そこだけ別の話にしたかったのですが、文字数が足りないのでくっついたままにしました。
夕暮れの赤い日差しが教室を満たしていた。クラスメイトたちが帰った後、順は恐る恐る教室を覗き込んだ。話があるから、と友達に呼ばれていたのだ。
友達は窓の外を眺めていた。順はどきどきしながら友達に近付いた。背中に声をかける。だが友達はすぐには振り返らなかった。怪訝に思いながら何度か友達を呼ぶ。順はゆっくりとした足取りで友達の真後ろに近寄った。
ごめんな。
ぽつりと友達が告げる。順は何のことかと問い返した。あの日以来、順は友達付き合いを殆どしなくなった。そんな中で唯一、この友達だけが順が自分から話し掛ける人物だったのだ。
どうしたんだよ、一体。
順はそう笑って友達の前に回りこんだ。そこで目を見張る。友達は声もなく涙を流していた。窓の外を真っ直ぐに睨むように見ている。
ごめん、オレ、お前を売った。
そう告げて友達は俯いた。順は息を飲んで友達を凝視した。ぎこちなく俯いて友達の手を見つめる。友達の右手にはくしゃくしゃになった札束が握られていた。
ああ、だから。順は目を細めて顔を上げた。友達は我慢出来なくなったのか片手で目を覆って泣いている。
いいんだよ。別に。俺は気にしないよ。
そう言って順は微笑んだ。だからお前も気にしなくてもいいんだよ。順はそう告げて友達の肩を叩いてみせた。
俺は人とは違うらしいから。
だからいいんだよ、きっと。
そう言いながら順はやるせないものを感じていた。辛くなかったと言えば嘘になる。たった一人、心を許せると思っていた友達が監視者だったのだ。それなりにはショックだったし怒りも覚えた。
それでも順は友達を責めなかった。友達が泣くのを我慢できないほどに悩み、苦しんでいたことが判ったからだ。
もう、いいんだよ。
順がそう言った時、友達は勢いよく顔を上げた。
オレ、絶対に償うから! いつか、いつか必ず償いはするから!
叫ぶように告げた友達に順はただ苦笑してみせた。
それが嘘だと心のどこかで知っていたからかも知れない。
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嫌な夢だ。そう呟いて順は目を開けた。どうして忘れていたことを思い出したのだろう。ぼやけた視界をはっきりさせるために順は腕で瞼をこすった。
「お。起きたか」
間近から和也の声が聞こえる。順はのろのろと横を向いた。ここは一体、どこだろう。いつの間にか白いカーテンで仕切られたベッドに順は横たわっていた。その傍に和也が座っている。
「いや、ちょっと張り切り過ぎてな。悪い」
拝むようにして詫びる和也をぼんやりと見つめ、順はのろのろと納得した。どうやらあれから自分は気絶してしまったらしい。そう理解しながら順は身体にかかっていた薄い布団を持ち上げた。和也がきちんと始末してくれたのだろう。いつの間にか服は元通りになっている。
そういえば目は。順は瞬きをして和也を見た。すると言いたいことを理解したように和也が苦笑する。
「そっちは大丈夫だ。元に戻ってる」
「そうか」
ほっと息をついて順は身を起こした。酷く身体がだるい。
失神した順が運び込まれたのは大学の医務室だった。訝る保険医をてきとうにごまかしてベッドを一つ陣取ったのだと和也が小声で話す。順は無言で和也の話に頷いた。
二人で保険医に礼を言って医務室を出る。そこで順はふと足を止めた。お邪魔しましたと医務室の中に愛想を振り撒く和也の横顔を見上げる。
「何だよ」
静かにドアを閉めた和也が視線に気付いたのか順を見つめ返す。順は差し出された鞄を受け取りながら眉を寄せた。
「顔色が悪い」
明るい日差しの差し込む廊下で見るとますますはっきりと判る。見た目にも和也の顔色は良いとは言えなかった。いつもより唇の色が薄い。それに頬からも血の気が引いている。明るい和也の仕草だけを見ると元気そうではあるが、いつもと比べると明らかに顔色が悪い。
「あー。そりゃ、あれだろ。張り切りすぎたから」
そう言って笑うと和也が先に歩き出す。順は何となくそんな和也について歩いた。
誘われるままに学食に赴く。和也はまるで何事もなかったかのように明るく笑っている。順は和也の話を一方的に聞くだけで無言を保ち続けた。目の前に和也が定食を乗せる。順はじっとその定食を見下ろしてからゆっくりと顔を上げた。
「いつも、そうなのか?」
「あー?」
割り箸を片手に和也がいつもの調子で問い返す。順はトレイから取り上げた割り箸を割った。偏った割れ方をした箸を見つめる。
「だから、いつもお前はそうなるのかって訊いているんだ」
交わった後の和也の状態をこれまで順は見たことがなかった。正直に言えば順は和也が顔色を悪くしていることにとても驚いていた。だが心配する言葉がどうしても素直に出てこない。しかめっ面で訊ねた順に和也が笑いを返す。
「だから張り切りすぎたっつってるだろが。別に気にするようなことじゃ」
順はそこでぱちんと箸を机に乗せて和也を睨んだ。
「気になるんだから仕方ないだろう!」
荒い口調で言った順の声量は本人が思っていたより大きかった。周囲にいた学生たちが驚いたように順を見る。だが中でも一番驚いたのは和也だったらしい。目を丸くして順を凝視し、あんぐりと口を開ける。
もしかしたらそうなのかも知れないとは思っていた。だがその可能性を順はあえて無視し続けていた。そもそも自分は人間とは言えないのだ。だとすれば、身体を重ねた相手に何も影響がないとは言い切れないのではないか。都子の愛液に順が敏感に反応するように、もしかしたら自分の体液には何かしら特殊な効果があるかも知れない。順は唇をかみ締めて和也を睨み続けた。
「あー……」
力なく声を漏らして和也が頭をかく。それから和也はおもむろに周囲を見回した。興味深げに順を二人を見ている周辺の学生たちを手を振って追い払う。中にはあからさまに和也に興味津々といった顔で話し掛けてくる者もある。
「んだから何でもねえっての。おら、とっとと消えろ」
しつこく絡んできた男子学生に和也が低い声で告げる。どうやら友達らしい。順は見知らぬ誰かとやり取りする和也をしばし見つめてから俯いた。
生気が失せるとか、土気色の顔とか、言い回しを考えたのですが、そこまで悪くはなかったのでこんな感じに……(汗)
主人公は人外の自覚が今ひとつなのも困りものです。