ハーレム王サイト 作:ライオン@5
奉公人の間で噂になっている話……ミス・モンモランシーとサイトさんが付き合っているという噂は本当だった。
あの日、オールド・オスマンから任された仕事をサイトさんが終えて帰ってきた日、私はお二人が愛し合っている姿を目撃してしまった。
しかもミス・モンモランシーとだけではなく、ミス・ロングビルも混じって彼と愛し合い……その精液を腹に受け止めていた。
あぁ、なんと羨ましいのだろう……彼の逞しい肉棒を受け止め、愛を分け与えられる姿を見て……私はそう思ってしまった。
そして同時に感じたのは……ミス・モンモランシーへの嫌悪感だ。彼女はミス・ロングビルがサイトさんと愛し合うのを認めており、それはつまり自分だけでは彼の愛を受け入れられないと言っているようなものだ。
――馬鹿げている、女ならば愛した男の愛を一人で受け入れるべきではないのか?他の女に男を取られて悔しくないのか?
彼女には彼女なりの考えがあるのかもしれないが……二人の、本当にお互いを想い、愛し合っているのだという姿を見てしまうと自分の入る隙がないのが分かってしまい、どうしてもそんな理不尽な怒りをぶつけてしまう。
だから……だからせめて。
「……何処にいるのかしら?」
ほんの少し……欠片でもいいから、彼から愛を与えられるチャンスがあるのなら掴んでみせる。
その日の朝……両手にサンドイッチが入ったバケットを抱えながら、私はサイトさんの姿を探して学院中を走り回っていた。
別に何か特別な材料を使っている訳ではない、貴族様達の朝食を作った時に余った材料を使った……極々、普通のサンドイッチ。
だけど、サイトさんへの想いを込めた特別なサンドイッチ……これを彼に食べてもらいたいと思い、姿を探しているのだが、何処にも見当たらない。
この時間帯はいつも水汲み場にもいる筈なのに……いったい、何処にいるのだろう?
そんなこんなで学院中を歩いていると、私は入り口門の前まで来てしまった。
「……こんなところにサイトさんがいる筈ないわ、他のところに──へっ!?」
い、いたっ!白い馬に荷物を積み込んでいた彼の姿がそこにあった。
なんでこんなところにとか、何をしているのかとか……色々と疑問はあったが、そんなのは関係ない。
直ぐに彼の下へ向かおう――とした足は直ぐに止まった。
「あれは……ミス・モンモランシー?」
私がサイトさんの下へ向かうよりも先に両手に瓶のような物を詰め込んだ袋を抱えたミス・モンモランシーが現れた。
いったい、どうしたのだろう?思わず、物陰に潜んで二人の同行を探ってしまう。
二人は一言、二言話した後。
「……っ、奉公人の目もあるというのに」
抱きつき、唇を重ね合わせる。
頬を赤めて、目を蕩けさせた姿は誰が見ても男と女の関係……いや、それ以上のモノだろう。
「ぐ……ぐぐぐ……っ!」
羨ましい、羨ましい羨ましい羨ましいっ!!
私だってサイトさんとはあんな風にキスしたことないのに……ミス・モンモランシーばかり彼と愛し合って!!
どうして……どうしてこんなっ!ミス・モンモランシーは貴族じゃないですか!貴族なら貴族同士で恋愛すればいいじゃないですか!
私から……平民から、同じ平民を愛する自由すら奪うなんて……酷い、です……っ。
思わず、両手に力が入り……ぱきりっ、バケットが潰れて中のサンドイッチが潰れた。
「……いや、でも」
……これは、チャンスなんじゃないか?
二人のキスした場面は私以外にも多くの奉公人が目撃している、ならば。
どんどん……どんどん、彼を私のものにする計画が頭の中で構築されていく。
「ふふっ」
これなら……行けるかもしれない。
もしもサイトさんと付き合っている貴族がミス・ヴァリエールやミス・タバサだったら、この作戦は成り立たなかった。
その点だけ彼女に、ミス・モンモランシーに感謝しても構わない。
「恨むなら……貴方に恋人がいたことを恨んでください、ミス・モンモランシー」
さぁ、そうと決まったらまずは料理長に相談しなくては。
胸の奥で燻る嫉妬の炎を押え、私は厨房へ駆け足で向かった。
「マルトーさん!明日、お休みを頂いてもよろしいでしょうか!?」
厨房へつくと同時に私はマルトーさんの下へ急ぎ、休暇を申し込む。
滅多なことじゃ休みを貰わない私が休もうとするのが珍しいのか、マルトーさんは一瞬、不思議そうな目をするも。
「休み?別に構わないけどよ……それよりお前が作ったサンドイッチは我らが剣は気に入ってくれたか?」
直ぐに料理の話題に移り変わる。
う、うーん……なんというべきでしょう?嫉妬を抑えきれず、サンドイッチを潰したというのは厨房を貸してくれたマルトーさん達コックへ申し訳ありませんし……ここは適当に誤魔化しますか。
……食材を無駄にして本当に申し訳ありません。
「はい、すっごく美味しそうに食べてくれました。ふふっ、あんなに食べるようならもっと持っていけば良かったかしら?」
「流石はシエスタだ。この調子であいつの胃を掴んで物にしちまいな!」
どうやらマルトーさんは例の噂を知らないのか、快活に笑いながら私の背中を押してくれる。
ふふっ……それならばその言葉、たっぷりと利用させてもらいましょう。
「応援、ありがとうございます!それじゃあ明日はよろしくお願いしますね?」
「おう、任せときな。……で?明日休んでまで何作るつもりなんだ?必要なら若い連中の手、貸してやろうか?」
流石は料理人、私が何か作ろうとしていることはお見通しのようだ。
……最も、何を作ろうとしているのかまでは分からないようで、ちょっとだけ安心する。
「いえいえ、必要ないです。必要な食材も大した量ではないですし、特別な行程が必要という訳でもないですから」
