※この作品はR-18です。

黒ティルと僕と   作:やす、

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4月3日/プロローグ


「ただいまー」


ラグナ教会から受けた任務を終え家へと帰り玄関を開け靴を脱ぎリビングへと行くとテーブルにパンフレットを一面に広げ悩ましい表情をするティルフィングの姿が見えた。


「ただいま。何を見ているの?」

「お帰りなさい。そろそろ暖かくなってきたので旅行に行こうと思いまして。もちろん二人でですよ」

「良いね。それなら僕も選んで良い?」

「そうですね。二人で選びましょうか」


ティルと対面してテーブルへと着き何枚かのパンフレットを読み漁る事に。ティルヘルム、トレイセーマ、ケイオスリオン、ハルモニア。知った地名は読み流しまだ行った事のない土地のパンフレットを手に取り目を通して行く。

しばらくして自身が行きたいと思う旅行先を見つけ顔を上げるとティルと視線が合った。


「決まりました。ユウはどうですか?」

「僕も決まったよ。ティルは何処に行きたい?」

「私はここに行ってみたいです」


ティルが指差すパンフレットには『バベル大陸横断旅行』と書かれていた。しかし僕が指を刺すのは『キャメリアード王国温泉旅行の旅』。互いが違う旅先を選びどちらも譲らぬという目線に火花が散る。


「ここは公平にじゃんけんで決めようか」

「そうですね。では勝った方の旅先へ先に行くという事で」

「「じゃんけん、、、ぽん!」」


テーブルの真ん中に突き出された掌は僕がパーを出しティルがグーを出す。この瞬間にキャメリアード王国温泉旅行が決まった。少し得意気な顔でティルを見るのだが悔しがる様子も無く普段と変わらない表情。それが不安になり恐る恐る目線を向ける。


「ふふ、私もキャメリアード王国は候補に入れていたので。バベル大陸には、そうですね、、秋にでも行きましょうか」

「そう言ってくれて良かったよ。それで旅行にはいつ行くの?」

「思い立ったが吉日です。6日に行きませんか?」

「3日後だね。了解、のんびり準備しよっか。ご飯作るからテーブルの上片付けておいてね」

「分かりました」


テーブルの上に散らばるパンフレットを一枚にまとめ戸棚へとしまい込むと壁に掛けてあるカレンダーの元へと行き一本のペンを取り出すと4月6日の日付を丸で囲いキッチンで調理を行っているマスターへと笑顔を向けた。





次の日、二人はラグナ教会へと行きキャメリアード王国行きのチケットを2枚購入し同施設内にある喫茶店へと足を運んでいた。


「楽しみですね温泉旅行」

「そうだね。それでキャメリアード王国ってどんな所なんだろ?」

「あの後少し調べたのですがキャメリアード王国はブリテン島の一部の様です。元々は鉱山から採れる鉱石や宝石で栄えた国だったのですが鉱物を取り尽くしてしまい国は衰退してしまいました。が、地熱を利用し温泉地として再び栄えた国の様です」

「へぇーそういう諦めない精神、僕好きだよ」

「しかし没落した際に一部の住民が盗賊となったり治安は良いとは言えません。流石に異族は居ないと思いますが念の為に剣は持っていかなければいけませんね」

「了解だよ」


コーヒーを一口飲み上着のポケットから煙草を取り出し火を付けると煙を吐き出しのんびりとしているとラグナ教会の制服を着た女性が喫茶店に顔を出しきょろきょろと店内を見渡し二人を見つけると笑顔で店内へと入っていった。


「探してましたよユウさんティルフィングさん♪」

「久しぶりだねマリア。一体どうしたの?」

「実は明後日の異族討伐任務を受けてくれる奏官が捕まらなくて二人を探してたんですよ♪」


任務受けてくれますよね?そう言いながら同じ席へと着くとニコニコと二人を見つめるのだが二人は目を逸らし知らぬふりをする。それでも諦めず視線の先へと顔を出し謎のアピールを繰り広げてゆく。


「明後日は僕達予定があるんだよね。だからパスで」

「そんな事知ってますよ、キャメリアード王国に温泉旅行ですよね。…二人はラグナ大陸の平和と旅行どっちが大事なんですか!?」


途中から声を荒げ二人を説得するのだが即答で旅行と答えられ目をぱちくりとさせる。


「ほんとお願いしますよぉ〜!あっ、そうだ。私の権限を使えば二人が発券したチケットを紙切れに変える事ができるんですよ。キャメリアード王国は異国の地、高かったチケットがただの紙切れに…」


言いかけた言葉は首元に突き付けられた剣により止まり動揺する眼差しは剣を突き付ける主、ティルフィングへと向けられる。


「奇遇ですね。私も後少し右手を左にずらせばマリアを人から肉塊へと変える事ができるのですが」


真紅に輝く瞳の奥に宿る怒りを感じとり身震いを起こしながら助けを求める視線を奏官へと向けるのだが目を逸らされガックリと肩を落とす。


「分かった、分かりましたよ、、じゃあせめて異族と戦えるキル姫を代わりに呼んでください!これが条件です!」


そう言われて二人は考えていた。四六時中暇して退屈している強いキル姫を。そして二人同時に同じキル姫の事を思い浮かべて顔を見合わせた。


「じゃあ呼んでくるよ」

「お願いします。もしその人がダメだったら任務受けてもらいますからね!」


残りのコーヒーを飲み干し二人は立ち上がると転送室へと行き千年王国へと転送されてゆく。



二人の目的は千年王国にあるティルヘルム。そこに居る一人のキル姫に任務を任せるというもの。

転送装置を出て慣れた道を歩み城内に入ると皆が居るリビングへと行くといつものメンツがテーブルに置かれたお菓子を食べながら優雅なおやつタイムを楽しんでいた。

一人一人に挨拶をしながら室内を進み一番奥の席に座るアルマスの元へ。


「お願いだよアルマス」

「お願いします」

「明後日?悪いけどその日私には任務があるのよ」


二人から任務を頼まれた主、アルマスは二人の相談をキッパリと断りテーブルの上に置かれたお菓子へと手を伸ばした。


「マジで?」

「アルマスに予定があるだなんて、、」

「それ、どういう意味よ。私だってティルヘルムの為に頑張っているし。ってなんで私に頼むのよ、ラグナロク達だって居るじゃない!」

「だってラグナロク達は忙しそうだし」

「アルマスなら空いていると思ったのです」

「残念だったわね」


そう言ってお煎餅の包装を破り口へと運んでゆく。


「でもアルマス明後日どころか今月はずっと暇ですよね?」

「うぇ、なんでそれを言うのよティニ」


アルマスの肩に座るティニがジト目を送りながら呟くと二人の視線がアルマスに刺さる。それを払いのける様に首を振り咥えていたお煎餅をパキリと噛む。


「それは、、その、、忙しいって言った方が格好もつくしそれに私も絶・温泉に行きたいわ」

「じゃあ温泉が良かったらみんなで行こうよ。オベロン様やラグナロク達も誘ってさ」

「まぁ良いけど、、」

「それで任務は受けてもらえるのですか?」

「二人の頼みなら仕方ないわね。その代わりそっちの家に泊まらせてもらうわよ」

「うん、良いよ」

「アルマスが行くなら私も付いて行ってもよろしいですか?」


肩から降りると羽を羽ばたかせ二人の目線まで飛ぶ。もちろん。と返事をされると可愛いらしい笑顔を浮かべた。


「それでお二人は何処に旅行に行くのですか?」


お菓子を食べながら一連の流れを見ていたミネルヴァが二人に問うとパンフレットを開きミネルヴァへと見せる。


「へぇ、キャメリアード王国ですか。それなら足を伸ばしてログレスの方まで行ってみるのはどうですか?」

「ログレス?」

「はい、お二人はアーサー王物語を読んだ事はありませんか?有名な物語なのですが」


ミネルヴァの問いに二人は顔を見合わせ知らないという。


「そうですね、、なら湖の騎士、ランスロットは知っていますか?」

「確か、、アロンダイトの持ち主でしたよね?」

「正解です。ランスロットもアーサー王物語の登場人物なのですよ。私達キル姫と歴史は深く結び付いています。旅先で私達のルーツを探すのも楽しいかもしれませんね」

「なるほどね。もっと聞かせてよ」


旅先の話に夢中になり二人は席に座りお菓子を頬張りながらミネルヴァの話を聞く事に。しかし退屈な話にシビれを切らせたアルマスに急かされ席を立った。


「そうだ、旅行先で怪我をするかもしれないのでグリードに回復魔法を教えてあげますね」

「ありがとうございます」

「ですがあまり使ってはいけませんよ。あくまで御守りだと思って下さい」


ティルフィングがネスから回復魔法を伝授されているので再び席に座りお菓子へと手を伸ばす。


「ねぇ、まだなの」

「お待たせしました。ではお土産と土産話を持ってまた来ますね」

「お騒がせしました」

「じゃあ行ってくるわ!」

「アルマスがやられたら私が行くからいつでも言って」

「はい、ラグナロクさん♪」

「そう簡単にはやられないわよ!」


ラグナロクの小言を聞きながら城を後にし、一行は千年王国からサフランへと戻る。そして明後日の任務の代打を係員のマリアへと紹介し無事に許可を受け自宅へと。


「それでどれぐらいで戻ってくるのよ?」

「日程は決めていないのですよね。気が向いた時に戻る予定です」

「優雅ね」

「たまにはね」




次の日、旅行に向けて買い物へと行き旅に必要な物を買い込みキャリーバックへと詰め込んでゆく。買い物から準備を行なっている間常に笑顔の二人。そんな二人に冷ややかな目線をアルマスが向けていた。


「良いわね旅行」

「私達も何処かへ行きませんか?たまには羽を伸ばしたいですし」

「そうね。ねぇ、旅行のパンフレット見せてよ」

「テーブルの上にあるよ」


席に着きパンフレットを開いたアルマスの肩にティニが乗り一緒に目を通してゆく。

その間に二人は荷造りを終え大きく手を伸ばした。


「ご飯でも食べに行こっか」


この言葉にパンフレットをテーブルに置き玄関へと駆けて行く。






「ではキャメリアード王国温泉旅行の旅、楽しんできて下さいね♪」

「ありがとね、アルマスお願いね」

「ティニもお願いします」

「二人とも楽しんできて下さいね♪」

「お土産楽しみにしているわ」


転送装置に乗り込みアルマスとティニ、そしてマリアへと声を掛けると装置の扉が閉まる。次に目を開ければそこは異国の地、キャメリアード。

転送により意識が吸われる感覚を感じていると外から大きなくしゃみが一つ聞こえた気がした。





4月6日/二人のティルフィング






キャメリアード王国の南東に『剣の祭壇』と呼ばれる建物がある。石造りの建物は外壁は満遍なく苔に覆われ建てられてからの歴史の長さを感じさせる。しかし室内は建てられたままの姿を保つ。その理由としてこの剣の祭壇はキャメロット騎士学術院、キャメリアード王国の管理下に置かれているからだ。

そこに3人の制服姿の男女が祭壇奥地に突き立つ剣の前に集っていた。


「この剣は太古よりこの地を守護する剣と言われているわ」


クリーム色の長髪をツインテールに纏めた女性が男性へと説明を行なっているが男性の目線は石でできた祭壇に突き立つ剣を見つめていた。


「ちょっと、聞いてるのノワール」

「聞いてるよギネヴィア」

「なら良いけど、続けるわ。この剣、カリバーンって言うのだけど」

「この剣は抜く事はできないのか?」

「この剣を抜く事ができるのは継承者って呼ばれる人だけなんだって。私なら抜けるって思ったんだけどダメだったしノワールもきっと無理よ」

「一回試させてくれないか?」


どうせ無理よ。というギネヴィアの声を聞きながら剣を引き抜こうと力を込めるのだがギネヴィアの言う通り切先が埋まっているだけの剣はどれだけ力を込め引き抜こうとしても僅かにすら動かず。


再び話を始めたギネヴィアの声に耳を傾けているとギネヴィアの声に混ざり女性の声が聞こえた。


(継いで……)

「今、声が聞こえなかったか?」


ノワールが二人に問うも二人は首を横に振る。疑問を抱いていると「ちゃんと私の話を聞きなさい」とギネヴィアから叱咤が飛び意識をギネヴィアの声へと向け直す。


(温泉楽しみですね)

「温泉?」

「ちょっとノワール!?私が説明してあげてるのに温泉て何考えてるのよ!」

「いや、今、温泉って聞こえたんだ。ギネヴィア達には聞こえなかったかのか?」

「聞こえるわけ無いじゃない!ほんと何考えてんのよ」

「殿下、ノワール様は環境の変化で疲れているのです。お早めに」

「分かったわよ。ノワールがこの剣に触れればマスターとしての素質があるかどうかが分かるわ。早く試験を終わらせて学園に帰るわよ。台詞は覚えている?」

「あぁ、大丈夫だ」

「しょうがないわね。不安だから私が一緒に唱えてあげるわ」


ノワールの話を聞いていないギネヴィアに視線を向けるとギネヴィアの隣にいる女性と目が合い目線で謝罪を受けた。


「いくわよ」

「「空より続かぬ限られしやがて地に帰す百年足らず。汝は誰かと名を刻めるか。刃となるか、鞘はあるか。武器が記憶を呼び起こし給!」」


二人が呪文を読み上げノワールが突き立つ剣の柄に触れる。すると剣は二人の声に応えるかの様に淡く水色に光った。


「これでノワールも入学試験クリアね。さ、帰ってこの事を報告しなくっちゃ」


ノワールへにししっと笑い出口に向かい体を向けた。その視界の先に凶々しい光が出現し光と共に異形の者が姿を現した。


「バルバロイ!私の故郷をこれ以上荒らされてたまるもんですか!」


ギネヴィアが異形の者に矛先を向け叫ぶ。


バルバロイ。一見人と同じ姿をしているが橙黄色の肉体に髑髏を思わせる顔面。ギネヴィアが叫んだ意味としてこのバルバロイは人を襲い喰らい生活を脅かす人類の天敵。

それが一体では無くこの狭い建物内に無数に姿を現し三人を捕食する為に迫る。


出口をバルバロイに塞がれ三人は戦うのだが無数に迫るバルバロイに押され壁際へと追いやられてゆく。


「こっちだ!俺を狙え!」


ノワールが叫び単身で右へと走るとノワールが羽織る金コートに惹かれバルバロイがノワールへと襲いかかり左に隙間ができその間を縫い二人は出口へと逃げ走った。


「ノワール!」


二人を逃す事に成功したのだがノワールはバルバロイの群れに囲まれジリジリと追い詰められやがて突き立つ剣の元へ。そしてまた声が聞こえた。


(終わりの続きを斬り開く武器をーーー)

(温泉に飽きたら買い物もしたいですね)

(その命、革るのなら)

(ユウはしたい事ありますか?)


この声の主は誰なのか分からない。何を言っているのかも分からない。バルバロイが迫る中ノワールは突き立つ剣の柄を取り叫んだ。


「武器をよこせ!!」


ノワールの声に応えるかの様に台座に突き立つ剣は抜け刀身を露わにする。そして瞬きをした瞬間に脳裏に一人の女性の姿が浮かんだ。桃色の髪を腰まで伸ばし今引き抜いた剣と同じ剣を持つ女性。

瞬きをして目を開ける刹那の時間の幻覚。そう思ったのだが目を開いた先には幻覚と思われた女性が二人、並び立つ。


(なんだ、、、?)


祭壇に祀られた剣を抜くと同時に現れた女性に思考が止まり目は二人の女性へと向き動向を伺う。

ノワールが見ている間に二人は剣を抜き構え無数に迫るバルバロイの群れへと斬り込んでゆく。


剣の様に変化した右腕を振り上げるバルバロイより早く振われた剣は上半身と下半身を斬り分け崩れ落ちた上半身を残し下半身が立つ。噴き上がる血飛沫にも構わず後続のバルバロイへと向かい蹴飛ばし怯んだ隙に両断。

力尽くを思わせる剣技の一方で襲いかかるバルバロイを軽快に躱し鮮やか戦場を駆け彼女が通った道はバルバロイから噴き上がる血に染まる。


分からない。何がなんだが全く理解ができない。しかし目線は剣を振るう二人を追う。人知を軽々と超える剣捌きで無数のバルバロイを最も容易く殲滅させると二人同時にノワールを見た。


「やっと、私の声が届きましたね」

「キャメリアードにも異族がいる様ですね。やはり剣を携えてきて正解でした」

「「あなたは一体………?私と同じ、、、?」」


ノワールの前で広がる光景は同じ姿をした女性が二人。違うところを探すのなら着ている服と声だけなのだが他はまるで鏡写しの様に寸分狂わない同じ顔の女性が二人。剣を抜いたら同じ顔の女性が出てきた。そんな二人がお互いを見つめ不思議そうな顔をしている。文字にしてしまえば短い文なのだが実際にこの光景を体験しているノワールにとっては理解ができない光景。


「剣から人が出てきた、、、?」

「それも二人も」


その光景が理解できないのは出口から見ていた二人も同じ。必死に今起きている現象を理解しようとするのだが答えが出るはずもなく。


「それで、二人は私達の敵になるのかしら」


ギネヴィアが警戒しながらも声を上げると二人は首を横に振る。それだけでは確証は取れないが二人の間にいるノワールに危害を加えていない事を見れば敵では無いと納得し二人に近づいてゆく。


「教えてくれないか。二人はどうして剣を抜いたと同時に出てきたのかを」


ノワールに聞かれ二人が同時に返事をし全員が困惑を浮かべる。


「もしかして二人は双子なんじゃない?だからこんなにそっくりなのよ」


得意気に告げるギネヴィアの言葉はあっさりと否定され順番に自己紹介を行うという事で事は治った。


「私は『最初の武器』ティルフィング。私は、マスターをずっと探していました」

「マスターって誰の事なのよ」

「ノワール様の事です。このカリバーンを封印から解き終わりの続きを往く継承者の刃となるために私はここに姿を現しました」

「俺が、、?」

「…………次よ次!あなた名前はなんていうのかしら」

「私もティルフィング。そう呼ばれています」


同じ姿であるだけでなく同じ名前。不可解な事が連続して起こり頭の処理能力をオーバーし頭痛を感じ始めていた。


「私はグリードと呼んで下さい」

「それでグリードもカリバーンに封印されていたワケ?」

「いえ、私はキャメリアード王国に温泉旅行に来ました」

「お、温泉、、」

「キャメリアードに!?」

「はい。何か慌てるような事を言いましたか?」

「私、キャメリアードの産まれなんだけどこの国に温泉があるなんて聞いた事もないわ。それにいまやバルバロイが闊歩するこの国に呑気に温泉旅行だなんて」

「パンフレットを見て来たのですけど。それと私のマスターを見ていませんか?一緒にキャメリアードに来たのですが」


グリードが尋ねるが誰しもが知らないと返事を。返事を受けマスターとのバイブスの繋がりを意識すると居場所は分からないが繋がりを感じ胸を撫で下ろす。


「とにかく学園に戻りましょ。ここに居たらまたバルバロイに襲われるわ」


ギネヴィアの案の元一行はキャメロット騎士学術院へと向かう。






4月8日/円卓の騎士



一行はバルバロイの襲撃を受けながらもキャメロット騎士学術院があるログレスへと辿り着いていた。


「素敵な街並みですね」


学園を中心に栄える城下町を見てグリードが声を上げた。視界に写るのはありふれた城下町のいつもの様子。しかしグリードは目を輝かせながら辺りを見渡す。


「グリードの祖国はどんな街なの?」

「ここより人は多く街は栄えています。でも異国の地を歩くという事はここでしか味わう事ができません」

「本当に旅行に来たのね。じゃあ異国のコインを持ってるかしら?」


これでよろしければ。そう言って金色に輝くコインを手渡され受け取ったギネヴィアは嬉しそうに何度もコインを眺めにししっと笑った。


「あぁ殿下、、お金をたかるなんて物乞いの様な真似を、、申し訳ありませんグリード様、殿下は異国のコインを集めるのが趣味なものでして」

「構いませんよ」


嬉しそうなギネヴィアと変わり侍女は嘆き申し訳なさそうに頭を下げる。


「こうやって異国のコインを集めて私はリッチになるのよ。このお礼は必ずするからね」

「異国のコイン。つまり私が持っているお金はここでは使えないのですね」

「そうなるわね。そうだ、このコインをあげるわ。貰ったコインのお礼よ」


ギネヴィアの言葉を聞き難しそうな表情を浮かべた。


「とにかく学園へ行きましょ。街の案内は後でするから」

「楽しみにしています」


石畳で作られた道を歩み城門を抜けキャメロット騎士学術院へと入り円卓の間へ。


重々しい扉を開けた先には名の通り円形に作られたテーブルがあり13の席が設けられていた。次に視界に入ったのは円卓の頂点に座する金髪の男性。次に魔導士衣装に身を包む女性、青髪の精悍な青年。金縁の眼鏡を直しながら怪訝な顔を向ける初老の男性。


「おかえりノワール」

「…ただいまランスロット」

「ノワールはカリバーンを引き抜きキラーズを得たわ。これで文句は言えないでしょケイ卿」


得意気な顔の先でケイ卿と呼ばれた男性は眼鏡を再び直した。


「入学試験をクリアした、キラーズもある。更には継承者ときた。これで文句は言えないな義兄さん」


豪快な笑い声を聞きながら再び眼鏡を直す。


「オホン。それでどちらがノワールとゲシュタルトシフトをしたのか」


悔しさを紛らわす咳払いを一つ吐き同じ顔のティルフィングに向かい問う。しかし返ってきた答えはどちらもノワールとゲシュタルトシフトはしていないというもの。


「私はノワール卿の最初の武器です。ノワール卿の本当の番はいずれにて」

「私はキャメリアードに観光に来ただけです」


あっけらかんに言い放たれケイ卿は思わず立ちくらみを起こす。


「そうであるのならノワールの入学を認める訳にはいかん。荷物を纏めて兄妹共々学園を出て行って貰おう」

「目くじらを立てるのは良くないぞ義兄さん。それに円卓の騎士は人手不足だ。戦える人材を一人でも多く確保せねばならん」

「しかしカドレニアの元傭兵をいつまでも我が学園に置いておく訳にはいかない。それこそ在校生に顔が立ちませんぞ」

「あの、質問よろしいでしょうか」


今にも言い争いを始めそうな二人に向かい手を上げたのはグリード。これにより卓にいる四人の目線が向く。


「ゲシュタルトシフトとはどの様なものなのでしょうか。それとバルバロイと呼ばれる異族の存在に付いても詳しく教えてもらいたいです」

「よし、ならバルバロイから説明をしよう。ランス、頼めるか」

「あぁ、バルバロイとは人間の記憶と肉体を食らう魔物だ。バルバロイには人間のあらゆる攻撃が通用しない」

「ならどうすればバルバロイを倒す事ができるのですか?」

「それは」

「私が説明してあげる。バルバロイを倒すにはバイブスを持つマスターとキラーズ因子を持つ番の力が必要なの」

「ならどうしてグリードはバルバロイを倒す事ができたんだ?異国から旅行に来たんだろ」


ノワールの疑問に一斉に視線がグリードへと向き説明が求められグリードは口を開いた。


「私はキル姫、グリード。伝説の武器から抽出されたキラーズに生命の源であるマナを掛け合わせ産まれた存在。こちらのキラーズの事はよく分かりませんが私がバルバロイを倒せるという事は同種のキラーズなのかもしれませんね」

「ならグリードはキラーズ因子を持つ人じゃなくてキラーズそのものって事?」

「そうなりますね」


平然と告げられるが理解できるはずもなく理解に苦しむ。だがアーサー王は盛大に笑い声をあげていた。


「よし、それならグリード。学園に雇われる気は無いか?今なら福利厚生から衣食住まで完全補償だ!もちろん討伐したバルバロイに応じた報酬は出す!」

「それは構いませんが一つ条件があります」

「聞こう!」

「私のマスターもここに来ているのですがはぐれてしまい迷子になっています。マスターの捜索に御助力頂けるのなら私は学園の為にこの剣を振いましょう」

「乗った!俺達も探し物をしていてね、そのついでだ。グリードのマスターの特徴は」

「紺色の上着を羽織り髪は黒の短髪、白く輝く剣を携えています。名前はユウ」


爛々と笑顔を浮かべるアーサー王にグリードは微笑み返す。しかしアーサー王の横で憤怒を爆発させる者が。


「アーサー!次から次へと学園に問題を持ち込んで!ノワールもそうだがグリードが我々に剣を向けないという保証は誰が持つんだ!」

「俺が全責任を負うよ義兄さん。それに剣を向ける気があるのならとっくに戦っているさ。そうと決まればマーリン、二人分の制服を用意してくれ」

「仰せのままに」

「ティルフィング、グリード。二人も学園での生活を楽しみ青春を謳歌して欲しい」

「アーサー!」

「スタンド・バイ・ユアラウンド!」

「フォー・ラウンド」


アーサーの鶴の一言により円卓会議は閉会となりその場には頭を抱え込むケイ卿が一人残されていた。

して、一同は街にあるホットドッグ屋へとアーサーに連れて来られており一人ずつ一つのホットドッグが手渡されていた。


「B級の持て成しですまんが俺からのささやかな入学祝いだ。まぁ遠慮せずくえ食え」


無邪気な笑顔でホットドッグを食べるアーサーに続き柔らかなパンに挟まれたソーセージにたっぷりとソースがかけられたホットドッグを見る。明らかに身体に良くなさそうなのだがそれが美味そうに感じ口を運ぶ。


「よし、じゃあ俺は公務と義兄さんの機嫌を取りに戻るよ。言い忘れたがこのホットドッグは美味いが食いずらいから気を付けるんだぞ」


早々とホットドッグを食べ終えたアーサーは学園へと歩んでゆく。その後ろをマーリンがホットドッグ片手に着いて行く。


「何かあれば私を頼って下さいね」


優しい笑顔で言うのだが口の周りにはべったりとソースが付いていた。


「すまないが俺も公務があるので戻る。ノワールとディナタンをよろしく頼む」


ホットドッグを食べ終え包み紙を丁寧にたたみランスロットも学園へと戻ってゆく。


「話が逸れてしまいましたがゲシュタルトシフトとはなんでしょうか?」

「それはまた今度実戦を交えながら説明するわ。その方が分かりやすいでしょ?」

「殿下、そろそろお戻りになる時間です」

「本当だ。みんなまた明日学園でね」


ギネヴィアと侍女もこの場を後にし場に残ったのはノワールと二人のティルフィング。

二人に付いて聞きたい事が山程あるのだが剣の祭壇に行った疲れもあり明日に持ち越す事に。二人を学生寮へと案内し各自しばしの休息。




4月6日/その頃



グリードが剣の祭壇へと転送された時、彼はカーライル城の前に転送されていた。地上より少し高い所に転送され落下し打ち付けた腰をさすりながら立ち上がると目の前にそびえる異国の城に圧倒されながら隣に居るティルフィングに話しかけた。


「ティル?」


隣に居るはずのティルフィングの姿は無くここにあるのはキャリーバックと自身のみ。慌てながらバイブスを意識しティルフィングのキラーズを探すと存在は感じるのだが居場所は曖昧にしか分からず頭を抱える。

こうなった原因としてあの時聞こえたくしゃみで転送装置の操作を誤ったのだろうと納得し上着のポケットから煙草を取り出し手頃な岩の上に腰掛けとりあえず一服しながら状況をまとめる事に。


転送された場所はキャメリアード王国。ならばこの城はキャメリアードの城なのだろう。ティルフィングのキラーズを感じると言う事は別々の場所に転送されてしまったと。そうならば現在地すらキャメリアードで合っているかも危うい。


暖かな日差しを受けながら、異国の城を見ながらの一服を終え立ち上がると城前に人の姿を見つけ現在地を聞くべくその人の元へと歩いてゆく。


「すいませーん。ここってキャメリアード王国であってますか?」


城前を散歩する橙黄色の人の背に話しかけるとゆっくりと振り返り髑髏の様な顔面を見せた。


常人であれば逃げ出す光景だが彼は異国なら人がこんな姿をしていてもおかしくは無いと思い平然と話しかけてゆく。


「ここに温泉に入りに来たんだけどどこにあるか教えて下さい」


質問を投げるのだが返ってくるのは呻く様な声。明らかに不自然なのだが彼は異国なら言語が通じなくても仕方ないと考え他の人に聞こうと頭を下げ次の人を探しに行こうとした。


「っ!!」


下げた頭を上げた瞬間に振るわれた剣を寸前で躱し3歩下がり距離を取る。そして腰に携えた剣を引き抜き住民に向け構えた。


「何か気に触る事言ったかな?言ったなら謝るよ」


それでも平和を保とうとするのだが容赦の無い攻撃が迫り遂に反撃へと出た。

振るわれる剣の軌道を予測し身を翻すと剣を持つ右手首に向かいフラーを叩き落とした。これにより相手は痛みで剣を落とすだろうと考えての攻撃だが相手は剣を落とすどころか痛がる様子も見せず攻撃を仕掛けてくる。

ここである考えが一つ浮かんだ。この人は人では無く異族では無いのかと。

しかし橙黄色の異族など見た事も聞いた事も無く異国に異族が居るのか確証も無い為致命傷を与える攻撃ができずに防戦を強いられる。


反撃の一手を。そう思うのだが万が一人だった時の事を思うと躊躇してしまう。だが与えられ続ける攻撃に遂に反撃の一閃を繰り出した。


繰り出した一閃は剣を持つ右手を肘から斬り落とし相手の戦意を削ぐ。しかし目の前の異族は左手で腕を拾い傷を気にする様子も無く戦いを続けた。


意思疎通ができない、痛みを感じる事なく戦い続ける姿から異国の異族と判断しトドメを刺し再び一服。

なぜ旅行先に異族が居るのか。なぜ異国にまで異族が居るのか。なぜ旅行に来てまで異族と戦わなければならないのか。


「お家帰りたい」


咥えていた煙草を吐き捨て目線は迫る異族へと向く。




4月9日/キャメロット騎士学術院




ノワールが自身のクラスである『遥か望む剣』へと登校しクラスへと入るとそれまで騒いでいたクラスメイトの声が止み席に着く頃には陰口が聞こえ始めた。


(敵国の傭兵)(裏口入学)(国へ帰れ)


様々な陰口を聞きながら頬杖を付き窓から外の景色を眺めた。この陰口は事実の事。ノワールはつい先日までログレスの敵国であるカレドニアの傭兵団、『不格好なコート』の隊長を務めていた。

ログレス軍との戦闘の際ランスロットと戦いギネヴィアに雇われアーサーの好意によりキャメロット学園に入学し、円卓の騎士の座に着いた。そんな彼を良く思う生徒は居ない。


「うっせーーーなぁ!言いたい陰口があるなら本人に直接言えば良いじゃねぇか!」


そんな陰口はとある生徒の一声で鎮まりクラスは静寂に包まれる。


「ガウェイン、本人に聞こえない様に言うから陰口なんだよ」


声を荒げたのは同クラスの男子生徒。名をガウェイン。若年ながら円卓の騎士十ノ座に座する少年。ガウェインに突っ込みを入れたのはガウェインの幼馴染でありガウェインとGSを果たした少女、ラグネル。


「でもよ、本人に聞こえる様に言ったんなら陰口じゃ無くねぇか?」

「うーん、、じゃあ悪口になるのかな?」

「んなことたー良いんだ!ノワールの悪口を言った奴は誰だ」


ガウェインが叫ぶが名乗り出る者は無くしばらくして一人が手を挙げた。


「俺だ」


手を挙げたのは陰口を言われていたノワール。


「お前かよ!?いや、自分で自分の陰口言ってたら独り言だろ!?」

「ノワールには自虐癖があるのかー」


呑気なラグネルの声の後に扉が開き『遥か望む剣』の担任であるランスロットが姿を見せた。


「これよりホームルームを始める。が、その前に転校生を紹介する。入ってくれ」


ランスロットに言われ姿を見せたのは同じ姿をした少女が二人。騒めくクラス全員の視線を浴びながら二人は教壇の前に立った。


「ティルフィングと双子の妹、グリードだ。姉のティルフィングがノワールとGSを果たしその縁で妹も学園へと入学する事となった。みんな仲良くして欲しい」


「姉のティルフィングです」

「妹のグリードです」

「「よろしくお願いします」」


同じ顔に同じ制服の着こなし。違いを上げるとすればティルフィングは灰色のハイソックスにGSを果たした証である紋章の髪飾り。グリードは紺のハイソックス。頭に黒いリボンを付けおり左手の薬指に指輪が輝く。これが無ければ本人達以外見分ける事はできないだろう。

そして何より二人とも可愛いという事に男子生徒のテンションが上がり女子生徒からは妬む声が聞こえる。


「ノワールは入学して今までで最短でGSを果たした。皆も急げとは言わないが心構えは持って欲しい。これより授業を始める」


ランスロットが黒板の前に立ち授業を始めると歓声は止み授業へと意識を向けてゆく。


実際のところノワールとティルフィングはGSを果たしていないのだがアーサーにより生徒に発破をかける為とノワールの立場を守る為にそういう事になっていた。もちろん二人には事前に連絡は行き届いているのだがノワールには行っておらず困惑を浮かべる。


1日の授業が終わり生徒が帰ろうと準備を行なっていると一人の女子生徒が教壇の前に立ち声を上げた。


「今日の夜はノワールくんとティルフィングさん、グリードさんの歓迎会を兼ねてご飯会しよ」


そう言うのは遥か望む剣、学級委員長兼、生徒会長代理を務めるウレリー。二人のティルフィングには興味があるクラスメイトだがノワールも込みである事に尻込みしウレリーの元に集まったのは本日の主役の3名を除き5人。


「それならノワールの妹さんも呼ぼうよ」


ギネヴィアの提案によりノワールの妹であるディナタンも誘われ学園の食堂へと行き食堂奥にある大テーブルへと集まっていた。


「来てくれたらのは5人か、、じゃあご飯が来るまでに自己紹介ね。私はウレリー。遥か望む剣の学級委員長で生徒会長代理。学園やこの町の事は良く知ってるから分からない事があったら気軽に声かけてね」

「俺はガウェイン。人呼んで太陽のヒーローだ!困った事があんなら俺が助けてやっかんな」

「私はラグネル。手芸サークルの部長だよ♪手芸がしたくなったらいつでも声をかけてね♪」

「私はキャメリアード王国の元王妃ギネヴィア。趣味は宝石と異国のコイン集め」

「わたくしはギネヴィア王妃殿下の侍女、ギネマウアと申します」

「私は兄さんの妹のディナタンです。まだ学園には不慣れですけどよろしくお願いしますね」

「私はティルフィング」

「妹のグリードです」

「ノワール、こないだまでカレドニアの傭兵をしていた」

「まぁそう硬くなるなって。ここにお前たちの過去を気にしてる奴なんていないぞ」

「そうだよノワールくん、ディナタンちゃん。今はまだみんな戸惑ってるけど慣れたら仲良くしてくれるよ」

「・・・どうしてガウェインとラグネルはあの時声を上げてくれたんだ?」


ノワールの問いに二人は顔を見合わ笑った。


「なんでって、そりゃ決まってんだろ」

「敵国の傭兵だったってだけで私達はノワール達に恨みなんてないしさ」


当然のように告げられ二人は心が少し軽くなった気がした。


「Aランチ九人前お待ち!残さず食べるんだぞ」


大きな声と笑顔で料理を運んできたリオネスにより話は中断されテーブルの上へと並べられたランチをいただく事に。


「ここのご飯は凄く美味しいんだよ。いただきまーす」

「ガウェインの妹だっけ?作ってるの」

「ガレスな。おっ手振ってる」

「料理が冷めるまでに食べるんだぞ。出来立てが一番美味しいからな」


リオネスに見守られながらご飯を一口食べると確かに美味しい。みんなの顔を見ても誰もが美味しいと顔を綻ばせ箸を勧めている。そんなみんなを見てリオネスは笑顔を浮かべキッチンへと戻っていった。


「そういえばギネヴィアは異国のコインを集めてどうするんだ?ここでは使えないんだろ?」


ノワールの質問にギネヴィアは待ってましたと言わんばかりにににしっと笑い得意気な顔で鞄からコレクションしているコインを取り出しテーブルの上へ。


「これがローマのコインでこっちがイタリアのコイン。それでこれがグリードから貰ったコイン」


コイン一枚一枚を見せびらかしながら説明をおこなってゆく。


「でもそのコイン、ここじゃ使えないんだろ?ただのゴ…いってぇ!」

「ガウェイン!?それ以上は言っちゃダメだってば!」


ギネヴィアのコレクションに素直な感想を述べた瞬間に隣にいたラグネルに頭を叩かれ悲鳴を上げる。二人の仲良さげな姿にガウェインの失言は無かった事に。


「私がコインを集め出したのはね、パパが良く物語を語ってくれたからなの。『異国のコインは答えました。そういった夢を持てる時点で君は充分にリッチだ』

『君が貧しい気持ちでいるのはそれに気が付かないままだからだ』

「えっと、この続き、、なんだっけお姉ちゃん」

「殿下……ど忘れですか?」

「えっと、ちょっと思い出せないだけ。あれだけ聞かされてたんですもの。……そうね、ど忘れかも」

「殿下。もうお時間です。お部屋に戻りましょう」

「そうだね、、、。みんなまた明日学院でね」


思い詰めるギネヴィアの肩を支えギネマウアと共に食堂から去って行く後ろ姿を見送り目線は再びご飯へと向く。


「ギネヴィアはどうしてしまったのですか?」

「バルバロイに食べられたり取り憑かれてしまうとその人が存在した事も無くなってしまうの。ギネヴィア王妃殿下の故郷キャメリアードは今はバルバロイの巣窟だから、、、」


言葉を探しながら説明を行なってくれたウレリーに聞いた本人であるグリードはお礼を言いマスターの事を思い出していた。顔や身長。趣味、性格は全て思い出しバイブスとの繋がりもありほっと一息。


「楽しい食卓を邪魔して悪いけどもう片付けの時間なんだ。ごめんね」


食堂のコックを務めるガレスに言われご飯会は終わりを迎え解散となった。







4月10日/ランスロットの授業




ノワールが教室へと入ると普段なら騒がしい筈の教室は静かでクラスメイトの人数は数えるほどしかおらず。それを疑問に思いながら先に着くと一人の女の子がノワールの前へと。


「教えてあげる。今日の授業は課外でランスロット卿の実戦訓練だよ。だからみんな教室に居ないんだ」

「なるほど、だからみんな居ないのか。ウレリーはどうしてまだ教室に居るんだ?」

「ノワールくんみたいに何も知らずに教室で待ってる子をちゃんと連れて行くためだよ。ほら」


ウレリーが出入り口を見るとノワールと同じく何も知らずに教室へと入ってきた二人のティルフィングが。

ウレリーに事情を説明され四人で学園が管理している広場へと。


「今回の授業は実戦形式だ。この広場に放たれた魔獣を全て倒せ」


ランスロットが指を指す方には今にも襲い掛かってきそうな有牙獣の姿が。


「バルバロイじゃないのか?」

「人々を襲うのはバルバロイだけでは無いからな。それにこの学園は騎士としての立ち振る舞いも教授している。やれるか」

「もちろんだ」


ギロリとノワールがランスロットを睨むとニヒルに笑われつい声を荒げてしまいそうになったが響く魔獣の声で剣を構え戦闘態勢へ。


キャメロット騎士学術院には五つのクラスがありノワールが所属する『遥か望む剣』は戦闘技術に優れた者が所属するクラス。しかし有牙獣は簡単に勝てる相手では無い。猪の様な外観をしているが猪よりも凶暴性があり発達した牙を持ち生態は完全な肉食。油断すれば命を落としかねない。

広い広場で生徒が訓練を行ってるのをランスロットは片時も目を離さずに監視を行う。しかし目線はノワールを追う。

ランスロットは幼少期を師匠と慕うノワールの父親と過ごしノワール、ディナタンとは幼馴染の関係。訳がありノワール一家とは離れる事となったが兄妹とも呼べる二人の事は片時も忘れずにいた。

敵としての再会となってしまったが今はこうして同じ学園で過ごす事ができる事を顔には出さないがランスロットは喜んでいた。


そんな時一人の生徒の悲鳴が広場に響き目をやると有牙獣の突進を食らい地面に倒れてしまった生徒が。怪我を負い抵抗できなくなった生徒にトドメを刺そうと有牙獣が雄叫びをあげる。


「危ない!」


ランスロットが場にたどり着くよりも早くノワールが生徒の前に立ち有牙獣の前に立ち一撃を食い止めた。


「はやく、、逃げるんだ、!!」


振り返る事も無く力ずくで有牙獣を押し返し迫る獣へと横一閃を繰り出すと悲鳴と共に有牙獣は地に伏した。


「あ、ありがとうノワール、、」

「あぁ、早く武器を取れ。次の敵が来るぞ」


生徒の手を取り立ち上がらせると生徒に指導を行いながら共に有牙獣と戦ってゆく。


この光景を見てランスロットは口元を緩ませた。元々優しい奴だとは思っていたが頼れる奴に成長しているノワールを見て。

続いてランスロットが視線を向けたのは二人のティルフィング。素性は分からないが一目見て強者だと見抜き警戒を怠らず監視をしているのだが尻尾は掴めないまま。

ならば剣技をこの目で見ようとするのだが有牙獣は二人に怯え近づこうとすらしないどころか逃げ出してしまっている。

有牙獣は縄張り意識を持つ魔獣。その習性を利用し実戦訓練を行っているのだが有牙獣は縄張りを捨てるという選択を取った。理解に苦しむ光景を目の当たりにしていると対象の二人に声をかけられ目を向ける。


「有牙獣が逃げてしまい訓練になりません。如何致しましょう」

「…如何様にも」


そうはいっても一人一匹がノルマである訓練で例外が認められる事はなく他のクラスメイトが魔獣を倒し終えた後二人による実戦訓練が行われる事となった。

二人から逃げる有牙獣に興奮剤入りの餌を与えての実戦となる。これにより有牙獣は凶暴性を増し常人には手が付けられなくなったが二人のポテンシャルの高さを見越しての措置だ。


結果はクラスメイト全員が唖然とする事となった。土煙を上げながらティルフィングへと向かう有牙獣の突進を当たる寸前で身を翻し躱し剣を納めると獲物を逃した有牙獣が振り返るのと同時に身は横に裂け崩れ落ちた。


同じく土煙を上げ迫る有牙獣を寸前まで引き付け剣を振るったグリードの横を縦に分かれた有牙獣が走り抜けてゆく。


「「処理、完了」」


有牙獣の硬い骨を両断するには剣の鋭さだけでは無く強靭な筋力も要される。二人の華奢な身体の何処にそれ程の力が秘められているのか。


二人のティルフィングにはマスターはおらず本来のポテンシャルは出せていない。もし二人がマスターと出会い本来のポテンシャルを発揮したら。そう考えると恐怖では無く剣を交えてみたいという考えが脳内にチラつく。


そして二人共一瞬であったが光悦した笑みを浮かべていたが瞬きをした頃には元の表情に戻っていた。


「皆、ご苦労だった。今日の結果を思い返し鍛錬に励め。以上だ」


ランスロットの言葉で授業は終わりを迎えた。


※討伐した有牙獣は学園で美味しく頂きました。




4月11日/ディナタンと非行少女



次の日の放課後にノワールは昨日授業で怪我を負ってしまった生徒のお見舞いへと保健室へと来ていた。ドアを開け保健室に入ると椅子に座る優しそうな先生の出迎えを受ける。


「こんにちわ〜えっと、ディナタンちゃんのお兄さんだよね?」

「はい、ノワールです」

「ディナタンちゃ〜ん。お兄さんが来てくれたわよ〜」


先生がディナタンを呼ぶと部屋の奥にあるカーテンからディナタンが姿を見せ兄に向かい微笑みかけた。


「お疲れ様兄さん。同じクラスの子のお見舞いだよね?」

「あぁ、それとディナタンの様子も見に来た」

「私なら大丈夫だよ。モルガン先生に頼んだらここの手伝いをさせてくれるって言ってくれたし」

「ディナタンちゃんすっごく頼りになるんだよ〜♪先生、マルディサントにも見習ってほしいな〜」


言葉と共に送られた目線の先でカーテンが開きめんどくさそうな表情の少女が頭を掻きながら立ちがった。


「モルガンせんせ、それじゃアタシがいっつもサボってるみたいじゃないっスか」

「あれ〜?じゃあ授業受ける?」

「あっ、いや、ごほごほっ!まだ体調が良くないんで」


わざとらしい咳をするマルディサントにモルガンが微笑みかけた。


「だいたいそこの良い子ちゃんが働きすぎなンだよ。アタシが悪目立ちするじゃねぇか」

「マルディサントがサボり過ぎなだけだよ。私はできる事をしているだーけ」

「はんっ!ブっちまいやがって」

「…図書館俳優」

「それはいうな!」


売り言葉に買い言葉の様な会話を繰り広げる二人だが表情は穏やかでありディナタンの兄であるノワールはそんな二人を微笑ましく見ていた。


「ディナタンも友達ができたんだな」

「友達じゃねぇよ!こいつのせいでアタシがどれほど忙しくなってんだか」

「その心は〜?」

「ちゃんと動かないとワタシの肩身が狭くなる。って何言わせるんスかモルガンせんせ!」

「うふふ〜♪お茶、淹れてあげるからゆっくりしていってね」


慣れた手付きで車椅子を動かし簡易なキッチンへと行くモルガンの後をマルディサントがついて行く。


「そうだ、お見舞いに来たんだよね。兄さんのクラスの人はあそこのベッドだよ」


笑顔のディナタンが指を指すベッドへと行きしばらくの談笑。今日の授業の話だったりクラスで起きた事を話すたわいも無い会話。


「ありがとうノワール。それと今までごめん」


突如送られた謝罪の言葉に困惑を浮かべるのだが続いて聞いた言葉で納得をする。


「敵国の奴だった。という理由で俺はノワールの事を疑って悪口を言ってしまっていたよ。ノワールという人間の事も良く知らないで」

「俺だっていきなり敵だった奴と仲良くする事はできないしそうなるのは仕方のない事だ。だけどそう言ってくれて嬉しいよ」

「あのさ、治ったら戦い方を教えて欲しい。次は俺がノワールを守るよ」

「あぁ、約束だ」


仲直りと友情の握手をし笑顔を向け合う。これからの学園生活が楽しみになった瞬間。挨拶をしてカーテンから出ると妹の刺す様な視線が。


「いいな兄さんは」

「どうしたんだディナタン」

「すぐに誰とでも仲良くできるんだもん。私もみんなに話しかけたりしてるんだけど全然仲良くなれないし」


不安気な顔を背けた妹。ノワールより気配りができ誰にでも優しいディナタンなのだがやはり敵国に居たという事実が人を遠ざけ孤立させてしまうのだろう。ノワールも何かしてやりたいのだがクラスが違うし話に行けば警戒され更に孤立してしまうと思い踏みとどまっていた。できる事はこうして会った時に話をする事。


「ガウェインやラグネルはどうだ?二人なら仲良くしてくれると思うぞ」

「そうだけどクラスが違うし」

「うっ、、そうだな、、」


鋭い返しを受け次の言葉に悩んでいるとお茶がはいったとの助け舟が。二人で保健室にあるテーブルへと。そこには笑顔を浮かべる二人の姿。


「マルディサントもお茶淹れれるんだな」

「あったりまえだ。アタシがどれだけモルガンせんせにお茶の淹れ方教わったと思ってるんだ」

「そんなにモルガン先生とマルディサントは付き合いが長いのですか?」

「マルディサントの事はね、ちっちゃい頃から知ってるの。あの頃のマルディサントは素直で可愛かったな〜」


昔を思い出しながら微笑み笑顔をマルディサントへと向けると顔を真っ赤にした姿が。


「アタシはモルガンせんせに育てられた様なもンなんだよ。妹と二人でさ、モルガンせんせの別荘で」

「マルディサントの妹も学院に居るの?」

「妹は別荘にいるよ。リンゴの木の下でアタシが来るのを待ってんだ」


バルバロイや盗賊がのさばるこの時代では珍しい話ではないのだがいざこういった話を聞いた二人は俯いてしまう。


「さっ、暗い話はここまでにして楽しいお話をしましょ。マルディサントとディナタンちゃんは仲良く慣れそうだよね〜」

「なんでっスかモルガンせんせ!アタシはこんなブッた奴なんかと仲良くできないっスよ!」

「そうかしら?先生、二人が仲良くしてくれたらすっごく嬉しいのにな〜」


のんびりとしたモルガンの言葉を聞きマルディサントが盛大に咳き込んだ。






黒ティルと僕と×アスタータタリクス

 

 

4月18日/最強騎士と強欲

 

 

授業が終わった放課後グリードは一人学園の周りを散歩していた。学園東部にある泉へと足を運び透き通る泉をベンチに座り眺め再び歩みを進めてゆき学園の裏手へと足を進め見つけたのは大きな馬舎。目を向けると一匹の馬と目が合い近寄ってゆく。

 

 

そっと伸ばした手は馬の顎を撫で頭を撫で手が届く首元まで丁寧に撫でてゆく。

 

 

「お邪魔でしたか」

 

 

振り返る事なく告げたグリードの一言に馬がピンッと耳を立て声をかけた主へと視線を送る。その先にはランスロットの姿が。

 

 

「いや、構わない」

 

 

グリードが振り返ると右手に餌の入ったバケツと左手に水の入ったバケツを持つ姿。

 

グリードが見ている前で慣れた手つきで馬の世話をこなし最後にブラッシングを行ってゆく。

 

 

「ランスロットの馬なのですね」

 

「あぁ。馬を愛で心のケアをしろとアーサーがくれたんだ」

 

「こうして動物と触れ合うと癒されますからね。私もブラッシングをしてもよろしいでしょうか」

 

「構わない」

 

 

渡されたブラシを持ち毛並みにブラシを通してゆくと心地良さそうな瞳をグリードへと向けもっと撫でろと顔を押し付ける。

 

 

「学院には慣れたか」

 

「はい、なんとか。久々に大勢の人と過ごすので少し気苦労はしますけど楽しんでいます」

 

「なら良い」

 

 

たわいもない会話。だがお互いがお互いに意識を向け動向を伺い合うピリピリとした空気に耐えきれず馬が悲鳴を上げた。この悲鳴により重い空気が流れ緊張が解けた。

 

 

「私がこの学園に敵対する事はあり得ません。そんな事をすれば私達を学園に招き入れた王の顔に泥を塗る事になります」

 

 

「そちらから手を出されなければ」そう付け加え会話のボールをランスロットへと投げた。

 

 

「我が王への気遣い感謝する。手を出す事は無いと思うが監視はさせてもらおう」

 

「監視の目は常に感じています。優秀なのですね、円卓の騎士は。初めは気が付きませんでしたがようやく監視の主を見つける事ができました」

 

 

グリードの目線の遥先で物影が動いた。その動きはランスロットも捉えておりトリスタンだと認識した。

 

 

「ランスロットも私を疑いますか?」

 

「先程までは疑っていた。だが今は違う」

 

「?」

 

「この馬がグリードに懐いた。動物は邪心ある者には警戒を怠らない」

 

「勿体無いお言葉感謝します。あなたに、そしてこの子に」

 

 

グリードの手が馬の頭を撫でると心地良さそうに目を細めた。

 

 

「ノワールとディナタンとはどの様な関係なのですか?以前二人を気にかけていましたよね」

 

「俺はノワール達の家族と幼少期を過ごした。二人とは幼馴染になる。何故グリードはこの世界へ来た」

 

「私達はラグナ大陸より転送装置を使いキャメリアードに温泉旅行に来たのですが私にもなぜここに転送されたのかは分かりません。ですが一つだけ原因を挙げるとすればノワールがカリバーンを封印から解いた事だと思います」

 

「成る程。封印が解かれた時に生じた力により転移魔法に歪みが生じたという事か」

 

「多分。そしてティルフィングに近い存在である私があの場に呼び出された」

 

「グリードのマスターもこの世界へと来ているのだろうか」

 

「マスターもこの世界へと来ており存在は感じるのですが確かな居場所は分からぬまま」

 

「そうか。では、ティルフィングとグリードの関係性はあるのか、グリードはキル姫と聞いたが」

 

「私にも詳しくは分かりません。ただ、私とティルフィングは似て異なる者。それだけは確かです」

 

「ティルフィングはキル姫ではないという事か」

 

「はい、その証拠としてティルフィングと対峙しても淘汰を行う兆しがありませんから。ですが」

 

「?」

 

「何処か懐かしさを感じます」

 

 

淘汰と懐かしさという言葉に疑問を持ち聞こうとした時ランスロットはグリードの瞳を見た。その一瞬であったが目は血に飢えた肉食獣を思わせる狂気を放ち最強騎士は武者震いを起こす。

 

 

「グリード。俺と剣を交えてはくれないか」

 

「それは構いませんが監視が誤解をしませんか?」

 

 

グリードの言葉にランスロットは遥か先のトリスタンへと合図を送るとハンドサインが見えトリスタンは姿を消した。

 

 

「変わっていますね、あなたも」

 

「異国の騎士の強さが気になるだけだ。いざ尋常に」

 

「勝負」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月21日/ウレリーの願い

 

 

 

 

 

 

授業が終わり誰もが帰り支度を整え始めた時教壇の前に一人の少女が立ち声を上げた。

 

 

「クラスみんなで楽しめる事しよ」

 

 

この言葉に手を止め教壇に居るウレリーへと視線が行き言葉の続きを聞く。

 

 

「せっかく同じクラスになれたんだからみんなで楽しい事したくないかな?」

 

「賛成だけどこれだけの人が楽しめる事って何があるのよ?」

 

 

ギネヴィアが賛成と言うがクラスの人数は20人程。これだけの人数が同時に出来る行事があるのかと疑問が浮かぶ。

 

 

「それならキャンプとかどうだ?みんなでキャンプファイヤー囲んでさ!ぜってー楽しいって」

 

「それはガウェインがキャンプしたいだけでしょ。キャンプじゃなくてみんなで手芸の方が良いって」

 

「それはお前が手芸したいだけだろ」

 

「うーん、、キャンプに手芸か、、ノワールくんは何かある?みんなでできて楽しめる事」

 

「うーん、縄跳びなんてどうだ?運動にもなるしけっこう楽しいぞ」

 

「縄跳び!みんなでやるなら大縄跳びだね。じゃあ早速練習しよ」

 

 

ウレリーの提案によりクラス全員で大縄跳びを行う事となり学院前庭に『遥か望む剣』のクラスメイトが集まり人集りを作る。しばらくするとウレリーが縄跳びを持ち笑顔で歩んできた。

 

 

「うんうん、全員居るね♪えっと、縄は誰に回してもらおうかな」

 

「その前に目標の回数とかあんのか?やるんなら目標欲しいだろ」

 

「そうだね、、じゃあみんなで100回飛ぶなんてどう?」

 

 

笑顔で出されたお題にほとんどのクラスメイトが苦い顔を浮かべる中ガウェインとラグネルだけは声高に賛成と叫ぶ。もちろんギネヴィアの冷ややかなツッコミをもらうのだが。

 

 

「100回ってそう簡単に飛べるもんじゃないと思うよ、もう少し減らさない?」

 

「目標は高くだよ。それにみんなで困難に立ち向かうって素敵じゃないかな。それとももしかしてギネヴィア王妃殿下ともあろうお方が縄跳び100回にビビったり、なんて事はないですよね?」

 

「なっ、、そんな事あるわけないじゃない!縄跳びだろうとけん玉だろうとドンっとこいよ!」

 

(扱いに慣れている、、、)

 

 

ウレリーの挑発に華麗に乗ったギネヴィアが高らかに笑うとウレリーは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

 

「話は聞かせてもらったぞ。よし!俺達が縄を回してやろう」

 

「あっアーサー様」

 

 

そんな時笑顔のアーサーと膨れっ面のマーリンが。ウレリーから縄を受け取ると持ち手をマーリンへと渡そうとするのだけど。

 

 

「主様!また公務をサボるつもりなのですか?さっきケイ卿に怒られたばかりではないですか!」

 

「なーにちょっとした息抜きだ。ほらマーリン」

 

「もおぉ、、少しだけですからね」

 

 

渋々といった様子で持ち手を受け取ると練習と称し二人で縄を回す。その様子は仲の良い兄弟の様。

 

 

「俺がアーサー様の事好きなのはこうやってみんなと同じ立ち立場で接してくれるからなんだよな」

 

「王様としてこの姿はどうかと思うけど私もだよ♪」

 

 

二人が見ているうちに縄を回す練習は終わりアーサーから声が飛ぶ。

 

 

「よし。行くぞお前達!しっかり飛ぶんだぞ!」

 

 

しばらくして長縄の上にクラス全員が立ち合図と共に大縄跳びが開始された。しかしいきなり上手く飛べるはずもなく3回程飛んだ時誰かが足を引っ掛け縄跳びは中断してしまう。それでも怒る人はおらず励まし合い縄跳びを再開する。

 

 

「アーサー!それにマーリンまで!!」

 

「申し訳ありませんケイ卿…」

 

「まぁまぁ義兄さん。生徒達の遊びに力を貸すのも公務の一環だとは思わないか?」

 

「あぁ、それは私もそうは思う。だがあの山積みとなった書類の山を片付けてからだ!」

 

 

それからも練習を続け跳べる回数が増えてきたところでアーサーがケイ卿に見つかり王室へと連行され縄跳びは終了となった。

 

 

 

「ありがとうね♪後片付けは私がしておくからみんなは先に帰っててね」

 

 

国民想いが過ぎる国王の連行を見て固まってしまったクラスメイトに挨拶をすると長縄を丁寧にたたみウレリーは何処かへと。

 

 

「ふふ、変わった王様ですね」

 

 

ティルフィングの笑い声が春風に舞い流れてゆく。

 

 

 

しばらくしてノワールは今夜の晩御飯を食べるために城下町にある酒場を訪れていた。

 

