※この作品はR-18です。

ハーレム王サイト   作:ライオン@5

7 / 10
あまりにも長くなりすぎたので前後編でお送りします
尚、今回の話は寝取り要素豊富なので苦手な方はご注意ください


『神の盾』の冒険・前編

ガリア東部にある暗い暗いライカ欅の森、その中でも一番大きな大木の樹上に彼らはいた。

背中から一対の大きな翼を生やし、布一枚だけを纏った彼らのことを人々が見ればこう呼ぶだろう、「翼人だ」と。

翼人達は若者から老人まで年齢は幅広く、何か話しており耳を済ませば。

 

「もう我慢できん!奴らの横暴にはうんざりだ!」

「そうだそうだ!ここは一度、こちらから攻めて我らの恐ろしさを教えてやる必要があるだろう!」

 

そんな怒号が聞こえてくる。

翼人達の中心にいる年老いた老人……族長はまたか、と若者達の無謀さに頭を抱え、なんでこうなったのだろうと思いを馳せた。

こうして集まっている理由はただ一つ、この森から少し離れた場所にある人間の村に原因はある。

彼らは森の木を切り倒し、それをそのまま売ったり、加工して家具にして売る……所謂、木こりが集まった村だ。

長い間、彼らとはお互いの存在を知りながらも不干渉を貫いていたのだが、ある日突然、彼らがライカ欅を求め、森へ入ってきて、森を守ろうとした翼人達と争いになったのだ。

その日から翼人の部族と木こりの村(彼らはエギンハイム村と呼んでいる)の関係は悪化し、お互いに死者こそは出てないものの軽い紛争状態となっていた。

 

「後から入ってきた余所者に……それこそ!地面を這いずり回るしか脳がない虫けら共に遠慮する必要はない!寧ろ、これから生まれてくる子達の為にも連中を皆殺しにしてやろうではないか!」

 

そういきり立つは主戦派の中核であり今年の春で父親となる若い屈強な男だ。

彼に続くように若者達は声を揃えて、そうだそうだと大声を上げていた。

だが、反対派……族長率いる穏健派はというと。

 

「……争うくらいならば森を捨てるべきだろう」

「人間の魔法は大したことはないが、その数は恐ろしい。我らが一つ精霊の力を行使する内に奴らは五つは魔法を唱えてくる」

「それに村人を皆殺しにしてみろ、我らが報復として皆殺しにされるぞ」

 

知ってか知らずか、人間の恐ろしさを説き、若者達を宥めようとする。

流石の若者達も皆殺しにされると聞き、先程のような激情は収まった……かのように見えたが、その言葉はある人物の虎の尾を踏んでしまったようだ。

 

「森を捨てろだと!?何を馬鹿なことをいう!森を捨てて、どう子供達を育てるつもりだ!我らに腹の中の子供達を見捨てろというのか!!」

 

そう声を荒らげる人物は族長の長女であり、勇敢な戦士であるガザルだ。

ガザルは女にしては平らすぎる胸を張りながら、子供達のことを思って徹底抗戦を主張する。

それには男達だけではなく、妊娠中の女達も賛同し、穏健派の声を掻き消さんばかりにその声は広がっていく。

 

「ぐむむ……」

 

後一押し、男達は黙って会議の流れを見守っていた族長の次女であり巫女であるアイーシャに賛同を求めるべく話しかけた。

 

「アイーシャ様も、子供を見捨てるべきではないとお思いですよね!?」

「……はぁ」

 

男達に話しかけられたアイーシャは立ち上がり、主戦派の人物の顔を一人一人確認し……言葉を、自分の胸の内を語り始める。

 

「私は村の人達と争うべきではないと思います」

「アイーシャ様っ!?」

「彼らと争っては無益に血が流れるだけ、其れ処か最悪腹の子達だけではなく、集落の皆が殺されるという事態にまで発展しかねません」

 

主戦派を宥めようとするアイーシャに、穏健派の老人達から期待の視線が注がれる。

だが、アイーシャは振り向くと同時に、キッ!と穏健派の老人達を睨み付け。

 

「同時に森を捨てるだなんてもっての他です!私達は森と共存して生きている、それを捨てるということは『大いなる意思』に背を向けると同じことです!」

 

その言葉を聞き、森を捨てることを主張していた穏健派達も縮こまってしまう。

『大いなる意思』とはハルケギニアの人間達が信仰するブリミル教とは別の……主にエルフを中心とする異種族に信仰される宗教的存在である。

この世の全ての運命や事象は『大いなる意思』が決定すると信じられており、その巫女であるアイーシャの言葉は時として族長すら逆らえない。

 

「では、我々にどうしろと?」

「まずはお互いに話し合うべきです、話し合い妥協点を探すことから」

「話し合うだと?馬鹿なことを言うな!」

 

アイーシャの言葉を遮るように大声を上げたのはガザルだ。

机を力強く叩くと同時に立ち上がり、アイーシャを睨み付ける。

 

「奴らは我々が話し合おうとしたところを弓で打ってきたじゃないか!それでもお前は奴らと話し合えというのか!?」

「それは……きっと何か、事情が」

「事情だと?はっ!!そうさな、きっと連中には連中なりの立派な事情があるんだろうさ!私達が理解できると思わんがな!」

「そんな言い方する必要ないでしょう!彼らは我々と同じ言葉を話す、森の仲間よ!きちんとお互いのことを知れば……」

「やめんかっ!!」

 

言い争いを始めた姉妹であったが、族長……父の怒気を含んだ声に驚き、口を閉じる。

二人が黙ったのを確認すると、族長は主戦派の若者達に視線を向けて。

 

「子供を育てられるだけの立派な木があれば森を捨ててもよいのだな?」

 

