「じゃ、シンジ。明日ね。ちゃんと起きなさいよ。」
「うん、ありったけの目覚まし用意するよ。アスカこそだいじょうぶ?」
「うん、ミサトも一緒だしね。」
「アスカぁ、そろそろ出るわよぉ。」
「あ、呼んでる。じゃぁね。シンジ。」
「うん、明日。」
今日は、冬月性になって最後の日、アスカは一度ぐらいはと言って、冬月司令の家に泊まりに行った。
ぽつんと置かれたシンジは一人つぶやいた。
「こんなに広かったんだ・・・・・・・・ここって。」
翌朝、シンジは忙しかった。
指輪を以前に買った店に、今度は結婚指輪を取りに行き、そのまま式場に行く予定である。
「お、花婿がやっと登場だ。」
「あ、青葉さん。」
「シンジ君急いだほうがいいよ。」
「はい。」
シンジはレンタルのタキシードに着替え、靴はこの日のために新調した。
「ね、青葉さん。アスカは?」
「うん、隣の部屋で支度中。葛城少佐が一緒だよ。」
「会えますかね?」
「うん、終われば、葛城少佐が知らせてくれるはずだよ。」
シンジの仕度はすぐに終わった。
「あ、指輪は?」
「これです。」
「じゃ一旦預かるね。」
「はい、お願いします。」
コンコン。
「はい、どうぞ。」
「シンジくん、いる?」
「あ、ミサトさん。」
「あら、シンちゃん。かっこいいわよ。」
「そ、そうですか?変じゃありませんよね?」
「大丈夫よ。そうそう、ちょっちまってね。」
ミサトは、部屋に飾ってあった、一輪の白いバラを取ると、シンジの襟に差した。
「と、あとは、白い手袋あったでしょ?アレを右手に持って出来上がりっと。」
「アスカの方は準備できました?」
「ええ、とっても綺麗よ。とにかくびっくりするほどだから。
まるで、ウェィデイングドレスを着たフランス人形みたいよ。」
「見に行ってもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。」
シンジは、アスカの控え室をノックする。
コンコン。
「はい。どうぞ。」
「アスカ、僕だよ。入るね。」
カチャ。
ドアを開けたとたん、シンジの目に入ったのは、真っ白なドレスを着た、アスカだった。
あまりの美しさにシンジは言葉を失った。
それほど、今日のアスカは美しかった。
淡いヴェールに光る真珠のティアラ。そして、淡い化粧と綺麗な赤いルージュ。
シンジは、アスカを見つめたまま、見とれていた。
「ね、シンジ。どう?」
アスカは、にっこり笑って、小首をかしげる。
「すごく綺麗だ・・・。なんといって良いのか、ホントに言葉が見つからないよ。」
「ありがとう。シンジ。」
「さ、貴方達、そろそろ時間よ。」
協会のオルガンが音を奏ではじめる。
協会の正面のドアが開き、リングボーイの少年を先頭に、フラワーガール役の少女、そして、冬月司令にエスコートされたアスカがヴェールをかぶり、静かに出て来た。
真っ赤な、ヴァージンロードを静々と歩いてくる。
祭壇の手前で、アスカの手袋をはめた手が、冬月からシンジに渡された。
聖歌392番が歌われ、牧師の聖書朗読が始まる。
「あなたがたは、よりすぐれた賜物を熱心に求めなさい。また私は、さらにまさる道を示してあげましょう。たとえ、私が人の異言や、御使いの異言で話しても、愛がないなら、やかましい銅鑼や、うるさいシンバルと同じです。
また、たとい私が預言の賜物を持っており、またあらゆる奥義とあらゆる知識とに通じ、また、山を動かすほどの完全な信仰を持っていても、愛がないなら、何の値打もありません。また、たとえ私が持っているもの全部を貧しい人達に分け与え、また私の体を焼かれるために渡しても、愛がなければ、何の役にも立ちません。愛は寛容であり、愛は親切です。
また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。すべてをがまんし、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。