時刻は夕刻を迎えようとしており仕事終わりの民で賑わう店内へと入ると多々あるテーブルの中でも一目に付きずらい席で一人夕食を食べるウレリーを見つけ声をかけた。

 

 

「やぁウレリー」

 

「ノワールくん!?私を見て一人酒場に入り浸る寂しい女って思ったよね!?思ったよね!?」

 

「いや、そんな事はないけど、、」

 

「教えてあげる!ここの焼き鳥はタレがたっぷり付いててとっても美味しいんだ!」

 

「なるほど。それなら私達もご一緒させてもらってもよろしいですか?」

 

「マスター焼き鳥を四人前、それと赤のワインを一本お願いします」

 

 

一人酒場姿を見られ慌てるウレリーと宥めるノワールに声をかけたのは二人のティルフィング。グリードに至ってはメニューを注文し席へと付いた。

 

 

 

「学生だよ私達!?」

 

「確かに学生ではありますが年齢は満たしていますので。飲みますか?」

 

「ちょっとだけ揺れたけどやめておくね」

 

「そうですか。ノワールはどうします?」

 

「俺も遠慮しておくよ」

 

「私もやめておきます」

 

 

三人に断られグリードは一人ワインをグラスへと注ぎゆっくりと口に含み満足そうな表情を浮かべた。

 

 

「ウレリー様はどうしてみんなで縄跳びをしようと思ったのですか?」

 

「それはね…」

 

 

ティルフィングの問いかけに少し言葉を詰まらせたが少ししてから訳を話し始めた。

 

 

「私の両親はバルバロイに殺されちゃったんだ。だから私は両親の写真を見ても思い出話を聞いてもぜんぜん思い出せなくて赤の他人って思っちゃうの。私もクラスのみんなもバルバロイと戦う身、だからみんなで居る今を大切にしたくて。いきなり変な事言い出して変なやつみたいだよね、、」

 

 

テーブルの上で汗をかくコップを手に取ると乾いた口へと運んだ。

 

 

「絶対みんなで成功させよう。縄跳び100回飛ぶの」

 

「皆で一致団結し目標を達成できればそれは確かな思い出になります。ウレリー様の言う事はとても良い事ですよ」

 

「それに皆で行動を共にすればきっと戦闘でも役に立つはずです。強く結ばれた絆ほど強い武器はありませんからね」

 

「みんな、、、ありがとう、、」

 

 

三人の優しい言葉に思わず掛けていたメガネを外し目頭を擦り満開の笑顔を浮かべた。

 

 

「心が満たされたところで至高の一杯、どうですか?」

 

「今はやめておくねグリードさん」

 

 

ワインが注がれたグラスを差し出すもそのままの笑顔で断られそのまま口へと運んだ。

 

 

「でも学院を卒業したら、その時は頂くね」

 

 

ウレリーがそう言い終わると同時に店外から悲鳴が聞こえそれぞれが同時に窓を向き続いて聞こえた『敵襲ーーー!!!』との叫びに店の外へと飛び出してゆく。

 

 

四人が見た光景は城下町を闊歩するバルバロイの群れ。そして戦闘を行う兵士、逃げ惑う群衆。平和であった光景は瞬く間に地獄絵図へと変わり果てた。

 

 

 

「みんなっ!!!こっちだよ!!!!!」

 

 

逃げ惑う群衆へと向かい大声で叫び酒場へと誘導しようとするのだがパニックに陥った民に声は届かず一人、また一人とバルバロイの攻撃を受け血に沈む。

 

 

「俺が行く!みんなは避難を呼びかけてくれ!」

 

 

言葉を残しノワールが戦場を走るとノワールが背に羽織る金コートの輝きに意識を惹かれバルバロイはノワールへと狙いを変え迫る。

 

 

「ウレリーは避難を呼びかけ続けて下さい!」

 

 

ノワールに続きグリードが、ティルフィングが剣を握り戦場を駆けてゆきウレリーは町人達を逃すために声を張り上げながら走る。

 

 

「ひっ………」

 

 

避難を呼びかけ大声を出し続けたウレリーの元へ一つの魔法陣が浮かび上がり一匹のバルバロイが姿を表した。

 

 

『ーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 

ウレリーの元へと現れたバルバロイはバルバロイの中でも屈指の力を持つバルバロイ・コロッサス。その体格は見上げる程であり手には人の大きさを優に超える戦斧が握られ咆哮を一つ上げるとウレリーに向かい戦斧を振り上げた。

 

突如目の前に現れた捕食者にウレリーは足がすくみただ振り下ろされる斧の行方から目を伏せる事しかできず、やがて鈍い音がした。

 

 

 

「中々の一撃ですね」

 

 

声が聞こえ恐る恐る見上げた光景は戦斧を真っ向から剣で受け止めているグリードの姿。長い桃長髪は衝撃になびき真紅に輝く瞳は一層濃く輝き狂気を醸し出す。

 

 

「遊んであげますよ」

 

 

楽しそうに告げられた言葉に寒気がした。

 

 

 

バルバロイ・コロッサス。それは素質を持つ者がバルバロイになった姿だと言われている。その為コロッサスは知恵を使い聡明に立ち回り戦闘を優位に進める事ができる。しかしコロッサスは戦斧を受け止める少女を力尽くで押し潰そうと全体重を斧へとかける。

 

 

「!!!」

 

 

グリードの何倍もの体格を誇るコロッサスが全体重と全力を込めているにも関わらずグリードは涼しい顔で剣を払い上げた。

 

 

斧を跳ね上げられた勢いでコロッサスは後ろへと倒れ尻餅を付き踠きながら体勢を戻しグリードへ襲い掛かろうとした。

 

 

「・・・・・」

 

 

その時にはすでにグリードの構える剣、黒奏剣骸斬の切先がコロッサスの首元へと向かう寸前。

 

 

「さようなら」

 

 

声と共に突き出された切先は皮膚を裂き肉を斬り骨を断ち胴体と切り離す。コロッサスが最後に見た景色は不敵に笑むグリードと崩れ落ちてゆく自身の身体。

 

 

「ウレリーも早く避難を。バルバロイは私達に任せて下さい」

 

「う、うん、、、」

 

 

声の主はウレリーが避難をするのを見届けると狂気を隠す事なく戦場へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

4月22日/迫り来る異変

 

 

 

次の日、キャメロット学院は昨日のバルバロイ襲撃を受け休校となり学院内に居る円卓の騎士が円卓の間へと集められ会議が行われていた。しかし先日のバルバロイ襲撃の後処理を行うガウェイン、ランスロットは不在であるのだが。

 

会議の内容はバルバロイ襲撃よる被害の報告と何故バルバロイが安全地帯である学院へと攻め入る事ができたのかだ。

 

 

「報告によるとバルバロイ襲撃による被害者は怪我人が15名、死者は5名だ。くそ!ライエンスめ!」

 

 

報告書を震える手で握り読み上げたケイが怒りを露わにする。それを宥める者は居らず重々しい空気が円卓の間に流れてゆく。

 

 

「こうも簡単に学院に侵入されるって事はここに内通者が居るって事じゃないの」

 

 

ノワールへと横目を向けながら話すのは円卓の騎士、五ノ座に座す少年、トリスタン。その言葉を聞きノワールは席を立ち声を荒げ反論を返す。

 

 

「確かに疑われても仕方の無い過去はあるが今は違う!」

 

「どうだか。言っておくけどこの学院に君の事を信用している人は誰一人として居ないよ。それとグリードの事もね」

 

 

どこか薄ら笑いを浮かべながら言われグリードは声の主へと視線を向け卓に書かれた名を頭に刻んだ。

 

 

「構いませんよ。好きな様に言って下さい。ただ、ノワールと私を貶める発言は王の顔に泥を塗る事になる事を覚えていて下さい」

 

「うんうん、このままでは俺の顔は泥パックでツルツルになってしまうな」

 

 

笑顔のアーサーにより重苦しい空気が流れ入れ替わった。

 

 

「おほん、今は身内で言い合いをしている場合では無い。一刻も早くカドレニアに奪われた領地を取り戻さねばまたきゃつらの侵入を許してしまう事となる」

 

「奪われた領地とは」

 

「カレドニアはログレスの東にある大国よ。それがバルバロイを操ってブリテン島全土を領地にしようって攻めてきてるってわけ。私の祖国もあいつらの手中なの」

 

「義兄さん」

 

「あぁ、図を持ち説明を行おう」

 

 

ケイが壁一角に設けられた黒板に地図を書き記し状況を説明してゆく。

 

 

「ここがカレドニア国だがきゃつらは学院の隣国であるキャメリアードまで陣地を広げている。敵と我が国は目と鼻の先だ」

 

「成る程。なら、奪われたのなら奪い返すのみですね」

 

「きゃつらは他国を征圧し傭兵団を築いているばかりか多くのバルバロイを持つ。そう簡単には行くまい」

 

「残念だが兵力の差は歴然だ。それに探し物をしている円卓の騎士は未だ帰らない。こちらが攻め入るとすればこの卓が埋まってからだ」

 

 

アーサーが視線を向ける円卓には誰も座っていない座が10ある。しかしアーサーは笑顔を浮かべたまま。

 

 

「それにもうすぐ五月祭りでね。そちらの準備もせねばならんのだ」

 

「アーサー!こんな時に祭りなどしている場合では無い!」

 

「いや、こんな時だからこそだよ義兄さん。国民の士気を上げるためには楽しみがなければな。それに次の手は考えてある」

 

「スタンド・バイ・ユアラウンド!」

 

「アーサー!!!!」

 

「フォー・ラウンド」

 

 

アーサーの一言により円卓会議は終幕を迎えその場には頭を抱え込むケイが残された。

 

円卓の間から出て直ぐにグリードは前を歩くトリスタンの背に向かい声をかけた。

 

 

「トリスタンと言うのですね。しばらくの間よろしくお願いします」

 

「僕は良いよ、君と関わる気は無いから。挨拶をするのなら他の人にしなよ」

 

「いえ、あなただからこそです。戦場で間違って私に斬られない様にお気を付けてください」

 

「ご忠告どうもありがとう。君こそ僕に射られない様にせいぜい気をつけるんだね」

 

 

嫌味を聞いた背から振り返る事なく嫌味が返されグリードが笑った。

 

 

「円卓の騎士というのは面白いですね」

 

 

笑顔で言うのだが声は全く笑っておらず周りの人は乾いた笑い声を漏らす。それから五人は学生寮一階にある講談室へと集まり意見を交わし合う事に。

 

 

「その前にノワールは何故あれ程に目の敵にされているのですか?」

 

「俺がカレドニアの傭兵をしていたからだ。簡単に信用されるものでは無いとは思っていたけど、、」

 

「ランスロットがノワールを薦める事を言えば良いのに。そうすれば学園のみんなの意見が変わるわ」

 

「いや、ランスロットの力は借りたく無い。俺自身の力で信用を得てみせるよ」

 

「ノワール卿とランスロット様は幼馴染でしたよね?仲は良くないのですか?」

 

「そうだけど俺は、ランスロットを殺そうとした」

 

 

一呼吸置いて呟いた言葉にグリード以外は目を伏せた。

 

 

「それは何故」

 

「ランスロットが俺の父さんを殺したんだ。だから俺は敵討ちがしたい」

 

「その言葉は本心でしょうか?」

 

「あぁ」

 

「なら何故ノワールはランスロットを討たないのですか?隙はいくらでもありました」

 

「それは、、」

 

 

言葉を詰まらせたノワールの顔をグリードは覗き込み瞳を見つめ語りかける。

 

 

「心のどこかでランスロットが殺していないと信じている。違いますか?明確な殺意はどれほどに平然を装おうと必ず鱗片を表します。今までのノワールから殺意は感じられませんでした。ここには私達しか居ませんよ」

 

 

講談室を見渡しノワールへと視線を戻すとグリードと目が合いやがて視線を床に落としポツリと話し始めた。

 

 

「俺の父さんは円卓の騎士の一人だった。俺達はそんな父さんに憧れて共に父さんに剣を教えてもらい円卓の騎士を夢見たんだ。一緒に過ごしたのはずっと昔の事だけど俺はランスロットが父さんを殺す様な奴じゃないと思っている。だから俺は本当が知りたいんだ」

 

「じゃあノワールはもしランスロットがお父さんを殺したと言う本当に辿り着いたらどうするのよ」

 

「分からない、、。俺は、、」

 

「ノワール様。あまり深く考えるのはよろしくありません。いつか、本当が語られる日が来るのを待ちましょう」

 

「私にはランスロットがノワールのお父さんを殺したとは思えません」

 

「それはどうしてなんだ」

 

「馬が懐いているからです」

 

「馬?」

 

 

一同が疑問を浮かべる中グリードは馬舎の方を向き笑顔を浮かべた。

 

 

「ノワールのお父さんは円卓の騎士だったのよね?でも私はそれを聞いた事ないわよ」

 

「父さんが円卓の騎士だったのは八年前だったからギネヴィアが学院に来る前だったんじゃないか?確か妖精を護る任務に就いていたはずだったけど」

 

「妖精!?」

 

「そうだけど何をそんなに驚いているんだ?」

 

「妖精の守護を任された円卓の騎士の存在は極秘の扱いを受けていたわ。だから私も知らなかったのね」

 

「そんな凄い任務を父さんは受けていたのか、、」

 

 

妖精について何か知ってそうなギネヴィアに一同の視線が集まり待望の視線を受けギネヴィアはにししっと笑い自身が知っている知識を話し始めた。

 

 

「本来妖精はブリテン島北部にあるコルベニック城に居るのだけど妖精の管理は円卓の騎士に委託されていたの。でも妖精が円卓の騎士に殺されコルベニックとの関係は破壌。それからえっと、、」

 

「それから?」

 

「忘れちゃった。私もアーサーとケイが話してたのを聞いただけだから」

 

「あぁ、なんとおいたわしい、、又聞きで聞いた話を自らの知識の様に語るなんて、、」

 

「私だって聞いただけなのよ」

 

「なら父さんは妖精を殺さなければならない理由があったのか」

 

「理由はどうであれ妖精殺しをしたノワールのお父さんを円卓の騎士が生かしておく理由はないわね」

 

「理由は分かりましたがこの話だけでは情報が少なすぎますね」

 

「お父さんが何故妖精を殺したのか。それが分かれば良いんだけど」

 

「話は変わりますけどティルフィング、何故あなたはカリバーンに封印されていたのですか?」

 

「あっ、それ私も気になるかも」

 

 

グリードとギネヴィアの視線を受けティルフィングは口を紡ぎ床へと視線を落とした。

 

 

「今は真実をお伝えする事はできません。時期がくればその時に」

 

 

淡々と告げる言葉に納得ができるはずもなく問い詰めるグリード。それでものらりくらりと質問をかわしてゆくが。

 

 

「ティルフィング、私達は共に戦う仲間ですよね?それには信用関係は必要不可欠かと」

 

「それは重々承知しています。しかしまだこの話をする訳にはいかないのです」

 

「それならグリード様の素性からお話すべきではありませんか?私達にとってお二人の素性は謎に包まれていますので」

 

 

和かな笑顔のギネマウアに言われ少し考えた後グリードは自身の事を話してゆく。

 

 

グリードの過去。『対キル姫特殊制圧部隊(ブラックキラーズ)』であった事、今のマスターとの関係を話し終え顔を上げるとキラキラとした眼差しに気が付いた。

 

 

「私もそんな王子様みたいな男性に出会いたいわ」

 

「そうでしょうか?」

 

「私そんな事されたら一生その人の事を好きでいられる自信があるわ。いいなーグリード」

 

 

視線を送るギネヴィアへと笑顔を向けた後ティルフィングへと視線を向けると諦めた顔で「僅かなら」と前置きを入れ話を始めた。

 

 

「私がカリバーンに封されていた理由はバルバロイを封印する為です」

 

「ならティルフィングはずっとこの世界を守っててくれたんだ」

 

「そう、なりますね。しかしバルバロイの力が封印を上回り世界に溢れてしまった」

 

「一体ティルフィングはいつから剣の祭壇に封印されていたんだ?」

 

「正確な時間は分かりませんが一千年ほどの時間は経っていると思います」

 

「そんなに長い時間を、、、まさか一人で・・・?」

 

「はい」

 

 

あまりの事実に顔を顰めたノワールがティルフィングを見ると凛々しくも美しくティルフィングが笑う。

 

 

「ティルフィング、、今までごめん!私ずっとカリバーンがキャメリアードの土地から力を吸い取ってるって、だからキャメリアードは貧乏になっちゃったって思ってた」

 

「いえ、ですがキャメリアードの大地から力をもらっていたかもしれません」

 

 

「それでもありがと」そう言ってギネヴィアはティルフィングの手を取り握りしめた。

 

 

「殿下、そろそろお時間です」

 

「あっ、ほんとだ。ごめんね、部屋に戻るわ。また明日ね」

 

 

優雅に頭を下げるギネマウアと笑顔を浮かべながら手を振るギネヴィアを見送り講談室には三人が残る。

 

 

「ティルフィング。あなたの話を聞いて一つ気付いた事があります」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「あなたが言う継承者とはバルバロイの封となる人の事ではないでしょうか?継承者であるノワールか、ノワールとGSを果たした人がティルフィングに変わり封となる」

 

「・・・」

 

「ティルフィング、それは本当なのか」

 

 

二人の視線と疑問を受けティルフィングは苦虫を噛み潰したような顔を見せる。しかししばらくの沈黙の後、ポツポツと話を始めた。

 

 

「グリードが仰る事は事実です。バルバロイの根絶は不可能であり唯一の手段が自らを剣と変え封となる事」

 

「なら俺とGSをした相手は・・・」

 

「はい、一千年の封となります。その犠牲が無ければ世界はバルバロイの被害を受け続ける事でしょう」

 

「一人の命を犠牲にしたとしてもたった一千年しか世界に安寧をもたらす事しかできないのですね」

 

「しかしバルバロイを封印しなければ何人もの人々が被害に遭うか分かりません。私は過去に『継承者』と共にこの道を選びました。無理を強いる事はありませんが継承者とはこの運命から逃れられない運命。いずれ決断の刻が来る事でしょう」

 

 

切なく優しい眼差しは困惑するノワールへと向けられる。その視線に気が付かない程にノワールは顔をしかめ何処かへと視線を向け続ける。

 

 

「ですがもしかしたらこの時代ではそれをしなくても済むかも知れません」

 

 

ティルフィングの声に焦点の合わない目線が向けられた。

 

 

「この時代には聖杯が存在します。学院が探している物はこの聖杯の事でしょう。聖杯は手にした者の願いを叶える力を持ちます」

 

「なるほど、聖杯にバルバロイを消せと願えばその願いが叶うという事か」

 

「はい、しかし私にも聖杯がある場所は分からず。もしこれが学院より先にカレドニアが手にしたら」

 

「私たちに勝ち目はない。そう言うのですね」

 

「この事をアーサー達に報告しよう。俺たちだけに留めておく話じゃない」

 

「その心配はありません。この事を知っているので学院も聖杯探しに奮励しているのです。今は指示を待ちましょう。スタンド・バイ・ユアラウンド」

 

 

ティルフィングの掛け声に二人は意表をつかれた。

 

 

「「フォー・ラウンド」」

 

 

それでも拳を掲げ声を上げるとティルフィングは穏やかな笑顔を見せた。

 

 

「ふふっ、一度やってみたかったのですよね♪」

 

 

 

 

 

 

4月25日/その頃

 

 

 

彼は一人バルバロイと戦いを続けていた。この地に転送されてからもう何日も過ぎ何百ものバルバロイを切り伏せてきたにも関わらずバルバロイの行進は止まらず彼に襲いかかる。

 

 

「せいっ!」

 

 

振り抜かれた一閃はバルバロイの首を斬るのだが戦い続け鈍った一閃では切断する事ができず頸椎が剥き出しとなった喉から血を吐き上げながらバルバロイが迫る。

 

 

「もう勘弁してよ、、」

 

 

バルバロイを蹴飛ばし後続のバルバロイへとぶつけると走り出し森の中へと逃げ込み大木に登り身を潜めた。その真下を追いかけて来たバルバロイが闊歩し辺りを探し回った後何処かへと姿を消した。

 

それを見届けて上着から煙草を取り出すと一本咥え火を付けた。

 

 

彼が何故これまでに戦いを続ける事ができたのか。それはラグナロクから貰った零奏剣・神閃・七元の加護とリル=ティルフィングからその身に宿されたキラーズを秘めているから。それでも本人に疲労は募り逃げ込んだ枝の上でうとうととし始める。

 

そんな時翼がはためく音が聞こえ目を開けると橙黄色をした鳥人が槍を振りかぶる姿が見え慌てて枝から飛び降りた。

 

 

「この人参異族っーーー!」

 

 

大声で愚痴を叫びながら慣れない山道を直走り逃げてゆくと地面から顔を出した木の根に足を取られその場へと倒れ込んだ。

 

 

「ちっ!」

 

 

舌打ちをし振り返るとそこには槍を振りかぶるバルバロイの姿が。もう身を捩るにも剣を抜く暇すら無く思わず目を硬く閉じた。

 

 

「あれ、、、?」

 

 

その瞬間に鋭い音が響きバルバロイの悲鳴が一つ聞こえ目を開けるとそこには鎧を着込む男の姿があった。

 

 

「怪我は無いか青年」

 

「…助けてくれてありがとう」

 

 

その男はバルバロイの絶命を見届けると剣を納め彼の方を向いた。目を覆う仮面が付けられており素顔は見えないが顎に伸びる無精髭を見る限り初老の男性。

 

 

「こんなバルバロイが闊歩する地に何用だ」

 

「ここに旅行に来たんだけど変な所に転送されちゃってさ。おじさんの名前は?」

 

「俺か、俺の事は咎人とでも呼んでくれ。お前の名は」

 

「僕の名前はユウ。とにかく助かったよ」

 

 

助けてもらった事には代わりないのだが突如現れた男に警戒を解く事なく接すると男はどっかりとその場に座り込んだ。

 

 

「俺にはお前と敵対する理由は無い。よし、これでどうだ」

 

 

両手を膝の上に置きニヤリと笑う口元を見て彼もその場に座り煙草を一本咥えると火を付け煙を吐き出した。

 

 

「僕もだよ。それよりあの人参異族は一体なんなの?」

 

「人参異族?あれはバルバロイだ。突如この世界に現れた人の記憶を食らう化け物だよ」

 

「なるほど?」

 

「ここから少し行った先にあるカレドニア城にバルバロイを操る大元がある。俺は城主、ライエンスと戦う為にここに来たんだ」

 

「カレドニア?僕はキャメリアードに行く予定だったのに、、」

 

「キャメリアードはここから西南に進んだ先にあるが。お前はログレスの民では無いのか」

 

「うん、僕はラグナ大陸から転送装置でキャメリアードに旅行に来たんだけどずっとそのバルバロイってやつと戦ってだんだよ」

 

「ほぉ。お前がバルバロイと戦えるという事はキラーズかバイブスを持っているんだな。お前の番は何処に居る」

 

「一応だけど両方持ってるよ。それと僕のパートナーもここには来ては居るんだけど何処に居るのかは分からないんだ」

 

「迷子ってやつか。しかしバルバロイと戦えるのなら都合が良い。俺に雇われてはくれないか」

 

「…………」

 

 

咎人の言葉に警戒を抱くのだがここが異国の地でありやっと会えたまともな人に警戒を解き素直に頷いた。

 

 

「だけどちょっと休ませてよ。流石に疲れた」

 

 

疲労困憊な彼を見て咎人は笑うと立ち上がり隠れ家へと彼を連れて帰った。

 

 

「まぁ何もない家だが楽にしていてくれ」

 

「ありがとね」

 

 

案内された隠れ家は木々の間に姿を隠すように建てられており生活に必要な物が取り揃えられていた。

 

さらに目を向け部屋の中を見渡すと多くの剣が飾られているのを見つけた。

 

 

「へぇ、これ全部咎人の?」

 

「あぁ、俺が使い古した歴代の剣達だ」

 

「ちょっと見せてもらって良い?」

 

「構わん。飯ができるまでゆっくり見ていろ」

 

 

返事を貰い一つ一つの剣を手に取り眺めてゆく。柄は手垢にまみれ刀身はおびただしい程の傷を付けた剣達。きっとどの剣にも物語があるのだろう。

 

 

「そうだ、ブラシ持ってないかな?僕の剣が汚れちゃってさ」

 

「そこの引き出しの中だ」

 

 

言われた引き出しを開けると程よい毛並みのブラシを見つけ早速手入れに取り掛かる事に。剣に付着した汚れを水に付けふやかしブラシで擦り落としてゆき最後に油を塗ると元の白銀に輝く姿を取り戻す事ができた。

 

 

お礼を言い再び剣を眺めてゆくと部屋の片隅に2枚の写真を見つけ手で積もってしまっている埃を落とし写真を眺めた。

 

 

一枚は咎人と体格の良い男とのツーショット写真。もう一枚は咎人とその横にいる人は奥さんなのだろうか、写真に写る二人の手前には子供達が三人写りどの写真も笑顔を写す。

 

 

「昔の写真さ」

 

「勝手に見てごめんね」

 

「構わんさ」

 

 

咎人に声をかけられ振り返ると目線の奥には湯気を立てる料理が並べられていた。そっと写真を元あった場所に戻しテーブルへと着く。

 

 

「「いただきます」」

 

 

挨拶をしてから料理へと手を伸ばし一口食べてその手を止めた。

 

 

「どうした」

 

「明日から僕が料理を作るよ」

 

「家事は苦手なものでね。ずっと妻に任せっきりだった」

 

「咎人の奥さんはどこに居るの?」

 

「そうだな。眠りながら俺が来るのを待っているよ」

 

 

この言葉に食卓から言葉は消え重たい空気がのしかかる。

 

 

「この時代ではよくある事だ。気に病むな」

 

「うん、、ご馳走様でした」

 

 

食べ終えた食器を流しへと運んでゆくとすでに流し場はたくさんの食器で溢れていた。

 

 

「戦う前にこの家をどうにかしないとね」

 

 

ため息と共に聞こえた言葉を聞き咎人は笑った。

 

 

 

 

5月4日/五月祭

 

 

 

学生寮で眠りに着いていたノワールだが外から聞こえる声で目を覚まし窓から外の様子を眺め昨日と変わった街の様子を見て困惑を浮かべていた。

 

街はいつの間にか飾り付けられており楽しそうに歩み話す人々。それを見て敵襲ではないと安堵し再び眠りにつこうとする。

 

しかしベッドに潜り込んだ矢先にドアがノックされ渋々ドアの元へ。

 

 

「おはよノワールくん」

 

「おはよウレリー。なんだか今日は楽しそうだな」

 

「教えてあげる。今日キャメロットの街は五月祭なんだ」

 

「そういえばアーサーがそんな事を言っていた様な気もするな」

 

 

来客はウレリーだった。それに気になっていた事も聞けて満足したノワールは再びベッドへと。

 

 

「だからみんなで五月祭を楽しまなきゃね♪みんなを起こしてくるからノワールくんは講談室で待っててね」

 

 

「分かったよ」

 

 

渋々と言った様子でパジャマから制服へと着替え一階へと降りてゆく。しばらくして講談室には『遥か望む剣』のクラスメイトが揃う。

 

 

「それで五月祭はどんなお祭りなんだ?」

 

「春の訪れと作物の豊潤を願うお祭りだよ。それとね」

 

「五月祭といえばもちろん五月女王よね♪ノワール?あんたは私の事しっかりと守るのよ」

 

「守るって一体何から守れば良いんだ?」

 

 

困り顔のノワールを差し置きギネヴィアはにししっと高らかに笑い説明をしてゆく。

 

 

「良い?五月祭は豊潤やら春の訪れを祝うお祭りだけど五月女王を選ぶ祭りでもあるのよ。そして五月女王に選ばれた女性は群衆に群がられ誘拐されてしまうの」

 

「それでどういう事なんだ?」

 

「鈍いわね、この私、ギネヴィアが五月女王に選ばれるからノワールはみんなから私を守るのよ。分かった?」

 

 

ドヤ顔で話すギネヴィアが他所を向いた時ノワールは肩をすくめた。

 

 

「それでその五月女王はどの様に決められるのですか?」

 

「教えてあげる。街の商店街でお買い物をすると投票券が貰えるんだ。それに選ぶ人の名前を書いて投票するって事」

 

「なるほど。推しを推すにはお金がかかるのですね」

 

「あぁもう、私に群がる男達を思うとゾクゾクしちゃう♪五月女王の名誉を持ってキャメリアードに凱旋ね♪」

 

「そんな事より早く外に行こうぜ。俺行きたい出店があるんだよ」

 

 

ガウェインが講談室から出てゆく姿を見て皆も後に続く。

 

そしてドアを開けた先は普段とは違い飾り付けが施された街。街人は祭りに浮かれ楽しげに道を歩み奥に見えるマーケット街は人で溢れかえる。

 

 

「なるほど、異国の祭りも良いものですね」

 

 

楽しそうな街人を見ながらグリードは出店へと歩み一本のエールを購入すると笑顔で振り返った。

 

 

「それで五月女王はいつ発表されるんだ?」

 

「教えてあげる。投票は今日の午前中までだから午後からじゃないかな?」

 

「ウレリーの説明にしては曖昧だな」

 

「毎年変わるから私も把握できないんだ。去年はお昼前だったし」

 

「とにかく今は自由時間にするとして五月女王の発表時間になったらノワールは私の警備に徹する事。分かった?」

 

「分かったよギネヴィア」

 

「広場の噴水に集合ね」

 

 

「昼には戻ってくる」と告げてノワールも祭り会場となった街を歩く事に。多くの人で混み合う道を人を避けながら歩んでゆくと見慣れたリボンを見つけその元へ。

 

 

「ディナタンも祭りを見に来ていたんだな」

 

「あっ兄さん。一人?」

 

「見ての通り一人だよ」

 

「良かったら一緒に居てくれないかな、、?一人だと迷子になっちゃいそうで、、」

 

 

妹の頼みを断る理由もなくノワールはディナタンと共に歩み出した。

 

 

「いつもより賑やかで楽しいね。兄さんは見たい屋台とかある?」

 

「特には、ディナタンはどうだ?」

 

「私はラグネルさんが出してるお店に行ってみたいな」

 

「じゃあそこに行くか」

 

 

たわいもない事を話しながら二人はラグネルの出す店を探し人混みを歩みしばらく歩き商店街の方へと。

 

 

「すごい人だね」

 

 

ディナタンの言う通り普段から人が多い商店街だが五月祭という事もあって多くの人で賑わいをみせる。それでも背の高い出店に掲げられた看板を見つけようやく店に辿り着いた。

 

 

「こんにちわラグネルさん」

 

「あーディナタンちゃんそれにノワールも。私の店に来たって事は直して欲しい服があるって事だね」

 

「そうなんです。制服の裾がちょっと破れちゃって、、」

 

「私に任せなさい♪ちょっと貸してね」

 

「…ほら」

 

「ありがとね兄さん」

 

 

制服を脱ぎシャツ姿となったディナタンにノワールが羽織る金コートを渡すと笑顔で羽織ってゆく。

 

 

「ノワールのそのコートオーバーサイズでしょ。ノワールに合うようにやったげよっか?」

 

「不恰好だろ?俺の父さんが着てたサイズと同じだからさ」

 

「なるほどね、憧れの大きさってやつか。はいディナタンちゃん」

 

「えっいつのまに!?」

 

「すごいでしょ?これぐらいならあっという間だよ♪」

 

 

得意げな顔のラグネルから制服を受け取り着替えてゆく。

 

 

「次のお客様は誰かなー?」

 

 

ラグネルが向けた視線の先には手に布生地を持つ青年の姿が。

 

 

「…ランスロット」

 

「ランス兄ちゃん…」

 

 

驚いた顔をする二人を目線に置きラグネルへと注文を頼む。

 

 

「マントを引っ掛けてしまい、直せるか」

 

「もちろんだよ。ちょっと待っててね」

 

 

ホッと息を吐くと二人へと顔を向けた。

 

 

「学院には慣れたか、勉学はどうだ」

 

「私は大丈夫だよ、兄さんはどう?」

 

「俺も大丈夫だ。あんた無しでもやれるさ」

 

 

ジロリとランスロットを睨んだノワールへと笑顔を向ける。思わぬ笑顔にノワールが困惑を浮かべた。

 

 

「本来なら俺が面倒を見なければならないのだがその言葉を聞いて安心した。何かあればすぐに声をかけてくれ」

 

 

「善処はする」そう言ってラグネルからマントを受け取り羽織った。

 

 

「ぷっ、、、あはは。可愛いマント」

 

「?」

 

 

笑顔のディナタンの意味を探るべくマントを見るとマントにはお魚の形をしたアップリケで補修が施されていた。

 

 

「ラグネル、これは」

 

「軍服にも可愛いは必要でしょ?」

 

「似合ってるよランス兄ちゃん」

 

「…………」

 

「良いじゃないかランスロット」

 

 

赤面を隠すように踵を返し歩んでゆく。その背を覆うマントにはお魚のアップリケが泳ぐ。

 

 

「どうしてラグネルに頼んだんだ?ディナタンは裁縫できただろ」

 

 

出店で買ったアイスを食べながら二人は道を歩む。その時ノワールは疑問を投げた。

 

 

「これぐらいなら私でもできるけど人にやってもらうのって良いじゃん、それに私の裁縫は自己流だし」

 

「それなら俺に頼めば良かったのに」

 

「それはダメだよ。忙しい兄さんにそんな事までお願いできないし」

 

「仲が良いのですね」

 

 

声をかけられその主を探すと二人の真後ろにティルフィングの姿があった。その手にはチョコレートのパフェが握られておりスプーンですくい口に運ぶたびに笑顔をみせる。

 

 

「ティルフィングさん」

 

「祭りを楽しんでたんだな」

 

「戦乱の世でこのような休息は貴重ですからね。私も五月祭りを楽しもうと思いまして」

 

「俺達も楽しまないとな」

 

「うぉー!ノワール!良いところにいるじゃねえか!唐揚げ買いすぎちまって食い切れねぇんだ、貰ってくれないか?」

 

 

声の方を向くと唐揚げが盛られたバスケットを持つガウェインの姿が。その顔は青ざめておりどれだけ唐揚げを食べたかを伺わせる。

 

 

「それなら遠慮なくいただくよ」

 

「私もいいかな、、?」

 

「あぁ食べてくれ。俺は食べ物を粗末にできないから捨てるという選択肢は無い!」

 

「それなら私も一つ頂きますね」

 

 

伸ばされた左手が唐揚げを一つつまみ上げ口へと運び次に右手に持つエールが口へと運ばれた。

 

 

「おま、グリード朝から酒かよ」

 

「朝からお酒を飲んではいけないと校則にはありませんでしたので」

 

「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくてだな」

 

「ガウェインも飲みますか?」

 

「俺は酒より烏龍茶が欲しい」

 

 

ゲッソリしながら告げるガウェインを見てグリードは出店へと向かう。そして戻ってくると手には2本の瓶が。

 

 

「唐揚げのお礼に差し上げますよ」

 

「おっサンキュー」

 

 

瓶を封する王冠を歯で開け美味そうに烏龍茶を飲んでゆく。その横でグリードはまたエールの封を開けているのだが。

 

 

「そろそろ時間だ。噴水に行こう」

 

 

民家の屋根に取り付けられていた時計を見たノワールの言葉で一同は広場中央にあるギネヴィアが待つ噴水の元へ。

 

 

「やっと来たわね。来ないかと思って心配したんだから」

 

 

噴水の前へとゆくとそこには仁王立ちをするギネヴィアとその左右にはギネマウア、ウレリーの姿。態度が大きいギネヴィアの横に居るのでその姿は家来のよう。

 

 

「それで五月女王は発表されたのか?」

 

「さっきアナウンスがあったからもうすぐだと思う」

 

 

住宅に取り付けられているスピーカーを指差すとちょうど音声が流れ始めた。

 

 

 

『レディーース&ジェントルメン!皆様お待ちかね五月女王の発表をさせてもらうよ。司会はこの僕、パーシヴァルと』

 

『ディンドランでお送りさせて頂きます』

 

『さぁ、栄れある五月女王の名誉は一体誰の手に!?』

 

『パーシヴァル様、投票の集計が間に合っていませんのでここはパーシヴァル様の余興で場を繋いで下さい』

 

『なっなにーーーっ!?ぼ、僕にアドリブを振るんじゃなーい!』

 

『では皆様、今しばらくの間パーシヴァル様のモノマネをお楽しみ下さい。まずは最強騎士こと、ランスロット卿のモノマネです』

 

『〜〜〜〜っ!!やぁ、僕が最強騎士、ランスロットだよ。お機嫌はどうかな』

 

 

「………………………………」

 

「ノワール様とディナタン様に聞きますけど似てましたか?」

 

「「いや、全く」」

 

 

『続きまして我ログレスの国王、アーサー様のモノマネです』

 

『う〜むっ私を納得させるB級グルメを用意したまえ』

 

 

「…………………」

 

 

『では集計が終わりましたので発表に移りたいと思います。本年度は投票の数が多くランキング形式での発表とさせて頂きます。では、第三位の方』

 

『ふふふ、第三位は敵国より舞い降りた癒しの天使、ディナタン!』

 

 

「えぇっ!?私?!」

 

 

『届いたコメントを読み上げます。「昨日の敵は今日の推し、いつも見てるよ、アイラブディナタン」など他にも沢山のコメントを頂いております』

 

 

『兄のノワールもだけど敵国に居た事実は変わらないが今はこのログレスの民に変わらないからね。次!』

 

『はい、次は二位の発表です』

 

『麗しの剣豪、その正体は敵か味方か!?『最初の武器』ティルフィング!』

 

『コメントの多くが「剣を習いたい、ノワ●ル殺」などと羨ましむ声が多いですね』

 

『物騒なコメントがあったけど気のせいか?』

 

『では五月女王の発表です。パーシヴァル様』

 

『あぁ、名誉ある五月女王に輝いたのはっ!』

 

『ドラムロールお願いします』

 

 

騒がしい演奏が始まりギネヴィアの期待は高まってゆく。

 

 

「ねぇねぇ!髪乱れてないかな?服装はどうかしら?」

 

「はい、いつも通りキマってますよ」

 

「ほんとお姉ちゃん?よし、ノワール?私の名前が呼ばれたら一緒に走って!」

 

「あぁ、でもそれだと俺が誘拐した事にならないか?」

 

「ノワールなら…」

 

 

ギネヴィアが何かを呟いた時ドラムロールが止み五月女王が発表された。

 

 

『『苦労多きお節介娘、ウレリー!!』』

 

 

スピーカーから司会の声が響き渡るとそこには笑ったまま固まったギネヴィアと驚き顔を押さえたウレリー。

 

 

「私!?」

 

 

『「困った事があると丁寧に教えてくれる、いつも頼りになる、夜の手解きもお願いしたい」などとウレリーの優しさを伺わせるコメントが多く届いております』

 

『まっ、貴族である僕には届かないが五月女王の名誉に選ばれたウレリーに盛大な拍手を送りたまえ』

 

 

司会の声に続き街中から拍手が鳴り響きウレリーは顔を真っ赤にして俯いてしまう。そして拍手に混ざり地鳴りの様な音が。

 

 

「居たぞウレリーだ!」

 

「逃すな〜〜っ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

大勢の男達に取り囲まれあっという間にウレリーは何処かへと連れ去られてしまい群衆が去った後には沈黙が残る。

 

 

「…それで俺は誰からギネヴィアを守れば良いんだ?」

 

「その話はやめて、、もうやめて、、、」

 

 

恥ずかしさで顔を真っ赤にしたギネヴィアが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

5月10日/キャメリアード奪還作戦

 

 

 

五月祭りが終わりしばらくが経った頃ノワール達はケイ卿に円卓の間へと呼び出されていた。そこにはアーサー、マーリンの姿が。

 

 

「それで一体どうしたんだ」

 

「五月祭りも終わった事だしこちらから打って出ようと思ってね」

 

「キャメリアードを奪還する。隣国に敵の拠点が有ればまた攻められかねんからな」

 

「キャメリアードに行くなら私達も行くわ。案内が必要でしょ」

 

 

声を上げたギネヴィアの横には頷くギネマウアの姿。

 

 

「それなら私達も」

 

「えぇ、荒事ならお任せ下さい」

 

「まぁ待て、今回は奪還が目的ではなくマーリンの転移魔法の拠点を作る事が目的だ。攻め入る時は今ではない」

 

「つまりどういう事なの?」

 

 

疑問を浮かべるギネヴィアにマーリンが説明を行ってゆく。マーリンの転移魔法を使うには入り口と出口が必要でありで出入り口をキャメリアード主要部であるキャメリアード城近辺に作るというもの。

 

 

「作ると言っても私の魔力を記すだけなので直ぐに終わります。その間の私の護衛が主な任務となります」

 

「それと敵陣の様子を見てきてもらうのが今回の任務だ。キャメリアードにどれだけの兵を割いているのか」

 

「分かった。それで部隊はどうするんだ」

 

「ノワールを主軸にギネヴィア、ギネマウア。グリード、ティルフィングだ。グリード、五月祭りで使った飲み代分はしっかりと働いてもらうぞ」

 

「了解です」

 

「グリードは一体いくら使ったんだ?」

 

「中級兵士の月給分とだけ言っておこう。作戦は三日後に行う」

 

「その任務、僕達も同席させてもらうよ」

 

 

ドアを開け姿を見せたのはトリスタン。その横にはトリスタンとGSを果たした少女、イゾルデの姿。

 

 

「被告人が二人も国の外へ出るんだ。尻尾を出す可能性がある。それにログレスの主要人二人へ不義理を働くかもしれないからね」

 

「監査役をさせてもらうわ」

 

 

ノワール、グリードへと視線を向けながら席に着くと頬杖を付いた。

 

 

「俺達はそんな事はしない!」

 

「どうだか、口先ならなんとでも言えるさ。行動を見せてもらわないとね」

 

「分かりました。行動で示しましょう」

 

「うんうん、頼もしいな。よし、作戦は三日後だ!それまで各自英気を養ってくれ」

 

「スタンド・バイ・ユアラウンド!」

 

「フォー・ラウンド!」

 

 

アーサーの言葉により会議は閉会し各自帰路へ。

 

 

「二人共生きて帰って来れると良いですね」

 

 

グリードの前を歩く二人に向い告げた言葉を聞き周囲の人は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

5月12日/ティルフィングの授業

 

 

 

 

二人のティルフィングが登校をしようと学生寮から出た時声をかけられ同時に振り返った。

 

 

「おはよう。二人に頼みたい事があるのだが」

 

 

二人に声をかけた主はランスロットだった。少し申し訳なさそうな顔をし頼み事を告げられ二人は快く了承をする。

 

 

「そういう事でしたら」

 

「私達にお任せを」

 

「すまない。準備は整えてあるから不便をかける事は無いと思うが」

 

 

二人に向い頭を下げランスロットは校外へと向かう。それを見届けて二人は教室へと行きウレリーを見つけると皆を講堂へと連れてくるようにと頼んだ。

 

 

「分かったよ。みんなにはそう伝えておくね」

 

「ありがとうございます」

 

「準備は大丈夫かな?一応使った物は整理して置いてあるけど」

 

「ランスロットも確認したので大丈夫だと思いますよ」

 

「それなら安心だね」

 

「では、お待ちしております」

 

 

二人のティルフィングは構堂へと向かってゆく。

 

 

しばらくして『遥か望む剣』のクラスメイトが構堂へと行くとそこには戦闘服に身を包んだ二人が。突然の衣装チェンジに困惑を浮かべる生徒と見惚れる生徒と反応は違うが誰しもが嫌な予感が脳裏を掠めた。

 

 

「ランスロット卿が任務の為本日の実践授業は私達が受け持ちます」

 

「手加減はするつもりなので安心して下さい」

 

「でもどうして二人なんだ?」

 

「以前私がランスロットと試合を行ったからだと思います。その時ティルフィングも変わらぬ強さと伝えたので」

 

「グリード、その試合の結果は、、、」

 

「引き分け、と言っておきましょうか。しかし私は全力ではありませんでした。それはランスロットも同じ」

 

「それなら俺とも試合をしてくれないか。ランスロットが引き分ける程の強さを感じてみたい」

 

 

ノワールの頼みにグリードはティルフィングへと視線を送る。視線を送られたティルフィングは時計へと目をやり「5分の間なら」と答えた。

 

 

「よし、お願いするよグリード」

 

「分かりました」

 

 

模造刀を手に持ち二人は壇上へと上がり対峙する。その周りのクラスメイトは二人を囃し立てる。

 

 

「本気で行くぞグリード!」

 

「構いませんよ。いざ尋常に」

 

「勝負!」

 

 

合図と共に模造刀がぶつかり合い甲高い音が鳴る。そこには鬼気迫る目をしたノワールの姿。

 

 

「そうだ。実戦を交えながら戦いに勝つ方法を教えましょう」

 

 

しかしグリードは見守る生徒達へ授業を行う。

 

 

「まず力を入れ過ぎない事です。力を入れ過ぎると剣先が鈍り行動が単調となります」

 

 

ノワールが振るう剣を軽々といなし生徒へと説明を行う。その姿はノワールを煽るかのよう。

 

 

「そして自分の武器は握る武器だけではないという事です。確かに致命傷を負わせるには斬るのが一番効果的ですが斬れなければ意味はありません」

 

 

突如ノワールがうめき声を上げ腹を抑えた。その先には蹴り上げた足を下ろし剣を振るう姿。

 

 

「っ!」

 

 

首へと向かう剣を寸前で弾き反撃の一閃。

 

 

「なかなかの太刀筋です」

 

「これでも傭兵団の団長を務めていた、自信はあるつもりだ!」

 

 

上段より振るわれた剣と合わせ鍔迫り合い睨み合う。

 

 

「戦いに勝つ為には相手の意表を突く事も有効です」

 

 

ふと、鍔迫り合うグリードが後ろへと下がりその動きに追従できずノワールが前のめりとなる。その瞬間ノワールの左頬に衝撃が走る。

 

 

(黒だ、、)

 

(黒ね、、)

 

 

右ハイキックを頬に受けよろめきながらも前を見たその先には首筋へと伸びる切先が。その光景に諦め剣を落とすと右手を差し伸ばされ握手を交わす。

 

 

「良い太刀筋でした。もっと鍛錬を積めばノワールは必ず強くなるでしょう」

 

「流石だよ。また付き合って貰っても良いか」

 

「えぇ、もちろん。次の相手は誰でしょうか」

 

 

グリードが生徒を見るが名乗り出る者はおらずしばしの休憩。

 

 

「先ほどのようにマスターはグリードには勝てませんでした。しかしこれは一対一だったからこそ。戦いとは自身が優位に立てるように立ち回り勝利を掴む。ギネヴィア様、ガウェイン様、ラグネル様。お願いできますか」

 

 

ティルフィングに言われ三人が壇上へと立つ。その手には槍、槌、銃を握り。

 

 

「そういう事ね。一人で勝てないのなら力を合わせれば良い!」

 

「俺とラグネルは普段一緒に戦ってるけどよ、ギネヴィア様とは初だぜ?」

 

「まーなんとかなるでしょ?それにノワールが勝てなかったグリードに勝てたら嬉しいよね♪」

 

「多数で無勢を叩くのは戦法としては正しいです。しかしそれは結束があっての事。付け焼き刃で勝てるとは思わないで下さい」

 

「ガウェイン、ラグネルは私の後に続いて!私がこの槍で!」

 

「あっ!おい待てって!」

 

 

ガウェインが止めるのも聞かずグリードへと槍を突き出す。しかし矛先を躱し柄に刀身を絡め槍を跳ね上げるとギネヴィアを引き寄せた。

 

 

「一歩でも動けばギネヴィアの命はありませんよ」

 

「あっちゃ〜〜」

 

「人質とられちゃ降参するしかないか」

 

 

左手でギネヴィアを掴み右手に握る剣を向ける。人質を取られなす術がない二人は両手を上へと上げた。

 

 

「この様に一人が集団行動を乱せば敵の思いのままです。人質を見捨て戦う覚悟があるのなら話は別ですが」

 

 

ギネヴィアの手を離すと握っていた腕を撫でた。

 

 

「強く握ってしまいました。痛くは無かったですか?」

 

「うん、、大丈夫、、」

 

「今回の授業のまとめとして力を抜き集中、警戒を怠らない事。集団行動を乱さない事ですね。本日の授業を糧に精進して下さい」

 

 

ティルフィング、グリードが生徒へと頭を下げ授業は終わりとなった。

 

 

「そういえばティルフィングとグリードはどっちが強いのよ?」

 

「それは気になるな。お互い実力は変わらないんだろ?」

 

 

二人の疑問に二人は顔を見合わせた。

 

 

「戦うのは構いませんがどちらかが死ぬ恐れがありますので」

 

「それでもよろしいのなら」

 

 

二人の答えに二人は首を横に何度も振った。

 

 

 

 

 

5月12/Night

 

 

 

夜がふけ始めた講堂に剣が風を斬る音が響く。その正体は午前中にグリードに敗北したノワール。

 

ノワールは過去に傭兵団の隊長を務めており剣の腕には自信があった。しかし子供の様に扱われ敗北し己を戒める為に鍛錬を行なっていた。

 

 

「ふぅ、、良い汗かいたな」

 

 

額を伝う汗を拭い講堂の壇上へ腰掛けもうしばらくしたら帰ろうと思っていた。その時ドアが開き思わず身構えた。

 

 

「ランスロット…!」

 

「居たのかノワール」

 

 

ランスロットは練習用の剣を台より引き抜くとノワールの元へと歩む。

 

 

「こんな時間に何をしている。生徒は休む時間だ」

 

「見ての通り剣の鍛錬をしている」

 

「良い心がけだ。お前、グリードと戦ったのか」

 

「あぁ、こてんぱんにされたけどな」

 

「俺もだ。しかし良い刺激となったよ。最強騎士と呼ばれ良い気になっていたと思い知らされた」

 

「負けたのか!?グリードは引き分けたと言っていたが」

 

「勝敗を見れば引き分けになるだろう。しかし俺は防戦の一方だった。久しぶりだよ手も足も出ない相手は」

 

 

ノワールの前に立ち素振りを始めると風を斬る音がノワールに届く。

 

 

「ランスロット、剣の相手をしてくれないか。素振りだけでは限界がある」

 

「…構わない」

 

「それと聞かせてくれ、お前は、ランスロットは父さんを本当に殺したのか」

 

「察しろノワール。ほら」

 

「そうやって俺を誤魔化すつもりか!」

 

「今はまだ本当を伝える事はできない。ただ、いつかお前には全てを話す」

 

「その言葉は信じて良いんだな、、、!」

 

「あぁ、俺の騎士としての誇りに賭けても必ず」

 

「いざ」

 

「尋常に」

 

「「勝負!」」

 

 

 

 

 

 

 

5月13日/キャメリアードへ

 

 

 

 

 

 

キャメリアード奪還の第一歩として学院の魔術師、マーリンの転移魔法の拠点を作るべく前庭には多くの騎士が集まっていた。

 

 

騎士達は荷物の確認を行い万全の体制を整え作戦開始の合図を待っていると学院よりケイが姿を見せ咳払いを一つ。

 

 

「諸君。今回の任務は我がログレスがカレドニアより奪われた領地を奪還する大きな一歩となる。しかし無闇に戦闘を行う必要は無い、マーリンの準備が完了次第速やかに帰還する事」

 

 

眼鏡を直しながら騎士を見渡しオホンと咳払いをした。

 

 

「皆の無事を祈っている。スタンド・バイ・ユアラウンド!」

 

「「フォー・ラウンド!」」

 

 

ケイの合図に拳を突き上げ答え作戦が開始された。

 

ログレスとキャメリアードは隣国とはいえ移動手段は徒歩である為二日は移動に時間を割く事となる。

 

予定では今日一日でログレスとキャメリアードの中間にあるアストラット郷で宿を取り次の日にキャメリアードへ行き転移魔法の拠点を作る。そして帰りは転移魔法の試運転を行い帰還となる。

 

 

黙々と道を歩む騎士に会話は無く無言のまま。それは監査役を兼ねるトリスタンとイゾルデが居るから。

 

不審な行動、言動を監視すべくピリピリとした空気が張り詰めていた。

 

 

「退屈ね。何か話しましょうよ」

 

 

しかしそんな空気などどこ吹く風のギネヴィアが声を上げると次第に会話が始まった。

 

 

「アストラット郷はどの様な場所なのですか?」

 

「アストラット郷はログレス国の領土であり農業や畜産が盛んな村なのです。ログレスの商店街に並ぶ品々はこのアストラット郷で生産されているのですよ」

 

「なるほど、楽しみです」

 

「グリードが楽しみにしているのはお酒でしょ?確か、アストラットは葡萄も生産してたはずだからワインならあるんじゃないかしら?」

 

「重要な任務を前にして飲酒だなんて随分と悠長だね」

 

「何事も楽しみが必要ですからね。それに私は学院の傭兵ですが観光客なので」

 

「へぇ、観光客という割には物騒な剣を携えているね」

 

「身を守る為に武器は必要です」

 

 

グリードとトリスタンのやり取りに明るくなった空気がピリピリとし始めティルフィングとギネマウアが大きなため息を吐いた。

 

 

「この辺りで少し休憩を取りましょう。道のりはまだ長いですから」

 

 

マーリンの提案により一時の休憩となった。各自草原で座り、寝転び休息を取る。

 

 

そんな時座り込んでいたトリスタンとイゾルデが立ち上がり北東を睨んだ。

 

 

「イゾルデ」

 

「ええ、『因子・分解』フェイルノート!」

 

 

二人の言葉の後にイゾルデは眩い光に包まれ光が消え去った時にはその姿を変えていた。

 

先程までキャメロット騎士学術院の制服を着ていたイゾルデは黒きドレスを身に纏い手には長弓を携える。

 

 

「やれやれ、バルバロイの出現に気が付かないなんてとんだ傭兵だよ」

 

「まっ、この距離なら仕方の無い事かもしれないわね」

 

 

トリスタンとイゾルデが横並びとなり弓を引き絞り弦が張り詰める音が鳴る。そして風を切る音と共に矢を放った。

 

草原に生える草の葉を掠めながら飛ぶ矢は遥か彼方で身体を揺らすバルバロイへと導かれる様に突き刺さった。

 

その姿を見て剣を構えたノワールだがトリスタンに制され剣を納める事となる。

 

 

「グリード、あれが『因子・分解』よ。キラーズ因子を持つ人の『形態』をバイブスの力により『移す』。これがゲシュタルト・シフト」

 

 

二人の活躍に指を刺しながらギネヴィアが話しグリードは頷きながら話を聞く。やがてイゾルデは元の制服姿に戻っていた。

 

 

「方角からしてキャメリアードから流れてきたバルバロイだね。まだ半日も歩いていないのにバルバロイと遭遇するという事はこの辺りも敵に侵食されている」

 

「敵の進軍は思っているよりも早いと読むべきね。アストラット郷もバルバロイに侵食されていると考えておきましょうか」

 

 

二人は意見を求める為にマーリンへ視線を向ける。しかしその目線はグリードに遮られていた。

 

 

「お二人の千里眼、お見事です。さすが円卓の騎士ですね」

 

「へぇ、君の口から嫌味以外の言葉が出るだなんてね」

 

「実力がある者には敬意を評します。それはごく自然な事かと」

 

 

それだけ告げるとグリードは背を向け二人はマーリンを向いた。

 

 

「バルバロイがアストラット郷に居ると考えるとそこで休息を取るのは合理的じゃないよ。このままキャメリアードに向かうべきだ」

 

「そうね。敵陣の中にいれば休まる時間なんて無いにも等しいから」

 

 

二人の提案にマーリンは思案顔を浮かべしばらくして言葉を発そうとした。

 

 

「でもアストラット郷はログレスの領地よ。自分の国なのに敵に陣取られたままなのは許せない!」

 

「殿下、お気持ちは分かりますが今は任務が最優先です」

 

 

声を上げたギネヴィアを嗜める様に声をかけるのだが。

 

 

「そうですね。私のワインの為にもアストラット郷には行くべきです」

 

「もう少し本音を隠さないか?ダダ漏れだぞ」

 

「そうですか?」

 

「……アストラット郷はログレスにとって重要な食料生産地帯。そこを抑えられてしまえば」

 

「兵糧攻めを受けログレスは飢饉となる」

 

「分かったよ。ログレスの為だ」

 

 

小さくため息を吐いたトリスタン。そして一行は休憩を終えアストラット郷へと急ぎ夕刻の前にはアストラット郷へと辿り着いていた。

 

 

夕焼けに照らされるアストラット郷を警戒しながら歩むのだが村人達は普段と変わらない様子で日常を過ごす。

 

 

「私が村長に話を伺いに行ってきます」

 

 

数える程しか無い住宅でその中でも一番大きな家のドアを叩くと一人の男性が顔を出しマーリンを見つけると笑顔を浮かべた。

 

 

しばらく村長と会話を行ったのだがこの村にバルバロイが出現したという証言は得られず。その代わりこの家に一泊させてもらえる事となった。

 

 

「歓迎されているのですね」

 

「主様の手腕のおかげです。元々アストラット郷と交友は無かったのですが主様が交渉を重ね今では友好国と呼べる関係なんですよ」

 

「普段の様子を見るとそうは思えないけどちゃんと王様しているんだな」

 

「耳が痛いお言葉です。さっ、夕食までしばらくの時間があります。それまで自由行動にしましょう」

 

 

笑顔で手を叩いたマーリンの言葉により各自アストラット郷を観光する事に。

 

 

広大な農場を歩み柵に囲まれた牧場を覗き。目ぼしい物こそ無いが雄大な自然に囲まれたアストラット郷を楽しみ宿へと戻ろうとした。そんな時自然の音に混ざり竪琴の音色が聞こえ其方へと足を運ぶ。

 

 

(…………)

 

 

竪琴を奏でる主はトリスタンだった。大木に背を預け目を閉じ膝の上に抱く竪琴を指で弾き。その横には同じく大木に背を預け目を閉じるイゾルデの姿。

 

二人の仲の良い姿を見てそっと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

5月14日/キャメリアード城

 

