「ネメシス、無事だったの!?」
翌日。学校でネメシスの姿を確認したモモは、メアのときと同様人目のない場所までネメシスを連れ出した。
「おやおや、モモ姫が私の心配をするとはな」
「べ、別に心配したわけじゃないわよ……。ただ私の巻き添えでいなくなられたら後味が悪いだけ」
一時は電脳空間に閉じ込められたネメシス。彼女が無事に戻ってきたのは不本意ではあるがモモにとって嬉しいことだった。しかし同時にあれだけのことがあって何事もなかったように顔を出したということは……
「やっぱり、あなたもなの?」
「ああ。すまんなモモ姫。私もすっかり主に躾けられてしまった」
ネメシスはあっけらかんという。
「とんでもない男だな、あれは。女相手なら無敵なリト以上のテクニックと、女を堕とすためだけに生まれたような身体の構造。元の身体ならともかく、こんな模造品の身体では全く歯が立たなかったぞ」
「模造品?」
「ああ、これは私に似せて作ったバイオボディだそうだ。ダークマターの塊である本来の私と違って、いまの私は外見から内臓まで本物の雌にされたということだな」
「……」
あの傲慢不遜なネメシスがラセールを「主」と呼び、自らを「雌」と呼ぶ。メアのときもショックだったが、それ以上に信じがたい光景だった。
そしてバイオボディ(そんなもの)まで用意するラセールの女性に対する執念には改めて恐怖しか感じない。
(学校が終わるのが怖い……)
放課後になればまたラセールに抱かれるのだろう。いまやこの身体は全身性感帯。匂いでイキ、愛撫でイキ、フェラでイキ、尻尾でイキ、アナルでイッてしまう。そして直接触れられたことのない子宮すら、いまや肉壁越しの刺激で屈してしまう。
いまのモモには自分は次で堕とされるという確信があった。
怖い……。
喉元にナイフを突きつけられているような気分だった。
「……そう怯えるなモモ姫。たとえいままでの想いを全て快楽に砕かれ堕ちたとしても、一度堕ちてしまえば案外楽だぞ」
それは彼女なりの励ましなのか、あるいは快楽地獄からの誘惑なのか。
ネメシスの言葉は、しばらくモモの脳内で反響し続けた。
【♡】
放課後。ラセールに人気のない階段に呼び出され、聞かされたのは予想外の指示だった。
「今日から来なくていいから」
「え――」
突然のことに一瞬思考が止まる。
「……どういうこと?」
「ちょっと結城リトに頼まれたんだ。ボクと恋人ごっこし始めてからモモが疲れ気味だから休ませてやってくれないかって」
「リトさんが?」
リトの名を聞いた瞬間、モモの心に暖かい気持ちが一気に溢れてきた。彼が自分を見ていてくれたこと。気にかけ、心配してくれたこと。その思いやりに心が救われる。
だが同時に心労を隠しきれていなかったことを悔いもした。メアたちにもそれを気づかれてしまったために巻き込んでしまったのに……。リトだったからよかったものの、もしララやナナだったらと思うとゾッとする。
だがモモの危惧を見透かしたようにラセールは肩を竦めた。
「心配しなくても他の雌に手を出す気はないよ。メアとネメシスは貴女の近くにいるから避けて通れなかっただけ。ボクが興味あるのはあくまでモモ一人だから」
「まったく嬉しくないわ……」
「ああ、あと西連寺春菜には興味あるかな」
「ちょっと!」
「わかってるって」
本当に分かっているのだろうか。
ラセールのテクニック、能力を自ら味わい、メアどころかネメシスすら雌として屈服させた様を見せつけられ、モモの中の警戒心は過去最大まで高まっていた。
この男が本気になれば、この学校の全ての女子を性奴隷にされてもおかしくないのだ。春菜やララ、ルンやヤミといったリトに好意を寄せる女子すら例外ではない。
「とにかく、そういうことだからしばらく来なくていいよ」
「……しばらくってどれくらいよ」
「さあ? モモがもう二度と来たくないっていうなら来なきゃいいんじゃない?」
「……それで私が行かなかったら春菜さんに……」
「違うって。約束の一ヶ月、残りの日数はモモが好きにすればいい。ボクからは誰にも手を出さない。もちろんモモにも」
「…………」
あまりにも都合が良すぎる話だ。
どこかに落とし穴が仕掛けてあるに違いない。
「すごく怪しんでるけど、別におかしな話じゃないんだよ?」
ラセールの顔が近づく。あの厭らしい笑みを浮かべながら。
「もうモモにするべき調教は全て施したからね。たぶん期限が過ぎる前にボクの下に戻ってくるよ」
「ッ……。そんなわけ……」
ない。
そう断言したくても、言葉がでなかった。
「じゃあ、ボクはこれで。二度とボクの宇宙船に来なくて済むように頑張ってね。……っと、最後にこれだけ渡しておくよ」
ラセールは立ち去る前にモモに小さな電子端末を手渡した。
「ボクの宇宙船への直通ゲート生成装置。ガマンできなくなったらおいで」
