真を見てエルキュールは顔を上げ声を上げた。
「これって翼さんですよね!?」
「バカ!声が大きいんだよ!あぁ、翼だ」
「隣に写ってる人は誰ですか?この人も装者?」
「その隣に写ってる奴は天羽奏、そいつは翼と二人でツヴァイウィングってグループを組んでたんだ。だがそのグループは解散しちまった」
「どうしてです?」
「ライブ中にノイズに襲われたんだよ。それで天羽奏はその時に死んだ。ツヴァイウィングはそれで解散だ」
「あっ、、」
「あたしも詳しくは知らねぇが天羽奏は絶唱を使ったんだ」
「絶唱ですか?」
「シンフォギア装者最大にして最強の攻撃方法。だがその代わりに絶唱を歌えばバックファイヤーに耐えきれずこっちがお陀仏さ」
「キル姫でいう暴走の様なものですね」
「なんだよその暴走って」
「キル姫が感情を抑え切れなくなり力を解放する事です。感情を失い目に付く物全てを破壊しその先に待つのは破滅」
「へぇ。あんたらも大変なんだな。んで、キル姫ってのは一体なんなんだ?」
「キル姫とは命の根源であるマナに伝説の武器から抽出したキラーズを掛け合わせる事により産まれます。人間を捕食する異族に人類が生み出した対抗する術です」
「なんだよ、キル姫と装者って結構似てるな。あたしもキル姫ってのになれるのか?」
「クリスさんはトリシューラにならなれると思います!」
トリシューラ?疑問を思いながらクリスはCDをコンポへと運び音楽を鳴らす。
流れるサウンドと歌声を目を閉じて楽しんでいると二人の歌声に混ざりもう一つの声が。その主はクリスだ。
「綺麗な声、、、やっぱり歌、好きなんですね。そうだ、今度みんなでカラオケに行きましょうよ」
「それは嫌だ、っ!も、もう寝るぞ!」
コンポを切り布団に包まるクリスに微笑んだ後エルキュールはソファーへと。
「司令、エルキュールちゃんの斧に関して少し解析が進みました」
「うむ」
「この斧には何かの力が秘められています。その力と同じものがエルキュールちゃんからも発見されました。しかし共に何の力なのかは不明なままです」
「分かった。引き続き調査を頼む。それとソロモンの杖の事も忘れるな」
報告がまとめられたモニターを眺める。
「司令、やけに顔が緩んでいますが何かあったのでしょうか?」
「あぁ、クリスくんがあの場に居た事が嬉しくてな。それに以前のクリスくんならあの目はしなかった」
「エルキュールちゃんのおかげでしょうか?」
「さぁな。よし、後は頼んだぞ」
………………………………………………………………
それからは四人で行動を共にする事となった。戦場だけでなく遊びに出かけたりご飯を食べに行ったり買い物に行ったり。ノイズが発生していなければ未来さんもその場に加わり五人で過ごしていた。
「あっ!あそこに困ってる人が居る!」
「それなら私が助けます!」
「いいや!私が先に助ける!」
「私です!」
「私!」
「あはははは、、、」
響さんは趣味が人助けで私と良く困っている人の取り合いをしていた。どちらも譲らない私達に未来さんはいつも苦笑いを浮かべていた。
「それって
「いや、
「剣はなんて読みます?」
「
翼さんとはたまに文字の事で言い合いをしたり。戦場はいくさばと読むと譲らない。ちょっと古風な人だけど良い人だ。一度でいいからマサムネと会話をしてもらいたい。そんな事を思った。
「な、なぁ、た、たまにはみ、、みんなで飯でも行かないか」
「雪音から誘うとは、明日は槍が降るな」
「それなら明日は学校に行けないよ、、あぁ、私の追試がぁ、、、」
「響?これはモノの例えだよ?」
「へぇ、こっちの世界では槍が降るのですね」
「だぁぁぁぁっ!人がせっかく誘ってんのに行くのか行かないのかどっちなんだよ!」
クリスさんは前よりも優しくなった。それは私だけでなくみんなに。たまにそれをからかわれたりするけど満更でもなさそう。だけどカラオケには絶対に行こうとは言わない。
そんな時翼さんの持つ端末が鳴りノイズの出現を知らせた。場所はここからすぐ近くだ。