 

 

 

 

 

一行はアストラット郷で身体を休め14日の朝にキャメリアードを目指し歩みを再開していた。

 

 

「ここまで来ればもうキャメリアードに着いたも当然よ。ここからの案内は私達に任せてちょうだい」

 

 

案内役を買って出たギネヴィアの案内を受けながら一同は北へと進んでゆく。

 

 

「パパ元気かな?ずっと会ってないから心配だわ」

 

「ギネヴィアの父さんはどんな人なんだ?」

 

「えっとね、ちょっと太ってて優しくて昼行燈みたいな人なの」

 

「昼行燈って。どんな父親だよ」

 

「とにかく良いパパなの。国が衰退した時も私達をキャメロットに逃してくれて私をアーサーの許嫁にしてくれるようにしてくれたの」

 

「じゃあギネヴィアは」

 

「キャメロット騎士学術院学長の妻、王妃ギネヴィアよ。って言っても仮契約みたいなものだから」

 

「良いお父さんね。娘達の無事を願い自分は一人キャメリアードに残るだなんて」

 

「そうなのよ♪私の自慢のパパな…の」

 

 

嬉しそうに語るギネヴィアが言葉を詰まらせた。その視線の先にはそびえ立つキャメリアード城の姿。しかし城のほとんどの外壁が崩れ一部を除き原型を留めておらず。

 

さらに城の周りには多くのバルバロイが闊歩しカドレニア軍の鎧を纏う兵士が陣を築く。ログレスに攻め込む軍だと一目で理解した。

 

遅れてこの光景を見た一行も言葉を詰まらせギネヴィアにかける言葉を探した。

 

 

「ここに転移魔法の拠点を作ります。しばらくの間私の守護をお願いしますね」

 

 

重苦しい空気を振り払う様に一冊の魔導書を取り出すと呪文の詠唱を始めた。

 

 

「………ノワール、お願い!私の城をあいつらから取り返して!このままじゃ私達の帰る家が無くなっちゃう!」

 

「ティルフィングも何か言ってよ!『最初の武器』なんでしょ!?」

 

「トリスタンも円卓の騎士なら私の帰る場所を救ってよ、、、」

 

 

顔を涙で濡らし子供の様に喚く。そんな痛ましい姿にただ顔を俯かせやがて地面に座り込んでしまったギネヴィアをギネマウアがそっと抱きしめた。

 

 

「ティルフィング。あの数は相手にする事はできないかな」

 

「数が多すぎます。この兵力ではとても太刀打ちはできないかと」

 

「そうか、、」

 

 

ノワール達も胸を裂かれる思いだった。しかし一時の感情に振り回される訳にはいかず唇を噛む。

 

 

「グリード」

 

 

未だ一人キャメリアード城を眺めるグリードに話かけるのだが返事は返らず目を向けると全身を震わせる姿を見た。

 

 

 

(……せ、、、…えせ、、、)

 

 

何かを呟く言葉が聞こえ耳を傾けると刀身が鞘を通る鋭い金属音が耳に届いた。

 

 

『それを、、、返せぇぇぇっ!!!!!!!』

 

 

一際大きな声で叫ぶとグリードは単身で城へと駆ける。

 

突然のグリードの行動に意表を突かれただグリードの行末を見ている事しかできず。

 

その視線に映るのは孤軍奮闘する姿。駆けるグリードに気付き攻撃を仕掛ける何百ものバルバロイに囲まれるが神速の如くバルバロイを切り伏せグリードが通った道は骸と血で彩られてゆく。

 

 

「あいつは一体何者なんだ、、」

 

 

全身は返り血で紅く染まりその中でも眼光は血よりも紅く輝き鬼神を連想させる姿にトリスタンは頬を伝う冷や汗を拭った。

 

そして鬼神は一人のカレドニア兵へと向かう。それを見てノワールは声を漏らした。

 

 

「あれだ、、グリードはあれを取り返すつもりなんだ、、」

 

 

ノワールの視線の先には上着を羽織る兵士。いつかグリードが言っていた紺色の上着。

 

 

当然バルバロイを斬り伏せる姿をカレドニア兵は認知はしていた。しかしたった一人で何百ものバルバロイを斬り伏せるグリードの姿を見て恐怖しただグリードの進軍を見ている事しかできず本陣への立ち入りを許してしまう。

 

 

『返せ、、、、!』

 

 

やがてグリードは上着を羽織る兵士の前へと立ち首を跳ね落とすと上着を脱がし大声で嗚咽を漏らした。

 

 

突如現れた返り血で濡れた女が兵士を殺すと上着を脱がせそれを抱きしめ泣く。理解する事ができない現実にまだ唖然とする兵士達の前に金の髪が踊った。

 

 

「帰りましょう・・」

 

 

金髪を靡かせる女性がグリードを抱くと一瞬にして姿を消し再び兵士達は困惑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月31日/殿下の憤怒

 

 

 

14日のグリードの活躍を聞きケイは多いに喜んでいた。しかし当の本人のグリードはマーリンの転移魔法で学院に帰還してからずっと部屋に引きこもり姿を見せずにいた。

 

 

グリードが取り返した上着はグリードのマスターが着ていた上着と同じ物。その事実が何を意味するのかを察し誰もが声をかけれないまま。

 

しかし二週間も部屋に引きこもるグリードを心配しないはずもなく学生寮のグリードの部屋には『遥か望む剣』の生徒達やディナタン、ランスロット、ケイ、マーリン、アーサーが尋ねる。が、誰にも言葉を返す事はなかった。

 

 

 

「ったくよぉ。グリードの奴はいつになったら出てくんだよ」

 

「仕方ないよ。まだそっとしておいてあげようよ。お腹が空いたら出てくるって」

 

「それならもうとっくに出てきてないとおかしいぞ。夜中にこっそり飯くってるのか?」

 

「グリードさんはネズミじゃないよ」

 

 

今日も放課後『遥か望む剣』のクラスメイトが講談室に集まり井戸端会議をおこなっていた。

 

 

「……………」

 

 

そんな中ギネヴィアは腕を組み仁王立ちをし苛立ちを隠す事なく何度も足で床を踏む。

 

 

「どうしたんだギネヴィア」

 

「ムカつくの」

 

「ムカつくってどうしたんだ?」

 

 

ギネヴィアの態度が気になり声をかけたノワールだが一層苛立ちが強まり困惑を浮かべた。

 

 

「ちょっと私行ってくる」

 

「おま、行くってどこにだよ」

 

 

ガウェインが疑問を尋ねた頃にはギネヴィアは階段を駆け上り講談室二階にある寮へと向かっていった。

 

 

「止めてきましょうか?」

 

「殿下には何か考えがあるのですよ。きっとグリード様を連れてここに来てくれます」

 

 

ティルフィングの問いにギネマウアは笑顔を見せた。

 

 

しばらくすると鈍い音が聞こえ何かが壊れる音が響いた。

 

 

「本当に大丈夫なのか、、、?」

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

ギネヴィアがドアを壊し部屋に入ると部屋はカーテンが閉められ薄暗く目を凝らしグリードを探すとベッドの淵に座り上着を抱きただ一点を見つめる姿を見つけた。

 

 

「グリード、いつまでそうしてるつもりなの。いい加減シャキっとしなさい!」

 

 

ギネヴィアが叫びながら近づくのだが目を向ける事なく視線は何処かを向いたまま。

 

 

「グリード、グリードってば!」

 

 

前に立ち肩を揺らすとようやく焦点が合わない瞳が向けられ思わず目を逸らしそうになる。それでもギネヴィアは声をかけ続けやがて頬を打った。

 

 

「………なんでしょうか」

 

 

ようやく聞こえた声はとても冷たく感情を感じさせず瞳は虚のまま。

 

 

 

「私はグリードにお礼を言いに来たのよ。私の家の周りにいたバルバロイを倒してくれて。おかげですぐにでもキャメリアード城を奪還しに行ける事になったわ」

 

「そうですか」

 

「うんん、違うわ、私がグリードに言いたい事はそうじゃなくて。私ね、パパはまだ生きてるって信じてるの。キャメリアード城があんなんになっちゃっててもさ、人質とか王様だから利用価値はあるって」

 

「何が言いたいのでしょうか」

 

「グリードも諦めないで!生きてるって信じて!グリードが諦めてる姿見てると私の心まで折れちゃう、、それにグリードはマスターとバイブスで繋がっているんでしょ?確かめたり、した、、?」

 

 

ギネヴィアに言われハッとし自身のキラーズに適合するマスターのバイブスの存在を探した。

 

 

「……まだ、繋がっています、、」

 

「ほら、生きてんじゃん!じゃあクヨクヨしてないで行こっ」

 

 

差し伸ばされた手をグリードは掴み立ち上がるとギネヴィアを強く抱きしめた。

 

 

「ありがとうございます。ずっと私は自分を責めていました。私が旅行に誘わなければ、無理にでもバベル大陸に行けば良かったと」

 

「でもキャメリアードを選んでくれなかったら私達は会えなかった、出会えなかった。それに私のコレクションが増える事もなかったよ」

 

「ふふ、ありがとうございます。ギネヴィアの父は私が必ず探し出します」

 

「うん。じゃあグリードも私が買い上げてあげる♪今日からグリードは私専属のパパ捜索隊の隊員ね♪」

 

「それは重要な任務を任されてしまいましたね。その任務、必ず」

 

 

体を離すと硬く握手をして。繋いだ手を引きギネヴィアはグリードを講談室へとエスコートしてゆく。

 

 

「ほら、グリードを連れてきたわよ」

 

 

得意気なギネヴィアの背後にはグリードの姿。その顔は痩せこけ髪は艶を無くし元の麗しさは影を潜め。

 

 

「おかえりグリード」

 

「ただいまノワール。それに皆にも迷惑をおかけしました」

 

「よしっ、俺が快気祝いに飯作ってやるよ。飯食えばもっと元気になるだろ」

 

「いいねーガウェインが作るご飯美味しいんだよ。ガレスちゃんみたいとは言わないけど男のメシって感じでさ」

 

「ありがとうございます、、」

 

「グリード、上着を見せてくれないか?」

 

 

グリードから手渡された上着は所々が破れ上着としての使用は難しい物だった。裁縫が得意なラグネルも難しい顔をした。

 

 

「これはひどいね、、どうするノワール?」

 

「みんなで直そう。グリードには世話になってるしさ」

 

「じゃーーん!こんな事もあろうかとコレを用意しておきました♪」

 

 

ウレリーがテーブルの上に置かれていた物に被せられていた布を取るとそこには手動式のミシンの姿が。

 

 

「これがあればどんなお裁縫もすぐできちゃうよ♪」

 

「これはすごいな、、ウレリーが準備したのか?」

 

「みんなの服を縫おうと思って私財を投入しました♪でもグリードさんの上着を直す事に最初に使えて良かった」

 

「それはどうしてですか?」

 

「私、まだちゃんとグリードさんにお礼言えて無かったね。私を助けてくれてありがと。じゃなきゃ私はもうみんなの記憶から消えちゃってた」

 

「私は学院の傭兵ですからね。ですがお礼を言われて悪い気はしません」

 

「素直じゃありませんね」

 

「よし!夜なべしてこの上着を直すぞーっ!ノワールもみんなも手伝ってね♪」

 

「スタンド・バイ・ユアラウンド!」

 

「「フォー・ラウンド!!」」

 

 

ノワールの掛け声に全員が拳を突き上げた。

 

 

「俺もやってみたかったんだ」

 

 

少し恥ずかしそうに笑うノワールにティルフィングが微笑んだ。

 

 

 

 

6月5日/ローマン・バス

 

 

 

 

 

グリードが復帰ししばらくが経ちグリードはケイに呼ばれて円卓の間へと一人来ていた。

 

 

「来たか。貴女の活躍は同行したトリスタンから良く聞いている。鬼神に迫る活躍をしたと」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

「これでグリードを疑う者は減ったであろう」

 

「はい、それで私を円卓の間へと呼び出し、何か御用でしょうか」

 

「あぁ、グリードのマスターと類似する人物を見たとの情報が入ったのでな。しかし場所はカドレニア軍の本拠地だ。安否までは保証はできん」

 

「いえ、気にかけて頂きありがとうございます。マスターとはバイブスで繋がっていますので安心はしています」

 

「手柄を立てればこちらもその様に動く。次の貴女の活躍を楽しみにしている」

 

「はい、では私はこれで失礼します」

 

 

ケイとの会話を切り円卓の間から出ようとした時ドアが開きノワールが姿を見せた。

 

 

「やぁグリード」

 

「こんにちわノワール。上着ありがとうございました」

 

「みんなで直したんだ、みんなにもお礼を言ってくれ。それでここで何をしているんだ?」

 

「ケイに呼ばれましたので」

 

 

ノワールが円卓付近に立つケイを見ると金縁のメガネを直しノワールの方を向いた。

 

 

「来たか。貴公の活躍も聞いている」

 

「俺は自分のやれる事をやっただけさ」

 

「ふん、しかし無理はするな。貴公は伝承者であり学院の要なのであるからな。下がって良い」

 

 

ケイに言われ二人は円卓の間を後にする。

 

 

「ノワールは何をしたのですか?」

 

「憲兵団の仕事をしただけさ。少しでも信用を得たいし、それには剣で示すのが一番だろ?」

 

「そうですね。私も不本意ながら信用を得ていたようですし」

 

「そうだ、グリードは温泉に入りにきたんだろ?今日とある商人の護衛を頼まれてそのお礼に温泉を教えてもらったんだけど」

 

「良いですね、ではみんなを誘って行きませんか?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

グリードの提案により温泉に行くメンバーを集める事となったのだが。

 

 

「温泉か!公務もひと段落した事だし俺も着いていって良いか」

 

「アーサー」

 

「主様、まだ書類の山が残っていますけど」

 

「なーに、頑張った自分へのご褒美だよ。マーリンもどうだ?」

 

「…分かりました。お供します」

 

「よし!そうと決まれば善は急げだ!」

 

 

笑顔のアーサーが学院を出ようとした時任務を終え帰還したランスロットと出会った。

 

 

「おぉランス、今から温泉に行くのだがお前もどうだ?」

 

「分かった。同行しよう」

 

 

アーサーの言葉に頷きランスロットも同行する事に。更に前庭でディナタンとマルディサントと会う。

 

 

「あっ、兄さん。みんな揃ってどうしたの?」

 

「温泉に行こうと思ってさ、ディナタン達もどうだ?」

 

「温泉か、悪くねぇな。行こうぜディーナ」

 

「そうだねマァル。私達も付いてって良いかな?」

 

「温泉に行くなら私達もついて行くわ」

 

 

そしてギネヴィア、ギネマウアと出会う。

 

 

「マスター私もお供致します」

 

「俺も行くぜ。たまにはでけぇ風呂はいりてぇもんな」

 

「さんせ〜♪湯船で足伸ばすの気持ちいいもんね♪」

 

「随分と人数が増えたな」

 

「それでノワール。どこの温泉に行くんだ」

 

「ローマン・バスという温泉なんだ。場所は…」

 

「私が教えてあげますよランスロット卿。ローマン・バスはロンディニウムの都にある温泉です」

 

「うぉ、ウレリー」

 

「疑問がある場所に私あり、だよ♪私もついて行くね♪」

 

 

 

ノワール一行はロンディニュウムの都にあるローマン・バスへと行く事に。

 

ロンディニュウムとは大国ローマがログレスに築いたローマの離れ都でありローマ大国とログレスとの友好の証でもある。

 

故にログレスは大国の技術を学ぶ為に多くの学生を留学に行かせておりローマもGSを学ぶ為に留学生を送っている。

 

大国ローマの離れ都とはいえログレスとは比べ物にならない程ロンディニュウムは華やかであり多くの観光客や学院の生徒が訪れる場所だ。

 

そして風呂好きのローマ人の為にロンディニュウムにある温泉もかなり手の込んだ作りとなっている。

 

 

「これは、、すごいですね」

 

 

ローマン・バスの外観を見てグリードが思わず声を上げた。ラグナ大陸で温泉といえば純和風を想像するのだがローマン・バスは完全なる洋風作り。まるで宮殿のような外観に期待が高まる。

 

 

「日頃の疲れを癒そうか。二時間後ここに集合だな」

 

 

アーサーの言葉に男女に分かれ脱衣場へと入ってゆく。

 

 

「ノワール良い身体してんな、後で腕相撲しようぜ!」

 

「そう言うガウェインもな。あぁ、本気でやるぞ!」

 

「うんうん、これぞ青春ってやつだな!」

 

 

アーサーの声に目を向けると普段の鎧を脱ぎ全裸となった姿。その全身は無数の傷跡を残す隆起する筋肉に包まれる。

 

 

「すげぇ、、」

 

「これでも騎士だからな。まだ若い奴には負けられんよ」

 

 

タオルを一枚背にかけ笑う。

 

 

「ノワールと風呂に入るのも久しぶりだな」

 

「あの時以来か」

 

「あの頃は良く背を流してやっていたな、今は一人で洗えているか」

 

「バカにするな。ランスロットも頭の泡を流し忘れて良く母さんに拭いてもらっていたじゃないか」

 

「懐かしい話だ」

 

 

ランスロットも同じく身体中に古傷をつけ細身の身体は筋肉で絞まる。

 

その頃女性陣は多いな盛り上がりをみせていた。

 

 

 

「マーリンって着痩せするって良く言われない?」

 

「そうでしょうか?あまり肌を人目に晒す事がないので分かりません」

 

 

ギネヴィアの視線の先には魔導士衣装を脱ぎ長い金髪をヘアゴムで纏める姿。普段ローブに包まれる身は女性らしさを醸し出す。

 

 

「教えてあげる。あぁいう余裕のある服はボディーラインをうつさないからそう見えるんだよ」

 

「………」

 

 

そう言うウレリーのと自身のを見比べ顔を逸らした。

 

 

「ギネヴィアは成長の途中なのですよ」

 

「気を落とさずに」

 

「あんた達服脱いだらどっちがどっちか分からないわね。本当に双子なんじゃない?」

 

「殿下、良く見ると違いが分かりますよ。ほら、グリード様の方が瞳の色が濃いです」

 

「よく気づいたわねお姉ちゃん、、」

 

「ディナタンちゃんは細いねぇ♪よいしょっと」

 

「ラグネルさん!?抱っこは恥ずかしいです、、」

 

「なにしてんスかラグネル先輩!?」

 

「春とはいえ衣服を纏わぬと冷えますね、行きましょうか」

 

 

マーリンを先頭にへと続くドアを抜けるとちょうどドアを抜けた男性陣と鉢合わせた。

 

 

「マーリン!?」

「主様!?」

 

「はっ?え、混浴なのっ!?」

 

「ノワール!?どう言う事なのよ!?」

 

「いや!俺も知らなかったんだ!!」

 

「ノワールくんにはお仕置きが必要だね!」

 

「本当だ!俺は何も知らなかったんだ!」

 

「ディーナの兄さんサイテーだな」

 

「うん、、これはひどいよ兄さん、、」

 

「ぶち抜け!ロンゴミアント!!」

 

「仰せのままに」

 

「ぐわぁぁっ!?」

 

 

一悶着の後、入浴の注意事項が書かれた看板を読みタオルを巻いての入浴となったのだがしばらくノワールは女性陣と口を聞いてもらえなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

6月10日/キャメリアード城奪還

 

 

 

 

ローマン・バスの一件からしばらくが経ちノワールが女性陣の機嫌を取り終えた頃一同は円卓の間へと呼び出されていた。

 

 

「来たか」

 

 

姿を見せた一行を見てケイが眼鏡を掛け直し今回の任務について語り始めた。

 

 

 

「しばらくの間キャメリアード城を監視させていたが敵の動きが無い事から奪還を開始する」

 

「任務に付いてだがキャメリアード城からカレドニア兵の排除、及び城の制圧だ。頼めるかノワール」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「隊列は前回と同じだがトリスタンとイゾルデは別件の為隊から外れる。二名が抜け手薄になってしまうが」

 

「問題はありません。マスターの為尽力を尽くします」

 

「頼もしいわね♪それでその任務はいつするの?私は今すぐにでも行きたいんだけど」

 

「喜べギネヴィア!今から行けるぞ!」

 

「えっ!?やったぁ!」

 

「急な任務となり済まない。カレドニア兵に不審な挙動が見られこちらも早めに手を打たねばならんのだ」

 

 

「スタンド・バイ・ユアランド」

 

「待って下さい」

 

「どうしたグリード?」

 

「任務の内容にギネヴィアの父の奪還も加えてもよろしいでしょうか」

 

 

グリードの言葉に全員が目を見開きやがてただ一人を残し目を伏せた。

 

 

「「フォー・ラウンド!!」」

 

 

場を取り付くように拳を突き上げると全員が拳を上げ応えた。

 

 

しばらくして一行は前庭へと集まりマーリンが転移魔法を行う為の準備を見ていた。

 

 

「私の魔力が貯まるまでしばらくお待ち下さい」

 

 

魔導書を読み呪文を詠唱してゆくとマーリンから魔力が立ち上りオーラとなり身を包んでゆく。

 

 

「ノワール、それに皆もキャメリアードを頼んだ」

 

「ランスロット」

 

 

振り向くとそこには歩み寄るランスロットの姿。やがてランスロットはノワールの肩を叩いた。

 

 

「大丈夫だ、ティルフィングもグリードも居る。それに友達の家を奴らの好きにはさせておけない」

 

「そうよ、ノワールもグリードも私が買い上げた傭兵なんだから私の祖国の為にしっかりと働いてもらわないとね♪」

 

「そういえばまだ買い上げられた時の対価を貰ってないんだけど」

 

「大丈夫、キャメリアードはグリードが言うには温泉が出るみたいだからその時の利益でちゃんと支払うからね♪」

 

「随分と先の話しだな。でも楽しみにしているよ」

 

「お待たせしました。こちらにお集まり下さい」

 

 

マーリンの方を向くと地面に描かれた魔法陣が。その上に乗るとふわりと身体が宙に浮く。

 

 

「お願いします。それと皆様の無事を祈っています」

 

「スタンド・バイ・ユアラウンド」

 

「フォー・ラウンド」

 

 

二人のやり取りを見ているうちに意識が遠のき次に目を開けるとそこは以前マーリンが魔力を記したキャメリアード城の側。

 

時刻は正午を指し心地の良い太陽が照らすキャメリアード城はバルバロイの数こそ少ないが多くのカレドニアの傭兵の姿が見える。

 

 

「どうしますマスター、敵の数は少ないですが城内に入れば囲まれる恐れがあります」

 

「城内に踏み入る前に奴らの殲滅をしましょうか」

 

 

既に剣を抜き構える二人にならいノワールも剣を抜く。そして一人城へと向かうギネヴィアへ声をかけた。

 

 

「どこに行くんだ」

 

「どこにって家に帰るのよ。まさかコソコソ隠れて行くだなんて言わないわよね」

 

 

槍を構え堂々と城へと続く道を歩んでゆく。その姿を見て傭兵達が黙っているはずもなくバルバロイへ攻撃をする様に指示を出す。

 

 

「お姉ちゃん」

 

「はい、殿下」

 

「『因枢分解』ロンゴミアント!!」

 

 

華麗にギネマウアがお辞儀をすると瞬間の閃光を放つ。そして光の減少と共に一陣の風が吹いた。

 

風の正体はギネマウアが走り手に持つ槍を振るった事だった。巨槍とも呼べる大型の槍を軽々と扱い一匹のバルバロイを串刺すと続けて二匹目を刺し刺し抜き亡骸を振るい捨てる。

 

 

「さぁ、この城の王女の帰還よ。道を開けなさい!」

 

 

高らかに声を上げ歩むギネヴィアの横をギネマウアが歩む。その姿を見てノワール達も後に続いてゆく。

 

 

「敵が来ますマスター!戦えますか?」

 

「当たり前だ!これぐらいやってみせる!」

 

「なら勝負でもしますか?どちらが多くの命を奪えるか」

 

「言い方!」

 

「そうでしょうか?何事も楽しみは多い方が良いですからね」

 

 

そう言うと武器を振おうとした傭兵を横に斬り真っ二つに分かれた上半身の首を掴み敵陣へと放り投げた。

 

まだ生のある兵は臓物を引きずりながらもがき言葉を呟きながら絶命する。

 

突如行われた猟奇的とも呼べる行動にみるみる傭兵達の顔が青冷めてゆきグリードが一歩足を進めると後ろへと後ずさる。

 

 

「士気の低い傭兵ですね。この程度の事で怖気付くとは」

 

「カレドニアは捕らえた民を傭兵としていますからね。彼らもその中の一部かと」

 

「成る程。領地を奪われ更に命まで囚われ哀れですね。しかし情けをかけるつもりはありませんよ」

 

 

タンっと足音が響き少しの間の後に血飛沫が舞い傭兵達は地に伏す。その中で唯一立つグリードは光悦とした眼差しで亡骸を眺めノワール達の元へと戻ってゆく。

 

 

「いや、俺もあんな事されたら流石に引くぞ」

 

「私も、、ちょっと引いたわ、、」

 

「それが普通の感性なのですね。した事はありますけどされた事はありませんので」

 

「もしされたらどうするのよ?」

 

「一人たりとも生きて返しません。一族郎党壊滅させるまで剣を振るいます」

 

(こえぇ、、)

 

「マスター、これで敵はほぼ壊滅しました。逃げた者たちは如何なされますか」

 

「少数なら放っておこう。それよりも城を取り返そう」

 

 

見上げた先には滅び朽ちかけている城の入り口がまるで一行を待ち受けるかのように口を開ける。

 

しかしここで歩みを止める者はおらず一歩ずつ歩み城内へと入ってゆく。

 

 

「パパ!何処なの!何処に居るの!?私よ!ギネヴィアとギネマウア!帰って来たのよ!!」

 

「先行しないで下さい!ここは今敵の陣営です!」

 

「そんなの知らないわよ!ここは私達の家、そうでしょ!?」

 

 

ギネヴィアの悲痛な叫びが石造りの城内に木霊し反響する。しかし叫びに返事が返ることは無く代わりに頬を打つ音が響いた。

 

 

「良い加減にしなさい、、!ギネヴィアが先行すれば陣を崩す事になる事が分からないのですか!」

 

 

頬を打った主は唖然とするギネヴィアの前に立つとしゃがみ込み頬へ手を伸ばし優しくさすった。

 

 

「お姉ちゃん、、わたし、、」

 

「はい、落ち着いて下さい。はやる気持ちは分かりますが今は心を鎮めて下さい。ほら」

 

 

ギネマウアが差し出した手を握りゆっくりと立ち上がるとノワール達を向く。

 

 

「行きましょう。案内は私達がしますので」

 

「俺が前に出る。背後から案内を頼む」

 

 

ノワールが前に立ち振り返るとギネマウアは頷きギネヴィアは涙を拭き笑った。

 

 

「にししっ♪頼んだわよ、私の騎士。しっかり私たちをエスコートするのよ♪」

 

「私は後方を」

 

「私は右を。進みましょうか」

 

 

ティルフィングを後方へ、グリードを右翼へ、そしてギネマウアを左翼に配置し一行は城の奥へと進んでゆく。

 

薄暗いと思われた城内は崩れた外壁から差し込む日差しで明るく視界に困る事なく進み最奥へと続く扉の前へとたどり着いた。

 

 

「この先がいつもパパがいる部屋よ。この部屋はとても広くて良い部屋なの」

 

「あぁ、開けるぞ」

 

 

ノワールが扉を開けると舞い込んだ風に乗り埃が舞い上がりきらきらと輝く。そして扉から差し込んだ光が部屋奥へと伸びる。

 

 

「パパ!!」

 

 

ギネヴィアが叫んだ。その視線の先には王座に腰掛ける一人の男性の姿。まるでおとぎ話から出て来たような絵に描いたような王様が王座に腰掛け視線を二人へと向けた。

 

 

「逃げろ、、、ギネヴィア、、、ギネマウア、、、」

 

 

父親の忠告に二人は顔をハッとさせ足を止める。その言葉の後に王座の後ろから何かが姿を現した。

 

 

「こんな廃城へなんの用かしら?まさかお父さんを連れ戻しに来ただなんて言わないわよね」

 

 

ゆったりと姿を見せたのは肌をほとんど晒した女性。しかし顔は仮面を被り素顔は見せず。

 

 

「こんにちわ、私は魔女モーロノエー。このキャメリアード城の主よ」

 

「ふざけた事言わないで!!何がこの城の主よ!」

 

「あら、この城から逃げた癖に随分と立派な事を言うのね。あなた達の事はお父さんの記憶で嫌という程知らせて貰ったわ。『異国のコイン』この父親が作った物語が随分と好きなようね」

 

 

高笑いをしながら王様の肩へと腕を回し首筋へと口を立てる。すると王様は目を見開きぎょろぎょろと回す。

 

 

「賭けをしましょう。この父親の記憶が私に取り込まれる前に私を倒す事ができればあなた達の勝ち。負ければ父親はバルバロイとなり、そうね。戦わせてあげる」

 

「ふざけるな!人をなんだと思っているんだ!!」

 

「人は私達のご飯。それ以上でもそれ以外でもないわ」

 

 

ひとつ冷笑を浮かべると腕を一振るい。すると部屋中をバルバロイが埋め尽くす。

 

 

「制限時間は5分。それまでに私を倒さないと父親はバルバロイよ」

 

 

高笑い王座に座る王を跳ね除けると座り足を組み頬杖をつく。

 

 

「ノワール、ティルフィング、グリード、お姉ちゃん。私に力を貸して!あいつをブチのめす!」

 

「あぁ!必ず成し遂げる!」

 

「万物切り裂く錆びずの魔剣。この切れ味とくとご覧にいれましょう」

 

「仰せのままに」

 

「強欲のグリード、いざ」

 

 

四人は迫るバルバロイを切り伏せ進む。しかし無限の如く湧き出るバルバロイに足止めをされ進軍は牛歩の如く遅い。

 

 

「ほらほら、後3分よ。後3分で父親はバルバロイ」

 

 

怒声が響く場内に楽しむ笑い声が響く。

 

 

「このままでは辿り着けません!」

 

「誰か一人、一人でもあいつの元へ!」

 

「その任務私にお任せを」

 

 

問い掛けに名乗りをあげたのはグリード。しかし名乗りをあげたのだが剣を鞘に納め身体を深く屈ませ目を閉じた。

 

 

『黒式・一紅閃』

 

 

グリードの行動に戦闘の最中にも関わらず目を向けると既にそこに居たはずのグリードの姿は無く。

 

その代わりモーロノエーへと向かう一筋の閃光と散り散りとなり宙を舞うバルバロイの破片を見た。

 

そして王座へと続く道の先でモーロノエーの首を掴み立ち上がらせるグリードの姿。

 

 

「なっ!?」

 

「私の勝ちの様ですね。記憶を返して貰いますよ」

 

 

首を掴む左手を取ろうと両手を使い踠くが手は離れる事はなく。やがて鈍い音と悲鳴が上がった。

 

それはグリードが右拳をモーロノエーの腹部へとめり込ませた音。それを一度ではなく何度も腹部へと拳を打ち込みながらモーロノエーを追いやってゆく。

 

 

「あがっ!?」

 

「まだ吐きませんか。魔女という者は随分と丈夫なのですね」

 

 

既に腹部の皮膚は内出血を起こし青く染まり拳の跡を残す。やがてモーロノエーの背が何かに当たった。

 

 

それは壁だった。今までは衝撃が宙に逃げる事ができていたが壁が背に付いた事により拳の勢いは逃げる事なく腹部を貫く。

 

 

「返せ!返せ!!返せぇ!!!」

 

 

内臓が抉られ堪らずモーロノエーは苦痛を叫ぶ。それでもグリードの拳は止まらず腹部を抉りあげる。

 

 

『返せ!!!』

 

 

両手で両肩を持ち屈ませるとそれを右膝が迎え打ち何かが破裂するような音と共にモーロノエーの口から血反吐と透明な何かを吐き出し手を離すと吐いた血に倒れた。

 

 

透明な何かを拾い上げグリードは王様へと押し付けるとそれは王様の中へと入ってゆく。

 

その頃ノワールの剣戟を受け最後のバルバロイが倒れ一同は王様の元へと集う。

 

 

「パパ、、、パパ!!」

 

 

倒れる王様を娘が揺りしばらくすると唸りながら目を開け娘二人へと視線を向けた。

 

 

「ギネヴィア、、ギネマウア、、」

 

 

呟く父の手を取り応えるとゆっくりと頷いた。

 

 

「・・・・・おかえり」

 

「「ただいま」」

 

 

にっこりと微笑む父と涙ぐむ二人に微笑み三人は魔女の方を見る。しかし倒れていたモーロノエーの姿は無くあるのは乾きかけた血の跡のみ。

 

 

「消えた。深傷を負わせたはずなのに」

 

「グリードは何をしたんだ?」

 

「腹を殴り続けました。吐くと思って」

 

「お、おぉ、、」

 

「魔女モーロノエー、、、」

 

「知っているのですか?」

 

「はい、一千年も前、私達も魔女達と戦いました。しかし勝敗は付かないまま」

 

「なるほど、何か秘密がありそうですね」

 

「魔女には謎が多く唯一分かる事はバルバロイを操る事、それだけです」

 

 

ティルフィングの眼差しの先には乾いた血の跡。そしてグリードの腕に付いた魔女の返り血。それに気が付いたグリードが腕を払うと血のかけらが床へと落ちてゆく。

 

 

しばらくして三人に視線を向けると体を起こした王様が抱き付く二人の頭を撫でていた。

 

 

「ねぇパパ、物語聞かせてよ」

 

「あぁ、『異国のコインは答えました。そういった夢を持てる時点で君は充分にリッチだ』

 

『君が貧しい気持ちでいるのはそれに気が付かないままだからだ』

 

『異国のコインを磨いてごらん。そうすれば』

 

『誰かが話を聞きに来る』

 

『異国のこと、一生懸命な貴方のこと他愛無いおしゃべり、コインをきっかけに』

 

『君にお似合いの誰かが』

 

『キミの思いに一致する誰かが』

 

「ずっと思い出せなかった物語の終わり、、やっと思い出せた」

 

「お父様の記憶が戻っている、、」

 

「ねぇパパ。私達の事覚えてる?」

 

「あぁ、ギネヴィア、ギネマウア。ワシの大切な娘達、、」

 

 

親子のひと時の邪魔をする訳にもいかず三人は振り向いたギネマウアに視線を送り城の外へと。

 

城を出るとすっかり日が暮れ辺りは無音の静かさに包まれていた。

 

 

「良い夜ですね。ワインでも傾けたいです」

 

「キャメリアードを奪還したんだ。しばらくのんびりする時間はできるはずだ」

 

「そうですね。しかし魔女もこの時代に居るのなら平穏も長く続きそうにありません」

 

 

見上げると城の真上には満月が浮かび柔らかい月光が降り注ぐ。

 

 

そして三人が同時に剣を抜いた。

 

 

「キャメリアードを奪還したからって良い気にならない事ね。古代の遺物」

 

 

三人の前には魔女、モーロノエーの姿。月光に浮かび上がる顔は余裕を浮かべる。

 

 

「え、遺物が二人?」

 

「グリードです」

 

「ティルフィングです」

 

「ノワールだ」

 

「…まぁ良いわ。いずれ私達がこの世界を飲み込んであげる。しばらくの猶予を楽しみなさい」

 

「あの、お腹大丈夫ですか?」

 

「痛いわよ今も!グリードと言ったわね。あなたには最大限の屈辱を味合わせてあげる」

 

「楽しみにしています」

 

 

仮面越しにグリードを睨むと魔女は姿を消した。

 

 

「ふふっ、この世界の住民は面白い方が多いですね」

 

 

月明かりを浴びながらグリードは大きく体を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

6月15/その頃

 

 

 

 

 

ノワール達がキャメリアードに向かった後ランスロットは馬に乗り草原を駆けていた。馬の背には荷物で膨らむ大袋が二つ揺れる。

 

 

やがてランスロットはカレドニア近辺にある森へと入って行った。

 

 

「ん」

 

 

朝食を食べ終え咎人の隠れ家の前で煙草を吸う彼が短く声を上げ煙草を咥えると右手を腰に携えた剣へと伸ばし警戒を張り木々の間を睨む。

 

それは相手も同じで木々の隙間から彼を睨みまだ姿を見せないまま牽制をし合う。

 

しかし二人の牽制は表へと出た咎人により解かれランスロットは木々の間から姿を見せた。

 

 

「お久しぶりです師匠」

 

「良いところに来たな、丁度頼もうと思っていたところだ。それとこいつの紹介をしなくてはならないな」

 

「ん、この人ってあの写真の人だよね?僕はユウ、君は?」

 

「俺はランスロット。お前、グリードのマスターか」

 

 

ユウと名乗る青年は名前と紺色の上着、そして髪型がグリードの言っていた手掛かりと合致しての発言。その予想は当たり彼は大きく頷いた。

 

 

「良かった。ティルは何処に居るの?教えてくれないかな」

 

「あぁ、グリードはキャメロットに居る。お前は何故ここに」

 

「僕はティルとキャメリアードに温泉旅行に来たんだけど離れちゃってさ。それでこの人に助けてもらったんだ」

 

「まぁこれも縁ってやつだ。ランスロット、其方の状況はどうなっている」

 

「ノワール達はキャメリアード奪還へと向かい今頃手柄を立てているかと」

 

「なるほどな。よし、お前の探してる人はキャメロットに居る様だがお前はどうする。ランスロットと共に学院へ行くか」

 

 

咎人の提案に彼は難しい顔をして煙草を一本咥えると火を付けて煙と共に返事を返した。

 

 

「咎人と居るよ。生きてるって分かったしティルがバルバロイにやられるなんて考えられないしさ。それに助けてもらった恩は返すよ」

 

 

返事を聞き二人は頷いた。

 

 

「すまない。本来ならすぐにでも会わせるべきなのだが」

 

「いいよいいよ。そうだ、ランスロット君はその学院に戻るんだよね?」

 

「あぁ」

 

「ならティルに僕は無事って伝えてくれないかな?元気にやってるよって」

 

「承知した」

 

「お喋りはここまでだ。来客だ」

 

 

咎人の目線の先で木々を刈り倒し怒涛の如く姿を現せたのはバルバロイ・コロッサス。

 

三人を粉砕しまいと雄叫びを上げその巨体から見下ろす。

 

 

「ふふふ、古傷が痛む。俺は戦闘に参加できそうもない。ランスロットも長旅の疲れで戦闘は無理だろう」

 

「師匠、俺なら大丈夫で、、。そうだな、この疲れでは奴に喰われてしまいそうだ」

 

 

言いかけた言葉は咎人の目配せにより閉じられ代わりに目線が送られた。

 

 

「えっと?」

 

「お前の剣捌きを見せてみろ」

 

「冗談キツくない?」

 

 

そう言いながらも剣を抜き二人の前へと出るとバルバロイ・コロッサスへと剣を向けた。

 

カレドニア国王ライエンスにより仕向けられたコロッサスは王の命令を遂行しようと立ち塞がった彼に向かい斧を振り下ろす。

 

 

「師匠、何故止めたのですか」

 

「俺はあいつが戦っている所を見た事ないからな。もし奴がコロッサスにやられる様なら学院へ帰そうと思ってだ。だが、杞憂に終わったな」

 

 

二人の目線の先では振り下ろされた斧を刀身で受け斜めに滑らせ地面へ斧を運ばせる様。そして返す剣は斧を持つ手を斬り落とし次の瞬間には落とされた斧を踏み台に飛び首を両断する姿。

 

 

「処理完了っと」

 

 

返り血がかからない場所で煙草を咥えると火を付けた。

 

 

「見事な剣捌きだ。ログレスの上級兵、いや、円卓の騎士にも劣らない」

 

「よし、ランスロット。蜻蛉返りで悪いが学院へ帰還するんだ。それと次来る時は煙草を頼む」

 

 

ニヤリと笑う咎人を見てランスロットは二人へと声をかけると学院へと踵を返した。

 

 

 

 

 

 

6月20日/キャメリアードより凱旋

 

 

 

 

 

ノワール一行はキャメリアードよりログレスへと帰還していた。本来なら徒歩でも二日の距離なのだがギネヴィア、ギネマウアの父、キャメリアード国王レオデグランスが魔女モーロノエーにより記憶を抜かれ抜かれた記憶をグリードにより戻されその時のダメージの回復を待っての帰還。

 

 

「パパ見て!学院が見えてきたわよ」

 

 

ギネヴィアが指差す方にはキャメロット騎士学術院がようやく見せてきた。

 

 

「ありがとう。ギネヴィア、ギネマウア。それに娘の友人達よ」

 

「いや、俺は何も」

 

「ふふ、お礼は素直に受け取るべきですよ」

 

「しかしだな、、」

 

「なら次、結果を残せば良いのです。マスターはまだ高みへと昇る途中なのですから」

 

 

にっこりとティルフィングがノワールへ笑いかけるもノワールの表情は険しいまま。

 

それでも6名はログレスへと帰還してゆく。

 

 

「やったなノワール」

 

「ガウェイン」

 

「キャメリアードからの凱旋だね♪えっと、其方の方は誰なのかな?」

 

 

帰還した6名を出迎えたのはガウェインとラグネル。無事に帰還した姿を見て喜びながら一人増えている人に疑問を抱く。

 

 

「二人共、この人は私達のパパよ。みんながパパを助けてくれたの」

 

「ウソだろ!?この人が!?」

 

「うそっ!だってキャメリアードはあんなんになっちゃてたのに」

 

「詳しい話は円卓の間で話すわ。さっ、行こ」

 

 

ギネヴィアが前を歩き一行は円卓の間へと。

 

無事帰還した5名を見てアーサー、ケイ、マーリンは笑顔を浮かべその笑顔はもう一人を見て驚きへと変わった。

 

 

「レオデグランス王、無事で何よりです。しかし何故」

 

「私の家に魔女が居たのよ。その魔女が私達が帰ってくるまでお留守番をしながら待っててくれたってわけ」

 

「魔女?」

 

「私がお話しします。魔女とは一千年も前から存在するバルバロイを操る大元です。しかしカリバーンの封が解けバルバロイと共に現世へ姿を現せてしまった」

 

「なるほど、新たな脅威ということか」

 

「魔女モーロノエーはレオデグランス王を娘達と戦わせる為に生かしておいた。そういう事か」

 

「はい、魔女の性格は残虐で狡賢い。私達も何度も苦戦を強いられました」

 

「それでその魔女モーロノエーはどうしたんだ」

 

「モーロノエーなら今頃腹痛に苦しんでいますよ」

 

「「?」」

 

 

アーサーとケイが向ける顔の先でグリードは微笑んでいた。

 

 

「そういえばノワールは何処いったんだ?さっきまでここに居たろ?」

 

「あっほんとだ」

 

「俺、探してきます。大丈夫っすよ、後で話はラグネルからちゃんと聞くんで」

 

 

そう言って円卓の間から出て行ったガウェインを見送り対魔女への作戦が練られてゆく。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

その頃ノワールは一人学院の外で素振りを行っていた。円卓会議を抜けてのこの行為は一歩でも今より強くなろうという決意の現れ。

 

そんな時ノワールの前に数匹のバルバロイが姿を現した。

 

 

「バルバロイ!」

 

 

素振りを止めすぐ様剣先をバルバロイへと向け視線は背後に居る人を探した。しかしここにはノワール一人であり誰も居るはずはない。

 

背後を気にした事を笑いノワールはバルバロイへと斬り込んでゆく。

 

ノワール自身は過去に傭兵団の団長をしており戦闘経験は豊富にある。その時の知恵を駆使し容易くバルバロイを斬り伏せ草原に立つのはノワールのみ。

 

 

「よっ、やってんな」

 

「ガウェイン」

 

「お前を探してたらバルバロイを見つけてさ、走ってきたらもう全部倒された後だ」

 

「残しておいた方が良かったか?」

 

「いや?そんなこたーねぇけどよ。お前何に悩んでるんだ?」

 

「俺は・・」

 

 

歯切れの悪い返事をするノワールの横にガウェインが座りやがて寝転がった。

 

 

「はなしてぇなら話してくれ。言いたくねぇのならそれはそれだ」

 

 

しばらくして寝転がるガウェインの横にノワールは寝転がりぽつぽつと話し始めた。

 

 

「今回のキャメリアード奪還で俺はグリードの背を見ている事しかできなかった。戦果を上げたのはグリードだよ。それにギネヴィアの父さんを助けたのも。俺はただ見ている事しかできなかった」

 

「グリードはつえぇもんな。俺もあいつと戦闘に出たらただ見てる事しかできないだろうよ」

 

「俺はそれが悔しいんだ。アーサーに、ランスロットに学院に恩があるというのに俺はただ見ている事しかできない事が。こんな事じゃ俺は『本当』になんて辿り着く事はできない」

 

「でもよ、追いかける背中があるってのは良い事だと思うぜ。俺とラグネルはローマの育ちなんだけどそん時とんでもなくつえぇ人が居てさ、ずっとその人の背を見て強くなろうってそう二人で約束したんだ」

 

「ガウェイン、、」

 

「まぁ、なんつーかその背を追いかけんなら俺も手を貸してやるって事だ」

 

 

ふとガウェインが立ち上がると手に持つ大鎚をノワールへと向けた。

 

 

「半端な言葉かけるよりこっちの方が手っ取り早いだろ」

 

「そうだな、、ありがとうガウェイン」

 

 

立ち上がり剣を構えガウェインと対峙してゆく。

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

その頃円卓会議が終わりグリードは学生寮へと戻っており戦闘服を脱ぎシャワーを浴びていた。

 

その時、グリードの右手に小さな痣ができていた事にグリードは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

6月26日/ルーシャスゲーム

 

 

 

このキャメロット騎士学術院には海を隔てた大帝国ローマからの留学生が居る。フレン、ローラ、ラシアの3名、特別講師としてヴェルナルスそしてもう一人、ローマ国の皇太子、ルーシャス。

 

皇太子自らの留学する理由としてGSについて学ぶ事。GSはログレス国が持つバルバロイに対抗する唯一無二の手段でありGSを持たないローマは喉から手が出るほどGSの術が欲しいのだ。

 

4名を留学させる代わりにログレスはローマとの貿易ができている。

 

 

本日ノワール達は円卓の間に集められケイの指示を聞いていた。

 

 

「来たか、貴公らを呼んだのは他でもない。ロンディニュウムにいるルーシャス皇太子殿下に兵を貸して欲しいと交渉してきてもらいたい」

 

 

片眼鏡を直しながら告げられた先でトリスタンはうんざりした顔を向けた。

 

 

「その任務僕もいかないといけないのかな、行きたくないんだけど」

 

「聡明な知を持つトリスタンに交渉をおこなってもらいたくてな。ノワールとガウェインはその護衛だ」

 

「うぇ!俺も行くのかよ」

 

 

トリスタンと同じくうんざりとした顔をケイに向けそれをノワールは疑問に思う。

 

 

「そんなにルーシャスは嫌な奴なのか?」

 

「ただの嫌な奴で済めば良いけどあいつは大帝国ローマの皇太子。狡猾な権力者って言えば僕達がゲンナリしてる意味が分かるよね」

 

「あぁ、、それはそうだな、、」

 

「私がルーシャスの首を縦に振らせましょうか」

 

「グリード、万が一貴女がルーシャス皇太子殿下に手を出せばローマ国からログレスへ百千の兵が押し寄せると知れ」

 

「なら、その全てを斬り伏せるまでです」

 

「グリードならやりそうだな。よし、とりあえずルーシャスを説得しに行こう」

 

「スタンド・バイ・ユアラウンド」

 

「「フォー・ラウンド」」

 

 

アーサーの号令の元8名はロンディニュウムにあるローマの宮殿へと向かった。

 

 

「はぁ、皇太子殿下サマの事だ。どうせ僕らが頼んでも断るって笑顔で言うのが目に見えてるよ」

 

「そんなのやってみないと分かんないじゃん?ほら、当たって砕けろって言うしさ」

 

「砕けないでもらえるかしら?それにローマからの援助を受けられれば兵力で負けているカレドニアを倒す一手になるわ。この機を逃すわけにはいかない」

 

「イゾルデまで僕にプレッシャーをかけるのはやめてくれないかな。ただでさえアイツを相手にするのにうんざりしているのに」

 

「頑張って下さいトリスタン様」

 

「うぇ」

 

 

笑顔でティルフィングに言われトリスタンはますます嫌そうな顔をした。

 

それからしばらく歩き宮殿の前に行くと学院の制服を着た少女二人の出迎えを受けた。

 

 

「「ローマの都にようこそ」」

 

「アーサー様から話は伺っております」

 

「ルーシャス君はこの宮殿の奥に居るよ」

 

「ルーシャス様だってお姉ちゃん、、。『武器』の持ち込みはルーシャス様への不敬となりますのでここでお待ち下さい」

 

「マスターの安全が保証して貰えるのならその案を受け入れます」

 

 

ティルフィングの威圧を込めた言葉にローラは尻込みしフレンの後ろへと隠れた。

 

 

「大丈夫だよ、ルーシャス君だってログレスには留学の恩があるし。其方に不敬が無ければ」

 

 

負けじと言い返したフレンとの視線の火花が散りかけたがイゾルデの呆れたため息を聞き視線が逸らされた。

 

 

「上手く行くと良いね」

 

 

姉妹により宮殿を閉じる堅牢な扉が開かれ三人が宮殿へと入ると重厚な音と共に扉は閉じられた。

 

 

「果報は飲み待て。ですね」

 

 

いつの間にか手に握られたエールを煽る姿を見てイゾルデはまたため息を溢した。

 

 

「おっ、いいねぇー♪私も一本貰おっかなっ」

 

「ラグネル」

 

「…はいっ」

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

「まったく。豪勢な歓迎だね」

 

 

前を歩くトリスタンが嫌味を溢した。それは王間へと続くカーペットに煌びやかなシャンデリアの光、廊下の端にずらりと並び睨みを効かせる兵士の姿。そして後ろには姉妹が付く。

 

 

「歓迎ってムードじゃねぇけどな」

 

「嫌味だよ嫌味」

 

 

長い廊下を抜けもう一つ扉を開くと再び大勢の兵士の姿。その後ろ、王座に腰掛ける一人の男性とその横には黒鎧に身を包む男性の姿。黒鎧の男の後ろには可愛らしい顔をした女の子が一人。

 

 

「よくぞ参った学院の使者よ。話はアーサー王から聞いているぞ」

 

「それなら話は早いね。ログレスへ兵を貸して欲しい」

 

 

冷ややかな目線のまま願いを告げるとルーシャスは笑顔を浮かべ「断る」と言い放った。

 

 

「ほらみろ」

 

「いや、まだ話は始まったばかりじゃないか」

 

「しかしログレスにはGSの勉学をさせてもらっている恩がある。余が出す三つのゲームをクリアする事ができたのなら兵を貸してやらん事もない」

 

「本当か!?さすがローマの皇太子様だな!」

 

「それでその三つのゲームとやらはなんだい」

 

「一つ、ログレスの偽りの姫、ギネヴィアを余に差し出せ」

 

「それはできない。ギネヴィアはアーサーの許嫁だ」

 

「それがどうしたのだ。ログレスの危機と小娘一人どちらが大事か考えなくても分かる事だろうに」

 

「抑えろノワール。それで後二つのゲームは」

 

「ふむ。一つ、継承者とは誰の事だ」

 

 

王座に頬杖を付き三人を見下し僅かな動きをとらえ笑う。

 

 

「おぉ!目が語り合ったぞ。継承者はノワールであったか!」

 

「なんで分かったんだ!?」

 

「それみろ将軍!やはり継承者はノワールであった!」

 

「ルーシャス様は人が悪い」

 

 

愉快に笑うルーシャスにトリスタンは盛大にため息を吐いた。

 

 

「見事な観察力だね。ガウェインの目線を読みカマをかけた」

 

「一つ目のゲームはクリア。そしてもう一つ」

 

 

ルーシャスの言葉に兵は雄叫びを上げ武器を構えノワール達を囲う。すがる視線の先にはニヒルに笑うルーシャスの姿。

 

 

「生きてロンディニュウムを脱出せよ」

 

 

そう告げると王座へと座り直し再び頬杖を付き高みの見物。

 

 

「死にゲーだよ、まったく」

 

「ガウェイン!俺と前に出るぞ!トリスタンは支援を頼む!」

 

「よっしゃ!俺達の力見せてやろーぜ!」

 

 

それでもノワールは諦めず前線を張り迫る兵士をたち切り進路を築く。その横でガウェインが振るう大鎚が唸る。

 

 

「そこ!」

 

 

二人の合間を縫い矢が飛来し兵を討つ。三人の戦いを見てヴェルナルスは声を上げた。

 

 

「ノワールという男」

 

「どうした将軍」

 

「戦いに慣れています。余程の鍛錬を積んだか過去に兵を携えたかと」

 

「ほぉ、確かに」

 

「円卓の騎士は若年ばかりと聞いていますがこれは」

 

「将軍も出張るか」

 

「いえ、それにはまだ早いかと」

 

 

トリスタンの放つ矢を受けた兵をノワールとガウェインが叩き次々と兵を倒して行くが兵の数は減らず襲いかかる兵を果敢に攻め立てる三人であったが兵力に押され後退の戦となる。

 

 

「くそっ!」

 

 

やがて壁に追い込まれ3人は風前の灯火。

 

 

「ルーシャス君!もうやめてあげなよ!」

 

「黙れフレン。余を楽しませれぬ奴に兵は出せん」

 

 

叫ぶフレンを突き飛ばしルーシャスは三人を見下す。

 

 

その時部屋を塞ぐ扉が轟音と共に崩れ去り何かがルーシャスに向かい飛んだ。

 

 

「何奴」

 

 

飛来した何かはヴェルナルスの一閃により二つとなり壁に当たり砕け飛来物に横目を向け声を上げた。

 

 

「これは、、エールの瓶…!」

 

 

ヴェルナルスの視線の先に土埃を一閃で払い勇敢な姿を見せたランスロット。その横には4人の少女が並び立つ。

 

 

「手荒で失礼。不登校の生徒を指導に参りました」

 

「同じく生徒の補導に参りましたティルフィングと」

 

「その妹のグリードです」

 

「私は手芸部の勧誘に来たよ」

 

「はぁ、これだけの怪我人が居たら学院の医務室は満員御礼ね」

 

 

ため息を吐きながらも手に持つ弓を引き絞り矢を向ける。

 

突然の乱入者で唖然とした隙を付き三人は一行と合流した。

 

 

「通路は手薄でした。余程この三人に苦戦をしたようで」

 

「大丈夫でしたかマスター」

 

「あぁ、ありがとう。助かったよ」

 

 

乱入者の登場に場は膠着が始まる。そんな中ルーシャスは立ち上がり手を叩いた。

 

 

「乱入者か!ゲームらしくなってきおった!将軍将軍、奴らに勝ち目はあるか!?」

 

 

愉快なルーシャスの横でヴェルナルスは眉を顰め口を開いた。

 

 

「いえ、ここは引くべきかと。相手はGSを果たした者に最強騎士」

 

「ほぉ、しかし余は見たい!ログレスの騎士が地に伏し余に縋る様を!」

 

 

将軍の忠告を無視しルーシャスは兵へと指示を飛ばす。それを受け兵士は士気を上げ迫る。

 

 

「我らがローマ!この五体眠らず払え!」

「我らがローマ!この五体死しても眠らず!」

 

 

「へぇ、ローマの兵は死なずと言うのですね。楽しみです」

 

 

四人の前に立ち血を連想させる剣を構えるとあまりの存在感に迫るローマの兵が狼狽え動きを止めた。

 

 

「私達に争う気はありません。大人しく武器を下げ引けば無駄な血を流さずに済みますが」

 

 

更にグリードの横にティルフィングが立ちグリードと同様のプレッシャーを放ち兵を圧倒する。

 

二人が放つ重圧は後列でルーシャスの前に立つヴェルナルスにも届いており着込んだ鎧から見える僅かな隙間を冷や汗が伝う。

 

 

「皇太子殿下、御決断を」

 

 

二人のティルフィングの前へと歩み出した最強騎士によりローマの兵は完全に戦意を失い徐々に後退してゆく。

 

 

「ほお、くくくっ。ここは大人しく交渉の場に着くとしよう」

 

 

ルーシャスの一声で王座へと続く道が開けられた。

 

 

 

 

6月27日/交渉

 

 

 

 

 

27日の午前にルーシャスは円卓の間へと足を運んでいた。前日した交渉の場に着くという名目である為に家来は連れずルーシャスの背後にはヴェルナルス将軍とラシア、フレンにローラの4名。

 

 

ローマ一行の到着を知りノワール、ガウェインが扉を開き一行は円卓の間へと足を進めた。

 

 

「我が学園へようこそ。歓迎するよ」

 

 

一行に向かいアーサーがにっこりと声をかけ右手を上げた。それにルーシャスは笑い一つの椅子を引くとどっかりと座り込んだ。

 

 

「要件は使者の者から聞いておる。下らん真似をしおって」

 

「すまなかった。幾分公務を残していてな、顔を出す時間が無かったんだ」

 

「変わらんなアーサーは」

 

 

笑い合う二人にノワール達は困惑を浮かべた表情を向ける。それに気が付いたルーシャスが疑問の問いを話す。

 

 

「余とアーサーは旧知の仲でな。前王のユーサーから交流があるのだ」

 

「そうなのか?」

 

「そうだとも。ロンディニュウムを築いたのもユーサーが築き上げたローマとの交流があっての事。でなければログレスの一角にローマの領土を作る様な真似はさせんよ」

 

「えぇ!?じゃあ昨日の交渉に行ってこいっていうのも!」

 

「余の提案だ。円卓の騎士の実力を試したくてな」

 

「はぁ、じゃあずっと僕達は二人の手の上で転がされてたんだね」

 

 

やれやれと首を振るトリスタンの瞳は鋭く二人へと向けられた。

 

 

「まぁそう怒るな。若い時の苦労は買ってでもしろと言うだろう」

 

 