「ッ!」
立ち去るラセールの背中に、渡された端末を投げつけたい衝動に駆られる。
だが無理だった。手から離せない。その端末がまるで自分にとって大事なものであるかのように。
ラセールは下で待っていたメアの肩に腕を回すと、そのまま乳房を掴んで愛撫を始めた。微かな甘い声を漏らしながらメアが身を捩る。
チラリとメアがこちらを見た。淫欲に沈んだ瞳。だが、そのなかに僅かに見える理性の光はモモに「がんばってね」といっているようだった。
【♡】
「モモ!」
放課後、帰ろうとしてリトに呼び止められる。
「今日はこのまま帰るんだろう?」
「えぇ、そのつもりですけど……」
「じゃあ一緒に帰るか」
「そ、そうですね!」
最近はラセールのせいでリトのことを避け気味だった。ラセールから解放され、さらにリトから誘われては心が躍るばかりだ。
どちらから何を言うわけでもなく、無言のまま家までの道のりを歩いていく。久しぶりに心休まる時間に、モモはついついリトに寄りかかって甘えてしまう。
「モ、モモ……?」
「すみません、リトさん。ちょっと甘えちゃいました」
「……やっぱり疲れてるのか? 最近元気ない感じだったし」
「そう、ですね……。少し疲れ気味かもしれません」
「そうか……。じゃあ明日は休みだし、どこか気晴らしにでも行こうか?」
「えっ!?」
それは降ってわいた福音だった。
「そ、それってデートっていうことですか!?」
「ああ、まあ……そうなるかな?」
もちろんそれはモモへの気遣いであり、決してモモの気持ちに応えてのものではない。それが分かっていても、好きな人からデートに誘われたという事実に心躍らずにはいられない。
(や、やったわ! リトさんとデート!)
だが一瞬、メアとネメシスの顔がよぎる。
巻き込まれた二人が性欲処理の奴隷にされているのに、自分だけがこんなに幸せでいいのだろうか。
「どうした? やっぱり家でゆっくりするか?」
「い、いえ! 行きます! デート!!」
これはリトさんたちを安心させるためでもあるから。
一度だけだから。
そう言い訳をして、モモはリトとのデートを了承した。
【♡】
目一杯のおしゃれをして、無意味としりつつ勝負下着も着けた。リトとのデートにあの男から与えられたチョーカーと尻尾のリングを着けたままなのは癪だったが、チョーカーは外せばまともに動けなくなるし、尻尾のリングも無理矢理外そうとして電撃を食らわせられても困るので触れないことにした。
「お待たせしました、リトさん」
「ああ、じゃあ行くか」
ウキウキ気分のモモ。だがそれを見て美柑が耳打ちする。
「あんまりハメを外し過ぎちゃダメだからね」
「わかってますよ♪」
美柑は「本当に分かってるのかな」といいたげな顔をしていたが、それ以上はなにも言わなかった。
「リト、モモをお願いね」
「ああ」
「またコケて変なとこに顔つっこむなよな」
「……気を付けます」
「それじゃあ、いってきます」
皆に二人で出かけるのを見送られるのは気分がいいものだ。
好きな人と二人きり。事情は気分のいいものではないがネメシスの横やりを心配する必要もない。
デートは順調だった。
植物園を巡り、二人で昼食をとって、ウィンドウショッピングを楽しむ。リトが転ぶような派手なToLOVEるもなく、至福の一日はあっという間に過ぎていく。
「今日はありがとうございました、リトさん」
「ああ、元気になったみたいで良かったよ」
今日が終わってしまうのが名残惜しい。いや、もう二度とあの男の宇宙船にいくことはないのだから、これまで通り振り向いてもらえるように頑張って、もう一度……今度は恋人としてデートすればいいだけだ。
このときはそう考えていた。
【♡】
ラセールの思惑に気付いたのはその日の夜だった。
リトへの想いを慰めようと、自分の尻尾を触る。しかし、いつものように昂らない。
(あ。そうか、チョーカーが制御してるから……)
そして気づく。
クリトリスを弄る。
感じない。
乳房を弄る。
感じない。
恥を我慢して肛門を刺激する。
感じない。
徹底的に開発されたあらゆる性感帯が、性感帯として一切機能しなくなっている。日常生活を送るために着けたチョーカー。それゆえにいままで気にも留めなかったその効果が、「日常生活が送れる程度に感度を抑える」ではなく「性感を完全にシャットアウトする」ということに、モモは初めて気が付いた。
問題は、性欲自体は抑えないという点。
愛しいリトと一緒にいれば、当然いつかは最後の一線を越えてほしいと思う。女として抱いて欲しいと思う。いまだ処女とはいえ、他の多くの性行為を叩き込まれてしまったいまではなおさら克明にその光景を思い描き、望んでしまう。
しかしそうやって昂った性欲を発散することができない。
(なによこれ、我慢してみろってこと……!?)