「エルキュールちゃん。未来をニ課へ運んであげて」
「了解です!その後すぐに行きます!」
「あぁ、頼んだぞエルキュール」
「みんな頑張ってね、響もだよ!」
「大丈夫だって、行こう!」
「おせーんだよ。ちゃっちゃと走る!」
未来さんを背負いニ課へと走ってゆく。そしてすぐに戦地へと向かう。
「エルキュールちゃん、無理しないでね」
「大丈夫ですよ。絶対に四人で帰ってきますからね!」
未来さんに見送られ私は戦地へと駆け生存者を探し走り回る。
「もう大丈夫ですからね。私にしっかり掴まって下さい!」
弓を自在に操り遠距離を攻撃する事ができるクリスさんの元へと生存者を置き再び私は生存者を探し戦地を駆ける。ノイズからは私は人として認識され攻撃を受けるが。
「全く。お前達は本当に無茶をする」
「私は三人を信じますから無茶などしてません」
「翼さん、達って誰の事ですか?」
私が戦地を駆ける事によりノイズを引き寄せまとめる。そうすればノイズは広範囲に広がらずまとまり殲滅はしやすくなる。いうのであればデコイ役だ。
今の私にできる事は生存者を安全な所へと連れて行く事だけだった。それでも私は私にできる事を精一杯やりたかった。だけどやっぱり三人の歌う歌を聴くと羨ましいっと思ってしまう。
[ノイズの反応消えました。討伐お疲れ様でした]
「了解した。任務完了だ」
「ならさっさと帰ろうぜ。腹へっちまった」
そんな帰り道クリスさんから聖遺物の力を持つネックレスを借りてクリスさんが歌う歌を口ずさむ。だけど何も起こらず私は私のままだった。俯いてしまった私に「聞いてたよエルキュールちゃん」とおどける響さんに小っ恥ずかしくなる。
「そういえばエルキュールちゃんってキル姫なんだよね?」
「はい、そうですけど」
「それってどれぐらい強いの?」
「さぁ?どうでしょうか?」
「じゃあさ組み手しようよ」
「分かりました。私も体を動かしたいと思っていたので」
そんなある日キル姫の強さに興味を持った響さんと組み手を行ったり。響さんの戦闘スタイルは全身を使う肉弾戦。それならばと私も拳を握り交戦の構えを。
結果は五分五分の引き分け。その後翼さん、クリスさんと組み手を行ったのだが結果は同じ。キル姫と装者の強さは同等と結論を出した。
「お前ら楽しそうな事をしているな」
「あっ師匠!」
響さんが師匠と呼ぶのは風鳴弦十郎。その隣には未来さんの姿も。
「俺もそろそろ一肌脱ごうと思ってな。お前ら特訓の時間だッ」
「はい!師匠!私走りたいし泳ぎたいです!」
「よし分かった。他に案はあるか」
「ギアを纏わぬまま戦うというのも面白いかもしれない」
「走るのなら私もついて行きたいです!これでも走るのは得意なんです♪」
「私は少しでも強くなりたいです!」
「あたしは特訓はごめんだ!」
「よおっし!それなら北海道まで走るぞ!」
「何言ってんだよ!?ここから北海道までどれだけあると思ってんだ!?」
「「「「はいッ!!」」」
「無論異論は無い」
「なんでそーなるんだよ!?ここから走ってどれぐらいかかるとおもってんだ!」
「176時間程だ」
「急に冷静になるなよな!?」
「おっし行くぞッ!」
「「「「「おぉーーッ!」」」」
「誰か止めろよ!なんでだよ!」
「いつまでぼやいている雪音」
「行こう、クリスちゃん!」
「あぁもう分かったよ!」
一行は太平洋沿いを走り千葉、茨城、福島、宮城、岩手を抜け青森へと入り青森最北端、大間で足を止め北海道を眺めていた。
「おいっ、まさかここを泳ぐだなんて言わないよな」
「行くぞッ!」
青森と北海道を繋ぐ大間海峡。それは日本海側から流れる対馬海流、太平洋を北上する黒潮と千島海流が複雑に絡み合う海峡。その為海峡を流れる潮は早く過去には大型船すら沈没してしまう事故があった程。しかし彼等は泳いだ。18キロの距離を。荒波に飲まれ潮に流されながら。
そして北海道へと上陸した彼等を待ち受けていたのはヒグマの群れである。日本最大で最強であるヒグマを指差し弦十郎が叫ぶ。