と、確認を取る。

若者達は何がなんだか分からない様子だったが、彼らは一部の血気盛んな者を除き、あくまで子供を育てる為に森を守るべきだと主張していた。

それ故、村長の意見は受け入れるに容易く、皆が口を揃えて「それならば構わない」と宣言した。

それを確認すると、今度はアイーシャの方を向いて。

 

「村の人間が傷つかなければいいのだな?」

 

あくまで和解するべきだと主張していたアイーシャにとって、それはどちらかと言えば受け入れがたい意見であった。

だが……もしも、もしもだ。このまま父の意見を受け入れず、村人との全面抗争といった最悪の結果になれば彼は……ヨシアは……。

 

「……村の人達が傷付かないのならそれで構いません」

 

少し迷った後、アイーシャはそれを受け入れた。

両者の意見の一致を確認すると、族長は側で召し仕えていた側近に伝書鳩を用意するように命令し、一封の手紙を(したた)め始めた。

 

「……いったい、誰に手紙を?」

 

そう尋ねたのはアイーシャだ。

懐かしむような目で手紙を認める父を不思議に思い、尋ねると族長は用意された伝書鳩の足に手紙を巻き付けながら答えた。

 

「古い友人の力を借りようと思ってな」

「古い友人?もしかしますと、それって……」

 

族長の古い友人と言われ、皆一同に同じ人物の姿を想像した。

それはかつて、族長と共に世界を旅した友人である人間……『偉大なる(オールド)』オスマンの姿。

 

「さて、良い返事が帰ってくると良いのだが……」

 

手紙を巻き付けた鳩を放鳩しながら、族長はかつての友人へ思いを馳せる。

その思いに答えるように手紙を持った鳩は無事、トリステイン魔法学院の学院長室まで辿り着き……。

 

 

 

side サイト

 

仕事から数日たったある日の朝、俺はまだ日も昇ったばかりの朝早い時間に学院長室へ呼び出されていた。

学院長室にはいつものように大きな机と椅子に座ったオールド・オスマンが待っており、マチルダ……もとい、ロングビルの姿はない(というか、モンモランシーの部屋で寝てる)。

オールド・オスマンは肩に乗った鳩を可愛がりながら俺のことを歓迎してくれる。

 

「ほほほっ、よく来てくたの。何か飲み物でも必要かね?」

「いえ、必要ないっす。それよりも……なんでこんな早い時間に俺を?」

 

正直な話、こんな朝早い時間に呼び出されてお陰で眠気が酷い(いつものように朝までセックスしてたから自業自得ではあるけど)。

とっとと話を終わらせて、部屋に戻って少しでも睡眠を取りたい……なんて思っていると、その眠気を吹き飛ばすほどの言葉がオールド・オスマンの口から聞こえてきた。

 

「君は貴族になりたいかね?」

「へっ……?」

 

これは……どう答えれば良いんだろう?

そりゃ貴族にはなりたい。貴族であるモンモランシーを妻にする為にも、マチルダやマチルダの妹達のことも考えれば貴族になれるならなるべきだろう。

でもオールド・オスマンの意図が分からない、なんで急に俺へこの話を持ち掛けてきたんだ?

 

「……なりたいです、責任取りたい……ううん、幸せにしたい人がいますから」

 

少し悩んだ後、首を縦に振り、自分の素直な気持ちを伝える。

それを聞いたオールド・オスマンはケラケラと楽しそうに笑い出した。

 

「そうかそうか、幸せにしたい女がいるか。ではガンダールヴ?貴族(メイジ)の力が強く、平民の力が弱いこのトリステインで平民が貴族になるにはどうすればいいと思う?」

「……そりゃ戦果を上げる、とかっすか?」

 

俺のイメージする立身出世といったら、それくらいしか思い浮かばない。

何処かの戦場で貴族を上回るくらいの活躍を見せれば、貴族に並ぶほどに優秀であると認められて取り立てられる……こともあるだろう、少なくとも俺の世界(中世辺り?)では。

 

「確かに武功を積むのも一つの手じゃ、だがそんな大規模な戦闘など稀にしか起こらん」

「故にお主が貴族になりたいのならもう一つの方法……王宮の貴族共を納得させられる程に国へ貢献しなくてはならない」

 

国へ貢献……?えと、具体的には?

 

「とある平民商人の話だが、その者はトリステインから遠く離れたサハラとの独自の交易ルートを持っておって国の財政を潤してたのだ」

「その結果、財政赤字が解消し、その褒美として爵位が与えられて、その者はトリステインでは珍しい平民貴族となった」

 

……成る程、つまりは平民の目にも見えるほどに貢献することでトリステインではやっと平民は貴族になれる、と。

だけど理解するのは簡単だが、実行するとなると厳しい、俺はその商人のように特別な交易ルートを知っているわけでもないし、そもそも交易を始められるような余裕も自由もない。

 

「ほほほっ、悩んでいるようじゃの。では早速本題に入ろうか。実は主が国へ貢献する、その足掛かりとして一つ、依頼したいことがあってな」

「依頼したいこと?」

 

俺が興味を持ったことを確信したオールド・オスマンは更に言葉を続ける。

 

「実は私の古い友人が率いる翼人の部族が、近くの村と諍いを起こし、不味い状況になっているらしい。彼らを助ける為に力を貸してくれんかの?」

 

力を貸すのは別に構わないが……それの何処が国に貢献することになるのだろう?

翼人というのはよく分からないが、その部族を助けたくらいで国へ貢献したことになるのか?

