「おい、あれパイロットじゃないのか!」
「まだ、息があるぞ!!すぐに司令室に連絡しろ!」
「日向二尉を呼べ!」
「(ピッ)こちらフォックス1、日向二尉、応答願います。」
「(ザッ・・・)日向だ、どうした」
「(ピッ)パイロットを発見しました。初号機と弐号機です。」
「(ザッ・・・)生死はっ!」
「(ピッ)初号機パイロットは、心肺ともに正常のようですが、意識無し。
二号機パイロットは心音微弱です。」
「(ザッ・・・)すぐに医療班を回す!絶対に死なすな!」
「二号機パイロットはすぐにICUユニットに収容しろ!!」
「初号機パイロットは、ICUへ!!」
怒号が飛び交う生きていく事の戦いへ二人は帰還した。
そこは、まさに野戦病院そのものだった。
救命処置が施され、間も無くアスカもICUへと移された。
シンジは、ぼんやりとした意識の中で、回りの喧騒を感じていた・・・・・・・・・。
(帰ってきたんだ・・・・・・・・)
ゆっくりと目をあけると、ひび割れた天井が目に入った。
天井の一部が崩れ落ちていたが、ここは、紛れもない、病院の見慣れた天井であることを思い出した。
「・・・・・・・・・・・・帰ってきたんだ・・・・・・・・・・」
ゆっくりと見回す視線に、点滴のバッグが入った。
(生理食塩水にグルコースか・・・・色からして、いくつかのビタミンも入っているのかな?静脈確保か・・・・)
(あれ?僕なんで、こんなこと知ってるんだろ・・・・)
シンジはゆっくりと体のいろいろな所を動かしていった。
異常が無いかどうか確かめるために。
ふと、左手首を見た・・・。
「・・・・・傷・・・・無くなってる・・・・」
(多分LCLから再構成されたのかな・・・)
(・・・・アスカを探さなくちゃ・・・・・)
右腕から点滴の針を外ずし、心電計のケーブルを外した。
心電モニターが異常発生のアラームを発した。
シンジは、モニターの電源を切ると、ベットに起き上がった。
(しまった・・・看護師が飛んでくるな・・・・)
「・・・・・・少し眩暈がするけど、動けそうだ・・・」
ベットから降りた時点で、看護師がすっ飛んで来た。
「どうしたの!!まだ寝てなくちゃ・・・・」
「・・・・・もう、大丈夫です。」
看護婦は、ナースコールを手にとるとシンジの片手を取り連絡しだした。
「初号機パイロットの意識が回復しました。至急ドクターに連絡を!混乱している可能性もあります。」
「・・・・・・看護婦さん、もう大丈夫ですから・・・」
「いけません!ドクターが今来ますから、ちょっとまっててください。」
「・・・・・・ハイ。」
ドクターが怪訝そうに尋ねた。
「気分は・・・・どうかね?自分の名前は言える?」
「多少体がだるいですが、痛みは特にありません。 僕は碇シンジ、初号機のパイロットです。」
「ちょっと目を見せてくれるね。」
そう言うと、ペンライトで目を何度か照らした。
(瞳孔反射か・・・・・・・・・・)
「先生・・・弐号機のパイロットは?」
「ああ、隣の部屋だよ、まだ意識は回復していないが、特に外傷はない。」
「会いたいのですが・・・」
「うん・・・司令室の許可を取るまで待っててくれるかい。君たちは、ちょっと特別だから・・・」
「はい・・・」
「少し待っててくれるね。碇くん。」
「はい・・・・」
5分ほどしてドクターが帰ってきた。
「碇君、すぐに青葉二尉が来るそうだ。それまで待っててくれるね。」
「後は二尉の指示に従ってほしい。体のほうは大丈夫だよ。」
「はい・・ありがとうございます。」
ガチャ!