「お前ら!一人二匹がノルマだッ!もちろんギアの装着は無しだ!」
「「「「押忍ッ!!」」」」
「ちょっと待て!あたしらはまだ分かるがこいつには無理だろ!?」
声を荒げながら小日向未来を指差す。
「安心してクリスさん。ギャグパートでは人は死にませんから♪」
「無茶苦茶なんだよぉぉぉっっーーー!!!」
………………………………………………………………
「よしッ!お前ら良くやった!せっかく北海道まで来たんだ、海鮮でも食って帰るぞ!」
「「「「押忍ッ!」」」」
「まっ、待て、、少し、、休ませて、、くれ、、」
それから特訓のおかげなのか私達のチームワークは格段に良くなっていた。阿吽の呼吸というのか言葉では無く目線だけで意思の疎通ができ以前よりも共に過ごす時間は心地良く私の居場所っと思ってしまう程。それでもたまに千年王国の事を思い出し仲間に会いたくなる。
「なぁ」
「どうしました?」
今も部屋でクリスさんとおしゃべりと音楽を楽しんでいた時、神妙な顔付きで話を切り出された。
「お前はあたしの過去を聞こうとしないのか」
「…気にはなります。ですが私も人に言いたくのない過去があるので聞こうとはしませんよ」
「っはは。じゃあお互いに話しっこといこうじゃないか。あたしも人に言いたくのない過去があるんだ」
「分かりました。じゃあ私からお話ししますね」
エルキュールの過去。それはエルキュール・神令・トールとしての過去。千年王国で起きた戦いの記憶をクリスに話してゆく。
「私はエンシェントキラーズと呼ばれる八人のキル姫の一人。私達エンシェントキラーズは世界の秩序を守る存在でした。私達は長きに渡り千年王国を見守っていましたがある日人々はキル姫に霊装支配を施し争いの道具として利用し戦いを始めたのです。それにより世界は四つの国に分かれ各国が世界を統一する為に血を流しました。もちろん私達は止める為力を合わせたのですが霊装支配されたキル姫に私達の力は及ばす敗北してしまいました」
「キル姫っていうのはそんなに簡単に人が操れるものなのか。それが嫌で逃げる事はできなかったのか」
「それは無理です。キル姫はバイブスとキラーズによって人と繋がっています。バイブスで繋がるという事は人の意思を受ける事になります。悪い心を持った人と繋がれば悪くなり良い人と繋がれば良くなる。そしてキル姫としての人格を霊装支配により破壊し完全なる道具として扱い始めたのです」
「敗北した私達は霊装支配に対抗する為に神の力を"神令"し再び世界を救済する為に立ち上がったのです。私はその時トールの力を神令しました。希望を貫く信念を得る為に、バイブスを全て排除しキル姫を解放する革命を起こす為に」
「お前が前言ってたキラーズはキル姫に宿るんだったよな、そしたらバイブスは人に宿るって事で良いんだな?」
「はい、私達は世界からバイブスを排除する、、人を殺し始めました。バイブスさえ無くなればキル姫を操るものは無くなると考えて。ですが私達は再び敗北します。世界中とバイブスで繋がったキル姫に敗北したのです。皮肉ですよね、バイブスによって戦いが始まったのにバイブスによって争いが終わるなんて」
どこかを見つめていたエルキュールにクリスが声をかけようとするがかける言葉が見つからずただエルキュールを見つめていた。
「でもそのおかげで世界は国こそ別ですけど一つにまとまり平和になりました。それに私達も世界に受け入れられ今はのんびりと暮らしてます。世界を相手に戦い血塗られた過去。それが私の過去です。軽蔑、、しちゃいますよね、、、」
「大丈夫だ。あたしも似たようなものだから。聞いてくれ、あたしの過去を」
私が頷くとクリスさんはゆっくりと話し始めてくれた。クリスさんの両親は戦地でボランティア活動を行っていた。それは音楽の力で戦争をやめさせようというものであった。父がバイオリンを弾き母が歌う。その音色は兵士の心を安らげ戦いを止める事ができていた。しかしそれは長くは続かずクリスさんの両親は紛争に巻き込まれ他界。残されたクリスさんはフィーネに匿われた。