笑いながら告げるアーサーの肩に手が置かれ振り返るとローブを深々に被ったマーリンの姿。

 

 

「マ、、マーリン」

 

「主様がどの様な決断でその様な案を出したかは分かりませんが学園の生徒を態々危ない目に合わせたのですね」

 

「いや!ちゃんとランスには止めに入るよう伝えてあったしルーシャスにも手を抜く様には伝えてあったんだ!」

 

「ランスロットも知っていたのか」

 

 

アーサーの言葉により真実を知ったノワールの目は卓で腕を組むランスロットへと向けられた。

 

 

「アーサーから報告は受けていたがローマの兵と戦闘を行うとは俺も聞いていない」

 

「ランス!そこは俺の顔を立ててだな」

 

 

慌てて弁解を叫ぶアーサーだが全てが裏目に出て鋭い視線を浴び口篭った。

 

 

「良い、ここは余が罪を被ろうではないか。しかしローマの兵を無勢でありながら半数を蹴散らすその力量が知れただけでも良い収穫であった」

 

 

ルーシャスの助け舟にほっと胸を撫で下ろし再び笑顔を浮かべるアーサー。しかしマーリンの視線に気が付き再び苦虫を噛み潰したように。

 

 

「そういえばあの同じ顔をした姉妹は何処へ?将軍の肝を潰した兵を良く見たかったのだが」

 

「あの二人には俺に代わりクラスの実技演習を行なって貰っている。公務があるとはいえ授業を進めなくてはならないからな」

 

「ほぉ、最強騎士がそれ程に信頼を置く姉妹とな。将軍、ローマの兵との演習を開くのはどうだ」

 

「あれ程の実力を持つ騎士との演習とならばローマ兵の技術向上にも繋がると思いますが」

 

「よし、そうと決まれば演習を開こうではないか。3日後を楽しみにしているぞ」

 

 

勝手に予定を立て笑うルーシャスに反論をしようとするのだが異国の戦闘技術を学ぶ機会に反論は無く本当に3日後に演習が行われる事となった。

 

 

「それでルーシャス。ログレスに兵は貸して貰えるのか」

 

「アーサーの頼みを余が断る訳がなかろう。しかしバルバロイにローマの兵は通用せぬ」

 

「あぁ、カレドニアの兵と戦ってくれるだけでも十分だよ」

 

「では余は教室へと戻らせてもらおうか。また家庭訪問をされては堪らんのでな」

 

 

笑いながら円卓の間から出てゆくルーシャスとヴェルナルスを見送りそこにはローマの3人が残った。

 

 

「3人に俺から頼みがある。宮殿での戦闘は俺が仕向けた事だ。この3人の事は悪く思わないでほしい」

 

 

アーサーの言葉にローマの3人は顔をアーサーに向けた後それぞれの顔を見た。

 

 

「それはもちろんだ。ローマが敵で無いのなら俺たちが悪く思う理由はない」

 

「ノワールの意見に賛成だぜ!みんな仲が良い方が良いからな」

 

「僕は別に。それよりも下剋上を起こしたいぐらいだよ」

 

 

トリスタンの言葉に苦笑いを浮かべた後円卓会議は幕を閉じた。

 

 

「私はフレン。それでこっちが妹のローラでこの子はラシアって言うんだ。よろしくね♪」

 

「ローラです、、よろしくお願いしますね」

 

「ラシアです。よろしくお願いします」

 

 

活発なフレンに控えめ目なローラ。やや冷ややかなラシア。それぞれの自己紹介に自己紹介を返し円卓の間を後にした。

 

 

「ギネヴィアとギネマウアさんのお父さんはどうなったんだ?」

 

 

3人が円卓の間を出てからノワールは思っていた疑問をアーサーに問いかけるとアーサーとマーリンは顔を逸らしやがて口を開いた。

 

 

「レオデグランス国王は牢屋へと幽閉しておます」

 

「どうしてそんな真似を、その事を二人は知っているのか」

 

 

二人の父親の扱いを聞きノワールは声を上げるがトリスタンから返しを受ける。

 

 

「魔女に記憶を抜かれバルバロイになりかけたんだ。戻ったとはいえレオデグランス国王がバルバロイにならないという確証はどこにもないでしょ」

 

「牢屋なら万が一バルバロイになったとしても閉じ込めておく事ができる」

 

「しかし」

 

「じゃあ君はバルバロイになった父親を殺す、殺させる事ができるのかい。僕には無理だね」

 

 

ここまで言われようやくノワールはアーサーの真意に気付いた。幽閉したのでは無く幽閉するしかなかったという事に。

 

 

「ギネヴィアにも散々言われたよ。しかしちゃんと了承は得たさ」

 

「バルバロイの生体は未だ謎に包まれています。分かって下さいノワール様」

 

 

3人に言われノワールは納得し謝罪の言葉を口にした。

 

 

 

 

 

6月27日/Night

 

 

 

 

 

その日の晩ランスロットは学生寮にあるグリードの部屋のドアをノックしていた。

 

二つドアを叩き待つと返事の後にドアが開き寝巻き姿のグリードが顔を出した。

 

 

「夜中に失礼。少し良いか」

 

「はい、構いません。どうぞ中へ」

 

 

ランスロットを部屋に招き入れると椅子を引き座るように足しグリードは対面する様にベッドに腰掛けた。

 

 

「それでどうしたのでしょうか」

 

「前日グリードのマスターに会った」

 

「それは本当ですか!?彼は、今どこに、、、!」

 

 

ランスロットの発言を聞きグリードは立ち上がるとランスロットへと詰め寄り問いただす。

 

 

「グリードのマスターは俺の師匠と共にカレドニア軍の本拠地に居る」

 

「師匠、、。それはノワールの父親の事でしょうか」

 

「そうだ、グリードのマスターは師匠に助けられ共に行動をしている」

 

「そうですか。すいません。声を荒げてしまいましたね」

 

「構わない。学園に連れ帰ろうとしたのだが師匠に恩があると言い拒んだんだ。それと伝言を預かっている」

 

「ユウはなんと」

 

「僕は元気にやってるよ。との事だ」

 

「分かりました。父親の事を二人には伝えないのですか?誰よりも安否を気に掛ける二人に」

 

 

グリードの問いにランスロットは口元を歪ませやがて返答を返す。

 

 

「まだ伝えるべき時ではないんだ。グリードもこの事は他言無用を頼みたい」

 

「訳があるのですね。安心して下さい口は硬い方なので」

 

「信頼は置いている。戻るよ」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 

部屋を去るランスロットを見送ると冷蔵庫から一本のエールを取り出し窓から景色を眺めながら口に運んでゆく。

 

 

 

 

 

 

 

6月28日/決意

 

 

 

 

 

 

ノワール達がローマ皇太子を説得し交渉の場へと着かせた事は学院中に広まり誰しもがノワールの事を見直し疑う者は数を減らしていた。

 

もちろんその事はディナタンの耳にも届いており兄の活躍を嬉しく思っていた。

 

 

(はぁ、、)

 

 

授業が終わり放課後ディナタンは医務室へと足を運びモルガン先生の手伝いを行っていた。そこには怪我をした生徒に笑顔で丁寧に対応する姿。

 

 

「ディナタンちゃ〜ん。お茶淹れたから休憩にしましょ〜」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 

ホッと息を吐きながらテーブルの元へとゆくとそこには湯気を立てるティーカップが4つ。それに既に席に着く3人の姿。

 

 

「ほんとにディナタンちゃんは働き者で先生助かっちゃう♪」

 

「いえ、私はやれる事をしているだけなので、、」

 

 

ディナタンの控えめな発言を聞きイゾルデはジロリと横目でマルディサントを睨んだ。

 

 

「本当に謙虚ね。どこかの誰かさんにも見習ってもらいたいわ」

 

 

視線と言葉を避けるようにマルディサントはそっぽを向きながらお茶を飲む。その姿にイゾルデの咳払いが飛んだ。

 

 

「イゾルデさんは戦うのは怖くないのですか?」

 

 

そんなイゾルデだがディナタンの問いを聞き顔を向け返答を返す。

 

 

「怖いに決まってるじゃない。GSを果たしたとはいえ攻撃を受ければ傷付くし死んでしまうわ」

 

「そう、ですよね。なら、どうして戦うのですか」

 

「決まってるわ、戦わなければもっと怖い目に遭うからよカレドニアに拿捕されれば兵にされるかバルバロイにされるか。どっちにしろ死を選んだ方がマシね」

 

「そうですよね…」

 

「ディナタン。あなたは兄の活躍を聞き力になろうとしているのかもしれないけど生半可な気持ちで戦場に立つ事はやめておくべきよ」

 

 

 

「これは忠告よ」イゾルデの言葉にため息を堪えながら俯いた時モルガンに声をかけられ顔を上げた。

 

 

「ディナタンちゃん、戦いは敵と戦う事だけが戦いじゃないんだよ?こうして傷付いた人を癒すのも戦いなの。衛生兵だって立派に戦っているんだよ」

 

「それは分かっています。でも兄さんの活躍を聞くとなんだか私、置いてかれちゃう気がしちゃって」

 

「ディーナのオニーサンがディーナの事置いてくはずネぇだろ。それにアタシらはアタシらのやれる事をやればいいんだよ」

 

「その心は〜?」

 

「戦場なんかに行ったらサボる暇がない。ってモルガンせんせ!」

 

「うふふ〜♪ディナタンちゃんに覚悟があるのなら剣の祭壇に行ってみるのはどうかしら?」

 

「あっそういえば私、まだ学院の入学試験受けてませんでした」

 

「二人には私の忠告が聞こえなかったのかしら?まっ、行きたければ好きにするといいわ」

 

 

バツの悪い顔をし視線をモルガンから外した。その意味はキャメロット騎士学術院の方針にある。

 

キャメロット騎士学術院はバルバロイと戦える『素質』を持つ者を集めた学院であり素質が無ければ生徒として認められず退学の措置が下される。

 

モルガンが言った意味として剣の祭壇は台座に突き立つカリバーンに触れれば素質の合否が示される事にある。

 

もし、ディナタンに素質が無ければ学院を追い出される事は間違い無い。

 

 

「私、行きます!今まではお情けで学院に居させてもらいましたけど兄さんにもランス兄ちゃんにも迷惑はかけられませんから」

 

「でもよ、行くって言ったって学院の外に出ればどれだけアブナイ事があるか分からないぜ」

 

「マルディサントに同意ね。キャメリアードを取り戻したとはいえバルバロイや盗賊の被害が完全に無くなった訳ではないし」

 

「そう言うと思って先生、護衛を用意しました〜♪」

 

 

護衛?疑問を持つと同時に医務室のドアが開き姿を見せたのは笑顔の学院の長。

 

 

「よし、若手の為に俺が一肌脱ごうじゃないか」

 

「うぉ!?王様だ!?」

 

「えぇっー!?アーサー様!?」

 

「どうしてアーサーが護衛をするのか全く理解ができないのだけど」

 

「そうだよな!?むしろ守られる側の人間だぜ!?」

 

 

全くもって理解ができない展開に3人は戸惑いを見せるがアーサーは笑顔のまま。

 

 

「学院としては戦える人材は多く確保したいからな。しかしディナタン、この道を強いる事は無いぞ。衛生兵も戦いには重要な兵だからな」

 

「覚悟はしています。これでも私、傭兵時代にはちゃんと戦えてたんですよ。戦い方は『お義父さん』に教えてもらった事があるので」

 

 

アーサーは見つめたディナタンの瞳に決意が宿る事を見抜き深く頷いた。

 

 

「よし、なら善は急げだ。明日の朝には学院を出よ。イダダダっ!!」

 

「主様が学院の外に出てはいけません!本当に何を考えているのですか」

 

 

言いかけた言葉は悲鳴へと変わり困惑しながら向けられた視線はアーサーの耳を引っ張るマーリンへと向けられた。

 

 

「マーリン!書類ならちゃんと片付けたし俺なら大丈夫だよ」

 

「そういう意味ではありません!万が一の事を考えられないのですか!」

 

「俺なら大丈夫だよマーリン。幾分年は取ったがまだ剣の腕は衰えていないよ」

 

「いえ、ディナタン様にもしもの事があった時の事です」

 

「そっちかよ!?」

 

 

マルディサントの盛大なツッコミが医務室に響きくすくすと笑うモルガン。それにバツが悪くなりアーサーは助けを求める視線を向けるのだが誰一人として目を合わせようとせず。

 

 

「じゃあ俺はどうすれば良いんだ」

 

「じゃあアーサーが信用できる護衛を連れて行けば良いんじゃないかな〜?それならマーリンも許可を出してくれるよね?」

 

「はい、主人の事は信用しておりますがたった一人で剣の祭壇へと行かせるわけにはいきませんので」

 

「分かった、誰か一人連れてくるよ。明日の朝、学院の前庭で待ち合わせだな」

 

 

笑いながら医務室を出て行ったアーサーの後軽く会釈をしマーリンが後に続く。

 

 

「じゃあマルディサントも明日ディナタンちゃんと一緒にいってらっしゃ〜い♪」

 

「うぇ!なんでアタシまで行かなきゃいけないんだよモルガンせんせ!」

 

「ディナタンちゃんと仲良くする良い機会じゃない♪」

 

「でもさでもさ!アタシが抜けちまったら医務室の仕事はどうするんだよ!」

 

「あら、サボり魔が抜けたところで何も変わらないわよ」

 

「〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 

イゾルデの厳しい突っ込みにマルディサントは盛大に咳き込んだ後項垂れながら返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月28日/early evening

 

 

 

 

 

その日の夕刻にアーサーは信頼を置いている騎士を探し学園中を歩んでいた。しかし探している騎士は馬舎を覗いても湖を覗いても姿は見えず。それでも探し歩んでいると二人の女性と出会った。

 

 

「やぁティルフィング、グリード。青春は謳歌しているか」

 

 

二人に声をかけたのは食堂の前。時間を考えると今から夕御飯を食べようとしているのだろう。

 

 

「はい、青春かどうかは分かりませんが楽しませて頂いています。それで何用でしょうか?」

 

「ランスを探しているのだが姿が見えなくてな」

 

「ランスロットならノワールと講堂に居ると思います」

 

 

グリードに言われ成る程と納得をし笑顔で手を挙げると講堂へと歩んでゆく。

 

そんな王様を見送り二人は食堂の中へと入っていった。

 

 

 

「よっ、青春しているな」

 

 

 

講堂へと入ると壇上で試合を行う二人を見つけ声をかけた。しかし試合に集中するあまり二人はアーサーの声に気が付かずそれに気が付いたアーサーは二人の試合を眺めていた。

 

 

「俺の勝ちだ」

 

「くそっ」

 

 

やがてランスロットがノワールを追い詰めノワールは負けを認め両手を高く上げた。その時アーサーの姿に気がつく。

 

 

「アーサー」

 

「よっ、悪いが見させてもらっていたよ」

 

「盗み見とは趣味が悪い」

 

 

「声はかけたのだがな」そう言い壇に腕を付き二人を見上げにっこりと笑い要件を話す。

 

 

「ディナタンが」

 

「あぁ、剣の祭壇へと行きたいと言ってな。俺が付いて行こうとしたらマーリンに怒られてね。同行者を探しているんだ」

 

 

アーサーの言葉に二人は顔を見合わせる。

 

 

「あぁいや、俺が強いた訳じゃないぞ。ディナタン本人の意思だ」

 

「しかし、、」

 

 

アーサーの言葉を聞きノワールは顔を顰めた。それは妹に戦場に出て欲しくない感情の現れ。それはランスロットも同じで顔を顰めながらアーサーを見た。

 

 

「ふっ、ノワール。俺たちが止めたところでディナタンが素直に頷くと思うか」

 

「そうだけど」

 

「兄に追い付きたいんだ。隣に並び立てるように」

 

 

ランスロットに言われノワールは顔をハッとさせた。ノワール自身も父親に、兄の背に追い付こうともがき苦しんでいると。

 

 

「その顔は了承してくれたと見て良いんだな?」

 

 

アーサーの言葉に二人は俯き同行すると返事を返した。

 

 

「そういえばランスロット、授業は良いのか、、?」

 

「王命とあらば仕方ない。二人に代わりを頼むよ」

 

「うむ、使ってやってくれ。明日の朝前庭に集合だな。スタンド・バイ・ユアラウンド」

 

「フォー・ラウンド」

 

 

笑いながら去ってゆくアーサーを見送り二人も部屋へと戻る事に。

 

 

「良い王様だな」

 

「全くだ」

 

 

喋りながら前庭を歩いていると噂の二人と出会いランスロットは明日の予定を伝えていた。

 

 

「はい、そうなると思っていました」

 

「なんで分かったんだ?」

 

「二人で同じタイミングでくしゃみをしたので」

 

「すまない。よろしく頼むよ」

 

「報酬は貰っていますので大丈夫ですよ」

 

「マスターをよろしくお願いします」

 

「必ず学院に返すさ」

 

 

話しながら歩き講談室の前へとたどり着くとランスロットは場を離れ何処かへと歩んでゆこうとする。

 

 

「どこに行くんだ」

 

「まだ馬の世話をしていなくてな」

 

 

夕焼けを背に歩むランスロットの背を覆うマントにはお魚のアップリケが泳ぐ。

 

 

「気に入ったんだな」

 

 

ノワールの呟きを聞き二人は笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

6月29日/剣の祭壇へ

 

 

 

 

 

29日の朝に学院前庭には王の姿があった。腕を組み学院へ登校する生徒へ笑顔を向けていた。

 

どの生徒も笑顔の王に挨拶をし王は全ての生徒に挨拶を行う。

 

 

「ランスロット先生おはよー」

 

 

そんな時他の名を呼ぶ生徒が現れ王が振り返るとそこにはランスロットの姿があった。

 

 

「おはよう」

 

「おはようランス。良い朝だな」

 

 

アーサーが言う通り雲一つない爽快な青空が広がり初夏の太陽が学院を照らす。

 

アーサーの言葉にランスロットも空を見上げ眩しい太陽に顔を手で覆った。

 

 

「もう来てたのか」

 

「おはようノワール」

 

 

続いてノワールが二人の元へ。それからしばらくして二人が慌てながら姿を見せた。

 

 

「遅れてしまいごめんなさい!」

 

「マジで申し訳ない!」

 

 

謝る二人にアーサーは笑顔と共に挨拶をする。それから少ししてマーリンが学院から顔を出す。

 

 

 

「皆様おはようございます。ケイ郷がここに来る前に転移をしますのでここに」

 

 

学院入り口を気にしながらも魔導書を取り出し転移魔法の詠唱を始める。

 

 

「すまないなマーリン。行ってくるよ」

 

「はい、お気を付けて」

 

 

光に包まれた5人が姿を消しほっと息を吐いた時噂の人物が姿を見せた。

 

 

「おはようマーリン。アーサーを探しているのだが貴女と一緒ではないのか」

 

「アーサー様なら城下町に居るかと」

 

 

礼を言い城下町へと向かうケイ郷の背を見ながら少し複雑な表情を浮かべ王室へと戻ってゆく。

 

 

 

 

その頃5人は剣の祭壇へと転移されており台座に突き立つカリバーンを眺めていた。

 

 

「よっしゃ。ディーナ」

 

「うん、、」

 

 

マルディサントに声をかけられやや緊張気味にカリバーンの元へと立つと剣の柄を握り台詞を呟く。

 

 

「空より続かぬ限られしやがて地に帰す百年足らず。汝は誰かと名を刻めるか。刃となるか、鞘はあるか。武器が記憶を呼び起こし給!」

 

 

ディナタンの台詞に答えるように刀身が淡く水色に輝きここにディナタンに素質がある事が示された。

 

安堵のため息を吐くディナタンへ四人から拍手が送られる。その一方でノワールの表情は複雑なものだった。

 

 

「おめでとうディナタン。しかし…」

 

 

祝福の言葉を告げるのだがノワールの表情は複雑なまま。そんな兄を見てディナタンは決意を込めた瞳を投げる。

 

 

「大丈夫だよ兄さん。傭兵時代も私はちゃんと戦えてたでしょ?昔も今も戦う場所が変わっただけだよ」

 

 

そう言われノワールは過去を思い返す。ノワールと仲間達と共に戦場へ赴き戦ってきた過去を。

 

 

「そうだな。だけど無理はするなよ」

 

 

目線の先でディナタンが頷きその奥でランスロットも頷いた。

 

 

「よし、ならば帰ってみんなでB級グルメでも食いに行くか!なに、俺の奢りさ」

 

「国庫の金を私用に使うのなら俺は止めねばならないのだが」

 

「おっとランス、ちゃんと俺のポケットマネーだよ。そうと決まれば国へ帰ろう」

 

 

豪快に笑いながら先を歩くアーサーの後ろを歩んでゆく。

 

 

「護衛の前を歩く奴がいるか」

 

 

アーサーを追い抜きランスロットが先頭を歩みログレスを目指し歩んでゆく。

 

 

「帰りは徒歩なんだな」

 

「転移魔法を使おうにもマーリンが居ないのでね。こうして歩いて腹を空かせればその分飯は美味くなるぞ」

 

 

夏目前の日差しを浴びながら帰路を歩む。見渡す限りの草原に敵の姿は無く程よく弾む会話に戦時中だという事を忘れてしまいそう。

 

 

「そういえばアーサー様はGSをしているのですか?」

 

「俺はGSはしていない。王たるもの誰か一人に決める事はできないし民は全て平等だからな」

 

「なるほど。ならランスロットはGSをしているのか?」

 

 

ノワールの問いにアーサーとランスロットは気付かれないよう目配せをしすぐに返事を返す。

 

 

「GSは果たしている。しかし俺の『武器』は少々恥ずかしがり屋で顔を出そうとしないんだ。それよりノワール、お前こそ早くGSを果たせ。お前は継承者でありログレスの要なんだ」

 

「うっ、しかしだな、、」

 

「まぁまぁランス、いずれ機は熟す。今は学院を楽しみ友や仲間との絆を深めてくれ。そうすればきっとお前の『武器』が見つかるさ」

 

「もし兄さんの相手が見つからなかったら私が兄さんの『武器』になってあげるね」

 

「そんな簡単にだな、、」

 

 

ディナタンの提案に困り笑顔を浮かべるノワールを見てマルディサントは乾いた咳をあげた。

 

 

「マァル風邪?」

 

「なんかずっと治らねぇんだよな。最近モルガンせんせのリンゴ食ってねぇからか」

 

「モルガン先生のリンゴ?」

 

「義姉さんがグラストンベリーでリンゴを育てているんだよ。そうだ、ローマとの演習が終わったら皆で義姉さんの手伝いをしてほしい」

 

「もうそんな時期か、、っしゃ!」

 

 

喜びの声をあげるマルディサントにディナタンが問いかけるとマルディサントは幼き頃グラストンベリーにあるモルガン先生の別荘で育てられたと教えてもらった。

 

 

「その時からリンゴの収穫は手伝ってるんだよ。収穫が終わった後モルガンせんせがアップルパイ焼いてくれてさ」

 

 

思わず垂れてしまった涎をぬぐい笑う。

 

 

「モルガン先生のお願いはめんどくさくないんだね」

 

「あったりまえよ!モルガンせんせの頼みならどんな事でも成し遂げてやるぜ」

 

「なら保健室でサボらないでよ」

 

「〜〜〜〜!」

 

 

鋭い突っ込みに返す言葉を失い慌てるマルディサントを見て皆が笑った。

 

 

 

 

 

 

 

7月1日/ローマとの演習

 

 

 

 

その日学院が演習で使う広場には大勢の生徒達が詰めかけていた。理由としてキャメロット騎士学術院のクラス『遥か望む剣』とローマの精鋭部隊の演習が行われるからだ。

 

学院でも戦闘技術に優れた者が集うクラスと異国の戦闘技術を一眼見ようと集った生徒達。学院側も他クラスの生徒の戦闘技術向上をかねて時間を割いた事もあるのだが。

 

 

更には噂を聞き出店を出店する商魂逞しい街人の姿も。

 

 

 

「将軍」

 

 

ローマ皇太子ルーシャスの一言を受け将軍と呼ばれた男がローマ陣営の前へと歩み出す。

 

それだけで『遥か望む剣』に緊張が走った。

 

ローマ陣営前に歩み出した男はヴェルナルス大将軍。知略、武略に優れローマ最強とも謳われる男。

 

 

「随分と人が多いようだが」

 

 

詰めかけている学院の人々を見渡し視線は出店で買ったであろうホットドックを食べるアーサー王を見つけ出し眉をひそめた。

 

 

「今回の演習は大部隊を想定して行う。混戦となれば個人の力量だけでは無く隊としての結束も勝利に求められる条件となる。これより10分準備時間を設ける」

 

 

ヴェルナルスの挨拶の後クラス生徒達が集まり担任の指示を待つ。

 

 

「ノワール、お前が皆を統率しろ」

 

「俺が!?」

 

 

生徒の視線を受けたランスロットがノワールへパスを回した。

 

 

「あぁ、俺は単身で戦う事が多く隊を率いた事はあまり無くてな。傭兵団を率いていたお前の方が向いている。皆もノワールの指示に従い戦闘を行ってくれ」

 

 

ランスロットの提案にクラスから反対の声は無くノワールへ視線が向けられる。

 

 

「頼りにしてるぜノワール!」

 

「ローマの精鋭部隊だかなんだか知らないけどあんな奴らに負けられないわ!」

 

 

乗り気なガウェインとギネヴィアの言葉はプレッシャーとなりノワールにのしかかる。そんなノワールの心境を察してかティルフィングがノワールの横へ。

 

 

「マスター力を抜いて楽にして下さい。マスターの経験が活きる時ですよ」

 

「相手の兵はこちらと同じ22名。剣、斧、槍を持つ兵が7名、魔導書が1名。指示を頂ければ私一人で片付けますが」

 

「それじゃあ演習の意味がないよ」

 

「そうだよグリードさん」

 

「冗談ですよ」

 

「その目は本気だったでしょ?」

 

 

ギネヴィアに突っ込まれグリードはクスリと笑う。

 

 

「よし分かった、やろう!」

 

「相手はヴェルナルス大将軍だよ。、、、くぅ〜!燃えてきた!」

 

「ぜってー勝とうぜ!」

 

 

それぞれの武器を持つクラスメイトを見渡し意気込むノワールと共に作戦が練られてゆく。

 

 

枝で地面に図を書きながら作戦を練る姿を見てランスロットは満足気な笑みを浮かべた。

 

 

 

その頃早々と準備を終えたローマ勢は演習開始の時刻まで待機をしていた。各兵が気ままに時間を待つ中、将軍は『遥か望む剣』へと視線を投げ続けていた。

 

 

「どうした将軍。あの双子が気になるのか」

 

 

将軍の動向を見てルーシャスが声をかけた。

 

 

「はい」

 

 

素直な返事に気を良くし皇太子は将軍の横へ。

 

 

「相手は学院の生徒に最強騎士、円卓の騎士が2名、更には未知数の少女が2人。こちらはローマの精鋭部隊とはいえ」

 

「らしくもなく弱気であるな。なら将軍、何故あの者達が此処にいるのだ」

 

 

ルーシャスの横目の先には斧を担ぐフレン、斧を抱くローラ、魔導書を片手に持つラシアの姿。

 

演習とはいえローマの威厳を見せつけたいルーシャスにとって3名の生徒の参加は不可解な事。

 

 

「あの3名はログレスでGSの術を学んでおり武術にも優れております。それにGSを成せる素質を持ちます。ローマの繁栄の為にも次世代を担う若手の育成は疎かにできないかと」

 

 

将軍の本意を聞きルーシャスは笑い手を叩く。

 

 

「それでこそローマの大将軍よ。大事なのは今、そして未来だ」

 

 

初夏の太陽の日差しを遮る事なく見上げた。

 

 

 

やがて10分の時が過ぎ演習開始の時刻となった。その頃にはノワール達も陣を展開しており皆が鋭い眼差しで開始の合図を待つ。

 

 

 

「余が開始の合図をしよう。ローマの兵よ、その五体眠らず奮え!」

 

 

完全なるローマ贔屓の合図で始まった演習。そして合図と共に怒声を上げローマの兵が駆ける。

 

 

「二人一組で確実に倒せ、先陣は俺が切る!スタンド・バイ・ユアラウンド!」

 

「「フォー・ラウンド!」」

 

 

ランスロットが先陣を切った。その光景にローマの兵は狼狽える事になる。

 

 

ランスロットが単騎で駆けるのみで他の生徒はその場に留まっている。大部隊での戦いは各兵の力量よりも指示を出す者の統率力が勝敗のカギを握る、基本に基づくのなら隊を統べるはずのランスロットが単騎で戦場に出るとは。

 

ヴェルナルスが観ているうちにローマ兵はランスロットを追い自軍へと戻る形となる。

 

 

「ランスロットに構うな!これは陽動だ!」

 

 

ヴェルナルスの歯軋りの先では隊を二つに分担し迫る『遥か望む剣』の生徒の姿。

 

 

「俺に続け!確実に仕留めるぞ!」

 

「王妃の命令よ!勝利を取りにいくわよ!」

 

 

ノワール、ギネヴィアが二部隊に分かれローマの兵、背後より襲い掛かる。これによりランスロットに気を取られていた兵は倒されローマ兵は出鼻を挫かれた。

 

 

そして。

 

 

「隊長の命によりその首貰い受ける」

 

「それはこちらの台詞でもあるが。ランスロット卿」

 

「雌雄を決しようか」

 

 

混戦する兵を抜けたランスロットは大将軍、ヴェルナルスへと対峙する。これによりローマの兵に指示を行う者は居なくなった。これこそがノワールの狙いである。

 

最強騎士を単騎で敵陣を駆けさせ敵将にぶつけ指示役を潰し隊を混乱へと陥れ確実に叩く。ノワールがランスロットの実力を知り信頼しているからこそできる荒技。

 

 

ただ善戦する事ができたの前半戦のみだった。指示役を潰す事はできたのだが相手はローマの精鋭部隊であり各人の実力はノワールの予想を大きく上回るものであった。

 

二人一組を組んでいるものの練度の高さに徐々に押され兵は沈んでゆく。

 

 

「くそっ!」

 

 

ノワールが舌打ちをした。戦闘を行いながら見渡した自軍は僅かに残る程度でローマの兵は未だ数を減らす事ができないまま。自身の戦略と読みの甘さにより倒れ待避場へ2人により運ばれて行く姿を、大将軍と果敢に打ち合い続けるランスロットの姿を呆けながら見た。

 

その瞬間ローマ兵が踊り出しノワールへ一閃を繰り出す。気を取られていたため一瞬の反応が遅れ回避が間に合わず。

 

 

 

「なにぼーっとしてるのよ!シャキッとしなさい!」

 

「ギネヴィア!」

 

 

一閃がノワールを切り裂く寸前に横から伸びた槍が兵の胸部へと深々と刺さり槍を蹴り抜くと尻手でノワールの頭を叩きギネヴィアが吠える。思わず視線を向けた瞳は燃える闘志を宿す。

 

 

「ほら、目、覚めたらしら?あなたがみんなを引っ張ってるんでしょ!?ノワールがそんな顔してたらみんなも諦めちゃうよ!」

 

 

ギネヴィアに叱咤され諦めかけていた心に闘志が再び燃え上がり新たな策を練り上げる。

 

 

「ありがとうギネヴィア。よし、仕切り直すぞ!」

 

 

にししっと笑うギネヴィアと共に新たなる作戦を実行へと移す。

 

 

「私たちにお任せあれ♪」

 

「一人残らず射抜いてあげるからね!」

 

 

ノワールの次なる作戦は残ったメンバーを集合させ前衛を遠距離武器を扱うウレリー、ラグネルに任せるというもの。

 

二人が扱う弓、銃で敵にダメージを与え怯んだ敵を叩くという以前ノワールがロンディニュウムの宮殿で行った戦法。そして今回は前衛が3人いる事により攻め入るスピードが上がっている。

 

 

「「よしっ!」」

 

 

二人が怯ませた敵をガウェイン、ギネヴィアが叩く。二人が離れている間ノワールが守護に徹する。更に前衛をローテーションする事により体力の温存も可能だ。この戦法により多くのローマ兵を撃破する事に成功した。

 

 

しかしこの牙城を崩す者が現れた。

 

 

「きゃぁぁぁっ!?」

 

「ウレリー!!」

 

 

前衛をローテーションする僅かな隙を突き飛来した斧がウレリーの胸部へと直撃し戦闘不能へと追い込まれた。

 

見上げた先には倒れた兵が落とした斧を拾い上げるフレンの姿。

 

 

「よし♪次は誰から倒してあげよっか」

 

 

片手斧を構え威嚇しながらジロリと睨む。その後ろには控えめに佇む妹の姿。

 

 

「言っておくけどラグネルの銃は私達には通じないよ。一発の弾丸で私達を同時に打てるなら話は別だけど」

 

「打ち損じればどちらかが斧を絶対当てるから、、!」

 

 

前方に立ち塞がる二人と対峙しノワールへ目配せを送る。その視線に気が付き腰の横でハンドサインを送った。その瞬間前方のラグネルの背に光弾が叩き込まれ声を上げるまもなくその場に倒れ込んだ。

 

突如行われた奇襲に背に目をやると冷めた目つきをした少女が一人。

 

 

「作戦は成功ですね。次は誰から仕留めてみせましょうか」

 

 

魔導書に魔力を注ぎ魔弾を作り上げながら話す。前にフレンとローラ、後ろにラシア。挟み撃ちとなり絶体絶命へと追い込まれる。頼み綱のランスロットは未だ将軍と打ち合いを続け救援を頼める状況では無い。

 

 

「こうなったら一人でも道連れにしてあげるわ!追い込まれた鼠を舐めるんじゃないわよ!」

 

 

ギネヴィアが吠えると同時に演習終了の鐘が鳴り響き演習は終わりを迎えた。

 

 

残り人数はどちらも4名であり引き分けという結果となったのだが詰めかけた観客からは盛大な拍手が送られていた。

 

 

「両者共良き戦いであった。どれ、今夜は余が皆をもてなしてやろう」

 

 

ニヒルに笑うルーシャスの言葉で解散となった。

 

 

 

 

7月1日/Night

 

 

 

 

この日の晩『遥か望む剣』の生徒と演習を行ったローマの兵士達は学院の食堂へと集められていた。そこにはルーシャスがローマより引き連れてきた料理人達がキッチンで腕を振るう姿と食堂中に漂う料理の匂い。

 

 

 

「余からの褒美だ。たらふく胃袋に詰め込むが良い」

 

 

ルーシャスの褒美とは立食会であった。その言葉の後にお皿を片手にテーブルに並べられている料理を取り会が始まった。

 

 

(………………)

 

 

立ち昇る料理の匂いが演習で疲れた身体を刺激するのだがノワールはまだ料理に手を付けず暗い表情を浮かべたまま。それに気が付いたランスロットが声をかける。

 

 

「ノワール」

 

「ランスロット…」

 

「やはりお前に頼んで良かった。ローマの精鋭相手に引き分けを取ることができたんだ」

 

「しかし俺は…」

 

「胸を張れノワール、お前の作戦あっての結果だ。それに」

 

 

ランスロットの視線の先では雑談に混ざり戦い方を聞きメモを取る多くの生徒達の姿が。

 

 

「皆強くなろうとしている。お前も前を向け」

 

 

そう言われ目頭が熱くなるのを感じた時2人の元へ大将軍が歩み寄る。

 

 

「見事な作戦で合ったが、あの策はランスロット卿の案なのか」

 

「俺ではない。ノワールの案だ」

 

「ほぉ、あの策でなければ結果は変わっていたかもしれないな」

 

 

そう言い残し大将軍は席へと戻って行った。それを見届けた後ようやくノワールは食事に取り掛かる。

 

 

「ノワール」

 

 

手に持つ皿に料理を乗せ食べようとした時ルーシャスに声をかけられ手を止めた。

 

 

「我がローマ兵と引き分けるとは見事であった。しかし、何故あの双子を戦場にださなかったのだ」

 

 

ジロリとノワールを睨んだ後ワイングラスを口へと運んだ。ノワールが返答をしようとした時背後から声が。

 

 

「それは私達の提案です。ルーシャス皇太子様」

 

「私達の存在はイレギュラー。各隊の実力を測るのであれば不要ですから」

 

 

凛と佇み語る姿にルーシャスは笑った。

 

 

「ほぉ、それで戦を捨て兵の救護に回ったとな。だが、それで勝てる戦を逃したとは思わぬのか」

 

「そのような事は思いません。ローマも、学院も互いを高め合うこの光景を見る事ができていますから」

 

 

ティルフィングの視線を辿るとローマ兵、生徒達が意見を交換し合う姿。

 

 

「まだ不満があるのなら私が相手をします。言っておきますが手加減はしませんよ」

 

 

グリードから放たれる身の毛がよだつ闘気にやれやれと首を振り新しいワインを持ってこさせ栓を開けた。

 

 

「良い結果が得られた。お前たちの言う通りなのかもしれぬ」

 

 

ワインボトルを持ち傾けようとする。

 

 

「せっかく余が灼をしてやるというのに無礼だぞ」

 

 

少し遅れグラスを向けるとワインが並々と注がれてゆく。

 

 

「余が吟味した酒だ。庶民には手が届かん酒だぞ」

 

 

ルーシャスに言われ口に運ぶと確かに美味い。思わずため息が漏れてしまうほど。

 

 

「おかわりを貰えますか」

 

 

グラスを向けたグリードにルーシャスは満足気に笑った。

 

 

 

 

 

7月2日/憲兵団の任務

 

 

 

ローマのと演習が終わった次の日、ノワールは早朝に目を覚まし鍛錬をしようと寮を出た。

 

初夏の早朝の清々しい空気を感じながら学院に入ろうとした時、声をかけられ振り返った。

 

 

「おはよう。早速で悪いのだが貴公に頼みたい事がある」

 

 

ノワールに声をかけたのはケイ卿。金縁の眼鏡を直す仕草を見てノワールは嫌な予感を感じた。

 

 

「ログレスを出て東に進んだ先で魔獣の目撃が合った。貴公には魔獣の討伐を願いたい。もちろん拒否権はないがな」

 

「それなら普通に頼んだらどうなんだ。分かった、行ってくるよ」

 

 

返事をし街を出ようとすると再び背後から声をかけられ振り返った。

 

 

「おはようございますマスター。どちらへ?」

 

「おはようティルフィング。ケイから魔獣の討伐を頼まれてさ」

 

「それなら私もお供します」

 

「それは心強いよ」

 

 

ティルフィングと共に魔獣の出現場所まだ歩んでゆく。

 

 

「こうしてマスターと2人で行動するのは初めてですね」

 

「そうだな、いつも誰かが居たから」

 

「マスターの人柄の賜物ですね。マスターの側にはいつも誰かが居て変わるがわる話をしてくれて」

 

「ティルフィング、、」

 

 

優しい笑みを浮かべているのに何処か悲しげな表情を見てノワールは言葉に詰まる。

 

 

「そんな顔をしないでくれ。何かあったのなら話して欲しい」

 

「私は…」

 

 

ティルフィングが何かを言いかけたと同時に魔獣の咆哮が上がり目を向けると何十とノワール達を狙い駆ける姿が。

 

瞬時に剣を抜き魔獣と戦闘を行う。

 

 

「俺が前に出る!ティルフィングはサポートを頼む!」

 

「承知しましたマスター!しかし無理はなさらずに」

 

 

ティルフィングの助言を聞きながらノワールは先頭を走る魔獣へと一閃を繰り出し斬り倒す。続いて迫る魔獣を正面から叩き斬った。

 

 

「お見事です」

 

 

ノワールの横へと並び一度視線を合わせ魔獣へと駆ける。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

ノワールの剣戟を受け最後の魔獣が倒れ辺りは静寂に包まれる。それでも辺りを見渡し警戒を行うのだが魔獣の姿は見えずやっと2人は警戒を解いた。

 

 

「お疲れ様でしたマスター。魔獣の気配もありませんし戻りましょう」

 

「ありがとうティルフィング。それでさっき何を言いかけたんだ?」

 

「いえ、なんでもありませんよ」

 

「良かったら話してくれ。俺にできる事なら力になるよ」

 

 

少しの沈黙の後、ティルフィングはゆっくりと自身の事を話してゆく。

 

ティルフィングの過去、それは一千年の前の事。現代と同じようにバルバロイに侵食された世界を救う為継承者の剣となり一千年の封となった事。

 

 

「前にも一度この話はしましたね」

 

「あぁ、ちゃんと覚えているよ」

 

「私はノワール様が本当の『武器』を探し出すまでの代わりに過ぎません。マスターが本当の番を見つければ私は…」

 

「ティルフィングはどうなってしまうんだ」

 

「私は、、この世界から姿をなくします。過去に私たちを導いてくれた方の様に。安心して下さい、姿を無くしてもマスターの側にはおりますので」

 

 

にっこりと微笑みながら伝えられた言葉にノワールは返す言葉を失いただティルフィングを見つめ、やがて手を取った。

 

 

「マスター、、」

 

「俺は誰1人として失いたくはないんだ。俺が本当の武器を見つけるまでに聖杯を見つけだす。そうすればティルフィングは消えなくてすむだろ」

 

「お気持ちは嬉しいのですが、、これは逃れられぬ運命。安心して下さい、1人には慣れていますので」

 

 

そっと手を解かれ深く頭を下げる姿にひどく心を痛めた。

 

 

「マスターが聖杯を探す事は学園が止めるでしょう。あなたは継承者としての責務を果たしてもらえれば良いのです」

 

「それでも俺は・・諦めたくないんだ!」

 

 

「優しく、しないで下さい」そう言って背を向けたティルフィングの髪が夏風になびいた。

 

 

 

 

 

7月3日/グラストンベリーへ

 

 

 

 

以前アーサーに言われたモルガン先生の別荘へと行く日となった。既に前庭にはメンバーが揃いただ1人が来るのを待っていた。

 

 

「遅れてすまない」

 

「遅いよ兄さん」

 

「モルガンセンセの別荘に行くのは遊びじゃねぇんだよ!なにチコクしてるんだよ」

 

 

マルディサントに厳しく言われ謝罪しながら隊の中へと混ざる。

 

メンバーはランスロット、ノワール、ディナタン、マルディサント、ティルフィング、グリード、ギネヴィア、ギネマウア、そしてモルガン先生。

 

 

「ようやく集まったな。前も話たと思うが今日は義姉さんのリンゴの収穫を手伝って貰いたい。それと収穫したリンゴをこの学院へと運ぶ事だ」

 

「だからこんなに人がいるのね。で、アーサーは来るわけ?」

 

「俺も行きたいのは山々なんだがちょいと公務を残していてね、代わりと言っちゃなんだがランスが居るぞ」

 

 

豪快に笑うアーサーの横でランスロットはやれやれと顔を振った。

 

 

「じゃあ〜しゅっぱ〜つ♪」

 

「アタシが押すよ」

 

「助かるわマルディサント♪」

 

 

モルガン先生が乗る車椅子を押すその後ろをついて行く。

 

 

グラストンベリーとはログレス王国北部にある農産地帯であり別荘地でもある土地。一年中過ごしやすい気候に恵まれている為静養に訪れる人も多い土地だ。

 

 

「ひっさびさだなーグラストンベリーに行くの」

 

「マァルはそこで育ったんだよね」

 

「まぁな。そうだ、リンゴの収穫がひと段落したら劇見せてやるよ」

 

「劇?」

 

「昔妹とモルガンセンセの別荘でやってたんだ。演じていれば演じている者になれるってさ」

 

「私も見たいな〜そうだ、みんなの前で演じてよ」

 

「うわっ!流石にそれはハズいっすよ!」

 

 

けらけらと笑いながら歩く道中でグリードは北を眺めた。

 

 

「良い香り、、この匂いはリンゴ?」

 

「そうよ〜今年は豊作だからたっくさんなってるのよ」

 

 

やがてしばらく進むと葉を茂らせる木々が見え葉に混ざり真っ赤な果実が色付いているのが見えた。

 

 

「やっと到着ね。じゃあ1人一つを目標に頑張ろぉ〜」

 

 

モルガンに渡されたのは大きなカゴ。このカゴが満タンになるまでリンゴを収穫するようで。

 

 

「せんせいはアップルパイとお茶を準備してるからね〜」

 

 

なっているリンゴを何個か取りモルガンは別荘の中へと入って行った。

 

 

「楽しみだなモルガンせんせのアップルパイ。よし、早いとこ収穫しちまおうぜ」

 

 

カゴを背負いリンゴの木へと向かうマルディサントに習い収穫が開始された。木に実るリンゴを一つ一つ手でもぎ取り背のカゴへ。地味な作業ではあるが風に乗るリンゴの香りとお喋りを楽しんでいる為退屈はしない。

 

 

「リンゴでお酒は作る事はできないのでしょうか」

 

「林檎酒のレシピなら知っておりますがお教えしましょうか?」

 

「是非お願いしたいです」

 

「お姉ちゃんってお酒飲んだっけ?」

 

「私は飲みません。ですがお父様が良く作っているのを見ていましたので。あのリンゴもこのグラストンベリーのリンゴなのですよ」

 

「パパここのリンゴ好きだったもんね。お土産に持ってってあげよ」

 

 

笑顔でリンゴを一つ取ると丁寧に服で拭きポケットにしまいこんだ。

 

 

「私達もリンゴお供えにもってこっか」

 

「そうだな。きっと喜んでくれるよ」

 

 

ノワールがリンゴへ手を伸ばした時、何かを叩く音が聞こえすぐに張り詰める悲鳴が響いた。

 

 

「モルガンせんせの声だ!!!」

 

 

背負うカゴを放り出しマルディサントがいち早く駆けてゆくその背を追い駆けてゆくと別荘の前庭に置かれたテーブル。その上には人数分のティーカップが置かれ湯気を立てる。そして床に車椅子が倒れアップルパイが散乱する。

 

 

「モルガンせんせ!!」

 

 

視線の先にはモルガンの姿、背後には肌をほとんど晒した女性と大柄の男が立つ。

 

 

「んだよ!おめー達は!!モルガンせんせを離しやがれ!!」

 

「ブライアン!!」

 

「ブライアンさん!!」

 

 

啖呵を切るマルディサントの後ろで悲痛な叫びが二つ。叫びを上げた二人は目を丸くしブライアンと呼んだ男を見た。

 

 

「・・・・よぉ、生きてたのか。ノワール、ディナタン」

 

「知り合いだったのねブライアン・・・私はマゾエー、林檎の香りに誘われ出た魔女」

 

 

仮面の間から殺気立つ生徒達をひと眺めし小さく笑う。

 

 

「あいつが魔女か、、、!」

 

「この前のとは違うわ!」

 

「あぁ、お前がキャメリアードの姫か、、。その節は姉のモーロノエーが世話になったわねぇ」

 

「それで、姉の敵討ちでしょうか。なら、私が相手になりますが」

 

「おぉ怖い怖い、敵討ちなら姉さんがするわ。今日はこのモルガンに用があるのよ」

 

「アーサー王に伝えな。魔導士を置いて明日カーラエル城に来いってな。行くぞ」

 

「その前に、素質持ちにプレゼントをしてあげる」

 

 

突き出されたマゾエーの右手が選ぶように動きその手はマルディサントの前で止まる。

 

 

「がぁっ!?ごほっごほっ!!」

 

「凶忘症!?マルディサント!下がって!!」

 

 

何をされた訳でもないのにマルディサントは激しく咳き込みその場へとうずくまり介抱にディナタンが走り寄る。

 

背を撫でながら見上げた先で3人の姿は溶けるように消えていった。

 

 

「裏切り者が居て助かったわ」そう言葉を残して。

 

 

 

 

7月3日/night

 

 

 

 

モルガンが誘拐されリンゴ狩りは中断、メンバーは急いで学園へと戻っていた。

 

ノワール達の報告を聞きすぐさま円卓会議が行われる事となった。

 

 

 

「二人の義理の父は確かにそう言ったのだな」

 

「あぁ、マーリン様を置いてカーラエル城に来い、確かにそう言った」

 

 

アーサーの問いにランスロットが答えた。

 

 

「罠だな」

 

「罠としか言いようがないね、それもこんな見え見えの罠」

 

「罠だとしても行くしかないだろう。俺は家族を見捨てられないタチでね」

 

「主様、、」

 

「心配をするなマーリン。確かにブライアンはマーリンを連れてくるなと言ったんだろ?人数制限はかけていない、ならこちらには円卓の騎士が居る」

 

 

ニッコリと笑い卓に腰掛ける騎士を見渡した。

 

 

「いや、それが奴らの狙いかもしれない。そんな大所帯で行けばここが手薄になる」

 

「アーサーだけでなく円卓の騎士まで出向けばここを守る騎士は居ない。そうなればここは絶好の的」

 

 

トリスタンとケイの発言により円卓に沈黙が訪れる。そんな時扉が開き一斉に扉へと視線が向けられた。

 

 

「モルガン、、、せんせを取り返しに、、行くなら、、アタシも連れて行け、、、!!」

 

 

そこにはディナタンの肩を借りながら円卓を目指し歩むマルディサントの姿。危機迫る姿に一同の視線は向けられたまま。

 

 

「マルディサント!まだ寝てないとダメじゃないの!!」

 

「あぁー?凶暴症だか狂忘症だかなんだかしらねーけどよぉ!大事なもん持ってかれて黙ってろってか!?」

 

 

思わず立ち上がったイゾルデに啖呵切り咳き込みながらアーサー王を睨む。

 

 

「頼むよ王様、、!アタシはモルガンせんせのところに連れて行ってくれ!たのむ!」

 

 

一点の曇りなく王へ悲願し少女は咳き込み崩れ落ちる。痛々しい姿に目を晒す者も。

 

 

「…すまないマルディサント。お前は連れて行けない」

 

 

王は立ち上がりマルディサントへと告げる。

 

 

「その判断は懸命ね、狂忘症は命を蝕む病。それに・・・」

 

 

イゾルデがマルディサントの元へと行きスカートから伸びる脚に目をやる。その足には赤い斑点がいくつも浮かび上がる。

 

 

「この症状は狂忘症の末期症状ね。普通の人間なら歩く事もできないわ」

 

「マルディサントを治療はできないのですか」

 

「無理ね、狂忘症は未知の病。まだ完全な治療法は見つかっていないの。この患者の末路は死か病に蝕まれバルバロイになるかのどちらかよ」

 

「マルディサントが助からないのなら本人の意思を尊重すべきではないでしょうか?アーサー王、マルディサント同行の許可を」

 

 

グリードの問いに難色を浮かべるがやがで首を縦に振った。

 

 

「分かったよ、ただし条件がある」

 

「はい」

 

「マルディサントはグリードが付きっきりで看病する事。それとだ、何しろ敵の本陣へと行くわけだ…」

 

「みなまで言わなくても分かってる。邪魔ならその辺に捨てて貰っても構わないぜ」

 

「なら円卓の間に捨て置きましょう」

 

「ちょ!それはやめてくれよな!」

 

 

イゾルデの辛辣な言葉に張り詰めた空気が緩みようやく笑顔が戻った。

 

 

「そうだ、皆さんは魔女の言葉を聞きましたか?」

 

 

ディナタンの言葉に視線が集まる。

 

 

「ディナタン、魔女はなんて言ったんだ」

 

「えっと、裏切り者がいて助かったって、、、」

 

 

緩んだ空気が再び張り詰めた。

 

 

 

 

 

 

7月3日/その頃

 

 

 

二人は隠れ家を捨て北西へと進んでいた。目指す場所は敵本陣があるカドレニア。

 

 

「本当にこんな所に国なんてあるの?」

 

 

咎人の後ろを歩く彼が質問を投げた。その意味として進んでいる道は道と呼べるものではなく山間部を進んでいたからだ。

 

 

「カレドニアは山々の僅かな平地にある国だ。あと二つ山を抜ければ辿り着くぞ」

 

「つらい」

 

 

文句を言いながらも咎人の背後を歩き二つ山を超えるとようやくまともな道へと出た。その道を辿り歩んでゆくとやがて町が見え始め咎人が右手を真横に出した。

 

 

 

「ここから先は敵の本陣だ。ユウ、お前は人を斬った事はあるか」

 

「・・過去に一人だけなら」

 

「そうか、なら話は早い。カレドニアにはバルバロイだけでは無く傭兵も居る。奴らを人と思い躊躇えば命を失いかねない」

 

「覚悟を決めろって事だね。戦場での迷いは命取りになるのは分かってるよ」

 

 

一度彼は自身の左腕に目を向けその後、煙草を一本取り出すと火を付けた。

 

煙を吐き出しながら眺める国は多くの家屋が立ち並び家屋の先にはカーラエル城よりも大きな城が建ち誇る。しかし人の気配は無く見える街並みは寂れて見える。

 

 

「本当に人居る?」

 

「カレドニアはあの山の裏にある海に港を築き貿易で生計を立てる国だ。まぁ、過去の話だがな」

 

「何かあったの?」

 

「数十年前、嵐によりカレドニアが所有する船が大破し貿易ができなくなったんだ。輸入に頼っていた食物が突然途絶え多くの民は飢え。さぁ、どうしたと思う?」

 

 

突然の質問に再び街に視線を向け考えた。多くの民の腹を満たすには何をしたのかを。

 

 

「他の国に攻め入ったとか?」

 

「そうだ。自国で産業をする術のないカレドニアは傭兵団を立ち上げ多くの国を襲い略奪を繰り返した。そして力を求めバルバロイに魅入られたのさ」

 

「へぇ。随分と詳しいんだね」

 

「昔、友から聞いたんだ。さて」

 

 

話を聞いている内に煙草を吸い終え携帯灰皿へと吸い殻を詰め込み大きく身体を伸ばし咎人へと視線を向けると小さく頷くのが見えた。それを合図に二人はカレドニアへと入国し聳え立つカレドニア城を目指し歩む。

 

 

「「・・・・」」

 

「なんだか拍子抜けだね」

 

 

街並みを見渡し警戒を解くことなく彼が呟いた。その言葉の意味として敵の本陣を歩いているにも関わらず『出迎え』が無いからだ。歩く街はバルバロイの姿はおろか人の気配すら無い。

 

あまりの人気の無さに本陣を移し替えたという想像すら浮かぶ。

 

それでも街を歩み二人はカレドニア城の目前へとたどり着いた。

 

 

「まだ生きておったか、この死に損ないめ」

 

「生憎俺はお前さんの死に顔を見るまで死ねない身体なんだ」

 

「抜かせ。隣の若造は・・くくく、ついに持ち主に愛想を尽かされ見捨てられたか」

 

「ランスロットは円卓活動が忙しくてね。なぁに、剣の腕はランスロットには劣らんよ」

 

「咎人、この人が」

 

「あぁ、カレドニア国王ライエンスだ」

 

 

二人の目の前に立つのは金の髭を蓄えた初老の男性。表情は穏やかではあるが身体中から身の毛がよだつ程邪悪な気配を纏い、剣を構える二人をジロリと見渡し不敵に笑みを浮かべた。

 

 

「せっかく遠路遥々我がカレドニアに来たというのにすぐに殺してしまうのは惜しいが、どうせ死ぬというのなら敵将に手すら届かず犬死にをさせてやろう」

 

 

ニヤリと笑うライエンスが右手を上げると妖しい光を放ち光が止むとそこには多くのバルバロイが姿を見せ二人を取り囲んでいた。しかし咎人は不敵に笑う。

 

 

「やれるか」

 

「もちろん。ってやるしかないよね」

 

「良い返事だ。なに、報酬はたんまりと払わせてもらう」

 

 

単身でバルバロイへと斬り込む咎人にジト目を送った後彼も迫るバルバロイへと斬り込み血潮が噴き上がる。

 

 

「どうしたライエンス。取り巻きは尽きたのか」

 

 

多くのバルバロイを斬り伏せ2本の切先がライエンスを向く。

 

 

「ふむ、この荒れた地では良いバルバロイは呼べぬか。だが!この身に取り込んだ何万ものバルバロイには勝てまいぃ!」

 

 

黒霧を右手に纏い雄叫びを上げ咎人へ迫り轟々と右腕を振り下ろす。

 

 

「くっ、、!」

 

 

右腕を真っ向から迎え打つがそこ知らぬ力に押され鍔競り合う剣が地面へと押される。それでも咎人は剣呑に笑う。

 

 

「スイッチだ!」

 

 

咎人が叫び渾身の力で右腕を跳ね除け下がる。その刹那、白銀の刀身が宙をそよぎ右腕を斬っ伏せる。

 

 

「ぬぅぅぅ!!!」

 

「七元の切れ味はどう?痺れるでしょ」

 

 

大きく飛び退き斬られた右腕を見ると切断は免れたものの深く斬られ動かす事はできず。そしてなによりライエンスが驚いたのは右腕に集めていたバルバロイ因子が散り散りになっている事。

 

 

「若僧。一体何をした」

 

「この剣には七元徳の加護が宿ってるんだよ。どうやらバルバロイにはこの剣は天敵みたいだね」

 

 

ニヤリと笑う彼の横に咎人が並び立つ。それでも尚、ライエンスは不敵に笑う。

 

 

「咎人!!!」

 

 

手を引かれ身体が浮かぶ。一瞬の飛行時間に振り返ると自身ギリギリを飛ぶ魔弾と彼の背後にほとんどの肌を晒した仮面の女が笑う様が見えた。

 

 

「惜しぃ〜!もーちょっとだったのに」

 

「良く背後からの攻撃に気が付いたわね。気配は殺していたはずよ」

 

「そんな事はどうでも良い!お前、ティルに何をした」

 

 

強く剣の柄を握り殺気立つ彼を見てモーロノエーはけたたましく笑う。

 

 

「ティルフィングになら何もしていないわ。あの女が勝手に魔女の返り血を浴びただけ。バルバロイ因子そのものとも言える魔女の返り血をね」

 

「ユウ!どうしたと言うんだ」

 

「分からない。だけどあいつらからティルのキラーズを感じるんだ」

 

「ティルっていうんだねこの力は。モーロノエー姉さんが奪った力はワタシ達にすっごく馴染むんだよ〜」

 

 

モーロノエーの隣でケラケラと笑う魔女、その名をテイーティン。

 

