ハーレム王サイト 作:ライオン@5
ゴーレム襲撃から翌日の朝、俺達五人は宝物庫とやらに集められていた。
宝物庫には偉そうな顔した先生方が顔を合わせて、あーでもない、こーでもないと口論を続けている。
その不甲斐ない様子にルイズは苛々とした様子でそれを眺め、キュルケはふわぁと欠伸をし、 タバサはもう飽きたのか適当な箱を椅子にして本を読み、モンモンは呆れた様子で溜め息をついている。
俺はというと、先生方が何を話しているのか、何が重大なのかよく分からないのでタバサの隣に座って、壁に書かれている文字をじっと見つめていた(字はモンモンに軽く教えてもらった)。
壁には『破壊の杖、確かに領収いたしました。『土くれ』のフーケ』とデカデカと犯行声明が残されており、犯人が武器屋で話していた例の盗賊だと教えてくれている。
「そもそも当直の教師はどうしたというのだ!?何故、フーケの侵入に気が付かなかった!?」
そう教師の誰かが大声で叫ぶと、隅にいた……確か、ミセス・シュヴルーズの肩がビクリと震える。
……どうやら運悪く、この人が昨日の当直だったようだ。よく分からないが、魔法学院の宝物庫ということは、それだけ厳重な警備なのだろう。それに油断してサボって自室で眠りこけた……そんな感じか?
「ミセス・シュヴルーズ、確か昨日の当直は貴方の担当では?」
「それは……そのっ」
「全く情けない、狼狽えても『破壊の杖』は帰ってこないのだぞ?それとも貴方は秘宝である『破壊の杖』を弁償するつもりで?」
グチグチと他の貴族連中より輪をかけて嫌味ったらしい男の教師がシュヴルーズ先生(で呼び方はあってるのか?)を攻め立てる。
その追求にシュヴルーズ先生はポロポロと涙を零し始め。
「も……申し訳ありません。私、家を建てたばかりでして……」
「これこれ、ミスタ・ギトー。そんなに彼女を攻め立てるではない」
泣き崩れた所で、部屋の中央で自体を見守っていたらしい長い髭を蓄えた爺さん……確か、名前はオールド・オスマンが仲裁に入る。
オールド・オスマンはシュヴルーズ先生の手を握り、立たせると、ここにいる教師を一瞥する。
「しかしですな、オールド・オスマン。彼女は学院を守る教師でありながら、呑気に自室で寝ていたのですぞ?然るべき処罰を与えねば、皆納得しませぬ」
「では聞くが、ここに集まった教師でまともに当直をこなしていた者は何人いる?」
それは……とギトーと呼ばれた教師は口ごもり、閉口する。
どうやらあんなに攻め立てておきながら、自分もまともに当直をしてこなかったようだ。
他の教師も俯くばかりで、名乗り出るものは出てこない。
「これが現実じゃ。責任があるとすれば、それはこの場にいる教師全員にある。……勿論、私も含めてな」
「この中にいる誰もが、まさか魔法学院に盗みを働く賊が現れるなぞ想像もしなかった。宝物庫の守りは鉄壁、更に学院にいるものは殆どメイジ。好き好んで虎の穴に入る愚者などいない……と思っていたが、間違いであった」
オールド・オスマンは大きく空いた壁の穴を見つめて、大きく溜め息をつく。
「この通り、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』を盗み取りおった。つまるところ、我々は油断していたのだ……罰を与えるとしたら、我々全員に罰を与えねばな」
その言葉を聞いてシュヴルーズ先生を攻めていた教師陣は「うっ……」と声を漏らし、そのシュヴルーズ先生はというと感涙してオールド・オスマンに抱きついた。
「おぉ、オールド・オスマン!貴方の慈悲に感謝致します!」
「ええんじゃよ、ミセス・シュヴルーズ」
……そう言いながら爺さんの手がシュヴルーズ先生の尻に伸びていることは秘密だ。
呆れた様子で見つめる生徒や教師陣の視線に気がついたのか、爺さんはこほんっ、と一つ咳をして。
「そ、それで?現場を目撃したのは誰だね?」
「この四名です」
コルベール先生は後ろにいる俺達へ指を向けた。
どうやら使い魔である俺は人数に入ってないようだ。状況説明はルイズとかに任せても問題ないだろう……なんて思ってたけど。
「……ふむ、君達か」
何故だか、爺さんは興味深そうに俺へ視線を向けてきた。
偉い人にじろじろ見られるのはどうにも慣れない、思わず畏まってしまう。
「説明を頼めるかの?」
爺さんに説明を求められ、ルイズが事情を話し始める。
話の内容を簡単にまとめると、こうだ。突然、大きなゴーレムが現れて、壁を殴って穴を開けると、そのゴーレムに乗っていた術者と思わしき人物が穴を通って宝物庫に侵入、そして何かの箱を盗み出すと、またゴーレムに乗って逃げ出した。
因みにルイズ達が決闘をやっていたことやキュルケが買った例のシュペー卿とやらが作った剣が壁ごと殴られてぺしゃんこになったことは話していない、因果関係があるとは思えないしな。
「……成る程、となると追おうと思っても手がかりはなしか」
小さく溜め息をつくと、爺さんは何かに気がついたのかコルベール先生に話しかける。
「そういえばミス・ロングビルはどうしたのじゃ?」
「それが今朝から姿が見えませんで……」
こんな非常事態に何処に行ったのか、と爺さんが言葉を漏らした瞬間、宝物庫の扉がバンッ!と開かれる。
それと同時に古臭い臭いしかしなかった宝物庫に甘酸っぱい……まるでレモンみたいな香りが俺の鼻孔を擽った。
香りの主へと視線を向けると、そこには緑色の髪をした眼鏡をかけたお姉さんが一人……ほほう?しかもその
「いぎっ!?」
「初対面の女性の胸をじろじろ見るな、紳士失格よ?」
突然、変な声を上げた俺に一瞬、視線が集まるが、直ぐに視線は緑色のお姉さんに向けられる。
いってぇ……そりゃ俺が悪いだろうけどさ、踵で足を踏むのはないだろ踵で。……後で皆が見てないところでモンモンには謝らないとな。
