武装集団は素人且つ単独行動が主だったため、クルーゼにとって包囲網を抜けること自体は簡単だった。しかし、なぜか自分がラクス・クラインをハメたことにされているため、どこに敵が潜んでいるか分からず、気を休めることができない。
彼は暗闇の中を忍び足で歩きながら、とりあえず友人を頼ることにする。
「ギル、詳しい事情を教えてくれ」
「ああ。実は今から30分ほど前に、XVIDE〇Sというサイトに妙な動画が投稿されたんだ。『プラントの歌姫をハメ〇りしたったった件www』というタイトルでな」
「よくある成りすまし。もしくは合成だろう?」
「私もそう思って見てみたんだよ。ところが合成らしいズレは見えないし、偽物にしては妙に演技が真に迫っていてな。いや、それより私が驚いたのは、その撮影場所が君の家のリビングそっくりであり、且つ男優が君そっくりだったことだ」
「何ィ?」
ラウは自室が荒らされており、桃色の髪が落ちていたことに思い至る。つまり、自分はハメられたのだ。ハメる側では決してない。
「しかもその男優は、自身がアル・ダ・フラガのクローンであると告白していた」
「そういうことか。 ……チィッ! レイ以外にも生き残りがいたのか! そして自身の罪を私になすり付けた!」
「私は君の無実を証明するつもりだが、簡単では無いだろう。何より、君がナチュラルであることがバレたようなものだから、コーディネーター至上主義者達が君を消そうとする。ラクス・クラインの狂信者も人の話を聞くような輩では無いし」
現在プラントは地球連合と戦争中だ。また、プラントはコーディネーターが大半で地球連合はナチュラルが大半であるため、プラント住民の中にはナチュラルというだけで敵視する者が数多くいる。そして今回の動画で、クルーゼ擬きが自身をアル・ダ・フラガのクローンだと述べたため、クルーゼはナチュラルだと自白させられたようなものだった。アルはそこそこ有名人で、ネットで検索すれば直に情報が手に入ってしまう程なのだ。そもそも犯人捜査でクルーゼの遺伝子が調べられ、コーディネートしていないことがバレるだろう。ザフトのエースであるクルーゼがナチュラルだったなんて、コーディネーター至上主義者達が認められるとは思えない。それでも即処刑されることは無いかもしれないが、寿命の短いクルーゼにとっては一年拘束されるだけでも終身刑並の辛さがあった。
ラクス・クラインの狂信者については言うまでもない。連中は話をする前に撃ってきた。
もっとも、ここまで早急に犯人だと決めつけられるのには、クルーゼ自身にも問題があったが。常に怪しげな仮面を付けていたし、身元もはっきりさせていなかったのだ。それにナチュラルであるのは事実だし、他人に悪意をぶつけることは行動指針になる程強い願望だった。
「だが、許せんな。ここまで私をコケにしてくれる輩がいようとは。まさにあの男、アル・ダ・フラガ以来だよ。クローンなだけはあるかもしれん」
「ともかく、しばらくは地球にでも逃げてくれ。使いにレイを出しておく」
「くっ、レイは巻き込みたくないが、今はそれしか無さそうだな。だがレイは大丈夫なのか? 検問でDNAを調べられたりしたら」
「だからこそだ。レイもできるだけ早く地球に逃げておくべきだ」
「くぅっ、こうなっては私の計画はお終いだな」
「安心してくれ。代わりに私の計画で人類を導く」
「……うまくいくとは思えんがな」
クルーゼがそう言うと、デュランダルから苦笑が漏れ聞こえてくる。
その後クルーゼはデュランダルの指示に従い、レイの運転するトラックに乗った。そこで携帯を捨て、軍用の通信機を受け取ると、服を作業着に代え、仮面を外した。運がいいと言っていいのか、素顔は誰にも見られたことがないため、遺伝子や指紋、声でも調べられない限りバレる恐れは無い。
しかし、それは向こうも承知している。そういう検問がすぐにコロニー全土に敷かれることになる。クルーゼも目的地にたどり着く手前でトラックを放棄せざるを得なかった。
「300メートル先に動いていないジンが1つ。そのさらに100メートル先にもう1つジンがあるが、こちらは動いている。2つ共傷の無い状態で手に入れたいところだが」
「どうするの? ラウ」
「とりあえず1つはいただこう。もう1つは、敵の腕次第だな。行くぞレイ」
「うん!」
クルーゼとレイは暗闇に紛れて駆け出す。
近くのジンの手前には3人の男性がいて、眠そうにジャンケンしていた。何のためのジャンケンかは知らないが、指示系統のはっきりしないザフトではいろいろと判断に手間取ったりするのだ。そして、今回はそれが命取りだった。
二方向からの発砲音。気付いた時には既に遅く、全員致命傷を負っていた。
「ふっ、はっ」