 

「まぁ良いわ。ライエンス王、奴らは貴方の思惑通りにカーラエル城へと向かうわ」

 

「宜しい。ならば二手に分かれようか。魔女姉妹四人はカーラエル城へと向かえ。残りは私と妖精を捕えに」

 

 

二人が見ている内に三名は黒闇と共に姿を消した。黒闇が霧散するとその場にオイルライターの音が響く。

 

 

「咎人、ここから北に向かうと何がある?」

 

「コルベニックの城があるが、どうした」

 

「そっちにティルのキラーズが向かっているんだ」

 

「待て、分かるように話してくれ」

 

「ちょっと待ってね」

 

 

大きく吸い込んだ煙を吐き出し思考をまとめてゆく。彼の相方であるグリードの力が魔女に奪われておりグリードとバイブスで繋がる彼には探知が可能。

 

 

「それで本体は無事なのか」

 

「うん、それは大丈夫だよ。ここからずっと西南に行ったところにちゃんと感じるから。咎人、僕はコルベニックに向かうよ」

 

「本人に会わなくて良いのか?安否を知るにはお前が会うのが一番早い。相棒なのだろう」

 

「相棒だからだよ。ティルの力を奪い返しに行くんだ」

 

「分かった。コルベニックはカレドニアの港から船に乗れば行ける」

 

「ごめんね、恩を返すって言ったのに」

 

「なぁに、恩ならしっかりと返してもらったさ。時が来れば俺たちもコルベニックへと向かう。もし向こうで困った事があればコルベニック城へと行きペレスに頼むと良い。俺の名を言えば必ず力になってくれるさ」

 

「分かったよ。そうだ、ティルに会ったらよろしく伝えといてね」

 

「あぁ」

 

 

伸ばし合った手を握り離すと一人は北へ、一人は西南へと向かう。

 

 

 

 

 

7月4日/カーラエル城へ

 

 

 

明朝の学院前庭に王が一人佇んでいた。両腕を組み神妙な顔付きでまだ日が登らぬ空を眺める。その横には魔導士が物言わずに立つ。

 

 

「初夏とはいえこの時間は冷えるな」

 

「おぉランス!お前が一番乗りだよ」

 

 

神妙な顔付きから一転、現れたランスロットへと笑顔を向ける。

 

 

 

「どう思うアーサー、今まで奴らが人質を取るという事は無かったが」

 

「そうまでして俺の首が欲しいのだろう。どこも一緒さ、王を討てば国の士気は下がる。ブリテンを統一するのなら俺は一番邪魔な存在だろうしな。なーに、奴らに首をくれてやる気はさらさらないさ」

 

 

豪快に笑うアーサー王を見てランスロットは笑う。

 

 

「もう来ていたのか」

 

「弟弟子が二番とは良い事だ。おはようノワール」

 

 

次に姿を見せたのはノワール。その後ろにはティルフィングの姿もあった。

 

 

「ティルフィング。グリードはどうした?一緒ではないのか?」

 

「グリードはマルディサントを迎えに行っています」

 

「うんうん、ちゃんと約束したからな」

 

「円卓の騎士、十ノ座ガウェイン!到着したぜ!」

 

「みんなおはよ〜♪」

 

 

少ししてガウェインとラグネルが姿を見せその後、トリスタン達も前庭へと。

 

 

「それで、どうするの。誰がカーラエルに行って誰がここを守るのか」

 

「まぁ待て、全員揃ったらしっかりと説明をするさ」

 

「おはよ〜うぇ、私たちが最後じゃないよな〜?」

 

「大丈夫だぞガレス!まだギネヴィア殿下の姿がないぞ」

 

 

続いて息を切らせながら走ってきたのは円卓の騎士、六ノ座に座す少女ガレス。

 

 

「うわっ!もうみんな来てるよお姉ちゃん!!」

 

「皆様申し訳ありません、、何度も起こしたのですが殿下が目を覚まさずに、、」

 

 

身支度をしっかりと整えてある姉と違い妹はまだ髪を結んでおらず謝りながらツインテールを結ぶ。

 

 

「後はグリードとディナタン達だな」

 

 

しばらく待つと喧しい声とクスクスと笑う声が聞こえ見るとこちらに向かい歩くグリードとディナタンの姿。そしてグリードの頭の上にはもう一つの頭が見える。

 

 

「ちょ!マジでこれで行くのかよ!?」

 

「はい、これなら私も動きやすいので」

 

「良いじゃんマァル」

 

 

3人が近づくにつれてその姿が見えてきた。グリードがおんぶ紐を使いマルディサントをおんぶする姿が。

 

 

「これは妙案だな、いや。奇策というべきか」

 

 

笑顔で親指を立てるアーサーにグリードが親指を立て返した。

 

 

「マジでハズィってグリードさん!ほんと、マジで!!」

 

「なら地面を這って来ますか?私は構いませんけど」

 

「お願いします!」

 

「よし、全員揃ったな!これより部隊を分けさせて貰う。トリスタン、ガウェイン、ガレスは学院へ残りログレスの兵士達と共に学院を守護して貰う。残りは俺と共にカーラエル城へ行き義姉さんを取り戻す」

 

 

作戦を告げ騎士達へと視線を向けると誰一人反論なく静かに頷く。

 

 

「私の転移魔法でキャメリアードまで転移させます。そこから先は徒歩での移動となってしまいますが」

 

「キャメリアードからカーラエルまでは半日も歩けば着くだろう。スタンド・バイ・ユアランアド!」

 

『フォー・ラウンド!!』

 

 

呼び声に応えると共に足元に魔法陣が浮かび上がり瞬きをする間に姿を消し、そこには不安気にキャメリアードの方を見つめる魔導士の姿。

 

 

「大丈夫だってマーリンさん。みんなが付いてるしさ」

 

「ぜってーモルガン先生取り返して帰ってくるって」

 

「それよりもこっちもこっちでログレスを護らないとね」

 

「戻って来ても帰る場所が無いのは笑えないわ」

 

「みんなご飯は食べたか〜?」

 

「腹が減っては戦はできないからな!」

 

 

マーリンへと次々に声を掛ける騎士の言葉にようやくマーリンは微笑んだ。

 

 

「そう、ですね。さ、私達も」

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

転移魔法より転移された場所は以前マーリンが印を付けたキャメリアード城付近。

 

転移により大地に降り立った瞬間、騎士達は王を守護するごとく円となり王を囲う。

 

 

「おいおい、俺が王様みたいじゃないか」

 

「王様だろうが」

 

 

周囲に敵が居ない事を悟り警戒を解くとランスロットがアーサーへと小言を告げる。

 

 

「しかし転移の隙を狙ってくると思ったが拍子抜けだな」

 

 

ようやく刺してきた陽に照らされ景色を見るが以前ノワール達が来た時と何ら変わりはなくあの時にいたカレドニアの兵士はおろかバルバロイの姿すらない。

 

 

「戦力をカーラエルに集めているのだろうか?」

 

「その可能性は大いにあり得ます。王を敵地に誘い込む一隅の機会、奴らもそこで迎え打つのでしょう」

 

「よし、俺が前に出る。先に進もう」

 

「俺も並ぶよノワール」

 

 

ノワール、ランスロットを前にカーラエルへと続く木々の間にある踏み固められた土道を進んでゆく。

 

 

「まさかこの歳で誰かにおんぶされるだなんて思わなかったけど結構イイもんだな」

 

「良いなぁマァル。そうだ、兄さーん。私もおんぶしてよ」

 

「あのなぁ、、」

 

「えへへ、冗談だよ。本気だと思った?」

 

「昔はよくしてたからな」

 

「へぇー継承者サマは妹思いなのね」

 

「殿下もこれぐらい姉思いだと嬉しいのですが」

 

 

会話に花を咲かせながら道中を進む、それでも誰一人として警戒を怠る事は無い。

 

 

「そういえばノワール達とブライアンという男はどの様な関係なのですか?」

 

 

ふとグリードに聞かれた質問に二人は黙るがしばらくしてノワールが口を開いた。

 

 

「ブライアンは俺達の育ての親なんだ。俺達はコルベニック城近くに住んで居たんだけど父さんが妖精を殺しコルベニックからカレドニアへと移り住んだ」

 

「それからお母さんが死んじゃって私達二人になったんだけどある日、ブライアンさんが来てくれて」

 

「俺たちはブライアンが持つ傭兵団『不格好なコート』の一員として戦い方や傭兵の在り方を教えてくれたんだ」

 

「あの時のブライアンさんは本当に優しくて、あんな事をする人には思えなかったのに…」

 

「ノワール、ディナタンの育ての親か」

 

「そういえばノワールは私をバルバロイから助けてくれた時に『バルバロイの事は知らない』って言ってたわよね?」

 

「あぁ、俺達はカレドニア本隊とは違う部隊にいたから本国の事はよく知らなかったしバルバロイの事は聞いた事はあったけど噂程度にしか聞いてなかったんだ」

 

「なら、ブライアンさんは本国の事を知ってたから私達を遠ざけてくれてたんだ」

 

「そうなるだろうな。」

 

「アーサー?」

 

「いや、そこまでノワール達の身を案じ匿った男が何故今更になって魔女と共に行動しているのかが腑に落ちなくてな」

 

「……考えられる要因として魔女の存在が挙げられます。魔女にバルバロイ因子を植え付けられたか、何かを人質に取られ脅されている」

 

 

アーサーの視線を受けティルフィングが思う事を話す。

 

 

「でもさでもさ、それなら王様一人で来いって言うよな?こっちには最強騎士様もいるし。軍勢引き連れて来るって事は分かりきってるだろ」

 

「もしかしたら・・ブライアンさんは何かを伝えたがっている。かもしれない、、」

 

「ノワール、ディナタン。ブライアンに恩があるのは分かった。しかし今お前達はログレスの一員であるんだ」

 

「あぁ、分かっているよ」

 

 

眉を顰めながらもランスロットの問いに答えた。以前トリスタンが言っていた言葉を思い出し心中は穏やかでは無い。

 

義理父と慕った男は敵人となり自らの敵となり身を置く国を攻めて来ている。迎え打つ他に術などない。

 

 

様々な心境が渦巻く中、一向は林道を抜け広場へと出た。目線の先には目的地であるカーラエル城が聳え立ち一同はそこで足を止めた。

 

 

「ノワールは下がれ。グリード、俺と前衛を頼めるか」

 

「了解です」

 

 

ランスロットに呼ばれたグリードは立ち止まる一同の前へと立ち鞘より剣を引き抜く。

 

 

「ランスロット!俺は戦える!」

 

「ノワール。戦場での迷いは命に関わる。一度俺に『負けた』お前を前衛には出せない」

 

「でも!!」

 

「ノワール、お前は継承者でありログレスの要なんだ。それに、俺はお前が悲痛に戦う様を見たくはない」

 

「では、こうしましょう。ブライアンを捕虜として捕える。これでどうですか?」

 

 

グリードの提案に一瞬沈黙が流れ、沈黙を破ったのは王の笑い声だった。

 

 

「良い提案だな。ノワール達への扱いを考えればカレドニアでも誰もが文句が言えない立場だったのは明らかだ」

 

「人質を取り返すついでに取っちゃえば良いのね!名案ね♪」

 

「しかし、相手は相当の手慣れだと思います。5体満足で捕虜にできるかは分かりませんが命は奪わずにおきますね」

 

「よし、目標も決まったし席替えといこうか。ランス、グリードを前衛にノワールとティルフィングは後衛を頼む!ギネヴィアとギネマウアは右翼を、俺とディナタンで左翼だ」

 

「でもそれだとアーサーがディナタンを守る事にならない?」

 

「大丈夫ですよギネヴィアさん、私は入学試験もパスしましたしちゃんと戦えます!」

 

「王様ーアタシはどうすれば良いんだ?」

 

「マルディサントは私の背から振り落とされない様にしっかりしがみついてて下さい」

 

「アタシは赤ちゃんかよ!!」

 

 

マルディサントの抗議の声にクスクスと笑い声が起きる。が、王の一言により笑い声は消え歩む音が響く。

 

全域に最警戒を張りながら歩み、ようやくカーラエル城前へと着くと脚を止めた。

 

 

「よぉ」

 

「ブライアン…!」

 

 

城内へと続く門の前にはブライアンが戦斧を構え立ち塞がる。

 

 

「お前がブライアンか。見ての通りお目付けの魔導士は抜きで来たぞ」

 

「ふふ、条件の穴を突かれたのなら仕方ない。あの女はカーラエル城の奥に閉じ込めてある」

 

「ここを通りたければ俺を倒せ、という事ですね」

 

「ご名答。だが、倒す相手は俺一人ではない」

 

 

ブライアンが戦斧を担ぐと共に城中から、林からバルバロイが湧き出し喧しく声を立てながら攻め入る。

 

 

「ログレスの王を迎えるとなると持て成しも豪勢だな。しかし、この程度で俺達を止められると思うな!」

 

 

鮮血を舞い上げながら前衛は進む。迫るバルバロイは二人に割かれ瞬時に人の姿を失い肉片と化す。

 

後方より攻め入るバルバロイも同じく瞬く間に亡骸へと変わり地へと伏せる。

 

 

「まぁ、こうなるだろうとは思っちゃいたが」

 

 

ブライアンが呼び寄せたバルバロイは全て地に伏しログレスの騎士達は陣形すら崩さずそこに立つ。

 

 

「ブライアン!これ以上バルバロイを出しても無駄だ、話をしよう」

 

「はっ、鼻垂れ小僧だったお前と話す事なんざ、何もないさ。俺はカレドニアの傭兵、お前はログレスの騎士。そうだろう」

 

「まぁまぁ、要件を聞こうじゃないか。望みはなんだ、俺の首か。それともログレスか」

 

「俺の要件は誘い出されたログレスの王の首と、継承者の命さ!バルバロイで世界を覆い尽くすにはお前達の存在が邪魔でしょうがない!」

 

「そんなの嘘だよ!ブライアンさんはそんな事言わない!」

 

「ディナタン、、、っ!俺はカレドニアの猟犬ブライアンだ。金さえ貰えればどんな悪事も働く男よ」

 

「なら、後金は受け取ったのか。残りの金銭を受け取っていないのならまだお前は師匠から伝えられた依頼の途中だろう」

 

 

今まで居丈高だった態度は一変し目を見開き先ほどの言葉を発した者を探す。して、ようやく視線はニヒルに笑うランスロットを見つけ出した。

 

 

「お前、何故それを知ってる、、、?お前か、ブルーノを殺した『最強騎士』は!!」

 

「師匠は咎を犯し騎士道を踏み外した。だが、お前の様に受けた依頼を投げ出すような男ではなかった」

 

「・・・依頼なら果たしたぜ。あんなちっぽけなガキだった二人が武器持って俺に向ける事ができるようにな。生きる術を俺は教え込んだ」

 

「それで、思い出話しはいつまで続くのかしら?」

 

「いー加減退屈なんですけどー」

 

 

何処からか知らぬ声が混ざる。声色は女の物なのだが姿は見えぬ。それは騎士だけではなくブライアンも同じ様で声の主を探し辺りを見渡す。

 

 

「ブライアン。貴方がお話しをしている間にも貴方のお兄さんの身体はバルバロイに犯され続けているのよ」

 

「もう手遅れかもしれないけどねー」

 

 

やがて黒霧と共に二人の魔女がその場へと姿を現し仮面越しに不敵に笑いブライアンへと近寄ると首に手を回す。

 

 

「ノワール、あの女が魔女か」

 

「あぁ、あいつらがモルガン先生を連れ去った魔女、マゾエー、、!」

 

「ティーテンも居るよーさてさて。継承者様は義理の父親を殺せるのかなー」

 

 

「何を」そう言う前にマゾエーはブライアンの肩へとかぷりと噛み付くと、途端にブライアンの顔は青ざめ力無く地面へと倒れ込んだ。

 

 

「あれは、、パパの時と同じよ!」

 

「へぇ初見じゃないのね魔女の口付けを見るのは。でも、凶忘症を患った人間への口付けを見るのは初めてでしょうね」

 

「あそこにも二人凶忘症の子がいるけど、私がバルバロイにしてあげるねー」

 

 

大きく笑い声を上げるとティーテンが黒霧と共に姿を消した。次に姿を現した場所はグリードが背負うマルディサントの真横。敵陣のど真ん中にティーテンは姿を現しマルディサントへ口付けをしようとする。

 

 

「そんな事させないわ!」

 

 

瞬間、ギネヴィアが手に持つ槍を振い突きを繰り出すが、紙一重で身を躱し小さく笑う。

 

 

「当たらないよーそんな槍」

 

「お喋りがすぎるんじゃないかしら?」

 

「そんな口は塞がないといけませんね」

 

 

ティーテンは見た。ギネヴィアの真後ろから迫るギネマウアの姿を。妹の身体に身を隠し避けられぬ一振りを突き出した。

 

 

「〜〜〜〜っ!!!」

 

 

宣言通りにティーテンの口へと槍先を突き刺し喉奥を突き破り首から穂先が顔を出し槍を伝いおびただしい血が滴り落ちる。

 

 

「痛ったーい」

 

「「なっ!?」」

 

 

常人なら確実に死に至る傷を受けながらもティーテンは槍を掴むと自力で槍を口から引き抜き口元を歪ませる。

 

 

「今ので死なないってどうなってるのよ!?」

 

 

目の前で起こる不可解な光景に大声でギネヴィアが叫ぶ中、ティーテンは滴る血を手に溢しニヤリと笑う。

 

 

「それー」

 

 

手から溢れる程に垂らした血を抜けた掛け声と共に手を振りマルディサントへと向かい飛ばす。太陽を受け反射する血はグリードが身を翻すよりも早くマルディサントの口へと付着しバルバロイ因子を全身へと巡らせる。

 

 

「オォォォッ!!!?」

 

「あははーどうどう?身体の中からバルバロイになってく気分はー」

 

 

グリードの背で呻めきながらマルディサントはのたうち回り紐が解け地面へと落下した。

 

 

「マァルっ!!!」

 

 

ディナタンが駆け寄り抱き起こすが既に脚は人の色からかけ離れた鉛丹色に染まる。変色は見ている間にも進み今、両手も染まろうとしている。

 

 

しかし、バルバロイに成ろうとしている者はマルディサントだけでは無い。マルディサントの叫びを上回る雄叫びが響き一同が目を向けると城を覆う程の黒霧が立ち込める。

 

 

「魔女っ!!一体どれだけ考えが腐れば気が済むのですか!!」

 

 

ティルフィングが声を震わせながら叫ぶと共に黒霧は晴れそこにはバルバロイ・コロッサスの姿が。

 

 

「嘘だ、嘘だろブライアン!!」

 

 

義理父の変わり果てた姿に悲痛な叫びが戦場に響く。

 

 

「あぁもう!!ウッゼェなぁ!!何でもかんでも大事な物もってきやがって!!!!!マァルは私のダチなんだからバルバロイなんかにならないで!!」

 

 

兄の叫びをかき消す怒声が響いた。思わず振り返るとそこには怒りを露わにする妹の姿。

 

 

「マァル、今すぐ立ち上がらないとマァルの秘密、大声で叫ぶから。強がりも演技の事も全部!」

 

 

威風堂々と告げるディナタンがマルディサントへと視線を向けると鉛丹色に変わりつつある顔でディナタンを見上げた。

 

 

「この感じ、、ディナタン様!」

 

 

突き出された右手には光が集まり一本の剣の形へと変わる。ディナタンの手にはカリバーンが現出ししっかりと握り締めた。

 

 

「空より続かぬ限られしやがて地に帰す百年足らず。汝は誰かと名を刻めるか。刃となるか、鞘はあるか。武器が記憶を呼び起こし給!」

 

 

マルディサントへと駆け出し地に伏せる身体に向かいカリバーンを突き立てると一筋の光が溢れた。

 

 

「これは、キラーズが集まっている。この現象は一体、、?」

 

「これがGS。バイブスがキラーズに銘を刻む瞬間」

 

「マァル。マァルの名前を教えて」

 

 

「マルディサント・ビアンパンサント!死の淵から大斧携え帰って来たぜこのヤロー!」

 

 

光が止むとそこには黒き戦斧を携えたマルディサントの姿が。

 

 

「聞こえたぜディーナ。ディーナの声がアタシを呼び戻してくれたんだ」

 

 

戦斧を肩に担ぎニヤリと笑う顔にディナタンは笑顔を返す。

 

 

「ノワール。たった一つだけブライアンを元の姿に戻す方法があります」

 

「本当かグリード!」

 

「はい、キラーズがバルバロイ因子を打ち消すのであれば、私のキラーズをあのバルバロイに送り込めば。しかしこれはあくまでも推測の話、ですが試す価値はあるかと」

 

 

グリードの言葉を聞きノワールは大きく頷き瞳をコロッサスへと向けた。

 

 

 

 

 

 

7月4日/コルベニックへ

 

 

 

 

彼は咎人と分かれた後、カレドニアを北へと進み山岳地帯を抜け港へと来ていた。

 

 

「あれがコルベニックか」

 

 

海を超えた先には一つの島が見える。方角と感じるキラーズの気配からあの島がコルベニックで間違いはないだろう。

 

しかし泳いで渡るには距離があり彼は港を散策し船を探す事に。辺りを見渡すが船の姿は無く陸地には捨てられた漁具が至る所に散乱しており漁業が盛んだったと思わせる。

 

 

「うぇ、この船しかないのか」

 

 

しばらく港を見て回ったが船は無く手漕ぎ式の小さなボートが一艘打ち捨てられているだけ。点検したところ水漏れは無くまだ使う事は可能。彼はボートを海へと降ろし北へ向かいオールを漕いだ。幸いにも風は無く海面は鏡の様になぎ、ボートが進んだ波紋が海面に残る。

 

 

小一時間程ボートを漕ぎ彼はコルベニックへと辿り着いていた。砂浜中腹までボートを引きずり波にさらわれない様にしてようやく煙草に火を付けると砂浜からコルベニックの景色を見渡す。

 

 

後数メートル砂浜が続きその先は鬱蒼と森が茂り更にその奥には大きな建物の屋根が見える。それに、砂浜の先にある草原には踏み固められた道が。

 

最後に一つ煙を吸い込み吐き出すと踏み固められた道を辿る様に歩んでゆく。

 

 

「おぉー」

 

 

道を進み森を抜けようやく開けた場所へ出るとそこには巨大な壁の姿が。正面から見ると壁は曲線状となっており何かを囲う様に建てられている事が分かる。

 

見上げる程の壁に圧倒されながらも彼は壁の近くへと進んで行くと大きな門がある事に気が付いた。

 

きっとこの門の先にコルベニック城があり城主、ペレスが居るのだろうと思い門を押し開けようと手で触れた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

瞬間、黒ずんだ木製の門は光を放ち、触れた彼を拒絶するかの様に弾き飛ばした。

 

 

「いてて、、結界?」

 

 

手を見ると火傷の様に赤く腫れていた。

 

 

「斬る?斬っちゃうよ?」

 

 

相手が結界であるのなら切り崩せば良い。そう思い深く腰を降ろし鞘から伸びる剣の柄を取り一閃を繰り出そうとした。

 

 

「そこのお前!お爺様の城へなんの用だ!」

 

「バルバロイでは無さそうね。だけどガラハッド、用心しなさい」

 

 

一閃を繰り出そうとした瞬間に背後から声をかけられ手は止まり顔は声をかけた主の方へと向く。そこにはどこかで見た事がある白い服を着た金長髪の女性に全身を銀甲冑で包む騎士の姿が。

 

 

「えーっと、僕はコルベニックの城主に用が合って来たんだけど入らなくて困ってたんだ」

 

「当たり前だ。このハドリアヌス・ウォールにはお爺様の・・」

 

「お喋りが過ぎるわよガラハッド。敵か味方かも分からない相手に情報を与える必要は無いわ」

 

 

蔑んだ目線を送りながら手には矢を携えた弓を握り。隣に居る騎士は兜を被っている為表情は分からないが同じ顔をしているのだろう。

 

彼は少し考えて両手を高く挙げた。

 

 

「僕は戦いに来たんじゃない。理由は話すから聞いてくれないかな?」

 

 

無抵抗を示す姿に金長髪の女性は頷き彼の話を聞くとした。

 

異国より旅行に来た事、逸れたパートナーを探している途中にバルバロイに襲われ咎人に助けられたと。

 

 

「その咎人とあなたが言う人の特徴を詳しく教えなさい」

 

 

咎人というワードを口にした瞬間、女の眉が動き彼の話を遮った。その事を不思議に思いながらも咎人の特徴を話してゆく。

 

 

「えっと、金色のコートを着てて顔には目だけを隠す仮面、顎に髭が生えてるだよ」

 

「うん、良いわ。あなたの事を信じて城へ案内してあげる」

 

「アステラ!?何故この男の事を信用したんだ。ボクに分かる様に教えてほしい」

 

「もう少し待っててね。この話はみんなに聞かせる必要があるし。それと、あなたの名前はなんで言うのかしら」

 

「僕の名前はユウ。よろしくね」

 

 

頭を下げる彼に向かいアステラは微笑んだがガラハッドと呼ばれる騎士は未だ納得はしていない様で抗議の声を上げる。

 

 

「そうだね、、じゃあ僕の剣をガラハッドに預けるよ。これで信用してくれるかな?」

 

 

そう言って腰のベルトに取り付けられている鞘を外すと鞘の先端を持ち剣の柄をガラハッドに向けた。

 

 

「ガラハッド、ユウは武器をあなたに預けると言っているわ。騎士であるあなたならこの行動の重みは分かるわよね?」

 

「・・分かった。ガラハッドはまだオマエの事を完全に信用した訳ではないが行動への敬意は示すつもりだ」

 

「良いわね、好きだわ」

 

 

剣を受け取るとガラハッドは深く頭を下げた。

 

 

「ついていらっしゃい。異国の騎士」

 

 

アステラが城門に手を置くと結界に弾かれる事なく城門は押され入り口を開けた。その先には一つの城の姿が見える。

 

アステラを先頭に彼はガラハッドに睨まれながら城へと続く道を歩んでゆく。

 

 

 

 

 

 7月4日/代償

 

 

 

 

 

 

 

ジットリと睨んだ先には咆哮を上げるコロッサスの姿とせせら笑う二人の魔女。

 

 

「よし!二人の義理父を取り返すぞ!スタンド・バイ・ユアラウンド!」

 

「フォー・ラウンド!」

 

「ランス!お前はノワール、ティルフィングと共にコロッサスを叩け!グリードとギネヴィア、ギネマウアはマゾエーを、ディナタンとマルディサントは俺と共にティーテンを!」

 

 

指示を受け駆ける騎士を見て魔女は未だせせら笑う。

 

 

「背中がガラ空きですね…」

 

「望み叶わぬまま死んじゃいなよ〜」

 

 

再び聞きなれない女の声が聞こえ背後が紅く光り灼熱の様に熱く燃える。

 

 

「「たぁっ!!」」

 

 

ふと前に居た二人のティルフィングの姿が霧の様に消えると背後より迫る魔女が放った魔弾を斬っ伏せる。

 

 

「まだ魔女が居たのですね」

 

 

冷酷の視線の先には魔弾を防がれた事に驚く二人の魔女。グリートンとグリートーネアの姿。

 

 

「背中は任せた!」

 

 

魔女二人を食い止めた二人に声を残し騎士は進む。

 

 

「この魔女二人は私が引き受けます!グリードは行って下さい!」

 

「一人で大丈夫ですか?」

 

「はい、一千年前にも魔女の相手はしましたので」

 

 

切っ先を魔女に向ける後ろ姿を見てグリードは後方を向き戦況を見定める。

 

姉妹の息が合うコンビネーションで魔女を攻める二人、ややチグハグであるが王と共に魔女を攻める三人、果敢に攻める一方で何処か気が迷う二人。

 

戦況を見極めグリードはコロッサスの元へと駆ける。

 

 

バルバロイ・コロッサス。それは素質がある者がバルバロイとなった姿。バルバロイは記憶を食らう異族、その為バルバロイは過去の記憶を元に戦いを行う。

 

自らが育てたノワールの戦い方を把握しているコロッサスにとってノワールは敵では無い。そして、過去に戦った『依頼者』の記憶を元にランスロットの戦い方すら把握している。

 

二対一という不利な状況にも関わらずコロッサスは二人を凌駕し始める。

 

 

「ノワール」

 

「なんだ!」

 

「お前に、いや、お前たちには伝えなくてはならない事がある」

 

 

ランスロットの言葉の続きを聞こうと耳を向けた瞬間、二人の間へと戦斧が振り下ろされ二人は分担されてしまう。

 

 

「ランスロット!」

 

「お前に覚悟があるのなら、俺はお前に真実を見せる」

 

 

耳を劈く咆哮によりノワールの返事はランスロットには届かなかった。しかし、一瞬の視界に映ったノワールの瞳には覚悟が確かに宿るのをランスロットは見逃す事はなかった。

 

 

「答えろノワール!お前に本当を知る覚悟はあるのか!」

 

「覚悟ならできている!俺は、本当が知りたいんだ!!」

 

 

ランスロット、ノワールの叫びが戦場に響く。その時、コロッサスへと向かっていたグリードが足を止め視線を敵から外し北東を睨んだ。

 

 

「増援でしょうか」

 

 

グリードの視界には何かが此方へと向かう姿が見える。それは荒地に土煙を上げながら矢の様に直走りコロッサスへと向かう。

 

 

瞬間、グリードの視界から何かが消えた。驚きもう一度それを探そうとした時には悲痛なコロッサスの悲鳴が。

 

 

『ブルーノ・因子分解・ジョワイユ!!』

 

 

グリードの視界から消えたそれは飛び上がりコロッサスの顔を蹴り二人の前へと着地した。

 

ノワールと同じ金色のコートを背に靡かせ目を隠す仮面を付けニヤリと笑う男。

 

 

「父さん・・・?」

 

「あぁ、お前達の父親。ブルーノだ」

 

 

妖精を殺しランスロットに殺されたと聞いていた父が今、目の前に立つ。ノワールは何度も目の前の人物と記憶を照らし合わせるがこの憧れた背中は疑う余地の無い実父の背。

 

 

「再会を祝い会話に花を咲かせたいところだが、、まずはコイツを片付けないとな」

 

 

蹴られた顔を抑えコロッサスは戦闘態勢をとり再び咆哮を上げる。

 

 

「父さん!このバルバロイはブライアンなんだ!」

 

「あぁ、ランスロットから聞いている。それに、コイツを救う方法がある事もな」

 

「この人がランスロットの師匠」

 

 

ようやくこの場へと辿り着いたグリードが呟き僅かに漂う匂いを嗅ぎとった。

 

それは嗅ぎ慣れた彼が吸う煙草の香り。

 

 

「お前がティルか、お前のマスターから受けた礼は後でしっかりと返そう!よし、ランスロット!お前は右から行け!ノワールは左だ!」

 

 

二人へと指示を出しブルーノは二呼吸程その場へと留まった。この間をグリードは不思議に思ったがすぐに疑問は解決する事となる。

 

 

左右から迫る二人を相手取り戦斧を振り回しできる一瞬の蹌踉。その隙を的確に見抜き攻め入るタイミングを見計らっていたと。

 

ブルーノ一人が加わった事により戦況は大きく変化しコロッサスは成す術なく全身に切り傷を付けられ追い込まれてゆく。

 

 

「ランスロット、お前は俺と魔女を叩くぞ。ノワール、後は頼む」

 

 

コロッサスが弱るのを見ると魔女と戦う騎士の援軍へと向かって行く。戦いながらも戦場を見極める観察力に洞察力、そして判断力。幾つもの修羅場を潜り抜けて来たであろう猛者の動きにグリードから感心の声が漏れる。

 

 

「グリード!俺が隙を作る」

 

「はい!この任務、必ず」

 

 

猛者の血を受け継ぐ息子に微笑みノワールの後へと続く。

 

 

『おぉぉぉぉお!!』

 

 

先陣を切るノワールを迎え打つ為に振り下ろされた戦斧をノワールは火花を散らしながら受け止め吠える。

 

数秒の鍔迫り合いの後、剣を傾け戦斧は剣筋を滑り地面へと導かれる様に運ばれ地にめり込んだ。

 

 

「今だ!」

 

「治癒師より教わりし全てを治癒する術よ!我がキラーズを贄にその真価を今!」

 

 

右手にキラーズを集約し光の玉を作り出すとグリードはコロッサスへと向かい駆け戦斧を抜き上げる寸前にコロッサスへと押し込んだ。

 

 

グリードの案。それは重度の凶忘症を患ったマルディサントがGSを果たした事により凶忘症を完治させたのを見た事により出た案。キラーズを流し込めばバルバロイ因子を取り除く事ができると。ならばネスに教わった治癒魔法にキラーズを混ぜ込み叩き込む。

 

 

『おぉぉぉぉぉぉ……」

 

 

グリードの考えは的中しキラーズを流し込まれたコロッサスから黒霧が噴出し徐々にコロッサスから人の姿へと戻って行くのが見えた。

 

 

「へぇ、、まぁ良いわ。こちらの目的は達成されたも当然」

 

「現世と常世が交わり」

 

「世界に溢れ出す災厄の炎」

 

「現世に終わりを常世に始まりを」

 

 

争いの最中魔女達はせせら笑うと黒霧となり姿を消した。

 

 

「モルガンせんせ!!」

 

「あっ、マァル!」

 

 

魔女が消えると同時にマルディサントはカーラエル城へと駆け出して行きディナタンも後を追おうとするが戦場に現れた死んだはずの父が気になりその場で足踏みをする。

 

 

「マルディサントは私が追いますので心配なさらずに。ディナタン様はお父様の元へ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

ギネマウアに諭されディナタンは父の元へと歩み出す。

 

 

「父さん・・・生きていたんだね・・」

 

「あぁ、心配かけてすまない」

 

 

魔女が去りカーラエル城に静寂が訪れても辺りを警戒するブルーノだったが多くの騎士に囲まれ警戒を解き涙を浮かべる息子の肩を抱いた。

 

 

「お前の覚悟は聞かせてもらったよ。本当を語りたいところだが」

 

 

仮面を付けた顔はアーサーを向く。その視線を辿り一同がアーサーの顔を見た。

 

 

「語るのは構わない。その前にノワール、ディナタン。俺からお前達に謝らせて欲しい。家族をバラバラにしたのは他でもない俺だからな」

 

「どうして、なぜそんな事をする必要があったんだ!」

 

 

王の思わぬ言葉にノワールは父から離れアーサーを問い詰めようと歩み寄るが王を守る様にランスロットが立ち塞がる。

 

 

「話を聞けノワール。お前は本当を聞く覚悟ができたのだろう」

 

 

ランスロットに言われノワールは握った拳を解き王へと頭を下げた。

 

 

「いや、ノワール達の苦労を思えば殴られても文句は言えないよ。さて、俺が本当を語ろう」

 

 

一つ呼吸をするとアーサーは話を語り出した。

 

 

「ブルーノは妖精なんて殺してはいないさ。全ては俺がでっち上げた作り話だ」

 

「えっ!それってどういう事なのよ!?」

 

「俺達が探している聖杯を起動させるには妖精の力が必要でな。その事を同じく聖杯を求めるカレドニアより早く知った俺達は一芝居打つ事にしたんだ。妖精を守護する任務を任された円卓の騎士が妖精を殺し逃走、コルベニックとの友好は破壌しログレスの関係者はコルベニックから追い出された。ここまで大々的に事を荒立てれば誰もが妖精は殺されたと信じて疑わない」

 

「そして俺は単身でカレドニアへと渡り国王であるライエンスを執拗に狙う。円卓の騎士から追われる男の最後の悪足掻きってとこだな」

 

「師匠には俺がサポートで付いていたんだ。だが、師匠は度重なる戦闘で傷付き命を消す寸前だった」

 

「愛する祖国を、家族を守る為俺はランスロットとGSを果たしこの命尽きるまで戦うと決めたんだ」

 

 

3人の話を聞きノワールとディナタンは複雑な表情で3人を見ていた。端的に言ってしまえば国を守る為の作戦の一つであったのだが生活そのものを崩された2人からすれば溜まったものではない。

 

 

「じゃあブライアンさんは?ブライアンさんはカレドニア軍の人だったんでしょ?」

 

「ブライアンはカレドニアの兵士で間違いないのだが俺が金で雇ったんだ。奴は腕が立つ兵士であったし金さえ積めばなんでも言う事を聞く男」

 

「あぁー?俺はまだ金を一文も貰っちゃあいないぜ。早く金を払いな」

 

 

ブルーノの言葉を遮り怒りの籠る声が聞こえ振り返るとティルフィングに支えられながら此方へと向かうブライアンの姿が。

 

 

「悪いな嬢ちゃん。ここで大丈夫だ」

 

 

ブルーノの目の前まで来るとティルフィングを離しその場へとどっかりと座り込んだ。

 

 

「悪いがまだ任務の途中でね、この任務が終わればログレスから大金が手に入る。それをお前に譲るつもりだ」

 

「けっ、どうだか。もう俺はガキの面倒だなんてごめんだぜ」

 

 

悪態を吐きながらブルーノを睨むがその瞳には敵意は無く。ふとブルーノが手を伸ばすとブライアンはしっかりと手を握った。

 

 

「よぉ、老けたな」

 

「お互いな」

 

 

男達は静かに笑顔を向け合った。

 

 

「おーーいっ!モルガンせんせは無事だぜーーー!!」

 

 

マルディサントの声に目を向けるとモルガンを背負いながらこちらに向かう姿が。背に乗るモルガンは笑顔で手を振っているのが見える。

 

 

「一件落着だな」

 

 

笑顔のアーサーにようやくこの場に渦巻いていた緊張が解れた。

 

 

「ありがとうグリード、ブライアンを助けてくれて」

 

「本当にありがとうグリードさん」

 

 

二人に感謝の言葉と深々と頭を下げられグリードはやや照れながら言葉を返した。

 

 

「私の読みが当たっただけですし、お礼は私に治癒魔法を教えてくれた仲間へお願いします。ブルーノ、でしたっけ?ユウは、私のマスターは今何処に」

 

「あいつはコルベニックへと向かっている。お前のキラーズが魔女に奪われたと言っていたが、、お前に異変は無いのか」

 

「いえ、今のところは何も。慣れない治癒魔法を使った為か少し右腕が重いだけです」

 

 

そう言って右肩を回していたのだが回していた右手はグリードの意志に反した動きをした。

 

 

「がっ!な、、何を、、するんだ、、、!?」

 

「嘘っ、、!ノワールっ!!」

 

 

回していた右手はノワールの喉を掴むと力を強め窒息させようとする。グリード自身も左手を使い右手を引き剥がそうとするのだが右手は離れる気配すら無いままノワールの喉を締め続ける。

 

 

「かはっ、、」

 

 

遂にノワールの呼吸は堰き止められ顔は青白く染る。

 

 

「グリード!!」

 

 

ティルフィングが叫びグリードの手首と肩を持つと肘関節に向かい膝を打つ。鈍い音が響きようやくグリードの手は喉から離れだらりと垂れ下がりノワールはその場へと崩れ落ち激しく咳き込む。

 

 

「ありがとうございます、、これは一体、、、」

 

 

左手を使い右手に取り付けていた手甲を外すと手の甲に斑点が見えた。さらに手甲を外すと斑点は手の甲から続き肘にまで続くのが見える。

 

自らの手に起きている異常な事態から顔を上げるとそこにはグリードに対し敵意を持つ視線が突き刺さる。

 

 

「グリード、先ほどの戦いで魔女に何かをされましたか?」

 

「いえ、魔女の口付けは躱しましたし私はさっきの戦いで魔女と戦ってはいません」

 

 

その中でもティルフィングは冷静にグリードへと問いかけるがグリードの記憶にある限り魔女から何かをされた覚えはなかった。

 

 

「そうだ、グリードってパパの記憶を取り返してくれた時モーロノエーのお腹を殴ってたわよね、、?」

 

「はい、その時モーロノエーの血を手に浴びて…」

 

 

ようやくグリードは合点がいった。グリードは既に魔女の口付けを受けていたと。

 

 

「それならマァルの時みたいにすぐに症状が出なかったのはどうしてなの?」

 

「グリードはキラーズ因子を持つ人じゃ無くてキラーズそのものだからじゃないかしら?バルバロイ因子に強い抵抗力を持っていたのよ」

 

「なら何故・・・」

 

 

して、グリードは考えた。今回の戦いで自身が何をして何をされたのかを。

 

 

「分かりました。きっと原因は治癒魔法を使った事だと思います」

 

 

一行はグリードの話しを聞き納得をしていた。グリードが不慣れな治癒魔法を使用した事によりキラーズを消耗しバルバロイ因子による侵食を受けたと。

 

 

「グリード、、」

 

「いえ、気にしないで下さい。治癒魔法を使ったのは私の意思です。それよりも大丈夫ですか?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

 

笑顔で応えるがノワールの首には握られ鬱血した跡が残る。

 

 

「その様子だと完全にバルバロイに取り憑かれてはいないようだが」

 

「そう、ですね。侵食は右手のみです。キラーズを消耗したとはいえキル姫はキラーズの結晶体なので人間の様に完全に侵食される事はないかと」

 

「…でもあの時魔女は凶忘症を患った人は2人居るって言っていました。1人はマァルだけど、、」

 

「もう1人はブライアンだろ?」

 

「違うよ兄さん。ブライアンさんを除いて2人。1人はマァルであと1人居るよ」

 

「きっと私の事の事だと思います。モーロノエーの返り血を浴び凶忘症を患わされた」

 

「魔女の血ってなんか濃そうだもんね。でもグリードってマルディサントみたいに咳込んだりしてなかったわよね?」

 

「そういえばそうですね」

 

 

そう言って返事を求めるようにティルフィングへと視線を向けた。

 

 

「それは私にも分かりません。ただ、グリードが言ったようにキラーズがバルバロイ因子への抵抗になっていたのは確かだと思います。マルディサント様やブライアン様の様にバルバロイに取り憑かれたとしてもキラーズの力があれば対抗する事ができる」

 

「グリード、右手は大丈夫なのか。利き手なはずだが」

 

「はい、ディナタンに手当てをしてもらったのでなんとか。肘の関節が外れただけなのでしばらくすれば剣は振れるかと。しかし魔女に奪われた右手は意志を持ちノワールを狙うかもしれません」

 

「奪われた右手を取り返すにはどうすればいいんだ」

 

「私のマスターに会いバイブスとキラーズを繋ぎ直せば私のキラーズは元に戻るはずです。そうすれば右手のバルバロイ因子は消えるでしょう」

 

「ユウはコルベニックに居る。早急に手を打つのならこのままコルベニックへと向かうべきだが」

 

 

ブルーノの視線の先でアーサーは深く頷いた。

 

 

「あぁ、身を呈したグリードを見捨てる事はできない。しかし」

 

 

アーサーの視線はブライアンへと向く。敵国の傭兵でありバルバロイ因子こそ取り除かれたが得体の知れない人物をどうすべきか判断しきれず視線はノワールへと向いた。

 

 

「話してくれブライアン。何故魔女に味方していたんだ」

 

「…それは、アニキを魔女から取り返す為だ。今は極悪のクソ野郎になっちまっているが本当は違う!カレドニアの民を救う為にアニキは魔女に身を差し出し、、!」

 

「話はブルーノから聞いているぞブライアン殿」

 

「アーサー王、、」

 

 

ブライアンが見上げた先には神妙な表情を浮かべるアーサー王の姿。

 

 

「俺が王に就任した頃、カレドニアが持つ船の多くが嵐で沈没し民が路頭に迷い飢えたと聞いた。その頃はまだログレスとカレドニアは友好国であり俺たちも助力しようとしたのだが、、」

 

「あぁ、そいつは知っている。しかしログレスの使者をアニキは殺し首を送り返した」

 

「送り返され首を見てログレスはカレドニアを敵国と認定したが、思えばライエンスからの警告だったのかもしれないな。カレドニアはバルバロイの手に堕ちている、関わるな、と」

 

「民の為に奮闘するライエンス王は魔女に甘い言葉を囁かれ乗ってしまった。魔女の常套手段です。王を手中に納め魔女達はカレドニアの民にバルバロイ因子を振り撒いた」

 

「・・・頼むアーサー王!義理の姉を攫った罰は何なりと受ける!俺のアニキを救ってくれ!」

 

 

地面に額を付け悲願する。その姿を騎士達は言葉なく見守り王の言葉を待つ。

 

 

「俺がブライアン殿に手を掛ければグリードが身を呈した意味がなくなるだろう。安心してくれブライアン殿。分かっているさ。我々が倒さなければならない敵はカレドニアではなく魔女だという事を」

 

「アーサー、この男の実力は俺が保証しよう。グリードのキラーズを受けたのならこの男もバルバロイと戦えるという事だ」

 

「よし分かった!進む道は同じ、断る理由なんてないさ」

 

「すまねぇ、、恩を着る、、!」

 

「ブライアンさんはどうしてモルガン先生を攫ったりなんかしたの?」

 

「あぁ、モルガンを攫ったのは魔女に命令をされたからだ。7月3日にグラストンベリーにアーサー王の義理姉が居るから攫ってこいとな」

 

「義理姉さんを攫い俺を呼ぶ為の人質にしたわけか。ブライアン殿、魔女は何故その事を知っていたか知ってはいるだろうか?林檎狩りの件は身内にしか話していないはずだが」

 

「凶忘症だ。凶忘症を患うという事はバルバロイ因子が体内にあるという事。魔女共はバルバロイ因子から情報を得ている」

 

 

ブライアンの言葉に場の空気が凍り付きアーサーとブルーノは目を合わせた。

 

 

「不味いなアーサー。ブライアンの話が本当なら魔女に妖精の事を知られてしまっている」

 

「急ぎコルベニックへと向かおう。マーリン!」

 

 

叫ぶアーサーに応えるように地面に魔法陣が浮かび上がり光と共にマーリンの姿が現れた。

 

 

「話は聞いております主様」

 

「一度義理姉さんを学院に送り俺たちはコルベニックへと向かう。転移魔法は使えるか」

 

「ハドリアヌス・ウォール前になら可能です。モルガン、一度私と学院へと帰りましょう」

 

「ありがとうマーリン。アーサー気をつけてね。なんだか嫌な予感がするの」

 

「大丈夫だよ義理姉さん。俺には頼もしい騎士がついている、無事に帰ってくるさ」

 

 

モルガンへと笑顔を見せるとマーリンが手を掴み魔法陣の中へと消えてゆく。しばらくし再び魔法陣が現れマーリンが姿を見せた。

 

 

「参りましょう、転移先は最前線。くれぐれも気を付けて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月4日/ペレス謁見

 

 

 

2人に案内され彼は聳え立つコルベニック城内部へと来ていた。結界が張られているとはいえ敷地の中には多くの兵士達が見回る姿が見え彼はため息を吐いた。

 

 

「どうしたのかしら」

 

「結界を破らなくて良かったって」

 

「お爺様の結界はオマエが何をしても壊す事ができない。いらない心配だ」

 

「そうかもね」

 

 

態度が軟化したアステラだがガラハッドと呼ばれている鎧騎士は態度を崩すどころか風当たりは強くなる一方。しかしそんなガラハッドの事などどこ吹く風の様に目は異国の城内を見渡している。

 

 

「この門の先に城主、ペレス様が居るわ。くれぐれも無礼は無いようにね」

 

「分かってるよ」

 

 

アステラが門を開け放つと空間が広がり入り口からレッドカーペットが奥まで続いている。カーペットを目で辿ってゆくとガラハッドの他に鎧を着た騎士が3名、騎士の横には少女が3人並び立ち上座には玉座があり老人が腰をかけその横には少女が1人。

 

 

「只今戻りました。それとペレス様にお客様を連れてきたわ」

 

「お客様?この男が?」

 

「えぇそうよ。この男の名はユウ。父なる彼の使者よ」

 

 

アステラの言葉にガラハッド以外の者は一斉に視線を彼へと向けた。

 

 

「場は作ってあげたわ。後は貴方が説明してあげて」

 

「うん、ありがとね」

 

 

小さく頭を下げ彼はここに来た経緯を話してゆく。約三ヶ月の話を分かりやすく端的に話し顔を上げると難しい顔が幾つも並んでいた。

 

 

「理解しにくかったけど要件は掴めたわ」

 

「なんかごめんね」

 

 

何処かで見た事がある女性にダメ出しを受けながらも説明を終えホッと一息。

 

 

「父なる彼が目をかけたのなら我らも彼の意思に従い『銀卓の騎士』の力を貸そう」

 

「ありがとうございます。助かったよ」

 

 

玉座に腰かけるペレスの言葉に頭を深く下げた。

 

 

「待ってくれ!どうしてみんなはこの男の事を信じたのだ!ボクに分かるように説明して欲しい!」

 

「ガラハッドの意見に賛成かな。話しは理解したけどこの人に力を貸す理由が分からない。第一に父なる彼とは誰の事なんだ」

 

 

ペレスの言葉を否定するガラハッドともう1人、銀の鎧を着込む騎士。鎧冑から一房の緑飾りを付けた騎士。

 

 

「そういえばオーウェンとガラハッドは父なる彼に会った事は無かったね。話をしようか。『銀卓の騎士』結成の話を」

 

 

そう言った鎧騎士は一度玉座に座るペレスへと顔を向けペレスが頷くのを見てからポツポツと話を始めた。

 

 

「その話し僕も聞きてて良いの?なんなら席を外すけど」

 

「いや構わないよ。彼の事だから君に素性を明らかにしていないと思うし君も興味はあるだろう?」

 

「そういう事なら聞かせてもらおっかな」

 

「うん。じゃあ話そうか」

 

 

銀卓の騎士、マターヤは話を始めた。

 

 

「コルベニックは遥か昔から妖精が住まう国。友好国であるログレスの円卓の騎士が妖精を守護していたのだがバルバロイを操る大元であるカレドニアに妖精の存在を知られてしまった」

 

「妖精?」

 

「妖精は姿は人間と変わらないのだけど不思議な力を持ち、聖杯を起動させる為には妖精の力が必要と言われている。円卓の騎士は妖精を殺したという噂を作りコルベニックから姿を消した。僕達を銀卓の騎士として育ててからね」

 

「なるほど?じゃあ銀卓の騎士は咎人の代わりに妖精を守る人達って事だよね?」

 

「簡単に言うとね。銀卓の騎士、一の脚、マターヤ。よろしく異国の騎士」

 

「銀卓の騎士、ニの脚、アダン。父なる彼の使者よ、よろしくお願いします」

 

「銀卓の騎士、三の脚、オーウェン。よろしく」

 

「銀卓の騎士、四の脚、ガラハッド」

 

「どうもです。それじゃあそこの子達は?」

 

「私達は銀卓の騎士と共に卓を支える武器よ。マターヤの武器、リリアーナ。アダンの武器、エクセリア。ガラハッドの武器、フィエナ。そして私がオーウェンの武器、アステラよ」

 

 

自らを武器と名乗る少女達を不思議そうな顔で彼は見ていた。

 

 

「どうして君達は自分の事を武器と言うの?どう見ても人間だよね?」

 

「ゲシュタルトシフトにより彼女達は武器へと姿を変える。バルバロイに対抗する術と受け取ってもらおうか」

 

 

そうアダンに言われ彼は武器へと変身する姿を思い浮かべていた。

 

 

「なんか大変なんだね」

 

「ねぇねぇ、ユウ君は何処から来たの?良かったら私とお話ししようよ」

 

 

可愛らしい声の主はペレスの横に居た少女。名はフィエナ。もちろん彼女も何処かで見た覚えがある。

 

 

「僕はラグナ大陸のサフランから来たんだよ。ティルとキャメリアードに温泉旅行に」

 

「姉上!それ以上ソイツと話すのはダメだ。ガラハッドはコイツを信用していない」

 

 

彼の話を興味深く聞こうとしているフィエナの前にガラハッドが立ち塞がる。

 

 

「うーん、、どうしたら信用してくれるかな?僕に敵意は無いし僕は敵を作りたく無いよ」

 

「オマエも騎士なら剣で示せ!ガラハッドと戦え!」

 

 

そう叫ぶと預かっていた剣を鞘ごと彼に向かい投げ抜刀し切先を向ける。

 

しかし彼は困った顔をして他の騎士へ助けを求める視線を送る。

 

 

「良かろう。ガラハッドと戦い勝つ事ができれば銀卓の騎士は異国の騎士の力になろう。異国の騎士よ、負ければ父なる彼の名誉を損じる事と知れ」

 

「そうだね。実力はこちらも気になるところだし」

 

「えぇ、、分かったよ」

 

 

この中で一番平穏そうなペレスに言われマターヤに囃し立てられ戦う以外の道は封じられ彼はポケットから煙草を取り出し口に咥えた。

 

 

「じゃあガラハッド。僕が勝ったら僕の事を信用してね」

 

「そのつもりだ!ボクが勝ったらオマエはこの城から出て行ってもらう」

 

「それと兜とって素顔を見せてよ」

 

「抜かせ!」

 

 

そう言って笑う彼に向かいガラハッドは走り切り込む。が、繰り出す剣戟は全て防がれ二歩ガラハッドは下がる。

 

 

「どうした!打ってこい!」

 

「やだよ。手の内が見えない相手に切り込むのってよほど自信があるかバカがやる事だしこっちから攻めたら疲れるじゃん」

 

「愚弄したな?!」

 

「なんかごめん」

 

 

のらりくらりとガラハッドの剣戟を防ぎ躱し、その度にガラハッドの攻撃は強さを増してゆく。

 

 

「良いね、ガラハッドってもしかして強い?」

 

 

上段より迫った剣を受け止め痺れた手に彼はニヤリと笑う。

 

 

「あっ、でも鎧の重さか。良い一撃だったけど」

 

「〜〜〜〜っ!!!」

 

 

上段の剣に力を込め叩き斬ろうとするが剣を斜めに流されて刃を滑り床へと滑り落ちる。

 

あっ、っと思った瞬間に彼は後ろへと飛び退き剣を構える姿が。

 

 

「ふぅ。もうやめよ?」

 

 

鎧越しでも分かる程に荒く息を吐きカタカタと鎧が揺れる。そんなガラハッドを気遣っての提案。

 

 

「黙れ!ボクは銀卓の騎士としてオマエに負ける訳にはいかないんだ!」

 

 

鎧兜越しにギロリと睨むと猛攻を仕掛け荒ぶる様に剣を振るう。

 

 

「ガラハッド!」

 

 

ふと名を呼ばれ前を見ると何かが飛来する。それは彼が咥えていた煙草。

 

 

「こんな物!」

 

 

怒声を叫び飛来した煙草を両断した瞬間、彼は剣の側面で仰ぐように空を切った。

 

 

「うわっ!」

 

 

その時、空に散らばった煙草の葉は仰いだ風に乗りガラハッドの顔へと飛んだ。

 

鎧兜を着込むガラハッドであったが細かな葉は隙間を潜りガラハッドの目に入り込み視界を潰す。

 

 

「煙草の葉っぱ痛いでしょ。降参してよ」

 

 

目を掻こう踠くが付ける鎧兜に阻まれ掻く事はできず。目を掻く為には鎧兜を外さなければならない。しかし、兜を外す行為は敗北を認めると同義。

 

 

「ガラハッドは負けてはいない!まだ戦える!」

 

 

痛む目を無理やり開け兜越しに睨む視界は涙に滲み霞む。それでもガラハッドは剣を彼に向け続ける。

 

 

「顔洗ってきなよ」

 

 

振われた一閃にガラハッドが持つ剣は打ち飛ばされ床を転がった。

 

 

「ガラハッドはまだ、、、!!」

 

「ガラハッド、顔を洗いに行きましょう。手を貸しますから」

 

 

リリアーナがガラハッドの手を取ると部屋の外へと釣れてゆく。彼の横を通り過ぎる時、小さく頭を下げるのが見えた。

 

 

「見事であった異国の騎士。約束通り銀卓の騎士の力を貸そう」

 

「ありがとうございます」

 

「ガラハッドに勝つとはね。でも君まだ本気じゃなかったでしょ?」

 

 

マターヤの言葉に彼は苦笑いを浮かべた。

 

 

「確かに見事ではあったわ。ガラハッドの剣筋を完全に見切っていたし。戦闘の前に煙草を咥えたのはこの為だったのね」

 

「それと挑発の意味もあったよ。僕は反撃する方が好きだから」

 

 

そう言って彼は口に煙草を咥えた。

 

 

「それと」

 

「それと?」

 

「城内は禁煙よ。城の外に喫煙所があるからそちらでお願い」

 

「はい、すいません」

 

 

咥えた煙草を箱に戻すとドアが開きリリアーナが姿を見せた。その後ろにはガラハッドの姿もある。

 

 

「・・・・」

 

 

リリアーナの後ろに居るガラハッドは鎧兜を脱ぎ銀髪が首元に垂れ、まだ赤い目で彼をギロリと睨み続けていた。

 

 

「ガラハッドって女の子だったんだ」

 

「こんな無骨な鎧を女の子が着ていて驚いたかしら?」

 

「ずっと男の人だと思ってたよ。改めてよろしくねガラハッドちゃん」

 

「ボクをちゃん付けで呼ぶんじゃない!」

 

「じゃあガラハッドくん?」

 

「呼び捨てで良い!オマエと話しているとペースが乱されてしまう。さっきは負けてしまったが次はガラハッドがオマエを倒す」

 

「またお願いね」

 

 

睨みながら差し出した右手を彼が掴み握手を。荒ぶっていたガラハッドをリリアーナが宥め説得したのだと見ている人は理解し2人が握手をする姿を見ていた。

 

 

「うぉ!2人の足元に毒蛇がっ!!」

 

「うわぁぁ!?」

 

 

その時、マターヤの声が響き彼はその場で飛び上がった。

 

 

「嘘だよーいやぁ、からかい甲斐があって嬉しいよ」

 

 

ケタケタと笑うマターヤに彼はジト目を送る。

 

 

「しかし、ガラハッドを軽々といなす剣術見事でした。余程鍛錬を積まれたのでしょう」

 