「申し訳ありません、朝から急いで調査をしておりまして遅参してしまいましたわ」
「調査、とな?」
「はい、起きてみれば、この大騒ぎではないですか。宝物庫もこの通りですし、壁にはフーケのサインもあった為、国を騒がす賊の犯行だと知り、直ぐに調査しましたわ」
すげぇな、この人。ただただ責任の押し付け合いをしてた、ここにいる教師陣の一部よりずっとマトモだ。
それを聞いたコルベール先生は急いだ様子で説明を促した。
「はい、フーケの居場所が判明しましたわ」
「なんとっ!?」
集まっていた教師達は、すっとんきょうな声を上げながら驚いた。
「近隣の農民に聞き込みを行った結果、箱を両手に抱えた黒ローブの男が森の廃屋に入っていくところを見たそうです」
「黒ローブの男か……どうだね、お主達」
黒ローブ、確かにそれは昨日見たフーケが着ていた服と一緒だ。
だけど……男?暗くてはっきり見えなかったけど、体のラインは女っぽかったような……。
「黒ローブ!?間違いありません、フーケです!」
……まっ、ご主人様がこう言ってることだし、俺がなに言っても無駄だろう。
オールド・オスマンはルイズの発言に目を鋭くして、ロングビルに訊ねた。
「ここから近いのかね?」
「はい、徒歩で半日、馬で四時間ほどの場所にあります」
それを聞くと、オールド・オスマンは教師達を見て。
「では、これよりフーケ捜索隊を編成する。我こそはフーケを捕まえ、名を上げようという勇気のある者は杖を掲げよ」
そういい有志を募ったが、誰も杖を上げない。
寧ろ、上がるのは困惑の声ばかりで「王宮へ連絡した方が」「我々では手に余る案件では」といったネガティブな発言が目立つ……が。
「馬鹿者!王室なぞに頼れるか!連絡している間に逃げてしまうわ!身にかかる粉を払えないで何が貴族じゃ、貴族としてのプライドと勇気のある者はおらんのか!?」
大きく息を荒らげるオールド・オスマンだったけど、誰も杖を上げない。
……まぁあんなもの見ちゃ誰も上げられないよなぁ。30mくらいはありそうなデカブツと戦って勝てるか、なんて聞かれたら首を横に振るしかない。
誰も死ぬ可能性の高い仕事になんかに就きたくない……けど、うちのご主人様はそうでもないようだ。
煮え切らない態度の教師達にルイズの苛々は限界に達したのか、その手に持つ杖を堂々と上げた。
「ミス・ヴァリエール!?貴方は生徒ではありませんか!ここは大人に任せて……」
「誰も上げないじゃないですか!」
そう強く言い返すルイズに教師は誰も言い返せず、それに続いて更に二人の人物が杖を掲げた。
「ミス・ツェルプストー、ミス・モンモランシー!?貴方達まで……!」
「ヴァリエールには負けていられませんわ」
「ルイズと彼だけじゃ心配ですので」
更にキュルケが杖を上げるのを見ると、隣に座っていたタバサも立ち上がり、杖を掲げた。
「あら?タバサ、貴方まで無茶しなくていいのよ?」
「心配」
そう答えた親友の姿にキュルケの頬は赤く染まり、小さく「ありがとう」と言葉を返した。
オールド・オスマンは少し考えながら。
「彼女達は敵を見ている、捜索隊としてはこの上なく適任であろう。それにミス・タバサは若くして『シュヴァリエ』の称号を持つ優秀なメイジだと聞いている」
シュヴァリエ……えっ、なんだ?それ?
それを聞いた周りがざわついているようだし、なんだか凄い称号なのは分かるが……。
「『シュヴァリエ』っていうのは王室から与えられる爵位としては最下級の物なの。でもね?価値としては他の爵位とは比べ物にはならないわ」
俺が頭にはてなを浮かべていたところ、モンモランシーが小声で解説を挟んでくれる。
「公爵以外の地位はお金で買えるけど、
「……つまりタバサは超強いってことだな」
「……いや、その通りではあるけど、もう少し他に言い方はなかったの?」
いや、俺の少ない言語野ではこれが限界ですので……。
……あれ?そーいや公爵以外は……って言ってたよな?なんで公爵は金で買えないんだろう?
「公爵は王家の血を引く貴族しか名乗れないのよ」
成る程……って、え?つーことは
あの気の強い性格からはお嬢様には見えんな、お嬢様っていうからにはもっとおしとやかな性格なのを想像してたけど……と。
「ミス・モンモランシーもドットながらも秘薬の扱いに長けており、その実力はトライアングル級のメイジにも匹敵すると聞く」
どうやら俺達が小声で話している横でオールド・オスマンは話を進めていたようだ。
小さくスカートの裾を抓み、モンモランシーは頭を下げる。
えと……確か、魔法を一つしか使えないのがドット、一つ足せるのがライン、で三つ足せるのがトライアングルだったよな?
でもモンモンはドットだけど、トライアングルにも匹敵するって言われてて……つまりどういうことだ?
「……あんまり誉められてないから気にしなくていいわよ。秘薬を作る上でメイジの実力なんて成功率くらいしか関係ないし」
「そういうもんか」
最後に自分の番だとルイズが小さな胸を張るも、こほんとオールド・オスマンは咳をして。
「ミス・ヴァリエールは優秀なメイジを多く輩出してきたヴァリエール家の息女で将来有望なメイジであることを聞いておる、それに」
最後に何故だか、俺に視線を向けた。
「彼女の使い魔は平民ながらグラモン家の子息を打ち破った優秀な『メイジ殺し』である、彼らに勝てると思うものは杖を掲げよ」
俺が誉められているのだと分かり、思わず箱から立ち上がってしまった。
その言葉に反論するものはおらず、オールド・オスマンは俺を含む五人の前に立ち、向き合った。
「諸君らの努力と働きに期待しておる」
にこりっ、と微笑みかけた。
「杖にかけて!」
四人は杖を掲げ、声を揃えて宣言する。
……これ、俺もなんか言った方がいいんだろうか?
