ヒカリはほどなくして熊本へと、養子となって旅立っていった。
「行っちゃったわね。また会えるかしら。」
「うん。きっとね。」
二人は、ヒカリの乗った飛行機が小さくなるまで、見詰めていた。
二人はいつもの生活へと戻っていった。
ミサトは、冬月司令に呼び出されていた。
「葛城少佐、入ります。」
「ああ、忙しいところすまんな。」
「実はな、今日はプライベートな話なんだ。」
「碇ですか?」
「いや、今回は別なんだよ。加持二尉を覚えているかね。」
「はい。」
ミサトは緊張した。もしかしたら、どこかで生きているかも知れないという、淡い期待を持っていた。
「はっきり伝えよう。加持君は亡くなっていた。」
ミサトの体から、力が抜けた。立っているのがやっとだった。
「座りたまえ、少佐。」
ミサトは、倒れこむようにソファに座った。
「彼が、三重スパイだった事は知っているかね?」
「はい。」
「彼は、インパクト前、殺され、死体は消えた。」
「はい。」
「彼は、自分で調べた資料や証拠をマイクロフィルムとして、体中に隠してたらしい。」
「・・・・・・・・・・・・」
「彼の遺体は、海外に運ばれ、ゼーレ息のかかった病院に運ばれた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そして、体を切り刻まれ、調べ尽くされた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「我々がゼーレ追跡で浮かび上がったその病院を見つけたときは、遺体として残ってたのは、
頭骸骨の一部だけだったよ。」
コトリ。
冬月は小さな、遺骨入れをミサトの前に置いた。
「それが、彼だ。」
「バカな男ね・・・。」
そういって、静かに遺骨入れを持ち上げると、しっかりと胸に抱いた。
「彼の遺骨は、私の知り合いの寺に頼めるがどうするかね?」
「わたしが・・・・・・・・」
ミサトはそう言うのが精一杯だった。
「わかった。今日はもう帰りたまえ。葛城少佐、一週間の休暇を与える。だれかに送らせようか?」
「いえ、大丈夫です。では。」
ミサトは、どうやって帰ってきたか、覚えていない。泣かずに帰ってくることで精一杯だった。
気がついたら、マンションに帰ってきていた。
着替えもそこそこに、手近にあったウィスキーのボトルに手を伸ばした。
ボトルのまま、ラッパ飲みする。
ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ・・・・・・・・ごくっ、ごくっ、ごくっ。
ただ、ひたすらに酔ってしまいたかった。
急に飲んだ為に、胃が反応し、強い嘔吐感が襲ってくるが、頭を振って吐かないようにする。
ぼんやり、テーブルを見ていると急速に酔いがまわって来た。
その後の記憶は無かった。
ただ、何かを探してたような・・・騒いでたような・・・何かを食べてたような・・・そんな気がした。
「ね、アスカ。食事できたから、ミサトさん呼んで。」
「今日は帰ってきてるの?」
「うん、今日から一週間の休暇らしいよ。帰ってきてると思うけど。」
「よく知ってるわね。」
「ま、一応これでも、保安課だもの、僕。」
「おかしいわね、寝てるのかしら。電話出ないわ。」
「ねえ、シンジ、ミサト出ないわよ。」
「おかしいな、寝てても電話だけは出るのに。・・・ちっょと行ってみてくるよ。」
「ええ、その間あたしが準備しとくね。」
シンジは、箪笥から昔使っていたミサトの部屋のキーカードを取り出した。
コンコン。
「ミサトさん?」
ゴンゴン。
「ミサトさんっ居ないんですか? 入りますよ。」
ピッ、プシュッ。
「うわ、なんだこれ・・・・」
部屋の中はめちゃくちゃに散らかってた。
「最近は結構綺麗にしてたのにな・・・。」
シンジはテーブルの上にある遺骨入れに気がついた・・・。
(これって・・・・小さいけど遺骨入れだ・・・人骨?)
