『R18二次創作』闇夜の蛍 作:天上夢月
「ふふふ、今宵は楽しみましょう。のう、先生。いや、元陰陽寮頭というべきか?」
「…………」
畳が敷き詰められた明るく広々とした空間、その中央。
裸体の男たちに囲まれながら、吾妻雲雀は目閉じて静かに正座をしていた。
扶桑国の中心たる都。
時は既に日は落ちた頃。城壁外にある新街、平民層が住まう場所は太陽が沈みかける間に夕飯を済ませて、夜が訪れると寝るのが一般的だ。魚油で明かりを灯すこともあるが、それは夜通し内職や明日の支度をする者。外では家の場所を示す提灯と夜の見回り組の提灯が鬼火のように揺らめくのみ。
城壁内でも中流平民層は既に店仕舞いをしていた。勘定は夕方に内に。忙しいのは夜通し働く一部の職人と宿場の従業員くらいだろう。
されど、上流階級である富裕層が往来する繁華街は別である。
贅沢にも街道には菜種油を使用した辻行灯が並列しており、遊郭の大門や番所の前には木灯籠や石灯籠などの明かりが照らされていた。
何より障子越しから零れた賑やかな声と光が、夜でも衰えない活気を表している。
夜番狙いをしている大衆食堂、待合茶屋。酒で騒ぐ宴会所。客引きの為、絢爛豪華に彩る百目蝋燭。偶に羽目を外すため、中流階層から出向いた人間の散財。舞子との慎ましやかな夜遊び。
昼間は料亭でも夜は貸座敷を兼業している場所も少なくない。祝勝会。置屋から遊女を招き、一夜を過ごす。あるいは夜に紛れた密談。
明かりは多くても、外を出歩くには提灯をぶらさげるのが安全の為の義務だ。街灯と提灯だけでは、すれ違った人間が誰なのか分からないだろう。
多く存在する夜の貸座敷の一つに誰が訪れたなど、密偵や退魔士が式神でも放っていなければ知りようもないことだ。
裸の男たちが招いた吾妻雲雀は只の寺子屋で教鞭を振るう先生に過ぎない。
身分だけ見れば。遊郭の女たちのほうが上質だ。
わざわざ、彼女一人の為に昼間のような明かりがある大きな部屋を借り受け、数人で待ち構えるなど正気の沙汰ではない。一人で数人花魁を招いたほうが安く遊べただろう。
だが、男たち退魔の家に属する者たちにとって、吾妻雲雀はそれだけの価値があった。
元陰陽頭。現代の陰陽寮でも彼女を心棒するものは少なくない。
力、知識だけではなく化粧で誤魔化しいらずの顔、身体。着飾ってもいない普段着だがらこそ、情欲が逆にそそられるというもの。例えそれがすぐに脱がしてしまうものだったとしてもだ。
退魔士から見て、彼女は遥か高みにいる上流階級に属するだけあって、己の実力をそれぞれ自負していた。その上で己が格下だと認めざるえない。
自分たちが総出で襲い掛かっても皆殺しにされるのが目に見える。そんな女をこれから好き放題にできるのだ。興奮し、全裸で待機しても仕方のないことである。
「世話をする半妖らの為に身を差し出すとは、良母ですな」
「それほど経営に困っているのであれば、我々が融資しましょうか? 無論、それ相応の対価は必要ですが。ぐふふふふ」
「心配には及びません。此度のように一夜過ごして頂いた礼で暫くは持ちますので」
「それは残念。その気になったら、いつでも言ってください。我々は先生の味方ですぞ」
「感謝します」
粘質な響きで白々しい台詞。吾妻はそれを淡白な声で返す。
怯みもしない様子に面白みがないと嘆く者が僅かにいたが、大半の男たちが今この瞬間に彼女を襲い掛かりたくて仕方なかった。むしろ、その冷静な顔を見て、早くよがらせたいと、男根を膨張させている。
「では、吾妻殿も脱いでください」
「わかりました」
立ち上がった吾妻は言われた通り帯を解く。
おくすことない脱衣。しゅるりと身に纏っていた着物を取り払うと、艶めかしい肌が露となる。その堂々とした脱ぎっぷりに何人かの男たちは感嘆した。