「そこであたしはシンフォギアの力を手に入れた。元々装者としての才能があったんだろうな」
フィーネにより装者となったクリスさんはフィーネの計画を妨害するニ課の装者と戦うのだがフィーネは計画が最終段階へ入るとクリスさんを用済みと捨ててしまった。そこに手を差し伸べてくれたニ課の人達と手を取りフィーネを撃退し今に至る。
「あたしは何度も人に裏切られてきた。だからここの奴らも信じ切れずあたしから距離を置いていた。だけど、あったけぇんだよこの場所はよ」
ふと光る雫を見て顔を見るとクリスさんは泣いていた。辛かったんだろう。ずっと。
「クリスさん。こんな時はハグですよ」
優しく抱きしめて背中をとんとんと叩いてゆく。気が付けばクリスさんは眠りに落ちていた。クリスさんをゆっくりと寝かせて私はその横で眠りについた。
「司令、ノイズの反応を感知しました」
「うむ、時間は遅いが仕方ない。装者と連絡を取り合い至急現場に向かわせろ」
「これは・・・?」
「どうした」
「反応消えました。どのセンサーにも反応ありません、完全に消滅しています」
「少し様子を見るか。モニターから目を離すなよ」
大型のモニターに反応があった区域が細かく映し出されその全てに目を張ってゆく。その時ドアが開き二人が姿を見せた。
「それならあたし達で見てきてやるよ」
「クリスくん、それにエルキュールちゃんも」
「警報の音で起きちゃいました。行かせてくれますよね」
「あぁ、だが依然反応は途絶えたままだ。センサーの誤作動かもしれん」
「ならこの目で確かめるまでだ。行こうか」
「はい!」
「反応のあったエリアはこの近くです。座標出します」
モニターに記された場所を頭に叩き込み二人はニ課を飛び出してゆく。
エルキュールにとっては初めての深夜の外出であり日中とは違い人気はなく二人の走る足音が街に響く。日中との街のギャップに感動しながら先行するクリスからはぐれないように走ってゆく。
「この辺りだな。見たところ何も無いようだが油断するなよ」
暗い街を照らすのは街灯と月明かりのみ。薄暗い街を目を凝らしノイズを探し歩く。しばらく探し回ったのだがノイズの姿は見つからずニ課と連絡を取り合う事に。
「こっちにノイズは無しだ。そっちに反応は」
「どの区域にも反応はありません。もう大丈夫でしょう」
「分かった。帰るぞ」
振り返りエルキュールに告げるのだがその姿は無く唖然とするが名を叫びながら街を歩く。
「おい!何処だ。何処に行っちまったんだよ!」
クリスは夜通しエルキュールを探し街を彷徨うが太陽が顔を出しても姿を見付ける事はできず、それでも歩みを止める事なくエルキュールを探し出すため街中を探し回る。
その日の夕方クリスはニ課へと戻ってゆく。
「お願いだ。あたしに力を貸してくれ」
ニ課に入るなりクリスは頭を下げ頼み込んだ。
「その事なら聞いてるよ!クリスちゃん。一緒に「待て立花。雪音、人に頼み事をするのであれば名を呼ぶべきではないだろうか」
「っ!あぁ、そうだな。あおいさん、朔也さん、弦十郎さん、響、未来、それに、翼さん、あたしに力を貸してくれ!」
深々と頭を下げるクリスの周りをニ課全員が囲う。
「もう、翼さんったら。みんな早く行こっ!友達の元に友達を届けるためにッ!」
ニ課を飛び出そうとする響を朔也が呼び止める。
「待って下さい響さん。エルキュールちゃんと斧の解析がもうすぐ終わります。そうすればエルキュールちゃんの力をスキャンし位置の居場所を特定できます!」
「朔也さんっ!」
「解析完了、エルキュールちゃんの居場所出ます!っ!この場所は…!?」
「カ・ディンギル跡地っ!?」
「場所が何処であろうと臆する訳にはいかない。必ずエルキュールを探し出すぞ!」
ドアの付近で立ち止まり話を聞いていた響を押し除け翼が駆けて行く。
「あぁ!?待ってよ翼さん!」
翼の後を追い響が駆ける。
「クリスくん。俺達は現場には行けないがここからバックアップをさせてもらおう。必ずエルキュールちゃんを連れて帰ってこい」
