※この作品はR-18です。

シンフォギアの消えた世界で H EROVer   作:現実の夢想者

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ある意味カラオケ回……なのですが……(汗

今回只野が歌うとある二つの楽曲は、アニメ・ゲーム系イベント司会者としても有名で主にラジオパーソナリティな方の物です。


ドライディーヴァのシークレットライブ開幕

「へぇ、こんな風なんだ」

「意外と綺麗なのね」

「広さもあるな。ん? これは……案内板?」

「え? どれどれちょっと見せてよ」

「ここは……洗面所ね。じゃあ奥がバスルームかしら?」

 

 キャイキャイとはしゃぐドライディーヴァを眺め、俺はどうしてこうなったと遠い目になっていた。

 現在俺達はとある宿泊施設にいる。まぁ所謂連れ込み宿と昔は呼ばれていた場所である。

 

 事の始まりはあの三人での飲み会後のピロートーク……と言っていいのか分からないが、そこでのやり取りだった。

 

――また三人の歌が聴きたいなぁ。

 

 俺がそう何気なく呟いた瞬間、腕の中で三つの頭が動いてこっちを見つめてきたのだ。

 

――いいけど、どっちの店?

――出来れば私としては違うお店がいいわね。

――今なら車もあるから可能か。ねっ、仁志さん、ダメ?

 

 で、それを受けて色々探してみたのだが、まぁある程度の差はあれどカラオケである以上限度がある訳で、奏と通信でやり取りをして意見を求めたところ……

 

――あっ、そういえばあの時仁志言ってたよね。ラブホテルってカラオケもあるって。

 

 そう、それはあのドライディーヴァによる4P未遂事件の時の事。

 三人が俺を騙してアパートへ呼び出し、そこでセックスしようと試みた時の思い出だ。

 

 あの時、俺は何とか三人とのセックスを回避するために様々な手段を講じた。

 その際、某激安の殿堂へ行った後の帰り道でラブホテルを見かけた時、恥ずかしがりながらも誘ってくる三人を相手に俺は運転中だと突っぱねたのだが、そこを通過した後の赤信号でたしかにそういう話をしたのを覚えていたのだ。

 

 もう肉体関係を持ってしまい、しかも複数での性交を経験した事もあってかマリアや翼もラブホテル見学を兼ねたカラオケに賛同し、現状と相成っていた。

 

 ただ、昼前からラブホってのもどうかと思うんだよなぁ。

 まぁ目的はある意味で本来の方向じゃないからいいんだろうけど。

 

「じゃ、早速カラオケ?」

「フードメニューもあるみたいよ。あら、意外とちゃんとしてるのね」

「ベッドサイドにスイッチがいくつもあるな。照明用、にしては数が多すぎるが……」

 

 ふと気付けば既に奏とマリアがソファへ座り、翼はベッド周りを調べていた。

 何というか、俺がやりたい事を先んじて三人にされているな、これ。

 

 とまぁ、こんな感じで始まったラブホでの一時だったが、やはりギアを展開しアイドルギアとなった後は違った。

 

「それじゃプロデューサーさん? 今回の歌はどういうコンセプトがいいのさ?」

「一曲目や二曲目とはまったく違う感じがお望みかしら?」

「それとも似たような感じ?」

「そうだな……」

 

 つい最近アイマスを見直したようなものなので、俺もPの端くれとして本気で考えてみる事にした。

 と、すぐに一つアイディアが浮かんだ。何も難しい事はない。三人の中での“アイドルらしさ”をイメージして歌ってもらおうと思っただけだ。

 

「アイドルらしさ……ねぇ」

「簡単なようで難しい事言うわね、プロデューサーは」

「難しい?」

「そうだよ。私達は活動こそ近しいものがあったけど、ツヴァイウィングは別にアイドルって認識でやってなかったし、マリアだって認識はアーティストだったと思うから」

「成程なぁ……」

 

 言われてみれば当然だ。翼もマリアも奏さえも自分達はアイドルだと思って芸能活動してなかっただろう。

 アーティストとアイドルは同じエンタメでも異なる世界だ。特に三人は歌姫とまで呼ばれる地位まで駆け上がった存在だしな。

 

「じゃあ、ちょっとアイドルの空気感や雰囲気を掴んでみてくれないか?」

「「「え?」」」

 