「昔ね。※※※を取り戻す為に。…あれ?今僕なんて言った?」

 

 

誰かの名前を読んだ時、彼は名前を呼ぶ事ができていなかった。その事態に銀卓の騎士達は察し、かける言葉が出てこなかった。

 

 

「煙草でも吸いに行きましょう。喫煙所へ案内します」

 

「う、うん、、」

 

 

アダンに誘われ彼は外へと出てゆく。

 

 

「アダンさんも煙草吸うの?」

 

「いえ、私は吸いませんが異国の地で1人で喫煙は寂しいでしょう」

 

「確かにね。…なんで僕名前が言えなかったんだろ」

 

 

煙を吐き出しながら彼は左手薬指に輝く指輪を見つめた。この指輪は大切な人と交換した。それは覚えているのに誰と交換したのか思い出せない。

 

 

「…確か※※※のキラーズが誰かに奪われて、、それで咎人と分かれてコルベニックに来たんだ。誰のキラーズだったっけ」

 

「ユウ、今から私が話す事はあなたに辛い現実と向合わせる事となります。それでも良ければ話をしますがどうしましょうか」

 

「うん、聞かせて。僕は聞かなくてはならないから」

 

 

頷き煙を吸い込み吐き出すとアダンは話を始めた。

 

 

「ユウが名を呼べないのは名の主がバルバロイに喰われたか取り憑かれたからです。バルバロイは記憶を喰らう魔物。記憶を喰われればその人の事は存在から消えてしまう」

 

「………」

 

「しかし半端にでも覚えているという事はまだその人は生きているという事です。まだ希望は消えてはいません。名前の他に覚えている事はありますか?」

 

「うん、えっと、身長はアステラと同じぐらいで桃色の長髪、骸斬って剣を待っててお酒が好き。普段は優しいけど怒ると怖い」

 

「それだけ覚えているのなら大丈夫です。あとはユウがコルベニックへと来た理由を思い出しましょう」

 

 

アダンの言葉に頷き吸い終わった煙草を灰皿へと投げ入れ城へと戻ってゆく。

 

 

 

 

 

7月5日/Night

 

 

 

 

アダンと共に城に戻ると1人増えている事に気が付いた。その人は城主であるペレスと親しそうに話し戻ってきた2人に気がつくと笑顔を向けた。

 

 

「初めまして異国の騎士。私の夫がお世話になりました」

 

「私の夫、、、?」

 

「はい。ブルーノの妻、ニニアンと申します」

 

「えっ、、?」

 

 

咎人の妻と名乗る女性に彼は困惑を浮かべた。彼は咎人から奥さんは死んだと聞いていたからだが。

 

 

「どうして死んだ人が生きているの?」

 

 

当然の疑問を聞くと城主ペレスから返答が返された。

 

 

「ニニアンは父なる彼の妻であり妖精なのだ。彼が誉れを捨て咎とした現世の要であり我等が守護すべき存在」

 

「なるほど。それでどうしてさっきは居なかったのに居るの?」

 

「それは異国の騎士が信用に値すると私が判断し、夫が受けた恩へ一言でもお礼をと思いまして」

 

「僕の方こそお世話になりました」

 

 

華麗であり穏やかな女性はあの時写真で見た咎人の横に居た女性そのもの。彼に向かい深々と頭を下げそれを見て彼も深々と頭を下げていた。

 

 

「ここの妖精って本当に人と変わらないんだね。僕はもっと小さいと思ってたよ」

 

「ユウ君が居た世界にも妖精がいるの?」

 

「うん、ティニって子が居るよ。身長は30センチぐらいで羽があって空を飛べるんだ」

 

「うわ〜〜♪なにそれ絶対可愛い♪」

 

「それとマシュマロが好きで怒るとすごく怖いんだよ」

 

 

異国の妖精に想いを馳せるフィエナを微笑ましい顔で見ていた。

 

 

「へぇー異国の妖精か。ぜひ一度見てみたいね」

 

「来る機会があるなら案内するよ。平和でみんな良い人ばっかりだし」

 

「それはそうとして君は祖国に帰る方法はあるのかい?」

 

「・・・ないかも」

 

 

オーウェンに言われ根本的な事を思い出していた。異国の地に来たは良いが帰る方法が無いのだ。ここに来た転送装置の姿も無いし帰れる魔法も無い。

 

 

「まぁ何とかなるでしょ」

 

「随分と軽い返事だな。祖国に友達は居ないのか」

 

「居るよ?アルマスって子に異族討伐をお願いして旅行に来たんだけど」

 

「異国にもバルバロイの様な者が存在するのですね」

 

「うん、異族って怪物で人を襲って食べるんだけど。それを退治するのが僕たちの仕事なんだ」

 

「良いのか?そんな化け物が居るのに旅行なんかに来て」

 

「良いんじゃない?他にも異族と戦える人は沢山居るし?」

 

「質問〜異国に美味しいお酒はあるのかしら?」

 

「あるよー?アステラの口に合うかは分からないけど」

 

「異国の地で利き酒も乙なものだね。ぜひ案内してよ」

 

「私も行きたーい♪ペレス様に休暇を申請しないとね♪」

 

「おいアステラ。まだボクたちにはやる事があるじゃないか」

 

「それが全部終わってからよ。こうやってバルバロイを倒した後の予定を考えるのって素敵じゃない?それともガラハッドは平和になった後の予定はないのかしら?」

 

「ボクは・・」

 

 

アステラの問いに口を濁らせ目を逸らした。

 

 

「まぁ良いじゃん。平和になってから考えようよ」

 

「私もユウ君の居た世界に行ってみたいなー♪それで妖精さんと友達になる♪」

 

「ならガラハッドも姉上と共に行こう。それに異国の地にガラハッドは少し興味がある」

 

「なら決まりだね。銀卓騎士御一行案内させてもらうよ」

 

 

今後の予定が決まり未来に想いを馳せた時、彼は廊下へと繋がる扉の方を見た。それと同時に扉が慌ただしく開き酷く慌てた兵士が走り込んできた。

 

 

『報告します!カレドニア国王ライエンスがバルバロイを率いハドリアヌス・ウォール前で開城せよと叫んでおります!』

 

 

報告を終え荒い息を整える兵士に緊張が走り誰しもが扉へと視線を向ける。

 

 

「最近来てないと思ったらこんな夜中に来たね」

 

「追い返しましょう」

 

 

マターヤとアダンが武器を持つとリリアーナとエクセリアが続く。

 

 

「「ゲシュタルト・シフト!!」」

 

「ロンギヌス!」

 

「ソロモン!」

 

「うぉマジか!」

 

 

2人の呼び声に応える様にリリアーナとエクセリアは一瞬のうちに姿を変えた。

 

 

「驚いたようだね異国の騎士。これがGS。我々がバルバロイに対抗する術だよ」

 

「へぇーなるほど?武器になるわけじゃないんだ?」

 

「盛大に勘違いしてるようだけどGSというものは戦闘形態へとバイブスの力を用いて移す事だよ」

 

 

彼の想像では武器そのものになる事を想像していたようで。

 

 

「私たちはライエンスの排除へと向かいます。何かあればご一報もらえればすぐに対応しますので」

 

「うむ、速やかに追い返しなさい」

 

 

駆けてゆく4人を見送り扉の方へと視線は向くが、彼は一度扉の方へと視線を向けただけで後の視線は室内をぐるぐると見渡していた。

 

 

「さっきから何を見ているんだ」

 

「なんか居る気がするんだよね」

 

「何かが居る?虫でも飛んでいるのか?」

 

「いや、虫じゃないんだけど、、」

 

「お爺様の結界がある限り許可を得た者しか城に入る事は不可能だ。いらない心配だ」

 

「じゃあ結界の貼り直しが必要だね!」

 

 

一言叫ぶと同時に抜刀し下段に構えながら彼は玉座に腰をかけるペレスへと走り出した。

 

 

「オマエ!!アステラ!」

 

「えぇ!残念だけどこの場で殺すわ!」

 

 

城主へと走る彼に向かいガラハッドが走りアステラは弓を引き彼を狙う。

 

 

「ぬぅ!」

 

 

2人よりも早くペレスの元へと辿り着いた彼はそのままペレスを通り越し玉座の後ろに向かい一閃を繰り出した。

 

 

「モーロノエーかティーティン。どっちだ」

 

「あは♪よく気付いたね〜透明の魔法は完璧だったはずなのに」

 

「お前から※※ルの気配がするから僕には分かるんだよ。忘れかけてるから気がつくのが遅くなったけど」

 

 

構える切先の先で透明が動いた。それはじんわりと可視化されてゆきほとんど肌を晒した魔女、ティーティンが姿を表した。

 

 

「ふぅーん?あの子のキラーズ持ちが来るのは間違いだったか」

 

「要件はなんだ」

 

「そんなの決まってるじゃん♪コルベニック城城主ペレスの命と妖精ニニアンだよ」

 

 

ケタケタと笑うティーティンの笑い声が城内に反響する。

 

 

「そっちは頼んだ!僕はティーテンを倒す!」

 

 

そっち?言われた言葉に疑問を持つがすぐにその疑問は解決した。先ほど室内に入って来た兵士は兵士ではなく魔女が化けた姿だという事に。

 

 

「だから言ったのに。力を得たからって調子に乗ったねェ」

 

 

既に兵士の姿ではなく魔女の姿となり高笑いを響かせるのはティーロノエー。

 

 

「お爺様の結界があったはずだ!何故ここに居る!」

 

「結界ィ?あぁあの薄っぺらい奴ね。雑魚は通れないかもしれないけど魔女の前では無力さ。まっ、人間が張った結界にしては上出来だけどねェ」

 

「随分と喋る魔女だ!アステラ!」

 

「えぇ。おしおきが必要ね!」

 

「「ゲシュタルト・シフト!カラドボルグ!!」」

 

 

マターヤの隣に武器としてアステラが並び立つ。その手に大剣を携えて。

 

 

「ガラハッドはニニアン様を守れ!」

 

「あぁ!姉上!」

 

「よぉーっし!ガラハッド!私たちの力を見せてあげよう!」

 

「「ゲシュタルト・シフト!カリス!」」

 

 

ガラハッドの横に手に杖を持つフィエナが立つ。

 

 

「ニニアン様はガラハッド達の背後に!」

 

「絶対私たちが守ってみせるからね!」

 

「はい、2人共頼りにしていますからね」

 

 

ニニアンを背後に2人は武器を構え万全の守りをみせる。

 

 

「まぁ良いや。君は透明になった私が分かるけど完全に分かる訳ではなさそうだし♪」

 

 

彼が見ている内にティーティンの身体は景色に馴染んでゆき完全に透明となった。

 

 

「ペレス様に一つお願いがあります」

 

「聴こう。異国の騎士よ」

 

「煙草吸わせてもらうよ」

 

 

ペレスの返事を待たずに彼は咥えていた煙草に火を付け煙を吐き出してゆく。

 

風の無い室内での喫煙により2人の周りに煙が薄く立ち昇る。

 

 

「煙草なんて随分と余裕だね。良いよ、後悔すら食い尽くしてあげる!」

 

 

何処からか声が聞こえ透明な何かが2人へと迫り来る。しかし彼はニヤリと笑い一閃を繰り出した。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」

 

 

その瞬間つんざく悲鳴が聞こえそこには肩から腰にかけて切り裂かれたティーインの姿が浮かび上がった。

 

 

「煙草の煙で動きが読めるんだよ。出直してこい」

 

 

繰り出されたもう一閃を回避しティーティンは空中へと浮かび上がり付けられた傷を治癒しようとするが傷は治癒せず血は流れ続け床へと滴る。

 

 

「傷が治らない!?」

 

「僕の剣には七元徳の加護が宿ってるんだよ。この剣はバルバロイの天敵なんだけど魔女にも有効みたいだね」

 

「クソがぁぁぁっ〜〜!!!」

 

「悪し魔女よ、地へ堕ちよ!」

 

「ぐへぇ」

 

 

宙に浮かぶティーティンに向かいペレスが指を指すとティーティンの身体は磁石に吸い付く様に床へと落ち這いつくばる。

 

 

「おぉーすごいな」

 

「老いようと磨かれた魔術は衰えんよ」

 

「老兵は死なずってやつだね。このまま抑えてて!」

 

 

ペレスの返事と喚くティーティンを聴きながら彼はティーロノエーと戦う2人の元へと駆けようとしたのだが足は止まった。

 

 

「アステラ!」

 

「えぇ!逃しはしないわ!」

 

 

2人のコンビネーションに追い詰められるティーロノウェーの姿を見たからだ。パートナーの事を武器と呼ぶ意味を理解した瞬間。

 

やがて追い詰められたティーロノエーもペレスの魔法に捕まりティーティンと同じく床に這いつくばる事となる。

 

 

「クソ共がぁっ!!」

 

「うわー口悪いね」

 

「それで魔女達はどうするんだ。生かしておく必要はないと思うが」

 

「ガラハッドの言う通りだね。こいつらはペレス様とニニアン様の命を狙う。生かしておく必要はない」

 

 

視線は意見を求める為ペレスへと向いた。

 

 

「外敵故に殺そう。生かしておく通りは無い」

 

 

ペレスが手を翳すと床へと押し付ける重力が増し断末魔の悲鳴が響き渡る。

 

 

「なーんてね♪」

 

「!?」

 

 

ティーティンの言葉を仕切りに魔女2人は笑いながら立ち上がりギロリと仮面越しに七人を睨んだ。

 

 

「間に合って良かった。やっとモーロノエー大姉様があの女を食い尽くした」

 

「漲る激るこの力。堪らないねェ。あと一歩のところまで追い詰めて、逆転劇の始まり始まりィ」

 

 

ケラケラと笑い声を上げると両手に魔力を集め魔弾を作り出す。

 

 

「後で血を貰いに来るから瓦礫の下で待っててね♪」

 

 

手の平に集めた魔弾を天井へ向け放つと爆発音と共に天井は崩れ落ち部屋に瓦礫が雨の様に降り注いでゆく。

 

 

「皆様こちらへ!」

 

 

ニニアンの声が響くと同時に身体に浮遊感を感じ、重力に惹かれ下へと落ちて行く。

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「いたた、、ここは、、?」

 

 

落下の衝撃で意識を失っていた様で、しばらくして目を覚ました彼は辺りを見渡すが、暗闇に包まれており視界は効かず。

 

ポケットを探りライターを取り出すと甲高い金属音の後に火が灯り少し視界が広がり彼を見るニニアンの姿が見えた。

 

 

「ここはコルベニック城の地下通路です。ペレス様の転移魔法でこの場所へ避難したのです」

 

「なるほど。他のみんなは?」

 

「時期に目を覚ますかと」

 

 

返事と共に煙草を取り出し咥えると火を付け煙を吐き出す。立ち上る煙は風に揺れ何処かと通じていると分かる。

 

 

「向こうから外に出れるんだね。何処に繋がってるの?」

 

「コルベニック城前に」

 

 

ニニアンに一言お礼を言うと彼は1人出口へと向かい歩んでゆく。その腕はニニアンに掴まれた。

 

 

「城前はライエンスがバルバロイを率い集っています。1人では無謀、いや、命を捨てにいく様なものです!」

 

「だとしても僕は行くよ。そこに居るのが分かるからさ」

 

 

そっと手を振り解くと一つ頭を下げ出口へと向かい歩く。

 

 

「ガラハッドがお前のお供をする。それでは不服かニニアン様」

 

 

声の方を向くと目を覚まし起き上がる鎧騎士、ガラハッドの姿が。

 

 

「お前に負けたボクだけどバルバロイと戦う事はできる。ついて行っても良いだろうか」

 

「良いけど、、危ないって思ったらちゃんと逃げれる?」

 

「ガラハッドは騎士だ!敵を目の前にして逃げるという事などしない!」

 

「なら連れてけないよ。生きていれば何度でもやり直せる。それに僕は誰かが死ぬところを見たくない」

 

 

きっぱりと言い切りライターで暗闇を照らしながら彼は歩んでゆく。

 

 

「頼む!お爺様の城を滅茶苦茶にされた仇を取りたいんだ!この城はボクの家族が住む大切な城だ!家族を殺されたも当然なんだ!」

 

「分かったよ。どうせ止めても後から来るでしょ?一緒に行こうか」

 

 

2人は振り返りニニアンへ向かい一度頭を下げ出口へと向かい歩みを早めてゆく。

 

 

 

 

 

7月5日/Night

 

 

一行はマーリンの転移魔法によりハドリアヌス・ウォール前へと転移した。闇に包まれた広場に魔法陣が浮かび上がると一行の姿が広場へと出現した。

 

それと同時に数体のバルバロイから血飛沫が上がり月光に煌めく。

 

 

「これはこれは学院長自らお出ましとは恐れ入る」

 

 

五人が斬り伏せ崩れた敵陣形の先、ハドリアヌス・ウォール前にはカレドニア王、ライエンスの姿がありライエンスを囲う様に魔女の姿があった。

 

 

「アニキっ!!」

 

「ほぉ、魔女に口付けをされたと聞いたが、、、そうだ、ブライアン、ブライアンではないか。我が愚弟よ、何故生きておる」

 

「・・・っ!」

 

 

ライエンスの弟であるブライアンの事すら忘れかけている事に気づき名を叫んだブライアンは顔を背けた。

 

 

「アーサー私たちに会いに来てくれたのね」

 

「あぁそうとも会いに来たさ。お前達魔女を赤き龍炎で焼き尽くす為にな」

 

 

剣を構えたアーサーの殺意籠る鋭い目線を見ても魔女達はけらけらと嘲笑う。

 

 

「アーサーと遊びたいのだけど、私たちにはそんな暇は無いのよ。この城に妖精が居ると教えてくれたからね」

 

「妖精の血は聖杯を呼び覚まし全てを覆す夢の器」

 

「世界は真っ逆さまに闇へ堕ち」

 

「我ら魔女姉妹の楽園のかんせー」

 

「それには、、お前達が邪魔で仕方ないの」

 

 

モーロノエーが手を挙げるとハドリアヌス・ウォール前に雷鳴が轟き広場を埋め尽くす程にバルバロイが湧いて出る。

 

 

「このバルバロイ、、気を付けて下さい!」

 

 

ティルフィングが叫ぶ。それは出現したバルバロイの異変を感じたから。通常のバルバロイは橙黄色をしているのだが今魔女が呼び出したバルバロイは橙黄色に黒色が混ざる。

 

 

「産めや増やせや悪魔の宴♪」

 

「異国の『武器』を贄に♪」

 

「キラーズはバルバロイの弱点。裏を返せばキラーズの弱点はバルバロイ」

 

「お前の『記憶』をバルバロイの餌に」

 

「血に汚れ戦いに飢えた記憶は全てバルバロイが喰らい尽くす」

 

 

漆黒の光と共にバルバロイは未だに出現を続ける。コルベニックを埋め尽くす様に。

 

身の毛がよ立つ異常な光景にふと、剣を構えたグリードが倒れ膝を着いた。

 

 

「どうしたグリード!」

 

「力が・・抜けてゆく、、っ!」

 

 

膝を着きながらも切先を魔女へ向け続ける姿に甲高い幾つもの笑い声が上がった。

 

 

「バルバロイよ。アーサーとグリードを残し後は・・遊んであげなさい」

 

 

魔女の一言を合図に何千と連なったバルバロイは咆哮を上げ一行へと襲いかかる。

 

 

「来るぞ!」

 

 

誰かの声を合図に戦闘が始まった。二人一組となり背を預け迫り来るバルバロイとの戦争とも呼べる戦い。

 

通常のバルバロイなら何千とも連なろうと敵ではないのだが今相手にしているバルバロイはグリードのキラーズを贄にしたバルバロイである。

 

キラーズの集合体であるグリードに付けられた魔女の口付けはキラーズと記憶を抜き取りバルバロイへと変換する。

 

グリードの記憶、対キル姫制圧特殊部隊という記憶を喰らい出現したバルバロイはグリードの戦い方を完全にコピーしたバルバロイでありグリードのキラーズが尽きるまで無限に増殖を続ける。

 

 

バルバロイの天敵であるキラーズを持つ騎士とはいえ強化されたバルバロイに圧倒され傷を付けられてゆく。

 

 

「くっ、、!」

 

 

目の前で広がる惨劇にグリードは剣を支えに立ちあがり左手に剣を握り締め特攻をかけた。

 

キラーズの大半を奪われたグリードであったが修羅の如く戦場を駆け目に入るバルバロイを片っ端から斬り伏せ回る。

 

 

「キル姫というものは随分と頑丈ね。これだけキラーズを吸い取っても未だ動けるだなんて」

 

「モーロノエー!」

 

 

グリードの前に魔女、モーロノエーが現れ指を向けるとバルバロイ因子に侵された右手は左手を掴む。

 

 

「いつかの約束を果たしましょうか。最大限の屈辱を味合わせるというね」

 

 

右手を離そうともがくグリードの前へと立つと右手を伸ばし掴もうとする。

 

その時、モーロノエーの左頬に右ハイキックが打ち込まれるが何事もなかったかの様にモーロノエーは歩みグリードの首を掴んだ。

 

 

「受けてもらうわ。魔女の口付けを」

 

 

モーロノエーの口から一筋の血が垂れる。それは自らの舌を噛み流した血。血が垂れるままモーロノエーはグリードの口へと唇を重ね魔女の血を口内へと流し込んだ。

 

 

その瞬間、グリードの体内を魔女の血が巡りグリードと魔女は繋がり合う。それにより魔女姉妹にキラーズを奪われ代わりにバルバロイ因子がグリードへと流れ込む。

 

 

「ご馳走様」

 

 

モーロノエーが手を離すとグリードはその場へと崩れ落ち起き上がる事は無かった。

 

 

「グリード!」

 

「あらアーサー、今私はとても気分が良いから近寄らない方が良いわ。間違えて殺しちゃうかもしれないから♪」

 

 

けらけらと甲高い笑い声をあげながら魔女姉妹は集いアーサーを囲い込み、それと同時にコルベニック城から轟音が轟き驚き目線を向けると崩れゆく城が目に入った。

 

 

「アーサー、一つお願いがあります」

 

 

轟音に紛れか細い声が聞こえ主を探すとそれは地に伏すグリードだった。魔女に気付かれぬよう耳を澄ませグリードの頼みを聞き、返事の代わりに叫んだ。

 

 

「ランス、ブルーノ!頼みがある!一瞬で良い道を開けろ!」

 

 

叫びに応える様に戦場に2本の閃光が走る。それはグリートーネアを細切れに斬り刻み人が一人通れる道を開いた。

 

 

「どうしてネアがこんな酷い目に・・」

 

 

細切れとなり地面に散らかる破片はバルバロイ因子の輝きと共に元の姿へと復元してゆく。

 

 

「行け!アーサー!」

 

「すまない!」

 

 

一言を残しアーサーは立ちはだかるバルバロイを斬り崩しながら戦場を走る。この進軍を止める様にバルバロイは壁となり立ちはだかる。

 

 

「行きなさいよアーサー!弱っちい私だけど旦那の背中ぐらい守れるわ!」

 

「仮契約だろう」

 

「分かってるわよばーか」

 

 

二人の槍により道は開け隙間を抜いアーサーは走る。

 

 

『重力っ!(グラビティ!)』

 

 

アーサーへ迫るバルバロイが突如地面にめり込む様に倒れ。さっと右手を上げるとローブ越しに頷き目線は魔導書を走り口は呪文を詠唱する。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「マスターっ!!」

 

「ティルフィング!」

 

「私が道を開きます。マスターは逃げて下さいっ!!継承者であるマスターが生きていればバルバロイを封印する事ができます!」

 

 

ティルフィングが叫ぶとその身に光の結晶が浮かぶ。それはティルフィングが自らのキラーズを燃やし力と変えた光。

 

 

「この先に行けば海に出ます。マスターが逃げる時間ぐらいは持ち堪えますので今のうちに早く!」

 

 

天上へ剣を構えると無双の一振りを繰り出しバルバロイを蹴散らし一本の道を作り出す。

 

 

「させるかぁぁ!古代の遺物がぁ!」

 

 

バルバロイの群れを掻き分け現れたライエンスがティルフィングが作り出した道に立ち塞がる。

 

月明かりを受けるライエンスは人の形をしているものの顔には無数の赤い筋が通り目は煌々と紅く輝き人ではないと悟らせる。

 

 

「継承者を殺し世界をバルバロイの手にぃ!!」

 

 

継承者であるノワールを殺す為一歩、また一歩と踏み出しバルバロイ因子を纏う右手を振りかざす。

 

 

「ティルフィング!!」

 

 

ノワールを狙った右手の前に立ち片手剣を両手で握り締め振りかざす右手と鍔迫り合う。

 

呻めきながらキラーズを力に変え渾身の力を振り絞り。ふと、ライエンスが一歩下がった。

 

 

「!!」

 

 

急な後退にティルフィングは動きに追従しきれず体勢を崩すが一歩踏み出し追撃の一閃を振るう。

 

が、それよりも一手早くライエンスの拳が腹部へとめり込み声を上げる事なくティルフィングはその場へと崩れ落ちた。

 

 

「所詮はバイブスの抜けた傀儡よ。継承者ぁ!次は貴様の番だぁ!!」

 

 

倒れるティルフィングを踏みながらノワールへと迫り右手を振りかざす。

 

 

「俺は、、俺は、、、っ!!

 

 

ノワールへと迫る拳を紙一重に躱しライエンスの頭へと体重を乗せた一振りを。それは頭蓋骨を叩き割り鼻まで太刀筋が通る。

 

 

「うぅむ。それで終わりか継承者」

 

 

柘榴の様に割れた姿のままライエンスは言葉を話し両手で頭部を閉じると傷は見ている間に癒え元の顔へと戻る。

 

 

「すまないティルフィング。俺は、逃げる訳にはいかない、誰一人失いたくないんだ!」

 

「この身にバルバロイ因子がある限りこのライエンスは死なぬ!終わりだ継承者ぁ!!」

 

「ライエンス王、一つ俺と交渉をしてはくれないだろうか」

 

 

ライエンスの名を呼ぶ声に手は止まり顔は声の方へと向く。そこには満身創痍の傷を負いながらもこちらへと向かう国王の姿が。

 

 

「アーサー王、この場で交渉とは。面白い話を聞かせてもらおうか」

 

「まずは交渉の卓に着いた事へ礼を言おう。早速だが要件を話そうか」

 

 

アーサー王の要件を聞きノワールは目を見開き戦場にライエンスの笑い声が響き渡る。

 

 

「面白い、面白いぞアーサー王!継承者を見逃す代わりに王の首を差し出すとな」

 

「あぁそうだ。ライエンス王に『俺の首』をやる。お前も王であるのなら意味は分かるだろう」

 

 

アーサーの首を取る。それはログレスの敗北を意味し領地を明け渡すと同義である。

 

ブリテン島統一を狙うライエンスにとってログレス国王の首は喉から手が出るほど欲しい物でありそれが目の前にあり自ら首を差し出すと申し出た。

 

こんな愉快な事はないと笑いを止める事なく王を見下す。

 

 

「俺の首だけでは足りないのならコルベニック城の妖精と聖杯も付けよう。どうだライエンス王。この交渉に乗ってはくれないか」

 

「ほぉお」

 

 

王の更なる交渉にライエンス王の頬は緩む。いうのであれば鴨が葱を背負い鍋に入っている様な物。ログレスを手中に収め聖杯を使い望みを叶える事ができると。

 

 

「しかしだな、コルベニック城の内部に聖杯と妖精はあり俺と一緒にハドリアヌス・ウォールを超えなければ城へ入る事はできんのだ。交渉が成立したのならば道案内をしよう」

 

 

ここでライエンスは考えた。話が上手くできすぎていると。王は全てを捨て継承者に望みを託すと言う。

 

裏を返せばそれ程に継承者を守り抜く必要があると。継承者にはこの状況からでも逆転の一手が打てると。

 

 

「残念だが交渉の卓から降りさせてもらおうか。結界を張る『老いぼれ(ペレス)』は後数年も経たずに死ぬであろう。奴さえ死ねば鉄壁の守りは崩れあの城は我が手に堕ちる」

 

「交渉は決裂で良いのかライエンス王」

 

「いいや、交渉も何もこの場で殺せば良いだけの話しではないかアーサー王。むっ、もしや・・」

 

「あぁお前の思った通りだ」

 

 

アーサーがふと目線を逸らし後ろへと向けた。そこにはいつか見た若造が戦場を駆ける姿。その背後には銀の鎧を着込む騎士の姿もある。

 

闇夜を切り裂く白銀の剣を振るいバルバロイを蹴散らし進み。

 

 

やがて辿り着いた。

 

 

「やっと会えたねティル」

 

 

懐かしい声を聞き地に伏すグリードが見上げニヤリと笑いよろめきながら剣を支えに立ちがる。

 

 

『誓約(コール)・ティルフィング!バイブスとキラーズの真の繋がりを今ここに!!』

 

 

離れ、忘れていた繋がりは再び強固に結び付く。それにより奪われ枯渇していたキラーズは再び燃え上がりマスターの横にグリードが立ち並び剣を構えた。

 

 

『継げ!ノワール!!』

 

 

グリードの叫ぶ声にノワールの意思は決まり、己の『武器』を見つけ出すとその手にカリバーンが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

7月6日/アロンダイト

 

 

 

 

『空より続かぬ限られしやがて地に帰す百年足らず。汝は誰かと名を刻めるか。刃となるか、鞘はあるか。武器が記憶を呼び起こし給!』

 

 

カリバーンを持ちノワールはただ一人に向かい走る。

 

 

「お前に選べるのか!この世界から消す者を!!」

 

「消えなどしない!幾数千年の時を超え俺は受け継ぎまた次へと託す為に俺は選ぶ!力を貸してくれティルフィングッ!!」

 

 

ノワールの進む先には起き上がったティルフィングの姿。そして、切先を向けるノワールへと微笑みカリバーンをその身に受け入れた。

 

瞬間、夜が晴れる様に光が溢れノワールの隣にティルフィングが並び立つ。

 

 

『ティルフィング・GS・アロンダイト。新たに武器の名を拝命しました。ありがとうございますマスター」

 

「あぁ、よろしく頼む!」

 

 

ここに継承者は『武器』を持ち完全覚醒を果たす。そして、討ち果たす敵へと武器を向け、思わずライエンスは飛び退き魔女の元へと下がった。

 

 

「行くぞティルフィング!」

 

「はいマスター!」

 

 

二人の前に強化されたバルバロイが立ち塞がるが、無双のニ閃が煌めき難なくバルバロイを斬り伏せ屍を超え二人は道を進む。

 

 

「調子に乗るなよ古代の遺物がっ!!」

 

「そちらに気をとられていて良いのですか?」

 

 

振り返るとそこには血よりも紅い眼光を輝かせバルバロイを屠るグリードの姿。その隣にはバルバロイを封する剣を持つマスターの姿もあり魔女達は後ろへと下がる。

 

 

『我等『銀卓の騎士』!コルベニック城城主ペレスの命によりこの戦いに参戦する!』

 

 

そして、戦いに銀卓の騎士も加わり戦況は完全に覆った。

 

 

「ふふふ、ここは引かせてもらうわ。次に会う時が楽しみね」

 

 

モーロノエーは言葉を残し闇に溶ける様に姿を消した。

 

 

「何はともあれ一件落着だな」

 

 

アーサーの一言にようやくこの場の緊張の糸がほぐれ騎士達は武器を下ろした。そんな騎士達を祝福するように太陽が昇り照らしてゆく。

 

 

「ノワールおめでとう。継承者としての第一歩を踏み出したのね」

 

 

朝日を背に一人の女性が銀卓の騎士達から歩みノワールの元へとゆく。日差しに遮られ見えなかった顔は近づくにつれて見える様になりその人が誰なのかを知ったノワールは何度も口をぱくぱくとさせ言葉を言おうとする。

 

 

「母さん、、?」

 

「しばらく見ないうちに大きくなったらわね。ディナタンも私の背を抜いたんじゃないかしら」

 

 

ニニアンはノワールの前に立ち微笑む。だが、いまだにノワールは理解ができなかった。

 

妹のディナタンと共に召される瞬間を見送り埋葬をした実の母が目の前に居る。死んだ人が生き返る事などあり得ないのに、それが今、目の前に居る。

 

 

「ランスロットも凛々しくなって私は嬉しいわ」

 

「本当に、、母さんなのか、、?」

 

「ええそうよ。その顔、小さい頃ランスロットに負けて泣きそうな顔そっくり」

 

「ニニアン」

 

「あらあなた。ふふ、歳をとっても素敵ね」

 

「母さん、なの、、?」

 

「そうよディナタン。あっ、まだ私の方が背が高いわね」

 

 

家族の再会を邪魔する訳にはいかず一行は離れ遠くから見守る事に。

 

 

「ペレス様、『銀卓の騎士』の助力ありがとうございました」

 

「礼には及ばぬ赤き龍のせがれよ。継承者の完全覚醒と聖杯と妖精が集う今、平和は目前」

 

「そう、ですね」

 

 

アーサーの目はノワール一家へと向き、佇むティルフィングへと向く。この後の結末を知る様に。

 

 

「犠牲無しに平和は成り立たぬ、酷ではあるがこれも運命。今はその時を待つしか他ならない」

 

 

ペレスの言葉に意味を知る者は黙り家族へと目を向ける。

 

 

「何か、王としてしてやれる事を探さなくてはな。さて、グリードには大変世話になったぞ。礼を言おう!」

 

「こちらこそありがとうございました。えっと、ティル、この人は?」

 

「ログレス国の王、アーサーですよ」

 

「王、、?えっと、ユウと言い、、申します、、」

 

「良い良い!久しぶりに初々しい反応が見れて満足だ」

 

 

豪快に笑う王を見てユウは困惑を浮かべていた。

 

 

「この人がグリードのマスターなのね。なんか期待していたのと違うかも」

 

「えぇ、、ティル、この人は?」

 

「アーサー王の許嫁、ギネヴィア王妃殿下です」

 

 

それを聞き深々と頭を下げる姿にギネヴィアはにししっと笑った。

 

 

「殿下、失礼ですよ」

 

「ごめんごめん、私も王妃扱いされてみたかったからさ。よろしくねユウ」

 

「よろしくねギネヴィアちゃん。あれ、あの人って咎人の家にあった写真に写ってた人だ」

 

 

ユウの目線の先には家族を見つめる体格の良い髭面の男。

 

 

「あの人はブライアン、ノワールとディナタンの育ての父ですよ」

 

「へぇー色々繋がりがあるんだね」

 

 

大きく身体を伸ばし少し人から離れると煙草を取り出し咥え火を付け、風に乗り漂う煙草の匂いを嗅ぎグリードは笑顔を浮かべた。

 

 

「ペレス様、しばらくの間ログレスの城に住まれてはどうですか。B級の持て成ししかできませんが」

 

 

アーサーの目線は崩れたコルベニック城を一瞬見た後、ペレスへと向くとペレスは背後に控える騎士の顔を眺め首を縦に振った。

 

 

「有り難い提案に礼を言おう。こちらも住む場所を失い困っていたところだ」

 

「お爺様、城の再建はどうするのだ」

 

「ガラハッドよ、城の再建は問題が解決してからおこなえばよい。それよりも異国の地に興味はないか」

 

「異国の地、、」

 

「あぁそうだ。コルベニックとは違いログレスは栄え学びの場である。騎士としての立ち振る舞いを学ぶ一隅の機会であろう」

 

「あぁそうだ。友を作り学び、遊び。青春を謳歌すればきっと今まで見えなかったものが見えてくるはずだ。それに一つの場所にあればこちらも護りやすいからな」

 

 

ペレスの手には蒼く輝く聖杯が握られておりすぐに懐へとしまい込んだ。

 

 

「分かった。ガラハッドは意見に従おう」

 

「そう硬くならなくて良いわよガラハッド。きっと楽しい毎日になるわ」

 

 

ガラハッドにそう告げるとアステラは大きく身体を伸ばした。

 

 

「ユウも学院に入学させてもらってもよろしいですか?」

 

「あぁ、大歓迎だ。グリードという『武器』もある、それにキラーズとバイブスを持ち実力も申し分ない。こちらからスカウトさせてもらおう」

 

 

豪快に笑う王へユウは笑いながら頷いた。

 

 

「時間を取らせてすまない」

 

「再会の時間はもう良いのか」

 

「あぁ、まだゆっくりと家族で過ごせるからな」

 

 

ブルーノの言葉の違和感に気が付いた者はいなかった。

 

その後、マーリンの転移魔法により一行は学院へと転移していった。

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「さて、積もる話はあるがそれは明日にして今は身体を休めようか。明日の昼頃に円卓の間へと来てくれ」

 

「こちらが皆様の部屋割となります」

 

 

いつの間にか準備されていたカードをマーリンが一人ずつに手渡しカードに書かれた場所へと移動してゆく。

 

大人は城へ招待され子供は学生寮へ。子供達は学生寮へと行き講談室に集まっていた。

 

 

 

「よっ、無事に帰ってきたんだな」

 

「みんなおかえりー♪って、随分と人が増えたみたいだけど」

 

 

ガウェインとラグネルの出迎えを受けたのだが初見の人が多く順に自己紹介をする事に。

 

コルベニック島からはオーウェンとガラハッド、アステラ、リリアーナ、エクセリア。

 

グリードのパートナーであるユウ。そして。

 

 

「なんで俺がガキ達と同じ場所なんだ」

 

「あんたがカレドニア王の弟だから信用されてないからでしょ」

 

 

ノワール、ディナタンの育ての親であるブライアンも学生寮へと来ていた。不満を嘆くもトリスタンに冷ややかな言葉を浴びせられ反論しようとしたがそれもそうだと納得し鋭い目を向けるだけに収まった。

 

 

「みんな〜お腹は空いてないか〜?戦闘帰りでお腹が空いているなら遠慮なく言うんだぞ」

 

「今ならガレスが料理の腕を振るうからな」

 

「異国のご飯か、、メニューはあるかな?」

 

「はいお待ち!」

 

「ありがとね、えっと、、」

 

「リオネスだ!あっちは私の相棒のガレスだ」

 

「おっ、ガレスが飯作るんなら俺も手伝わねーとな」

 

「それなら僕も手伝うよ」

 

「じゃあ私も。マァルはリオネスさんとできた料理を運んでね」

 

「あいよ〜」

 

「あの、私も手伝いますね」

 

「ティルも手伝ってよ。あれ、居ない?」

 

「グリードならさっきマーケット街へ買い物に行くってティルフィングと出て行ったぞ」

 

「行くなら一言欲しかった」

 

「何か欲しい物があるのか?」

 

「煙草がもうないんだよね」

 

「教えてあげる。ここから少し離れた所に煙草の自動販売機があるんだ」

 

「ありがとねウレリーちゃん」

 

「それと、学院の敷地は全面禁煙だからそのつもりで」

 

「うぇ」

 

 

残念そうな答えを聞きながらも調理は進み、しばらくして講談室にあるテーブルには沢山の料理が並べられ、後は2人が戻ってくるのを待つのみとなった。

 

少しして扉が開き目を向けるとそこには買い物袋を両手に持つ二人の姿が。

 

 

「おかえり。何買ってきたの?」

 

「エールを5ダースとジュースを3ダース程。飲みますか?」

 

「エールもらおっかな。みんなは?」

 

 

各自飲みたい物を取りようやくご飯へと手を伸ばそうとした。

 

 

「じゃあ、ノワール君達が無事に帰って来てくれたのと新しい友達に、、、かんぱーい」

 

『かんぱーい』

 

 

ウレリーの挨拶へ瓶を打ち合わせ歓迎会が始まった。料理を食べながら好きな物を飲み色々な話しと笑い声が講談室を埋め尽くしてゆく。

 

 

山ほど作った料理はお腹へと収まり残った飲み物を飲まながら団欒の時間へと。

 

 

「よっしゃ、ノワール腕相撲しようぜ」

 

「あぁ、やるからには負けるつもりはないからな」

 

「兄さん頑張ってね」

 

「負けるな兄さん〜」

 

「「妹の前で負けられるか!」」

 

 

わいわいと腕相撲をする2人を囃し立て。そんな時啜り泣く様な声が。

 

 

「ノワール、ディナタン、、デカくなった」

 

 

義理の子供達の姿を見て涙を流すブライアンの頬にエールの瓶が当てられ目を向けるとそこにはグリードの姿。

 

瓶を受け取り栓を開けると一気に飲み干していた。

 

 

「よし!俺の勝ちだ!」

 

「うおっ!マジか!」

 

 

2人の腕相撲の結果、ノワールが勝利し両手を高く上げ笑い声を上げていた。

 

 

「よぉし、次は俺とやろうぜノワール」

 

「ブライアン、よし、やろう」

 

 

テーブルに肘を付ける手を握り力を込め合う。しかしノワールの手はねじ伏せられテーブルへと叩きつけられる。

 

 

「へへ、まだまだだなノワール」

 

「見た目通り筋肉ダルマね」

 

「挑戦ならいつでも受けるぜ。この猟犬ブライアンに勝てたら一万ゼニーだ」

 

 

エールの栓を歯で開け飲み干し豪快に笑うブライアンの前にグリードが立ちテーブルへ肘を付けた。

 

 

「おいおい嬢ちゃんが相手かよ」

 

「私に勝てたら三万ゼニー差し上げますよ」

 

「へっ、いただきだな」

 

 

笑いながら手を合わせたブライアンを見てユウは心配そうに眺めていた。

 

 

「グリードさんの心配?」

 

「いいや、ブライアンさんの心配」

 

「おっ!おぉっ!?」

 

 

そこには左手でテーブルを握り全体重を掛けているにも関わらず微動だにせず軽々とねじ伏せるグリードの姿。

 

勝利のエールを飲むグリードへドン引きした視線が幾つも向けられるが涼しい顔でエールを飲み干した。

 

 

「一万ゼニーいただきですね」

 

「ユウ、ボクと戦え!剣術では負けてしまったが力では負けないつもりだ」

 

「えぇー僕そういうの苦手なんだよ、、」

 

「早くしろ、オマエも騎士なら挑戦から逃げるんじゃない」

 

 

テーブルに肘を付いたガラハッドの前に嫌そうにユウが立ち手を握り合い力を込め合うとユウの手はテーブルへと叩きつけられていた。

 

 

「ボクの勝ちだ」

 

「いたた、、やっぱり強いね」

 

「では、次は私が相手になりますよ」

 

 

テーブルの向こうで勝ち誇るガラハッドの前にグリードが行き、肘をテーブルへと付けた。その顔は笑っているのだが目は全くと言って良いほどに笑っていない。そんなグリードを見てガラハッドの顔に冷や汗が浮かぶ。

 

 

「あんなゴリラに勝った人が相手、、?」

 

「はい、そうですよ。騎士は挑戦から逃げないのですよね」

 

「いけいけガラハッドー♪」

 

「銀卓の騎士の力を見せてやれ」

 

 

人の気を知らず囃し立てるアステラとオーウェンを思わず一睨み。

 

 

「分かった。ガラハッドは騎士だ!挑戦から逃げやしない!」

 

「ティル、やめたげよ?」

 

「無駄な口を叩くな!ガラハッドは勝つ、勝ってみせる!」

 

 

手のひらにかいた汗を拭き、ガラハッドはグリードの手を握った。

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

楽しい時間が過ぎ日付けが変わった頃に歓迎会はお開きとなり各自部屋へと戻る事に。

 

しばらくして誰も居ない講談室を2人が通り抜け外へと出てゆく。

 

 

 

「付いてきてくれてありがとね」

 

「いえ」

 

 

煙草の自動販売機を使い一箱買いそのまま喫煙所へと歩んでゆく。

 

 

 

「あのティルフィングって何者なの?」

 

「一千年昔にバルバロイと戦った継承者の武器みたいです」

 

「なにそれ?一千年?」

 

「私も詳しくは分かりませんがバルバロイを封印する為には継承者の武器が必要のようです。武器の力を用いてバルバロイを一千年封印する事ができる」

 

「じゃあティルフィングはまた一千年封印されるんだ?」

 

「そうかも知れませんね」

 

「ティルとは関係ないよね?同じティルフィングみたいだけど」

 

「関係は無いと思いますが、何処か懐かしさは感じます」

 

「ん、それ分かるかも。もしかしたらご先祖様だったりね」

 

 

そう言って煙草を灰皿へと投げ込み寮へと歩んでゆくと学生寮前の広場にノワールとティルフィングの姿が見え2人は姿を隠した。

 

 

 

「すまない。俺が選んだから君はまた一千年の封に・・」

 

「大丈夫ですよマスター。孤独には慣れていますから。それに」

 

「?」

 

「私はとても誇らしい。貴方がまた私を選んでくれて、継承者としての覚悟を持ち道を進んでくれて。それにマスターには心強い仲間たちが居ます。私がいつ封になるかは分かりませんがそれまでの間どうがよろしくお願いしますね」

 

 

広場を照らす街灯に照らされティルフィングの微笑む顔が見えた。

 

 

 

 

7月7日/円卓会議

 

 

次の日の昼頃、アーサー王の招集を受けた者は円卓の間へと集っていた。大広間には円形の卓がありそこには騎士達が座り円卓頂点に座るアーサー王の言葉を待っていた。

 

 

「皆わざわざ時間を取らせすまない。手短に済ませたいところだが話す事が多くてね」

 

 

アーサー王が円卓の間に集まった人へと視線を回す。そこには円卓に座る騎士にコルベニック城の王と銀卓の騎士、妖精ニニアン。ローマ国の皇太子に将軍の姿、そしてユウとグリード、ブライアンが居た。

 

 

「まず前回コルベニック城での戦いにおいて継承者であるノワールは『武器』を見つけ出し継承者として完全覚醒を果たした。そして伝承にある聖杯、妖精は我々の手の中だ。カレドニアを退けバルバロイを封印する準備は整った」

 

「ここに懸念があるとすれば負け戦と悟ったカレドニアがこちらへと攻め込む事だが」

 

 

アーサーに続きケイ卿が見渡すように話すと挙手をされた手を見つけグリードへと視線を向けた。

 

 

「どうしたグリード」

 

「発言よろしいでしょうか」

 

「構わない」

 

「ありがとうございます。では私から少しお話を。私のキラーズは魔女に奪われマスターとバイブスに繋がった事により再生しました。しかし、魔女は依然私のキラーズを持ったままです」

 

「つまり?」

 

 

グリードの横に居るユウが話の続きを求めた。

 

 

「私のキラーズを持つという事は持ち主である私、そして私のマスターであるユウには探知が可能という事。これにより魔女達の居場所は全て把握する事ができます」

 

「なるほど。魔女達の動きが分かるという事か」

 

「動きが分かるのであれば対策は容易い。今魔女達は何処に?」

 

「方角からしてカレドニアに居ます。きっと今頃作戦会議でもしているのでしょう」

 

「あっ、ほんとだ。ティルの気配がたくさんある。なんか複雑な気分だけど」

 

「よし、なら魔女の脅威は下がったというわけだ。次に人事を伝えさせてもらう。ペレス様、マターヤ殿、アダン殿には講師として学院に勤めてもらいたい。異国の技術を生徒達に教えてもらいたいのだが」

 

 

アーサーの提案に名を呼ばれた2人は主であるペレスを向き指示を待つ。

 

 

「構わん。老耄の知識で良ければ学院、いや、世界の為に知を伝承しよう」

 

「ペレス様が言うのであれば反対する理由はないよ」

 

「私もです。指示に従いましょう」

 

 

3人の言葉にアーサー王は笑顔で頷いた。

 

 

「そしてルーシャスには武器の生産を頼みたい。ログレスだけでは生産が追いつかなくてね」

 

「よかろう。ローマ大帝国の威厳をとくと見せてやろう。将軍、ローマへと通達をだせ。船一杯の武器を作りこちらに寄越せとな」

 

「承知しました」

 

 

ルーシャスの命を受けた将軍は一礼をすると円卓の間を出て行った。

 

 

「すまない。そしてブライアン殿には『遥か望む剣』の副担任になってもらいたい。ランスが担任を務めているのだがランスは多忙でね、それに魔女達との戦いには混戦が予想される。傭兵団を率いていたノワールの戦い方を見ていればその重要性は明らかだ」

 

 

アーサーの出した案はローマと行った演習の結果から出された事。大国ローマと戦い引き分けを勝ち取ったノワールの指導力を加味しての事。

 

 

「おい、俺で良いのかよ!俺は敵だった奴だぜ!?」

 

「あぁ、分かっているさ。しかし、敵だった。だろ?ブライアン殿は金さえ払えばなんでも言う事を聞くとブルーノが言っていたが」

 

「おいおい!なら前金を払ってもらおうか!」

 

「マーリン」

 

「はい、これで如何でしょうかブライアン様」

 

「・・・へへっさすがログレスの王だ。話が早いじゃないか」

 

 

マーリンから受け取ったカバンの中を見てブライアンは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「交渉は成立でいいんだな?」

 

「おうよ。俺の戦闘知識をしっかりと叩き込んでやるぜ」

 

 

ブライアンが睨むように見る先には笑うアーサー王の姿が。

 

 

「よし、では次で最後だ。ユウ殿に円卓の騎士の座に着いて貰いたい」

 

「僕に?その前に円卓の騎士って何?」

 

「円卓の騎士はこのブリテン島の平和と秩序を守る騎士団であり対バルバロイの要だ。ブルーノとランスの推薦とコルベニックでの活躍、グリードの功績からの判断だ!どうだ円卓の座に着いてはくれないか」

 

「あぁ、、う、うーん?いっ!?」

 

 

アーサーの提案に曖昧な言葉を返すユウの脇腹がグリードにつねられ思わず叫び声を上げた。

 

 

「申し訳ありません。私のマスターは緊張すると口数が減ってしまうので。異国の騎士で宜しければ円卓の座に着かせて下さい」

 

 

痛む脇腹を抑えながら見たのは親指を立てるアーサーに向かい親指を立てるグリードの姿。めんどくさい事に巻き込まれたと思いながらもユウは頷き承諾していた。

 

 

「ありがとう。ならばユウ殿には円卓の11の座に着いてもらおうか」

 

「ユウ様、こちらへどうぞ」

 

 

円卓会議を立ち見していたユウはマーリンに連れられ円卓の座へと座った。その後ろにはグリードが付く。

 

 

「はっ頼りなさそうな騎士サマだ。人手不足だからって見境無しか」

 

 

卓に着いたユウへと向かい野次が飛んだ。その方を見ると卓に足を乗せる大柄の態度を取る男、円卓の騎士一の座、モルドレッドの姿が。

 

 

「人を見た目で判断するとはモルドレッドもまだまだ青いな」

 

「なんだと!ブルーノ、てめぇもう一回言ってみやがれ!」

 

「このユウという男を見た目で判断するなと言っている。悪いが実力はモルドレッド、お前より上だ」

 

(ねぇティル、僕さっきからバカにされてるよね?)

 

(そう、ですね)

 

(・・・)

 

「おいお前、俺と戦え。円卓の騎士の座に相応しいか俺が試してやる」

 

「えっと、、」

 

「私で宜しければ相手になりますよ。その代わり死を覚悟して戦いに挑んで下さいね」

 

 

グリードが言い放つと同時に殺意が目線と共にモルドレッドを刺す。バルバロイとも獣とも違う明確な殺意にモルドレッドは立ち上がり盛大に笑い声を上げた。

 

 

「おもしれぇ!お前も俺と同じ血と戦いの匂いがする。お前がそいつの武器であるのなら無用な心配だ。疑って悪かったよ」

 

 

再びどっかりと席に着いたモルドレッドの横で安堵のため息を吐く少女が。一触即発の事態は収まりアーサーは話を続けた。

 

 

「次は、少し私用の話になってしまうのだが。ギネヴィア」

 

「どうしたのよアーサー」

 

 

突然名を呼ばれたギネヴィアはアーサーを見た。

 

 

「来賓の部屋が足りなくてね、ギネヴィアの部屋を使わせてもらいたい」

 

「ええっ!?ちょっと待って!じゃあ誰かが私の部屋に来るって事!?」

 

「いや違う。お前が学祭寮へ引っ越すんだ」

 

「なんでどうして!?私はアーサーの許嫁よ!?」

 

「そうだが学院の生徒には変わりはない。それに寮に住めば時間を気にする事なく遊ぶ事ができるぞ」

 

「それは、、そうだけど、、」

 

「ギネヴィア、良い妻というものは旦那を立てるものだ。まぁ、偽りであるのなら立てる必要もないが」

 

 

そこにルーシャスの声も混ざり、そこまで言われれば引くしかなくギネヴィアは頷いた。

 

 

「分かったわよ。引っ越せばいいんでしょ!」

 

「すまない。しかし、分かってもらえて嬉しいよ」

 

「本人は全く納得していませんけどね」

 

 

ギネマウアの吐いた言葉に少しの笑いが起きギネヴィアは顔を真っ赤にした。

 

 

「よし、次で最後だ。ノワール、ティルフィングから聞いているとは思うがお前の番はバルバロイの封になる」

 

「あぁ、分かっている、覚悟はできているよ」

 

「それともう一つ、聖杯を起動させるには一つの条件があってだな、、」

 

 

歯切れの悪い言葉にノワールが不思議に思うと卓に座すブルーノが立ち上がりアーサーを見た。

 

 

「アーサー王、この話は俺がしよう」

 

「すまない助かるよ」

 

「ノワール、お前には過酷な運命を背負わせてしまった。俺にできなかった妖精殺しをお前はしなくてはならない」

 

「妖精殺し、、?」

 

「あぁ、聖杯を起動させるには妖精の血が必要でね。お前の母、ニニアンの血が」

 

「母さんが妖精?ごめん、話が理解できない」

 

「ノワール、お前には二つの選択肢がある。ティルフィングを封とし一千年の平和を築くか妖精を殺しバルバロイをこの世から消し去るか」

 

「・・・」

 

 

ノワールは話を理解はしていた。しかし、理不尽過ぎる話しに言葉を失い目は彷徨い母とティルフィングを見た。2人のうちどちらかの命を犠牲にしなければこの世に平和は訪れないと。

 

 

「すまない、本来なら俺がニニアンを殺し聖杯を起動させるはずだった。しかし、俺にはできなかった。愛する妻をこの手に掛ける事が・・・」

 

「だからって俺に母さんを殺せと言うのか!もう会えないと思っていた父さんに母さんにまた会えたというのに!俺は、、、っ!どうしたら良いんだ!!」

 

 

円卓の間にノワールの悲痛な叫びが響き誰1人として答える者は居なかった。

 

 

「ティル、行こうか」

 

「はい」

 

 

沈黙を破りユウは立ち上がりグリードと共に円卓の間を出てゆこうとする。

 

 

「何処に行く気だ」

 

「今からカレドニアに行って魔女達を倒してくる。バルバロイを全滅させれば良いんでしょ?僕の剣なら魔女を殺せる」

 

「ダメだ!魔女を討とうともこの世に蔓延るバルバロイ因子は消える事はない!無駄死にをするぞ!」

 

「だとしてもノワール君の運命を変えるその為にやれる事をやるだけだよ。誰かが不条理を叫んであげないと!」

 

「私はマスターの意思に従います。反論があるのなら武器で示せ」

 

 

剣を引き抜き構え一同を見渡し、グリードは前を歩くユウの背に付いた。

 

 

「俺も行くぜ。ダチ、見捨てられないよな」

 

「じゃ私も付いてくよガウェイン」

 

「はぁ、イゾルデ」

 

「えぇ、準備はできているわ」

 

 

卓から立ち、円卓の間を出ようとする2人に2人の番が付く。

 

 

『重力(グラビティ!)!』

 

 

6人が円卓の間を出ようとした瞬間、ペレスが立ち上がり魔法を叫ぶと6人はその場で床に這いつくばった。

 

 

「円卓の騎士、そしてその武器よ。我等の心情の代弁非常に感謝する。だが!それ以上進む事は許さぬ、この世には決して破る事のできない理があり今がそうだ。武器を納めよ」

 

「分かってくれみんな、俺達も同じ気持ちだ。王として、いや、人として俺は誰1人失いたくは無い。だが、そうする事しかできないんだ」

 

 

2人の意見を聞き大きく息を吸って吐くと魔法は解け6人は自由を取り戻した。そして円卓に向かい深く頭を下げた。

 

 

「いや、こちらからも礼を言わせてもらう。ノワール、決断を急ぐ事はない。今は、ゆっくりで良い、心の準備をして欲しい」

 

 

こうして円卓会議は幕を下ろし騎士達はギネヴィア殿下の引っ越しを手伝う事となった。

 

 

「ちょっと待って!私の部屋に男子は立ち入り禁止っ!入って良いのは女の子だけなんだから!」

 

「どーせ大した物入ってないからいいだろ」

 

「ガウェイン!?そんな事言っちゃダメだってば!」

 

 

ギネヴィア殿下のプライバシーを守る為に引っ越しは女子のみで行われるようで。その為男達は暇を持て余し講談室で暇を潰す事に。

 

 

「・・・」

 

 

だが、ノワールの心境を察し誰1人として話そうとする者はおらず気不味い沈黙が講談室に漂う。

 

 

「俺は、どうしたら良いんだ」

 

 

ソファーに座り頭を抱え込むノワールが呟き誰か言葉を返せと目配せをし合い。

 

 

「なぁ、ノワール。気分じゃないとは思うが釣り、行かねえか?大自然の中でよ、何にも考えずに釣竿見てれば気分も晴れるって」

 

 

最終的に視線を受けたガウェインがノワールを釣りへと誘った。

 

 

「・・・・」

 

 

(なんで釣りなんかに誘うんだよ!もっと他の事があったでしょ)

 

(はぁ?じゃあトリスタンお前なんかノワール誘えよ!)

 

(ちなみに、何釣りに行くの?)