「お願いねクリスちゃん!」
「ったりめぇだ!ありがとな!行ってくる!」
二人を追い駆けるクリスを見送った後ニ課に警報が鳴り響く。
「ノイズの発生を検知!場所は………!!」
「ここは……何処?」
目を覚ましたエルキュールが見たのは無機質なコンクリートでできた天井だった。体を起こそうとするが起き上がる事ができず、エルキュールが疑問に思い見ると両手足が鎖で台に繋がれている事に気が付いた。
「ふふふ、ようやくお目覚めのようだね。エルキュール・神令・トール」
私の名を呼ぶ声を聞きその方は目を向けるとそこには白衣を着た男の姿があった。
「誰、、、ですか。なぜ私の名前を知っているのですか」
「私がこの世界に君を呼んだ張本人だからさ。このソロモンの杖を使ってね」
そう言って突き出した杖。ソロモンの杖、その名に聞き覚えがある。聖遺物の一つでバピロニアの宝物庫の扉を開きノイズを発生させる事ができる杖。
「自己紹介が遅れたね。私の名はイマズミ。フィーネの研究を引き継ぎ世界を統一する者だ」
「フィーネ、、でもそれはみんなに倒されたはず!」
「だから引き継ぎと言っている。フィーネは月を破壊しこの世界に掛けられたバラルの呪詛を解き世界を統一しようとした。だが私は違う。破壊によりこの世界を統一し私がこの世界の頂点に立つのだ!このトールの力を宿したノイズを使ってね!」
笑うイマズミの背後から人の姿をした何かが姿を見せた。確かに人の姿をしているのだが人とは呼べない何か。
「この世界に君を呼んだ時居場所を特定できずニ課と合流させてしまったのは誤算だったが君がノイズをトールで叩いたのが幸運だった。ノイズにより炭素化したトールを回収し解析しそして再構築。そして!神器トールの力をこのノイズに宿したのだ!」
「だがこの力は不完全な物でこのトールを完全な者にするには君に神令されたトールをこいつに移す必要がある」
「私に神令されたトールの力を、、、?」
「そうだ。やれ、トールよ!」
イマズミの命令によりトールがエルキュールの前に歩み出るとエルキュールの手に触れた。その瞬間にエルキュールの全身に激痛が走る。
「あっ、ああああああああっっっっっっ!!!!」
神令、霊装支配とはキル姫の魂に力を宿らせる物。それ程までに深く根付いた力を無理矢理引き剥がされ吸収されてゆく。その痛みは想像を絶する程。何度も痛みによる気絶と痛みによる覚醒を繰り返しながらエルキュールは神令されたトールの力を引き抜かれた。
「ふははははははははっ!!これで最強の戦神トールの完成だ!これでこの世界は我が手にッ!!」
高笑うイマズミの前には戦神トールの姿が。北米神話最強の戦神、トールの姿が。
「エルキュール、お前はもう用済みだ。そうは言っても手は下さん。神令を引き抜かれたショックでやがて死ぬ。おっと。お客様のお出ましだ」
イマズミが振り返るとそこには装者三名の姿が。
「わざわざそちらから出向いてくれるとは、こちらから出向く手間が省けたよ」
「誰だお前は!エルキュールをどうした!」
「私の名はイマズミ。何ってエルキュールに神令されたトールをこのノイズ、トールに移させてもらっただけさ。ほら、お前達が探しているエルキュールはそこに居るぞ」
イマズミが退くと三人に台の上に力無く横たわるエルキュールの姿が見えた。それはエルキュールも同じで霞む視界で三人を見て口を動かした。(逃げて)っと。
「エルキュールちゃんっ!!」
「てめぇ、、ッ!許さねぇ!」
「血の気の多い連中だ。だがお前達は私の計画の邪魔になるのでね。消えてもらうよ」
イマズミの前にトールが立ち装者へと立ち塞がる。その手にはエルキュールが持っていたトールを携えて。
「トールだかなんだか知らねーがよ。そいつをぶっ潰してあいつを助け出す!」
クリスが両手に付けた弓を束ね重ね一つの弓とし一本の矢を放った。それはトールへと向かい飛ぶのだがトールに弾かれ消えた。
「なっ!?」
「矢が通らぬなら斬り伏せるまで!」