遺骨は、紙の上に広げられ、僅かな粉しか残ってなかった。
(様子が変だな・・・・・)
シンジは、ミサトの部屋をそっと開けた。
(だれもいない・・・・)
シンジは、携帯で、保安課に連絡を取り、ミサトの所在調査を依頼した。
納戸や、元アスカの部屋も誰もいなかった。
トイレを見て、浴室のアコーディオンカーテンを開けようとしたとき、足の裏にビチャリと濡れる感じがした。
「血・・・・・」
シンジは、後ろの腰から銃を抜きながら、カーテンをすばやく開けた。
そこには、全身血だらけとなって倒れているミサトが居た。
「くそっ!!」
シンジはすぐに脈を診た。
弱いが、まだあった。
すぐに、保安課に連絡を取り、救急車を手配した。
自宅に電話を回した。
「はい、碇・・」
「アスカっ!タオルと救急箱をもってすぐ隣へきてくれっ!」
「はいっ!」
外傷は、左手首の傷で今でも血が噴出していた。
シンジは片手で、止血すると、他の傷を探した。
腹部に数箇所あったが、これは浅かった。
「シンジっ!なにがあったの?」
「タオルをっ!」
シンジはタオルを手首に巻きつけ、さらに紐で強く縛った。
ミサトの唇からは色が消えつつあった。
「ミサトっ!ミサトぉ・・・・ね、シンジ、助かる?助けてよぉ・・・」
「出血性ショックが無きゃね。・・・・・どうやら、酔ってるみたいだな・・。」
「いったいなにがあったのよ!」
「今はミサトさんを助けるほうが先だよ。アスカ、そろそろ救急車が来る頃だから、案内と運び出しの確保をしよう。」
「・・・・わかったわ。」
シンジはネルフの病院に電話を入れ、ミサトの血液型の保存血液を準備させた。
念のため、人工心肺と除細動装置も用意を頼んだ。
救急車が到着し、ミサトと一緒に乗って、病院に向かった。
ドクターが処置室から出て来た。
「ご家族ですか?」
「はい。容態はどうでしょうか?」
「はっきり言って危険な状態です。」
「意識は?」
「ありません。心臓も一時停止しましたが、現在回復しています。
血圧は、80の45、2000CCの輸血をしました。外傷は、止血、縫合し処置してあります。」
「脳波はどうでしょうか?」
「眠っている状態です。」
「α波のままですか?」
「ええ。」
「シンジぃ、助かるよね・・・ミサト・・・助かるよね・・・」
「意識が回復するかどうか・・・。」
ミサトをアスカに頼んで、シンジはネルフに向かった。
「碇シンジ少尉、入ります。」
「どうしたね、少尉。」
「葛城少佐のことですが。」
「なにかあったのかっ!」
「自殺の疑いがあります。なにか、お心当りありませんか。」
「今日だが、彼女に加持 元二尉の遺骨を渡したんだよ。ずいぶんとショックのようだったので、休暇を与えた。まさか、これほど思い詰めるとは・・・すまん、少尉。私が軽率だったよ。」
「そうでしたか。」
「司令。この件、私に一任頂けないでしょうか?」
「うむ。頼んだよ少尉。助けてやってくれ。」
シンジは、司令室に立ち寄り、青葉やマヤ、そして、日向にミサトが怪我をして入院した事を伝えた。
仕事に関しては、マヤに代行を頼み、詳細は司令の指示を取るように頼んだ。
「シンジくん、その・・・葛城少佐の容態は?」
「日向さん、少しいいでしょうか。」
二人は作戦室に来た。
「シンジくん、状態、悪いのかい?」
「日向さん、僕は、ミサトさんの一件で司令から委任を受けています。こたえる前に少し、聞いていいですか?」
「ああ、かまわないが。」
「プライベートな質問でも?」
「・・・・・・いいよ。」
「日向さんは、葛城さんをどう見てます?女性として。」
「シンジくん・・・・・愛してるよ。彼女を。」
「ミサトさんを支えてあげる自信はありますか?」
「自信か・・・自分では、あるつもりだよ。」
「ミサトさん、今、加持さんの死を現実として突きつけられました。
そして、泥酔し自殺を図りました。」
「なっ・・・なんだって!命はっ!教えてくれっ!シンジくんっ!」
「落ち着いてくださいっ!日向中尉っ!!」
「体は手当てと輸血でなんとかなりました。ただ、意識が戻りません。」
「助かるよな、なっ・・・。」
日向の眼鏡の脇から、涙がこぼれていた。
「まだ、意識が戻るかどうか解らない状況です。」
「日向さん、彼女をたとえ嫌われても、一生支えるほどの覚悟はありますか?」
「・・・・・・・でも、彼女には・・・・彼女の心には・・・加持が居る。」
