真っ暗な、月の裏を量産機が飛んでいた。
ユウカはモニターを見つめながら、ディスプレイに映し出された赤外映像の月と赤い光点を見ていた。
「ここね。」
量産機が月へとゆっくり降りていった。
「かあぁぁ。結構でかいわね。」
そう言うと、真っ赤な槍を力任せに引き抜き、翼を広げて、月の表面を蹴った。
「もう一度、回して。」
モニターには月と、小さい光点が見えていた。
「今度は、月をマスキングして、コントラストと明度を上げて。」
「目いっぱいズーム」
「やはり、量産機でしょうか?」
「可能性はあるわね。」
「マヤ、その画像をMAGIに映像処理させて。」
「解りました。暫く時間がかかりますが。」
「どのぐらい?」
「2時間ほどです。」
「いいわ、終わったら知らせて。」
「了解しました。」
「どう思う?シンちゃん、アスカ。」
「あの動き・・・通常の既存の乗り物ではできませんよ。」
「多分、量産機ね。」
「まいったわね、恐れていたことが現実になるなんて。」
「戻ってきた所はつかめているんですか?」
「中近東だということはわかっているけど、低空で移動されたら、解らないわ。」
「とりあえず、そこらの区域を監視強化するしかないですね。」
「わかったわ、国連に映像提出して、協力を仰ぎますか。」
軽く軽食を取ったあと、司令室に戻った。
「あ、葛城少佐。処理終わりました。」
「作戦室へ回して。それと司令を呼び出して。」
「了解です。」
「ぐっ・・・・・・・・・忘れもしないわ・・・あれは間違いなく、量産機よ。」
「そうだね、アスカ。それと、手にしているのは。」
「「ロンギヌスの槍。」」
「シンジくん、いや、碇少尉。君はまた戦いへと戻らなければならないんもしれん。」
「あたし・・・・なんだか・・・怖い。」
「大丈夫だよ、アスカ。今度は、僕には絶対に護らなきゃならないものがある。」
ズッドーーン。
エヴァが大気圏に突入する衝撃波が響いた。
シンジとアスカは副座のコックピットに座り、緊張していた。
「ふう、何回やっても、再突入は緊張するわね。」
「ま、下手すると大気の壁に弾かれて、どこかへ行っちゃうからね。」
「宇宙で使えるのは、羽の間に圧縮した空気だけだけが頼りだからね。」
「ね、ロケットつけたらどうかしら。」
「火薬背負って戦闘するのは、ね。それに、エヴアの重量だとずいぶん大きくないと使えないよ。」
「シンジ、もっといっぱい羽出せないの?」
「6枚でもやっとなんだ。これ以上あったら、気を抜いたとたんに羽が消えて、圧縮した空気がドカンだよ。」
「でも、副座でよかったよ、とても敵索や兵装コントロールまで気が回らないもの。」
シンジは、羽を変形させ、圧縮した空気を下へ解放した。
ゴァァァァァ。
大量の空気が大地に叩きつけられ、エヴァはふわりと着地する。
冷却された空気が大気の湿度を急激に凍らせ、ダイアモンドダストとなって、エヴァの回りをきらきらと光らせた。
「シンちゃん、アスカ。ご苦労さま。」
「データ取れました?」
「ばっちりね。」
「で、どう?宇宙は。」
「GPSはなんとか、使えますね。ただ感覚的には速度がわからないんです。早いのか、遅いのか。
酷いときは、動いているのか、止まっているのか解らなくなりますね。」
「戦闘行動はどう?」
「ヒットアンドアウェイになりますね。最大で、6回程度の攻撃が出来そうです。」
「あとは、武器かあ。ああ、リツコがいればなぁぁ。」
「あと、飛んでる最中に、スペースデブリと何個か接触しましたよ、ATFで防ぎましたが結構な衝撃ですね。」
「そうね、小さいと言っても、秒速数KMの速度だから、当たったら貫通しかねないわ。」
「いまの電索じゃ、1センチ以下は、見えないしね。」
「ま、戦闘は、できるだけ大気圏内へ持っていったほうが有利だね。」
「でも、飛びながらはきついなあ。ほとんど飛ぶのに気をつかってるしね。」
「そんときゃ、あたしがATF張るから大丈夫よ。なんの為に副座よ。」
「そうだね、よろしく頼むよ。」
「で、ミサトさん。敵のエヴァの状況は判りました?」
「だめね、せめてもう一度出てきてくれれば、情報が掴めるんだけど。」