するりと戦場を駆け抜けトールを袈裟斬りするのだがトールを覆う強靭な筋肉により阻まれトールに掠り傷すら付ける事はできずにいた。
「それなら私がこの拳でッ!!」
ギアの力を右手に一点集させ響が駆け渾身の一撃を打つのだが斧に打ち払われ吹き飛び壁にめり込む。
「立花ッ!!」
「人の心配をしている暇など無い!」
気が付けば翼に向かいトールが斧を振り下ろす。それを剣で受けるのだが剣が砕け散り真っ向からトールの一撃を浴びる。
「っ!!」
距離を縮めるのは危険と判断しクリスが距離を取り矢を放つ。その矢を受けながらトールが手に持つ斧をクリスに向かい投げる。
「ぐふっ、、!」
腹に斧を受け吹き飛んだクリスはエルキュールが横たわる台へと叩きつけられる。
「あぁっ、ぐっ、、!ま、待ってろよ。今、助けてやるからな」
吐血しながら歯を食い縛り立ち上がりエルキュールに告げる。その先では満身創痍となりながらも立ち上がる二人の姿も。
「おいおいおいおい、こんなに簡単に倒せるだなんて悔しいなぁ。せっかくのトールの性能が試せないじゃないか」
イマズミの目線の先ではギアが砕けながらも拳を構える響が。折られ半身となった剣を向ける翼が。折れ曲がる弓を構えるクリスの姿が。
「おぉ!そうだ、立ち上がれ!そしてこのトールの力の前に散るが良い!」
「幾度折られようが私自身が折れぬ限り私はこの身を剣と変えて立ち上がるッ!」
「絶対にエルキュールちゃんを助ける!私はそうクリスちゃんと、みんなと約束したんだッ!」
「あたしは諦めが悪いんだよ。ぜってぇ連れ戻すッ!」
「ふっ。まぁ良い。ここはノイズに任せて私達は計画を遂行する為に行かせて貰うよ。そうだなぁ。手始めに目障りなニ課から潰してやろうか」
ソロモンの杖を起動させ部屋中にノイズを出現させ高笑いと共に姿を消した。
ノイズに対し無類の強さを誇るシンフォギアシステム。だがそれは歌う事により聖遺物の力をギアに変換する事ができるからである。満身創痍となり歌う事すらままならない三人はノイズに苦戦し窮地へと追い込まれてゆく。
歌が歌えなくても体を守るバリアコーティングは機能し炭素化こそ防げているが無数のノイズから攻撃を受け続ければ死へと追い込まれる。やがて部屋から歌声が消えた。
霞ゆく視界から三人の姿が消え歌が止んだ。その意味をエルキュールは理解し深い絶望の中エルキュールは目を閉じ縋り付いていた命を手放そうとした。
そんな時歌が聞こえた。この場には歌を歌う人は居ないのに、それなのに歌が聞こえる。
(歌だ。歌が聴こえる、、、)
その歌はエルキュールの頭の中で流れていた。その歌をエルキュールは口ずさむ。
(metamorphosis.to.Hercule)
「装者のギア出力低下を続けてます、、、完全に消滅しました、、」
「そんな、みんなが、、」
「響、、、っ!」
「どこに行くつもりだ未来くん!」
「響のところに!このままじゃ死んじゃうよ!」
「響くん達はもう、、」
「っ!!私は認めない、絶対に諦めないから!!」
未来がニ課を飛び出そうとした時警報が鳴り響きモニターへと目を向けた。
「!?もう一つ装者の反応を検知!いや、装者のエネルギー反応を遥かに超える力を検知しました!」
「この反応は、、、!デュランダル、ネフシュタンと同じ波長!?あの場所に完全なる聖遺物が!?」
「カ・ディンギル跡地ならまだ生きている監視カメラがあるかもしれん!探し出し映像を映せ!」
「はい!カメラ見つかりました!映像出ます!」
「司令!大変です!保管されていた斧の柄が姿を消しました!」
「バカな!柄が一人でに歩き出したとでも言うのか!?」
「司令っ!これを見て下さいッ!!」
「これはっ、、、!シンフォギアだとぉッ!!??」
体を拘束する鎖を引きちぎりエルキュールは立ち上がった。その体に漆黒の鎧を纏い背をマントが包みその手に希望斧・エルキュールを握り締め。
「やっと、やっと!やっとみんなと一緒に戦える、、この力があれば!」
