ケンスケとユウカは冬月邸の門扉の前にいた。
「・・・・・ここか・・・・よしっ!」
「大丈夫?なんか、顔色悪いみたいだけど。」
「あ、うん。緊張しているせいだよ・・・きっと。」
「ママぁ、ただいま。」
「あら、お帰りユウカ。早かったのね。」
「うん。・・・実は、・・・・・ママに会ってもらいたい人がいるの。」
「・・・・・あらら、上がっていただきなさい。」
「は~い。ケンスケ・・・。」
ケンスケは、ユウカに連れられ、客間に通された。
庭には、植木鉢のプランターが整然と並べられ、決して広くは無いが、いかにも日本の家という感じだ。
ふかふかの厚い座布団がなんとなく、居心地を悪くしていた。
「ね、ユウカ。これ、お茶菓子よ。お友達・・・・・じゃ・・・・ないわよね・・・。」
「うん。クラスメートだけど・・・。後で話す。」
ジュンコは、エプロンを取ると、髪の毛をチェックし、客間に向かった。
「こんにちわ。ユウカの母です。ユウカのクラスメートなんですってね、うちの子、迷惑かけてません?」
「は、はい・・・い、いえっ!迷惑なんてとんでもない。あ、お、僕・・・相田ケンスケっていいます。」
「うふふっ、そんなに緊張しなくたって、大丈夫ですよ、別にユウカをお嫁さんにしに来たわけじゃないんですから。」
ケンスケは、ねっとりとした、汗を手に感じていた。
「ま、お茶でもいかがですか?」
「は、はいっ!」
「ユウカの・・・ボーイフレンドで・・・・いいのかしらね?」
「あ、はいっ・・・・ユ、ユ、ユウカさんと、お、お付き合いさせてくださいっ!」
ケンスケは、手を畳について、お辞儀しようとしたが、場所が悪かったのか、緊張して目測を誤ったのか、凄い音とともに、塗り物のテーブルに頭をぶつけた。
ゴガッ!
「ふぐっ!」
「あらら、大丈夫?」
「痛っ!・・・い、いえ、大丈夫です。はい・・。」
「くっ・・・ぷぷぷふっ!」
ついに、ユウカが笑い出してしまった。
「うふふふっ」
ジュンコもつられて笑い出す。
「・・・あは、・・・あは、あはっ・・・・はぁ。」
「ごめんなさいね、笑ったりして・・・・だって、昔を思い出しちゃって。」
「昔?ママの?」
「ええ、お父さんがね、ママとお付き合い始めたときとおんなじ言葉で、おんなじところに頭をぶつ
けたのよ。うふふっ」
「あははっ、そうだったんだ。」
「・・・は、はあ。」
「相田ケンスケ君ね、ユウカが好き?」
「は、はいっ!」
「そう。ユウカが選んだボーイフレンドなら・・・・でも、もうユウカもそんなお年頃になったのね、初めてなのよ、ユウカが男の子連れてきたの。」
「は、はあ・・・。」
「相田さんて・・・・確か・・・ネルフに?」
「はい・・・そうでした。」
「えっ、今は?」
「亡くなりました、前のサードインパクトで・・。」
「・・・・そうだったの・・・ごめんなさい・・・知らずとはいえ・・・。」
「いえ、別に構いません。」
「では、今はお母さんと?」
「・・・母は、僕が生まれてすぐに・・・・。」
「・・・・・・・・・そう。辛かったでしょうに。」
「いえ・・・もう慣れました。」
「では、ご親戚と?」
「はい、ネルフに遠い親戚がおりまして、今は、そこに・・・。あ、でも、住んでるところはアパートで一人住まいです。」
「あら、大変ね、一人で?」
「はあ。親戚に無理言って、一人暮らしを・・・。」
「そう、しっかりしてるのね。ユウカはまだ甘えっ子で・・・。」
「ママ・・・・私も相田君の事・・・・好きになったみたいなの・・・。」
「そう・・・良かったわね。相田君、ユウカの事・・・・我侭な娘がも知れないけど、宜しくね。」
「は、はいっ!」
「わ~いっ!ママっ!ありがとっ!」
「ユウカ・・・一つ言っておきますね。どんなに好きでも、人に迷惑を掛ける事とはダメ。
それと、まさかとは思うけど、赤ちゃんはまだ早すぎますからね。」
ケンスケは、赤ちゃんの言葉にびくっとした。
「ね、相田君、あなた達はまだ若くて、いろんな可能性を持っているの。
人と人との出会いもそうよ。まだまだ、いろんな事を知らなければならないし、大人まで、焦る事は無いと思うの。」
「はっ・・・・はいっ!」