 

(はぁ、違う人が釣れたよ)

 

(学院の裏に湖があんだけどそこにはログレスオオナマズってバカでけぇナマズがいるんだ。毎年この時期になると接岸してくっから湖岸にテント張ってキャンプしながら狙うんだよ)

 

(ごめん、それ僕が行きたい)

 

(はぁ、、)

 

「行こうか、釣りに」

 

「「「???」」」

 

 

こそこそと話をしていた3人はこちらに顔を向けるノワールを見た。

 

 

「みんなさっきはありがとう。俺はずっと本当を知りたかったんだ。本当の事はまだ納得はできないが俺は継承者として本当を受け入れなければならない。だから、その時が来るまでみんなと楽しく過ごしたいんだ」

 

「ノワール、、おっし、じゃあみんな誘って行こうぜ!」

 

 

ガウェインが叫ぶと同時にドアを開き荷物を持ったウレリーが講談室を通ってゆく。

 

 

「ウレリー!良いところに来たな」

 

「どうしたのガウェインくん?」

 

 

ガウェインが事情をウレリーに話すと笑顔を見せてくれた。

 

 

「分かったよ。みんなには私から話しておくね」

 

「頼んだぜウレリー。よしっ!じゃあ俺たちは準備しようぜ!」

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

その日の晩、『遥か望む剣』の生徒達はガウェイン達に誘われ学院の裏にある湖の畔へと来ていた。

 

湖を前にし、キャンプファイヤー用に組まれた櫓を背に多くの生徒は退屈そうに釣竿を見ていた。

 

 

「それで、そのログレスオオナマズってのはいつ釣れるのよ」

 

「そんなの魚の気分だろ」

 

 

ギネヴィアが嘆く視線の先には仕掛けられてから一度も反応が無い立てかけられた2本の釣竿が。

 

 

「釣りというものはとても退屈だ。こんな事をするぐらいならガラハッドは鍛錬がしたい」

 

「まぁまぁ。これも鍛錬になるよ」

 

「本当か?そうは思えないのだが」

 

「じゃあこの竿持ってゆっくり立ててみて」

 

「こうか?」

 

 

ユウに言われガラハッドは竿をゆっくりと立てる。

 

 

「これのどこが鍛錬なんだ」

 

「今仕掛けが駆け上がりにあるからそのまま少し待ってて」

 

 

ジト目でユウを見ながらもガラハッドは言われた通りに竿を持ち待つ。すると握る竿に振動を感じ身構えた。

 

 

「当たったね。少し竿を倒して、、煽って!」

 

 

竿を煽ると手元に手応えを感じ竿先は水面に向かい曲る。竿を立てリールを巻いてゆくと仕掛けにかかった魚が水飛沫をあげながら飛び跳ねた。

 

 

「おっけ。ガウェインくん、この魚どうする?」

 

「あーっと、エサにするか」

 

 

ガウェインがもう一つの仕掛けを回収し先ほど釣れた魚を釣り針に掛け湖へと投げ込んだ。

 

 

「それで、あれのどこが鍛錬だというのだ」

 

「ほら、目に見えない水中の様子を手に持った釣竿で感じて、当たりを取るタイミングを合わせる。剣にも通じるものがあると思うけど」

 

「そうか!目に見える物だけが全てではないという事だな。感覚を研ぎ澄ませ一瞬の隙を狙う。言われてみれば剣に通じるものがあるぞ!」

 

「いや、多分ねえぞ」

 

「ガウェイン!?せっかくガラハッドちゃんが納得してるんだからそんな事言ったらダメだよ!」

 

「よっ、釣れたか?」

 

 

声の方を向くと買い出しに行っていたノワール、ティルフィング、グリードの姿が。その後ろにはトリスタンとイゾルデの姿も。

 

 

「サンキュー!じゃあみんなでバーベキューやろうぜ!」

 

「おぉー♪」

 

 

太陽が西に傾き空が茜に燃える頃、キャンプファイヤーに火が灯され轟々と燃え盛り、それを囲い燃える炎で食材を焼き、それぞれが色々な話しで盛り上がってゆく。

 

 

「まったく。落ち着くという事をしらないのかしら」

 

「まぁ良いじゃん。たまにはね」

 

 

岩に腰を降ろすトリスタンは一度皆の方へと視線を向け、竪琴を膝の上に置くと弦を弾いた。

 

 

「そういえばユウも上着羽織ってるよね?」

 

「この上着の事?」

 

「そうそれ。ユウの上着はグリードが取り返してきたはずなんだけど」

 

 

視線の先には制服の上から紺色の上着を着るグリードの姿が。

 

 

「僕はずっとこの上着着てたよ?」

 

「じゃあグリードは誰の上着取り返したんだよ?」

 

「さぁ、、?」

 

「見て、流れ星!」

 

 

ギネヴィアが指差す夜空を見ると夜空を一筋の光が瞬き流れる光景が。

 

 

「あっ、消えちゃった。せっかく叶えたい願いがあったのに」

 

「ギネヴィアは何を願おうとしたんだ?」

 

「えっと、キャメリアードの復興でしょ?それとお金持ちになって毎日美味しいご飯食べることと、あと、えーっと、、」

 

「随分と幼稚な願い事ですね殿下」

 

「良いじゃん。じゃあお姉ちゃんは流れ星にどんな願いを願うのよ」

 

「私は、お父様が早く良くなりますようにと願いました」

 

「その願いなら私が叶えますよ」

 

 

2人の目線の先にはエールを飲むグリードの姿。

 

 

 

「今の私はマスターと完全に共鳴しているので治癒魔法を使う事ができます。明日にでもお父さんを治しに行きましょう」

 

「本当なのグリード!?でも、それしてもらってまたグリードがバルバロイになっちゃったら、、」

 

「大丈夫ですよ。それに私はギネヴィア殿下に雇われていますし、あの時ギネヴィアが来てくれた事は何よりも嬉しかったです」

 

 

微笑むグリードへギネマウアは深く頭を下げた。その時、仕掛けられた釣竿が湖に向かい大きく弧を描いた。

 

 

「ノワールくん早く!」

 

「俺なのか!?」

 

「お前が釣るんだよ!タモ入れは任せろ!」

 

 

2人に言われるがままに竿を煽ると釣り糸は湖を縦横無尽に走る。

 

 

「ぜってぇ逃すなよ!」

 

「これは、、すごい力だ、、!」

 

 

しっかりと踏ん張るノワールであるがずるずると足は地面を滑り湖に引き摺り込まれそうな力に歓声があがる。

 

 

「頑張ってくださいマスター」

 

「いけいけー♪」

 

 

ノワールと魚とのやり取りを見ようとクラスメイト達が集まり囃し立ててゆく。

 

 

「見えた!」

 

 

ふと月上がりに照らされた水面に魚体が踊る。それは今まで見た事もない様な巨大な魚が水面に浮かび上がり陸が近い事を悟ると反転し一気に水中へと潜り込む。

 

 

「頑張れノワール!あと少しだ!」

 

「あぁ!絶対に釣り上げてやる!」

 

 

釣竿を立てリールで釣り糸を巻き取ってゆくと再び浮上し引かれるがままに。そしてガウェインが用意したタモの中にすっぽりと収まった。その瞬間歓声が上がりノワールはその場に尻餅を付いた。

 

 

「やったなノワール!」

 

「マジでデカいよ!」

 

 

タモの中で暴れるログレスオオナマズは2メートルはあろう大物。物差しで測ると惜しくも2メートルには届かなかったが歓喜は止まず。

 

 

「それで、この魚はどうするのですか?」

 

「そりゃ逃すに決まってるだろ。また釣れた時にはさらに大きくなってるようにさ」

 

 

ペンチを使い口にかかっている釣り針を外しノワールへと目を向けた。

 

 

「ノワール、逃がしてやってくれ」

 

「あぁ」

 

 

タモに入れたまま水中に腰まで浸かりタモを揺するとオオナマズは何事も無かったように深場へと泳ぎ去ってゆく。姿が見えなくなると同時に心地の良い喪失感が。

 

 

「釣りって良いな」

 

 

ノワールの言葉に2人は笑った。

 

その後、2本の釣り竿は片付けられ幾千と輝く星々の下でバーベキューが再開された。たわいの無い話しで笑いながら楽しい時間が過ぎ、キャンプファイヤーの火は消され張られたテントの下で眠りに付く事に。

 

しかし、ノワールは眠気が来ずテントから抜け出し一人湖と星空を眺めていた。

 

 

「眠れないのですか?」

 

 

ふと背後から声をかけられ振り返るとティルフィングの姿が。

 

 

「まだ眠くなくて。ティルフィングもか?」

 

「私は、、マスターとお話がしたくて。隣、よろしいでしょうか?」

 

 

ノワールの横にある石を手で払うとティルフィングはそこに座りノワールの方を向いた。

 

 

「この湖は私達も良く遊びに来ていました。少し懐かしくて」

 

「一千年も前からこの湖はあったんだな」

 

「あの頃はもっと小さかったのですが治水の為に広げたのでしょう。しかし、姿形は変わってもあの頃を思い出せます」

 

 

懐かしむ様に湖を眺めティルフィングの視線はノワールへと向く。

 

 

「マスター。決断の刻が来た時には迷わずに私を封にして下さい」

 

「・・・」

 

「本来なら私はマスターが『武器』を手にした時点で姿を消していました。マスターが選んでくれたから私はこうして物語の続きに立ち会う事ができています。それに」

 

「・・それに?」

 

「封となりまた一千年の刻が経てば私はまた継承者の剱となります。歴史という海を武器として漂い時間旅行。目を覚ませば人々が築いた一千年の歴史に触れる事ができて、これってすごく素敵な事なんです」

 

 

微笑みながらノワールへと伝え湖へと視線を直し夜空と水面に映る星々を眺め、ティルフィングは悲鳴をあげた。

 

 

「グリードっ!」

 

「ふふっ、差し入れですよ」

 

 

ティルフィングが悲鳴を上げた理由。それは冷えたエールの瓶を首筋に付けられたから。驚き振り返った差し出された瓶を受け取りノワールへと向かい瓶を投げた。

 

 

「一千年の時間旅行、私も付き合いますよ。キル姫は永遠に近い寿命を持ちますので目を覚ましたティルフィングに街を案内します」

 

 

グリードの言葉にティルフィングはエールの栓を抜き掲げるとコツンとぶつけられた。

 

 

「分かったよ」

 

 

渋々といった様子でエールの栓を開け向けると二つの瓶がぶつけられた。

 

 

「ん、おいしぃ!昔のエールより格段に美味しくなっています!」

 

「技術の進歩の賜物ですね。きっと一千年後のエールはもっと美味しくなっていますよ」

 

 

早々とエールを飲み干し次の瓶を開栓した。

 

 

 

7月8日/温泉を探しに

 

 

 

 

キャンプ道具を片付け一行は学生寮へと帰って来ていた。野営での疲れてあくびをする者の中、ギネヴィアは元気にグリードの手を引き父であるレオデグランス王が幽閉される牢屋へと案内していた。

 

 

「お久しぶりですレオデグランス王」

 

「久しぶりだね娘の友達さん」

 

「グリードがパパのバルバロイ因子を取ってくれるって。そしたらもうこんな所おさらばよ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

レオデグランス王が幽閉されるのは地下室の一角に作られた牢屋。一国の王を閉じ込めるにはなんとも不釣り合い。しかし、万が一バルバロイとなった時の為なのだが。

 

 

「失礼します」

 

 

牢屋を縛る鍵を開けグリードは中へと行き右手をかざす。

 

 

「治癒師より教わりし全てを治癒する術よ!我がキラーズを贄にその真価を今!」

 

 

 

呪文を唱えると右手は柔らかく光りレオデクランス王を包み込む。すると身体から黒い霧が噴出し散り散りとなり消えた。

 

 

「これで大丈夫です。バルバロイ因子は取り除けました」

 

 

にっこりと笑うグリードにギネヴィアはにししっと笑い父の元へ。

 

 

「パパ、これで大丈夫だから、、」

 

「ありがとうギネヴィア、ありがとう娘の友達。しかしなんとも不思議な術だ」

 

「いえ、私はギネヴィアに雇われていますから当然の事をしただけですよ。それより私たちはキャメリアードに温泉に入りに来たのですが何か知りませんか?」

 

 

グリードに言われ少し悩むような表情を浮かべやがて口を開いた。

 

 

「昔、鉱山の深くで作業をしていた炭鉱夫が熱くて仕事にならないと言っていた気がするが。温泉があるかまでは分からぬ」

 

「分かりました。鉱山に行けば分かりそうですね。場所を教えてもらえませんか?」

 

「それなら私が案内するわ。炭鉱夫の人とは良くお喋りをしていたから」

 

「しかし廃坑となった今、魔獣が住み着いているとの噂もあるが、、君なら大丈夫か」

 

 

レオデクランス王へ笑顔を返した。

 

 

「じゃあパパも地上へ戻りましょ」

 

「それがだね、少しこの場所が気に入ってしまい。また近々出る事にするよ」

 

「住めば都ですね」

 

 

すっかりこの場所に馴染んでしまったレオデクランス王へ挨拶をして二人は学生寮に戻って来ていた。

 

講談室で退屈をする人にその話をし、廃坑を探索するメンバーを集めていた。

 

 

「僕も行くよ」

 

「私もお供するね」

 

 

ユウとウレリーが行くと言い4人で廃坑を探索する事が決まった。早速4人はマーリンに外出届を出しキャメリアード城へと転移魔法で移動を。

 

 

「では、お気をつけて」

 

 

マーリンが呪文を読唱すると魔法陣が浮かび上がり、目を開けるとそこにはキャメリアードの城の姿が。

 

 

「転移魔法便利だね。ここがキャメリアードか」

 

 

バルバロイとカレドニア軍により半壊した城を眺めながら煙草に火を付け転送装置で来た時に見たカーラエル城と見比べをしていた。半壊ではあるがカーラエルの城よりも立派な城。キャメリアードが豊かな土地であったと認識していた。

 

 

「それで鉱山はどこにあるの?」

 

「鉱山はこっちよ。案内するわ」

 

 

キャメリアード城から東へと進み城下町を抜け岩肌を晒す山岳地帯へと辿り着いた。それから少し進むと山肌にいくつもの入り口がありその場にはいくつもの工具が散乱しておりここで働いていた人の多さを語る。

 

 

「鉱山に入る前に松明を準備しないとね」

 

 

トンネルの先を覗くウレリーが言った。廃坑になっているトンネルの中に灯りがあるはずもなく視界の先は真っ暗な暗闇。

 

古びた柵から木材を頂き布を巻き付けるとユウがライターで火を灯した。

 

 

「これでよしだね」

 

「4人で列を作りましょう。先頭は槍を持つギネヴィア、後方は弓のウレリー。私たちが松明で照らします」

 

「鉱山探索に警戒する必要ある?」

 

「廃坑となり魔獣が住み着いていると聞いたので。警戒はし過ぎるという事はありませんからね」

 

「了解。ここなら人も来ないから棲家にするにはもってこいだしね」

 

「早く行きましょうよ。キャメリアード復興の為なら魔獣でもバルバロイでもどんっとこいよ!」

 

 

意気揚々とするギネヴィアに押されるように一行はトンネルへと入ってゆく。

 

 

「へぇー鉱山ってこうなってるんだ」

 

 

松明で照らされるトンネル内を見てユウが目を輝かせた。視線の先にはトロッコ用の線路があり天井には照明と配線が奥へと続いている。

 

 

「こういう廃屋とか好きなんだよね。ロマンがあるっていうのか、昔、ここで何をしてたかって考えたり」

 

「ここにはキャメリアードの為に働いてくれていた炭鉱夫の人が沢山居たわ。今は何をしてるのか分からないけど」

 

「大きな鉱山だもんね」

 

 

言う通りに入り口から入り20分以上歩いているのにまだ道は続いている。しばらく歩き開けた場所で休憩を取る事に。

 

広場を見ると古びたテーブルや椅子が置かれており以前からここは休憩所として使われていたのだろう。

 

 

「はい、これ飲んでね♪」

 

 

ウレリーが持ってきていたジュースを飲みながら休憩。

 

 

「大きな鉱山ですね」

 

「でしょ?ここで採れた鉱石はログレスだけじゃなくて世界中に輸出されていたのよ」

 

「へぇーすごい国だったんだね」

 

「そうなのよ。今はこんなんになっちゃってるけど温泉掘り当ててまたキャメリアードの名前を世界に轟かせるんだから!」

 

「なら殿下の為にも、キャメリアードの為にも温泉を見つけないとね」

 

 

休憩を終え一行は鉱山の更に奥へと入ってゆく。岩盤を掘って作られた階段を進み下へと降るにつれトンネル内の気温が上がり気が付けば汗が垂れる程に。

 

それでも一行は下へと降りてゆくと再び広間に出た。

 

 

「なんか水の音がするね」

 

 

ユウの言葉に耳を澄ませるとしんと静まるトンネルに微かに水が流れる音がした。

 

 

「良く気が付いたわね」

 

「釣り人だから水の音には敏感なんだよ」

 

「ちょっと何言ってるか分からないけどその水が温泉かもしれないわ!」

 

 

走り出したギネヴィアの肩をウレリーが掴み引き止めた。

 

 

「教えてあげる。水辺は魔獣がいるかも知れないから一人で行ってはダメですよ」

 

「ん、、そうね。ありがとウレリー」

 

「糞の臭いもしますね。この辺りを魔獣が棲家にしていると考えて間違いないでしょう」

 

 

グリードの言葉に警戒を強めながら進んでゆくと暗闇にいくつもの光がある事に気が付いた。その光は無数にあり、近づくに連れて獣の匂いが鼻をつく。

 

 

ユウが松明を高くあげると光が照らされ正体を見せた。

 

 

「有牙獣!」

 

 

それは有牙獣の群れ。人もバルバロイも居ない廃坑に巣を作り繁殖していたようで。

 

 

「相手が悪かったですね」

 

「うわー」

 

 

3人が見ている間に有牙獣はグリードによって狩られ亡骸へと姿を変えた。

 

 

「どうしました?」

 

「普通こういう時ってみんなで協力して勝つとかじゃないわけ?」

 

「文字数の都合なので」

 

「・・・」

 

 

グリードの発言に言葉を失ったギネヴィアをウレリーが慰めていた。

 

 

「この水が温泉なのかな?」

 

 

ユウが流れる小川を見つけ手で付け振り返った。

 

 

「どうでした?」

 

「ちょっと温いぐらいかな?」

 

「えぇー温泉はどこにあるのよ」

 

「まだ奥があるのでその先にあるかも知れませんよ」

 

「行ってみようか」

 

 

一行はさらにトンネルの奥へと進んでゆく。

 

 

「あつぃ、、」

 

 

ギネヴィアが愚痴を溢しながら流れる汗を拭いた。それでも足元には身体を伝った汗が滴り落ちている。

 

 

「こんな環境で鉱石掘ってたのね。もっと差し入れ持ってけばよかった」

 

「そう言えるだけギネヴィアちゃんは偉いよ。世の中には現場の事考えず仕事放り込んで来る人たくさんいるもん」

 

「今度異族討伐に連れて行きましょうか」

 

「そうしよっか」

 

 

故郷で誰かがくしゃみをしてそうなのだが。そうしているうちに一行はトンネルの行き止まりへと辿り着いた。

 

 

「ここでトンネルは終わってるね」

 

「どうします?引き返して別のトンネルを、、、」

 

「見てこれ!」

 

「蓋がしてあります」

 

 

二人が見つけたのは土が盛られた地面。それを少し足で退かすと木で作られた蓋の姿。

 

蓋を開け松明で照らすと地下へと続く竪穴、それには昇降用のタラップが付いていた。

 

 

「すごい熱気」

 

 

蓋を開けた瞬間から竪穴から熱気が込み上げ思わず覗く顔を引っ込めた。

 

 

「どうする?」

 

「ここまで来たんなら行くしかないわよ!」

 

「だよね。その前に」

 

 

煙草を咥え松明で火を付けると3回蒸し火種の付いた煙草を穴へと落とした。それは真下へと落ちてゆき下で火種が輝くのが見えた。

 

 

「なんか意味があるの?」

 

「火が付いてるって事は酸素があるって事だよ。下に降りて酸素が無かったらそこでお陀仏。それは流石に嫌だよ」

 

「私が降りて見て来ますね」

 

「私も行くわ」

 

「素手でこのタラップを触る覚悟があるのなら同行をお願いします」

 

 

グリードの目線の先には熱気で熱された鉄のタラップ。グリードは手に付けるグローブを見せるとギネヴィアは首を横に張った。

 

 

「気を付けてね」

 

 

言葉に頷くとグリードはタラップを降りてゆく。上から見ているとタラップを降り松明で辺りを照らし奥へと進んでゆく姿が見えた。

 

 

「まだ続いているのかしら?」

 

「よく掘ったねこんなにも」

 

「あっ、戻ってきた」

 

 

トンネルが松明で照らされグリードの姿が。そしてタラップを上がり上へと戻って来た。

 

 

「どうだったの?」

 

「とりあえず熱かったです」

 

 

そう言って汗をタオルで拭き腰まで垂れる桃長髪を頭の上でお団子に纏めていた。

 

 

「このトンネルの中は地熱でかなり熱くなっています。ここにさっきの小川の水を流せば温泉になると思います」

 

「なら早速流しましょうよ。溝を掘ってこの穴に流せば良いのよね?」

 

「教えてあげる。水を流すのは最後にしないと後の工事ができなくなっちゃうよ。トンネルの位置はノートに記してありますから地図で地上の位置を確認して最適解を探しましょう」

 

「さすがウレリー♪じゃあさっさと学院に帰って地図を書くわよ!」

 

 

流れる汗も構わずにギネヴィアは来た道を歩んでゆく。そんな後ろ姿を見て3人は笑った。

 

 

 

 

7月8日/家族で

 

 

 

その日の夕方にノワールとティルフィングが学生寮の前に立ち、誰かを探すように辺りを見渡していた。

 

しばらくすると学院の方からディナタンが走って来た。

 

 

「お待たせ兄さん、ティルフィングさん。ちょっと遅くなっちゃった」

 

「俺たちも今来たところだよ。行こうか」

 

 

妹を気遣う兄に微笑みながらティルフィングは2人の後ろを歩く。

 

 

「それで今日はどうしたのですか?」

 

「父さんがみんなでご飯を食べようって。ランスロットとブライアンも呼ばれているんだ」

 

「なるほど。私も居てよろしいのでしょうか?」

 

「ティルフィングも呼ばれているんだ。本当はユウとグリードも呼ぶはずだったんだけどギネヴィア達とキャメリアードに行っちゃってさ」

 

「父さんが予定を言うのがギリギリだったんだよね。ランス兄ちゃんも予定を開けるの大変だったって言ってたし」

 

 

そんな話をしながら3人は商店街を抜け南下しロンディニュウムの都へと来ていた。

 

 

「よぉ」

 

 

ふと声が聞こえその方を向くとブライアンの姿があった。その隣にはランスロットの姿もあり何かを話していたのだろう。

 

 

「なんだか違和感のある組み合わせだな」

 

 

ノワールに言われ2人は顔を見合わせた。

 

 

「違和感ってなんだノワール。俺はこの国の王に雇われた『遥か望む剣』副担任のブライアンだぜ?」

 

「ブライアン殿とはクラスを受け持つ心構えを話していた。しかし、俺が教える事は何もなかった」

 

「クラスも傭兵団も同じ事よ。大事なのは笑い楽しみお互いを信じ合う事だ」

 

「それは分かるよブライアン。俺もブライアンから預かった傭兵団を率いた身だ」

 

 

ノワールの言葉にブライアンはニヤリと笑った。

 

 

「俺たちが一番最後のようだな」

 

「皆様お待たせしてすいません」

 

 

しばらくして2人が姿を見せた。申し訳なさそうなニニアンとは違いブルーノは何事もなかったように右手を挙げながら笑う。

 

 

「おい、遅刻して何も無しかよ」

 

「すまない。少し買い物に気を取られてな」

 

 

白いワンピースを着るニニアンの横には柄シャツを着てサングラスをかけるブルーノ。年相応に渋い服装だがブライアンはため息を吐いた。

 

 

「どこの島国のヤクザもんだおめーは」

 

「そうかな?似合ってるよ父さん」

 

 

娘に褒められブルーノの口角がニヤリと上がった。

 

 

「ではご飯を食べに行きましょうか」

 

 

ニニアンの一言で一向は店へと向かう。

 

 

「凄い店だな、、」

 

 

ノワールが呟いた。その目線の先には城の様な外観の飲食店があり、スーツを着込む店員が店前に立っていたから。

 

 

「ルーシャスに紹介してもらってね。一般市民には一生手が届かない店だと言っていた」

 

 

説明を受け脳内に高笑いをするルーシャスの顔が思い浮かんだ。

 

そのままブルーノは店員に話しかけると一行は店内へと案内されてゆく。

 

 

「これは、、凄いですね」

 

 

店員に案内されながら歩む廊下はレッドカーペットが引かれ廊下の左右には絵が飾られ装飾品や宝石が飾られ圧倒する。

 

ディナタンに至っては店内の雰囲気に恐縮しノワールの左手を掴んでいた。

 

 

そんな一行を出迎えるように扉が開かれると真っ白な一室へと案内され円卓の席へと座ると店員が各自の前に食前酒を置いた。

 

 

「好きな物を頼め」

 

 

各自に用意されているメニューを開くと目が飛び出してしまいそうな値段の品がずらりと並ぶ。

 

 

「へっ、財布の中に金は入れてきたんだろうな」

 

「もちろんだ。この店ごと買えるぐらいの金額は入れてあるさ」

 

「聞いたか?それなら腹一杯になるまでご馳走になろうじゃねえか」

 

「兄さんは決まった?私決めれないかも、、」

 

「俺もだ、、」

 

 

ノワールの目はメニュー表と父を交互に見ていた。そんな時ランスロットが店員を呼んだ。

 

 

「失礼。これを注文したいのだが」

 

 

ランスロットが呼ぶと速やかに店員は走り寄りランスロットの注文を聞きキッチンへと向かった。そんなランスロットに2人の目線がいく。

 

 

「何かを頼まなければ師匠に失礼だろう」

 

「それもそうですね。すいません」

 

 

更にはティルフィングも店員を呼びメニューを頼んでいた。

 

 

「俺の注文も聞いてもらおうか」

 

「私もお願いします」

 

「おいこっちもだ」

 

 

次々とメニューが頼まれてゆき2人はメニュー表と睨めっこするように目を泳がせ食べたいと思う料理を探す。

 

 

「すいませーん。注文良いですか?」

 

「うぉディナタン」

 

 

結局ノワールだけがメニューを決めれず時間が過ぎてゆく。

 

 

「なに、自分の好きな物を選べば良いのさ。この無数にある選択肢の中からな。一つに決められないのなら二つ頼めば良い」

 

「そうだな、すいません」

 

 

ブルーノの助言を受けようやくノワールはメニューを決め店員を呼んだ。

 

 

「さて、メニューも頼んだ事だ。乾杯をしようじゃないか」

 

 

ようやく準備されていた食前酒が注がれたグラスを持つとブルーノに習いグラスを掲げた。

 

 

「2人足りないが俺から感謝を伝えよう。ブライアン、よく2人をここまで育ててくれた、心から感謝をしているよ。ランスロット、無茶をよく聞いてくれた、ありがとう。ノワール、ディナタン。よく生きていた、苦労をかけてしまったな。ティルフィング、継承者の導き手としてよく頑張ってくれた。束の間の平穏を楽しもうじゃないか」

 

 

乾杯の言葉と共にグラスを口に運んだ。

 

 

「おい、感謝をしているなら後金をさっさと払いな」

 

「悪いがまだ金の調達に時間がかかりそうでね。いくらだったか?」

 

「あぁ?2人のガキを8年も面倒みたんだぜ!?まぁ良い、両手はきっちり払ってもらわないとな」

 

「ふっ、ならお前が死んだ後に墓に供えようか」

 

「おい!ブルーノ!」

 

「どうした?」

 

「ここの飯代ふんだくってやろうか!」

 

 

2人の掛け合いにくすくすと笑い声が聞こえた。その主は口元を手で隠しながら笑う。

 

 

「2人は仲が良いのね」

 

「腐れ縁だ!」

 

 

睨まれてもニニアンはくすくすと笑う。

 

 

「師匠からブライアン殿の事は聞いている。徳望が高く腕の立つ傭兵だと」

 

「ブライアンさんは良い人だよ。作ってくれるご飯も美味しかったし。ね、兄さん」

 

「そうだな。またご飯作ってよブライアン」

 

「お、おい、急に褒めるな」

 

「マスターの剣術は目を張るものがありました。ブライアン様の指導力の賜物ですね」

 

「〜〜〜っ!!」

 

 

気が付けば全員から褒められ照れを隠すように店員を呼び酒を頼んでいた。

 

 

「お待たせしました」

 

 

ブライアンが頼んだ酒と共に各自が頼んだ料理が届けられ前へと並べられた。

 

メニュー表には文字として書かれていた料理の実物を目にし一度手を止めたが手を合わせ食べる事に。

 

 

「んっ!美味しい!」

 

 

料理を一口食べたティルフィングが感想を述べた。聞けばこの店は貴族や王族が通う店のようで。

 

 

「なるほど。納得しました」

 

「ブライアンは慣れてそうだったけど」

 

「これでもカレドニア国王の弟だぜ俺は。場慣れしてんだよ」

 

「確かに」

 

「ランス兄ちゃんも慣れてるよね」

 

「アーサーに付き合わされこの店には何度か足を運んだ事がある。初めは緊張したが」

 

「B級グルメばっかり食べてるわけじゃないんだな」

 

「アーサーはログレスの王だからな。奴も来たがっていたが丁重に断っておいた」

 

「今頃城下町の屋台でも覗いているのではないでしょうか?」

 

 

その様子が容易に想像でき少しの笑いが起きた。

 

それからも会話をしながら食事は進み食べ終えた皿が下げられデザートが食後のコーヒーと共に置かれていた。

 

 

「さて、そろそろ本題に入ろうやブルーノ」

 

 

たらふく酒を飲んだブライアンの瞳は真っ直ぐにブルーノを見据え、同時にランスロットもブルーノを向いた。

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

歯切れ悪く呟くとノワールとティルフィングを見た。

 

 

「知っての通りバルバロイを封印するには二つの選択肢がある。一つは継承者の武器であるティルフィングを劔とし封とする事。もう一つは妖精ニニアンを殺し聖杯を妖精の血で満たし願う事」

 

 

一同を見渡しブルーノは話を続けた。

 

 

「二つの選択肢が継承者にあるが答えは一つしかない。ノワール、お前はいずれ母さんを殺さなければならない」

 

「反論をさせて頂きます。ニニアン様より私を再び封とし一千年の安寧を手にすべきだと思います」

 

 

席を立ち反論を叫ぶティルフィングへ視線が向く。

 

 

「ティルフィング。では、貴女が再び一千年の封印になれると言うのですか?貴女の封印は一千年半端で緩みバルバロイを現世に出してしまった」

 

「それは、、」

 

「キャメリアードの大地の力を使いながらの封ですら一千年持たなかったというのに一度力を使い果たした貴女を再び封として何年持つのでしょうか」

 

 

事実を淡々と告げられティルフィングは言葉を失い、何かを言おうと言葉を探すのだが反論は出ず苦虫を噛む。

 

 

「ティルフィングを責むるつもりはありません。貴女は優しい、優しすぎる。再び自身を封とする決断もきっと母を失うノワールを思っての事でしょう」

 

「私は、、」

 

「話をしましょうか。妖精と魔女の話を」

 

 

ニニアンは静かに語り始め、話を聞き2人は目を見開いた。

 

 

「魔女は妖精の子、、?」

 

「はい、魔女は人間と妖精の間に産まれた子です。本来妖精が人間と番う事は禁忌であり大罪。魔女は現世に生まれ堕ちた瞬間から罪を背負う存在」

 

「待ってくれ!なら俺とディナタンはどうなるんだ!?」

 

「ノワールもディナタンも罪を背負っています。ですがディナタンの罪はノワールへと移りノワールの二つの罪はノワールを継承者として目覚めさせました」

 

「なら、一千年も前から存在する魔女は一体何者なのでしょうか」

 

「それは私の先代の妖精の子。妖精は人類が繁栄するより前からこの地に存在しこの地を見守り続けていました」

 

「父さんはそれを知っていたのか」

 

 

ノワールの睨む様な視線の先でブルーノは頷いた。

 

 

「知っていた。だが、、。お前達は人を好きになった事を、愛した事はあるか」

 

 

ブルーノの問いに2人は言葉に詰まった。

 

 

「俺は任務としてニニアンの守護を任されていた。が、気付けばニニアンに心を奪われていた。人と妖精、交われば禁忌を犯す事になると知りながら。あぁ、分かっている。自分達は大丈夫という甘い考えがあった、甘えがあった。その結果ノワールに罪を背負わせてしまった。今更許されようだなんて思ってはいない、唾を吐いても良い、どれだけ殴ろうとかまわない。騎士としての誉れを捨て俺は命すら捨てようとした」

 

「全ての原罪は私にあります。どうかノワール、私に償いをさせて下さい。私の血で聖杯を起動させ古来より続く因縁を断ち切って下さい」

 

「・・俺がニニアンを殺し聖杯に願えば良いじゃないか!実の息子に母親を殺させる必要なんてないだろ!」

 

「何故学院がニニアンを生かしていたと思う?それは殺しても意味の無い事を分かっていたからだ。継承者が妖精を殺さなくては聖杯は起動しない」

 

「ならアニキが妖精を殺しても意味が無いのか」

 

「ライエンス国王は魔女に選ばれた存在。ノワールが妖精に選ばれた継承者であるのならライエンスは魔女に選ばれた継承者。どちらかの継承者が私を殺さなければ意味はありません。魔女達もその事を知っているのでいずれここに攻め入るでしょう。その時がノワールが決断すべき時」

 

 

深っと静まり返る部屋にディナタンの啜り泣く声だけが響いていた。

 

 

 

食事会が終わり重苦しい空気の中ノワール達は帰路へと。足取りは重く誰も一言も話さずに道を歩んでいた。

 

 

「ノワール」

 

 

そんな沈黙を破ったのはランスロットだった。ランスロットの言葉にノワールは目だけを向けた。

 

 

「ノワール、気分ではないと思うが剣を振らないか」

 

「・・・」

 

 

ランスロットの言葉に戸惑う言葉が。

 

 

「じゃあ私見てるね。ティルフィングさんもどうかな?」

 

「・・分かりました。お供致します」

 

「分かったよ。それでどこでするんだ?学院はもう閉まってるだろ」

 

「城下町の広場でしようか」

 

 

四人は学生寮を通り越し広場へと来た。深夜の広場に人気は無く街灯がただ光っているだけ。

 

 

「剣を抜けノワール」

 

「あぁ」

 

 

剣を抜き構えたランスロットに習いノワールも剣を抜き打ち合う。静寂な広場に剣がぶつかり合う音が響く。

 

 

「強くなったな」

 

「努力はしていたつもりだ!」

 

 

以前は防戦の一方だったノワールだが果敢にランスロットを攻め立てランスロットを防戦へと追いやる。

 

 

「俺も本気を出さなければな」

 

 

街灯の光を切り裂く様に剣が薙ぐ、その一閃はノワールが振るう剣とぶつかり火花を散らし鍔迫り合う。

 

剣と剣を挟み両者は睨み合い、後方へと飛んだ。

 

 

「「おぉぉぉぉぉっ!!」」

 

 

雄叫びと共に振り抜いた一閃がぶつかりどちらかの剣が宙を舞い地面へと突き刺さった。

 

 

「まだ俺の方が上手だったようだ」

 

 

沈着な目線の先には悔しさを滲ませる顔があった。

 

 

「はい2人ともどうぞ」

 

 

その後、4人はベンチに座りディナタン達が買ってきたジュースを飲んでいた。

 

 

「あのさ、急にどうしたんだ」

 

 

ジュースを一口飲み疑問をランスロットにぶつけていた。

 

 

「お前にかける言葉が見つからなかったが、凄惨に嘆くお前に何かをしてやりたかった」

 

「・・・ありがとう」

 

「言い訳がましいが俺もここまでの話は知らなかった。俺が知っている本当は師匠が、母上が生きているという事だけだった」

 

「いや、大丈夫だ。だけどまだ心の整理には時間がかかりそうだよ」

 

「ゆっくりで良い。何かあれは手を伸ばしてくれ、俺なりに何かできる事をするよ」

 

「私も、兄さんの力になるからね」

 

「ありがとディナタン。それにティルフィングもありがとう」

 

「なぜ私にお礼を、、?お礼を言われるような事は何も、、」

 

「君が俺を導いてくれたから俺はここに居られるんだ。それに、ティルフィングの気持ちはちゃんと伝わっているよ」

 

 

ティルフィングへ笑顔を向けると少し戸惑った後に深く頭を下げていた。

 

 

「そういえば兄さん、私にも妖精の力があると思う」

 

「ディナタンにも?」

 

「うん、ずっと私も不思議だったんだけど、ほら、ブライアンさんも私の歌好きだったじゃない?」

 

「あぁ確かに。ディナタンの歌を聞くと元気が出るって言ってたな。何か歌ってくれるのか?」

 

「それは、、みんなの前だと恥ずかしいよ、、」

 

 

2人へと目線を向けると恥ずかしそうに顔を背けていた。

 

 

「いつか、俺にも聞かせてほしい。そろそろ部屋に帰ろうか」

 

 

そう言いながら立ち上がったランスロットに習い立ち上がると寮へと帰る事に。

 

 

7月15日/ブライアンの授業

 

 

 

ノワールが『遥か望む剣』に入ると既にクラスメイトは揃っており皆談笑をしており入って来たノワールへと挨拶が飛んだ。

 

 

「おはよノワール」

 

「おはよギネヴィア」

 

「今日はブライアンの授業なんだって。もう少ししたら来るって言ってたけど」

 

「それはちょっと楽しみだな」

 

「ノワールくん、ブライアンさんってどんな人なの?」

 

 

ブライアンという人柄を知るためにウレリーが疑問を問う。過去にブライアンに育てられたノワールは自分の印象を話していた。

 

 

「なら良い人そうだね」

 

「見た目は怖いけどな」

 

 

そんな話で笑っているとドアが開きブライアンが姿を見せ教卓の前に立ちクラスメイトをひと眺め。

 

 

「全員揃っているのか?」

 

「教えてあげます。『遥か望む剣』のクラスメイトはこれで揃っていますよ」

 

「悪いな嬢ちゃん。よし、なら授業を始める前に挨拶をしよう。カレドニア国王ライエンスの弟、猟犬ブライアンだ。そして傭兵団『不恰好のコート』元団長でありノワールとディナタンの育ての親、そして今はこの『遥か望む剣』の副担任を任されている。何か質問があるなら聞こう」

 

 

教卓に両手を付きクラスを見渡すといくつかの挙手が上がり順番にブライアンは質問を聞いてゆく。

 

 

「ブライアンはこの国の敵ではないのか」

 

 

とある生徒からの質問にノワールは思わず質問をした生徒へと睨むような視線を向けた。しかし、ブライアンは笑いながらその生徒へ質問を返した。

 

 

「俺は敵国の人間であり疑うべき存在、その質問は当然だ。だが俺はアーサー王に金を積まれて雇われた傭兵だ。俺は雇い主を決して裏切る事はないしこの国に身請けされた恩がある。アーサー王からの金が途切れるまで俺はこの国の為に働くぜ」

 

「それは兄を敵にしてもなのか」

 

「あぁ、もうアニキは俺の事なんて覚えちゃいないよ。あれでも昔はカレドニアの為に馬車馬の様に働く良いアニキだったがな」

 

 

ブライアンの返答に質問をした生徒は頭を下げ席へとついた。

 

 

「質問だ。騎士としての強さは本物なのか。ガラハッドはブライアン殿の強さを知らない。ガラハッドは自分より弱き者に教えを受ける事はできない」

 

「強さか。お前の言う強さとはどういう意味だ」

 

「誰よりも強く、そして揺るがぬ決意を持つ事だとガラハッドは思っている」

 

「そんなもの俺は持ち合わせてはいないな。俺は誰よりも強いとは思ってはいないし決意も揺らぐ。だが、誰かの為となれば話は別だ」

 

「誰かの為?」

 

「俺は雇い主の為ならば命すら惜しみなどしない、千の敵にも1人で立ち向かおう。それが雇い主との約束であり信頼だ。お前は、、銀卓の騎士だったな?ペレス王の為ならお前は命を賭けられるか」

 

「それは当然だ。お爺様の為なら命を惜しむ奴は銀卓の騎士には居ない」

 

「それは勇敢な覚悟だ。だがな、本当にヤバくなっちまったら逃げてもいい。生きていれば何度でもやり直せる」

 

「逃げるだと!?それは騎士のする事ではない!卑怯者がする事だ!」

 

「逃げる事にも覚悟は必要だ。逃げ帰れば後ろ指を刺され誉れを捨てる事になる。お前は嬢ちゃんに腕相撲で負けていたな」

 

「ガラハッドは確かに負けた。しかし逃げずに立ち向かった!」

 

「腕相撲と言ったがあれが殺し合いだったらどうだ?俺を軽々と殺した相手に立ち向かえたか?」

 

「それは、、」

 

「勇敢と無謀は違う。勇む事も勇気だが逃げる事も勇気なんだ。無闇に命を捨てる必要なんてないんだ」

 

「しかし、、、!」

 

 

ガラハッドが反論を叫ぼうとした時授業終了の鐘が鳴った。

 

 

「よし、授業はここまでだ。意見なら講談室でゆっくりと聞かせてもらおうか」

 

 

笑いながら教室を去ってゆくブライアンにガラハッドは視線を送り続けていた。

 

 

「なんなんだあいつは!」

 

「言ってる事は正しいと思うよ?あとは聞いた人の受け取り方だと思うけど」

 

「オマエには聞いていない!ノワール、オマエはどう思うんだ」

 

「ブライアンはあの考えで今まで生き残ってきたんだ。ブライアンは俺たちより歳は上だし場数も修羅場も潜り抜けてきた数が違う」

 

「戦場では一つのミスが死に繋がります。多くの戦場から生きて帰って来ているという事は強さの証明、理論の説明になると思いますが」

 

 

2人に言われガラハッドの眉が動いた。

 

 

「じゃあよ、ガラハッドがブライアンに勝てば良いんじゃねえか?ブライアンにはブライアンの理論ってのがあってガラハッドにはガラハッドの理論があるんだろ?」

 

「そうだよ。勝った方が正義って言葉もあるぐらいだしね」

 

「でもそれ負けた方のプライドズタズタじゃない。そのままにしておいたら?」

 

 

ガラハッドに向かい様々な言葉が飛び最終的にノワールが口を開いた。

 

 

「ならブライアンと戦ってみるのはどうだ?前に退屈で身体が鈍りそうだって言ってたし」

 

「本当か?ならボクは戦って勝つ!自分の正しさを証明してみせる!」

 

 

火に油を注いだノワールに何人かからジト目が送られたが話は進み今日の放課後にブライアンとガラハッドの試合が行われる事となった。

 

噂は噂を呼び放課後の講堂には『遥か望む剣』の生徒達が詰めかけ2人が立つ舞台を取り囲んでいた。

 

 

「おい、こんな事になるだなんて聞いちゃいねぇぞ!」

 

「黙れ!この場に怖気付いたのか」

 

「へっ、そこまで言われちゃあ大人の力を見せ付けるしかねぇなぁ!おい!誰か合図をしろ!」

 

「では、私が合図をします」

 

 

2人が居る舞台へとグリードが躍り出ると両者の前へと立った。

 

 

「これより猟犬ブライアンと銀卓の騎士ガラハッドの試合を行います。両者、準備はよろしいですか」

 

 

「もちろんだ。いつでもいける」

 

「おうよ」

 

 

白銀の甲冑を着込み左手に全身を隠せるほどの盾を持ち右手には片手剣を持つガラハッド。対するブライアンは大振りな戦斧を一つ持つのみ。

 

 

「では。レディ、、ファイ!」

 

 

合図を叫ぶと2人から離れ試合の行末を見守る。

 

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「「「ブライアンだな」」

 

「まぁ、、僕もそっちかな」

 

 

舞台の上では果敢に攻め立てるガラハッドの姿が。しかし繰り出す剣技は斧にいなされ空を斬るばかり。

 

 

「力はある様だが剣の扱い方がなっちゃいないな」

 

「なんだと!」

 

「戦場で一番に死ぬ奴はお前みたいな奴だ。お前は何も分かっちゃあいない!」

 

 

剣を弾くと斧を短く持ち一振り。すかさず盾を構え防御の姿勢を取るが振り抜かれた斧に押され鈍い音と共にガラハッドの身体は浮かび後ろへと飛んだ。

 

 

「すげぇパワーだな。しかも短く持ってあれだぜ?」

 

「見た目通りね」

 

 

着地と同時に前を向くと再び振るわれた斧が視界に入りしゃがみ盾を構え防御の姿勢をとった。

 

 

「がっ!」

 

 

長く持たれた斧は遠心力と共に盾を打ち抜きガラハッドを場外へと吹き飛ばし、湧く観客へ飛び込んでいった。

 

 

「ブライアンの勝利です」

 

 

グリードの言葉に斧を置くとガラハッドの元へ。

 

 

「お前は俺が鍛えてやる。雇われとはいえ生徒が死ぬのは見たくないからな」

 

「ボクは、、!」

 

「寝言は俺に勝ってから言うんだな」

 

 

ニヤリと笑うブライアンへ睨む視線が送られるが気にする様子もなくブライアンは笑いながら講堂を去って行った。

 

 

「・・・」

 

 

試合が終わり多くの生徒が帰る中、講堂にはいつものメンバーが残り兜を取り項垂れているガラハッドを見ていた。

 

 

「惨敗だったね」

 

「黙れ!」

 

「ですがユウの言う通りです。手も足も出せず無様に負け様を晒しましたね」

 

「ボクは、、!」

 

「ガラハッド様、今一度己を戒めてはどうでしょうか?敗北の理由を探し改善し自身の力にする。これができなければ再戦してもまた負けるだけです」

 

「まず突っ込み過ぎなんだよ。初見の相手に考えも無しに突っ込むなんてバカがする事だぞ」

 

「あっ、それ僕も前ガラハッドに言ったよ」

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからず。ですよ」

 

「それとこうも簡単にガラハッドが負けると銀卓の騎士まで弱いって思われちゃうよ。あの人達も同レベルなんだって」

 

「・・・」

 

 

散々な言われ様に返す言葉も無く俯いてしまったガラハッド。

 

 

「でもまだガラハッドは生きてるじゃん。生きていれば何度でもやり直せるわ」

 

「ほら、アーサー様もペレス様も言ってたじゃん。学ぶ機会だって」

 

「分かった。ガラハッドの頭が硬かった。ガラハッドは学ぶ。皆、教えてはくれないだろうか」

 

 

悔しい顔をしならが見上げるとそこには笑う顔が。

 

 

「ありがとう。なら皆ならあの男とどう戦うのか教えて欲しい」

 

「私なら離れて銃で打つかなー?」

 

「私も、なるべく距離をとって矢を打ちます」

 

「なるほど。なら剣で相手をするならどうするのだ」

 

「力尽くで斧をねじ伏せ首を斬ります」

 

「斧が振るわれるより早く斬ります」

 

「すまない、人外の話は聞いていないんだ」

 

 

そう言われ2人は顔を合わせ合い笑った。

 

 

「僕ならカウンターを狙うかな?」

 

「俺もだな。それか斧を振る隙を狙う」

 

「カウンター?」

 

「うん、斧が振られて避けると先端が通り過ぎるでしょ?それを剣で押すんだよ」

 

「すまない、意味がわからない」

 

「あーっと、、」

 

「よし!なら俺が練習相手になるぜ。あんなでけぇ斧じゃないけどな」

 

 

いつの間にか鎚を構えているガウェインが練習相手になる様で。ユウと共に舞台へと上がりガラハッドへ手本を見せていた、

 

 

「いくぞ!」

 

 

緩やかなスイングで振られた鎚を躱し振られている鎚を剣先が押し込んだ。

 

 

「うおっと」

 

 

振るう鎚に他の力が加わりガウェインは体制を崩す。その隙に剣先は首へと伸びる。

 

 

「こんな感じ。遠心力が効いた鎚にさらに力を加えて制御を不能にさせるんだ。ただこの方法は弱点が二つあってこの弱点を知っている者なら反撃がくるのと鎚を短く持たれると効果が薄いって事かな?」

 

「なるほど、ガラハッドは学んだぞ!それとよく知っているな」

 

「昔いろんな人に鍛えられたからね」

 

「後は実戦と経験を積む事です。その若さで銀卓の騎士になるという事は才能はあると思うので」

 

「ありがとうみんな。これがお爺様が言っていた学びか。悪くない、ガラハッドは色々な事を吸収して今よりも強くなるぞ!」

 

 

決意を新たにするガラハッドを見てみんなが笑った。

 

 

 

7月20日/円卓会議

 

 

その日の朝、ノワール達は円卓の間へと呼び出されていた。重々しい扉を開け円卓の間へと行くと円卓の席は埋まっており慌てる様に席へと着いた。

 

 

「皆急に呼び出してすまない。魔女達に動きがあった様だ」

 

 

アーサーの言葉に円卓の間に集う騎士達に緊張が走り言葉は無いが視線はアーサーを向く。

 

 

「ユウ、グリード。説明を頼めるか」

 

「はい。その前にケイ卿、地図を書いて貰えますか?」

 

「良かろう」

 

 

グリードがケイに頼むとケイは円卓の間にある黒板へと簡易な地図を書いた。それを見てグリードとユウは地図の前へと行き地図を指しながら説明を行なってゆく。

 

 

「昨日まで魔女達はカレドニア国に留まっていましたが今朝はカレドニアを移動しています。それも集団では無く魔女一人一人で」

 

「まだカレドニアは出てないけど南下しているから近いうちに攻めてくるかもしれない」

 

「魔女達は今どの辺りに居る」

 

「最も近い気配でこの辺り、カーラエル城の北側になるのかな?」

 

「カーラエルといえばログレスの領地のすぐ近くね。攻めてくるつもりかしら」

 

「かもしれません。ログレスと争う為の準備ができたのでしょう。アーサー王」

 

「あぁ、来るのであれば迎え撃つしか無い。幸い昨日ローマから頼んでいた武器が届いてね、こちらの準備も万端だ」

 

 

アーサーがルーシャスの方を向くとニヒルに笑う顔が。

 

 

「一千人の兵が持っても余る程の武器がある。それにローマの兵ももう時期ロンディニウムに着くであろう」

 

「こちらも万全であるが魔女達が何を企んでいるのか未知だ。二人には引き続き魔女達の監視を頼みたい。動きがあればすぐに報告する様に」

 

『スタンド・バイ・ユアラウンド』

 

『フォー・ラウンド!』

 

 

これにて会議は終わり各自クラスへと戻ろうと来た時、二人は立ち止まり顔を見合わせると地図の元へと駆けて行った。

 

 

「魔女達が動きました。北上し再びカレドニア城の方へと戻っていきます」

 

 

グリードの言葉に再び騎士達は卓へと付き話を聞いてゆく。

 

 

「戻ってるね。なんだったんだろ?」

 

「陽動でしょうか?そうだとしてもバルバロイのみをこちらへ向かわしたとしても数を減らすだけだと分かっていると思いますが」

 

「キラーズの探知だけじゃ情報に限界があるね。直接見に行くのが一番手っ取り早いか」

 

 

最終的な判断を仰ぐ為二人は王へと目線を向けた。視線を受けアーサーは頬杖を付き思考を巡らせる。

 

 

「偵察を出そうか。カーラエルならキャメリアードから近いしキャメリアードには転移魔法の座標がある。騎士達はマーリンと共にキャメリアードへ転移しカーラエルへ偵察を行なってもらう。戦闘を行う必要は無い、魔女達の動きを把握するだけで良い」

 

「敵前逃走しろってか王様。敵が集まってんなら潰すべきだろ」

 

 

アーサーに反論が飛び目線は鋭くアーサーを睨む。

 

 

「お前の意見には賛成だよモルドレッド。だが、まだ時期では無いんだ。無闇に戦闘を行い一人でも欠ければやがて来る決戦に戦力が不足する。分かってくれ」

 

「だけど決戦が来るのであれば敵の数は減らしておくに越した事はないよ。モルドレッドの意見に賛成だね」

 

 

トリスタンの発言にモルドレッドはニヤリと笑いアーサーを見た。

 

 

「無限の如く沸くバルバロイを減らせる事ができるのであれば戦闘をすべきだと思いますが」

 

「どう言う事だグリード」

 

「魔女達は私から奪ったキラーズを贄にバルバロイを生成する事ができます。叩くべき敵はバルバロイでは無くバルバロイを生成する事ができる魔女。魔女を倒さなければバルバロイの数は決して減る事はありません」

 

「ならお前はログレスの敵って事で良いんだな。魔女に力を貸す裏切り者が」

 

「キラーズを奪われたのは私の失態ですが私はログレスの為に戦う覚悟があります。一言命令を頂ければ単騎でカレドニアへ攻め込みますが」

 

 

淡々と告げる言葉を聞きモルドレッドは大きな笑い声を上げ卓へと座り直した。

 

 

「おもしれぇ女だ。悪かったよ」

 

 

モルドレッドが着席した事により安堵のため息が二つ聞こえた。

 

 

「皆ありがとう。この話も重要なのだがもう一つ重要な話を思い出したのでね」

 

「何があるんだアーサー」

 

 

ノワールがアーサーへと問いかけると神妙な顔をし、一呼吸置き口を開いた。

 

 

「もうすぐ学院の文化祭があってだね。そちらの準備もせねばならんのだ」

 

「ぶ、、文化祭、、」

 

「魔女達の動き次第では中止を考えたが問題なさそうなのでね。8月の10日頃に開催予定だ」

 

 

にっこりと笑うアーサーに場の緊張は抜け穏やかな雰囲気に。その後少し会話をし会議は終了となった。

 

 

「文化祭はクラスで出し物を出し合うのか?」

 

 

ノワールがギネヴィアへと疑問を聞くと嬉しそうに説明を始めた。

 

 

「その認識であっているわ。学院のクラスで出し物を出し合って楽しむって事」

 

「へぇ、去年は何をしたんだ?」

 

「去年はガウェインが屋台やりたいって言ってクラスのみんなで焼きそば焼いてたわよ。ちょっと焦げたソースの焼きそばが美味しいのよね♪」

 

「あれ美味かったよな。今年も焼きそばやるか!」

 

「さんせ〜♪」

 

「とりあえずクラスのみんなに聞いてみよう。ユウ達は何かしたい事あるのか?」

 

「僕達は、、そっちにお任せするよ?」

 

「そうですね。ティルフィングはどうですか?」

 

「私もお任せします。他のクラスは何を催すのでしょう?」

 

「それは文化祭が始まってからのお楽しみね。どこのクラスも出し物の事は当日まで明かさないから」

 

 

そんな話で笑いながらクラスへと入り文化祭の話を持ちかけクラスでの話し合いが行われた。

 

話し合いの結果『遥か望む剣』が出す出し物は屋台の焼きそばに決定しその日から準備が行われる事に。

 

 

「きっとこれが最後の催しになるはずだわ。みんなで最高の思い出をつくりましょ」

 

 

ギネヴィアの言葉にクラスメイトは頷きそれぞれが思いを馳せてゆく。

 

 

 

7月21日/文化祭準備

 

 

 

アーサーが文化祭を開催すると言った次の日には学院中に通達が行き生徒たちは出し物を考え始めていた。

 

 

「うーん、、」

 

 

ディナタンもその一人であり学院に入学して初めての文化祭の出し物を何にしようか悩んでいた。

 

 

「どうしたディーナ、悩み事か?」

 

「マァル。そうなんだよね。文化祭で何しようか悩んでて、、」

 

 

悩みながら保健室での業務をこなしているとマルディサントに声をかけられ作業を進めながら会話をしていた。

 

 

「そんなモンクラスの奴らに任せとけば良いじゃねえか。ディーナが考える事じゃないぜ」

 

「さすがサボり魔ね。サボるという事が身体中に染み付いているわ」

 

 

棘のある言葉が聞こえ目を向けると薬品をしまいながら目を向けるイゾルデの姿が。

 

 

「あはは、まだクラスでも何も決まってなくて。イゾルデさん達はもう決まったのですか?」

 

「まだね。トリスタンは演奏をしたいって言ってたからクラスではなく部活での出店になると思うけど」

 

「演奏、ですか?」

 

「そうよ、歌や音楽には人を元気づける力があるの。根拠は無いけれど魔女達との戦いを控えている私達にはうってつけね」

 

 

薬品をしまい終えると使っていないベッドへと行き布団をたたみ始めた。

 

 

「そういえばディーナの歌はみんなを元気づけるんだろ?一緒に歌えば良いじゃねえか」

 

「それは、、その、みんなの前で歌うのは恥ずかしいし、、」

 

 

ディナタンもイゾルデと同じくベッドを片付け始めた。その様子をマルディサントは椅子に座りながら見ている。

 

 

「今音楽部はボーカルを募集中よ。ディナタンに意思があるのならトリスタンに伝えるけど」

 

「歌っちまいなよディーナ。観客の視線なんて歌に集中してれば全く気にならねーって」

 

「そう、なのかな?」

 

「そりゃそうよ。劇でも歌でも相手は自分自身。最高のパフォーマンスをすれば良いんだよ」

 

「マルディサントは今最高のパフォーマンスをすべきね。そっちのベッドまで手が回らないからお願いするわ」

 

 

イゾルデに言われ渋々といった様子でベッドの元へと行くと片付けを始めた。

 

 

「みんな〜そろそろ休憩にしましょ。お茶、はいったからね」

 

 

ベッドの片付けがひと段落した頃にモルガンの声が聞こえテーブルには湯気を立てるカップが四つ並び、片付けを終えた者からテーブルへと行きカップを口へ近づけてゆく。

 

 

「ディナタンちゃんは歌わないの?先生は歌った方がいいと思うけどな〜」

 

「私も歌いたいって気持ちはあるんです。でもやっぱり恥ずかしくて、、」

 

「そうかもしれないけど今歌わなかったらディナタンちゃんは絶対に後悔すると思うよ。魔女達との戦いで誰も死なないって保証はないしバルバロイに殺されちゃったら存在も忘れてしまう。後悔は先に立たないんだよ」