エルキュールには装者となる才能は無かった。だが何度も三人が歌う歌を聴く事によりエルキュールの中に眠る神器エルキュールの力が聖遺物として目覚めエルキュールを装者として立ち上がらせたのだ。
「私に目覚めた力で災厄を断ち切り必ずみなさんに希望となってみせますッ!!」
高らかに叫び目の前のノイズに向かい斧を振り下ろし前を向き次の標的を定める。その斧はノイズを容易く切断し次の標的へと斧を振り下ろす。
「もう大丈夫ですよ!しっかりして下さいっ!」
倒れる三人に声をかけるとやがて意識を取り戻し立ち上がれるまでに。エルキュールの歌う歌うが聖遺物と共鳴しギア本来の力を取り戻してゆく。
「エルキュールちゃん!」
「やったなエルキュール!」
「カッコ悪いとこ見せちまったな、、、だが、あたしらもこのままじゃ終われないね!」
「はいッ!共に戦いましょうッ!」
カ・ディンギルを飛び出し四人はイマズミの後を追う。その姿を欠けた月が照らす。
「あん?生きていたのか、、なっ!なんだ!そのエルキュールの姿はッ!?」
「この姿は私に眠るエルキュールの力が目覚めた姿、、、シンフォギアです!もう私は諦めない、絶望に飲まれたりなんかしないッ!この手で必ずトールを倒しお前の思い通りにはさせないッ!!」
「くっ、、やはり殺すべきであったか、、だがッ!私にはこのトールが居る!戦神トールはそう容易く討たれんぞ!」
「そうかもしれません。でも私には仲間が、友達が居る!乗り越えられない苦難などありませんッ!」
エルキュールの歌う歌が三人に共鳴し同じ歌を口ずさむ。その旋律はエルキュールの力となる。
「歌で繋がり一つに、、、この力でッ!!」
輝く戦斧をトールに向かい振り下ろす。対するトールもエルキュールを迎え打つ為斧を振り下ろす。
重厚な金属音を響かせながら斧と斧がぶつかり合い双方睨み合う。エルキュールの目には希望を宿しトールの目には信念を宿しお互いを打ち砕く為に斧に力を込め合う。
力尽くの鍔迫り合いの末エルキュールがジワリと下がった。
「私達も行くぞ!」
「みんなでエルキュールちゃんを!」
「あぁ!負けんじゃねぇぞ!」
エルキュールの背を三人が押し四人の力を一つに。
「みんな、、、これならいける、、もう私は負けないッ!!トーーーールッ!!!!!!!」
トールの斧を押し返しエルキュール達が優勢となる。そして力のぶつかり合いに耐え切れず斧に亀裂が入り砕け散る。
「せいやぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
斧を失ったトールをエルキュールがぶった斬り辺りに衝撃が走る。やがてトールは光となりエルキュールへと降り注ぐ。奪われたトールの力がエルキュールの元へと帰ってきた。
「そ、そんな、、、トールが、トールが負けただと、、、」
「次はあなたの番です。災厄の芽は私が刈り取ります」
衝撃に飛ばされ壁に張り付いたイマズミに向かいエルキュールが斧を振り下ろした。
「はぁぁッッ!!!その辺にしておけ」
「なっ!止めないで下さい!」
振り下ろした斧は弦十郎が拳で受け止めイマズミには届く事は無かった。だが反論を叫びながらエルキュールは力を込める。
「お前達に人を殺させる訳にはいかん。こいつはニ課が責任を持って罪を償わせる」
「約束、してくれますか」
「もちろんだ。俺は約束は守る男だ」
弦十郎の目を見て悟ったエルキュールは斧を引きその場へとへたり込んだ。
「おいおい、やっちまわねえのかよ。それならあたしが」
「良いんですクリスさん。この人はこの国の法で裁いて下さい」
「情けをかけるというのか」
「いえ違います。この人には怒りしかありませんけどこの人のおかげで私はみんなに会う事ができました。それだけは感謝しています」
「優しいんだねエルキュールちゃんは。それよりもすっごくカッコいいよ♪このライオンみたいなマントも手足のギアも♪」
「皆さんお疲れさまでした。それにしてもこの男がソロモンの杖を手に入れていたなんて、、」
「そうだ、ソロモンの杖!」
クリスがイマズミの持つ杖を拾い上げ眺めた。