「私は、あなたとユウカが幸せの道を歩んで行けたら、親としてこんなに、幸せな事はないのよ。
だから、ユウカもそうですけど、自分も大切にしてくださいね。」
「はい。」
「ママ、ありがとう・・・・大好きっ!」
ユウカが、ジュンコに抱きついた。
かすかに、石鹸の香りがするが、家で使っている石鹸とは違うものに気がついた。
(後で、ユウカに問い詰めてみましょ・・・・。)
「そうだ、もし良かったら、夕飯食べて行ってね。ちょっとおでん作り過ぎちゃったみたいなのよ。」
「い、いえ・・・もう、そろそろ・・・。」
「ね、ケンスケ、別に約束ないんでしょ?食べてってよ。」
「う、うん。でも・・・。」
「ユウカ・・・相田君に早速我侭言っちゃって。でも、一人暮らしでしょ、まだ、若いんだから遠慮なんてしない方がいいのよ。」
「はい・・・では・・。」
(ふ・・・冬月さんが帰ってくる前に帰ろう・・・。帰れるるかな・・・・。帰りたい・・・・・・。)
ケンスケは、冬月が苦手だった。
「相田君、ゆっくりして行ってね。じゃ私は夕飯の仕度があるから。そうね、できるまで、居間でお茶でもいかがかしら。 ここでは落ち着かないでしょ。ユウカ、お手伝いしてね。」
「は~い。行こ、ケンスケ。」
ジュンコは、そう言うと台所へ戻っていった。
お茶を下げに来た、ユウカにジュンコは話した。
「ねえ、ユウカちゃん。今日は彼の家のお掃除でもしに行ったの?」
「うん。何で知ってるの?」
「洗剤やら、漂白剤やら、あれだけ抱えてたら、誰だって気が付くわよ。」
「うん。そうよね。」
「いつからなの?ママまったく気が付かなかったわ。」
「最近かな・・・・へへっ。」
「そう・・・・・・・・。 ね、ユウカちゃん・・・・・・ママはどんな付き合い方しろとか言わないけど、胸を張って言えるお付き合いだけはお願いね。」
「う、うん。」
「もしかして・・・・・しちゃったの・・・・・ね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぁ・・・・・ね、まさか、ユウカ・・・まだ後遺症が・・・・。」
「違うわ・・・・。」
「ね、ユウカとママの間でしょ、隠し事は止めましょ。ママは心配しているのよ。
場合によっては、彼もあなたも苦しむことになって・・・・そうなって欲しくないのよ。
ユウカの苦しむ姿はもう・・・見たくないの・・。」
「分かってる・・・・・。」
「ね、正直に言って、決して怒ったりしないから。もう・・・そうなの?」
「・・・・・・・・・・うん。」
「はぁ・・・・・あなたって、昔から直情的だから・・・。」
「ちゃんと、避妊したの?」
「一応・・・・・。」
「きちんとするのよ・・・・これだけは・・・ママのお願い・・・。」
「はい・・・・。でも、ママ、なんでわかっちゃったの?」
「私は母親よ、さ、彼のところへ行ってあげなさい。」
「うん・・。」
「ケンスケ。・・・・・・・ママにばれちゃった・・・。えへへっ。」
「・・・・・マジぃ?」
「うん。ごめんね。ごめんね・・・・。怒った?」
「いや、遅かれ早かれ・・・でも、お母さん・・・怒ってた?」
「ううん。ただ・・・・きちんとしなさいって・・・・その、・・・・あれ。」
「あれ?」
「・・・・・避妊・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・ははっ・・・そ、そうだよね・・・当然だよね・・・・・・・。」
「私の事・・・ちゃんと守ってくれる?」
「ああ、もう決めたんだ。ちゃんと守る・・・・いや、守らせてくれ。」
「・・・・ありがとう・・・・。」
「ユウカ。これ、そっちに運ぶの手伝って。」
「は~いっ!」
おでんは、ちゃんとダシから取ったもので、コンビニのおでんとは違ってた。
「たくさん食べてね。その歳で遠慮しちゃダメよ。」
「は、はい。頂きます。」
「ね、ママ。明日から、ケンスケのお弁当・・・自分のと一緒に造っていい?」
「ええ、いいわよ。時々なら手伝ってあげるわ。」
「ケンスケったらね、いつもお昼取ってないみたいなの。」
「あらあら、相田君、ちゃんと食べなきゃダメよ。あなたはまだまだ成長するんだから、ユウカの事守ってあげられないわよ。」