愛は決して絶えることがありません。こういうわけで、いつまでも残るものは信仰と希望と愛です。
その中で一番すぐれているのは愛です。」
厳かに、儀式が進み神父が話し出す。
「碇 シンジ、汝は、その健やかなる時も、病める時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り、固く節操を守らんことを誓うか。」
シンジの目はアスカを見詰め、神父の問いかけに、シンジは迷うことなく誓いの言葉を交わした。
「はい。永遠に。」
「では惣流・アスカ・ラングレー、汝は、この男子に嫁ぎ、神の定めに従いて夫婦とならんとす。
汝、その健やかなる時も、病める時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り、固く節操を守らんことを誓うか。」
アスカは冬月の心使いに胸が熱くなった。
アスカも、ヴェールの中から、シンジを見詰め、神父の問いかけに、誓いの言葉を交わす。
「はい、永遠に。」
「では、指輪の交換を。」
リングボーイが持つリングクッションから指輪が差し出される。
シンジは、右手で新婦の左手を軽く取り上げアスカの薬指へゆっくり回すようにはめた。
続いて、アスカも同じようにシンジの左薬指に指輪をはめる。
「では、誓いのキスを。」
アスカは膝を折ってかがみ、シンジはアスカのベールをそっと持ち上げた。
アスカが姿勢を正し、軽く目を閉じた。
二人の唇がそっと重なる。
神父が神に二人が夫婦となった事を神前に報告する。
二人は、お互いの手を重ね、お互いの愛を心から誓った。
神の祝福のもとにふたりが晴れて夫婦となったことを、神父が参列者全員に声高らかに宣言する。
二人は、参列者の拍手に静かにお辞儀をした。
「では、この誓約書にサインを。」
神父が式の終了を告げると、音楽が流れ出す。
ふたりは祭壇を降りて、腕を組んでバージンロードを進んだ。
二人には、フラワーシャワーとライスシャワーが降り注ぎいだ。
教会のドアまで来ると、アスカは後ろ向きにブーケを放り上げた。
やまないライスシャワー。
拍手と祝福の言葉が、二人を包んでいた。
二人は、市内のホテルで披露宴がわりのパーティを終え、スイートルームにいた。
部屋は、夕焼けが窓から白いカーテンを通して、入り込んでいた。
「ふう、アスカ、大丈夫?疲れてない?」
「ええ、少しね。」
「少し休むといいよ。」
「ん、・・・・ね、シンジ。」
「なんだい。」
「ホントに結婚したのよね、あたし達。」
「そうだよ。僕も今日アスカを見たとき、夢かと思ったよ。」
「シンジ・・・・あたしの一番大切な人・・・・。」
「幸せになろう。二人して。」
優しいキスの時間が二人を包んだ。
コンコン。
「はい。」
「お花のお届け物です。」
シンジは、花を受け取ると添えられたメッセージカードを見た。
「誰から?」
「ん、ご結婚おめでとうございます。 (R) 」
「誰?」
「わかんないよ、いったい誰だろ・・・。」
「R・・・・・リョウジ・・・加持さんなのかしら・・。」
「まさか・・・。」
シンジは、届けた業者をフロントから聞き出し、連絡を取った。
直接店で受け付けたらしく、相手の名前や連絡先はわからなかった。
ただ、来たのは女性だったという事しかわからなかった。
二日ほどして、ミサトは眠れずにいた。
トイレに行った後、二人の部屋からアスカの嬌声を聞いてしまったためだ。
「・・・・ったくもうっ・・・、毎日毎日・・・。」
遠く、アスカの声が聞こえる。
ブチッ。
何かがミサトの中で切れた。
「・・・・やってらんないわ。」
ウイスキーのビンをラッパ飲みする。
「・・・・・・・・加持のぶぁかぁ。」
ミサトのどこかで、加持が生きているかもという期待があった。
しかし、それは脆くもすぐさま崩れることとなる。
最近、朝食はシンジが作っていた。
スラッ。
襖の開く音がしたあと、トイレで水を流す音がする。
「おはよっ!、シンジっ。」