思わず気になり、オールド・オスマンにそれについて訪ねてみるとすぐに答えが帰ってきた。

 

「お主は知らぬと思うが、トリステインという国は軍事力に乏しい国での。それこそゲルマニアやガリアが“本気”で攻め落とすつもりなら勝ち目がないくらいじゃ」

「それ故に翼人という強力な亜人と友好関係を持てれば、乏しい戦力事情を多少なれど解消できるじゃろう」

 

例の商人が財政を潤したように、俺は戦力を補充する形で国に貢献するということか。

ただ。

 

「そんなに上手く行くんですかね?翼人が、どんな人達か俺は知らないけど……近くの村と諍いを起こすような人達が、わざわざ危険を犯してまで協力してくれるとは思わないんですが」

「安心せい、彼らは掟をとても重要視しておる。彼らが彼らである限り……それか宮廷の貴族やアホ貴族が彼らと敵対しない限り、軍事協力はしてくれる筈じゃ」

 

オールド・オスマンがこういうんだし、何よりも俺は翼人達のことを何も知らないし、その言葉を信じるとしよう。

首を縦に振り、依頼を受けるという意思をオールド・オスマンに伝える。

 

「感謝する。では改めて主にやってもらいたいことを話そう」

 

そういうと椅子から立ち上がり、壁に張ってある地図の前までオールド・オスマンは移動する。

……改めてみると、この世界ってかなり広いんだな。ガリアやゲルマニアといった大国と比べると、トリステインは領土的にはかなり小さい。

これは勝ち目がないのも頷けるな。

 

「お主にはまずガリア、アルデラ地方にある深いライカ欅の森にまで“飛んで”もらう」

 

地図を指差しながらオールド・オスマンは話を続ける。

 

「ここに私の友人である族長が率いる翼人の部族が住んでおるので合流し次第、翼人達をトリステインまで……正確にいうなら魔法学院から六時間程歩いた場所にあるライカ欅の森にまで案内してもらう」

 

つまり俺の役割は翼人達の引っ越しの手伝いをするということか。

これは思ったよりも簡単に終わりそうだ……と一瞬、思ってしまったが、オールド・オスマンが指差す場所の近くに村があることに気がついた。

……これ、不味いんじゃないか?

 

「なぁ爺さん、翼人達って……よく分からないけど村人達と喧嘩したから引っ越すことにしたんだよな?だとしたら移住したところでまた近くの村の住人と争うようになるんじゃ」

「安心せい、例の村と諍いを起こした主な理由は木こりの村であったことが大きい。ライカ欅は木こりにとっては良い収入源だが、農村にとっては無駄に丈夫で邪魔な木々でしかない、そしてこの村は農村……つまりは争いが起こる心配はないのだよ」

 

なら大丈夫そう……かな?そりゃ勿論、何かしらの問題はありそうだが……オールド・オスマンの何か企んでいるような顔を見る限り、他に策がありそうだし。

俺は首を縦に振り、改めてこの依頼を受けるという意思を示す。

そしてオールド・オスマンは更に翼人達と交流する上での注意点や素直に引っ越しを受け入れさせる方法、こちらが求める対価などを俺に伝え……ふと、大事なことを聞かされていないことに気がついた。

 

「そーいや、そのライカ欅の森まで行くの、どれくらい時間掛かるんですか?」

 

地図を見る限り、トリステインとはかなり離れているみたいだし……三日くらいか、長くても四日くらいだろう。

オールド・オスマンが気軽に依頼を持ち込むくらいだし、流石にそんなに離れた場所にあるとは思えないが。

 

「あぁ言い忘れておったな、馬で行くならガリアとの国境までまず三日、そこから東に馬を全力で走らせて七日ほどの距離にある」

「ぶっ……!?」

 

い、行きだけで十日も掛かるのか……。

往復で二十日となると……うん、無理だな。ルイズのやつが許可してくれるとは思えない。

どうするべきか、と頭を抱えていると、オールド・オスマンは意地悪な笑顔を浮かべて……懐から一匹の鼠を取り出して。俺に見せてくる。

 

「まぁ流石に二十日は開けられんわの。ならばモートソグニルに乗っていくがいい、彼に乗れば六時間も掛からない」

「……鼠に乗れと?」

 

思わず、自分を耳を疑ってしまった。

鼠に乗れだなんてオールド・オスマンは本当にボケてしまったのだろうか?

 

「モートソグニル?」

 

ぱちんっと、指を鳴らすオールド・オスマン。

……いったい何をするつもりなのだろう?まさかこんな小さな鼠に不思議な力があるとか──ぶっ!?

 

「──ふぅぅうう……この姿になるのは久しぶりだな。全く、あんな小さき姿に俺を化けさせるとは……全く、恥知らずな奴よ」

「仕方ないじゃろう、韻竜が使い魔等と知られたら大騒ぎじゃからの。どうせ私は後十年そこらで死ぬのだし、それまでの我慢だ」

「その言葉を聞いて何百年経っていると思う……まぁあの姿にも慣れたし、別にそれくらいの我慢は構わんが」

 

突然、モートソグニルが光に包まれたかと思うと……次の瞬間に現れたのは部屋を埋め尽くさんばかりの大きさの白い鱗のドラゴンが現れた。

ま、まさか……本当にあんな小さな鼠が……いや、こんな大きなドラゴンが小さな鼠に化けているだなんて思わなかった。

 

「ほっほっほ、驚いてくれたようじゃの」

「そりゃあその……驚きましたよ、タバサのドラゴンと違って……その喋れるみたいですけど……」

「彼は韻竜なのだよ」

 

そういうとオールド・オスマンは韻竜について軽く説明してくれた。

韻竜とは韻獣とも呼ばれる言葉を話す動物の一種であり、またそれは総じて強い力を持つ。

ハルケギニアでは数百年前から絶滅してたと思われており、もしも生きているのがバレたら、研究材料として国に狙われるかも知れないから白いハツカネズミに化けてもらっていたらしい。

 