「だからです。いま、彼女はそれを失ったんです。」
「わかった、たとえ嫌われても、なんと言われようと、僕は彼女を支えるよ。」
「よかった・・・・。」
「シンジくん、もし、僕がNOといった場合は、どうするつもりだったんだ?」
「そのときは、僕が支えるつもりでした。一生。 僕にとって、ミサトさんは家族ですから。」
「すごいな、シンジくんは。」
「仕事のシフトは僕の方から、司令にお話ししておきます。行ってあげてください。」
シンジは、司令に経緯を伝えると、司令室スタッフのシフトを頼んだ。
日向の仕事が4時で終わるようにだ。
コンコン。
「はい、シンジ?」
「日向です。」
「あら、お見舞い? どうしたの?こんな時間に。心配?」
「そう。シンジくんに背中を押されて、自分の心に、やっと気づいたバカが一人ね。」
「まだ、意識が戻らないのよ。」
「見通しは?」
「まだ、わからないって」
アスカは頭を横に振った。
「そう・・・。」
「ね、俺・・・彼女に付き添ってもいいかな・・・。」
「ええ、ただし、眠っているからって変な事しちゃダメよ。」
「し、しないよっ!」
「うふふっ、からかっただけよ。大丈夫よ、きっと帰ってくる。伊達にサードインパクトは乗り越えてないわ。」
「酷いな、アスカちゃんも。俺・・・本気なのに・・・。」
「ごめんなさい。でもね、ミサトは、あたしたちにとって、大切な家族なの。半分は本気よ。」
「うん、シンジくんにも、そう言われたよ。」
「ね、手・・・握ってあげなさいよ。」
「・・・あ、ああ。いいのか?」
「あたしが精神的に壊れたときね、シンジもずっと手を握ってくれてたの。」
「そうだったね。」
「あら、見てたの?」
「仕事だったもの。」
「シンジが、けだものになった時も?」
「悪い、居眠りしてたんだ、その時。」
「シンジは、あたしに罵倒され、罵られ、嫌われながらも、ずっと居てくれたの。できる?日向さん。」
「おんなじことをシンジくんに言われたよ。今日のシンジくんは、碇司令を思い出させるほど怖かったよ。」
「わかった。じゃ、ミサト。任せていいのね?」
「もちろん。」
コンコン。
「シンジだけと。いい?」
「どう?容態。」
「変わんないわ。」
「日向さん、とりあえず、1600時から暫くはフリーの時間を作りました。ミサトさんについててあげて下さい。それ以外は、僕らが交代で、つきます。」
「ありがとう・・・シンジ君。」
「でも、夜はちゃんと休んでくださいね。」
「ああ。そうするよ。」
翌日、アスカが病院に行った。
日向は、目の下に隈を作っていた。
「寝なかったのね・・・。」
「なんか、寝顔みてたら、朝になってた。」
「換わるわ、そろそろ時間でしょ?」
「そうか・・・じゃ頼むよ。」
「ミサト・・・そろそろ起きないと、二人目の白馬の王子様、倒れるわよ。」
夕方、日向がやってきた。ずいぶんと憔悴している。
「ね、シンジ、日向さん休ませましょうよ。」
「好きにさせた方がいいよ。」
日が暮れると、司令室のスタッフが見舞いにきた。
「聞いたぞ、マコト、頑張れよな。骨は拾ってやる。」
「縁起でも無い事いうなよ、シゲル。俺は本気なんだ。」
「葛城少佐、早く元気になるといいですね。」
「まったくだよ、おかげで予定が・・・ぐっ!」
マヤのヒールがしっかりと青葉のつま先を踏んでいた。
「ほう、デートでもあったのかシゲル、そりゃ悪いことしたな、マヤちゃん。」
「ひゅ、日向さんまでっ!もう、いや!」
「あれ、俺は真面目に付き合ってるんだぞ、後ろ指差される謂れはない。」
「よかったわね、青葉さん、マヤ。」
「人の枕元でうっさいわねえ・・・・休みなのに・・・・」
「葛城少佐っ!」
「ミサトさんっ」
「ミサト!」
「えっ?なんでみんな居るの?」
「よかった・・・・ぐすっ」
日向の涙がめがねの下に溜まっていった。
「はれっ?日向君・・・なんで泣いてんのよ。」
「葛城さんっ!」
「な、なによ。」
「もう・・・・んもう・・・絶対にあんな事しないでくださいねっ!」
「あんなことって・・・あたし・・・???」
「で、なんであたしの右手握ってんの?日向君。」
「なんでって・・・ぐすっ・・・心配だからじゃにいですか・・うぐっ・・・・」
「え?ここ病院?・・・・・なんで?」
「ミサトさん。泥酔した上に、お腹包丁で刺して、、手首斬って・・・それだけやれば、