「空気読んで、黙っておくのが吉だと思うぜ相棒」
だな。
俺達は現在、ロングビルを案内役に馬車でフーケの隠れ家へと向かっていた。
御者はロングビルが買って出て、俺達は馬車でゆっくりとしていた……が。
「だから、そーいうのはあんたの国じゃ違うのかもしれないけどトリステインじゃ恥ずべきことなのよ!この野蛮人!」
「あら?暇だからお喋りしようと思っただけじゃない、トリステインの貴族はプライドばかり高くて、相手のことを受け入れる度量もないんだから」
……ほれ、また喧嘩が始まった。
喧嘩の原因はロングビルが元貴族であることを知ったキュルケが何故、貴族の名前を失ったか聞こうとしたからだ。
それに対してルイズは嫌がることを聞くのは貴族らしくないといい、キュルケは相手の過去を受け入れる度量も必要だという。
俺的にはルイズの意見に賛成だが、下手に俺が喋っても地雷を踏みそうなので言うに言えない。
……それにしても。
「ま、まぁまぁ……ミス・ヴァリエールも落ち着いてください、私はそこまで気にしていませんから」
馬車が揺れる度、ロングビルの豊満な胸がぷるんっ、と揺れる。
露出の激しいキュルケに目が行き勝ちだが、ロングビルの胸もかなり大きい。
特に揺れる御者席ではかなりの頻度で胸は揺れていた。
ルイズはキュルケとの喧嘩で、ロングビルは運転で俺のことは気が付いていないようだし暫くの間、楽しませて──。
「……ねぇ?やっぱ男の子って大きな胸が好きなの?」
……もらおうと思いましたが、俺の視線に気がついたモンモンさんにそんなことを訪ねられました。
正直な話をすると、モンモンの胸はそこまで大きくない。タバサやルイズと比べても、そこまで違いはない程度だ。
思わず、言い訳が口から出そうになるが、それは喉の奥にしまい込む。
「……はい、思わず見蕩れてました、申し訳ございません」
「ふーん」
何となくだが、モンモンの前では言い訳はしたくはない。
こんなこというのはあれだが……この世界で多分一番に俺のことを受け入れてくれるモンモンに嘘をつくのは誠実ではないだろう。
「……もう一つ、質問してもいい?」
モンモンは一瞬、ルイズ達の方に視線を向けると、まだ喧嘩中なのを確認してから話を続ける。
こくんっ、と俺が小さく頷くのを確認すると更にこんな質問を投げ掛けてきた。
「ミス・ロングビルのこと、気になるの?」
「えっ?」
予想外の質問だった。
いやまぁ……気になるといったら気になりますが、素直に気になるっていうのも何だよなぁ。
モンモンと俺は恋人……って関係じゃないけど、かなり深い関係ではあるし……。
「……き、綺麗なお姉さんに目を奪われるのは男として仕方ないことなのです、はい」
「そっ」
そう答えるとモンモンは何か考えるように顎を触りながら俯いた。
……やっぱあれだよなぁ、モンモン的にはギーシュに浮気されてたこともあってか、俺が他の女をじろじろと見るのは気になるところなのか。
ただルイズにこんなこと言ったら顔真っ赤にして怒りそうなのに、モンモンはというと気にしていないようにも見える。静かに怒っているだけかもしれないが……少なくとも、俺にはそう見えない。
「……もしもミス・ロングビルを抱けるのなら抱きたい?」
「ぶっ……!?なに言ってやがるんですか、お前は!?」
「……サイト?何騒いでるの?」
「あっ、いやっ、なんでもないです、はい!!」
思わず大声を出して視線を集めてしまった。
抱きたい……抱きたいか、か。そりゃ綺麗なお姉さんとそんな関係になれたら嬉しいですよ?でも、そういう男をモンモンは嫌うだろうし、まず手を出せない。と言うか、出さない。
ルイズもキュルケもまた口論に夢中になったようだし、俺は出来る限りの小声で。
「モンモン、俺は」
「ここからは歩いていきましょうか」
……答えようと思ったが、どうやら目的地の近くまで来てしまったようだ。
鬱蒼とした深い森は盗賊の隠れ家には相応しく、お化けの一匹や二匹、出ても可笑しくはない。
「心底、あの娘っ子に惚れてやがるな、相棒」
「……そう、なのかもな」
そんな話をデルフとしながら俺達は森の奥へ……フーケの隠れ家へと足を進めた。
ロングビルを先頭に俺達は獣道を進んでいた。
どうやらだいぶ昔から手入れがされていないらしく、雑草はぼうぼうと生え、蔓草は絡み合い、まともに進むのも困難だった。
本当にこんなところにフーケの隠れ家があるのか?そんな風に思っていた頃。
「……そういえばミス・ロングビル?その香水、あまり嗅いだことのない匂いですが、何処の物を使っているんです?よろしければ教えてくれません?」
「香水……ですか?構いませんが、どうして?」
「いえ、この様子だと暫く掛かりそうですし、雑談でも……と」
と、モンモンが質問した。キュルケも「そういえば嗅いだことない香りね」と続け、何処で買ったのか訪ねてくる。
少し考えた後、ロングビルは少し照れ臭そうに笑った。
「妹が誕生日に作ってくれたものなんです、ですので……その、言うならば世界で一つだけの香水……といった感じでしょうか?」
世界に一つだけ……か。となると、他に同じものは二つとない大切なものに違いない。
ロングビルの様子からに凄く仲のよい姉妹のようだし、無事に返してあげたいな……と思うのは俺の傲慢だろうか?