「てことは年末に奉公人連中に作ってくれたヨシェナヴェってシチューじゃねぇのか」
ヨシェナヴェとは私の故郷に伝わる料理の一つだ。私のお爺ちゃんが教えてくれた料理の一つで豚肉や魚肉、他に山菜やキノコ等をふんだんに作ったシチュー料理。
それを年末の長期休暇に学院にいた奉公人の皆に振る舞ったら大好評だったのは良い思い出だ。
ヨシェナヴェでもいいんですが、シチュー故に大量の量を作らないといけない。そんなに沢山作ったら『例のもの』が薄まってしまい、私の作戦に支障が起きてしまうだろう。
「それじゃあ失礼します、お昼の仕込み頑張ってください」
「そっちこそ頑張れよー」
マルトーさんの許可も得て、私はその場を去る。
さて、後は彼のことを見つけるだけだが……上手い具合に凹んでくれているといいのだけれど。
「うう……モンモランシー、モンモランシー……っ」
いた、というか普通に遭遇した。
貴族様達が使っているベッドシーツを回収するために女子寮を回っている途中、彼……ミスタ・グラモンは頬に紅葉を作って床に伏せて、しくしくと床を濡らしていた。
「あの、大丈夫ですか?」
濡れタオル片手に訪ねてみる。
私が声をかけるとミスタ・グラモンは直ぐに涙を止め、いつものキザっぽい彼に戻る。
「ふっ……僕としたことが君のようなレディに心配されるなんてね。失礼、君の名前は?」
「メイドのシエスタです、以後よろしくお願いします」
濡れタオルを差し出すと、彼はそれを受け取り、真っ赤に染まった頬を冷やす。
かなり強めに叩かれたようで、春の冷たい水で少し触れただけで痛い、痛いと言葉を漏らしていた。
……ふふっ、これは結構絞られているようですね。これならば丁度良い。
「いったいどうなさったんですか?こんなに酷く折檻を受けるだなんて……まさか、また浮気を?」
「浮気?浮気だなんてとんでもない、いいかい?シエスタ?僕という薔薇は君達のような麗しい女性を楽しませるためにあるんだ、それを浮気だなんて言っちゃいけないよ」
「あら、そうですか。では私はこれで」
わざと呆れたような顔を見せて、その場を去ろうとする。
すると予想通り、ミスタ・グラモンは服の裾を持って私のことを止めてきた。
「まぁ待て、もう少し僕の話を聞いていかないかい?後悔はさせないよ」
「……仕事もあるので少しだけ、でよろしければお付き合いします」
その言葉を聞くと、ミスタ・グラモンの表情はぱぁぁ……と明るくなり、なんで自分が床に伏せていたか、頬に紅葉を作ったのか語ってくれる。
話を要約すると、女性を口説いている姿を今仲良くしている子……ミス・ロッタに目撃されて怒られ、引っ叩かれたらしい。
うん、どう考えてもミスタ・グラモンが悪い。だけど平民の私が意見するのもあれですし、何より意見して機嫌を悪くさせたら私の計画にも支障が出る。
ここは出来るだけ煽てておきましょう。
「まぁそれは酷い。ミスタ・グラモンは何も悪くはないじゃありませんか」
「ふふっ、そうだろうそうだろう?僕の価値を分かってくれるのはシエスタ、君のような心優しい女性だけだよ、どうだい?今夜にでも遠乗りして星が綺麗に見える湖でゆっくりと……」
「それはご遠慮させていただきます、私のような平民よりミス・モンモランシーを誘ったらどうですか?」
ここで敢えて、ミス・モンモランシーの名前を出すと、ミスタ・グラモンは気まずそうな顔をして、顔を伏せる。
「じ、実はね?モンモランシーとは……その、別れたんだよ。よりを戻そうとしても、彼女は相手してくれないし……」
「まぁあんなに仲が良かったのに!?」
大袈裟に声を出して、口を両手で隠して意外であるとアピールする。
すると、私という理解者を得てか胸の内に溜まっていたミス・モンモランシーへの不満が爆発した。
「そう!聞いてくれ、シエスタ!予々思っていたんだが、最近のモンモランシーは僕に冷たすぎないかい!?前は浮気したとしても、会話くらいはしてくれたのに最近は会話すらしてくれない!一切の無視だ!」
「あらあら、お可哀相に……いったい何故でしょうか?ミス・モンモランシーに他の男の方が出来たとか?」
ふふふっ、いい感じだわ。
後は同情しているように見せ掛けつつ、私の望む言葉が彼の口から出るよう誘導する。
さぁお膳立ては済んだわ、早く彼の名前を出してちょうだい。
「モンモランシーに他の男が……?んー、そういえば最近、レイナールと仲良いような……」
違うそうじゃない、もっと仲の良い人がいる筈でしょう。
元とはいえ恋人なら気がついたらどうなんですか……仕方ない、もっと直接的なアプローチをしてみますか。
「サイトさん……ミス・ヴァリエールの使い魔の彼とかどうですか?結構、仲良いように思えるんですが」
「使い魔君と?」
それを聞いたミスタ・グラモンはあり得ないと言いたげに、大声で笑い始めた。
「アッハッハッハッ!!面白い冗談だね、確かに使い魔君とも仲良いみたいだけど、それだけはあり得ないよ」
「なんでですか?普通、あれだけ仲が良いのなら付き合っていると考えても可笑しくはないと思いますが……」
「確かにフーケの一件以来、モンモランシーと使い魔君は仲が良い。だけども、彼とモンモランシーには絶対的な差……貴族と平民という立場の差があるのだよ。立場を越えた恋愛なんて小説の中でしかありえないさ!」
小説の中でしかあり得ないというのなら、そちらの方が私としては助かったんですがね。
サイトさんを狙うライバルも少なくて済みそうですし……ただ現実はそう上手くいかない。
ミス・モンモランシーとサイトさんが付き合っているのはこの目で確認済みですし(少なくとも深い関係なのは間違いない)、それどころかミス・ロンクビルとも深い関係だ。
うーん、この様子だとお二人が付き合っていると言っても、効果はない……ですかね?