普通病院送りですよ。」
「えっ、あたし・・そんな事したの?」
「そうよ、ミサトったら、もう少しで死ぬとこだったのよ。もう止めてよね、自殺なんか。」
「アスカ、それほんと?」
「ホントも何も、もし、シンジが応急処置できなかったら、今ごろ通夜よ。」
「あちゃ~、参ったな。飲みすぎたかしら。」
「俺じゃ、加持の変わりになりませんかっ!」
「ひゅ、日向君・・・・。」
「日向さん、ずっと付いてたんですよ。昨日なんか一睡もしないで。」
「ね、日向君、手・・・離して・・・恥ずかしいわよ。」
「い~やっですっ!もうバカなことはしないと約束してくれるまで、離しませんっ!」
「葛城少佐。聞いてください。」
「なに?青葉君。」
「マコトは葛城少佐のこと、ずっと好きだったんスよ。」
「少しは感づいてたわ。でも・・上司と部下よ・・・周りに・・」
「なら、俺ネルフ辞めます。」
「お、マコトがきれたぁ」
「で、でもねぇ・・・・」
「お、俺、本気だから、結婚してくださいっ!ミサトさんっ!」
「なっ、なにを突然。それもみんなの前でぇ。」
それから、ミサトが退院すると、荷物を纏めた日向が、ミサトのマンションに来た。
「え?日向君、マジ?」
「ええ、マジです。今日から厄介になります。」
シンジとアスカは、横で笑い転げている。
アスカに至っては、涙まで流して、ひーひー笑ってる。
「シンちゃん~。笑ってないで助けてよぉぉぉ。」
「ま、僕もあんな事あった後じゃ心配ですから、いいんじゃないんですか?」
「ネルフに知れたら・・・どうするのよぉ。」
「あ、それなら、大丈夫です。僕が、司令から許可とってますから。
あと、病院の一件以来、ネルフじゃその話題ばっかりですよ。
日向さん、住所変更、やっときますね。」
「しょんなぁぁぁ、シンちゃんまでぇ」
「諦めてください、この件に関しては、僕は司令から委任されてますから。」
「シンちゃん、あたし犯されちゃったらどうするのよ。」
「俺、絶対にそんな事しませんっ!!」
「大丈夫ですよ、日向さんにはちゃんと覚悟聞いてますから。」
「あたしの意思は?」
「自殺未遂する人は、暫く、保護観察処分とします。」
「ひえ~ん。あたしはあなたの上司だったのよ~。」
「特例226の3号を適用します。あなたに拒否権はありません。」
日向が「かわいい人だ」とつぶやいた。
「はい、これ。あたしからミサトにプレゼント。」
「なによ、これ。アスカ。」
「万一のジェリコの壁。スタンガンよ。」
「(アスカ・・・それ大丈夫なの?)」
「(大丈夫もなにも、電圧100Vまで落としてあるもの、ちょっとピリッとくるぐらいよ。)」
「じゃ、僕らの家へどうぞ。パーティーの準備してありますから。」
「日向さんのウェルカムパーティーよ」
「お酒あるの?」
「少しなら。でも深酒禁止、今日はビール2本までです。」
「あうぅぅ・・・」
「わあ、すごいなあ。これ全部作ったの?」
「ええ、アスカと二人で。」
「やった、シンちゃんの手料理っと。そのまえにビールっと。」
「じゃ、もしかしたら家族になるかもしれない、日向さんの入居を祝して、かんぱぁーいっ。」
ピンポーン。
「あ、やっと来たわね。」
「お邪魔しまっス。」
「シンジくんはい、これ。」
「わあ、焼き鳥。ありがとうマヤさん。」
「しっかし、マコトも大胆だよな、押しかけ女房ならぬ、押しかけ亭主か。」
「なんとでも、言ってくれ。」
「あ、あのねえ、青葉君、これは日向君が無理やりあたしのところに・・・・
もう、人の話し聞きなさいよねッ」
青葉はすでに、シンジの料理に夢中になっている。
「ま、いいじゃないですか、葛城さん。」
「なんで、葛城さんなんて呼ぶのよ、日向君、あたしはあんたの上司でしょ。」
「じゃ、ミサトって呼びますよ。」
「な、ぬぁんですってぇぇ!」
「今は、時間外のプライベートな時間ですし、戦闘行動時でもありません。ですから、上司、部下は関係ありませんから。」
「お、これはミサトさんに敷かれずに済みそうかな。」
シンジが茶化す。
ミサトは、真っ赤になって、下を向いている。
「そういうシゲルだって、いつマヤちゃんと結婚するんだよ。」
「うっ・・・」
「日向さん、あたしたち、まだそんな、結婚なんて・・・まだ・・・」
シンジはみんなを見ながら、この幸せがずっと続いてほしいと心底が思った。