「さっ、着きましたよ。私の情報によると、フーケはあの小屋に隠れているようです」
……と、そんな話をしている内にフーケの隠れ家についたようだ。
広く開けたその場所の中心にぽつんっ、と数年は使われていなさそうなボロ小屋が建っていた。
人の気配はなく、一見するとフーケはいないように思える。
「これからどうするの?」
そうルイズが不安そうな声を上げると、タバサが杖でモンモンのことを指した。
一瞬、不思議そうな顔するモンモンだったが。
「使い魔との視界共有」
「成る程、一番小さくて偵察に効くロビンで小屋の中を確認するのね」
懐から小さな蛙を取り出すと、蛙ことロビンはぴょんぴょんと跳ねながら、小屋へと向かう。
成る程、キュルケのサラマンダーやタバサのウィンド・ドラゴン(だっけか?)と比べて、頼りなさそうな使い魔だったが、こういう使い道があるのか。
暫くして、ロビンが小屋に辿り着いたのかモンモンは小さく声を上げる。
「中には誰もいないみたい」
「『破壊の杖』は?」
「そこまでは分からないわ、ただ部屋の隅に小さな箱が置かれてる」
何故だか、知らないがフーケは出かけているようだ。
多分、その小さな箱に『破壊の杖』が入っているのだろう、ならば。
「フーケが帰ってくる前に『破壊の杖』を回収して撤退するべきじゃねぇか?俺らの目的は『破壊の杖』の回収なんだし」
フーケの討伐は他の連中に任せればいい、そう言おうと思ったらルイズが不満そうな顔で反論する。
「……嫌よ、フーケは今いないんでしょう?だったら小屋に帰ってきた所を魔法で一斉攻撃すれば倒せる筈よ」
「ヴァリエールに同調するのは癪だけど、私もその意見に賛成ね。相手は王宮も手を拱くようなズル賢い相手だし、倒せる時に倒しておくべきだわ」
こいつら、こんな時ばっかに意見が一致して……。
キュルケは「タバサもそう思うでしょ?」と作戦を考えていたらしいタバサに視線を向けると。
「まずは箱の中身を確かめるのが先決、これからのことは後で考えるべき」
そりゃそうだ、皆はタバサの意見に頷いた。
「でしたら六人で小屋を探索するのは多すぎますね、私はフーケがいないか周囲を探索してきます」
「分かりました、それじゃあこれを一応持っててください」
「……これは?」
そういいながらモンモンが手渡してきたのは何かが詰まってそうな筒状の何かだ。
先っぽには導火線のようなものが着いており一瞬、元の世界にあったダイナマイトのようなものか?と想像してしまったが、モンモンの様子からして違うようだ。
「これは私が調合した煙の秘薬ですわ。導火線に火をつけると凄い勢いで煙が出るので目眩ましやフーケを見つけた時にでも使ってください」
「ありがとうございます、ミス・モンモランシー。ありがたく使わせてもらいますね」
どうやら、これは発煙筒のようだ。
どれくらいの勢いで煙が出るかは分からないが、目眩ましになるくらいだし相当だろう。
皆の分もあるわ、とモンモンは俺達にも発煙筒を差し出し、それぞれ懐にしまうと俺達は小屋へ、ロングビルは探索へと向かった。
「……罠はかかってない」
杖を振ってタバサはそう答えた。更に続いて「魔法じゃない罠は分からない」とも付け加える。
不安にさせる一言であるが、俺のご主人様はその言葉を聞くと「ならあんたが先に入ってちょうだい」と俺に命じてくれた。
そうですか、俺はカナリアですか、畜生。
「んじゃ、ちょっくら行ってきますわ」
そう言い、小屋の中に入ろうとするが……きゅっと裾を捕まれ、停止する。
視線を捕まれている腕の方に向けると、モンモンが裾を掴んでおり、心配そうな目でこちらを見つめてきた。
「私も行くわ、貴方だけじゃ心配だもの」
「あら、随分と仲良いのね。いいのかしら、ルイズ?貴方の使い魔、取られちゃうかもよ?」
心配そうに見つめるモンモンの姿を見て、キュルケはケラケラと笑うが、ルイズは口をムッとして閉じる。
……まっ、何も言わないのならありがたい。モンモンに一緒に行こう、と合図を出し、俺達は小屋の中へと入った。
小屋の中は随分と埃臭く、何年も使われていないのだと教えてくれた。
だけど……なんだろう?埃に混じって何処か嗅いだことのある匂いが混じっているような……いったい、何処で嗅いだことあるんだ?
「……まさか」
モンモンも気が付いたようで、ハッとお互いの顔を見つめ合う。
やっぱりそうだ。この匂いは間違いなく、ロングビルが着けていた香水の香りだ。
そして彼女は確かに言っていた、この香水は妹が作ってくれた世界で唯一の香水であると。
だとしたら……!
(しっ、その話は後よ。まずは『破壊の杖』を確認しましょう)
(……おう、分かった)
モンモンもフーケの正体に気が付いたようだが、まずやるべきことは『破壊の杖』を回収することだ。
指示に従い、『破壊の杖』が納められているだろう箱を開けると……そこには俺が想像もしていなかった物が入っていた。
「これって……!?」
「……なに、これ?本当に杖なの?ただの鉄の塊にしか見えないけど……あっ、思ったよりも軽いわね、これ」
これが杖?そんな筈ない!
これは杖なんかじゃない、どっからどう見ても俺の世界に存在する兵器だ!なんで……異世界である筈のここにこんなものがあるんだ!?