……一応、伝えてみるか。
「本当にそうでしょうか?奉公人の間ではお二人は付き合っていると噂になっているのですが」
「……へっ?」
おや?ミスタ・グラモンの様子が……?
「確かに立場的な問題はありますが、それを考慮してもお二人の距離は近すぎると思うんですよね。知ってますか?ミス・モンモランシーって彼と会うまでは一度もサボらなかったのに、彼とあってからは時々彼と一緒に授業を抜けているそうなんですよ?」
「だ、だから二人が付き合っていると?ふっ……あり得ないね、うん、あり得ない」
どうやらミスタ・グラモンは彼女の異変について何も知らなかったようですね。
ここは目を丸くしている彼へトドメの一撃として二人が付き合っているという証拠を更に突き付けてみますか。
「そういえば同僚から聞いたのですが……あのお二人、今朝正門前でキスをしていたそうですよ?しかも舌まで入れて……随分と親しそうだったとか」
「は……ははっ、そうかそうか……」
その言葉を聞いたミスタ・グラモンの目は虚ろとなり、その場を離れようとしていた。
「おや?ミスタ・グラモン?どうかしましたか?」
「ルイズに使い魔君が何処にいるか、聞いてみるよ。うん、別に他意はないんだよ?ただちょっとだけ気になってね?」
どうやら作戦成功のようですね。
くすりっ、と小さく笑い、ミスタ・グラモンへ頭を下げて、その場を去る。
これで仕込みは整った、後は“材料”を調達してくるだけ……ふふふっ、待っていてくださいね?サイトさん♪
side サイト
仕事……翼人達の引っ越しの手伝いを終えた俺はその足で学院に帰ってきた。
いやぁ、大変だった。オールド・オスマンが話をつけてくれたから楽に終わったけど、狩人と遭遇した時なんてまた問題が起きるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。
でもまぁ、あの様子だと村の人達とも仲良くやれそうだし、俺的には一安心だ。
下手に人間との関係を悪くしたらアイーシャとの逢引も儘ならないだろうし……っと、そんなことをしている内にルイズの部屋までついたようだ。
この無駄に長い階段も考え事をしていれば直ぐに登り終わってしまう……いや、俺に体力が着いてきただけか?
まぁどちらでもいいか、まずはルイズに挨拶して使い魔としての仕事を終わらせてから、モンモランシーに会いに行こう。
「ただいまー」
「お帰りなさい、今回はどんな仕事してきたの?」
ありゃ?うちのご主人様にしては珍しい。
まさか俺がどんな仕事をしてきたか気にしてくれるとは……別に今回は構わないが、マチルダの仕事手伝った後、どんな仕事してきたか聞かれると厄介だな。
まさか盗みの手伝いをしてきたとか言えないし……。
「爺さんの古い知り合いの手伝いをしてきただけだよ、この近くに引っ越すらしいから元の家からここまで俺に護衛をしてほしいって」
「……ふーん?」
う……嘘は言ってないぞ?
流石に翼人の引っ越しの手伝いをしたなんて言えないから煙に巻いた言い方だが……本当のことだしな。
でもうちのご主人様は何か気に入らないようで。
「……あの子はきちんと授業出てたし、嘘じゃない……わよね?ならいいか」
あの子?授業?何のことだ?
も、もしかしてモンモランシーと俺の関係がルイズにバレた……とか?いや、ないか。
モンモランシーと逢引する時は気を使っているし、バレることはない……と思う。
でも……なんかちょっと気になるな。
「なぁ俺が仕事行ってる間、こっちでは何かあったのか?」
「別になんにもないわよ、強いて言うなら……まぁあり得ないと思うけどね?」
ルイズが次の言葉を紡ごうとした瞬間。
──ドンッ!!