「……そんなものがいるんすね」

「本音を言えば、我が友に窮屈な思いをさせたくないのだがな。わしが若い時なら兎も角、今のハルケギニアでは韻竜は絶滅したと考えられておるからな」

「若い時って……爺さん、幾つなんだよ」

「爺のヒ・ミ・ツじゃ♪」

「キモいぞ、我が友」

 

滑った空気を元に戻すようにオールド・オスマンはこほんっ、と咳を一つして。

 

「ともあれ、これで足の問題は解決したな。お主の働きに期待しておるぞ、ガンダールヴよ」

「はい、任せてください!」

 

そう力強く宣言し、俺は学院長室を鼠に化けたモートソグニルと共に出た。

 

 

 

馬に化けたモートソグニルを連れ、俺は門の前で旅支度をしていた。

とりあえず何があるか分からないし、持っていくのはマルトーさんから貰った干し肉を中心とした保存食と水を数日分、後はテントと護身用の武器としてデルフ、モスバーグは……必要ないか。

防寒具も用意したし、後は……。

 

「相棒、お前の嫁さんが見送りに来てくれたみたいだぞ」

「へっ?」

 

デルフの言葉に反応し、振り向くとそこにいたのはいつものように堂々とした雰囲気のモンモランシーが一人、両手に沢山の小瓶が入った袋を抱えて現れた。

 

「ルイズから聞いたわ。貴方、オールド・オスマンから仕事を任されたそうね」

「まぁな」

 

一見すると、いつもと変わらない様子だが……よく見れば手足の先が震えている。

あぁやっぱり俺のことを心配してくれて見送りに来てくれたのか、可愛い奴め。

周りには門の掃除に来ていた奉公人の目があるというのに……俺は我慢できなくなり、思わず抱きついてしまう。

 

「ちょ……もう、仕方ないわね。私に迷惑かけたくないとか言ってたの、何処の誰よ」

「ごめん、でも我慢できなかった。震えてるモンモランシーを見たら……なんていうか、その抱き着かずにはいられなかった」

「……私を安心させるため?」

 

抱きしめ返しながらモンモランシーは訪ねてきて……俺はそれに小さく首を縦に振る。

 

「それもあるけど……一番は俺がモンモランシーのこと抱き締めたかったから。心配して、わざわざ見送りに来てくれるとか可愛すぎるだろ」

「………馬鹿っ」

 

顔を真っ赤にした彼女は、それを隠すように俺の胸に顔を埋める。

小さく深呼吸を行い……モンモランシーは俺から離れて、いつもの調子を取り戻した姿を見せてくれる。

 

「これ、持ってきなさい」

「……これは?」

 

モンモランシーは持っていた袋を俺に渡してくる。

受け取り、袋から小瓶を一本取り出して揺らしてみると、それは試験管のような形をしており、中にはたっぷりととろんとした青い液体で満たされていた。

 

「中身は殆ど治癒の秘薬よ、患部に掛ければ傷はたちまち癒えてく高級品よ?感謝しなさいよね」

「ありがと、大切に使わせてもら──んっ?これは?」

 

袋の中を確認してみると、一本だけ他とは違う色の秘薬が入っていた。

ピンク色のそれを軽く降ってみると、ちゃぷちゃぷと軽い水音が聞こえてくる。

これも治癒の秘薬の一種……には見えないな、寧ろイメージ的には……。

 

「それは口にした殆どの生物を発情させる強烈な効果を持つ秘薬……有り体に言えば媚薬よ」

「大正解か」

「何の話?」

「なんでもない、それより何でわざわざこんなものを?」

 

質問を投げ掛けてみると、モンモランシーはくすくす、と笑いながら俺の顎を頬を撫でながら、熱の籠った目でこちらを見つめ……質問に答えてくれる。

 

「貴方が抱きたいと思った女がいるなら躊躇せずにこれを使いなさい。発情させて、貴方のおちんぽの良さを教えてあげて……自分の雌にしちゃいなさい♥」

「……いいのか?モンモランシーの知らないところで、知らない奴と……その、浮気しても」

「そりゃあんまり気分のいいものじゃないけど……貴方にハメられた雌は♥もう二度と……絶対に逃げられないからね♥」

 

そういうとモンモランシーは人目も気にせず、唇を重ね合わせて愛を確かめあう。

舌を伸ばし、口の中を蹂躙しあい……銀色の糸を伸ばしながら、唇を離す。

 

「新しい同僚が出来る度……サイトの雌が増える度に嫉妬してたら切りがないわ♥だから私のいないところで貴方が浮気しても気にしないことにする……分かった?」

 

色っぽく、くすりっと笑うモンモランシー。

 

「それと……その媚薬、よく官能小説とかで出てくる感度を高めるといった効果はないから注意して。単純に飲んだ人の繁殖欲求を高めるだけの極々普通の媚薬だから」

「オーケー、分かった。俺にとってはそれだけで十分だ」

「あら、凄い自信ね。伊達に女を二人落とした訳じゃないと」

 

まぁな、とモンモランシーに答えながら俺は秘薬一式もモートソグニルに詰め込み、その背に乗る。

乗り心地は……うん、普通の馬と変わらない。これなら大丈夫そうだ。

最後にモンモランシーの方に振り向き。

 

「行ってくる!」

「行ってらっしゃい……パーパっ♥」

「ぶっ……イダッ!?」

 

驚きのあまり、馬から転げ落ちてしまった。

そんな俺の様子を見て、モンモランシーはケラケラと笑っており、「冗談よ」と声をかけてくれる。

い、いやぁ……あれ冗談には聞こえなかったんすけど……この世界のことはまだよく分からないけど、もしかして精度の高い妊娠検査薬でもあるのかなぁ?