 習うより慣れろ。これがこの三人には適してる気がする。

 そう思った俺はカラオケの機械を使って歌えるアイマス曲を色々聞かせてみる事にした。

 そうする事で三人の場合“アイドル”というものを感じ取ってくれると思ったのだ。

 

 たった一度しか聞いていない曲の根底に宿るものを感じ取ったり、有線で流れてた懐メロを短時間で覚えて自分のものにしてみたりと、その道で報酬を得ているプロの片鱗を見せてきた彼女達ならと、そう考えて。

 

 あの海水浴に行く途中で切歌達が歌ってくれた“READY!!”などの所謂アイドルらしさが強く感じられる歌を唄っていく。

 男なのでキーは合わないが、それでも俺なりに765アイドル達っぽく明るく笑顔で歌ってみたつもりだ。

 

 するとやはり曲の途中から三人もサビだけ参加してきてくれた。

 けれど、そんな三人が最後まで参加する事なく聴き入った歌があった。

 

 その曲名は“M@STERPIECE”というもので、劇場版のライブシーンで歌われるものだ。

 まさしくアイドルマスターという作品を象徴する楽曲であり、その歌詞はアイドルというものを目指し走り続ける事への答えが詰まったものだ。

 

「……夢は自分を叶えるために生まれた証、か。あの時は歌詞が表示されてなかったけど、こうやって実際見てみると……」

「何と言うか、こう……胸に刺さって、こみ上げてくるものがあったわね」

「アイドル、か。どこかで軽いものに思っていたかもしれないな、私は。アイマス、だったか。月読達が映画以外も見たと言っていたが、私も詳しく見てみたくなってきた」

 

 歌い終わった後、三人の歌姫は若干瞳を潤ませていた。

 これはアイマスを追いかけている人にも強く刺さるんだよなぁ。

 俺もPとして古参じゃないけど、これを聞いた時は泣きそうになったぐらいだし。

 

 そしてドライディーヴァはそこからM@STERPIECEを歌い始めたのだ。

 アイドルではないが歌を唄い舞い踊る事をしてきたからこそ、彼女達もその歌へ共感出来る事があったからだろう。

 

「……すげぇ」

 

 衣装もあってか、三人でのマスピは凄かった。一瞬だが765アイドルが目の前にいるような錯覚に陥ったぐらいだ。

 ラブホの一室がまるでアリーナになったかのような感覚になり、俺は歌い終わるまで何も出来ず、ただただ三人のライブに圧倒され、気付けば涙が出ていた。

 

 奏も翼もマリアもその隣にいるべき相手を失いながらも歌い続けていると、そう思ったからかもしれない。

 彼女達も表からは分からない傷や影を持ちながら、それでも明るく笑顔を見せている。

 それは、アイドルと言えるかもしれないと考えたからかもしれない。

 

 とにかく俺はこちらを見て驚く三人へ拍手を送った。それが一番の賛辞だと思って。

 俺の貧困な語彙では言い表せない何かが今の歌にはあった。だから感謝を伝えるにはそれしかなかった。

 

「仁志、貴方泣いてるわよ?」

「そんなに良かった?」

 

 笑顔でこっちへ声をかけてくるマリアと奏だけど、そんな二人もどこか泣きそうに見える。

 きっと歌っている内に楽曲の世界へ入り込んでしまったんだろう。だから彼女達も涙が零れそうなんだ。

 

「ああ……とても良かった。原曲を初めて聞いた時もそうだったけど、三人のこれまでを思い出すと余計に、さ」

「仁志さん……」

 

 本音を告げると翼が嬉しそうに優しく微笑んだ。それが千早のように見えて余計胸にくる。

 そんな俺を見て奏が他の二人へ視線を向けた。

 

「マリア」

「何?」

「翼」

「どうしたの?」

「今なら、歌えるんじゃないかな。アイドルらしい歌」

「……そう、ね」

「うん、歌えると思う。アイドルも歌手も同じ歌い手だ。なら、私達と違いなんてないから」

「よしっ!」

 

 笑みを見せ合ってドライディーヴァが頷き合う。その光景は、俺にはとても尊いものに見えた。

 根幹世界でも奏の世界でも見れない、見せちゃいけない組み合わせ。だからこそ、この三人のユニットは特別感が薄れない。

 俺がプロデュースした最初のユニットなんだと、そう思うと余計にそう感じる。

 何もしてないに近いけどそれでもこれだけは言える。ドライディーヴァは最高だって。

 

