一人でアレなので微妙ですが。
妹という単語が駄目な人は回避してください。
ベッドの上で伸ばした四肢に自然と力がこもる。しばしそのままの体勢で和也を睨み続ける。だが緊張に身を強張らせる順を眺めるだけで、和也は一向に襲い掛かろうとはしない。身構えて息を殺していた順は動こうとしない和也に訝りを覚えて眉を寄せた。
「……何だ。何もしないのか?」
真面目にそう問い掛けた順に和也が人の悪い笑みを向ける。
「試すっつったろ? オレがストレートにやったんじゃ意味ねえよ」
そう言いながら和也は片手に握っていたグラスをテーブルに戻した。そのまま床に座り込んでもう片方のグラスを取る。順はベッドに寝転んだまま、じっとそんな和也を見守った。
「オナニーしたことあるか?」
「は!?」
唐突に問われて順は慌てて身体を起こした。何故、和也がそんなことを訊くのか判らない。うろたえる順を余所に和也がのんびりとグラスを傾ける。コーヒーを飲んだついでに氷を噛み砕きながら和也は意味ありげに笑った。
「んだから、一人エッチだよ。そーゆー気分になった時とかにナニをてめえで扱いたりすんの。ま、人によっては色々と道具使ったりとかするっぽいけど」
どうやら和也は言われた意味が判らずに順が問い返したのだと勘違いしたらしい。自慰について解説され、順の顔は無意識に赤くなった。自慰の知識はあるし、クラスの男子生徒がそういった会話をしていたのを耳にしたことも何度かある。
だが順は知ってはいても、実際に自慰をしたことはなかった。その事を言っていいものかどうか少しだけ考えてから、恥ずかしいという気持ちを隠して順は返事をした。
「な、ない、かも」
そもそもそういう気分になることはこれまでになかった。順は思い浮かんだ言葉を途中で飲み込んだ。もしかして自分は変わっているのだろうか。ふと、そんな不安が胸を過ぎる。順は和也の様子を恐る恐る伺った。
和也が横目に順を見る。その顔には嫌な笑みが浮かんでいた。
「じゃ、やってみろ」
「……何で」
和也は自分が気持ち良くなりたいから調教などと言い出したのではないのだろうか。そう思いながら順は素直に問い返した。ここで自慰をすることに深い意味があるとは思えない。
「やれっつったらやれよ。したことないんだろ?」
要するに和也は自慰の経験がないことを面白がっているらしい。そのことに気付いて順は深いため息をついた。
「それは自分のを手で擦って射精しろと言っているのか?」
「だからそうだっつってるだろうが。まどろっこしいやつだな」
順に負けないくらい渋い顔になって和也が手を伸ばす。和也は順のバスローブの裾を無造作にめくって股間を指差してみせた。指差されるままに自分の股間を見下ろす。だが順はそこでまたため息をついた。
「あのな、渡部」
重く沈んだ声で和也を呼び、順は目を上げた。
「やれって言われてもな。はい判りましたってすぐに出来ると思うか?」
おもむろに立ち上がって下着を脱ぎ捨てる。順は半ばやけくそになりながらバスローブの紐を解いた。バスローブの前を開いた順の股間には萎えきったペニスがぶら下がっていた。これで出来ると思うか? そう順が問うと和也が苦笑する。
「そりゃ、そのままじゃ無理だわな」
「大体、男のなんか見ても嬉しくないだろ」
つい、そう言ってしまってから順はしまったと口を押さえた。和也が男に何も感じないならそもそも自分を犯したりはしないだろう。そのことに思い至った順はぎこちなくバスローブの前を合わせてベッドに座った。床に放り出したバスローブの紐を静かに取り上げる。
「ま、そう言われるとは思ったけどな。いや、別にオレだって女に何も感じない訳じゃないし? 他の男と同じように女とセックスはしますけど?」