「はいっ!明日から、ちゃんとします。」
「そうね、朝は仕方ないとしても・・・・そうだ、お住まいは近いの?」
「はい。ここから歩いて15分程度ですが。」
「だったら、夕飯はここで食べて行きなさい。」
「えっ・・・・でも・・。」
「いい?あなたの体には、レトルトや外食だけでは足りないものが一杯なのよ。一人じゃついつい、いい加減になりがちなの。特に男の人はそうよ。ユウカを守っていくんでしょ?だったら、いう事を聞いてね。」
「はい・・・すみません。」
「遠慮しちゃダメよ。ユウカの大切な人みたいだからね。うふふっ。」
「やだ、ママったらからかわないでよ。」
「あら、本気よ。もしかしたら、息子になるかも知れない人に不健康な生活で体でも壊したら、とんでもないもの。」
「はい。では遠慮なくお世話になります。」
「ええ、それで良いのよ。じゃ、明日っからね。」
その後、学校の事や、ケンスケの趣味の写真の事を話しながら、食事は終わった。
「あの、ご馳走様でした。暫くぶりで、家庭の味・・・おいしかったです。」
「良かったわ、気に入ってもらえて。」
「ね、ケンスケ。ついでにお風呂も入っていけば?」
「いや、そんなに甘えるわけには・・・そろそろ、おいとまします。」
(やっべーよ、そろそろ冬月さん帰ってきそうだよ。)
「ユウカ、相田くんにも都合があるかも・・・。」
「いや・・・実は、少し仕事が残ってて・・・・。」
(・・・仕事は既にやっつけてた・・・・。)
「あら、バイトでもしてるの?」
「はい。新聞社やインターネット関係の画像処理を少し・・・。」
「あの・・・間違ってたらごめんなさいね。生活の方・・・大変なの?」
「いえ、生活費は、親の残してくれた蓄えで・・・・、ただ、カメラをやっているものですから、その機材とかは、自分で働いてと思っています。それに、将来はその道に進みたいと考えてますんで。」
「うん。いい事よ。カメラって、写真家か何に?」
「はい、以前はそうでしたが、今は報道写真家かな・・・・ロバート・キャパみたいになりたいんです。
父も母も戦いで亡くしたようなものですから、その無意味さ、残された人の悲しさをいろんな人に伝えれればと、思っています。」
「ね、ケンスケ。ロバート・キャパって?」
「20世紀の高名な報道写真家だよ。5つの戦争で、戦争で苦しむ人々や、悲惨な戦争の犠牲者の写真を撮り続けたんだ。
去年その人の写真をみたときは、足の震えが止まらなかった。まるで、悲鳴や泣き声が聞こえるような写真だった・・・・。
でもね、キャパは、それだけじゃなく、そんな中にある小さな幸せや、楽しいひと時も写し取れる人だったんだ。こんど写真集見せてあげるよ。」
「ふうん。ただの報道写真じゃないんだ。」
「うん・・・まるでその一瞬を切り取ったように、そう・・・音や情景・・・そんなものも写真の中に凝縮するよな・・・・とても言葉では、言い表せないほどの凄いものだよ。」
「ふうん。すごいんだ・・・ね、ケンスケもそんな風になりたいの?」
「うん、僕もできればね。時代の瞬間をあんなふうに残していけたらと思ってる。」
「いつ頃活躍した人なの?」
「1930年ごろからかな・・・・最後は、ベトナムはベトナムの戦争で取材中に地雷で亡くなったけ ど、58年ごろだったかな、たしか。」
「・・・・・・・やだ・・・報道写真家はいいけど、ケンスケが死んぬなんて、絶対にヤダからね。」
「はは、まだなれるとは決まってないよ。まだまだ、勉強しなきゃいけない事は山ほどあるから。
まだ、僕にはキャパの足元どころか、姿が見えるところまで行ってないよ。」
「本当よ・・・・危ないことだけはしないで・・・・。」
「あらあら、ユウカはよっぽど相田君にお熱ね。」
「マ、ママ・・・・ヤダっ・・・私ったら・・。きゃっ、恥ずかしい。」
がらがらがら。
「ただいま。」
「あら、おじいちゃんだわ。」
(やっべー・・・・冬月さん・・帰ってきちゃったよ・・・)
「お、いらっしゃい。」
「お、・・・お邪魔してます。」
ジュンコが冬月に小声で話し掛けている。
ふむふむと、頷く冬月がダイニングに座った。
「相田君だったね。」
「はっ、はいっ!あの・・・・いつぞやは・・・すいませんでした。」