 アイドルギアから音楽が流れ始める。これまでの二曲とは違って、明るく楽しげな、アイドルソングらしい曲調のものが。

 

「「「イェーイっ!」」」

「っ!?」

 

 まさかのスタートに思わず目を見開く。満面の笑顔で三人がその場でジャンプしたのだ。本気でアイドルみたいだぞ、おい。

 

「朝起きたら最初にするのは、アクビでも伸びでもなくてスマホのチェック」

「しかもそれをしながらベッドを抜け出し鏡の前でスマイルチェック」

「何かをしてから何かをやる。そんな暇は私にないのよ。いつでもマルチタスクが基本なの」

「お~……」

 

 凄い。あのドライディーヴァが本当にアイドルのような笑顔と唄い方で歌を、それもアイドルっぽい歌を唄ってる。

 歌詞もどこかでそれぞれの実体験を入れているのかありそうだと思うような内容で、俺はその未知なる楽曲に夢中となっていく。

 

 表情をコロコロ変えて歌うドライディーヴァは本当にアイドルだった。

 どこかにいそうなアイドルを思わせる歌と相まって、本気で可愛さ全開の彼女達は新しい魅力を見せていたんだ。

 

「「「ステージに立てばそこは煌めく世界! 誰もが私へ夢中になるの!」」」

 

 サビらしき箇所ではそれぞれが俺へアピールをしてきた。

 奏は投げキッスを、マリアはウインクを、翼は笑顔で手を振ってきた。

 何というか、それさえも彼女達なりのアイドルらしさなのかと思うと胸が熱くなる。

 

「「「輝くサイリウムの海と響く声援が私のステージを彩るわ!」」」

「翼~っ! 可愛いよ~っ!」

 

 そう言われたら声援を送らずにはいられない。

 まずは翼。すると翼はそれに驚きながらも嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「「「もっと輝け私っ! まだまだこんなもんじゃないっ!」」」

「奏~っ! 輝いてるぞ~っ!」

 

 奏はそれに自慢げな笑みを見せて手を軽く挙げる。

 

「「「いつだって最高(いま)更新して(こえて)くんだからっ!」」」

「マリア~っ! 綺麗だ~っ!」

 

 マリアはそれに微笑み、小さく手を振った。

 

「「「だから私をずっと見ててね!」」」

「ずっと見てるよ~っ!」

 

 ホント、アイドルのライブに来てる気分だ。サイリウム、本気で欲しいぞ。

 そんな感じで最後までやったもんだから、歌い終わった後はぜぇぜぇだった。

 ぐったりする俺を見ただろうドライディーヴァが楽しそうに笑うのが聞こえて、こっちは嬉しいやら情けないやら複雑だったけど。

 

「あ~っ、何だかさ、楽しかったな」

「そうね。歌う事のない歌だったから新鮮だったし」

「あんな風に観客と一体となってステージをやれるなら、アイドルというのも悪くない」

「そうだね。しかも、本当なら何百何千って人数がアレをやってくれるんだろ? テンション上がる~っ!」

「ふふっ、そうでしょうね。仁志一人でもかなり気分が高揚したもの。あの感覚は初めてだったわ」

「些か恥ずかしくもあったが、だからこそ嬉しくもあったな。可愛いとライブ中言われたのは初めてだったし」

 

 まるで楽屋みたいだななんて思いながら、俺は聞こえてくる会話に耳を傾ける。

 三人の歌姫は初めてのアイドルソングにそれぞれなりに興奮しているようで、その会話が途切れる事はなかった。

 俺が回復するまで三人はこっちでアイドル活動をしてみるかという話題で盛り上がり、そのための参考として次々とアイマス関連の曲をカラオケで流し始めたのだ。

 それはまるでサークルのようなノリだった。アイカツサークルとでも言うのだろうか? 三人はそんな明るく楽しげな雰囲気で話していた。

 

 一人一杯目は無料のドリンクで喉を潤した後は、再度胸の歌でのアイドルライブ。しかもそれぞれのソロでの挑戦だった。

 最初に翼。次に奏でマリアと続き、ツヴァイウィングでの挑戦もあればマリアと奏や翼とマリアなどもあった。

 

 そこで何かユニット名を付けてくれと頼まれたので、マリア&奏は“Ever Amore(ずっと愛して)”と名付けた。由来はイヴと天羽から。なので本当は“Amoure”としたかったけど、それじゃ格好がつかないのでそうした。