にやにやと嗤いながら和也が腰を上げる。順は和也の様子を伺いながら手早くバスローブの紐を腰に結わえた。ついでに床に投げた下着を拾おうと手を伸ばす。だが順の手をいち早く和也がつかむ。動きを遮られた順は俯いたまま顔を引きつらせた。そんな順を嘲るように笑った和也が言う。
「何だ。妬いてんのか?」
「ばかか、お前は! 誰が妬くか!」
反射的に言い返して順は顔を上げた。そうだよなあ、と嗤いながら和也が順の手を強く握る。放せ、と振り払いかけて順は慌てて動きを止めた。逆らうなと和也は言っていた。それにさっきのあの顔は本気だった。もし、ここで逆らったりしたら和也は都子を本気で襲いかねない。そう考えて順は無言で全ての反応を殺した。
「さすがに何もナシで昂奮しろってのもアレだからな。いいもの貸してやる」
順の手をつかんだまま、和也がテーブルの下を探る。順は黙って和也のすることを見つめていた。テーブルの下から引っ張り出されたのは和也がいつも使っている鞄だ。片手で器用に蓋を開いて中身を探る。取り出されたものを目にした順は思わず顔をしかめた。
「何だ、それ」
和也が取り出したのは一本のクリームのチューブだった。ハンドクリームだろうか。そう思いながら順は和也とチューブを交互に見た。和也が握っていた順の手にそれを押し付ける。手渡されたそれを順はまじまじと見下ろした。市販のハンドクリームとはパッケージが違う。チューブの表面は真っ白で何も書かれてはいない。蓋も同じ白だ。だが蓋の頭部分にだけ数字とアルファベットが書かれている。明らかに手書きのそれを見つけて順は更に訳が判らなくなった。
「ほい、手出して」
「あ、ああ」
言われるままに手を出す。順が握っていたチューブを取り上げ、和也は蓋を開けた。順の両の手のひらに透明なジェルのようなものが絞り出される。ピンポン球の大きさほど絞り出してから和也はチューブの蓋をした。
「それ、ナニに塗ってみな」
もしかして興奮剤だろうか。そう思いながら順は手に盛られたジェル状のものと和也とを見比べた。和也は余程楽しいのか、流れるピアノの旋律に合わせて鼻歌を歌っている。頼みもしないのにバスローブをめくる和也を無言で見下ろしていた順は深々と息をついた。
「言っておくが、人間に使う薬品は殆ど俺には効かないぞ」
どういう訳かは判らない。だが順の身体は風邪薬などの薬品がまるで効かないのだ。そうでなければ今回の風邪もさっさと薬で治している。だが疲れた口調で言った順を和也は人の悪い笑みを浮かべて見返した。顎で順の股間を指し示す。
「いいからやれよ」
試しというのはこのことか。そう納得しながら順は仕方なく手の中のそれを股間に寄せた。萎えたペニスの先端を左手の指先ですくい、右手でそれを静かに塗る。意外な冷たさに身震いしつつ、順は右手の中に盛られていたそれをペニスに塗り終えた。
ジェル状のそれが塗られたペニスが電灯の光を鈍く照り返す。淡く色づいたペニスを順はしばらく眺めた。
「塗ったか?」
「こっちのもか?」
そう言いながら順は左手を和也の前に差し出そうとした。
「え?」
不意に股間が熱くなる。順は驚きに息を飲んで自分の股間を見下ろした。先ほどまで萎えていたペニスがゆっくりと頭をもたげる。それと同時に異様なほどの欲求が順の中に生まれた。戸惑いながら和也を見る。和也はのんびりとコーヒーを啜りながら目だけで笑った。
「な、何で……こんな……」
無意識に身を屈め、順は掠れた声で呻いた。左手に残っていたジェル状のそれをぼんやりと見つめる。細かな気泡を含んだそれに何か細工がしてあったのだろうか。そうでなければこんなにいきなり昂奮する筈がない。
「こらこら。隠すなよ。見えねえだろが」