だったら……うん、あり得なくもないけど、今は考えるべきではないか。

 

「……行ってくる!」

「行ってらっしゃい、頑張ってきなさいよー」

 

モンモランシーの声援を背に、俺はモートソグニルを走らせた。

目指すはガリア、気合い入れなくちゃな!

 

 

 

side アイーシャ

 

族長……父が伝書鳩を出して早一日、私達が使う伝書鳩は『精霊の力』を借りて強化されている為、ちょっとやそっとの距離ならば一日程度で手紙を届けてきてくれる。

確か、『偉大なる』オスマンは現在、この土地から遠く離れた場所で教鞭を振るっていると父から話を聞いたことある。

だとすれば伝書鳩でも二、三日、直接の使者ならば更に時間が掛かるだろうが……それでは時間が足りない。

私“達”の目的である私達翼人と村人の和解、共存を達成するよりも確実にオスマン氏の返事が届く方が先だろう。

勿論、良い返事が返ってくるとは限らないけど……それでも私達の目的が達成される確率よりは、ずっと高い。

どうしましょうか、と……私は恋人の顔を思い浮かべながら羽の手入れを続ける。

 

 

 

私と恋人……ヨシアとの出会いは、こうして諍いが始まるよりもずっと前……一年ほど前まで遡る。

その日、私は『大いなる意思』に捧げる供物として必要になる花……もっと正確に言えば、花の蜜を探していた。

この辺りでは見当たらない赤い花を探して、ずっと森の中を飛んでいると……突然、人の呻き声が聞こえてきた。

その声は部族の者の声ではなく、直ぐに近くの村の人間の声だと分かった。

父からは人間に近づくな、多くの人間は我々のことを恐れている、例え善意からの行動であろうと無下にされる可能性が高いから関わらない方が私の為だと教えてこられたが……そんなこと私には出来ない。

だってこんなに苦しそうな声を聞いてしまったら……私は私のことを嫌いになってしまう。

自分の為に他人を見捨てた巫女失格の女だと嫌いになってしまうだろう。

つまるところ……私がヨシアと出会ったのは、そんな自己満足からであり、でも……その出会いは正しく運命の出会いでもあった。

私の姿を見たヨシアは酷く驚いた様子で怖がってもいたようだったが……私が敵意がないこと、そして彼のことを心配しているのだと分かると、どんどん恐怖心は失われていき、最終的には。

 

「……怖がってごめんよ。僕、君のことを勘違いしていた。君は僕の想像しているような怖い存在じゃなくて……天使だったみたいだ」

「天使?」

「あっ、天使っていうのはね……」

 

動物に襲われたらしく、血だらけだった右足は私の『精霊の力』ですっかりと癒えており、立ち上がって天使がどういうものかヨシアは教えてくれた。

……どうやら天使というのは人間達が信じているブリミル教?の教典に出てくる純白の羽の生えた無性の亜人のことを指すらしい。

天使はブリミルとやらの使いであり、良いことをした者の魂を天国へと運び、また人々に祝福を齎す存在なんだ、とヨシアは嬉しそうに語ってくれた。

……ふふっ、ブリミル教のことはよく分からないけども……そんな凄い人?に例えられるなんてなんだか、ちょっとだけ嬉しいわ。

 

「それでね……あっ、もうこんな時間か」

「あら本当、貴方の話を聞いてたら……すっかりと時間が過ぎてしまったわ」

 

楽しそうに本の内容を語るヨシアの話を聞いている内に日はすっかりと落ちていた。

嘘、そんなに時間が経っているとは思わなかったのだけれど……楽しい時間が過ぎるのは本当に早くて困ってしまう。

そろそろ帰らなくては父や姉に心配されてしまう、と思い、急いで羽を広げようとするが……突然、ヨシアに腕を捕まれ、止められた。

いったい、なんだというのだろう?と不思議な顔をして、ヨシアを見つめると。

 

「……あ、あの。良かったら……また会えないかな?」

「えっ……?」

 

彼は……本気で言っているのだろうか?

私は翼人で、彼はただの人間。種族は違うし、時には争うこともあるのに……でも。

 

「……えぇ、構わないわ」

「ほ、本当かい!?」

 

何故だか、私はその言葉を信じたくなってしまった。

 

こうして私とヨシアの関係は始まった。

お互いに分からないことだらけで、種族も違う為、困ることも多かったけど、彼との関係は私の空白の人生に多くの彩りを与えてくれた。

例えば、ヨシアが教えてくれる本の話。

例えば、彼と共に森で一番高い木の上から見る空の移り行く様。

例えば、二人で夜に抜け出して……星空を見ながらの語らい。

例えば、夏の水場でパシャパシャを水遊びをしたり。

例えば……二つの満月の一番大きな夜、彼はブリミルに、私は『大いなる意思』に愛を誓い……繋がりあったあの日の記憶。

たった一度だけの関係だけれど、私の心は満たされ……彼と共に生涯を過ごしたい、そう思うには十分であった。

だけども、あの日から変わってしまった。

 

彼曰く、村人が収益を増やそうとライカ欅を切ろうとしたあの日。

私は姉の説得もあって何とか仲間を説得して、話し合おうと思わせることには成功した。

だけど……話し合おうと地面に降りようとした瞬間、彼らは私達に矢を射ってきたのだ。

それにより多くの仲間は怪我をし、中には何ヵ月も飛べなくなるほどの怪我を負った者もいた。

結果、仲間達の人間……正確に言えば、村人への悪感情は増大し、比較的穏健派であった姉も強硬派に転じるハメとなった。

……ヨシアも村人を説得しようとしてくれたらしいが、体の細い彼の言葉を村人は臆病者の言葉として無視してライカ欅の森へ出向いたという。

出来れば、もっと力強く説得してほしかったのだが……私が彼にそれを問い詰めると。

 

「だって君達は魔法を使えるんだろう?なら放っておいても兄さん達は無理だと悟ると思ったんだけど……まさかこんなことになるだなんて」

 

そんな言葉を返してきた。

あぁそうだ、彼は精霊の力を……彼のいう魔法の使えない平民だった。

ならば、自分の持たない力を過信しても可笑しくはない……のだろうけど。

私は……貴方のことを、私の姿を見ても怖がらない、勇敢な人間だと、過大評価しすぎてしまったのだろうか?