「ん、もう危ないことをしなければ、わしは何も言わんよ。」
「はいっ。」
ケンスケはダイニングの椅子に姿勢を正して、硬直していた。
「食事はもう済んだのかね。」
「ええ、さっき終わったばかりですよ。おじいちゃんもご飯でよろしいんですよね?」
「うむ、そうだな。そうだ、君もお茶ぐらい付き合いたまえ。」
「は、はいっ!」
「はははっ、ここはネルフじゃないんだから、そう硬くならんでよろしい。」
「はい、おぢいちゃん。ビール。」
「うむ、ありがとう。」
「ん~。うまい。」
「ね、お父様。ネルフの方・・・もう少し楽には・・・。日曜日まで会議なんて・・。」
「うむ・・・あと少しすれば、なんとかな・・・。ま、あと1ヶ月ほどの辛抱、辛抱。」
「そうですか?もう、お年ですから、お体壊しますよ。」
「うむ、大学の方はもう任せておいても大丈夫だか、ネルフの方がな。
再来月には、日本政府も落ち着くだろうて。そうなれば、ずいぶんと楽になるならな。」
「あの・・・シンジ・・・碇は、もう少佐なんですね。先日遊びに行ったとき、知りましたけど。」
「うむ、彼は凄いよ。正に新人類なのかもな。彼は実力であの地位になった。
エヴァのパイロットとしてだけで無く、士官としても国連でトップクラスだよ。
あれは、父親とは、別の意味で人の頂点に立つやも知れぬ力を持っておる。」
「凄いんだな・・・シンジって。」
「うむ、15歳にして、ネルフといえど今は国連軍だ、、その保安課を統括しておる。
最初は人間的にできるかと思ったが、たった数週間で並み居る猛者をも完全に従えおった。」
「じゃ、碇も自衛隊所属なんですか?」
「いや、以前はその形だったんだが、現在は出向と最初から国連軍所属の二通りがかる。碇少佐や大尉は国連軍所属でね。エヴァ運用のため設立されたんだ。正式には国連職員となる。日向君の所は少佐がもともと自衛隊所属でね、いまでも籍は自衛隊にあるが中尉の方は国連軍だ。きみは、そちらの方は詳しいと思ったんだか?」
「いえ、暫くそっち系は遠ざかっていたものでして。」
「あ、そろそろ僕、おいとまします。ほんとうにご馳走様でした。」
「うむ、もう暗いから気をつけてかえりたまえ。」
「はい。失礼します。」
ケンスケは、玄関でジュンコに礼を言って、冬月邸を後にした。
「ね、ママ。少しだけ外でケンスケと話していい?」
「いいわ、ただ遠くに行かないで、戻ってくるのよ。」
「はい。」
「ケンスケっ!まってっ!」
「どうしたんだい。ユウカ。」
「ううん。ただ少しだけ話したかっただけ・・・・・ね、ありがと。ケンスケ。」
「いや、別に。お礼を言うのはこっちのほうだよ。」
「ね、キス・・・して。お休みの・・。」
ちゅっ。
「さ、心配するといけないから、お帰り。」
「うんっ!大好きっ!ケンスケ。また明日学校でね。」
「ああ。また明日な。」
「ただいま。」
「ユウカちゃん、ちょっと。」
「なに?」
「おじいちゃんには、相田君との・・・その・・・まだ内緒よ。」
「も、もちろんよ。」
「さ、お風呂、入ってきなさい。」
「はあい。」
ちゃぷっ・・・・・。コトーン。
(はあ・・・・大丈夫だったかな・・・・出来てたら・・・・・・・・・怒られるな・・・・やっばり・
・・・・。)
(でも・・・・ケンスケは守ってくれるって言ってくれた・・・・・赤ちゃん・・・・出来ても・・・・
いいかな。)
ユウカは風呂に漬かったまま、自分の下腹部をそっと撫でた。
「・・・・ユウカ?入るわよ。」
「えっ!ママ・・・・ど、どうしたのよ。」
カチャ。
「たまにはいいじゃない。親子なんだし。」
「う、うん別にいいけど。」
ザバァ。
「あ、あたし体洗うね。」
ユウカは、何故か気恥ずかしくて、黙々と体を洗った。
「ユウカ・・・・。彼・・・しっかりしてるじゃない。」
「う・・・うん。」
「ま、碇さんに比べられないけど、将来の目標を今からきちんと持ってるなんて、凄いことよ。」
「そうだよねっ!私今日ちょっと感激しちゃった。」
「彼のお嫁さんになりたい?」
ユウカが真っ赤になって、コクリと頷いた。
「ま、ゆっくりおやりなさい。焦らずに。あなたはまだ若いのよ、というより子供なのよ。」