程よく膨らんだ胸。くびれた腰。相手が自分たちより年上とは思えない若々しい肌。男の性欲を煽るには十分な魅力である。
「では、こちらに顔を」
「ん──」
返答の聞かず、我先にと吾妻の顎を掴んだ男が遠慮なしに唇を奪る。
「あん………ちゅば……んん……あむ………んん………」
卑猥な音と共に吾妻の切ない吐息が零れだす。
突然の強引な口づけを彼女はされるがまま受け入れた。
「れちょ………もちゃ………むぁ………くちゅう………むちゅ……」
唾液の応酬。うねり絡まる舌使い。想像以上に上手い口吸いに男側は感心する。
恐怖に染まった下女や家人の唇を無理やり奪うのも格別だが、これもまた違う趣があった。
逃れないように、吾妻の頭の後ろを添えて、自分との距離を更に近づけた。
頬と頬。鼻と鼻が触れあるほどの密着。
当然、唇と舌の触れ合いもより濃厚なものとなった。
「くちゅ……はふ………んん……ちゅう………あんッ!」
一瞬、びくりと吾妻が身体を震わした。
口吸いをしながら、男が空いた手で吾妻の胸の撫でまわしたのだ。
掌に丁度収まる大きさの乳房を餅でも捏ねるように揉み上げながら、絡みつく舌の勢いは衰えさせていない。むしろ、激しさを増したほうだ。
「ふぅ!……はむ……ちゅう!…………むふ………くちゃ─はぁ!」
呼吸の間すら惜しいほど、貪欲な口吸いに吾妻は息を荒げる。
すると淫らな喘ぎと卑猥な音に誘われてか、新しい男が吾妻の傍に近づく。
「やれやれ、吾妻殿。困りますなぁ……こんなにいるのだ。一人一人相手しては朝が来てしまうぞ。どれ、私はもう片方の乳と尻を楽しませてもらうか」
「は、い…………ちゅ…………んん! あん…………お好きに、はぁ! どうぞッ」
「いわれずとも」
そうやって、口吸いに夢中になっている男と吾妻を間に挟むようにして、密着し、胸と尻を乱暴に掴む。
「んん!!!…はむ……ちゅう!くちゅ……はぁん……!」
痛かったのだろう。痺れたように顔を顰めるが、吾妻は口吸いの相手を止めることもなく、ただ受け入れる。
彼女が文句を言わない、いや言ったところで止める気はないが、それをいいことに形が歪に変わるほど、ぐにゃくにゃと揉み楽しむ。
「これ予想以上の感触だ! 此方の事など意に返さずほど口吸いを卓越なようだ。
吾妻殿。実は霊力ではなく、性技で────」
「んん、それ以上は私を頭に選んでくださった、先の帝に対する不敬ですぞ。んん!」
「おっと、それは失礼。危ないとこであった」
喘ぎながら何様かと思ったが、忠告は確かなもの。小さなことでも足を掬われたくない。
この女がに実力があるのは事実。だからこそ、好き勝手できる今が愉快なのだ。
「ほら、手がおるすだぞ? 我々のちんぽを丁寧にしごいてくれか」
「はぁ…………ちゅ………………わかり、ました…………んん!」
言われるがまま、吾妻は自分を責め立てる男たちのいきり立った肉棒に手を伸ばす。
「おおお!」
「ほう、これは──」
これには一心不乱に口吸い男も反応し、命じた男も驚く。
細い手が竿を扱き、亀頭をくりくりと弄る。金玉も満遍なく触っては、煽るような手触りも間に挟んでくるではないか。
適当に扱てはできぬ男根の扱い。質の高い花魁も相手したことがある男だからこそ分かる、その技巧。
「こちらも上手いではないか。魑魅魍魎退治は確かなものであろうが、男を喜ばせる術も十分に卓越してるではないか、えええ!?」
「はふん!!!」
ばしん!!!! と、尻が叩かれた。
くっきとも臀部に紅葉のような手跡がついた。
快楽ではなく純粋な痛み。それでも吾妻は男たちを奉仕する手は止めない。
「ほう───。これでも文句を言わず、我々を喜ばせようとする!