 

 

 

そんな風に考えを巡らせていると……突然、『巣』の外から大きな声が響いてきた。

この声は……確か、ヨシアのお兄さんの声だ。どうやらまた私達に森から出ていけと喚き立てている。

不味い、新しい『巣』が見つかるかもしれないから皆、まだ落ち着いているけども、過激な人達がいつ精霊の力を借りて反撃しても可笑しくはない。

 

「……直ぐに止めないと」

 

私は羽の手入れをやめ、急ぎ羽で仲裁へと向かった。

 

外に出てみると、私達の『巣』である大木を囲むように村人は陣取っており、その手には斧や弓といった武器を持って、大声で聞くに耐えない罵倒で私達を罵りながら出ていけと命令していた。

それに対して……。

 

「黙れ、虫ケラ共が!!後から入ってきては森を貪る害虫共に指図される謂われはない!」

 

……こちらも同じように聞くも耐えない罵倒で返していた。

ガザル姉さんを中心とした過激派は、いつ反撃に出ても可笑しくはない様子だ。

一発触発といった危険な雰囲気……不味い、どうにかして止めないと……うん?

 

「っ!」

「ヨシア……っ」

 

村人の方に視線を向けると、村人のリーダー格だろう青年の隣にいるヨシアの姿を発見した。

一瞬、ついに彼も村人側に着いたのかと思ってしまったが……そうではないようだ。

彼の手には武器のようなものはなく、仕切りに落ち着いて、今日は話し合いに来たんだろう?といった言葉が聞こえてくる。

ならば……私は彼にアイコンタクトで村人の注意を引いてくれと合図を出す。

それに気がついた彼は小さく頷き、村人達の前に出て。

 

「皆、落ち着けって!今日は翼人達と話し合いに来たんだろう!?そんな喧嘩腰じゃ話し合いも何もないって!」

「でもよう、ヨシア!?」

 

私達にも聞こえるよう大きな声でそう言った。

……最も、完全に頭に血が昇っている姉達には聞こえないようだが……降りるなら今だ。

ヨシアが注意を引いてくれる内に私は地面に降り、村人達と同じ目線に立つ。

よしっ、これなら多少は悪感情を押さえてくれる筈だろう、後は話し合うだけだ。

 

「皆さん!聞いてください!私は……争うつもりはありません!」

「……っ!ほら、皆!翼人にも僕らと話し合おうと思ってくれている人が」

 

──次の瞬間。

 

「降りてきたぞ、殺せ!!」

「ぶっ殺せ、森を取り戻すんだ!」

「やっぱり頭の出来は鳥と変わらねぇみてぇだな!」

「狩って煮て喰っちまえ!!腹ん中に入れば鳥と変わりゃしねぇ!!」

「…………っ」

 

村人達はヨシアの話を聞かず……目の前にいたヨシアを押し退けて、私へ向かって突撃してくる。

仕方がない、あまり争い事に精霊の力を借りたくないのだけれど……私は黙って殺される程、お人好しじゃない。

 

「森よ、大いなる森よ、我の身を守りたまえ」

 

目を瞑り、私と契約を行っている森の精霊に訴えかけ、その力を借りる。

私の身を守るだけの力を、精霊の力を借りぬ、あらゆる攻撃を跳ね返す……それだけの力を私は引き出して、その時を待つ。

あぁ、これでまた村人との関係が悪くなるわね。やっぱり前に出てきたのは失敗だったかしら?でも最悪の結果を考えれば、このタイミングでしか話し合いは行えない……うん?

……可笑しい、いつまで経っても攻撃を弾き返す感覚がこない。

まさかとは思うが、私が詠唱したことで怖がって逃げてくれた……とか?

ゆっくり、目を開けると……そこには。

 

「何してんだ、テメェラ……!」

 

私の目の前には一人の……見たことのない少年がいた。

彼は見たことない服を纏い、手には巨大な剣を持っていることから恐らく平民だろうと理解できる。

でも……なんでこんなに。

 

「武器も持ってない女の子囲んで……何するつもりだ、ゴラァァァアアア!!」

 

出会って間もない私のために……怒ってくれているのだろう?

 

──きゅんっ♥

 

そんな逞しい背中を見ながら……私は今まで感じたことのない、不思議な気持ちを体の何処かで感じていた。

 

 

 

side サイト

 

亜麻色の髪と翼を持つ女の子を背に俺は目の前の男達と対峙する。

どうやら連中は突然、空から現れた俺に警戒しているらしく、どうすればいいのか攻めあぐねているようだ。

ド派手に登場した効果が覿面……と言ったところか。…………別に好き好んでド派手に登場したわけではないが。

 

「おい、モートソグニルの旦那よ。わざわざ相棒を空の上から落とすことねぇだろ」

「仕方がないだろう、お前の相棒は無謀にもあの女の子を直ぐに助けたい……等というのだからな」

 

そう俺はモートソグニルに突き落とされ、わざわざこんなド派手な登場をする嵌めになったのだ。

モートソグニルから翼人の少女が村人に囲まれていると聞いた俺はこいつの言う通り、助けたいと願った。

……そこまではいい、いいんだ。だけども、それを聞いたこいつは俺の正体がバレない為にと高速で……地面にぶつかるんじゃないかといった勢いで下降し、地面ギリギリのところでネズミの姿を取り、俺のことを空に放り出しやがった。