『葛城少佐、指令所まで至急お戻りください。』
「あら、ちょっち行ってくるわね。あんた達上がっていいわよ。」
シンジとアスカは、着替えてロビーで一休みしていた。
『碇シンジ少尉、碇アスカ少尉。至急指令所へ出頭してください。繰り返します・・』
「アスカ、行くよ。」
「ええ。」
プシュ。
「ミサトさん、なにかあ・・・・リツコさんっ!生きてたんですか。」
「残念ながらね。シンジ君。アスカも久しぶりね。」
「お花届いた?」
「あれ、リツコさんだったのですね。ありがとうございました。」
「でも、なんで今更帰ってきたの?リツコ。」
「そうツンケンしなくとも大丈夫よ、ミサト。シンジ君には借りがあるから返しに来ただけよ。」
「今日から彼女には復帰してもらう事になった。」
「「司令!」」
冬月が指令所に入ってきた。
「赤木博士は、インパクト後、記憶を失い療養していたんだ。」
司令執務室では、冬月と赤木が話していた。
「しかし、これで良かったのかね、赤木博士。」
「はい。どうせ、余命幾ばくもありません。借りを返してから死にたいですから。」
リツコは末期のガンに冒されていた。
「あと・・・司令。娘さんとお孫さんの消息がつかめました。」
「なんと、生きているのか。」
「はい。娘さんは、量産機のコアに、孫娘さんはそのパイロットとして。」
「・・・・・・・・・・・・くぅ・・・ジュンコ・・・ユウカ・・・」
「彼女たちは、今、イスラエルに居ます。」
「イスラエルの?」
「はい、正確には判りませんが、ほぼ確実に。」
「リツコ、なぜ今ごろ戻ってきたの?」
「さっき言ったとおりよ。記憶を無くして、療養してたのよ。」
「記憶をなくしてた人が、シンちゃんの結婚を知ってて、花贈ったりする訳?」
「体が回復してなかったから、療養してたのよ。」
「あたしは、信用してないからね、あんたの事。」
「別にかまわないわ。さ、出てって、仕事が山積みなのよ。」
「何か企んでいるのなら、今度は殺すわよ。確実にね。それだけ覚えておきなさい。」
プシュッ。
「・・・・・当然か・・・・ま、どうせ死ぬからいいけど。」
~イスラエル某所~
「キール様、赤木リツコがネルフに戻りました。」
「あの、裏切り者め・・・ネルフごと殺してくれる。」
「それと、量産機の出撃は、今夜の零時に整います。」
「アレフを呼べ。」
「御意。」
「キール様、アレフにございます。」
「娘の様子はどうだ。」
「はい。すっかり信用してます。あとは、僕が人質としての役を演じるだけです。」
「裏切るなよ、アレフレッド。」
「滅相もございませぬ、約束の方は?」
「わかっておる。成功したら、ロレンツの名とお前にNo2の地位をやろう。」
「ありがたき幸せにございます。お父上。」
「下がれ。」
(ふん、下賎な女に産ませた子供も、使い様だな。)
「リツコさん、いいですか?」
「あら、シンジくん。」
「コーヒーもらっていいですか?」
「どうそ。シンジくん、暫く会わない間に、変わったわね。」
「べつに、僕は僕ですよ。」
「あら、別人の様よ、戦闘能力はネルフでトップ、射撃成績もトップ、MAGIの知識、15歳にして医学生、英語、ドイツ語に堪能、ついでに、ヘブライ語まで・・・いったい貴方は何者?」
「母の記憶と知識を受け継ぎましたからね。」
「そう。ま、いいわ、聞きたい事があるんでしょ。」
「ええ、察しが良いですね。量産機のことです。なにか知ってるんでしょ?」
「ごめんなさい、知らないの。ただ・・・・」
「ただ?」
「冬月司令のご家族が絡んでいるのは確かね。」
「娘さんと孫娘さんですね。」
「ええ、そこまで知ってるのね。」
「量産機のパイロットの可能性は?」
「無いとはいえないわ、もし最後に来たエヴァシリーズと同じなら、ダミーシステム。手を加えているとすれば、可能性が残るわ。」
「絡んでいる会社とか組織は判りませんか?」
「キールの組織は表面上活動を停止してるの、ま、トンネルと思われる組織はあるけど、そこから先はなかなか追えないのが実情よ。
昔のネルフならいざ知らず、今のネルフは国連の一部よ、手荒い事も非合法なこともできないのが現実なのよ。」
