「私は──―」
止めることが出来なかった。
カイルの意志を尊重した、と言えば聞こえはイイだろう。でも、私はこの時の自分の行動を激しく後悔することとなる。
それが翌日のことだ。
「エルシア! 君がリリアに対して行ったことは許されるものじゃない! 君とは婚約破棄してもらう!」
台本通りの展開が起きた。
婚約破棄を通達され、王の暗殺その他諸々のでっち上げの罪状を詳らかにされ、いよいよ進退窮まった私たちをアレックス皇子が見事な逆転劇を披露し、アルフレッド殿下、カイル、リリアは揃って捕らえられた。
あまりにもスムーズだった。アルフレッド殿下とカイルは呆然とし、リリアは何故か笑っている。
リリアは解る。アレックス皇子とグルだから、何らかの見返りが待っているのだから。
でも、どうして──―。
「ミランダ、どうして笑ってるの?」
友人の浮かべる気色にまみれた笑みに震えた。
待ち望んでいた、とでも言いたげな笑みを浮かべているのだ。何故だ。いや、答えは解っている。私が察したくないだけだ。
「いつから?」
「エルシア様がカイル様と致した後からですわ」
ほぼ最初じゃねーか!
「アルフレッド殿下に処女を捧げたというのは?」
「もちろん嘘です。もうアレックス様に貰っていただきました。それにもうアレックス様なしでは生きていけませんわ」
「置き換えていた、か。凄い演技派だよ、まったく。どこまで本当でどこまで嘘だったの?」
王国のためを思って行動していたハズだ。アルフレッド殿下との事も愛する努力をしていたじゃないか。
「全て偽りであり、本当のことですわ」
騙されていた。迫真の演技には、長年一緒にいた私でも騙された。いや、私はなんだかんだでカイルとの行為に耽って万年発情期の盛った状態に近かったから、マトモに頭が回っていなかったのだろう。
しかし、ミランダは王国のためアルフレッド殿下と添い遂げる覚悟があったハズだ。
理由を問う。
「アルフレッド殿下には『君とヤルくらいなら男とした方がマシ』だなんて言われましたのよ。他にも散々に罵倒されたんですもの。エルシア様と違ってアレックス様は私を慰めてくれましたわ。身も心も捧げようと気持ちが傾くのは当然ですわ」
アルフレッドよ、とんだクズだな。
いや、待て。傍目には上手くやれていた二人だったのに、どうして嫌悪を向け合うことになったんだ。やっぱりアルフレッド殿下は操られていた、と見るべきか。
それに、とミランダは続ける。
「あの人はエルシア様が王妃に相応しい、と言いましたの。私は誰からも愛されませんでした。いつもエルシア様が全て奪っていく。アルフレッド殿下も私の気持ちも。そんなの不公平ですわ。でも、アレックス様は違うアレックス様が望むなら、何でもして差し上げたいと思うくらいに私は彼に堕ちてしまったの。ねぇ、エルシア様? 私と2人で堕ちましょう?」
そこには一人のメスがいた。いや、これはもはやメスというより性奴隷とかそういう肉欲に溺れ堕ちた哀れな女だ。リアルに快楽落ちする女がいるんだな。
既に王国は終わっていたのだ。帝国の……たった一人の男の策略によって。
カイルが連行されようとしている。
死罪は免れないだろう。最後の約束が蘇る。
せめてこれだけはやり遂げよう。カイルの願いを聞き入れよう。衛兵からでも剣を奪い取って斬ってしまえば。
「おや、我が新しき婚約者様は随分と機嫌が悪いようだ」
後ろから抱きしめられ、身動きがとれなくなる。おい、さりげなく胸を揉むんじゃねー! 尻を触るな! いや、マジで不快だからやめてくれない?
「何のつもり? テメェには愛しのミランダがいるんだから、私をカイルの所へ行かせろ。今なら半殺しで許してやるから離れろ。あと、汚い手で私に触るな」
メンチを切って殺気を向けるも、アレックス皇子は飄々と受け流し、私の耳元で囁く。なおも胸を揉んで尻を触るのは継続中で、ここへ追加でアレックス皇子は勃起した半身を押し付け、ゲロ吐きしそう。
「昨日、カイルと話をしていたそうじゃないか。内容は知っている。そうだ。1つ遊んでみようか」
「なに?」
「もし拘束を抜け出せれたら君には絶対に手を出すことはしない。もし出来なかったら、今日から君を抱かせてもらおうか」
「……後悔するなよ」
くそっ、なかなか抜け出せない。
藻掻いてる姿を奴は楽しみながら、こちらの腰を撫でたりしてきやがる。
こんな時、非力な女の姿であることが恨めしい。いや、男の姿でイケメンに抱きつかれるとか悪夢通り越して地獄だけども。
ゲームみたく性別を任意で変えられないだろうか。え、無理?
「離して! 私はカイルに──―」
カイルに何をしようとしてるんだ?
なんで殺そうとしてるんだ? 一生傍にいられなくなるかもしれないのに?
あれ、なんで一緒にいたかったんだっけ? 私はカイルのことが──―そう好きなんだ!
「カイル!」
連行され、目の前からいなくなりそうになる背中に声を飛ばした。
「必ず会いに行くから! 必ず助けるから! だから生きて! 死なないで!」
カイルがこっちを見た。
「エル、愛してる」
それだけ言い残してカイルはいなくなった。
結局、拘束から脱することは出来なかった私にアレックス皇子はニヤニヤといやらしい笑みを向けてくる。
「お熱いな。思わず放してあげるところだったよ」
「黙れ、クズ。話したくもない」
「まあ、そう言うな。お前の頑張り次第では、アイツに会わせてやってもいい」
「勝手に会いに行くからいい」
「バレたら毎晩大勢の兵士に輪姦させてやることになるが、それでもいいのか?」
「そんなの……!」
嫌に決まっている。余程の物好きでない限り、そんな事は死んでもご免だ。そもそも、バレたらとは言ってもバレなくてもカイルに会った時点で輪姦されるのは確実だろう。そうなれば、さすがに心が折れる。
ただ会うだけで輪姦される……リスクに見合うリターンは限りなく低い。
「どうすればいい? どうすれば私はカイルと会わせてくれるの?」
「今夜、俺の部屋に来てくれるね?」
逃げ場はない。
なら、真っ向勝負と行くしかない。
「わかった。約束は守れ」
「もちろんだ」
つくづくこの男が嫌いだ。