ギリギリでデルフのことを握れたから良いものの、もう少し遅れていたらクレーターが出来る代わりに真っ赤な潰れたトマトが地面一面に広がっていた筈だろう。

……と、それよりも。

 

「武器も持ってない女の子囲んで……何するつもりだ、ゴラァァァアアア!」

 

今は女の子を守る方が先決だ。

大声を出し、縮こまっている様子の村人達を威嚇する。

すると、調子を取り戻したのか、連中は顔を真っ赤にして。

 

「そいつは化け物だ!」「殺せ、ぶっ殺せ!」

「ただの鳥のくせして人間様に逆らうんじゃねぇよ!」「森から出ていけ、化け物が!」

 

……そんな罵詈雑言を後ろにいる女の子に投げ掛けてくる。

成る程な、こいつらが例の村人か。

連中の目はこちらの世界で度々俺に向けられた憎悪や畏怖といった目とはまた違う。

どちらかと言えば“仕事”の時に見た宝物庫を目の前にしたマチルダに近いが比べるのも烏滸がましい……所謂、多額の金銭に眩んだ汚い瞳。

そんな汚い連中がこの子達の住み処を奪おうとしているだなんて腹正しい、思わずデルフを持つ手に力が籠る。

 

「そいつも化け物の仲間だ!殺せ!!」

 

誰かがそんな大声を出すと同時に堤防が崩壊したかのように、一斉に村人が襲い掛かってくる。

……っ、どうするか。メイジ相手なら杖を狙うのだが。

 

「気を付けな、相棒。今回のお前の仕事は村人を傷付けることでも、翼人を守ることでもねぇ。こいつらを傷つけると後々面倒だぞ」

「分かってるよ!」

 

襲い掛かってくる村人を捌きながら……俺はリーダー格の村人を探す。

『滝壷』との戦い……正確に言えば、その前の守衛達との戦いで分かったが、集団が相手ならばまずリーダーを潰すのが一番良い。

大半の人間は頭に……リーダーに従う生き物だ。そのリーダーを機能停止に追い込めば──いた!

他の村人よりも一回り大きく、一番大きな声を上げているあの男がリーダーなのだろう。

なら!

 

──ドンッ!!

 

「はや……っ!?」

 

村人の包囲を突破すると同時にリーダーと思わしき男の懐に潜り込む。

いきなりのことで他の村人は反応できなかったようで、急いで俺に武器を向けるも……もう遅い。

 

「──ジャアッ!!」

「がっ……!?」

 

デルフの柄を思いっきり、その無防備な腹に叩き込む。

小さく声を漏らすと同時にリーダーは前に倒れ込み……地面に横たわる。

そんなリーダーの姿を見てか、さっきまで血気盛んだった村人達は明らかに困惑しており、戦いどころの雰囲気ではなくなっていた。

よしっ、これなら駄目押しに。

 

「見ての通り、お前達のリーダーは倒れた!これ以上やるつもりなら俺だって手加減はできねぇぞ!」

 

キッ!と村人を睨み付ける。

その気迫に押されたのか、はたまた自分達の不利を悟ったのか、村人達は倒れたリーダーを抱えて森の奥へ撤退する。

最後に残った木こりとは思えない細い男も……何処か、後ろ髪引かれる様子で。

 

「……っ」

「ヨシア……!」

 

その場から去っていった。

……ヨシア?それがあの人の名前なのだろうか?

後ろを振り向き、俺が助けた翼人の女の子に話を聞こうとし……おぉ。

 

「……ありがとうございます、貴方は……その何者ですか?何故、私を助けてくれて?」

 

襲われていると聞いて、気が気じゃなかったからよく分からなかったが……どうやら彼女は凄い美人のようだ。

腰まで伸ばした綺麗な亜麻色の髪と、肩から生える同じ色の翼に加え、瑠璃色の瞳がその整った顔をより輝かせている。

何よりも目を引かれるのは胸のサイズだ。体を軽くする為か、彼女が着ている服は布一枚だけなのだが、それに収まるとは到底思えない大きな胸。

キュルケ以上はあるんじゃないか?これ。

 

「……どうかしましたか?」

「な、なんでもない!俺はオールド・オスマンの使いの者で、君達と話に来たんだけど……」

 

その名前を出した瞬間、目の前の彼女の顔は口を両手で隠しながら驚いた。

 

「まぁ!オスマン様の!?」

 

森中に響き渡るその声を聞いたのか、ガサガサと目の前の大木の上から続々と他の翼人が顔を覗かせる。

どうやら族長と古い友人ということもあってか、オールド・オスマンの名前は翼人の間では広く知れ渡っているらしい。

だが、その顔は皆一様に猜疑的なものであり、俺が本当にオールド・オスマンの使いか疑っているようだ。

 

「信用できない」「証拠はあるのか?」「そもそもあいつは誰だ?」

 

ほら、やっぱり。

どうすれば信じてもらえるだろうか?頭を捻らせていると……突然、俺の懐にいたモートソグニルが顔を出し、翼人達のことをじっと見つめる。

その瞬間、一同に俺を疑っていた翼人達の様子が変わった。

 

「その白いハツカネズミは……まさか!?」

「首元に異教の刻印もあるぞ!間違いない、オスマン氏の使い魔、モートソグニル殿だ!」

「あの少年が本当にオスマン氏の使いだったとは……」

 

鼠に俺の信用度負けるんかい。

いや、翼人達の間ではオールド・オスマンとその使い魔の名前は広く知られているようだし、仕方がないと言えるんだけども……なんだか微妙な気持ちだ。

 

「了解した!我々は貴方を正式な使者として迎い入れよう!アイーシャ様、使者殿を我々の『巣』へお連れくださいませ!」

「分かったわ」

 

アイーシャ?この子の名前か?