上々!! やはり、いくら強かろうが、女は如何なる時であれ男の為にあるべきだ。元陰陽頭はそれをよくわかっている!」
「では、そんな健気な吾妻どのにも楽しませんとな」
そうして、三人目の男が追加された。
新しい男は吾妻の目の前に立つと、そのまましゃがんで晒された膣口を吸い上げた。
「ふひゅうッ!?」
「おお、甘い! 甘いぞ!! まるで極上の蜂蜜のようではないか!」
汗で香る股下の臭いを荒い鼻息で嗅ぎながら、ぐちゃぐちゃと肉壺から溢れてくる愛液を堪能し始める。
「ああんん!!!…はむ……ちゅう!くちゅ……はぁん……!」
さすがに陰部の責め立ては耐え切れないのか、吾妻は産まれたばかりの小鹿のように膝をがくがくとさせる。
同時に性的昂ぶりが同期したか、間で己を挟む男たちの肉棒を扱く手が苛烈になった。
「ごあ───!?」
「むお!!?」
突然、己の分身から感じる快楽が雷鳴の如く疾走する。
激しい。睾丸から子種が急速に生成され、一気に限界まで達した。
「はぁはあ、ぁああ! んん!!!…はむ……ちゅう! んん゛!!!」
「おおおお!?」
「ぬぬぬう!?」
「ッ────!?」
真っ先に反応したのは吾妻の股下を嘗め上げていた男。
左右から耳にした呻きから事態を察した男は慌てて、身を引いた。こんなところで発揮することは実に情けないことであるが、咄嗟の判断は熟練の退魔士に相応しい行動である。
「ふああああぁああ───!」
「おおおお!!」
「ふぉういお!!」
膣口の責めがから解放されたのが切っ掛けか、吾妻は男がいなくなった股下から潮を吹き出した。同時に、彼女を間で挟む男たちの肉棒から精液は発射されて、吾妻の腹部を白濁で穢す。
女一人、男二人が一瞬放心状態になったが、突然に場を離れた男は少々不機嫌だった。
「気をつけたまへ! 危うく私にもかかるところだったぞ!」
「!? おお、それはすまぬかった」
「くっ─面目ない……」
男の怒気に当てられた二人は正気に戻り、吾妻から離れた。
男たちから解放された吾妻は直前潮を吹いたこともあって、べたんと尻もちをつく。
顔を赤くし、声を荒げる吾妻を男たちは気遣うことはなく、苛立ちで顰め面の相手から機嫌をとろうとした。
「では、本番は貴方一人で満足するまでお楽しみ下さい。我々の失態で申し訳ないですが、皆様もそれでよろしいでしょうか。埋め合わせは後程で」
「むぅ──、これで卿が冷めるわけにもいかん。仕方ないの」
「そういうことであれば……」
空気を読んだ周りの男たちも渋々了承した様子を確認した彼は、火照った顔で息を荒くする吾妻を見て、喉を鳴らし、萎えかけた男根を完全勃起まで復活させる。
「ということだ。まずは私一人を満足させよ」
「はい──」
吾妻の気のない返事と男が彼女に覆いかぶさるのは同時だった。
舌でほぐされた膣口は男の陰茎をすんなりを受け入れる。
「おお、これはッ!!」
己の分身を埋めた瞬間、彼は先程の危うかったことなど忘れたかのように、下腹部から伝わる快楽に感動を覚えた。
これほど数多の女を抱いてきたが、纏わりつく肉厚は今まで経験したことがないほど格別だった。
「まさに名器!! 生娘ではないだろうが、程よい締め付け。男の根を逃さぬと締め上げる淫らな肉壺だ!!!」
「あん………滅相も、ありません。普通にて、ございます…………」
「数多の女を抱いた私だらこそ分かるのだ! 吾妻雲雀よ! お主は雄のちんぽで喜ぶ、卑猥な孕み袋なのだよ! ほれ!」
「はふん!」
ごつんと、男が吾妻の子宮目掛けて突き上げる。
「はぁん! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、いや、んん゛、だめ、そこ、いや!」
「はははは、よく鳴くではないか! それこそが、お主が男根に飢えている淫乱な雌である証拠! どうだ、気持ちいだろう! 正直になれ!!」
「いや、ああ、ああ! んん゛! いや! は、はい! と、ても! きもちい、です!」
「ははははは! これがあの千の術を扱うと恐れられた吾妻雲雀か!! 幾ら強かろうが、所詮、お主もただの雌だったとうわけだ!!」
「ああ゛、あぁああ゛、ああ゛あ゛ん、ひゃあ、あぁあ、あ、あ、あ!」
ずぶずぶと、吾妻の身体を貪る男。
彼もまた、雌の身体に喰らつく雄にしか過ぎない。
しかし、そんなことは関係ない。己のより強い存在が、自分によがっている。
留まることをしらない性欲と征服欲は、女を犯せと彼の本能を突き動かした。
犯せ、穢せ、どこまでもこの女を蹂躙しろ。
「それ! 私にも口吸いとしてみろ。お主からするんだ!」
「はぁあ、ああ、あ、は、はい! ちゅ、ちゅうう! はむ! くちゅう!」
「───ふう、うまいな。やはり、お主は卑猥だよ、吾妻。でなければ、言われただけこれほど男を求めたりはしない! 子供の為だと正当化して、ただ男に抱かれる免罪符が欲しかったのだろ!?」
「あああ、ああぁ゛ああ、ちが、わた、は、あのこ、たちのために──」
「まだ否定するか、この淫売が!!!」
「ああ゛、あぁ!!? はあああああ!!?」
ずぼずぼずぼずぼ! 卑猥な音をかき鳴らしながら、加速した腰使い。
元から吾妻に気など使っていなかったが、彼女の身体を押しつぶすように、体重をかけて、子宮の奥まで己の陰茎を突き出す。
「ああ、あ、ああ゛あ!? だめ、はげしゅい! い、く! いって、しまう!」
「そうだ、盛大にいけ! 今のお主に許されるのはそれだけだ!」
「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛あああ、やあああん! ひゃああ!」
「そら、私も限界だ。有難く、子種の受け取れぇえええええッ!!」
「あ゛──────────!!!