「へぇぇ、クリスさんその杖が使えるんですね」
「まぁな、それより」
「どうしました?」
「お別れの時間だ」
驚きの声をあげる三人に向かいクリスがソロモンの杖を見せる。ひび割れ今にも崩れてしまいそうな杖を。
「さっきの衝撃をまともに喰らっていつ消滅するか分からねぇ。だからこの杖が壊れる前にお前は元の世界に帰るんだよ」
「そんな、、、嫌です!せっかくみんなと共に戦える力を手にしたのに!こんなに仲良くなれたのにっ!」
「いいか、お前は元々こっちの世界の住民じゃねぇ。それに元の世界の仲間が心配してるぞ」
「それはそうかもしれませんけど!私は…!」
「良いから帰りやがれ!」
クリスが杖を起動させるとエルキュールが光に包まれてゆく。
「あっ、、」
「じゃあなエルキュール」
「やっと、やっと私の事名前で呼んでくれましたね。そうだ。みんなでハグしましょうよ」
「あたしはいい!他の奴としてろ」
エルキュールに背を向けたクリス。
「翼さん、ありがとうございました」
「こちらも世話になった。達者でな」
「響さん、ありがとうございました」
「寂しいけど、、また会えるよね」
「はい、またきっと会いましょう」
「あおいさん、朔也さん、未来さん、弦十郎さん。お世話になりました」
「あぁ、礼を言うのはこちらも同じだ。ありがとうエルキュールちゃん」
「またねエルキュールちゃん!」
「ありがとうエルキュールちゃん」
「ありがとうございました」
一人一人にハグをし後はクリス一人となった。
「クリスさん、こっちを向いて下さい」
「・・・こんな顔見せれるかよ」
「じゃあ後ろから抱きしめてあげますね」
肩を振るわせるクリスをそっと抱きしめるとエルキュールを覆う光が強く輝く。
「もうお別れですね。私はずっとみんなの事を忘れません。ありがとうございました」
クリスから離れみんなに頭を下げるとエルキュールの輝きが増してゆく。
「……エルキュールっ!」
みんなの間を抜けクリスがエルキュールの胸へと飛び込んだ。
「クリスさんっ!」
「またな、エルキュール!」
「はいっ、さよならは言いません!いつの日か必ず私はこの世界に………!」
クリスの泣き腫らした笑顔を見た後エルキュールは姿を消した。
「ここは、、、?」
エルキュールが目を開けるとそこはエルキュールが穴に落ちた場所だった。だが何度見ても何処を探しても穴は無く何処までも地面が続く。
(はぁっ、、夢だったのかな)
手足を見ても振り返ってもアームドギアの姿は無くランニングウェア姿。もう走る気にもなれず喫茶店に行く気も無くなりエルキュールは自室へと戻ってゆく。
部屋に入りタオルを取り玄関に置かれた姿鏡を見てエルキュールは笑った。
「夢じゃ、、、なかった、、、」
エルキュールの首には赤い結晶でできたネックレスがぶら下がる。それが夢でなかったと教えてくれたのだ。
「聖遺物そのものの力を持つキル姫。非常に興味深いわね」
「すっごく強かったんだよ!」
「会ってみたいデース、エルキュールさんに」
「それでそのエルキュールって人はクリスさんの友達なの?」
「あぁ?あいつは友達なんかじゃねぇ」
「えっ、、、」
「あいつは、エルキュールはあたしの親友だ」
新たに仲間に加わった三人に向かいクリスは得意げな顔で告げた。
「お前らみんな居るな、本日よりS.O.N.Gに入隊する事となった装者を紹介する。入ってくれ」
弦十郎がドアに向かい手を向けるとドアが開き少し恥ずかしそうなエルキュールの姿が。
「オベロン様にこのペンダントと同じ力を探してもらって。今日から私もみんなと共に戦います!」
「バカッ、、、戻って来んのが早すぎんだよ、、、」
「ダメ、でしたか、、?」
「大歓迎だ」
エルキュールに抱き付くクリスを見て皆が微笑んだ。
エルキュール「シンフォギアッ!」完
ここまで目を通してもらいありがとうございました!自分なりにキャラを生き生きと動かせたと思っています。
長々と書いてしまいましたが良ければ感想、コメントを貰えると嬉しいです。