しかもわざわざ様付けで呼ばれているところを見ると、かなり地位の高い子なのだと理解できる。

アイーシャは俺に向けて手を差し伸べて。

 

「使者様、お手を握りください。一気に樹上の『巣』までご案内します」

「分かった、それと俺の名まうわぁぁあああっ!?」

 

握った瞬間、俺の体はまるで羽のように軽くなったかと思うと一気に空を飛び、樹上の……まるでツリーハウスみたいな家に着陸した。

お……驚いたぁ、アイーシャって思ったよりも力あるみたい……いや、違うか。

 

「ふふっ、驚きましたか?精霊の力を借りて使者様の重さを消して、一気に空を飛んだんです。こんなに早く空を飛ぶの、初めてでしょう?」

「あ……あぁ、驚いたよ。これが先住魔法って奴か……いや、君達は精霊の力って呼んでるんだっけか?」

 

オールド・オスマンに言われたことを思い出しながら感想を答える。

翼人やエルフ等の一部の亜人は先住魔法と呼ばれる詠唱を必要としない魔法を得意とするらしい。

正確に言えば、魔法ではなく精霊に力を借りているだけなので魔法とは全く、別の体系の技術らしいけど……説明されても、俺にはよく分からなかった。

 

「それにしても……凄いな、ここ」

「……そうですか?これでも小さい方だと思いますが」

「いや、君達からしたらそうなのかもしれないけど……俺からしたら新鮮そのものだよ」

 

鼓動を早めていた俺の心臓も落ち着きを取り戻し、辺りを見渡す余裕が出来る。

ツリーハウスから見る光景は……俺の想像とは全く違う世界だった。

この大木にある大きな家を中心に囲むように大小様々な家が樹の上に存在していた。

地面……といって良いのか分からないが、ともあれ地面に視線を向ければ、何百本もの蔦がしっかりと絡まりあうことで、この幻想的な風景を産み出す土台になっている。

正しく、文化の違う光景を目の当たりにし……改めて、俺は異世界に来たのだと実感できた。

そんな風に俺が感傷に浸っていると……バッサバッサと羽ばたく音が聞こえてくる。

いったい何なんだろうか?と音のした方へ視線を向けてみると。

 

「うわっ!?」

「使者様はどこだ!?」

「おぉ!貴方がオスマン氏の使者の……私は歴史研究に携わっていますモリーと」

「それよりも新しい木は見つかったのか!?」

「何処にあるですか?ここから離れた場所に?それとも意外と近くだったり!?」

 

気がついた瞬間には老若男女、様々な翼人に囲まれた。

皆、一様に俺に訪ねるは新しい木が見つかったかどうか……いや、一部変なのも混じっている気もしなくもないが。

ともあれ、俺も何とか答えようとするも翼人達の勢いに押されて答えられなかった……が。

 

「やめんか、貴様ら!使者殿に失礼だろう!」

「も、申し訳ありません……新しい木が見つかったのかと思うと……つい」

「気持ちは分からんことはない、だがまずは族長の下へ使者殿を連れていくのが先だ」

 

凛とした声が響き渡り、それを聞いた翼人達は散り散りに飛んでいく。

そして残ったのはここまで案内してくれたアイーシャと、そのアイーシャとは対照的な荒々しい雰囲気を纏う少女だった。

亜麻色の髪を短く刈り込み、胸はルイズやタバサの方がまだあるんじゃないかと思うくらい平坦ではあるが、身長はずっと高く、服の上から分かるほどに筋肉が付いている。

女戦士(アマゾネス)、そんな言葉が似合う彼女は深々と俺に向けて頭を下げ。

 

「使者殿、先程は失礼なことを。あいつらも新しい巣が見つかったと……子供を育てられると喜んでいるだけなんです、ご容赦ください」

「い、いえ!別に気にしてないっすよ!だからその……お姉さんも気にしないでください」

「感謝致します……アイーシャ!私は父上に使者殿が来たことを伝えてくる、お前は使者殿の案内と接待を!」

「分かりました」

 

アイーシャに案内を命じる。

うーむ、髪と翼の色からしてアイーシャの姉妹かなんかなんだろうが……似てないな。

何処がとは言わないが、アイーシャとは大違いだ。

 

「……?どうかしましたか?」

「あぁいや、なんでもないよ」

 

大きなスイカをぷるんっ、と揺らしながら訪ねてくる。

危なかった……どうやら胸に視線が行っていたことは気付かれていないようだ。

 

「さっきのは君のお姉さん?」

 

アイーシャに案内されながら俺はそんな質問を投げ掛ける。

……にしても凄いな、この家。全部木製で出来ていると言うのに繋ぎ目が全くない。まるで木が家の形に成長したようだ。

そんな俺の様子を見て、アイーシャはクスクスと笑いながら質問に答えてくれた。

 

「はい、先程のは私の姉であり戦士長を勤めているガザルと申します。狩りの腕は集落でも随一なんですよ?」

 

やっぱりお姉さんだったのか。

というか、戦士長って……うんっ。あの筋骨隆々な姿を思い返せば納得できる。

あれで巫女さんとかだったら、逆に驚きだ……っと。

 

「着きましたよ、どうぞお入りください」

 

もうついたのか、族長の部屋に続くと思わしき扉は他の木製の扉とは違い、鉄で出来ていた。

他の部屋と比べても雰囲気も合間って威圧感は段違いだ。

間違いなく、この中に翼人達を治める族長がいるのだろう。

 

「失礼します」

 

緊張した面持ちで部屋の中に入った。




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