ゴトゴト……ゴトッ、ガタンッ!
舗装の行き届いていないような道を走る振動に揺られて暫く、やっとトラックが止まった。
暫く待っていると、ドアが開けられた音がして、それから砂利を踏み締める音。
そして、荷台が開けられた。
「着きましたよー」
「……やっとか」
「クルゥ……」
「カロロ……」
荷台の中で揺られ続けた俺とカチュウとニュートは、外に出るのも億劫になっていた。
*
この頃、異世界から人間も多少やって来るようになって、そちらではカチュウやニュートはトビカガチと呼ばれている事が分かった。
あの変態ドラゴンはイヴェルカーナ。デカウサギはウルクスス。デカ狼はジンオウガ。
まあ……それは良いとして。それ以上に驚いた事が、あっちの世界では人間が近接武器を持ってそのドラゴン達に真っ向勝負をしているんだとか。
あっちから来た人間では、そういう事をする職業を忘れられず、こっちでもそういう事をして飯を食っているのも少なくないとか。
特に有名な話では、直前まで殺し合いをしていたネルギガンテというトゲトゲなドラゴンとその人間が、今は手を取り合って害獣ならぬ害竜駆除に勤しんでいるらしい。
かと言って、こっちの人間にもそういう事が出来るかと言われれば、それは否、で。
あっちの人間もこっちの人間と姿形は一緒でも、中身としては完全に別物だそうで、まあ、それには少しほっとした。
俺達もその気になれば、こいつら相手にタイマン張れるんだとか、そんな事はあって欲しくなかった。
でも、なーんか、羨ましいというか何というか。
そのネルギガンテというドラゴンと人間は、前の世界では何の怨恨もなく、ただどちらが強いかをはっきりさせる為だけに殺し合いをしていたという事で。
敵意のない殺意。
とっても楽しかったんだろうなあ、と思う。
そして、あっちの世界ではそういう事は、それはそんな珍しくないという事を思うと、うん、少しばかりは羨ましくなる。
*
「ふぅ〜……疲れたな」
「カロロッ」
春先。水辺に腰を下ろして、雪解け水がざあざあと流れていくのを眺める。触れてみれば、凍てつく程にとても冷たい。
とは言え、流石にあっちの世界から来た竜種(トビカガチは竜というよりかはトカゲといった方が近いけれど)にはそんな事は関係なく、長旅で乾いた喉をごくごくと癒していた。
トラックに乗せられてやって来たのは、そこそこ大きい山の麓のキャンプ場。
ここにも何かの竜が居るらしいのだが、痕跡が時折見つかるだけで、それが何だかまでははっきり分かっていないと言う。
敵意もないみたいだけれど、せめて正体くらいは掴んでおきたい。でも、痕跡が時折見つかると言えど、足跡は一つもなく、ドローンを使って上空から探そうとも見つからず。
また、人が直に森に入って探すにはリスクも高く。
それなら、人と竜が仲良くやってるところを見せてみればやって来るのではないか、という事で要請が掛かった。
トビカガチはあちらの世界の中ではそんなに強くない種族ではあるが、あの変態ドラゴンと何度もセックスして、その臭いがたっぷりと付けられているニュートなら、護衛が居なくとも安全だろうという事で引き受けた。
そういう意味ではカチュウには役割はなかったのだが、まあ……そんな事を言われてとてもしょんぼりしてしまったカチュウを置いていくという事は出来ず。
それにそもそも、トビカガチという竜は比較的小柄で、でかいトラックになら二匹くらいは余裕で運べた。
水を飲めば、早速日向で昼寝を始めたカチュウとニュートをぼうっと眺めていると、後ろから誰かが歩いて来るのが聞こえた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「ここの管理人をやっています、ツカダと申します」
そろそろ向かおうと思っていたけれど、先に来るとは。
驚きが先に来て、挨拶よりも先に問いかけていた。
「……怖くないんですか? こいつらの事」
「彼等、彼女等は、どうしてか、私達人間の事を理解した上でこちらにやって来ている。