「へっ?」
「うぉっ」
突然、何者かにドアが蹴破られる。
ばたんっとドアが倒れ、埃を立てながら一人の男……ギーシュが俺達の目の前に現れた。
その顔はなんでか知らないが真っ赤に染まっており、今にでも怒りが爆発しそうといった雰囲気だ。
「使い魔君!君に決闘を申し込む!!」
「はぁ!?」
へっ?決闘?えっ、どういうことだ?
俺、ギーシュを怒らせるようなことした……あっ、もしかしてモンモランシー関係のことがこいつにバレたのか?
ギーシュとモンモランシーは付き合っていた筈だし、それならこの怒りようも理解できる。
だけど今更なんで……。
「今日の授業が終わり次第、ヴェストリの広場にこい!そこで決着をつけようじゃないか!」
「い、いや!ちょっと待て!?そもそもなんでお前と決闘しなくちゃいけねぇんだ……って」
ギーシュは俺の質問に答えず、その場を去る。
残された俺達二人は唖然とした表情でお互いを見つめ、困惑していた。
「……あんた、ギーシュを怒らせるようなことした?それともあの噂、本当だったとか?」
「いや、別にしてないけど……てか、あの噂?」
いや、本当は心当たりありますが、怒られそうなので黙っておく。
てか、あの噂?さっきのルイズの反応からして何か、学院で俺に関する良からぬ噂が広まっているとか?
「……まぁ別に良いけど?ツェルプストー以外ならあんたが誰と付き合おうと私の知ったことじゃないわ」
「だから何の話だよ」
「知らないわよ、知りたきゃ自分で勝手に調べなさい」
ムカッ、なんだよその言い草。
自分で話振っておいて知らんぷりとか可愛くない奴だな。
いや、見た目だけなら好みだけども……性格が本当に悪いすぎる、もう少し可愛いげのある性格なら最高なんだけど。
「で、どうするの?ギーシュとの決闘、受けるつもり?」
「受けるよ、喧嘩売られて黙ってるつもりはないし」
何よりマチルダのゴーレムや『滝壷』と戦った今の俺がギーシュなんかに負けるとは思えないし。
そんな俺の慢心を察してか、背中で黙っていたデルフの口が開いた。
「おい、相棒。例え、格下相手だろうと慢心するのは感心しねぇな。窮鼠猫を噛むって諺もあるんだぜ?追い詰められた奴はどんな手だって使ってくる、気を付けて掛かりな」
……確かにデルフの言うことも一理ある。
この世界は魔法なんていう俺にとっては非常識なものが罷り通っている。
ギーシュが本気で俺に勝つつもりなら、どんな手段を使ってくるか俺は想像できない、油断せずに立ち向かうのが吉だろう。
「……忠告ありがとな」
「分かりゃいいんだ、分かりゃ。娘っ子の為にも負けんじゃねぇぞ、相棒」
「勿論、勝つよ。大切な奴に良いところ見せたいしな」
「ぶっ……!?」
ルイズの奴、なんで顔を真っ赤にして驚いてんだ?しかも照れたような顔で俺を睨んで……あっ、そういうことか。
さっきのは言い方悪かったな、俺はモンモランシーのことを言ったつもりだったが……ルイズからしたら自分のことだと思っても不思議ではない。
「……全く、この色男には困ったんもんだな。嬢ちゃんもそう思うだろ?」
「べ……別に嬉しくないし!?それよりあんた!そこまで言って負けたりしたら許さないんだからねっ!」
「お前に言われなくても負けねーよ」
……とりあえず決闘まで時間があるんだ。
それまでに仕事の疲れを抜いて、全力で戦えるように準備しとかなきゃな。
授業を終え(あくまでルイズの付き添い、ついでに言うと殆ど寝てたけど)、俺はいつものように厨房裏の庭に足を運んでいた。
オールド・オスマンから仕事を任されるようになったというのにルイズは俺の待遇を改善するつもりはないようで出される飯は石みたいに固いパンが一つと味がしなくもない薄いスープが一皿、たまにルイズのおこぼれを貰える程度。
そんなんじゃ育ち盛りの俺の腹は満たされない、なので他の使用人と同じように厨房裏で賄いを頂いているのだ。
……まぁ賄いといっても、マルトーさんが俺のことを気に入ってくれるのもあって、他の使用人達のよりはずっといいもの……貴族が食わなかった飯の残りだったりするんだが、その辺は関係ないので置いておこう。
「サイトさん、今日はいらっしゃったのですね」
「爺さん……オールド・オスマンから任された仕事も終わったしね、暫くの間はまた厄介になると思う」
「厄介だなんてそんな……マルトーさんから賄いを貰ってきますね、サイトさんは座って待っていてください」
「あっ、出来れば多めにしてくれるよう頼めるかな?午後に備えて力をつけないといかないし」
「午後?午後に何かあるのですか?」
あれ?シエスタは知らないのか?