「──きゃあぁぁああぁ!!」
「ルイズ!?どうし……っ!?モンモン、伏せろ!」
突然、ルイズ達の悲鳴が外から聞こえる。
思わず、振り向くと同時に凄まじい衝撃と音が小屋の中に響き渡り、屋根が吹き飛んだ。咄嗟にモンモンを抱えて地面に伏せたお陰で怪我はない。
穴の空いた天井からこちら見つめていたのは巨大な土のゴーレム……!あぁ間違いない、これは確実に……フーケの、いや!ロングビルの仕業だ!
「逃げるわよ!」
キュルケが叫ぶと同時に俺達の体が宙に浮いた。
背中に視線を向けるとタバサの使い魔であるウィンド・ドラゴンが俺達の背中をがっしりと後ろ足で掴んでおり、そのまま地面スレスレを滑空して前足でキュルケを、口でルイズを、背中にタバサを乗せて空へと飛び立った。
「ギリギリ」
「えぇ……ホント、あと一秒遅れたら皆ぺしゃんこになってたわ、ありがとタバサ、シルフィード」
キュルケに撫でられ、ぐるぐるとシルフィード(多分、ウィンド・ドラゴンの名前)が鳴いた。
とりあえず全員無事のようだし、事情を話して、撤退するべきだ……うんっ!?あれ、ルイズのやつがいねぇぞ!?さっきまでシルフィードが口で咥えていた筈なのに何処に……!?
「《ファイアー・ボール》!」
突然、ゴーレムの肩辺りが爆発する。
地面に視線を向ければ、マントを外したルイズが一人でゴーレムに立ち向かっており、今にも踏み潰されそうだ。
「あの馬鹿……!なにやってんだ!?」
「ちょ、ダーリンっ!?」
シルフィードから飛び降り、ルイズの目の前に着地する。
一瞬、驚いたような表情を見せるルイズだったが、直ぐに視線をゴーレムに向け、また杖を振るった。
「《ファイアー・ボール》ッ!!」
今度はゴーレムの胸辺りが爆発するが、効果は見られない。
この馬鹿……状況が分かってんのか!?仕方ない、暴れるルイズを押さえ付け、その場から逃げ出そうとする……が。
「離して!あいつをやっつけるのよっ!?あいつを捕まえれば……もう誰も私のことを『ゼロ』なんて呼ばないでしょ!?」
「状況よく考えろ!?あんな馬鹿デカイゴーレムが相手なんだぞ、勝てる筈ねーだろ!?」
ルイズが暴れて上手く逃げられない。
「やってみなくちゃ分からないじゃないッ!!」
「どう考えても無理だろ!?あんなデカブツ、俺達じゃどうしようも……」
……本当に無理なのか?アレを使おうとも、一発しか使えないんだし、同じものを作られたら一巻の終わりだ。
でもゴーレムを作るよりも前にフーケを倒すことができれば……そもそも、どうやってフーケを見つける?俺達にはフーケを見つける手段なんて……あっ、一つだけあった。これいけるかも。
「……どうしてもフーケを倒したいんだな?」
「……えぇ!」
「ならまずは俺の指示に従え!タバサァ!」
ゴーレムが俺達を攻撃するよりも前に地面を駆け出した。
それと同時に俺達を救う為、シルフィードが着陸し、俺達に乗るように促す……が。
「モンモン、降りて!あと『破壊の杖』貸して!」
「へっ!?貴方、いったい何する気なの?」
「決まってんだろ……フーケを倒すんだよ!」
『破壊の杖』……否、M72ロケットランチャーを手にした瞬間、これの使い方が頭の中に流れ込んでくる。
不思議な感覚だ……だが、今は不思議と気にならない。安全ピンを抜き、チューブを引き出し、安全装置を外すと、ルイズにそれを投げ渡し、簡単に使い方を説明する。
「いいか?俺達が煙で合図したら、こっちをゴーレムに向けて、このボタンを押せ!そしたらゴーレムはぶっ壊れる!」
「はぁ!?どういうことよ、それ!?」
「いいから、俺のことを信じろ!フーケをぶっ倒して、周りの連中を見返したいんだろ!?」
その言葉にルイズはこくんっ、と頷きシルフィードの背に乗った。
よしっ、これで詰めの用意は出来た。後はするべきことは……!
「キュルケ、タバサ!俺とモンモンは地上でゴーレムのことを応戦しながらフーケを探す、二人は空中でゴーレムの注意を引いてくれ!」
「……分かったわ!ダーリン、信じてるわよ!」
さて、これで準備は完了だ。後は成功してくれるよう神様に祈るのみ……だ!
「……で、わざわざ私を指名した理由はなんでなの?戦闘向けのメイジは他にもいたと思うけど」
巨大なゴーレムと向かい合いながら、モンモンは俺に質問をした。
そりゃあれだ、モンモンは水のメイジらしいからゴーレムのいる地面を『錬金』で泥とかに変えてくれれば時間稼ぎになるかなー……と答えたら。
「……授業で言ってたじゃない、『錬金』で変えられる物質は術者の系統とは関係ないって。関係ないのなら広範囲を『錬金』できるトライアングルのキュルケかタバサの方が最適よ?一応、貴方も授業に出ている筈でしょ?」
「……スミマセン、寝テイタノデ知リマセンデシタ」
うん、最近は毎日のように朝までモンモンとセックスしてたからか、疲れて授業はずっと寝ていたから知らなかった。
てっきり水属性の物に『錬金』させるには水系統のメイジが必要だと思ってました、はい。
「仕方ないわね……あんまり時間稼げなくても恨まないでよ?」
そういうとモンモンは杖を振るい、『錬金』の呪文を唱えた。
ずぷりっ、とゴーレムの右半身が地面に沈み、バランスが崩れる様子が目に見えた。
「よしっ、今のうちに……!」
フーケを探そうとしたところ、突然ゴーレムの腕がこちらへ迫ってきた!