面倒そうに立ち上がり、和也が順の肩を押し戻す。露になった股間ではペニスが痛いくらいに勃起している。順の呼吸は次第に速く浅くなり始めていた。
「ほーら、完璧。これでいけるだろ?」
耳元にそう囁かれ、順は無意識に熱い息をついた。導かれるままに右手でペニスに触れる。まるでそこだけが別の生き物のようにペニスは脈打っている。指でなぞっただけで身震いするほどの快楽がこみ上げ、順は思わず呻いた。
「こ、こんなの、変だ。一体、何で」
そう言いながら順は人差し指で静かにペニスをなぞった。付け根からゆっくりと先端に向かって指を運ぶ。熱く膨れた鈴口からはいつの間にか先走りが垂れている。あ、と小さく呟いて順は潤んだ目でペニスを見下ろした。指で触れている部分に焦れるような感覚がある。
「いいんだよ、それで。ほら、どこが気持ちいいか自分で探せ」
和也が耳元にそっと囁く。低く甘い囁きに促され、順は何度か鈴口を指先でつついた。最初は恐る恐るだった指の動きが次第に大胆になる。先走りの垂れる鈴口を指先で擦りながら膨れた亀頭を指に包む。指に力を入れたり緩めたりを繰り返すうち、順の目には昂奮の色が浮かび始めた。
ゆっくりと瞳の色が染まり変わる。順は空色の瞳を閉じて小さく呻いた。亀頭を捏ねていた指をずらして手にしっかりとペニスを握る。熱を帯びたペニスを根元から先端に向かってじわじわと擦る。先に塗りつけたジェル状のものは固まることなく、順の手の動きの助けになった。
膝に乗せた左手が震える。ぎこちなくペニスを扱き始めた順を見つめながら和也がそっと身体を離す。だがそのことも判らないほどに順は初めての自慰に没頭していた。
「おお、上手い上手い。でもまだ出すなよ」
床に座ってテーブルに片肘をつき、和也がのんびりと指示する。辛うじて声を耳で拾った順は、何故、そう言われるのかも理解出来ないまま小さく頷いた。和也が静かに腰を上げて部屋を出て行く。
戻ってきた時、和也は手に空のコップを一つ握っていた。順は熱に浮かされた目で和也を見つめ、ふと手を止めた。だがそんな順に和也が舌打ちをして顎をしゃくる。
「やめんなよ」
「でも……それ、なに」
飛びかけていた理性を懸命に引き戻して順は小声で訊ねた。ああ、と笑って和也が空のコップをテーブルに据える。
「出す時はちゃんとコールしろよ」
言われた意味は何とか理解出来たが、意図が判らない。順は戸惑って手を止めたまま和也を見た。
「いいから続けろ」
そう言って和也が順の目の前に立つ。和也は順の肩に手をかけ、耳元に口を寄せた。気配にびくりと身体を震わせた順の耳に和也が囁く。
「頭ん中でな。都子ちゃんを犯せ」
「なっ」
思わぬことを言われ、感覚の全てが消える。だがすぐに順の身体には快楽が戻ってきた。いけないと思うのに都子の姿が思い浮かぶ。
「ぐっちゃんぐっちゃんに犯してやれよ。すっげえ気持ちいいぞ、きっと」
甘い囁きに順は思わず小さく声を上げた。無意識のうちに手が動き始める。抑制しようとすればするほど、妄想が次々に浮かんでくる。順は意志とは正反対に和也の言うままに脳裏に都子を思い描いた。
写真の中で笑う都子は順の目から見てもとても美しく成長していた。かつては幼さしか感じなかったその容姿もすっかり大人びていた。スカートから伸びる脚はすらりと長く、透けるように白い肌がとても魅力的に見えた。制服のジャケットに包まれた胸は膨らみ、身体の線も丸みを帯びていた。細い肩は抱いたら壊れそうだ。
「剥いちまえ。押し倒してナニをあそこに突っ込んでやるんだよ」
まるで順の妄想を読んだように和也が囁く。順は自分でも気付かない内に強くペニスを扱き始めていた。ためらいがちだった手の動きが大胆になる。塗りたくったものが擦れる音と順の荒い息遣いが部屋に響く。