目立ちたがりなギーシュのことだし、学院中に決闘のことを言いふらしてると思ったんだが……まぁいいか。
「またギーシュと決闘することになったんだよ」
「まぁ!?またミスタ・グラモンと……!?」
それを聞いたシエスタは大袈裟に驚く様子を見せる。
はははっ、心配性だな、シエスタは。俺はギーシュには勝ったことあるんだし、そんなに心配することないじゃないか。
……うん、また慢心してたな。
「……あの、そういうことでしたら、今日の昼食、私が作っても構いませんか?」
「へっ?別に構わないけど……いったいなんで?」
「実は私の地元に必勝祈願を意味する料理があるんですけどね、それを食べたら、きっと……ううん!絶対に勝てますよ!」
願掛けか……俺の世界でいう
シエスタの好意を無下にするのもなんだし、ここは素直に甘えておこう。
「じゃあよろしく頼む」
「はい!ちょっと待ってくださいね!珍しい食材を使うので時間が掛かるかもですが、絶対美味しく調理して見せます!」
「はははっ、程々にな」
さて、どんなものが出てくるんだろう?と楽しみに待っているとお盆に料理を乗せたシエスタが戻ってきた。
……これはオムレツか?いや、でも不思議と懐かしい匂い……炊いたお米の匂いが感じる。
こっちの主食ってパンとかパスタばっかりだったけど、もしかしてライスもあるのかな?
「これはクァツドゥーという私の地元の料理です。ライスの上に揚げた豚肉を乗せて卵で包んだスッゴク美味しい料理なの」
……なんというかカツ丼とオムライスの間の子みたいな料理だな。
スプーンを手に持ち、卵を破いてみると、そこには真っ白なパサパサとしたお米の姿が。
やっぱり元の世界……正確に言えば、日本の米とは違うのか。どっちかと言えばタイ米に近い品種なのかな?
とりあえず食べてみないことには始まらない、一口食べてみよう。
「あむっ……んっ!」
「ど、どう……かな?」
「これスッゴク美味しいよ!上にかかってるソースは肉の旨味たっぷりして、お米はパサパサしてるけどソースと絡み合って食べやすくなってる!」
ヤバい、お米を食べてると日本にいた頃を思い出してか泣けてきた。
……平気だと思ってたけど、案外ホームシックに掛かってたのかな?
「ふふっ、泣いてしまうなんて大袈裟ですね」
「大袈裟じゃないって!本当に美味しくて、なんだか懐かしくて……マジで美味い!シエスタ、本当にありがとう!俺にこれ食べさせてくれて!」
「ふふふっ……どんどん、食べてくださいね?まだまだいっぱいあるから」
「……まだまだいっぱいある?」
んっ?デルフの奴、いったいどうしたんだ?
ははーん?さては自分が食べられないからって羨ましがってるんだな?
「言っとくが、俺はそんなこと思ってねーぞ相棒」
えっ?心読まれた?デルフって読心術でも使えるのか?
まぁ今は気にするようなことじゃないし、別に気にしないが……。
「じゃあ、なんだよ?何か、引っ掛かるようなことでもあるのか?」
「んー、別に何がどう引っ掛かる……って訳じゃねぇんだが、あんまり飯食い過ぎるんじゃねぇぞ?腹空かしても力は出ねぇけど、腹に詰め込みすぎても力は出せねぇぞ」
……確かに、給食の後の授業とかキツかったしな。
そう考えるとデルフの言うことにも一理はある。なら一杯だけにしておいた方がこの後の為か。
「……悪い、シエスタ。君の好意はありがたいんだけどさ、デルフもこう言ってるし一杯だけにしておくよ」
「……そうですか、残念だわ。サイトさんにはお腹一杯食べてもらいたかったのに」
「け、決闘が終わったら幾らでも食べるから!勝ったときに備えて一杯飯用意しててくれ!」
「……約束ですよ?」
……うっ、涙目でこちらを上目使いで見つめてくるシエスタのお願いには逆らえそうにない。
思わず、俺はこくんっと頷き、シエスタは満面の笑みでそれを喜んでくれる。
「やたっ!それじゃあ私、いっぱい料理作って待ってるわ!期待しててね、サイトさん!」
「あ……あぁ」
……と、そんなこんなで昼休みももう終わりか。
そろそろルイズの所に戻らないと。
「それじゃあシエスタ、また夕方にでもよろしくな」
「はい、沢山料理作って待ってますから!」
んー……授業開始までに間に合うといいけどなぁ、いやここは《ガンダールヴ》の力を使ってでも間に合わせるべきか。
怒られるのも嫌だし──。
「……ちっ」
ん?誰だ今舌打ちしたの?行儀悪いなぁ……まぁ俺には関係ないことか。
授業も終わり、俺とルイズはヴェストリの広場に着ていた。
どうやらギーシュは先に着ていたらしく、待たされてか、それとも俺への怒りか顔を真っ赤に染めている。
「……あんた、本当に何したのよ?」
「いや、本当に何もしてないって。多分、あいつが勘違いしてるだけ」
「勘違いとはなんだ、勘違いとは!僕はこの耳で確かな話を聞いたのだぞ!?」
いや、そもそも何の話だよ……うん、十中八九『例』の……モンモランシーと俺の関係についてだろうけど。
そうギーシュが騒いでいると、周りにいた生徒達もなんだなんだと集まってくる。
その中にはモンモランシー、それにキュルケやタバサもおり、詳しい事情を聞く為か、俺達の方へ近づいてきた。
「貴方達、いったい何してるの?また決闘?」
「ほんとギーシュも暇ねぇ、何にそんな怒ってるのか知らないけど……勝てない戦いなら素直に諦めればいいのに」
「『恋』の戦いなのかもしれない」
「……ふむ、それならギーシュがあんなに怒るのも納得かも。ダーリン、もしかしてギーシュの彼女、寝取ったりした?」
「寝取ってねーよ」
正確に言えば、あいつの彼女だったモンモランシーとそういう関係にはあるけど……もう終わっている関係だって聞いたし、寝取ってはいない筈だ。
……最近、アイーシャのことで寝取り趣味出来たかも知れないけど、それとこれは関係ない筈。
「──諸君!集まってくれて感謝する!」
観客が集まったのを確認すると、ギーシュは高らかに声を上げた。
集まっていた生徒達は期待していないのかおざなりに拍手を送るばかりで興味を感じられない。
そんな観客を盛り上げる為か、ギーシュは俺に杖を向けて。
「いいか、諸君!これは一人の乙女の愛を勝ち取る為の戦いだ!勝ったどちらかにのみ乙女の……モンモランシーの愛が注がれる!」
「はぁ!?」「ちょっ……」「ぶっ!?」
ちょ、まっ、えぇ!?あいつ、いきなり何言ってやがりますか!?