下半身に視線を向けると、どうやら左半身の力で泥に沈んだ右足を無理矢理、引き抜いたらしい。
……ちっ、どうする?モンモンを抱えて逃げるか?でも逃げたところで時間は稼げない。
「相棒!ここは俺に任せときな、土くれ如き、デルフリンガー様の敵じゃねぇ!」
「いや、でもよ……!?流石にお前を叩き付けたら……」
ぽっきり、と根本から折れる姿が簡単に想像できた。
そりゃゲームではボロボロの剣が実は凄いアイテムだったー……ってのは定番のイベントだが、これはゲームじゃない、現実だ。
モンモンもデルフの価値は剣としての性能よりも、その自己認識機能の高さと知能の高さにあると言っていた。幾らなんでも、そんな都合のいい筈……!
「──来るぞ、相棒!娘っ子を守りてぇのなら、俺のことを信じやがれ!」
「……っ!」
そんなことを考えている内にゴーレムの拳は直ぐ側まで迫っている。
しかも、その拳は土から鉄へと変わっており、直撃したらミンチどころではない。
どうする?モンモンを抱えて逃げるか?それともデルフの言うことを信じて迎え撃つか?どうする、どうすれば生き残れる……!?
「──サイト!」
「……っ!」
その声に現実に引き戻される。
振り向く余裕はない、だが声を聞き逃さないようにしっかりと聞き耳は立てる。
「……信じてるから!」
……あぁクソ、そんなこと言われたら期待に応えるしかねぇじゃねぇか!
左手のルーンから体全体に力が流れ込むのが感じられる。そうだ、ここで逃げたらルイズの願いも、モンモランシーの期待にも答えられない。
だったらやるしかない!
「ウォォオオオオッ!」
デルフを両手で握りしめ、思いっきり振りかぶる。
にやりっ、と一瞬、顔のない筈のゴーレムが笑ったような気がしたが……それは直ぐに驚きの顔に変わった。
「ゼェリャアアァァァッ!!」
鉄の拳にデルフが触れた瞬間、それはまるで土を切ったかのような感覚と共に斜めに切り裂かれる。
煙を立てて、地面に落ちるゴーレムの右腕。それは直ぐに土くれへと変わり、ゴーレムも、後ろで見ていたモンモンも、切った張本人である俺も……それどころか剣本人(?)であるデルフも切れ味に驚いているようだ。
「す、げぇ……昨日、ぺしゃんこになった剣とは段違いだ。お前って本当に凄いんだな」
「お……おでれーたぁ。ノリで信じろとか言ったが……俺、こんなに切れ味よかったのか」
「おい、ノリで言ったのかよ。それで切れ味悪かったらどうするつもりだ」
「そん時は……まぁそん時だよ」
適当な奴め、だがそのお陰でゴーレムと戦えることが分かったんだ。
後はゴーレムの視線が上にいるルイズ達に向くのを待って……っと。
「こっちよ!これでも食らいなさい!」
「ダーリン!早くフーケのこと探してちょうだい、多分いつまでも持たないわ!」
「早く行って」
火の玉や風の塊、ルイズの爆発がゴーレムに襲い掛かる。
ナイス支援、どうやらゴーレムも唯一自分を打倒しうる俺を相手するよりも、まだ倒しやすいだろう空にいるルイズ達に意識が向いたようだ。
なら今のうちに……!
「モンモランシー、行くぞ!多分、フーケは近くにいる筈だ!」
「了解!でもその前に……!」
『錬金』の呪文を唱えてルイズ達の支援を行った。
踏み込もうとした地面が一瞬にして泥へと変わり、一気にバランスが崩れて深くのめり込み……どすんっ、とゴーレムは倒れ込んだ。その瞬間、ルイズ達の魔法が一斉に襲い掛かる。
……うん、やっぱりモンモンをパートナーに選んで正解だったかも。
「ロングビルー!ミス・ロングビル、何処ですかー!?」
「ロングビルさーん、いるなら返事してくれー!!」
現在、俺達はロングビルを探して森の中を走っていた。
鬱蒼とした森は非常に走りづらく、気を付けなければ、すぐに転んでしまいそうだ。
でもそんなの気にしている余裕はない、ルイズ達が限界を迎える前にロングビルを……おっ!?
「ロングビル……いたっ!」
「……っ!?み、ミス・モンモランシー、それにミスタ・ヒラガ?どうしてここに……」
小屋から少し離れた場所にある開けた場所にロングビルはいた。
どうやら俺達がここに来るのは予想外だったようで、頬には一筋の汗が流れてきた。
……さて、ここからどうするべきか。この様子からしてロングビルがフーケなのは確実、捕まえるだけならこのまま切りかかればいい筈なのに……何故だか、俺は迷ってしまう。
嬉しそうに妹が作ってくれた香水のことを話すロングビルの姿はどうにも悪人には思えなかった。何か、ロングビルにも事情があるのかもしれない。
……モンモンと相談する時間が欲しくなるが、生憎そんな余裕なんてない。だったら。
「ロングビルさん、俺はあんたがフーケだって知ってる。その上で言うが、俺はあんたを捕まえるつもりはない。勿論、『破壊の杖』を渡すつもりもないけど」
「なっ……私がフーケ?そんな筈ありませんわ、私がフーケだとすると自分で自分のアジトに皆さんを案内したことになるではありませんか」
「俺もなんでそんなことしたのかは分かんねぇ。けど……フーケしか入ってない筈のボロ小屋であんたの使ってる香水と同じ匂いがした、それがあんたがフーケだと思ってる証拠だ」
ロングビルは少し考えたような素振りを見せ……直後、先程まで浮かべていた柔和な笑みは消え去り、にやりっと表情を歪ませる。
「……たくっ、私も焼きが回ったもんだ、まさかこんな小僧に正体がバレるだなんてね」
「てことは、やっぱり貴方が……」
「その通りさ。あんた達の想像通り、私が国を騒がす大怪盗『土くれ』のフーケだよ」
やっぱりそうだったか。フーケは俺達の方へ向き直し、両腕を組んで自信満々な様子でこちらを見つめてくる。
……うん、そんな状況ではないのは重々承知の上だが、腕を組んだことでフーケのたわわな胸が強調されて凄くエッチでイテテテッ!?耳が、耳が千切れそうなくらい引っ張られてる!?