絶頂と共に、白濁の液が吾妻の膣内に流れ込む。
「うおおおおお! まるで搾り取られるようだ! とんだ、淫乱だな貴様は!」
ぶるぶると痙攣しながら、分身を押し付ける。
完全に精液が空になるまで数秒時間がかかった。
「はぅん!!!?」
息を切らしながら、男が離れると吾妻はびくりと身体を震わせる。
抱かれた女。穢された女。手付の女。
それだけで興味が失せる人間もいるのだが、ここにいる男たちは快感に打ちひしがれる彼女の様子を見て、今度は自分が犯す番だと興奮を高めた。
「休む間はないぞ。真に子供のことを想うなら、我々全員を満足させよ。でなければ、報酬な無しだ。当然であろう?」
「はい。わかりました………」
息を切らしながら、吾妻は白濁が垂れる己の膣を見せびらかすように、股を広げた。
「どうか、皆さま。私の身体で満足して下さい………」
媚びるような潤んだ瞳。次の刹那、黙って見ていた男たちが我先にと吾妻に群がる。
まるで砂糖菓子に集まる虫けら。一度も女を抱いたことがないかような飢えた雄獣。
正気とは思えない、理性を失った瞳。涎をまき散らしながら、たった一人の女を喰らう。
「がぶぶうう!? むうぼおぼおぼお!」
既に膣口は埋められた。その次は尻穴。小さな口は押し込められ、穴がない者は胸を突き、手を突き、腿で擦り、綺麗な茶色の髪を己の分身に巻き付けた。
蠢く肉。最早、吾妻よりも周りの男たちのほうが視界に入る程だ。
しかし、女の身体に触れたものたちは気に留めない。骨折や肉離れをしようが気にしないよ。可能な限り吾妻の一部を自分へ向けて、肉欲を満たそうと励んだ。
「がもおおお! もおおおお!? のももおおおお! もが、むもお、ふも、おえお、ぼおおも、えごおお!」
口から入った肉棒が喉元まで押し突かれて、呼吸困難に堕ちようとも喘ぎ声は轟くが、最早周りにいる男たちの荒れた息遣いのほうが喧しく聞こえるほどだった。
肉林とは正にこのこと。一人の女を複数で貪り合う光景は、卑猥に蠢く一つの物体に見える。
悍ましい。正気の物ならば吐き気を抱くだろう。
傍で待機する残った男たちは羨望の眼差しだった。我慢できず、自分の手で男根を慰める。
全力で扱きはしない。吐き出すのはあの女も身体でと耐えた。
「もがあッ!! どぼあもぇ! がもあぁあッ! お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!」
そんな男たちの葛藤など関係なく、吾妻の身体は弄ばれる。
そこにいたのは、恐れ敬れる退魔士でも、尊敬される先生でも、子供たちに愛される母でもない。男たちの性欲を吐き出されるだけの孕み袋だった。
──群がった男たちの限界は合わせたように同時だった。
呻き声と共に白濁が、膣内、口内、腸内、耳穴、鼻穴から流れ出し、髪、腕、腿、あらゆる場所を精液がまき散らされる。
「────ぷあああぁああ!? げほぉ! ごほぉ!」
果て切った肉棒が口から去ったので、久しぶりに新鮮な空気を吸い、吾妻はむせ苦しむ。
完全に疲弊している彼女だったが、休息の時は与えられなかった。
「どけ! 次は儂が膣だ!」
「うるさい! 今度は私だ!」
醜く争いながら、男たちは吾妻に群がる。精液で汚れていても気にしない。舐り、貫き、触って、犯し、汚すのだ。
貪欲な男たちの欲望は何処までも果てしなかった。
―――――
「やれやれ。どんな幻を見ているのやら……」
情けない呻き声で上の空な男たちに吾妻は嘆息する。
きっと幻の中では自分を肴にして好き勝手なことをしているのだろう。
吾妻自身がそのような術を彼らにかけたのだから仕方のないことだが、己が性欲の捌け口とされる様子は何度見ても気分がいいものではなかった。