いや、確かにモンモランシーと俺は深い関係だけどさ!?こんな観客が集まった中でそんなこと言うのはどうかと思うぜ!?俺みたいな平民と付き合ってるのを知られたらモンモランシーにも迷惑だろうが!
「や、ややや……やっぱりあの噂、本当だったのねあんた達!?」
「お、落ち着けよ!?そもそも噂ってなんだ!?」
「決まってるじゃない!あんたとモンモランシーが付き合ってるって噂よ!」
ぶほぉ!?い、いつの間にそんな噂が広まってたんだ!?
俺が学院出る前には広まってなかった筈だけど……。
「お、落ち着きなさいルイズ。きっとギーシュの奴、何か誤解しているだけよ。確かに最近、サイトと仲良くさせてもらってるけど、私達はそういう関係じゃあ……」
「あら、そうなの?なら私がダーリンのこと、独占してもいい?」
「ぶほっ!?」
む、胸が顔に押し付けられて……息が出来んっ!
「「それはダメ!」」
「あら?ご主人様のルイズなら兎も角、モンモランシーに言われる資格はないと思うのだけれど」
「そ、それは言葉の綾って奴で……思わず、口に出ちゃったっていうかなんというか……と、兎に角!私とサイトは貴方達が思っているような深い関係じゃないわ!」
「そうよ!ツェルプストーなんかに取られるくらいだったら、まだモンモランシーの方がマシだわ!」
「ぷはぁ!?ぜぇはぁぜぇはぁ……ま、マジで窒息死するかと思った……」
何とか、キュルケの胸から逃げ出して大きく息をする。
おっぱいに慣れてなかった頃の俺なら、スッゴク嬉しかったんだろうけど、今の俺にとっては嬉いっちゃ嬉しいが、苦しみと引き換えに味わう喜びではない。
……って、なんだ?いつの間にか周囲から殺気が……うん?
「ギーシュ!その平民をやっちまえ!俺だって彼女いねーのにキュルケにモンモランシーに……二人から好意持たれるなんて狡いぞ、畜生っ!!」
「そーだそーだ!全力でぶちのめせー!そのちょっとイケてる顔、血まみれにしちまえー!」
「この女の敵ー!付き合うならどっちか一人にしなさいよー!」
「ひゃっはー!」
「うわっ、いつの間にかアウェーに……」
俺が苦しんでいる間に何があったんだ……。
……兎に角、場の雰囲気に呑まれるな平賀 才人。場の雰囲気に呑まれて、弱腰になったら勝てるもんも勝てねーぞ。
テメェは責任を……モンモランシーに恥ずかしくない男になるんだろうが!
「……よしっ、覚悟完了!」
「ふんっ、威勢だけはいいようだね」
俺が剣を構えると同時にギーシュも杖を構え。
「踊れ、
青銅で作られたゴーレムが一体、俺とギーシュの間に現れた。
それが決闘の合図となり、俺もそれに合わせてワルキューレ目掛けて突進する。
「へっ!またそれか!そんなの直ぐに片付けてや──」
ろうと剣を降り下ろした次の瞬間、デルフの触れる間もなく、青銅のワルキューレは土へと変わった。
全力で放った攻撃はそのまま空振り、大地を切り裂く。
……ギーシュの野郎、せっかく作ったワルキューレを消すなんて何のつもり……ぐわっ!?
「ぺっ、ぺっ!こ……これ、水か!?」
次の瞬間、俺の足元の地面は水に変わっていた。
幸い、と言っちゃなんだが腰まで浸かるくらいで抜け出そうと思えば直ぐに抜け出せるが……こんなことして何をするつもりなんだ?
「気を付けろ、相棒!土のメイジを相手にする時、一番怖ぇのはゴーレムでも質量攻撃でもねぇ!《錬金》だ!」
「元がドットの魔法だからな、例え
「そういうことは早く──」
「させないよ、《錬金》!」
……っ!しまった、水が元に戻って下半身が土の中に……!
ぐぅぅ……!下半身が重いっ!《ガンダールヴ》のルーンは発動してるってのに全然動かねぇ!?
不味いぞ、この状態で攻撃されたら──。
「さぁ美しき戦乙女達よ!己の立場も理解していない平民に罰を!」
ほら来た!
地面の土を素材に槍や斧を手に持つ5体のゴーレムが俺の前に現れる。
不味いぞこれ、只でさえ動きが取れないってのに相手は長槍やら戦斧で中距離から俺のことを攻撃できる。
このままじゃ負けるのも時間の問題、無理してでも土の中から脱出しねぇと……んっ?