「変なこと考えてないで今は交渉に専念しなさい」
「はい、スミマセン!分かりましたから手、離してください!?」
一瞬なにやったんだ、と呆れたような顔をフーケは見せるも直ぐにきりっ、と表情を引き締める。
「それで私のことを見逃すって言ったけど、あんたらの目的はなんだい?国を騒がす大怪盗の首をわざわざ見逃すなんて何か目的があってのことでしょう?」
……へっ?目的……目的か。やべぇ、何も考えてなかった。
ぶっちゃけ、単純にフーケが……ロングビルさんが悪い人に見えなかったから事情を聞きたいー……って思ったくらいだし、フーケを見逃して何をしたいかだなんて考えてる筈もない。
そんな俺の心中を察してなのか、モンモランシーが一歩前に出て。
「私達の目的を達成させるには学院関係者の協力が必要だわ。フーケ……いえ、ミス・ロングビル?そういう意味では貴方が最適なの、オールド・オスマンの司書で同時にある程度の発言力を持ちながら自由に動くことの出来る貴方が」
「そうかい、それでその目的ってのはなんだい?それが分からないことには協力できないよ」
この質問に何故かモンモランシーは一瞬、こちらを見て口を紡ぐ。
一瞬、見えたその顔は時々見かけるルイズやキュルケに嫉妬した時と同じ顔をしていた。
いったい何をするつもりなのか、問い詰める為に腕を掴もうとするが。
「サイトは黙っててちょうだい」
先に釘を刺されてしまった。
「……へぇ?もしかしてあんた、そこの平民と恋仲なのかい?あんたらの目的とやらも、それに関係してる……とか?」
「……そうよ?それに何が問題あるの?」
「別に?なんでもないよ。ただプライドとか世間体が大事な大事なトリステインの貴族様にしては珍しいと思っただけさ」
……そのモンモランシーを馬鹿にするような物言いになんだかムカついた。
それ以上、彼女を馬鹿にするようなら斬る……という気持ちを込めて、デルフを向け、脅してみる。
「と、そっちには怖い怖い騎士様がいるんだったね。分かった分かった、あんたらの関係には口を出さない、それでいいだろ?」
小さく頷いて、デルフを鞘に収める。
それを確認してか、フーケは口を開いて言葉を続ける。
「……で、あんたらに協力するメリットはなんだい?まさか無条件で信じろとか言わないだろうね。『破壊の杖』を諦めてまで、私が協力するメリットはあるのかい?」
「そんなの決まってるだろ?あんたはこれからも盗賊稼業を続けられる上、学院の司書としての隠れ蓑も手に入る、それに……」
よく分からないけど……モンモランシーのいう目的は俺に関わるもののようだ。
だとすればモンモランシーにリスクを負わせるのは……男としてやっちゃダメだ、俺もそれ相応のリスクを払うことでモンモランシーの隣に立つ資格を得られる、そんな気がした。
「……必要なら俺も盗みに手を貸してやるよ、俺の剣の腕はあんたも知ってるだろ?」
「サイト!?貴方、なに言って……」
……正確に言えば、使い魔のルーンとデルフの力……だけど下手に勘ぐられないよう、そういうことにしておく。
それを聞いたフーケはケラケラと笑いだし。
「いいね、乗ったよ!あんたみたいな共犯者がいれば、これからの盗みも楽になりそうだわ!」
どうやら俺達の提案を受け入れてくれたようだ。
「……はぁ、それじゃあフーケ?これからよろしく──」
「マチルダ」
へっ?マチルダ?
「私の本名だよ、誰もいない時はそう呼びな、共犯者」
「分かった。それじゃあこれからよろしく頼んだ、マチルダ」
差し出された右手を硬く握りしめる。さて、これで当面の問題は片付いた。
後は……。
「……後始末、どうすっかぁ」
フーケに逃げられた……と言い訳するのは少々きついだろう。
元々、ルイズ達がゴーレムを破壊し、フーケの注意がそちらに向いた瞬間、俺とモンモンがフーケを捕縛、または撃破するというのが今回の作戦だ。
発煙筒の煙で気付かれた……と言い訳することも考えたが、そこでネックになるのが俺の身体能力だ。
使い魔のルーンが発動した時の俺の身体能力なら逃げた人を捕縛することなんて容易い。おまけ付きにこの鬱蒼とした森だ、《フライ》で空を飛んで逃げようとしても木々に邪魔され、飛行も儘ならない。
つまり、どう足掻いてもフーケは俺に捕縛される運命にあるのだ。
「なんだい、あんた達?後始末のこと何も考えてなかったの?」
「えぇまぁ……正直な話、私も彼がミス・マチルダを捕まえるつもりがないの、さっき知りましたし」
「……はぁ?どういうことよ、それ?普通、こういう大事なことは相談して決めるもんじゃないのかい?」
「あははは……時間がなかったもので」
そう答えると、マチルダは少し考えるような素振りを見せながら近くの大きな木へ近づいた。
その木は大人一人が入りそうなくらい大きなウロが特徴的で、彼女はそのウロの中に右腕を突っ込んだ。
「うげっ!?」
「……万が一にって用意してたこれが役に立つとはね。人生、何が起こるか分からないもんだよ」
ウロの中から出てきたのは肩から腹部を切り裂かれたメイジと思わしき男の死体だった。
男の格好は頭の先から足の先まで真っ黒なローブで覆われており、右手には杖が握られている。
な、なんでこんなもの、用意してんだ……?まさか、マチルダが殺して、この中に突っ込んでた……とか?