「おはよう。アスカ。まだ、早いよ。」
「ん、でも、目さめちゃったもん。」
「ね、アスカ。ミサトさん起こしてきてくれる?」
「は~い。」
「ミサトぉ、朝よぉ、起きなさいよ。」
寝不足の顔で襖が開いた。
「うっ、酒臭っ!」
「どんな状況でも、朝は来るのね・・・。」
「な、なに訳わかんないこといってんのよ。」
ミサトはTシャツにショーツのままで、出て来た。
「ちょ、ちょっとぉ!下ぐらいはいてきなさいよぉ。」
ミサトは、気にもせず、そのままトイレに向かった。
「ねえ、アスカ。ミサトさんなんかあったの?」
「さあ?」
「おっと、アスカ、僕、講義があるから先に出るね。」
「いってらっしゃい。あ、昼一緒に学食ねっ」
シンジはバックパックを背に走っていった。
最近は、トレーニングを兼ねて、ネルフの隣にある大学まで走っているのだ。
彼の背は会ったころから10センチも伸び、とっくにアスカを追い越している。
最近では、肩や腕の筋肉もついてきた。確実に、少年から男への変貌を始めていた。
すでに教練ではネルフの保安部にはシンジにかなう者は一人もいなかった。
「ねえ、アスカぁ。」
「なに。ほら、あたしももうすぐ行かなきゃなんないから、食べるんなら食べちゃってよ。」
「あんたたちさ、そろそろ独立したら?」
「そうね、べつにいいけどあんた一人で大丈夫なの?」
「あら、いままでだって、生きてきたわ。」
「そりゃそうだけど。」
「とにかく、考えてみて」
「解ったわ。」
「・・・・・・と言うわけなのよ。」
二人は、学食でお昼を食べながら、話していた。
「そっか、僕らはそれでも良いけど、心配だね、ちゃんとできるんだろうか?」
「ま、今までも生きて来たんだし、って言ってたわ。」
「あたし、司令に相談してみるわ。」
「二人で行こう。」
「ええ。」
「・・・・・・・と言うわけです。司令。」
「うむ、君達も夫婦だし葛城くんといつまでも同居というわけにもいかないだろうしね。」
「で、お願いがあるです。」
「なんだね。」
「ミサトさんの隣の部屋って開いてますよね。あそこ借りられないでしょうか?保安部が使ってたみたいですけど。」
「ああ、今は使ってないはずだよ、しかし、あんなとこでいいのかね?もう少しこう、新居らしい所をだな・・・」
「いえ、あそこがいいんです。」
「そうか、そこまで言うなら・・・わかった、営繕課に連絡しておこう。」
「ありがとうございます。司令。」
引越しで、一番大変だったのは、ダブルベットという強者だった。
ベットの枠はシンジがスパナ片手にばらしたが、マットはそう言うわけには行かない。
30分もかけて、やっとこさ隣の部屋に移動した。
「ふう・・・しんどいわね。」
「少し休もうか。」
「ね、シンジ、カーテンも要るし、生活用品も無いわね。」
「今日と明日で、買い出しだね。」
「なんか、物入りね。」
「ああ、そうだね。」
「あ、そうだ。」
「なに?」
「ほら、シンジの前の部屋、あそこにもあったのよね、荷物・・。」
「はぁ、そうだった。」
午後から、箪笥やら食器やら、冷蔵庫、洗濯機・・・もろもろを買い求めた。
今日の生活に必要なものを除き、配達を頼み、帰ってくると陽はすっかり傾いていた。
「ね、カーテンできてくるの明日だけどどうするの?」
「そうだね・・・・よし、これだ。」
シンジはベットの予備シーツを取り出すと、ガムテープで止め出した。
「あはっ、あったまいい。ナイスアイデアよシンジ。」
「まあね。」
「今日も仕事なのかしら、ミサト。」
「そうみたいだよ。」
「働き過ぎなのよね。も少し人材いないのかしら。」
「ミサトさんて、事務処理苦手なんだよ。ちゃんと作ろうとすると時間かかるしね。
僕の今いる保安課なんか、いっつも書類直してんだよ、ミサトさんの書類。」
「「はあぁぁぁ。」」
今日は、とりあえず、ミサトさんの方で食事を作ることにした。
「ただいまあ。」
「お帰り、ミサト。」
「あら、シンちゃんは?」
「納戸片付けてるわ。」