 

「・・・そうですよね、、」

 

「ディナタンの意思が決まったら教えなさい。トリスタンに話をするから」

 

「あの、返事は後でも良いかな?」

 

「急かすつもりは無いけれど早めに返事は欲しいわ。歌を歌うなら作詞と作曲をしなければならないし」

 

「ディーナが歌うんならアタシが歌詞書くぜ」

 

「マァル歌詞書けるんだ」

 

「おうよ。たまに演劇のストーリー書くから、歌詞なんて似た様なものだろ?」

 

「その情熱を少しでもこっちに向けてくれたら先生嬉しいんだけどな〜」

 

 

モルガンは保健室を眺めた後、マルディサントへと視線を向け微笑む。その先にはバツの悪そうな顔をする姿が。

 

 

「同感ね。それで、どうするのディナタン。役者は揃いそうだけど」

 

「私は、、歌う。私に歌わせてください!私の歌でみんなが元気になれるのなら、、!」

 

 

ディナタンの返事を聞き3人は笑顔を浮かべた。

 

 

「分かったわ。明日の放課後に音楽室へ行きましょ。詳しい話はそこでするわ」

 

「はいっ!」

 

 

次の日、授業が終わった放課後にディナタンとマルディサントはイゾルデに連れられ音楽室へと来ていた。

 

そこには音楽室の名の通り楽器が多く並び名前を知らない楽器も多くあり思わず視線を向けてみたり。

 

 

「音楽室へようこそ。見ての通り楽器しかないから大したおもてなしはできないけどゆっくりして行ってよ」

 

 

音楽部部長を務めるトリスタンに言われ2人は見つけた椅子に座り話をする事に。イゾルデから要件は伝わっている様で話はスムーズに進んでゆく。

 

 

「ボーカルをしてくれるのはこちらとしても嬉しいところだよ。それに歌詞を書いてくれるのならね」

 

「アタシに任せな。それでディーナはどんな歌が歌いたいんだ?それによっては内容が変わってくるから」

 

「私は、、」

 

「勘が悪いわねマルディサント。ノワールの元気が出る様な歌詞に決まってるじゃない」

 

「きっとディナタンが歌う決心をしたのもノワールの心境を思ってだよ。最悪の選択肢を選ぶ事しかできない彼の事をね」

 

 

2人の言葉の後、少しの沈黙が流れディナタンが口を開いた。

 

 

「そうなんです。少しでも兄さんに元気になって欲しくて。私には何もできないから」

 

「分かったよ。僕もノワールには何かをしてあげたかったから」

 

「マルディサントの責任は重大よ?生半可な気持ちで作詞をするのなら今のうちに降りなさい」

 

「やってやんぜこのやろ〜っ!このマルディサントに任せときなって!」

 

 

席から立ち上がり意思を表明するマルディサントに待望の瞳が寄せられる。

 

 

「それぐらい気合を入れて保健室の仕事もして欲しいものね」

 

「ちょ!今言う?それ今言うのか!?」

 

「作詞の期限は1週間だよ。それ以上掛かると曲も作れないしあと工程に支障が出る」

 

「任せときなって。んじゃ、アタシは一足先に部屋に帰らせてもらうぜ」

 

 

その足取りで意気揚々と音楽室を出てゆくマルディサントを見送り音楽室には沈黙が残った。

 

 

「イゾルデが言っているサボり魔には思えないけど」

 

「自分の好きな事だけは全力なのよ」

 

 

2人のやり取りにディナタンは乾いた笑い声を漏らした。

 

 

「だぁ〜〜ッ!!全然浮かばね〜っ!!」

 

 

その日の深夜にマルディサントの部屋から叫び声が聞こえ隣部屋で眠る生徒が何事かと飛び起きたがいつもの事かと思い再び眠りに付いた。

 

マルディサントが叫んだ理由として作詞をすると申し出たにも関わらず歌詞が全く思い浮かばなかったからだ。期限は後6日あるのだが2人に啖呵を切った事により協力を頼む事はできず書き掛けた歌詞が書かれたノートを恨めしく睨んだ。

 

 

「これもダメだ。いまいちパッとしねーなー」

 

 

ノートから紙を千切るとぐしゃぐしゃと丸め後ろへと放り投げた。それはゴミ箱に入らず転がってゆくが本人は気にする事なく真っ白なノートに歌詞を書こうと鼻と唇に挟んでいたペンを手に取った。

 

 

「マァル起きてるの?」

 

 

そんな時、ノックの音がしディナタンの声が聞こえマルディサントは椅子から降りるとドアへと行き鍵を開けディナタンを部屋へと招き入れた。

 

 

「こんな時間まで何してるの?寝ないとダメだよ」

 

「アタシも寝たいけど歌詞書いてるから寝れねんだよ。あの2人に歌詞を書くって言った以上アタシはやり通す」

 

「でももうすぐ12時だよ、寝ないとダメだってば」

 

「頼むよディーナ!こう、、頭の中には歌詞があるんだけど後一歩でてこないんだ!」

 

 

ディナタンに向かい両手を合わせ深々と頭を下げる。その姿を見てディナタンは大きなため息を吐いた。

 

 

「それなら私も手伝ってもいいかな?2人で書けば早く書けるかもしれないし」

 

「いや、これはアタシ1人で…」

 

 

そう言いかけマルディサントは目の前で心配そうな顔をするディナタンの顔を見た。

 

 

「そうだ。ディーナが居た」

 

「私はここにいるけど、どうしたのマァル?」

 

「オニーサンの心境を歌詞に取り入れたくて悩んでたんだけど。ディーナも心境は似たものだよな」

 

「それは、。そうだよ。私も兄さんと気持ちは同じ。私も誰かを選ぶ事はできないし誰かを選びたくない、、」

 

「悪いディーナ!ちょっと心境を詳しく話してくれ!」

 

「・・・サイテー」

 

「ぐかっ!いや、アタシもどれだけサイテーな事言ってるか分かってるよ。だけどアタシはディーナの為に歌詞を書きたいンだ!書かせてくれ!」

 

「・・・」

 

 

ディナタンが何かを言おうとした時、騒ぐマルディサントに痺れを切らした隣人が壁を叩く音がして2人は顔を見合わせた。

 

 

「マァルの気持ちは嬉しいけど、、」

 

 

そう言って俯いたディナタンを見てマルディサントは考えを直し謝ろうとディナタンの肩を叩こうと手を伸ばそうとした。

 

 

「そうだよね。私に比べて兄さんはもっと辛いんだから。私の気持ちで良かったら話すよ」

 

「本当かディーナ!よし、話してくれ!」

 

 

ベッドに2人並び座りマルディサントはディナタンの心境を聞いてゆく。見ている事しかできないもどかしさ。力になる事ができない辛さ。誰にも話す事の無い心内を言葉に詰まりながら涙ながらに。

 

 

「サンキューディーナ。今日はもう寝るか」

 

「えっ、書かないんだ」

 

「書きたいけどよ。あのさ、アタシはディーナの武器だ、パートナーってやつだろ?」

 

「うん、そうだけど」

 

「持ち主が泣いてるのに他ごとするほどアタシは薄情じゃないね」

 

「うん、じゃあおやすみ。また明日ね」

 

 

そう言ってディナタンはベッドから立ち上がり部屋を出て行こうとするその手を掴みベッドへと寝ころばせた。

 

 

「マァル?」

 

「だから、アタシが一緒に寝てやるよ。アタシはディーナのパートナーなんだから。誰にも言えないコトはアタシが聞いてやるから」

 

 

頬を掻きながら伝えた言葉の先には泣きながらの笑顔があった。

 

 

「マァル大好き」

 

「おいっ!ちょっ!抱き付くなって!」

 

「えへへ。じゃあ今夜は私の話し聞いててね」

 

 

同じベッドに寝転がりながらディナタンは心の内をマルディサントへと話しマルディサントはうんうんと話を聞いていた。

 

 

 

次の日、ディナタンが目を覚まし隣を見ると布団を跳ね除けながら眠るマルディサントの姿があり微笑ましく見た後視線は壁にかけられていた時計の針を見て残っていた眠気は吹き飛んだ。

 

 

「マァル起きて!!遅刻、遅刻してるからっ!!」

 

「ンだよディーナ、、朝っぱらから、、」

 

「もうお昼過ぎてるのっ!!」

 

「あぁン、、?うぉっ!ほんとだぁ!?」

 

「早く準備しないと!」

 

 

慌ただしくベッドから飛び降りたディナタンだがマルディサントはベッドから起き上がっただけで動こうとしない。

 

 

「私行くからね」

 

「いや、待てディーナ。今日はもうサボっちまおうぜ」

 

 

ニッカリと笑いながら告げるマルディサントの言葉を聞かなかった事にしディナタンは部屋を出て行こうとする。

 

 

「どうせもう遅刻は確定してるんだからさ。こんな時は慌てず動かずサボる!」

 

「マァルは悪い子だからそう思うんだよ」

 

「アタシとディーナは共犯者ってとこだな。ディーナも悪い子になっちまおうぜ」

 

「私は…」

 

 

マルディサントの顔を見ながら悩んだ顔をし、しばらくすると笑った。

 

 

「じゃあ、、私も今日は悪い子になる。優等生はお休み」

 

「ならディーナはいつも優等生ぶってたのか」

 

「違うよ!じゃあマァル。お昼ご飯買いに商店街行こうよ」

 

 

マルディサントの手を取ると笑顔で引きながら部屋のドアを開けた。

 

 

2人は商店街が買い物を終えマルディサントの部屋へと戻って来ていた。そして、マルディサントは机へと向かい歌詞の続きを書きその姿をディナタンは見ていた。

 

 

 

「おいノワール。お前の妹学校サボって商店街で遊んでたぞ」

 

 

その頃ノワール達は昼休み中で昼食を食べ終わりクラスメイトと会話を楽しんでいた。そんなノワールの元へ商店街へ買い物へ行っていた生徒が見た事を話していた。

 

 

「ディナタンが?」

 

「背の高い奴と一緒だったけど」

 

「・・・」

 

 

真面目で成績優秀な妹の不可解な行動に兄は顔を顰めた。

 

 

「不良ね」

 

「不良ですね」

 

「あれじゃない?真面目な自分に疲れたってやつ」

 

「殿下は不真面目な自分に疲れないのでしょうか?」

 

 

休み時間に『遥か望む剣』に来ていたギネマウアから棘のある言葉が聞こえ思わず顔を逸らした。

 

 

「ずっと真面目だと疲れるからね。僕も奏官証明書取るとき良くサボってたよ」

 

「だから留年したんですね」

 

「ぐはっ」

 

「情けない、ボクは真摯に勉学に向き合っているぞ」

 

「ガラハッドちゃんこないだ授業中に居眠りしてたよね?」

 

「ね、寝てなどいない!あれば目を瞑り瞑想をしていただけだ!」

 

「ったくよー俺を見習えってんだ」

 

「ガウェイン君は常習犯だよね」

 

 

わちゃわちゃと盛り上がる一方でノワールは浮かない顔を浮かべたまま。少しして予備鈴が鳴りギネマウアは自分のクラスへと戻ってゆき入れ替わるようにブライアンが教室へと来た。

 

 

「みんな居るな?ン、ノワール。なんて顔してんだよ」

 

「あぁブライアン」

 

 

浮かない顔している理由をノワールが話すとブライアンは頷きながら話を聞いていた。

 

 

「ディナタンも大人になったって事よ。ノワール、いつまでもディナタンは俺たちの後ろを着いて歩いてくるって事は無いんだ。あいつだって立派な大人なんだからよ」

 

「そうだな」

 

「よし、悪いが自習にする。皆各自好きなように学べ」

 

 

そう言って教室を出て行ったブライアン。後ろ姿をドアから覗くと咽び泣く後ろ姿があった。

 

 

「そんなに泣くもんなのか?」

 

「きっと親にならないと分からない事だよ。じゃあみんな、自習だからって遊ばないでちゃんと勉強しようね」

 

 

ウレリーの監視の元各自教科書を開き勉学へと励んでゆく。

 

 

その日の夜にノワールは昼間の事を聞こうとディナタンの部屋を訪ねていた。しかしドアをノックする勇気が出ずドアを眺めている。その姿は知らない人が見たら不審者だろう。

 

ブライアンが言う通りにディナタンも大人の女性。妹とはいえいつまでも自分の後ろを歩いている訳ではない。そう理解はしているのだが学院を無断で休んだという事に一言言おうと思いようやくノワールはドアをノックした。

 

 

「居ない?」

 

 

ドアをノックしてもドアが開くどころか返事すらなくノワールの疑惑は更に深まりもう一度ノックをしても同じ様に返事はなかった。

 

 

しばらくしノワールは諦めて部屋へと帰ってゆく。

 

 

その頃、ディナタンはマルディサントの部屋に居りノートに歌詞を書くマルディサントを見ていた。

 

 

「よし!完成だぜ!」

 

「やったねマァル♪」

 

「ディーナのおかげだぜ!後はこれを明日にトリスタン達に渡せばアタシの任務は完了だ」

 

「ありがとうマァル。私頑張って歌うからちゃんと聴いててよね」

 

「あったりめーよ!最前列で応援させてもらうさ」

 

 

楽しそうにはしゃぐ二人がうるさかった様で壁がドンと叩かれ二人は顔を見合わせ口を紡いだ。

 

 

「あはは、、今日もマァルと一緒に寝ていいかな?」

 

「アタシはいいけどよ、狭くないか?」

 

「うんん、大丈夫だよ。じゃあ先にベッド入っちゃお」

 

 

ベッドに潜り込むと布団から顔だけを出しマルディサントを見つめた。

 

 

「マァルはやく」

 

「おぃディーナ!それは誘ってるだろ!?」

 

「えっ?そんな事ないよ?」

 

 

不思議そうな顔のディナタンの横にマルディサントは寝転がった。

 

 

 

次の日、二人は音楽室へと行きトリスタンに歌詞を提出していた。受け取ったトリスタンは歌詞の書かれたノートを眺め笑顔を向けた。

 

 

「良いんじゃないかな。それとどんな曲が良いのかリクエストがあれば応えるよ」

 

「私にも見せてちょうだい」

 

 

トリスタンから受け取ったノートをイゾルデが眺め顔を上げた。

 

 

「この情熱をもっと他の事にも活かすべきよ」

 

 

的確なツッコミに周りからは乾いた笑い声が聞こえた。

 

 

「よし、早速取り掛かるよ。二日もあれば書けるからそれまで喉を痛めない様にしておきなよ」

 

「分かりました。私、頑張ります!」

 

 

元気の良い返事を聞きトリスタンは別のノートを開き曲を書き出してゆく。

 

 

 

 

8月10日/文化祭

 

 

 

その日、学院の生徒達は早朝からクラスへと集まっていた。理由は文化祭当日である事だ。約2週間の集大成とも言える文化祭を成功させようと浮世立つ。

 

しかしノワールの顔は暗い影があった。それは魔女の見回りの日が今日であった為だ。ノワールが入学し始めての文化祭であったが円卓の騎士としてティルフィングと共に学院前庭に立つマーリンの元に居た。

 

 

「申し訳ありません二人とも」

 

「いや、大丈夫だ。文化祭も楽しみだったけど俺にはもっとやらなきゃいけない事がある」

 

「ログレスが平和になった時、また参加させてもらいますね」

 

 

尾を引く様子もなく告げる二人に頭を下げ魔導書を取り出すと呪文の詠唱を初めてやがて魔法陣が足元に浮かび上がった。

 

 

「おはよ。間に合って良かったよ」

 

「見回りは私たちが変わりますよ」

 

 

転送魔法が発動しようとした瞬間に声がかかりマーリンの詠唱は止まり魔法陣は消滅し声をかけた二人を見た。

 

 

「ユウ」

 

「グリードも」

 

「昨日の夜にモルドレッド君達と飲みに行ってティルがお酒飲み過ぎちゃって支払いの賃金がいるんだよ。だから変わってもらえないかな?」

 

「そんな仲だったのか?良く言い合いをしていたが」

 

「そうなのですがそれはモルドレッドの愛国心の表れなので。私達は異国の騎士、疑いをかける事は当然の事です」

 

「誤解を解いたまでは良かったんだけどティルが奢るって言っちゃってさ」

 

 

なんとも私的な要件を話され3人は困惑を浮かべたまま話を聞いていた。

 

 

「このままだと居酒屋の亭主に追われる事になるので。人助けだと思って変わってもらえないでしょうか?」

 

 

少しの沈黙の後にマーリンが堪えきれず笑ったのを仕切りに二人も笑い顔を見合わせた。

 

 

「そういう事なら変わってもらおうかな」

 

「本当に宜しいのですか?」

 

「むしろ変わってもらえない方が困るよ。交渉は成立で良いかな?」

 

 

二人は返事の後にマーリンから離れ替わりに二人がマーリンの元へ。

 

 

「ありがとうございます。焼きそば私たちの分も残しておいて下さいね」

 

「あぁ、約束するよ」

 

「お気を付けて下さい」

 

 

二人に見守られながら3人はマーリンの転移魔法により姿を消した。

 

 

 

「お二人共優しいのですね」

 

「さぁ、なんのことでしょうか?」

 

「早く見回り終わらせて帰ろっか」

 

 

転移魔法により降り立ったカーラエル城前の広場で二人は身体を大きく伸ばし晴れ渡る空を見上げた。

 

 

 

『遥か望む剣』のクラスの出し物は焼きそばである。それも屋台を出し大型の鉄板で焼く本格的なもの。その為出し物は教室ではなく学院の前庭で出店される。

 

 

「この私が焼くのよ。売り切れる事間違いなしだわ」

 

 

にししっと笑いながら鉄板の前に立ち両手にヘラを持つギネヴィア。普段の制服の上から白のエプロンを着て頭にはタオルを巻く。

 

 

「焼きそばなんて誰が焼いても一緒だろ」

 

「ガウェイン!?それはそうだけどそんな事言っちゃダメだってば!」

 

 

お馴染みのやり取りを見て笑っていた時にノワールとティルフィングが屋台の元へと来て挨拶を。

 

 

「あっ、ノワール君、それにティルフィングさんも」

 

「やぁウレリー。調子はどうだ?」

 

「まだ文化祭は始まってないからなんとも言えないけど。そうだ、ノワール君は午前中に焼く当番だよ」

 

「午前中って、俺は午後からでも良いけど」

 

「教えてあげる。今日のお昼過ぎに音楽部のライブが講堂で行われるんだ」

 

「へぇ、トリスタン達が演奏するんだ」

 

「それと、ヴォーカルはディナタンちゃんだよ」

 

「な、なんだって!?本当なのか!?」

 

 

ウレリーの言葉にノワールは大きな声を出し他のクラスメイト達の注目を浴びた。それによりディナタンが歌うと周囲に知れ渡り午前中に焼きそばを焼くと言う声が止まらない。

 

 

「わわわ!どうしよう、、」

 

 

騒然とする事態に普段クラスを纏めるウレリーも困惑し言葉に詰まった。

 

 

「私に良い案があるわ」

 

「殿下に何か案があるのですか?」

 

「午前中に全部売っちゃえば良いのよ♪そうすればみんなでディナタンのライブに行けるわ♪」

 

 

ギネヴィアの提案にクラスメイトは一瞬沈黙し次には盛大な声を上げた。

 

 

「流石ギネヴィア様だな。たまには良い事言うぜ」

 

「ほんとたまには良い事言うよね〜♪」

 

「ちょっと!なんかわたし褒められてなくない!?」

 

「よし!みんなで協力して焼きそばを売り切ろう!」

 

「ボクはどうすれば良いんだ」

 

「ガラハッドちゃんは私と一緒に宣伝に回ってもらおっかな」

 

「分かった。この店の事を宣伝すれば良いのだな」

 

「これを待ってね」

 

 

ウレリーに渡された看板は紐が付いており肩から下げれる様になっていた。その看板には『殿下の焼きそば』との文字が。それを見て顔を顰めたがガラハッドは了承しウレリーと共に学院内から城下町まで歩く事に。

 

 

「よっしゃ!俺たちでがんがん具切ってくからお前達に焼きは任せた!」

 

「そっちはお願いね♪」

 

「私たちに任せなさい!ノワール?この私の足を引っ張らないでよね」

 

「お、おう」

 

「ティルフィングさんにはお会計とパック詰めをお願いして良いかな?」

 

「了解しました」

 

「みんな頑張ろうぜ!」

 

 

しばらくし熱された鉄板の上で焼きそばが焼かれ香ばしい匂いが学園中へと漂ってゆく。

 

そして迎えた文化祭開催時間。学院長であるアーサーの挨拶が放送で流れ締め括りの言葉の後に文化祭は開催された。

 

学院内だけでなく城下町を通り越しロンディニュウムまで通達は届いており多くの人が学院へと足を運び盛況を見せる。そして、学院内ではなく前庭に店を構えた『遥か望む剣』の焼きそば屋台も繁盛していた。

 

ウレリーの提案により前庭に店を構えたのだが予想は大当たりし文化祭を回る前の腹ごしらえをしようというお客が大勢詰めかけていた。

 

 

「ちょっと!?お客来すぎじゃない!?」

 

「嬉しい悲鳴だな。頑張ろうギネヴィア」

 

 

焼きそばを焼いても焼いてもオーダーがかかり引っ切りなしに焼きそばを焼く二人には夏の日差しと鉄板の熱で大粒の汗をかく。

 

 

「二人とも変わるよ」

 

「助かるよ」

 

 

そんな二人を見兼ね他のクラスメイトと交代しようやくの休憩。

 

 

「暑ーい、、ノワールジュース買ってきてよ」

 

「俺が?分かったよ」

 

「流石ノワールね♪後でお金払うからみんなの分買ってきてよ」

 

 

ギネヴィアにお使いを頼まれノワールは一人城下町へジュースを買いに出た。そこでノワールは学院中から聞こえる笑い声を聞いた。

 

戦乱の世とはいえアーサー王が提案した文化祭により多くの人が笑い文化祭を楽しんでいる。バルバロイという争いの火種が消えれば今よりももっと楽しい日々が続くのだろう。

 

 

「・・・・」

 

 

きっと母もそれを望んでいる。少し感傷に浸り決意を固めた後、ノワールはジュースの入った袋を持ち屋台の元へと歩んで行った。

 

 

「おぉ!焼きそばか!一パックもらおうか」

 

「アーサー」

 

 

ノワールが屋台へと戻ると焼きそばの香りに釣られたアーサーが注文を頼んでいた。国王であるアーサーの注文に緊張が走るがクラスメイトは難なく注文をこなし焼きそばをアーサーへと届けた。

 

 

「うん美味い!やっぱり焼きそばは少し焦げたソースが決めてだな」

 

 

アーサーの絶賛の声が上がり看板には『アーサー王が絶賛』との文字が付け加えられ客足に拍車がかかり目標の午前中には屋台に『売り切れ』の札がかかる事となった。

 

 

「後はお片付けをして終わりだね。みんな後少しだから頑張ろうね」

 

 

疲労困憊なクラスメイトだがウレリーに鼓舞され重たい身体を引きずりながら片付けを行ってゆく。

 

 

 

 

それから少しした頃に『遥か望む剣』のクラスメイト達は講堂へと来ていた。普段明るい講堂は照明が落とされ真っ暗。足元に置かれた小さな明かりと並ぶ順番を示すテープを頼りに既に人で賑わう講堂の奥へと入って行く。

 

 

「あの台がステージなのね」

 

 

講堂中心にある円形の台には四人のシルエットが暗闇に浮かびノワールは目を凝らし妹の姿を見つけた。

 

 

「もうそろそろ開始の時刻だね」

 

 

ウレリーの言葉の後、騒めく観客達の声が収まり会場は無音となった。

 

 

そんな会場にドラムを叩く音が響き観客から声が上がると同時に天井に取り付けられたスポットライトがドラムを叩くマルディサントを照らした。

 

やがてドラムの音に響く音が混ざりスポットライトはベースを奏でるトリスタンを照らす。

 

二つの音が重なる会場に音が加わった。軽やかな音はエレクトーンを引くイゾルデ。

 

 

三つの音にギターの音が響きスポットライトが照らすとギターを持ちスタンドマイクの前に立つディナタンの姿が。

 

 

四つの音が交わり一瞬、音が止み再び演奏が始まった。

 

 

『泥だらけで辿り着いた学園。ここで僕は何を見出すのだろう?』

 

『傷付いたって構わない。何かを守る為ならば』

 

『いつか』

 

(夢に見た世界)

 

『ここで』

 

(きっと掴む)

 

『背中を任せられる戦友が居るから』

 

『築いた絆で戦場を駆けろ!敵が多くても負けやしない。右手の剣で振り払ってゆけ!』

 

『時に傷付き倒れ膝を着いても手を差し伸べてくれる友が居るさ。立ち上がってまた前を向けば良い。今、紅蓮の剣を番たなら振り返らず円卓へ集え!』

 

『スタンド・バイ・ユアラウンド!』

 

(フォー・ラウンド!)

 

『傷だらけで掴み取った剣。切先の先には何が見えるだろう?』

 

『悩んだって構わない。本当はそこにあるから』

 

『きっと』

 

(掴み取るのさ)

 

『この手で』

 

(本当の事を)

 

『振り向けば友が居るから』

 

『紡いだ絆で戦場を駆けろ!何が相手でも負けやしない。この先に道があるから』

 

『足を止めて休んでも良い。背中を押してくれる友が居る。また歩み出せば良い。今、燦然と輝く剣を手にしたら肩を並べ駆け出してゆけ!』

 

『時に涙を流したって良い。顔を上げれば友が手を伸ばしてくれる。顔を拭いてまた立ち上がれば良い。今、この手を掴んだのなら全てを手放す覚悟を持て!』

 

『スタンド・バイ・ユアラウンド!』

 

(フォー・ラウンド!)

 

 

『ご清聴ありがとうございました!』

 

 

観客に向かいディナタンが深々と頭を下げるとステージは暗転し暗闇に包まれ、割れるような拍手の喝采が響いた。

 

 

 

 

 

8月20日/円卓会議

 

 

その日の朝、アーサー王の召集がかかり円卓の騎士、銀卓の騎士、ローマ関係者は円卓の間へと集っていた。

 

各人が間に集結するとアーサー王は集う人々を見渡しようやく口を開いた。

 

 

「皆急に呼び出してすまない。それと一ヶ月間の見回りご苦労。つかぬ事を聞くが見回りの最中に魔女やバルバロイに遭遇した者はいるか」

 

 

アーサー王の問いかけに各人過去を振り返るが見回りの最中にそれらに遭遇した事は一度も無かった。

 

 

「近隣国からの報告であるがこの一ヶ月間にバルバロイによる被害は一度も出ていない。以前なら一ヶ月の間に何度もバルバロイによる被害があったのだが」

 

 

アーサー王の横に立つケイが片眼鏡を直しながら報告書を読み上げた。

 

 

「更に盗賊やカレドニア軍の残党による被害も出ていない。これらは我々が見回りを行っていない地域での事だ」

 

「バルバロイや魔女が居なければ奴等は動き易いはずだ。ケイ、他に情報はないのか」

 

「今のところは以上だ。きゃつらの動きの不可解な点として毎日こちらへと接近するのだがすぐにカレドニアへと引き返す」

 

「それってこっちが動きを把握しているかどうかを確かめていたんじゃない?魔女の出現場所に毎回こっちが顔を出していたら流石に魔女も気がつくと思うよ」

 

「陽動・・・」

 

 

ふとティルフィングが眉を曲げ考え込む仕草を見せた。

 

 

「余も陽動だと思う。将軍」

 

「はい、敵はこちらの動きを見ていたで間違いないと思います。敵の狙いはキラーズによる探知の把握かと。キラーズで探知されているのならキラーズを捨てれば良い」

 

「ローマの将軍の意見に賛成ね。こちらは魔女達の狙いにまんまと嵌められキラーズしか見ていなかったわ」

 

「グリードから奪われたキラーズは脱着が可能なのか?」

 

「それは分かりません。私もキラーズを奪われるのは初めての事なので。この一ヶ月間私達はキラーズを追っていた。もし脱着ができるのであれば一杯食わされましたね」

 

 

グリードの発言の後、円卓の間は沈黙に包まれた。

 

 

「なら魔女は何を企んでいるんだ。魔女の目的が一向に見えてこない」

 

「大方こっちに攻めてくる準備でもしてたんでしょ。でもノワールの言う通り奴等の目的が全くと言って良いほど見えてこないね」

 

「魔女の人数は8人。それぞれが私のキラーズを持っています。もしキラーズの脱着が可能だとしてキラーズをライエンス王にでも渡せば1人は監視の目を逃れる事ができる。監視の目を逃れ自由となった魔女のすべき事・・・」

 

「分かったわ!監視の目を逃れた魔女はご飯を食べてたのよ」

 

 

名案を思い付いた様な笑顔のギネヴィアに誰も言葉をかける事はなく再び円卓の間に沈黙が流れた。

 

 

「ちょっと!ちゃんと私の話を聞いてよね。さっき盗賊や残党の被害が無いって言ってたわよね?それはそいつらを魔女が食べちゃったから被害が無くなったってわけ」

 

「なるほどな。新たにバルバロイを作り出す為の腹拵えをしてたというわけか」

 

「そうそれ!ローマの皇太子様は私の言いたい事理解してくれたのね」

 

「余の妻となる女の戯言だ。理解せねば余の身がもたん」

 

「うぅ、、今なんかゾワってしたんだけど、、」

 

 

ギネヴィアに向けられたルーシャルの笑顔を見てギネヴィアは思わず目を背けていた。

 

 

「その聖杯を起動させるのには妖精の血が必要なんだよね?」

 

「そうだが」

 

「それ以外の方法で聖杯を起動させる事はできないのかな?」

 

「それは儂にも分からぬ。聖杯は神秘に満ちた器。まだ儂達の知らぬ仕掛けもあるかもしれんぬ」

 

「私にも妖精の血を注ぐ事以外の起動方法は知りません。もし、魔女達が他の起動方法を知っていたなら」

 

「ここに攻めてくる事は間違いないよね。この国が今一番やられて嫌な事は何?」

 

「今最も重要な事は妖精と聖杯を魔女達に奪われる事だ。そして次が継承者であるノワール、その武器であるティルフィングの死。この四つどれもが欠ける事は許されない」

 

「戦いにおいて勝つ為には相手の嫌がる事をするのが一番の近道。魔女は必ずそれらへと襲い来るはずです」

 

 

グリードの言葉の後、円卓の間を塞ぐ扉が開き多くの目線が向けられるがそこには人の影一つとして無かった。

 

代わりに誰にも気付かれる事のない無色の進撃が一直線に伸びてゆく。

 

 

「ぬぅ!!」

 

「お爺様!!」

 

 

突如ペレスが呻めき身体が宙に浮いたと思うと落下しガラハッドに抱き止められペレスが居た空中には蒼く輝く聖杯が浮かぶ姿があった。

 

 

「ティーティン!!」

 

「呼んだかな異国の騎士。混ざり物がなければ誰も私に気が付かないよー」

 

 

一瞬、空中には聖杯を抱く魔女の姿が映り、それは瞬く間に景色と同化する様に姿を消そうとする。

 

 

「聖杯はもらってゆくよ。そして、明日の朝に私達はログレスへと攻め込む。残り少ない学院生活を思い残す事のない様に楽しみなよ」

 

「イゾルデ!!」

 

「えぇ!」

 

 

ケタケタと笑うティーティンに向かい矢が放たれるが掠める事すらなく矢は壁に突き刺さる。そして、ティーティンは完全に身体を透明化させ姿を消した。

 

 

「出口だ!魔女をここから逃すな!!」

 

 

ブルーノの叫ぶ指示に騎士は出口へと直走り出口で武器を構え並ぶ。そんな騎士を嘲笑う様に甲高い笑い声が響いた。

 

 

「ばいばーい間抜けな騎士さん」

 

 

笑う声の後、硝子が割れる音が響きまんまと逃走を許してしまう。円卓の間には誰かの歯軋りが聞こえた。

 

 

「ペレス様、大丈夫ですか」

 

「あぁ、しかし聖杯が奴等の手に渡ってしまった。このままでは、、」

 

「しかしこちらにはまだ妖精が居て継承者とその武器があります。皆、気を落とすな!魔女達は明日の朝ここに攻め入ると言っていた!ならば迎え討ち聖杯を取り戻せば良い!」

 

「我々もきゃつらもこれが最後の戦いになると知っている!皆それまでに英気を養い戦いに挑め!」

 

 

ケイの言葉を最後に騎士達は円卓の間を後にした。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

一行は講談室へと集まって居たがそこに言葉を発する者はおらず深く沈黙をしていた。そんな時、ノワールが呆れた様に笑い一同の目線が集まった。

 

 

「俺は、、聖杯が奪われた時心の何処かで喜んだんだ、、聖杯さえ無ければ俺は母さんを殺さなくてすむって、、」

 

 

ノワールの懺悔の言葉に誰1人として言葉を返す者は居なかった。

 

 

「たが、ティルフィングを再び封としたところで長く封は持たないのだろう。またいずれ戦いが訪れる事になる」

 

「ならランスロットは俺に母さんを殺させる事を望んでいたのか!!」

 

 

座り込んでいたノワールは立ち上がりランスロットへと詰め寄り胸ぐらを掴み言葉を叫んだ。

 

 

「ノワール。俺はそんな事望んではいない。ただ、騎士としてこの国を護る責務がある。お前だってそうだ。騎士として、いや、円卓の騎士として」

 

「だからって!!」

 

「もうやめて2人とも!!こんな時に喧嘩をしないで!!」

 

 

ランスロットを掴む手を解きディナタンが2人の間へと割って入り2人の顔目掛け平手を打った。2回乾いた音が響きまた講談室には沈黙が流れてゆく。

 

 

「誰だってそうだよ誰も犠牲になんてしたくない!母さんもティルフィングさんだって。みんなで仲良くお喋りをして笑って楽しい事をして毎日を過ごしていたい。そんな簡単な事なのに、、」

 

 

静かな部屋にディナタンの啜り泣く声が。3人を見ていた目線は外され講談室を泳いでゆく。

 

 

「ティルフィング。あなたを封として何年持つのでしょうか」

 

「マスターとGSを果たしたとはいえ大凡百年程かと」

 

「百年か、、」

 

「俺、思ったんだけどよ。なんでみんなそんな事考えてるんだ?明日魔女達が攻めてくるんなら勝った後の事考えようぜ」

 

「そうだね、そうだよ!じゃあ私は手芸教室開いて毎日色んな人に手芸の事教えてあげたいな」

 

「なら私はキャメリアードに温泉宿を建ててもう一度キャメリアードの名を世界に轟かせるわ!そしたらみんなうちの宿に招待してあげる♪」

 

「私はバルバロイに殺された両親のお墓参りに行くよ。もう覚えている事はないけれどちゃんと手を合わせないとね」

 

「じゃあ僕はログレスオオナマズ釣りたいな。また行こうよガウェイン君」

 

「良いなそれ!なぁノワール。お前にはなんか無いのかしたい事とかさ」

 

「俺は、、そうだな。魔女達を倒したら世界を回ってみたい」

 

「ユウ!その前にボク達をお前の故郷に連れて行け!アステラが異国の酒が飲みたいってうるさいんだ」

 

「あははー♪みんなーまだ時間も早いし美味しいご飯が食べたくはないかー?」

 

「美味しいご飯腹一杯食べて明日に備えるんだ!」

 

「よっし!俺も手伝うぜガレス!」

 

「なら僕も」

 

 

ガウェインの一言で不穏な空気は吹き飛び講談室には笑顔と笑い声、そして料理の匂いが漂い始め。

 

 

「お待たせしました。エールを二十ダースとジュースを十ダース買ってきましたよ」

 

「買いすぎだって・・」

 

 

そしてグリードが持ってきたエールとジュースの山を見てゲラゲラと笑いながら食事会が始まった。誰もが未来へと思いを馳せながら団欒の時間を過ごしてゆく。

 

 

 

8月21日/最終決戦

 

 

 

その日の明朝に騎士達は前庭へと集っていた。騎士だけではなく学院の生徒、ローマの兵も武器を携えその場へと集いその場の空気は呼吸すらままならない程に張り詰めている。

 

 

「皆、おはよう。これより魔女達との決戦が始まるが無駄に命を落とす必要は無い。何かあればすぐに逃げろ。そして、いつかまたこの国の為に立ち上がり武器を握って欲しい」

 

 

アーサー王が挨拶を終えると息を切らせながら1人の兵士が走り込み報告を伝えた。

 

 

「報告します!ログレス城南部にて魔女達の姿を確認!大勢のバルバロイを携えこちらへと向かって来ています!!」

 

 

兵士の報告を聞き騎士はログレス南へと向かい城門を抜けた先に広がる草原へと来た。そして何千ものバルバロイを率いる魔女の軍勢と対峙した。

 

 

「これはこれはログレスの王だけではなくローマの皇太子様も我等の出迎えに参られるとは恐れ入る」

 

「あぁそうだとも。お前の首を拝む為わざわざ連れて来たんだ」

 

「その心意気に感謝の意を評しお前達に世界の終焉を見せてやろう!」

 

 

ライエンス王が懐から聖杯を取り出すと地面へと置きニヤリと笑った。そして魔女達の笑い声と共に空間に穴が開くと雪崩の様に人が落ちてきた。穴からの落下はしばらくしても止まず人の山が出来上がるとようやく穴は閉じていった。

 

 

「これは、、!?」

 

「お前達の監視を掻い潜り探し出した人の群れ」

 

「一千の人々の血は聖杯を満たし」

 

「我らの願いを叶えたまう」

 

「我らは願う」

 

「この地をバルバロイで埋め尽くし」

 

「産めや増やせや悪魔の宴」

 

「やがてこの地はバルバロイのものに」

 

「さぁ、宴を始めましょうか」

 

 

モーロノエーの言葉を合図に人の山へと向かい魔弾が放たれ蠢く人々を焼き尽くしてゆく。8人の魔女から放たれる魔弾は人々を殺戮し混じり合った血が川を形成し聖杯へと注がれてゆく。

 

 

「聖杯を起動させるのは妖精の血だけでは無い。一千の人々の血でも聖杯は起動するのだ!」

 

 

ライエンスが叫ぶと同時に聖杯は紅く輝き聖杯の起動を祝うかの様に空には暗雲が立ち込め雷鳴が轟く。

 

 

「来るっ!!」

 

 

誰かの叫びの後、聖杯から大いなる白竜が姿を現した。

 

 

「この世界をバルバロイの手にぃ!そして、乱れた世界を正す時がきたのだ!!」

 

 

 

8月21日/帰郷

 

 

巨大な竜の出現を見た後、2人は自宅に居た。

 

 

「えっ?ここって」

 

「私達が住んでいるアパート、、」

 

 

ログレスで魔女達との決戦の戦列に並んでいた2人は瞬きの刹那の間に自宅へと戻っていた。理解ができない現象に2人して悩み答えを探していた。

 

 

「あっアルマス達綺麗に使ってくれてたね」

 

「本当ですね」

 

 

約四ヶ月前に異族討伐を頼んだアルマスの姿は無く家は綺麗に保たれており安堵の声が。

 

 

「そんな事よりも私達がここに戻ってきた理由です。きっとあの時現れた竜が原因なのかと」

 

「だろうね。なんか世界を正すとか言ってたし。あの場所から弾き飛ばされたみたいな?」

 

「あの世界に置いて私達はイレギュラー。言ってしまえば不純物」

 

「そう言われればそうだけども。とりあえず早く戻らないと」

 

 

 

2人は急ぎラグナ教会へと行きキャメリアード行きのチケットを買おうとチケット売り場へと来ていた。

 

 

「な、無い!」

 

「キャメリアード行きのチケットが、、」

 

 

並べられた旅行先のどこを見てもキャメリアードという名前は無かった。見落としでは無く最初からキャメリアードの名前が無かったかのようにスッポリと消えている。これはログレスが敗北し歴史が変わった事を示す。

 

そうなれば2人に参戦する術は無い。が、マーリンと同じく転移魔法を使える人の存在を思い出し2人は千年王国へと行く事にした。

 

教会にある転送装置を使い2人は千年王国へと行くとティルヘルムに聳える城へと入ってゆく。

 

 

「オベロン様!」

 

 

乱暴に扉を開き城内へと入るとそこには三カ国の主が揃い付き人の姿がありディスラプターズの姿もあった。

 

 

「ユウ!それにグリードも!今は会議中なので静かにして下さい!」

 

 

会議中に雪崩れ込んだ2人をリルティルフィングが宥めようとするが2人は掻い潜りオベロンの元へと。

 

 

「僕達をログレスへと転移して下さい!」

 

「友が敵に攻め入られているのです!」

 

「2人とも落ち着きなさい。分かるように説明しなさい」

 

 

ケイオスリオンの主、ファイルノートに宥められ2人はやや落ち着きを取り戻し今までにあった事を話していた。

 

 

「あんた達旅行に行ったと思ったらそんな事に巻き込まれてたのね」

 

「そうなんだよ。それで魔女達との決戦の時、変な竜が出てきてこっちに戻されたんだ」

 

「へぇ。その戦い、ケイオスリオンも参戦させてもらうわ」

 

 

席から立ち上がり参戦を希望するのはフェイルノート。その横でパラシュが視線を向けた。

 

 

「戦いに出る事は構わないよ。それで、目的はなんだい皇帝」

 

「もちろん異国との貿易よ。それに観光に呼び込めばいい金儲けになるわ」

 

「あはは、、ユウさん、グリードさん!私達も戦いに参加しますっ!ねっ、シユウ、アフロディーテ!」

 

「もちろんです、異国の地に悪魔の愛を届けて差し上げますわ」

 

「シユウが大暴れだ!」

 

 

フェイルノートの後ろにカルマキラーズが並び立ち参戦を希望した。

 

 

「それなら天使の愛も届けなければいけませんね」

 

 

次に立ち上がったのはハルモニアの主、ティファレト。ティファレトが立ち上がると同時にセイントキラーズも席を立った。

 

 

「私は主の指示に従います」

 

「異国の地にも天使の慈悲を」

 

「セイントキラーズにお任せを♪」

 

「ゴー!トラベル!ヨハンから魔女達の名前を消してみせるよ」

 

「ならばこの、オーダーキラーズも助けに入ろう」

 

「人の死を利用する魔女はこのあたしが許さないわ!」

 

「戦場に風を、神風を吹かせましょう!」

 

「魔女達には制裁が必要なようですし。主様の指示さえあれば」

 

 

立ち上がったオーダーキラーズは主であるカシウスの指示を待つ。

 

 

「行きましょう異国の地へ。獣の力を轟かせに」

 

 

ゆらりと席を立ちカシウスは並ぶオーダーキラーズへと目線を向けた。

 

 

「ねぇねぇレーヴァ!私達も行こうよ!」

 

「はぁ、、分かったよ。行こうか」

 

「さすがレーヴァ。しかし魔女が相手では流石のヘレナも負けてしまいそうだ。クフッ」

 

「ユウ、グリード。魔女とバルバロイの事をもっと詳しく教えて。最適解を導き出すわ」

 

 

立ち上がったディスラプターズに二人は笑顔を見せた。

 

 

「私達も行きましょう!絶望を希望に変える信念を貫く為に!」

 

「正義のなのもとに悪を断罪だ!」

 

「私の知恵と力をお貸しいたしましょう。きっとお役に立ちますよ」

 

「じゃあおねーさんに命令して?戦って欲しいって」

 

「私も行く」

 

「私達の愛もみんなに届けてあげないとね♪」

 

「皆さん!勝手に行動しては行けませんよ!ちゃんと規則に従って下さい!」

 

「ユウ、グリード。私達も戦いに参加させてもらうわ」

 

「私達も絶・参戦するんだから!」

 

「私も行きます!アルマスには私が必要ですからね♪」

 

「オベロン様、ティルヘルムも戦いに参加します」

 

「私も、みんなの役に立ってみせるよ」

 

 

奮い立つ姫達の姿に良き友を持ったと二人は涙ながらに頷き合った。

 

 

「それで、そのログレスって場所にはどうやって行くのよ」

 

 

「オベロン様の転移魔法で私達をあの世界へ転移させて頂けませんか」

 

 

グリードの願いにティルヘルムの主であるオベロンは難しい顔をした。

 

 

「わしの転移魔法は確かにどの時代、場所にも転移させる事ができる。しかしそれはその場所の記録があればの話」

 

「記録?」

 

「その場所の縁のある物があれば魔法により解析し行き先とする事ができるのだ。それが無ければ行くとはできぬ」

 

 

そう言われ2人は互いにログレスから持って来た物を探すのだがユウは普段着でありグリードも戦闘服、異国の地から持って来た物は一つも無かった。

 

 

「ティルのキラーズは?魔女達が持ってたでしょ?」

 

「それがサフランに飛ばされた時に奪われたキラーズも与えたキラーズも私に返ってきているのです」

 

「まじか、、」

 

 

消えゆく友の事を思うだけで心は痛み悔しさのあまり血が出るほどに唇を噛み締め拳を握る。

 

 

「一つだけありましたよ。あの世界から持って帰って来た物が」

 

 

そう言ってニヤリと笑うと何かを取り出しオベロンへと渡した。

 

 

 

 

8月21日/異国の騎士の名の元に

 

 

 

白き竜は咆哮をあげそれを合図としたかのようにバルバロイの軍勢はログレス軍へと攻め込み両者はぶつかり合った。

 

円卓の騎士を中心としバルバロイへと武器を振るい討ち漏らしを兵士達が討ち取りながらの戦闘が続く。

 

 

「あっははは♪ほら、まだまだ増えるわよ♪」

 

 

白き竜の真下に描かれた血の魔法陣から無限の如くバルバロイは産み出されログレスへと進軍を進める。果敢に攻める騎士達であったがバルバロイ軍勢に押されやがて後退へと追い込まれてゆく。

 

 

「残念ねアーサー。異国の騎士なんかを頼りにしたばっかりに」

 

「あの二人は元の場所へと帰してあげたよ。歴史を正す為に」

 

「世界はバルバロイに飲まれ人類は飢えも渇きもない永遠の命を手にするわ」

 

「早く諦めて楽になっちゃいなよ」

 

 

ケラケラと笑う魔女達に目線すら合わせる事無く騎士達は反撃を続け、やがて軍勢はログレスまで押し返されていた。

 

 

「このままだとログレスにまでバルバロイが、、!」

 

 

これ以上軍勢が後退すれば民が避難する町が戦場となり多くの犠牲が出る。それを避ける為騎士達は再び奮い立つ。

 

 

「マスターっ!私を封に!このままでは、、、!」

 

 

軍の劣勢にティルフィングは継承者であるノワールへと叫んだ。このままの戦況では軍は壊滅し民はバルバロイの餌となりやがて世界中がバルバロイの手に堕ちるだろう。今ここで百年の猶予を作り軍を立て直せば希望は僅かにだが見える。

 

 

「あぁ」

 

こちらが劣勢なのはノワールも知っての通り。ティルフィングの提案を受けようやくノワールはティルフィングを封とする覚悟を決めた。

 

 

「みんな!俺に力を、時間をくれ!!」

 

 

ノワールの叫びに先陣に居たブルーノとランスロットは応えるかの様に周囲に犇くバルバロイを切り払い僅かな時間を作った。

 

 

「殿下が光っている、、?」

 

 

そんな時ギネマウアはギネヴィアが光り輝くのを見つけた。姉に言われ本人も光っている事に気が付きポケットを探り光る原因を探し、それを取り出した。

 

 

「これってグリードに貰ったコインじゃん!」

 

 

グリードと出会った時、グリードのコインと交換したコインが眩い程に光を放ちそれはギネヴィアの手を離れバルバロイの軍勢へと飛んでゆく。

 

 

そして、一際輝くとそこには木の幹が見えた。

 

 

「なによあれ、、」

 

 

コインの輝きと共に姿を現した木はログレスの城よりも高く聳える大樹。大樹はログレスとバルバロイの軍勢の間へと割って入る様に聳え立った。

 

突然の光景に戦う事を忘れ誰も彼もが大樹を見上げていた。

 

 

「ただいま」

 

「遅参しましたがこれより異国の騎士、戦列に加わります」

 

「おぉ!ログレスの一大事に遅刻とはやはり俺は人選を間違えていたようだ」

 

「遅刻のお詫びに友達を連れて来たよ。それで勘弁してもらえるかな?」

 

「皆、私に劣らない程の強さを持っていますが。謝罪の品には劣りますか?」

 

 

ふと一陣の風が吹き大樹は姿を消した。その場所には二人が連れて来たという友が並び立つ。

 

総勢30人のキル姫がログレスの地へと並び敵軍勢へと武器を向ける。その前へとユウは走り大声を上げた。

 

 

「魔女、そしてライエンスに僕からの提案がある!このままバルバロイと共にカレドニアへと帰って欲しい。そして二度とそこから出てくるな!」

 

 

ユウの声を聞いた魔女、そしてライエンスは堪え切れずゲラゲラと笑い見下す様に目線を向けた。

 

 

「面白い冗談だ若造。どうやってこの場へと戻り何を引き連れたのかは知らんがもはや止まらぬ!我が人生の渇望がそこに、手が届くところにあるのだ!!」

 

「そう言うと思ってたよ。僕はさ、戦うのは好きじゃない。だけど!進軍を止めないと言うのなら迎え討つ!みんなの力を貸して!!」

 

 

白銀に輝く剣を抜き天上へと向かい掲げた。それを合図にキル姫達は声を上げバルバロイ軍勢へと向かい斬り込んでゆく。

 

キル姫が戦列に加わった事により戦況は覆り劣勢だったログレス軍はバルバロイを押し除け白き竜まで軍を押し返す。

 

 

「ぬぅ!!」

 

 

若造と馬鹿にした男が連れ帰った兵によりバルバロイは壊滅しライエンスは地団駄を踏む。あと僅かで届くはずだった野望はことごとく砕け散り自身に残されたのは8人の魔女と白き竜のみ。

 

 

「どうやら俺達の勝ちの様だなライエンス」

 

「儂を殺そうとバルバロイは消えぬ。いずれこの地に這い出し再び世界を覆い尽くそうとする!」

 

「なら、私達はここに在中します。キル姫は永遠とも呼べる命を持つので。バルバロイが湧き出す度に全てを斬り伏せる」

 

「バルバロイはどうやったら消えるのよ?」

 

「えっと、消す手段は無いんだって。前はあっちのティルフィングが封印してたんだけど」

 

「ならまた封印しちゃえば良いのね?」

 

「う、うん。まぁそうだけど。なんか手があるの?」

 

 

アルマスへと問いかけると彼女は得意気に笑い以前ラグナロクと共に閉じ込められた世界の事を説明していた。

 

 

「あの、端的に言ってもらえますか?」

 

「絶・言えてるわよ!私がバルバロイとデウス・ファクターで繋がってその世界にバルバロイを封印する!ティニ!私に力を貸して!」

 

「はい!アルマス!」

 

『妖精結合!リンク・ティターニア!!』

 

 

アルマスが眩く光るとそこには蒼い羽を背に生やす姿が。蒼い翼で空へと浮かび剣を構えるとバルバロイ因子が空中へと浮かび上がりアルマスの掲げる剣へと吸い込まれてゆく。当然バルバロイ因子そのものである魔女達も吸われてゆくのだがグリードは吸われて行くモーロノエーの手を取った。

 

 

「私達を元の場所へと返さなければ勝てたかもしれませんね」

 

 

その一言だけ告げると手を離しモーロノエーは吸い込まれていった。

 

 

バルバロイが消え去りバルバロイ因子すら消えた今、草原で崩れ落ちたライエンス王へと向かいアーサー王は剣を構え歩む。

 

 

「待ってくれアーサー王!アニキを殺すなら俺にやらせてくれ!!」

 

 

悲願するライエンス王の弟、ブライアンを退け、アーサー王はライエンスの前に立った。

 

誰しもが結末を悟り一国の王の最後を見届けるように見守る中、アーサー王は剣を収め振り返った。

 

 

「諸君!バルバロイの王、ライエンスは死んだ!ここに居るのはカレドニアの王、ライエンスだ!この戦いでバルバロイは滅び世界の平和は揺るがぬものとなった!俺達はバルバロイに襲われ壊滅の危機に瀕しているカレドニアの繁栄の為、ライエンス王とは手を取り合うべきではないだろうか!!」

 

 

アーサー王の演説に一瞬の沈黙が流れ拍手の喝采が鳴り響いた。

 

 

「ライエンス王。今ならこの手を取ってもらえるのだろうか」

 

 

アーサー王の右手を震える両手が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





エンディングと後書き



バルバロイが封印され世界に平和が戻った後、学院の全ての人が前庭に集っていた。皆が集う前には学院長であるアーサーの姿があった。


「あえて語ろう胸を借りて。長きに渡るバルバロイとの戦いに終止符を打てたのはログレスの力だけでは無理だった。ローマ、コルベニック。そして異国の姫達。多くの力を借りようやく安寧を手にする事ができた。心から感謝をしよう。次に、我々はまた道を進まなければならない。全ての人が僅かにでも幸福になれるように。俺は至らない国王だ。また皆の力を借りる事になるだろう。その時はこの手を取ってもらえたら幸いだ」


国王の演説に拍手が鳴り響きアーサー王による祝辞は終わった。しばらくしてアーサー王はノワールの元へと来ていた。


「学院生活はどうだった」

「楽しかったよ。毎日が」

「それは良かった」


向けられた笑顔に笑顔を返した時、二人の前にティルフィングが歩み寄り深々と頭を下げた。


「お話のところ失礼します。学院に退学の届けを出したいのですが」

「どうしたいきなり。不味い飯でもあったのか」

「いえ、学院のご飯は全て美味しかったです。私は一千年前の思い出を探す旅に出たくて。こうして戦乱を終えた世界に武器は不要ですから」

「そうか、なら俺は止めん。しかし旅に行き詰まったらいつでも戻って来い。だから退学届けではなく休学届けなら受け取ろう」


王の笑顔にティルフィングは笑顔を浮かべた後、深々と頭を下げた。


「ティルフィング、その旅に俺もついて行って良いかな。俺も世界を巡り歩きたいんだ」

「はい、良いですよ」


それからしばらくが経った時、二人は多くの騎士に見送られながらログレスを出た。


「そうだ、マスター。私の本当の名前」

「名前?」

「はい、ティルフィングという名は武器の銘。私の本当の名前は・・・」


ティルフィングが名乗った時、強い風が吹き言葉は風に乗りノワールに届く事はなかった。


二人は過ぎ去った風を追いかけるように歩み始めた。



それからしばらくの時が流れ魔女達に破壊されたコルベニックの城は再建されバルバロイによる被害を受けた町も再建が進みようやく復旧の目処が立った。僕達も何度もログレスやコルベニック、キャメリアードに足を運び工事を手伝ったりと多忙な日々を過ごしていた。

そんな今日も工事の手伝いをし、家へと帰って来たあとだ。


「あーあーっ疲れた」

「明日は休みですからゆっくりしましょうか」

「そうだね。次に向こうに行く時は本当に温泉旅行になるといいな」


あの時記した鉱山の地図をもとにミネルヴァが調べ本当に温泉を発掘したようで源泉掛け流しの温泉が近々オープンするらしい。


「ティルと離れ離れになった時はどうなるかと焦ってたけど全部解決して良かったよ」

「本当ですね。それに友達も沢山できましたし良い旅行となりました」


帰り道に買った惣菜をテーブルに広げ食べようとした。そんな時、玄関のドアをノックする音が聞こえた。


「来客でしょうか」

「誰だろ?見てくるね」


箸を置き返事をしながら玄関へと行きドアを開けるとそこには魔女達の姿が。


「夕食時にこんばんわ。いつかの雪辱を晴しに来たわ」

「封印解けるの早くない?」

「そういえばアルマス達もそんなに長い事封印されずに帰って来てましたね」

「そういえばそうだったね。まぁ、立ち話もなんだから家入ってよ」

「あの、、少し反応が薄くありませんか、、?」

「気にすんなって」


なんだかんだ魔女達を家へと招き入れ話を聞く事に。ざっくりと聞いた事を話すとこの世界をバルバロイの物にしよっかなーって。


「どうします?アルマスに頼んで向こうに送り返しますか」

「それみんな泣いちゃうからやめよ?君たちの目的は分かったけど僕達としては面倒事が増えるからやめてもらいたいかな」


そう言うと困った顔を浮かべられた。そんな事よりも魔女達の衣装が派手なのでカーニバルのダンスを見ているような不思議な気分になる。


「なんか、、色々と説得が雑ではありませんか、、?」

「そうだ、このアパートはまだ部屋が空いているのでここに住みませんか?仕事も私達が紹介しますので」

「とりあえず明日だね。お腹空いてるならご飯買いに行こうよ」

「なら食べに行きませんか?」


そんな訳で魔女達8人とご飯を食べに行く事に。かなり露出が多い服を着て仮面を付けている魔女達だがキル姫の衣装も個性が強い物が多いので結構この場に馴染んできた。


「へぇ、、なんだかいい国ね」

「そうなんだけどたまに異族って魔物が出るからそれを退治する仕事があるんだよ」

「それを魔女達には受けてもらいます。良い金額にはなるので生活に不自由する事はないと思いますが」


なんだかんだで良い返事がもらえ運ばれて来たビールで乾杯する事に。


「じゃあ、新しい世界と友達に乾杯!」




ここまで目を通してもらい本当にありがとうございました!今作はアスタータタリクスと黒ティルと僕とのコラボ作品として気合を入れて書かせて頂きました!

本当は全く書く気はなかったのですがファンキルのギルドメンバーに書いて欲しいと言われ書き始める事に。気が付けば文字数は17万字近くまで増え二年の歳月の間書き続けていました。

初めてここまでの長文を書き文がチグハグになったり、後半は文字数が気になりぐだぐだになったりとSSを書く楽しさと苦悩に苛まれたり。

それでもこうして物語を完結させる事ができて良かったです。


最後になりますがここまで目を通してもらい本当にありがとうございました!また別の作品も目を通して頂けると幸いです。


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