「さぁワルキューレ達!全軍突撃!動けない彼を華麗に仕留めたまえ!」
ギーシュが合図すると同時にワルキューレ達は俺を囲むように突撃してくる。
……これはチャンスか?流石に今(下半身埋まってる状態で)ワルキューレ達を何とかするのは厳しいけど……うん、これならきっとイケる。
まずはギリギリまでワルキューレ達を引き付けて……。
「さぁ!これで終わりだ!」
「すぅぅぅ……──ズェアッ!!」
腰を捻ると同時にデルフを大きく振り抜き、近くにいた2体のワルキューレごと地面を切り裂いた。
……よしっ、これだけ地面が削れれば後は──ッ!
「ドォリャアッ!!」
「……っ!本当にとんでもないことをするね、君は!」
「はっ!魔法なんてとんでもないもんを使うお前達に言われたくねーよ!」
俺がしたことは至って簡単だ。
土で邪魔で動けないのなら、その邪魔な土を切っちまえばいい。
……我ながら脳筋の極みみたいな脱出方法だな、もっと他になんかあったろ……と、そんなこと考えている暇があるなら。
「……行くぜ、ギーシュ!」
「……来い!」
一気に終わらせてやるぜ、と俺はデルフを両手に握り締め、ワルキューレ達に突撃する──が。
「は、れぇ……?」
「……っ、どうした!?」
な、なんだこれ?
視界が揺れる、手足の指先まで痺れて震えが止まらなくなる。唇も舌も震え、言葉を紡ぐことすら儘ならない。
ど、どうなってんだ?俺の体、どうしちまったんだ?
「こいつは……そうか、毒か!相棒、毒が抜けるまで距離を取りな!流石のお前でも毒を食らってる状態で戦うのは無茶だ!」
「……っ、
「それは……分からん。だけど今の状態で戦うよりはずっとマシな筈だ」
……デルフの言うことは最もだ。
こんな状態で戦うよりは毒が抜けるまで時間を稼いで安全に戦う方がいい。
──だけど。
「……サイト」
振り向くと、そこには俺の異変に気がついたのか心配そうにこちらを見つめてくるモンモランシーの姿があった。
……そうだよな、自分の好きな男の情けない姿を見ちまったら誰だってそんな顔するよな。
なら俺が……モンモランシーの恋人がするべきことはただ一つだ。
「──ォォォオオオオオッ!!」
「っ!ワルキュー……なっ!?」
痺れて動かなくなり始めている手足を無理矢理動かして目の前で佇むワルキューレを一気に切り刻む!
デルフの言う通り、安全策を取るのなら距離を取るべきなんだろう。
でも好きな女の為を思うなら……いや!
「たくっ……惚れた女の為とはいえ、こんな無茶する馬鹿は初めてだ!やっちまいな、ガンダールヴ!テメェは毒なんぞに負けやしねぇ!!」
勿論、負けるつもりはねぇ!毒にも、ワルキューレにもな!
迫ってくる青銅の武器を紙一重で回避しながらデルフを振るい、一体一体確実にワルキューレを始末していく。
俺に勝つために毒を盛ったんだろうけど……テメェなんぞに負けねぇ、いや!モンモランシーは渡さねぇ!!
「ウワォォオオオオッ!!」
モンモランシーは!俺のもんだぁぁあああっ!!
「はぁはぁ……ま、まだやるか?」
ワルキューレを一つ残らず切り伏せると、俺はギーシュの喉元にデルフを突き付けて降伏勧告を出す。
2回の大規模な《錬金》と6体のワルキューレを産み出したことでギーシュの精神力は尽きたのか、魔法を行使する様子は見せない。
「……ふっ、まさか君は僕が降参すると思っているのかい?」
「らって……てめはまほー使えねーらろ」
「あぁ確かに僕の精神力は尽きたさ、もう魔法一つ使えやしない……でもな!」
……っ!?杖を捨て……ぐわっ!?
「モンモランシーの愛を勝ち取る為なら……例え、魔法が使えなくても!杖を捨ててでも!泥水を啜ったって君に勝ってみせる!」
そう拳を振り上げるギーシュの姿は……正直、貴族のものとは思えない程にボロボロだ。
殴りなれてないのだろう、たった一度、俺の顔面を殴っただけというのに拳は擦り切れ、うっすらと血を滲ませている。
……くそっ、毒の影響か知らねぇけど、あんなトロいパンチを避けられねぇなんて。
おまけ付きに……。
「ぐふっ……!」
「相棒!とっとと俺のこと拾いやがれ!テメェの体はもう限界だ!ガンダールヴの力無しじゃぶっ倒れるのも時間の問題だぞ!」
殴られた際、思わずデルフを離しちまった。
離すと同時に襲い掛かってくるのは想像も絶するほどの疲労感と頭のてっぺんから爪先まで感じるほどの痺れ。
視界はグラグラと揺れ、耳は近くにいる筈の観客の声が聞こえないほどに聾唖する。
直ぐにデルフを拾わなきゃ……と本能では理解しているものの、俺の足は自然とデルフの方ではなくギーシュの方へ向く。
「お前が……そこまでするつもりなら、相手……してやるよ」
「一対一、お互いにステゴロの喧嘩だ!行くぞ、ゴラァ!!」
「掛かってこい……!これで最後だ、ヒラガ・サイト!」
……ホント、俺って馬鹿なんだろうな。
絶対に勝てる喧嘩を……勝てるか分からない喧嘩にするなんて。
本当に馬鹿すぎて……勝つしかねぇ、勝ってモンモランシーを迎えにいくしかねぇッ!!