 翼&マリアは“エクリプス”だ。これは日蝕や月蝕の蝕を意味するので分かり易い。翼は月でマリアは太陽をイメージさせるから、互いが重なり合う事を意味する言葉を付けた。

 

「意外と仁志にしては考えてるね」

「おい」

 

 俺がユニット名の由来や名付け方を教えると真っ先に奏がそう言った。

 けどマリアや翼も苦笑するだけだったので、二人も似たような感想だったと察した。

 

「ごめんごめん。でも、何だか本当にプロデューサーみたいだよ。マリア、どう?」

「ええ、いいと思う。こっちでしか活動出来ないのが残念なぐらい」

「私は出来なくはないが、色々厳しいだろうな」

「そうだなぁ。翼とマリアは所属するレーベルも違うし、奏とは世界が違うからな。大体同時稼働自体が難しいし」

「そういう問題……か?」

「……そうね」

「だな」

 

 小さく笑っているマリアと翼に俺と奏も感化されるように笑みを浮かべる。

 ああ、うん。あの頃は戦姫絶唱シンフォギアを消されないための動画配信だった。でももうそれは必要ない。

 なら、これからは三人が本当にやってみたい事をしてもらえばいい。それぞれの世界ではやり難い事や出来ない事も、イメージに合わない楽曲なんかも関係なく歌ってもらうんだ。

 

 こっちではドライディーヴァは自由だ。好きな歌を唄い、好きな事をしていいんだから。

 

 そう伝えると三人が一瞬驚いた顔を見せて、すぐに嬉しそうに笑顔を返してくれた。

 

「なら……」

「そうだね……」

「改めて言わないと……」

「はい?」

 

 三人で目配せして小さく頷き合うと、彼女達はこっちへ顔を向けて……

 

――これからもよろしく、プロデューサー。

 

 と、そう言ってきた。ズルいだろ、それ。格好も相まってマジで自分がそういう存在って思えてきたんだけど……。

 

「……こちらこそ、よろしく頼むよ。えっと、出来る事なら末永く」

 

 おかげでこみ上げてくるものがあったので、それを必死に抑えて若干テンパりながらそう返す事しか出来なかった。

 そのせいで三人には笑われてしまったけど、これが俺であり俺達なんだと思えて俺も最後には笑っていた。

 

 ひとしきり笑った後、俺は三人に断って一曲歌う事にした。

 その曲名を見て三人が息を呑んだ、ような気がした。

 

「ILOVEYOUのある世界……」

「ラブソング、よね、きっと」

「以外にあるか? このタイトルでさ」

 

 難しい譜割の歌だけど、俺の気持ちを伝えるのにこれ程ピッタリな歌はない。そう思って俺はマイクを握る。

 

 俺がこの歌を知った経緯は話せば長くなるので短くまとめると、以前アニラジを聞き漁っていた頃があって、その時に見つけたとある番組のパーソナリティの一人がアーティスト活動もしていた。

 その人のトークなどが気に入って、試しにと動画サイトで検索して見つけたMVからのリンクだ。なので最初に知ったのはこれではない。けど、これも刺さった歌なんだよな、色々と。

 

 まぁ、まさか自分がこの歌みたいな出来事を経験するとは夢にも思わなかったけどな。

 

「Change My Life」

 

 あの日、響と出会って変わり出した俺の日々。それはこの歌に重なるところがある。

 それまで俺は俺に冷めていた。俺自身を諦めていた。そこへ熱というか、光を与えてくれたのがみんなだった。

 心の持ちようで人はヒーローになれる。それを思い出させてくれて、そして信じてさせてくれた。

 誰かを想い、守りたいと強く願う気持ちを与えてくれた。愛を、俺に教えてくれたんだ。

 異性愛じゃなく、それはきっと広義の意味での“愛”だったはずだ。装者のみんなへもエルやヴェイグへも俺は同じ想いを抱いていたのだから。

 

 ありったけの想いを込めて歌う。上手く歌うなんて考えず、俺の気持ちを三人へ伝えるように。

 

 あの悪意との戦いの日々で抱いた愛は君達からの熱で少し変わっていった。

 親愛だけだった気持ちに異性愛が混じってきた事で。それはともすれば悪意へ付け込まれる危険性の高い感情だ。だけど、それは止められなかった。

 どれだけ抑えようとしても、殺そうとしても、俺はまだ枯れた年齢じゃなかったしそういう欲求がない人間でもなかったから。

 