「シンジくん、だいじょうぶかい?」
「はい。他の人はどうなりましたか?」
「ん、みんな生きてるよ。」
「ミサトさん生きてたんですねっ!!」
「・・・・・・・・・よかった・・・・・本当によかった・・・・」
「・・・・ただ、司令は・・・・」
「父は帰ってこなかったんですね・・・・」
「・・・・いま、捜索しているところだよ・・・」
「・・・・それと赤木博士も行方不明で・・・」
「そうですか・・・・・」
「ところでアスカに会っていいですか?」
「ドクターの許可が得られればね。ところで、何があったんだい。」
「それについては、後で知ってる限りのことをお話します。ところで、他のみんなは?」
「シンジ君、アスカに会っていいらしいよ・・・・但し5分だけだそうだ・・・僕も立ち会うけどいい?」
「はい・・・かまいません。」
シンジは、青葉とドクター立会いの元、アスカに会っていた。
ドクターの手には小さい注射器が握られている。
(チオペンタールナトリウムかラボナールだろうな・・・・僕が暴れたら打つつもりか・・・)
「安心してください・・・取り乱したりしませんから・・・」
アスカは、少しやつれているが、血色はいい。
シンジの手が静かにアスカの手を握った。
心電モニターが規則正しい音を立てていた。
握った手を口元に持っていき、祈るようにした。
(・・・・・・・アスカ・・・・・・早く帰っておいで・・・)
1分ほどそうしていたが、青葉に向き直り、静かに言った。
「すみません、青葉さん、1分だけでいいですから・・・お願いできますか・・・」
「・・・・・・・・・わかった、他の人には内緒だよ・・・・」
「ありがとうございます。」
「では、外にいるから・・・」
「・・・・・・・・アスカ聞こえるね・・・・帰っておいで・・・・アスカ・・・・。」
そう言って、アスカの手を額に祈るようにあてがった・・・・。
(もう一度やりなおそう・・・今度は逃げない・・・僕はそのために帰ってきた・・・)
肉体の再構築のおかげで、彼女の体は健康な頃と、ほとんど変わらない柔らかい唇に、シンジは口づけした。
「アスカ・・・・もう絶対に離さない・・・」
「もういいかね・・・・」
ドクターの声がする。
「はい・・。」
それから、シンジは、いくつかの検査を受けると、青葉と共に司令室に向かった。
司令室は、相変わらず騒然としていた。
ミサトが飛んできて、シンジを強く抱きしめた。
「・・・・シンちゃん・・・・・ありがとう・・・帰ってきてくれて・・・・ごめんね、真っ先に行けなくて・・・。」
「ミサトさん・・・・ただいま・・・約束通り戻ってきましたよ」
ミサトに抱きしめられている肩が濡れていくのが感じられた。
「シンジ君・・・すまなかった・・・・そしてよく帰ってきてくれた・・・・」
「はい、副指令。でも謝るのは、僕の方です。サードインパクトを防げませんでした。」
「いや、これで良かったのだよ。君は立派に使命を果たした。」
「すまんが、今情報戦の後処理中なんだ、1時間ほど待っててくれていいかね。」
「戦自はどうなりました?」
「ネルフは全ての情報をあらゆる方法で公開した、戦自はすでに撤退したよ。君には聞きたいことがある、作戦室で待っててくれるね。」
「はい、では後ほど。」
シンジは、作戦室に入ると、コーヒーを取った。
一口飲むと、香ばしい香りが広がった。
昔、よく飲んだ味だ・・・そんな酷く懐かしい感じがした。
「・・・・・・・・?」
(母さんがコーヒー好きなんて知らなかったな・・・・・この味がなんかとても懐かしく感じる・・・)
(・・・・情報戦の後処理ということは、母さんの作ったあのプログラムうまく発動したんだ・・・・)
(・・・・みんなびっくりしただろうな・・・・・・リツコさんにも発見できないほど巧妙に隠されてるから・・・)
(あれ、・・・・なんでそんなこと知ってるんだろう・・・・そっか、母さんが補完してくれたとき、
知識を共有したんだっけ。)
(・・・・・・・MAGIの全てを知っている・・・隠しコードも・・・全て・・・・・・そしてなぜそれを作ったかも・・・)
(母さんは、予見していた、自分がもし帰れなくなった場合の状況を・・・最悪の状況を・・・父さんはその最悪のシナリオを選んだ。)
(だとすれば、僕がすることは何もない・・・・・あとは大人の仕事だ・・・・)
プシュン。
「シンジくん、待たせたね。もう体はいいのかね。」
「はい。大丈夫です。」
「G-666コードの発動・・・したんですね・・・」
「・・・・全てを知ってるようだね。教えてくれるか・・・もうすぐ葛城三佐も来る。」
「はい」
その後、シンジは、入ってきたミサトほか数名の前で話しはじめた。
シンジがインパクトにより、依りしろとなったこと。
自分がユイの補完により、全ての記憶と知識を共有したこと。
母が秘密裏に、MAGIに情報公開プログラムを仕掛けたこと。
これにより、全ての隠され、蓄積された情報が公開されること。
全ての人類は、一度LCLへと帰り、リリスとアダムの手により肉体を再構成されたこと。
自分が一度死に、LCLへと帰され、この世界を望んだ事。
だが、小さい成りともATFが展開できることは秘密にした。
「人」で居たい事と、最後の切り札としてだ。