side 三人称視点
サイトとギーシュの決闘は魔法と剣の戦いを終え、泥臭い……拳と拳の戦いに移っていた。
期待していたモノと違う戦いになってきたのか、
「こんな戦い見てもつまらないしね、私は先に帰らせてもらうわ」
退屈だからといって、広場から足早に去っていった。
同じく見学していたタバサやルイズも片や予習があるから、片や本の続きが気になるからとその場を去り、残ったのはモンモランシー一人だけ。
「ウォオオオオッ!!」
「負けて、たまるかぁ!!」
「……っ」
一人になったモンモランシーは彼らの喧嘩を見ながら思いを巡らせる。
私一人見ていたところでいったい何になるのだろう?
サイトのことを好きならば限界が来ている彼を止めるべきだ。
それとも、まさか私はまだギーシュに未練があるのか?
……いや、少しだけ考えてみたが確実にないと断言できる。彼女の心は既にサイトのものであり、彼以外の男が入る隙間は一切ない。
ならなんで?その答えは……サイトの言葉を聞き、分かってしまった。
「モンモランシーの為に……惚れた女の為にも!負けてられっかよぉ!!」
「あっ……」
そうか、私は他の女を作ってもいいと自分で言っておきながら彼女達に嫉妬していたのか。
だからサイトに愛されているのが分かるこの状況を……彼とギーシュの喧嘩を止めようとしないのか。
「……酷い女」
自己嫌悪からか思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
だが、幸いにも彼らには届かなかったようで必死に拳を振るい、殴り合っている。
でも分かったからには止めなければ。自分は酷い女だけど……それでもサイトのことが好きなのだ、自分の欲望の為だけに彼を傷つけさせるわけにはいかない。
「二人とも、やめ──っ!!?」
モンモランシーが止めようとした次の瞬間、ギーシュの振り上げた拳がサイトの顎を打った。
脳震盪でも起こしたのだろう、サイトの体は地面へと投げ出され──。
「サイトッ!負けないで!!」
サイトのことを思うなら言葉を投げ掛けるべきではないと本能では理解できる、だというのにモンモランシーの口は自然とそんな言葉を紡いでしまった。
「……っ!オオオォオオォォッ!!」
そしてその言葉はサイトに届いた。
惚れた女が負けないでと言ったのだ、ならばその願いを叶えるのが男として……俺がしなくちゃいけないことだ。
地面を必死に踏み締め、体を無理矢理ギーシュの方へ向ける。
負けちゃいけない、自分はモンモランシーが胸を張れるような良い男になると決めたのだ、なら誰が相手だろうと、どんな喧嘩であろうと……自分は負けない!
「ぜ、リャアァァゥ!!」
いつ倒れても可笑しくない体を無理矢理動かし、ギーシュの顔面へ向けて拳を振るう。
倒したと思った相手が突然動いてきたのだ、ギーシュはそれに反応できず……擦り傷だらけの拳が彼の右頬に打ち込まれた。
「かはっ……」
ギーシュに覆い被さるようにサイトは倒れ込む。
それを見るとモンモランシーは直ぐに彼らの下に……正確に言えば、サイトの下に駆け付け、ボロボロになったその体へ杖を振るう。
「サイト、大丈夫!?何処が痛むの、すぐ治すわ……っ!」
「だ……だいじょーぶ、それ……よりも、ギーシュ……は?」
愛しい人の胸の中でサイトはギーシュのことを探す。
自分は勝ったのだろうか?勝ったのならギーシュに伝えなければ、モンモランシーは……お前の好きな女は、きっと俺が幸せにして見せると。
でなければ、あそこまで彼女のことを思ってくれた彼へ申し訳ない。
サイトは霞む目で必死に彼のことを探し……そしてそれを見つけた。
「うっ、ぐぅぅうう……!クソッ、クソォ……!」
ギーシュは泣いていた。
悔しくて泣いているのではない、ギーシュは分かってしまったのだ。
モンモランシーは自分が彼女のことを思うよりもずっと、サイトのことを愛しているのだと。
そしてサイトもそれと同じくらいモンモランシーのことを愛している、でなければ最後の攻撃など決して行えなかった筈だ。
自分は……最初から彼らの間に入ることは出来なかったのだ。
「僕の……負けだ、僕なんかよりもずっと!君は……サイトはモンモランシーのことを愛している」
「……ギーシュ」
夕日を背にきっ、と力強くギーシュはサイトのことを睨み付ける。
その鋭い視線から目を逸らさず、サイトはそれを受け止め、睨み返した。
「……モンモランシーを幸せにしろよ、でないと僕は君を許さない」
「勿論、モンモランシーは絶対に……俺が幸せにしてやる、約束だ」
ギーシュの言葉にサイトは力強く頷く。
こうしてギーシュとサイト、モンモランシーを巡る争いは終わりを迎えた。
だが……まだ終わらない、彼らを争うように仕組んだ元凶へのお仕置きはこれからだ。
次回こそシエスタ回の予定