※この作品はR-18です。

冥界への案内人   作:伊駒辰葉

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分割しました。
コーヒーが出てきてるのでこのサブタイです。
アイスコーヒーいいですよね。


珈琲の香り

 和也の作った料理は不思議とすんなりと腹に納まった。が、やはり味はよく判らないし、空腹感が消える訳でもない。飢餓感ももちろんある。なのにどうして食べ切れたのか判らず、順は自分のことなのに驚いていた。

 

 一人きりで食うより誰かと食った方が美味いに決まってるだろう。疑問に首を傾げる順に和也は何でもないことのようにそう言った。

 

 本当にそうだろうか。熱めのシャワーに打たれながら順はしばらくぼんやりと考えた。これまでに他人と食事を摂ったことがない訳ではない。木村の屋敷にいる間はいつも都子と食事をしていた。だがあの事実を知って以来、順の食べる量は明らかに減っていった。それでも両親は何も言わず、都子だけが順を心配していた。

 

 中学校や高校でも食堂などで食事をする時も、たまたま誰かと同席したしたら必ず言われていた。もっと食べなくて大丈夫か。その度に順は真面目に頷いていた。

 

 そんなに腹は空かないから。

 

 今なら自分に対して彼らがどう思っていたのか何となく判る。恐らく彼らは殆ど食べない順のことを奇異に感じていただろう。出来れば無理にでも食べさせなければという、変な使命感を抱いていた者ももしかしたら中にはいたのかも知れない。時折、担任にもきちんと食事をとるようにと注意もされていた。

 

 俯いて頭にシャワーを被りながら順は深々と息をついた。手早くシャンプーを済ませて泡を洗い流す。

 

 ずっと見張られているのではないかという気がした。絶えず監視者の目が傍にあるものだと頑なに信じていた。だから彼らが口を揃えてもっと食べろと言うのだと思っていた。何故なら、栄養失調で実験体に死なれると困るからだ。

 

 監視者の認識の甘さにより実験体が死ねば、ミスを犯した監視者は間違いなく消されてしまうだろう。ミスを許されないからこそ監視者の仕事の報酬はすこぶるいいのだ。だから順は、何かといえば口やかましい彼らのことを監視者だとずっと思っていたのだ。

 

 だが本当にそうだったのだろうか。

 彼らは本当は自分を気遣ってくれていたのではないか。

 

 そこまで考えて順は薄く目を開けた。瞼を擦るとにじんでいた視界が少しだけ晴れる。落ちる水流をぼんやりと眺めながら順は息をついた。

 

 ばかばかしい。そう呟いて思い浮かんだことを頭から叩き出す。あれほど仲の良かった友達は結局、泣いてはいたが確かに監視者だったのだ。そうでなければ友達はあんな大金を手に出来なかった。友達はその金で望む高校に入学することが出来たと聞く。友達は監視者という厳しい仕事の代償に親から自由になる権利を勝ち取ったのだ。

 

 だからあり得ない。流し終わった頭を軽く振って順は次に身体を洗い始めた。念入りに洗っておけよ、という和也の言葉を思い出して顔をしかめる。

 

 いっそのことここから逃げてしまえばいい。そうすれば何も考えずに済む。そんな考えも順の中にはあった。監視者といっても完璧な人間である筈がない。寝ている隙に逃げ出せばきっとすぐには追って来れないだろう。大学もやめてあるだけの金を握ってどこかに消えてしまうのだ。

 

 そこまで考えて順は諦めの息をついた。どだい無理な話なのだ。そもそも持ち合わせの金など殆どない。学費と家賃、光熱費などを差っぴけばバイト代など残りはしない。食費については殆どかからないにしても、やはり何も食べない訳には行かないし、食欲はなくても喉の渇きだけはしっかりと感じるのだ。

 