本来シンジはリリン単独個体となるはずであったが、リリン群体としての道を選択したため多くの力を失った。残ったのは、何となく生命体を感覚で察知できる能力と、30cm四方ほどの大きさのATFが張れる程度だ。
「シンジくん、じゃどうして死んだ人がいるの?」
「ミサトさん、サードインパクト前にすでに死んでしまっている人は、LCLへと回帰できませんでした。」
「でも、帰らない人も大勢いるのよ」
「はい、それは各々の帰りたいという心に起因します。LCLの状態を受け止めてしまった人や、生きる希望を失ったひと・・・・帰ることを拒絶したひと。多くの魂がリリス、アダムとともに消えて行きました。」
「・・・・・・・・そう・・・・・・」
「父さんや母さんもまた、その一人でした。」
「レイもまだ帰ってこないわ・・・」
「・・・・・・・・綾波はもう帰ってきません。彼女はリリスと同化し人々の補完を行いました。
綾波の魂は、リリスの魂のかけらだったんです。
僕と触れ合うことで、人の心を知り、父の補完ではなく僕に全てが託されました。」
「ミサトさん・・・どのぐらい帰れましたか?」
「帰って来たのは、インパクト前の68%よ・・・・まだ全数がつかめていないけど、MAGIの予測では最大73%・・・・・・・・」
「数億人が亡くなったのですね・・・・多くの家族や愛する人を失ったひとも・・・大勢・・・・」
「シンジくん、あなたが悪いわけじゃないわ・・・・原因は、私たち大人・・・・あなたは人類を救ったのよ。」
「・・・・・・・・はい。」
「シンジくん変わったわね・・・・・・・。」
「ええ、自分でも感じます。きっと母が欠落していた部分を補ってくれたのでしょう。」
「副指令・・・ゼーレはどうなりましたか?」
「ほとんど逮捕されたよ、数名は抵抗して死んだらしいが、キール・ロレンツは行方不明だ。」
「・・・・・・・・僕はゼーレと父を許せません。たとえ、地獄の果てまで追いかけてでも・・・・。」
「シンジ君、私は君に謝らなければならない。碇の暴走を止めることができなかった・・・。謝ってすむ事ではないが、本当にすまなかった。」
「セカンドインパクトで生き残った、娘と孫娘がゼーレの人質となってから、私は碇の監視者となった。
そして、碇のシナリオに賭けたもの事実だ。」
「結果として、君たちをはじめとして多くの人を不幸にした。断罪されるべくは私なのだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そうでしたか。」
「冬月副指令、お願いがあります。」
「なんだね。私でできることであればなんでもしよう。」
「ゼーレ殲滅に力を貸していただけませんか?それと娘さんとお孫さんの救出を。」
「・・・・・ありがとう・・・・・・」
「僕は、ゼーレが許せません。もう二度とこの悲劇を起こしたくないのです。
そのために母もあのプログラムを残したと思います。その為には、なんとかしてネルフを残して下さい。」
「わかった、約束しよう。」
シンジの瞳には、死地を生き残った男だけが持つ強い信念の光があった。
「本当に・・・シンジ君なの?・・・・・・・これが・・・・・・・」
「マヤさん、リリスに補完されるとき、僕は母から全ての知識と記憶を受け継ぎました。
あなたの知っている碇シンジはあの時消えてしまったのかもしれません。
でも、僕は紛れもない碇シンジです。本質的には変わっていません。」
「強くなったのね・・・シンジくん・・・・。」
「いいえ、僕は、補完直前、自分のあまりの情けなさに壊れ、自殺しました。」
「「「!!!!!!!!」」」
「しかし、母とリリスの補完により、帰ってきました。LCLに溶けていたとき、全て理解したんです。
逃げていた自分を、自分の事しか考えられなかった自分を、そして好きな子さえ救えなかったこと。」
「補完の時、母は、僕に欠けていた心をくれました・・・。そして、帰って来ました・・・護る為に、戦う為に。」
(そして、アスカ・・・君を護るために・・・・)
「・・・・・・・シンちゃん・・・・・・」
「ミサトさん、いままで、本当にお手数かけました。まだ、家族でいてくれますか?」
「・・・・・・・・もちろんよ・・・・ぐすっ・・・・こっちこそ、ありがとう・・」
「さ、我々はやらねばならんことが山積みだ、これから真の戦いが始まる。有志は手を貸してほしい。」
「「「もちろんです。」」」
「シンちゃん、今日はどうするの?ここの施設はほとんど機能していないし・・・マンションに帰る?」
「いえ、問題なければ、アスカの側にいてやりたいんです。目覚めたとき側にいてやりたいんです。」
「ん・・・・・じゃ、私が連絡しておくわ。手伝えることがあったら何でも言ってね。」
「マヤさん、MAGIとのラインをアスカの病室に引いてください。それと、できるだけ強力なノートPCを一台お願いします。」
「シンジ君、私が準備できるのは、下士官クラスまでのアカウントなの、それ以上は、赤木博士のアカウントじゃなきゃできないわ、しかもこのプログラムは、プロテクトされているの・・・だから・・」
「大丈夫ですよ、母が使っていた機密コードを使います。」
「なにをやる気なの・・・シンジくん。」
「・・・・・・・・・戦いはまだ続いてるんですよ。いや、これからが本当の闘いとなります。この世界からゼーレ関係者を根絶やしにするのが僕のレゾンドテールなんですから。」