それなら、熊や猪の方がよっぽど怖い」
「偶に、そんな事を無視して襲いかかって来るような奴も居ますけど」
「それもね……つい先日、こんなものがウチの前に置いてあってね」
そう言って見せられた写真には、まるでゴーヤのような尻尾。
ジンオウガの番が連携して仕留めた、イビルジョーとか言う竜のやつだ。
「……ここの事を気に入っているみたいですね。それに、とても強い」
「まあ、そういう事でね。客入りは以前より少なくなってるが、別にそこまで困る程でもないし、給付金も出ているし。
数日、ぼちぼち過ごして下さいな」
「はぁ……」
そして、二匹の分も含めて、数日分の食料を置いた後にトラックも去っていった。
*
夜。
「それにしても……あの変態に邪魔されずに焚き火出来るのは良いなあ」
折角なので釣りをして獲れた魚を塩焼きに。まあ、二匹しか獲れなかったけど。
家の近くでは、河原も森の中にはあるにせよ、ポンポン新しい竜やら龍やらが出て来る魔境と化した森にはもう行く気にはならねえしなあ。
今、俺の家には研究者やら自衛隊やらが数人ずつ住んでいる。
あのイヴェルカーナとか言う変態、実力もちゃんとありそうだし、距離詰めちまえばもう銃も怖くねえぞとか言って変態行為強要してねえだろうか。
いや、流石にそこまでやったらヤバいとでも分かってそうだけど、その後飛んで逃げてしまう事も可能だしなあ。
「ま、どうでも良いか」
あっちの事はあっちに任せるだけだ。
「カルルッ?」
おい、示し合わせたように塩焼きを欲しそうな目でこっち向いて来るんじゃねえ。
……まあ、良いけど。
「……分かったよ、食えよ」
そう言うと、目を輝かせて、取ってくれと指し示して来る。
「はいはい」
俺の両手が串を取り、その先で二匹がはふはふ言いながら程よく焼けた魚を食う。
食い終わる頃に、また足音が聞こえて来た。
「コーヒー淹れたのですが、飲みますか?」
大きなケトルにカップを持って来て。
「ええ、大丈夫です」
自然と話をする事になった。
それぞれ、どのように生活が変わったのか。それに対してどのように思っているのか。
話を聞く限り、ツカダさんはどうにも家元が裕福なようで、けれどこんなキャンプ場の管理人をしているのはどうにも、それが原因でもあるようだった。
「こっちでもゴミの問題やらコテージで隣同士になった人達の騒音問題やら色々あったりするけど、私の家元のドロドロした悪意に比べれば、もう天国だね」
「はぁ……」
互いにコーヒーを飲みながら。
カチュウとニュートもコーヒーに興味を示して来るが、気付けばまだ飲ませた事はない。
カフェインに慣れていない人にチョコレートやコーヒーを飲ませた時の効果は絶大だと言う。それこそ酒並みに。
なら、まだ飲ませる訳にはいかない。
ツカダさんはそれから二匹の体を撫で回したりする。
「さらさらで、すべすべで、時にもふもふしていて……人によっては正気じゃいられませんねえ、これは」
「まあ……色んな意味で、はい」
「何か問題でも?」
「特にニュート、茶色い方に気をつけて下さい。
彼女、淫乱なので。気に入られたら催促して押し倒して来ます」
「えっ」
「研究者が数人、そして自衛官も一人、虜になりました」
「えっ……」
「クルルゥ?」
「えっ…………いや、あなたはいつもこんな事を?」
「いつもじゃないですけど、まあ……はい。
あー、いや、ニュート。今はやめとけ。押し倒すなんて事したら、もしかしたらその誰かがやって来るかもしれん」
ジンオウガ二匹掛かりでやっと殺せたイビルジョーを単独で倒す何かが。
なら、これで良いでしょ、とニュートは仰向けになって体を広げ、催促するかのようにツカダに膣を見せつけた。
俺とカチュウはもう慣れて呆れた目つきすらしない。そして、ツカダさんは若干迷い始めていた。
「悩んでます?」
「いや、いや……」
体を淫靡に動かす真似までしてしまって。
ニュートは一体元の世界でどういう生き方をしてきたんだか。
「カチュウ。行こうか」
「クルルッ」
「え、ちょっと?」