 それに都子はどうする。自分に言い聞かせるように呟いて順は顔をしかめた。都子一人を置き去りにしてしまうことがどれだけ危険なのかを順はよく知っていた。研究員たちは馬鹿ではない。今は和也がそれとなく都子をだしにして順を脅してはいる。が、彼らの手にかかればそれよりももっとストレートで酷い方法で都子は使われることになるだろう。今は成功体として大事にされているが、それは次の実験体が完成するまでのつなぎに過ぎない。都子を上回る成功体が完成したら、今度は都子がかつての順と同じ扱いを受けることになるのは判りきっている。

 

 結局、順は言われた通りに身体を綺麗に洗ってシャワールームを出た。用意されていたバスローブに適当に身を包み、バスローブを何気なく撫でて気付く。手触りのいいバスローブなど何年ぶりだろう。屋敷の中では当り前に用意されていたものが酷く懐かしい。順は脱衣場で感慨に耽りつつ濡れた頭を拭いた。

 

「おっせえ。いつまで入ってんだ」

 

 念入りに洗えと言ったのは誰だ。反射的に言い返しそうになって順は口をつぐんだ。出てくるのを待ち構えていたらしい和也の表情は妙に険しい。どうやら調教とやらは既に始まっているようだ。やれやれと内心で呟きながら順は大人しくごめんと詫びた。濡れた頭に被っていたタオルを和也が乱暴にひったくる。

 

「オレの部屋にいろ」

 

 それだけ言い捨てて和也はバスルームに消えた。呆れ半分でその姿を見送ってからため息をつく。笑顔で料理を勧めていた和也のことを思い出して順は眉間を指で強く押さえた。どれだけ思い出そうとしても、熱に浮かされていたからか昨夜の和也のことが思い出せない。ただ、これまで感じたことのない快楽を与えられ続けたことだけは覚えている。

 

 何でだろう。あの時と同じ射精だったのにどうして苦しくなかったのかな。

 

 ぼんやりと考えながら順は和也の言いつけ通りに部屋に入った。クーラーの程よく利いた部屋は涼しい。火照った身体をクーラーの涼風に晒して順はしばし佇んだ。小さなテーブルにはご丁寧に二人分のアイスコーヒーが用意されている。テーブルの前に腰を下ろし、順はありがたくグラスに手を伸ばしかけた。水滴のついたグラスに触れる寸前に手を止める。

 

 ……ひょっとして勝手に飲んだらまずいのか?

 

 バスルームの前で見た和也の表情を思い出し、順は慌てて手を引っ込めた。もしかしたら和也は行為が絡むと性格が一変するのかも知れない。

 

「いや、でも喉が渇いてるし、用意してあるものなんだから別に飲んでも」

 

 そう言ってから順は思い切り顔をしかめた。これでは誰かに言い訳しているようだ。何でコーヒーの一杯で俺が悩まなきゃならないんだ。そう思いながら順はテーブルに背を向けた。要するに見なかったことにすればいいのだ。最初からコーヒーなど用意されてはいない。そう思えば余計なことを考えずに済む。

 

 だがそう思おうとした順の喉の渇きは余計に酷くなった。苛々とこめかみを押さえながら順は肩越しにちらりとテーブルを見た。アイスコーヒーのグラスの横にはそれぞれミルクとガムシロップが添えられている。マドラーがグラスにさしてあるところを見ると、ストローは使わないのだろう。

 

 ここまで用意されてるんだから、やっぱり飲んでもいいんじゃないのか。そう内心で呟いて順は恐る恐る身体の向きを変えた。テーブルに向き合ってじっとグラスを見下ろす。中に入った氷は不揃いで無骨だ。どうやら大きく作った氷を何かで割ったらしい。

 

「やっぱり飲んでもいいよな」

 

 うん、と頷く順の脳裏に先ほどの不機嫌そうな和也の表情が蘇った。もしかして和也は先にコーヒーをいれてから態度が変わったのかも知れない。だとすると、勝手にコーヒーに手をつけたら怒るのではないだろうか。




分割したらエロシーンがなくなりましたwww
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