 だけど、最後の一線だけは越えないようにした。それが出来たのは俺が強い人間だったからじゃない。それをする事で守りたい大切な人達を悪意が操る事が嫌だったからだ。

 その危険性がなくなった途端、俺は一気に駄目になったのがその証拠。みんなへスケベな手出しをするようになり、気付けば九人の装者全員と肉体関係を持ってしまっている。

 でも、だからこそ俺はあの頃よりも強くならないといけない。体は無理でも、せめて心だけでも最強を目指すんだ。

 

「ILOVEYOUのある世界へぇぇぇぇぇっ!」

 

 例え何か起こってみんなと引き離されたとしても、もう俺は俺を諦めない。必ず世界の壁を越えて迎えに行ってみせる。

 それぐらいの覚悟と決意を抱いて生きていくんだ。ハーレムなんて俺には分不相応だろうとも、諦めるぐらいならあの夜手を出さずに頭を下げればいいんだからな。

 今まで欲張らずに生きてきたんだから、ここから少しぐらい欲張ってもいいさ。欲望とはある意味で生きる活力だ。なら、それを良い方向へ転がしてやれればいいだけだ。

 

「……ありがとう」

 

 歌い終わり、曲も終わったところで色んな意味でそう告げる。

 三人はこっちを見つめたまま沈黙を守っていた。けれど心の声は表情で読み取れた。

 何故なら三人揃って瞳を潤ませて微笑んでいたから。それも翼は両手を胸の前へ置いて、奏は片手で口元を隠しながら、マリアは両手で自分を抱き締めるようにして。

 

「もしよければもう一曲いいかな?」

 

 無言で頷く三人に笑みを返して俺は同じアーティストの曲を探す。俺が一番最初に聞いた楽曲を。

 今度もラブソング、になるの、かな? たださっきとは雰囲気が異なるものだけど。

 

「それじゃ聞いてください。What’s a Pastaful World、なんてスパゲティ世界」

 

 そこで小さく笑いが零れたのは曲名が面白いからか、あるいはまるで俺が自分の歌のように言ったからだろうか?

 

 ……多分両方だな。そう思いながら俺はマイクを握る。心持ちさっきよりもその手に込める力を抜くように……。

 

 

 

 仁志の歌を聴いた三人の女性はこれまでにない程に心動かされていた。

 肌を重ねたからこそ響く歌もある。心だけでない繋がりを持つからこそ揺れる歌もある。

 愛を歌うという意味を、三人の歌姫達は初めて深く愛した男から感じ取っていたのだ。

 

(仁志さんがここまで率直に私達へ愛を伝えてくれるなんて……。ただの甘い言葉などではないからこそ胸に染み入る。歌で告げるなんて、本当に貴方は……)

(ったく、本気で厄介だよ貴方はさ。あたし達に歌で想いを伝えるなんて、本当に厄介で、無茶苦茶で、大好きだよ。千の言葉で愛を告げるんじゃなく、一の歌で愛を叫ぶんだから。しかも、その直後に明るい音楽と空気で駄目押しとばかりにまた愛を伝えてくるんだから性質が悪いったらないね)

(ILOVEYOUときてからのあの幸せそうな曲調のコミカルソング。でも、そこで歌われてるのは深い愛情だった。本当に今の仁志には参るわね。歌で大勢の人達へ想いや言葉を伝えている私達だからこそ、その歌詞や歌い方に込められたものを感じ取れてしまう。その結果がこれだもの。なのにアナタはもういつものアナタへ戻ってしまうんだから……)

 

 今など三人が歌おうとしないので普段の仁志らしく特撮ソングを唄い始めていた。

 

「クウガっ! 熱く甦れっ!」

 

 先程まで二曲続けて普段とは違う歌を選んだとは思えない程の平常運転である。

 けれど、それが仁志なりの照れ隠しの一種だとも三人はどこかで感じていた。

 何故なら先程から彼は一度として三人へ顔を向ける事無く、モニターへとその体を向けていたのだ。

 それがカラオケでは普通かもしれないが、彼はこれまでヒーローソングを唄う時は歌詞を見ずに歌ってきた。故に三人には分かったのだ。今仁志が顔を何故隠すようにしているのかが。

 