「ね、あんたたち、今日はどっちに泊まるの?」
「隣よ。あ、でもお風呂は借りるわ。風呂まで掃除が終わらなかったのよ」
「よしっ、じゃ今夜は引越し祝いね。」
「おソバ、ちゃんと準備してあるわよ。」
「さすが学生主婦。二足のわらじは伊達じゃないってか。」
「あら、それを言うなら、三足のわらじね。学生でしょ、軍人でしょ、シンジの妻。」
最近、しっかりとエプロンが似合ってきたアスカがノロケた。
「ね、みんなぁ。ご飯よぉ。」
「はいは~い。」
「うーん、今行くぅ。」
「ね、ミサト。明日からご飯どうするの?」
「そうね・・・・。ま、不規則な生活だし、暫くはレトルトかコンビニね。」
「ミサトさん、もう少し仕事なんとかならないんですか?」
「そうよ、そのうち体壊すわよ。」
「あとね、ちょっとなのよ。」
「あ、ミサトさんあれですか?もしかして。」
「あん、シンジ。何の話?」
「うん、ほらエヴァの維持や製造には、大量のアミノ酸が必要だってのは以前に話したよね。」
「ええ、それて゛ドイツのエヴァが見つかったのよね。」
「ミサトさん、それ続けてるんでしょ。」
「あたり。やっとなんか掴めそうなのよ。」
「エヴァ・・・あるんですかね。」
「そうだ、シンちゃん。悪いけどこれ手伝って。」
そういって、一枚のディスクを出した。
「アミノ酸の製造メーカーの向け先リストと出荷量よ。」
「わかりました。これ借りてていいですよね。」
「悪いわね。」
シンジは、片付けが終わると、早速、MAGIに接続した。
(まてよ、単独企業が飼い込んでいるとは限らないな・・・・)
(いくつかの企業に買わせて、秘密裏に集めるても在るし・・・)
(ゼーレの関係リストと合致させると・・・・・・・・・・ん?イスラエル?)
(買い込んでいる企業はっと・・・・・・・・6社か・・・。)
(よし、6社の事業は・・・あれ・・・確かにアミノ酸を使う企業だけど異様に多いな・・・。)
(もしかして、ビンゴかな。調べてみる価値はありそうだ。)
シンジは、製品の販売額と比べても原材料購入が異様に多い社を抜きだした。
ピルルルッ、ピルルルッ、ピルルルッ。
カチャ。
「はい、葛城ですけど。」
「あら、ヒカリ・・・・・・どうしたのっ!ヒカリっ、泣いてちゃ解んないわよ。」
「ええ、・・・・・・ええっ!大変・・・。まって。今どこよっ!ええ、解ったわ。すぐ行くわね。」
「どうしたのさ、アスカ。」
「シンジっ・・・・・鈴原が事故でっ!・・・・。たった今・・・亡くなったって・・・。」
ガチャン!
シンジの持っている茶碗が、落ちた。
「!!! そ、そんな・・・・トウジが・・・・・・。」
「シンちゃん、アスカっ。すぐ用意しなさい。行くわよ。」
「シンジっ!着替えて。」
「いや、このままで良いよ。すぐ出よう。」
病院についた三人は、変わり果てたトウジに会った。
ヒカリは、霊安室の外で廊下の床に座りこんでいた。
霊安室に入ると、父親とナツミちゃんが居た。
直接の死因は頚椎複雑骨折、道路の真中に立ち尽くす子猫を助けようとしたところへ、わき見運転の大型トラックが突っ込んだという。
病院に運ばれたときはすでに息は無く、救命措置も無駄に終わった。
「トウジ・・・・、なんでっ!!・・・・。」
シンジには、話す言葉さえ見つからなかった。
葬儀は、質素に行われた。
珍しく雨が降り続いていた。
アスカは、落ち込んでいる、ヒカリを送っていった。
今日はヒカリの家にそのまま泊まる事になっている。
一人で帰ろうとしたとき、懐かしい顔が話し掛けて来た。
「よお、シンジ。こういう形で会うとはな。」
「ああ・・・久しぶりだね、ケンスケ・・・・。」
「シンジ。俺・・・前日にトウジに会ったんだ。」
「そう。」
「言ってたよ、洞木に告白したって・・。」
「・・・そうだったんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「これ・・・洞木に渡してやってくれないか・・・。」