彼女の傍でくすくすと笑う夫人たちのようにはいかない。
「やだ、貴方たら情けない。あれだけ夢精を出すなんて。下女たちに出すよりはマシだけど」
「何も知らずに猿みたいに。せいぜい今のうちに楽しむといいわ」
「あら、見て美香さん。私たちの夫が何も知らないと口吸いしてるわ。ふふふ、相手を先生と思って、本当に愚か」
自分たちの旦那が晒す醜態に彼女たちは喜々として侮蔑する。
発端である吾妻は何とも言えない気持ちだった。
「まったく術の中から抜け出せない。さすが元陰陽頭様ですね」
「恐縮です」
一人の夫人の世辞を、吾妻は苦笑いで応えた。
始まりは、奉公で家から出て行った、世話した半妖からの助け声だった。
その半妖は吾妻の知縁が夫人の退魔の家に招かれて、良くしてもらっていた。特に夫人からは大層可愛がられているそうだ。
半妖にとって、夫人は吾妻の次か同等の恩人となった。ゆえに夫人が旦那の女遊びに涙する姿を黙って見ておけなかったのだろう。何とかならないかと、吾妻に相談してきたのだ。
曰く、件の旦那は逆らえない下女や家人、下僕の平民を好き勝手に抱いているらしい。いつの間にか腹違いの子がいても不思議ではない状況。
吾妻としても夫人は互いに知る仲であり、後ろ指刺される半妖を召してくれた恩があった。同じ女としても義憤に駆られた。
彼女はすぐに了承して、夫人の了承の下、問題の旦那に罠をかけた。
女遊びが好きならば、己にも興味が示すはず。
自分の容姿を熟知していた吾妻は己を餌にして罠に誘い、恐ろしい幻術を男にかけた。
淫夢と悪夢の合わせ技。下手な媚薬よりも効果ある幻術。
陰陽寮時代、吾妻が痛み慣れした敵を拷問するとき編み出した、偽りの快楽で攻める暴力だ。
最初は幻術の中で対象は性欲を満たす。
自分が思うままの淫夢を見ることができる。
しかし、それは最初の内だけだ。幻の中で次第に様子が激変し、最後にはもう止めてくれと叫ぶ。枯れ切っても精液は放出され、止まらない絶頂に涙と鼻水を垂れ流した。
今も目の前で法悦している男たちも、最暫くすれば阿鼻叫喚に転じるだろう。
最後は実行犯が自分だと悟られないよう記憶処理も怠っていない。
問題だった旦那は、この術を吾妻にかけられてから一切の女遊びをやめたそうだ。
それで、めでたしめでたし──といけばよかったが何処から聞いた別の退魔の家の夫人が自分の旦那も懲らしめてくれと依頼があった。
知縁だった夫人とは違い赤の他人の頼みを最初は断ろうとした吾妻だったが、報酬で持ってきた金銭に目が暗んでしまった。
子供の世話には金がかかる。育ち盛りならなおのことで、人数も多い。
一度だけなら、と魔が差してしまった。
改めて不貞な旦那を懲らしめることに成功すると、また別の夫人が依頼してきた。
最早、これで断れば角が立つ。なぜ自分はと恨まれるかもしれない。
相手は退魔士。吾妻は兎も角、子供たちにまで危害を加えられたくなかった。
実際、自分がやっていることは、女遊びがしている男の仕置きだ。悪いことなど何もしていない。むしろ良いことをしている。そんな免罪符を掲げて繰り返してく内に後戻りができなくなった。
いつの間にか吾妻は、裏で女遊びの酷い旦那で悩む退魔士夫人御用達の為の仕置き人となったのである。
幻の中で肉欲に溺死する旦那。それを睥睨する女房。
世の中の全てがこうでないと思うが、こんな夫婦たちを多く見て吾妻は常々思うのだ。
「やっぱり、結婚は面倒だ。私はしなくていい」
狸に化かされた、というわけです。
本編で都に行くから先に書きましたが、遊郭もタイムリーだった。
追伸、前の話の宮水静は少し意見もらったので追記してます。
そちらも、よければ改めてどうぞ。
サブキャラが続けてきてるので、次は伴部メインにしたいところ。
幸せになるかは不明。