 大人と少年が混在する。それが只野仁志という男だ。

 その大人として完成し切らず、けれど未熟なままではない在り方は、周囲にいたのが立派な大人かそうでないかの二極と言えた装者達には新鮮であり、また好ましいものだった。

 良い意味で青臭さを残す仁志。その考え方は装者達にはある意味眩しく、また共感出来るものだったのも大きい。

 

「ねぇ仁志」

 

 歌い終わった仁志へマリアが声をかける。その声は優しさに満ちていた。

 

「……何?」

「ここ、八時までいられるのよね?」

「え? ああ、そうだけど?」

 

 彼らはフリータイムという利用方法で入室したので、まだ八時間近く滞在出来る事となる。

 それを確認したマリアは静かに立ち上がると奏へ顔を向けた。その視線を受け、奏は疑問符を浮かべて小首を傾げる。

 

「何さ?」

「忘れたの奏。あの夜、私や貴方は翼と違ってされなかった事があるでしょ?」

「「っ!?」」

「……ああ、そういう事か」

 

 その言葉で仁志と翼が息を呑み、奏はゆっくりと口の端を吊り上げていく。

 あの夜仁志が膣内射精をしたのは二人、翼とクリスである。その後、響達学生組にもしたのだが、そちらはさすがにマリアも知らない。

 ただ、言っていても言ってなくてもさして現状に変化はなかった。強いてあげるのなら、仁志への圧力が若干増した程度だろう。

 

「仁志、あの夜はとても刺激的で、官能的で、魅惑的だったわ」

「そうだね。ロストヴァージンにしてはかなり過激だったけどさ」

「だからこそ、最後まで本来あるべき形で交わった翼達が羨ましいのも分かるでしょ?」

「そうそう。あの時の翼、本気で羨ましかったぁ」

「ま、マリアっ! 奏も少し待ってっ! あれは、その、仁志さんも私も正気ではなかったというか」

 

 このままでは不味いと察して翼が何とか二人を止めようと立ち上がる。だが、そんな翼へ二人の向けた目はやや鋭さを持ったものだった。

 

「そうでしょうね。でもね翼、それだからなかった事には出来ないのも、分かるでしょ?」

「そ、れは……」

「翼が逆ならどうするか、分からない訳じゃないよな?」

「……うん

「「じゃあ、悪いけど黙っててくれる?」」

 

 力なく腰を下ろす翼を見て仁志は無理もないと思いながらも申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

(ごめんな翼。今のは俺が言うべき事だった)

 

 シュンとしょげてしまった翼を可愛らしいと思いつつ、仁志は最後の賭けとばかりに口を開く。

 

「二人の気持ちは分かるし、俺が暴走した結果とはいえ、あの夜翼とクリスへ中出ししたのは色んな意味で浅慮だったと思う。だからこそ、まだ二人を」

「私をマムにしたくない?」

「っ!?」

「あたし、母さんになりたいんだけど?」

「っ!?!?」

 

 仁志の視界に映ったのは、顔を赤くしながらも挑発的な言葉を放つ二人の女性だった。

 マリアは片手で腕を押さえるようにし、奏は右の人差し指で髪の毛を弄ぶようにしていた。

 それらが照れ隠しだと理解した仁志は、成人しているにも関わらずこういう方面では乙女な二人に心をときめかせ、今にも抱き締めたいという衝動を覚えた。

 

 そして、今の仁志にその行動を留まる理由などないため……

 

「「「ぇ……?」」」

 

 仁志は迷う事なくマリアと奏の体を抱き締めたのだった。

 それを見た翼が呆気に取られていると、仁志は彼女へ視線を向けた。

 

「翼、君も抱き締めたいんだけど、前は無理そうだから背中に抱き着いてもらってもいいか?」

「ぁ……はいっ!」

 

 こうして仁志がマリアと奏を、そして翼が仁志を抱き締める形となる。

 そうなったところで仁志が口を開いた。

 

「聞いて欲しい。まだみんなの世界じゃギアが必要とされているし、される事が起きてしまう可能性が高い」

 

 その言葉に三人の女性が表情を歪める。それが事実である事を痛感しているためだ。

 錬金術師とそれが使役するアルカ・ノイズ。その脅威が解消されない限りギアはいつまでも必要とされるのだから。

 

「だけど、君達が永遠に戦わないといけないなんて間違ってる」

 

 そこへ放たれたのは力強くハッキリとした言葉。戦いなんて知るはずのない環境で生きていた、ただの一般人だった者の声だった。

 