ケンスケは一枚のディスクを差し出した。
「これは?」
「トウジの写真。」
「どうして、僕から?」
「苦手なんだ・・・そういうの・・・。」
「アスカに頼むよ。僕も苦手だから。」
「ああ、それでいいさ。」
二人は、近場の喫茶店に居た。
「まだ、言ってなかったな・・・結婚おめでとう。」
「うん。ありがと。せっかく招待状送ったのに。」
「すまなかったな。行く勇気が無かったんだ。」
「そうか。」
「俺な・・・惣流のこと・・・好きだったんだ。」
「そうだったのか・・・。」
「ああ、やっばり辛くてな。」
「いまでも?」
「諦めたよ。俺には彼女は似合わないさ。それに、実は、彼女の性格に耐える自信もないしね。
なにより、惣流はお前しか見てなかったよ。」
「まだ、写真続けてるんだ。」
「ああ、自分のやりたい事が解ったんでな。」
「そう。」
「さて、そろそろ帰るよ。」
「ケンスケ。気が向いたら遊びに来てくれよ。ミサトさんの隣だから。」
「ああ、きっと行かせてもらうよ。」
「叶うと良いな、ケンスケの夢。」
「ああ、じゃあな。」
よほど辛い事があったのだろう、ケンスケには以前あったような少年らしさが微塵も感じられなかった。
シンジは、雨の中を一人マンションへと向かった。
トウジの葬儀や引っ越しのゴタゴタがやっと落ち着き、その日もシンジは、やっと実習を終え帰ってきた。
「あ、おかえりっ、シンジっ。」
いつものようにキスしようとすると、シンジの口を手で抑え、女性物の靴を指差した。
「ヒカリよ。」
ヒカリはシンジたちが、第二の居間にしている場所にいた。
「やあ、洞木さんいらっしゃい。」
「・・・碇君、お邪魔してるわ。」
「うん、ゆっくりしてってね。」
「ええ、ありがと。」
ヒカリの顔には笑顔は微塵も見えなかった。
「ね、ヒカリ、あたしちょっとシンジの面倒みるから、テレビでも見てて。」
アスカがシンジを寝室に引っ張っていった。
「どうしたの?洞木さん。雰囲気が変だけど。」
「そうなのよっ。今日ね、町で買い物してたら、彼女見かけたのよ。どこに居たと思う?」
「買い物でもしてたの?」
「ぜんぜん。町のナンパスポットよ。そこに居たのよっ。」
「知らなかったとか・・。」
「ううん。ただじっと座ってたのよ。」
「で、拾ってきたの?」
「ううん、様子がおかしいんで、物陰から見てたの。」
「で。」
「なんと、ヒカリったら、変な男にふらふらついて行こうとしてたのよ。」
「で助けに入ったと。」
「あったりまえよぉ。飛び出して、あわてて、引きずってきたのよ。」
「そうか~。困ったな。で、原因はやっぱり鈴原だろね。」
「家に一昨日から帰っていないらしいわ、駅前のカプセルに泊まってたらしいけど。」
「洞木さんの家に電話は?」
「さっきした。とりあえず、落ち着くまで暫く預かるからって言ってあるわ。」
「うん、それでいいと思うよ。」
「ねえ、シンジ。どうすればいいのかしら。」
「う~ん。」
洞木が自暴自棄になってしまう気も解るような気がした。
「ところで、ケンスケから貰ったディスク・・・彼女に渡したの?」
「ええ、先週よ。」
「そのときの彼女どうだった?」
「ただ、だまって受け取ったわ。」
「う~ん。」
「ね、どうしよう・・・。」
「ま、とにかく話をしてみようよ。」
「アスカ、簡単でいいから、ツマミのようなもの出来る?」
「ん、わかった。」
シンジは、ワインを一本持つと、グラスを持って、ヒカリの居る部屋に向かった。
「シンジだけど入るよ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
ヒカリは、アスカの服を着ていた。風呂にでも入ったのであろう・・・髪の毛が少し濡れていた。
「どう?いっしょに。」
シンジは、ワインをぶら下げ、テーブルについた。
「ええ、頂きます。」
グラスに注いだワインをヒカリは一気に空けた。
「もっと、ゆっくりね。いい?」
「ええ。でも今日は酔いたいの。」