「ね、ママって他のお母さんより若く見えるね。へへっ。」
「あら、嬉しいけど、お小遣いの追加は出ないわよ。」
「あら、ホントよ。とても40台には見えないもの。」
「うふふっ、40台だけ余計よ。」
「ね、パパって南極のセカンドインパクトで死んだのよね。」
「ええ、パパは優秀な科学者だったのよ。碇さんのお父様や、葛城さんのお父様もそうだったの。
碇さんのお父様はあの時、たまたま日本に一時的に帰ってきてたから助かったけど。でも南極にいた
パパは、助からなかったの。」
「パパって、どんな人だったの?」
「そうね・・・・とても優しいけど、情熱的な人だったわ。パパったら、毎日南極から電話かけてくるのよ。ちょうどユウカがまだおなかの中にいたときね。パパとても楽しみにしてたの。あなたが生まれることを。」
「ね、ママ・・・。」
「私を生んでくれて・・・ありがとう。」
「なに言ってるのよ、この子ったら。あたりまえよ。あなたはパパが残してくれた唯一の分身なんですもの。」
「うん。・・・・・・・・・・・・ふう・・・私上がるね。」
「あした学校なんだから、早く寝なさいよ。」
「はあい。」
翌朝、早く目を覚ましたユウカは、自分の弁当のほかに、ケンスケの弁当も作った。
彼のためになにか出来る事は、彼女の心をうきうきとさせた。
(よろこんで、くれるといいな。♪)
「ユウカ、今日はずいぶんと早いのね。」
「うん。目がさめちゃって。今日から毎日このぐらいになるわ。」
「でも、お弁当でそんなに時間かからないでしょ。」
「へへっ、実は、一緒に学校行きたいんだ。」
「あらあら。大変ね。そうそう、じゃ、おにぎり作ってあげるから、彼と一緒に食べなさい。」
「うん。ママありがと。」
ピンポン。
コンコン。
「ケンスケ、お・は・よっ!」
ガチャ。
「・・・・・・・・・ユウカ・・・・どうしたの?」
「おはよっ!ケンスケ、学校いこ?」
「あ、ああ。まあ、とりあえず上がって。」
「バスだよね、何分の?」
「45分・・。あと30分もあるよ。」
「はい。朝ごはん。おにぎりだけどね。」
「あ、ありがと。これもユウカが?」
「ううん、それはママが作ってくれたの。」
「へえ、朝ご飯なんて、何年ぶりだろ。」
「そんなに前から?」
「うん、オヤジは、そのままネルフへ行って、食堂で取ってたみたいだしね。折角だからお茶でも入れるよ。」
「あ、私やるから、顔でも洗ってきて。」
「「頂きま~す。」」
「ん、おいしいや。」
「へへっ、だね。一人じゃご飯おいしくないもの。」
「うん。そうだね。」
「ね、」
「ん?」
「なんかこうして、朝ご飯食べてると、結婚したみたいだね。」
「ぐっ・・・んぐっ・・・ぐほっ、けほけほ。」
「大丈夫?はいお茶。」
「んぐっ、んぐっ・・・・はぁ・・。ありがと。」
「あ、そろそろね、時間。」
「うん、行こうか、バス停まで、歩いて20秒。近いだろ・・。」
「そうね、これならリニアより楽よね。」
「ユウカはリニアだろ?あそこからだと駅まで何分ぐらい歩くの?」
「えとね、20分ぐらい。」
「じゃ、ここに来るのとあんまり変わらないね、どっちが好き?」
「バスって混む?」
「いや、がらがら。」
「じゃバスにする。」
二人は、学校に着くと、普通に過ごしていた。
お昼を学校のチャイムが告げた。
「ケンスケ、お昼いつものとこ?」
「ああ、先行ってよか?」
「なんで?一緒でいいじゃない。嫌?」
「別に。俺は構わないけど。」
「はい。おべんと。」
「ああ、ありがと。しかし、なんだな・・・朝飯食うと、昼にはちゃんと減るもんなんだな。初めて知ったよ。」
「これからは、ちゃんと食べてね。あたしと赤ちゃんの為に。」
「う・・・・・ああ。そうするよ。」
「ねえねえ、ユウカ。あのネクラとつき合ってんの?」
「うん、そだよ。」
「ええ~、ユウカなら可愛いから選り取りみどりなのにぃ。ユウカってゲテモノ好き?」
(相田君も凄い言われかたね。一昔前の低次元なイジメを思い出させるわ。)
「それに、金髪だしなんか怖いよ。ピアスだってしてるしさ。」
「あら、今時、普通じゃない。それにちゃんと話すといい人よ。」
「そーお?ま、ユウカがいいんなら、別にあたしには関係ないけどね。」