制服を引き裂いて押し倒す。順は頭の中で泣き叫ぶ都子を組み敷いていた。傷一つない肌に唇を落とし、赤い印を幾つも刻む。悲鳴を上げる都子の口を手で塞ぎ、胸の膨らみを唇で思うままに吸う。手足を縛り付けるのも悪くない。そうすれば抵抗など出来なくなる。スカートをめくって下着を摺り下げて股間を露にする。
順は都子を犯す場面を妄想しながら熱い息をついた。妄想の中で都子は嫌がって泣き叫んでいる。だがそれでも順は頭の中で都子を犯すのをやめなかった。怯えてかたく閉じている秘唇に強引にペニスを突き入れる。狭い膣に一気にペニスを突き入れればきっと都子は出血するだろう。が、その方がむしろいい。
俺は本当はずっと。
「おー。完全に嵌ったな」
感心したような和也の声も順の耳には入らなかった。熱心にペニスを扱きながら都子を呼ぶ。順はふわりと左手を持ち上げて口許に近づけた。手の中にあったジェル状のものを夢中で口に運ぶ。どうしてそうしたのか自分でも判らなかったが、口にそれを入れた瞬間、順はそれまでにない快楽を得た。口許を覆ったまま、それを嚥下する。残ったそれを舐め取りながら順は薄く目を開けた。
空色に染まり変わった瞳は焦点が定まっていない。そして順の髪の色は根元から徐々に空色に変化しつつあった。だが熱心に自慰を続ける順は自身の変化には気付かなかった。頭の中で都子を犯しながら手の動きを速くする。
「も……う、出る……っ」
「おっと。忘れてた」
苦しい息をつきながら告げた順のペニスを和也が手の上からつかむ。急に強く握られた順は掠れた悲鳴を上げた。
和也は片手で空のコップを取り上げて順のペニスにあてがった。よし、と言って順のペニスから手を離す。その瞬間、順は呻きながら射精した。音を立てて精液がコップに注がれていく。
「すげえな。こりゃあ、お釣りがくるぞ」
呟く和也の目は真っ直ぐにコップに向いている。順は荒い息をつきながら何度もコップの中に射精した。同時に頭の中で都子の膣内に射精する。
妄想の中、順は泣き叫ぶ都子を見つめて嗤っていた。
++++++
夜の暗い空の下、和也は煙草をふかしながら腕組みをして立っていた。振り返ると二階の自分の部屋の窓が見える。カーテンのかかったその部屋では順が眠っている。
今日は月のない静かな晩だ。和也は無言で周囲を見回した。アパートを取り囲む塀はところどころが欠け、落書きも残ったままだ。その向こうでは電球が切れかけて街灯の一本が不規則に点滅している。人通りのない路地にふと一匹の犬が通りかかる。犬は足早に駆けて和也の視界を左から右に通り過ぎていった。
誰もいなかった路地の向こうから男が一人歩いてくる。帽子を目深に被った男の姿を見つけ、和也は口許に薄い笑みを浮かべた。組み合わせていた腕を解いてポケットに手を入れる。
男は無言で和也に歩み寄った。和也はポケットから引っ張り出したそれを男に差し出した。男が帽子のつばを押し上げてまじまじとそれを見る。
それはゴムの栓をされた一本の試験管だった。
「これだけあれば足りるだろ?」
茶化して告げた和也の言葉に男が無言で頷く。男は素早く和也の手から試験管をさらうと手にしていた鞄にそれを納めた。そのまま男が和也に背を向ける。数歩ほど歩いてから男はおもむろに振り返った。
「……貴様も懲りると言うことを知らないな」
吐き捨てられた男の言葉に苦笑して和也は片手をあげてみせた。
この作中では主人公はどっちかといえばMなのですが基本的にはドSです。
その性癖が妄想に出てますねー。
ラストは和也視点に変わってます。
ホントは次の話にしたかったのですが、文字数が足りなかったので仕方なく最後に持って来ました。
ここで二章は終わりです。