「ミス・マチルダ、この男は……?」
「知らないよ、私の知り合いに違法な品も取り扱ってる薬問屋がいてね。そいつから買ったのがこの男さ」
「……モンモン、秘薬って死体を材料に使うこともあるの?」
「違法な秘薬の場合、死体を材料に使う場合があるわ。というか、レオニーの奴……こんなものも扱ってたのね」
どうやらモンモンもその薬問屋と知り合いのようだ。
というか、死体を材料に使う薬って……いったいどんなものが出来上がるんだ?
「とりあえず、これで偽装は何とかなりそうね。それじゃあルイズ達に合図を──」
「ちょっと待ちな、これだけじゃ心許ないわ」
そういうとマチルダは懐から小ぶりのナイフを取り出した。
いったい何するんだ?と俺達の視線がマチルダに集まり。
「ぶっ……!?あんた、何してんだいったい!?」
「死んだばかりの男が血を流してないのは可笑しいだろ?だからこうして血を流してやっているわけさ」
突然、彼女は自分の手首を切り裂いた。
かなり深く切ったのだろう、どくどくと傷口から血は溢れ、流れ出た血は男の死体へ降りかかる。
いや、理屈は分かるけども……まさかこうも簡単に自分の体を傷つけるとは。
流石は盗賊……といった所だろうか?
「さて、これで準備完了だよ。合図を出しな」
「……分かったわ」
片手に発煙筒を持ち、もう片方の手に杖を持ち、それを振るう。
すると、導火線に火がついたかと思うと次の瞬間、もくもくと煙が立ち上ぼり……凄まじい爆発音がルイズ達のいる方から響き渡る。
視線を向けると、そこには上半身が完全に吹き飛んだゴーレムの姿が。よかった、きちんと使い方は伝わっていたようだ。
「……やっぱり、あれを逃すのは勿体無かったかもね。あんな強力なマジックアイテムがあれば、あんたと協力する以上に盗みは楽になるだろうし」
「あー……いや、あれはマジックアイテムなんかじゃないぞ?それに一発限りの使いきりの品だから、もう二度とあんな爆発起こせないし」
「なんだって?」
『破壊の杖』……否、M72ロケットランチャーについて軽く解説する。
あれが俺の世界の戦争で使われている武器であること。そして何故か知らないが、この世界に流れ着いていたということ……可能な限り、説明した。
すると、マチルダは残念そうな顔を見せ。
「なんだい、それじゃあもう価値がないってことか」
勿体ないことをした、そんな風にマチルダが気落ちしていると、煙を頼りにタバサのシルフィードがこちらに近づいてきた。
背中には笑顔のキュルケといつも通り、無表情のタバサ、そして何故だかお冠の様子のルイズの姿があった。
「さ、さささサイトーッ!?あの爆発、なんなのよ!?『破壊の杖』から変なのが飛び出たと思ったら急にゴーレムが爆発して……!!」
「お、落ち着け、落ち着けって!?話は後で聞くからさ!?」
「ルイズったら、爆発の勢いに負けてシルフィードから落ちちゃったものね~。そんな怖い思いをしたからってダーリンに当たるのは間違いじゃないかしら?」
「うるさいうるさいうるさーいっ!怖がってなんかない「静かに」うっ……タバサ?急にどうしたのよ?」
ルイズの騒がしい口を杖で押さえつけて、タバサは黙らせる。
そしてタバサの視線は直ぐに俺の近くにあった偽フーケの死体に目が行き。
「それがフーケ?」
「あ、あぁ……ゴーレムを破壊されたのを確認して、俺とモンモンが襲いかかったら……」
「まだ精神力があったみたいでね?ま、魔法で抵抗してきたから応戦して……それで思わず……ゔっ、殺しちゃった……わ」
人を殺したことによる嫌悪感を感じるような演技を見せるモンモランシーの姿を見て、ルイズとキュルケの顔は青ざめた顔色へと変わる。
一人、タバサは何か考えるような素振りを見せるが、暫くして納得したのか首を縦に振り、事情が伝わったことを俺達に知らせる。
よかった、とりあえずバレてないみた……ぐうぇ!?
「さっすがダーリン!あの『土くれ』のフーケにも勝っちゃうなんて流石だわ!」
「あは、ははは……まぁな」
無理して明るい様子を振る舞うキュルケに答えながら、ルイズの方を見る。
ルイズは人が死んだという事実を受け入れられないのか、渋い顔をしながらこちらを見つめてきた。
「……殺す必要なかったんじゃない?」
「殺さずに捕まえられたら、俺だってそうしてたよ」
その言葉を聞いて、ルイズは一言「無理言ってごめん」と俺へ謝ってきた。
うっ……あのルイズが俺に謝る、だなんて。流石に……悪いことした、かなぁ?
「……フーケの死体は私が埋めましょう、ミス・ヴァリエール達は後ろに下がっていてください」
「ミス・ロングビル?いつの間に……」
「皆さんより先に来ていましたよ、幸い……と言ってはなんですが、この近くを歩いていましたので直ぐに合流できました」
偽フーケの死体からマントと杖を奪うと、マチルダは杖を振るう。
すると、周囲の土が盛り上がり、偽フーケの体を包み込み……地面へ沈んでいく。
「皆さん、お疲れ様です。……では帰りましょうか」
その言葉に従い、俺達は馬車に乗り、学院へと帰ることになる。
……馬車に乗るルイズとキュルケ、二人の酷く落ち込んだ表情を俺は生涯忘れることはないだろう。
俺達は彼女達を騙し、悲しませたのだと胸に刻み付けるのであった。
ゼロの使い魔について、どれくらい知識がありますか?
-
原作とアニメ、どちらの知識もある
-
原作、またアニメどちらかの知識のみ
-
二次創作で見ているだけで本編は見ていない
-
この作品で初めてゼロの使い魔を知った