「ギアが必要ない世界にするのは難しいかもしれないけど、君達が装者であり続けないといけない世界は変えられると思う。いや、変えてみせるよ。あの依り代の力の一部を、ノイズキャンセラーをエル達に再現してもらえれば可能性はある。俺も自分に出来る範囲で協力するから」

「「「仁志(さん)……」」」

「ギアを量産は無理でも、ノイズの炭化能力さえ封じる事が出来れば、後はまだ物理攻撃で何とかなる錬金術師だ。そうなれば装者じゃなくても対処出来るはずだよ」

 

 笑顔でそう言い切り、仁志はそっとマリアと奏を腕の中から解放する。

 

「「ぁ……」」

 

 失われる温もりと頼もしさに無意識の呟きが零れる。

 だけども、それは少し後で異なる意味へ変わる事となった。

 

「翼、二人の間へ。それなら何とかなると思う」

「クスッ、はい、分かりました」

 

 笑みを浮かべながら翼がマリアと奏の間へ体を滑り込ませるように割って入ったところで、仁志は再びその腕で目の前の女性達を抱き締める。

 

「「ぁ……」」

 

 先程と同じ呟き。だが声に宿った感情は正反対のものだった。

 

「マリア、奏、そして翼。約束するよ。俺は必ず君達を妻として迎えて守り抜くと。この身でどこまで出来るか分からないけど、例え世界が相手でもこの約束は果たしてみせるから。だから、まだ子供は待って欲しい。俺の今の収入じゃ厳しいなんてもんじゃないんだ」

「私達がいるじゃない」

「そうだよ。あたし達で支えるからさ」

「うん。仁志さんの良い所でもあり悪い所でもあるよ。何でも基本一人でやろうとするところ」

「いや、でもなぁ……」

 

 若干昔ながらの考え方の仁志からすれば、出来るだけ男が稼いでくるべきと思っているため、安易に女性の力を頼りにするのは間違っているのではと思ってしまったのである。

 

「仁志、いっそそのゲートリンクを仁志のパパさんかママさんに渡して私達か奏の世界へ来る?」

「それはダメだ」

 

 即答。声も真剣なもので、思わずマリア以外の二人も目を見開く程の速度だった。

 

「仮に、俺の両親へ事情を説明して納得してもらったとしよう。でも、俺が君達の世界で暮らすとなったら俺が君達の弱点になる。依り代が錬金術を弾いてくれるか定かじゃないし、そもそもいつまでその力が使えるかも分からないんだ。そうなった時、俺は自分の身を自分で守る事さえ出来ない存在となる。そうなるぐらいなら、こっちでもっと稼げるように頑張る方がまだマシだよ」

 

 仁志が恐れるもの。それは自分が装者達の足かせになる事だった。

 悪意との戦いでは彼は依り代もあって、むしろ装者達を支え率いる立場であった。

 だが、それは悪意が彼を利用しようと企んでいたり、あるいは手を出す事が難しいからこその立場だと仁志は分かっていたのである。

 

「こう言ったらなんだけど、俺が君達の世界で安全と言えるのは本部内だけだ。あとは君達の誰かと常に一緒にいないとかな。戦える力を持ったなんて俺は今でも思ってないし、これからもきっとそうだ。俺はあくまで出来て補助や支援。共闘はきっとずっと出来ないまま、だろうな」

 

 最後にそう苦笑して締め括り、仁志は腕の中の三人へこう続けた。

 

「だから、君達がこっちで暮らせるようにしたい。ただの女性として暮らしていけるこっちで頑張る事でね」

「仁志……」

「ホント、仁志らしいよ、そういうとこ」

「うん、本当に」

 

 ただの女性として暮らして欲しい。それは仁志が一貫して思い続け、言葉にし続けている願いだ。

 要するに、彼の芯はある意味で一貫しているのである。それを感じ取って三人は笑った。

 しかし、それで終わるはずもなく……

 

「でも、ね」

「それであたしとマリアの気持ちは納得出来ないんだよね」

「え?」

「……だよな。分かった。じゃあ、あの時調にも言った言葉を二人にも送るよ。これで妊娠した場合、何があっても俺が守るから」

「「ええ(うん)」」

「仁志さん……」

「翼もだよ。覚悟しろよ? 一度その気になったら男はどこまでも獣になるからな?」

 

 その言葉に三人が同時に息を呑む。その視線の先で、仁志が野性的な表情で笑みを見せていた……。




次回、アイドルギアのドライディーヴァと……。
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