「狂いたくないなら、やらない事を勧めます。俺達は特別な客なので、これからまた彼女等を連れて来る事もないですし」
「あ、はい。あ、いや、そうじゃなくて」
「俺から言えるのは、それだけなので、はい」
頭の中で、本人もどうなっているのか分からないような思考がぐるんぐるんと回っているのが目に見えて分かる。
そして、俺はそれを放置してカチュウと別の場所に離れる事にした。
*
コーヒーを飲ませたら案の定だった。
本当に酔っ払ったようにぐでんぐでんとなった挙句に、ひたすらに俺に体を擦りつけて来たり、口に舌をねじ込んできたり、それどころか全身を陰茎を含めて舐め回したり、まあ、本番も含めて色んな事をされた挙句に、最後は抱えられて一方的に寝てしまった。
そのまま朝を迎えて、日が昇っても起きずに先にすり抜けて体を洗って。
そうして炊事場に向かうと、目に隈を作っているツカダさんと会った。
「……どうしたんですか?」
「やらなかった。
…………虜になったら管理人として困るからね」
「……そうですか」
それでも今もずっと悩んでいるのだろう。
けれど三日間の滞在の間、結局ツカダさんはニュートの誘惑に応える事はなく、また結局、居るらしき竜が姿を表す事もなく。
ニュートが逆に珍しいものを見る目つきでツカダさんと接するようになった頃。
俺達は再びトラックに乗って帰っていった。
*
*
その夜遅く。
「……酷い目に遭った」
夕飯とその片付けも終えた後。
ツカダはコーヒーを淹れて、ケトルとコップを手に持ち、外のアウトドアチェアに座る。
未だ下半身は疼いている。
もし、あの誘惑に負けていたら、どれだけの快楽を自分に与えてくれたのだろう?
今頃、自分は我慢していた以上の後悔をする羽目になっていたのではなかろうか?
それが一番の恐怖だったのだ。
「さっさと忘れたいな……」
そう思いながらも、きっと忘れられないのだろうと理解しながら。
ずず、と淹れたてのコーヒーを啜る。
「はぁ……こんな事になるなら、拒絶しておけばよかった。
いや、でも、無理だったか……」
月の明るい夜。
忘れられない、下半身を疼かせる経験ばかりを残して彼と二匹は去っていった。そして竜は姿を表す事もなく。
「終わったら、どっと疲れて来たな……」
そうして、程なくしてそのままツカダは眠りに就いた。
「…………」
カタッ、カチャンッ。
「! …………」
ペロ……。コキュ。
「…………? ……。…………」
バキャッ!
「へっ!? あっ、な、なんだっ、お前!?」
目の前に居たのは、腕から鋭い刃を生やした、白くてデカい猫。
潜んでいる候補の一つとして見せられた図鑑の中で挙げられていた……月の光と共に姿を消す特殊な毛を生やす、ナルガクルガ希少種。
倒れたコップと、そして壊されたケトル。溢れた中身を飲んでいる。
状況を理解する。
こいつは、あの男と二匹をずっと見ていたのだ。そして興味を持って飲みに来たのだ。
だが、その瞬間。
ビクッ! と人を簡単に殺せる体躯にしては面白い程にビビり散らかし、ひとっ飛びで思い切り後ろまで跳ぶ。
そんなのに、ツカダは立ち上がり、壊れたケトルとコップの前でしゃがみこむ。
「……長年使って来たのにな。ケトルもコップも」
名残惜しげに破片を拾い集めていると、申し訳なさそうにそのナルガクルガ希少種が近付いて来る。
「グルゥ……」
「いや、別に良いさ。あんた、ここを守っていてくれたんだろ?」
「ヴルル……ヴルルルッ!」
「……?」
どうしてだろう。その目が赤くなって、鼻息が荒くなり始めて。
明らかに興奮している。
「ああ、コーヒーか……」
殺意じゃない。ただ、飛び掛かって来そうな雰囲気。
逃げられそうにもなかったし、きっとそういう事をされるのだろうか?
ただ、それよりも気になるのは。
「…………あんた、雄じゃない、よな?」
「ガアッ!!」
飛び掛かられた。
メル・ゼナ出したいけどナルシスト枠も変態枠も埋まってるんだよなあ
高貴にしたらそれはそれであんまり話出来ないし
ナルガクルガ希少種
-
♂
-
♀