「たしかに。僕もかなり調べましたが、イスラエルから先はぷっつり途切れてしまうんです。」
「また、何かの方法でインパクトを計画している可能性はあるんでしょうか?」
「それは無いわね。アダムも初号機も失われた今、インパクトを起こす事は無理よ、もし、アダムを見つけたとしても、その維持のためには、膨大な資材が要るわ、それなら、すぐに見つかってもいいはず。それに、リリスも無いわ。」
「その可能性は少ないと?」
「ゼロではないけどね。」
「じゃ、キールの目的は復讐か・・・・厄介だな。」
「キールは目的の為には手段を選ばない男よ。」
「では、相手から出て来るのを待つしか出来ないんですね。歯がゆいな。」
「リツコさん、もう少し教えてください。戻ってきた目的はなんですか?」
「そうね・・・・・・借りを返す為かしら。」
「誰に?」
「キールによ。復讐といっても良いわ。」
「リツコさん、僕は貴方を信用できません。貴方がゼーレの回し者でないという証拠が無い限り。」
「ま、当然でしょうね。」
「済みませんが、制限をつけさせていただきます。作戦行動や立案権に対しては、助言は出来ますが、参画できません。
行動は24時間監視が続きます。あと、MAGIの作業に関しては、全て僕の承認を得てください。
外部に対する一切の通信は制限と検閲が入ります。」
「いまの貴方なら出来るでしょうね。かまわないわ。」
「どんな事をしても護りますよ。この世界を。そのためには、たとえ、貴方でもためらわず殺します。
ただ、貴方が父の愛人だった事についての確執はまったく有りませんので。それに、そのきっかけを作ったのは、父ですから。」
「わかったわ、保安課長補佐、碇シンジ少尉殿。」
「では。」
「シンジくん。」
「何でしょう。」
「いい面構えになったわね。お父さんに似てきたわ。」
「誉め言葉として受け取っておきます。しかし、あれは犯罪者です。二度と父の話は止めた方が賢明ですよ。」
シンジからチリチリとした殺気が伝わってくる。
プシッ
「お~、怖わ。」
一週間後、シンジは中尉に任官した。
~イスラエル某所~
「ユウカ・・・・明日なんだってね。怖くないかい?」
「怖いわ・・・・でも、こうしなければ、あたしも、ママ戻れない・・・・
負けるわけにはいかないの・・・・。」
「ユウカ・・・・・お願い・・・・死なないで・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
翌朝、量産機がイスラエルを飛び立った。
『娘よ。裏切るなよ。』
モニターには、アレフが映っていた。
「彼は、関係ないわっ!放してあげて。」
『ふっふっふっ、お前達の事を知らないとでも思ったのか?』
キールはそう言うと、モニターに別画面で、ユウカとアレフがキスしている画面が映し出された。
「お願い・・・・彼に酷い事しないで。」
『言う通りに動かなければ、この奴隷は切り刻まれて死ぬことになる。』
そう言って、キールはナイフを手に取り、縛られているアレフのはだけられた胸を、肩口から斜めに浅く切った。
『くっ・・・・・・・・。』
『解っているな、小娘。裏切れば、こいつ諸共、母親と一緒にあの世に送ってやる。心して動くことだ。』
「アレフ・・・助けるから・・・きっと助けるから・・・・・。」
ユウカのスーツに繋がれたチューブが強力な麻薬をユウカの体に注入していった。
『娘よ、お前は、エヴァを倒し、ネルフを潰すのだ。そうすれば、全て元に返れる。』
『殺せ・・・・殺せ・・・・』
ユウカは、ぼんやりとする意識で、繰り返しキールの言葉を聞いていた。
『殺せ・・・殺すのだ。そうすれば助かる。』
「・・・・・殺す・・・・・助かる・・・・」
「ふっふっふっ・・・・もうすぐだ・・・・ネルフの者共、目に物を見せてやる。おい、準備は良いか。」
「ははっ、量産機り体内のN2爆雷、いつでも爆発の準備が整っております。」
「エヴァは、量産機で必ず倒させろ。そして、ネルフへ量産機諸共突っ込ませて、爆破しろ。」
「アレフはいかが致しましょうか。」
「小娘が逆らうようなら、殺して構わん。アレの役目ももう終わった。」
「御意。」