ラセールの余裕の理由はこれだったのだ。
ほとんど一ヶ月まるごと残っている期間を、禁欲して乗り切らなければならない。
「……ふん、上等よ」
たしかに辛い。だが所詮は自慰行為ができないというだけのことだ。屈辱のなかでイキ狂わされることに比べればどんなに気が楽か。
絶対乗り切って見せる。
乗り切って、またリトに振り向いてもらうための日々に戻るのだ。
【♡】
そして二週間が経った。
「ハァ――♡ ハァ――♡」
深夜。皆は寝静まった時間。
モモはリトの部屋の前に立っていた。
「ハァ――♡ ハァ――♡」
禁欲生活はすでに限界だった。
処女のまま子宮を堕とされるほど躾けられたモモの性欲は、すでに以前のそれとは段違いになっていた。むしろ二週間よく耐えたといってもいいだろう。
秘裂はすでに洪水状態。まるでご馳走を前にした犬が涎を垂らすように愛液を垂れ流し、床にわずかな水たまりを作っている。
「ハァ――♡ ハァ――♡」
ドアノブを捻り、中に入りたい。
リトを襲いたい。
せめて、ファーストキスと処女だけは愛しいリトに捧げたい。
「ハァ――♡ ハァ――♡」
それはすでに堕ちている者の思考。敗北を知り、認め、その末路に入る前の「女としての死ぬ準備」。最期に心残りを清算する行為。
「ハァ――♡ ハァ――♡」
膨らんでいく性欲。
このあと自分はラセールに頼むだろう。
頭を下げて、腰を振り、身体を摺り寄せて、「私を食べてください」と、「貴方の女にしてください」と願うだろう。
腰を上げて、子宮を晒して、どうぞ好きにお使いくださいと差し出すだろう。
せめて、その前に、初めてだけは……。
「ハァ――♡ ハァ――♡」
ドアノブに手をかける。
さぁ捻れ。
リトを襲え。
脳の奥がそう叫ぶ。理性はせめて初めてだけは彼にと叫び、本能は我慢に耐えかねて肉棒を渇望する。チョーカーがある限り、快楽を得られるわけもないのに。
「ハァ――♡ ハァ――♡…………ダメッ!」
ドアノブから手を放す。
愛しい人の純潔を勝手に奪うなんて、できるわけがない。
していいわけがない。
たとえこの身がラセールの雌奴隷になるとしても、リトを汚すわけにはいかない。それを許すくらいなら、最初から春菜を庇ってこの身を差し出したりなどしていない。
「負けちゃった……。私、負けちゃいました。リトさん……」
ポツ、ポツと。
廊下に水滴が垂れ落ちる。愛液ではない。涙だった。
「……さようなら、リトさん」
愛しい人に別れを告げて自室へ戻る。
そのまま端末を起動させてラセールの宇宙船へ向かった。
おぞましい記憶がよみがえる寝室の光景。だが嫌悪感とは裏腹に、身体はどんどん熱くなっていく。歓喜している。狂喜している。ついにこの餓えた子宮が満たされる時がきたと。
「二週間もよく耐えたね。もっと早くギブアップすると思ってたのに」
深夜にも関わらずラセールは起きていた。
まるでモモがくると分かっていたかのように。
「ここにきたってことは、そういうことでいいんだね?」
「……………………はい♡」
モモはパジャマを脱ぎ捨てる。その下に着けた勝負下着、デートの日に着けた男の欲情を煽るスリット付きのシースルーのブラとショーツをさらけ出す。
そして
「私の……モモ・ベリア・デビルークの処女をもらってください……♡」
淫欲と、絶望と、飢餓と、狂喜。
支離滅裂な感情の嵐に濁った瞳で、モモは最期の一言を口にした。
モモが終わったら次は春菜ちゃんの番です