「なにがあったかね聞かせてもらっても良いかな。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「一昨日から家に帰ってないんだって?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アスカが、ツマミを作って入ってきた。
「ね、ヒカリ・・・食べてね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、ヒカリ・・・・どうしてあんな事を?」
グラスを一気に空けた後、ぽつりぽつりと話し出した。
「なんか、なにもかも・・・嫌になったの・・・・。」
「辛かったんだね。」
コクリとヒカリが頷く。
「ね、もう一杯ちょうだい・・・・。」
シンジがヒカリの空のグラスを満たす。
「ヒカリ・・・・・無理しないで、話してみてよ。」
「あたしね・・・・碇くんが・・・・・・・・・好きだったの。」
ヒカリのN2爆弾が炸裂した。
「「えっ?」」
「碇君をアスカが好きだったのは、すぐに解ったわ。」
「どうして・・・。」
「でもね、あたし諦めたの・・・・。とても敵わないって知ってたから。
アスカみたいに綺麗じゃないし・・・そんな勇気も無かったから。」
「それにね、アスカの気持ちも知ってたから・・・・。」
「でもね、見てるだけでも良かったの・・・。」
「そしたら・・・隣にいつも居る鈴原が、私を見ていることに気づいたの・・・。」
「鈴原の優しさを知ったのは、すぐその後だったわ。」
「あいつったら、・・・泣きながら、死んでしまったウサギを埋めてたわ。」
「私ね・・・・だんだんと、鈴原に惹かれていったの。」
「碇君と同じぐらい気になるようになってたの・・。」
「異常よね、二人も好きになるなんて・・・。」
「いつだったか、碇君が私を家まで送ってくれたことがあったわよね。」
「ああ、ヒカリがこっちへ戻ってきた頃ね。」
「ええ。」
「碇君の変化はすぐに気づいたの。すごく男っぽくなって・・・頼りたくなって・・・。」
「でも、アスカを裏切ることなんて出来なかったの・・・・・・。」
シンジもアスカも黙って聞きつづけた。
「私は、鈴原を好きになろうとしたの・・・・碇君を忘れる為に・・・・。」
「鈴原ね・・・・観覧車に乗ったとき、降りる直前に一度だけ、キスしてくれたわ・・・・とっても、短いキス・・・。」
「わたしね・・・・鈴原だったら・・・って思ったの・・・・。」
「結局なにもないまま、鈴原・・・死んじゃった・・・・」
ヒカリは、グラスをさらにあおった。
「私ね・・・・二つ騙してたの・・・・一つは自分を・・・・もう一つはアスカを。」
「ほんと・・・バカよね・・・私って・・・・。」
「何もかも嫌になって・・・自分も嫌になって・・・・・死んだら・・・楽になるかなって・・・・。」
「でも・・・・・・死ぬ勇気さえ・・・なかったの・・・・・私には・・・・」
「ヒカリ・・・ごめんね。」
「どうして?どうして謝るの?悪いのは自分よ。」
「アタシ、ヒカリの事・・・・気づいてあげられなかった・・・自分のことで精一杯で・・。」
「私だって、おんなじ・・・・。」
「ね、ヒカリ・・・・その・・・シンジのこと今でも?」
ヒカリはこくっと頷いた。
「大丈夫よ、アスカ。碇君取ったりしないわよ。アスカに敵うわけ無いじゃない。」
「でも・・・・。」
「碇君は、アスカしか見てないわ。私なんかアウトオブ眼中よ。」
「ま、とにかく今日は泊まっていってよ。洞木さん。」
「そうね、そうしなさいよ。ヒカリ。」
「うん。でも・・・」
「大丈夫よ、ヒカリの家にはあたしから連絡入れといたから。」
「ごめんね、アスカ。迷惑かけちゃったね、碇君。」
「気にしないで。」
「ね、シンジ、あたし今日こっちでヒカリと寝ていい?」
「うん、そうしなよ。予備の布団があるから、それこっちに敷いてあげるよ。」
シンジは、ネルフに明日休むことを告げた。