風のようにコクピットへ駆け上がるクルーゼ。レイの前だからか、いつもより無駄な動きが多かったりする。それでもレイより早く辿り着く。5秒程遅れてレイもコクピットに入ってくる。
「向こうのジンも異常に気付いたようだ。もっとも、あの程度の動きではどうすることもできんがな」
クルーゼは重斬刀を構えて突っ込む。敵パイロットは新米だったらしく、素人のようにオロオロするばかりだ。ならばと、クルーゼは重斬刀を中途半端な位置で固定し、側面でコクピットを殴る。
敵機のジンが吹き飛び、建物に背中からぶつかり動かなくなる。クルーゼは敵機のコクピットにジンの手を伸ばし、無理矢理こじ開ける。中のパイロットは酔っぱらいのような体勢で、首をカクンと下ろしたまま動かない。気絶しているようだ。
「レイ! 今だ!」
クルーゼが自身のジンのコックピットを開け、レイが飛び出す。レイは先任のパイロットを放り投げ、機体を立ち上げる。
「動くか?」
「うん。問題ない」
「よし。では次は船だ」
「うん!」
2機のジンは次の獲物を求めて闇夜をさ迷う。彼等の作戦は、悲しいかな即席でしかないもので、MSを盗み、民間船を脅して手に入れ、脱出するという流れだった。脱出後は海賊をしながら受け入れてくれる国を探す。無ければ一生海賊ということになる。
その頃、ラクスとクルーゼをそれぞれ別の意味でハメた少年は、女装して宇宙船に乗っていた。彼は美形揃いのプラントにあって目立つほどの美形で、また中性的な顔立ちであるため、女装すると美女にしか見えない。これと未来予知とプレッシャーを合わせて駆使すれば、彼の捜索は困難を極める。
少年は本名であるスウ・ラ・フラガを名乗り、動画がアップロードされる3時間前には船に乗り込んでいた。また、ラクス・クラインは逃がしておらず、巨大なバッグに入れて運んでいた。もちろんバッグの検査はあったが、未来予知で間抜けそうな職員を見抜き、プレッシャーを与えることで素通りに成功した。そうでなくとも人がいるかどうかの検査などしていなかったが。
行先は地球の小さな島国、オーブ連合首長国。この国は今回の戦争について中立を表明しており、プラントへも彼の実家がある大西洋連邦へも行き来ができた。
その後、少年スウは同じように未来予知とプレッシャーを駆使して検査を突破。無事ラクス・クラインの入ったバッグを手に空港に辿り着き、大西洋連邦向けの飛行機に乗り、母国へ戻る。
到着後、近くのホテルに向かい、自室で久しぶりにラクスを解放する。
この間3日も経っており、一応点滴で栄養は与えていたが、少女が衰弱し切っていたのは言うまでもない。オムツにもアレ等がたっぷりである。
これにはさすがのスウも謝った。そして手早く縄をほどき、オムツを取り替え、シャワー室へ。丁寧に洗い、拭き、次は食事。病院食のようなものをあーんをして食べさせた。食べ終えると、弱り切った少女はすぐに眠ってしまった。
スウも疲れていたので眠ることにした。一応逃げられないように少女の手足を縛ってから、彼女を抱き枕にして眠りに落ちた。
「わっ」
「うおおおっ」
少女の声に少年はビクリと目を覚ます。眼前で女神と紛うきれいな顔が、悪戯成功とばかりに微笑んでいる。初めて見る穏やかな表情に、少年は先日強要した身でありながら見惚れてしまう。
「今日こそは家に帰らせてくださいますの?」
少女は機嫌よさげな表情のまま尋ねる。少年はポケッとしてなかなか反応しない。が、ハッとして口を開く。
「いや、ダメだ」
「えー! では、いつまで?」
少女はかわいらしく眉を顰めて尋ねる。縛られているクセに、無理矢理ヤられたクセに、妙に馴れ馴れしい。猫被りかと思い、少年は持ち前の感知能力で真意を探ってみる。が、敵意を感じない。不思議な少女だ。
さて、少年は質問の答えを考える。ただ野性的な本能に従うのならば、彼女を一生自分の物にしておきたいが。
「俺が死ぬまで」
途端に少女の顔が曇る。少年は安心させるようにフッと笑い、続ける。
「でもいいが、おそらく終戦までだろうな。むしろお前を使って終戦させる。俺の兄が戦争に参加しているから、できるだけ早く終わらせたい」
「私だけで終戦するとは思えませんが……」
「タイミング次第だな。だが、俺なら確実にそのタイミングを突ける。それ自体が無ければ無理だがな」
「確実? 自信がおありですのね」
「まあな」
少女が眉を顰めて訝しむが、それがかわいかったりする。少年は照れながら真実を告げない。未来予知などふつうは信じられないだろう。彼女なら信じるかもしれないが。そう思い、スウはふっと笑みを零す。ラクスはからかわれたと思ったか、眉をさらに深く寄せる。スウは悪戯したい気分になって、目の前の額に口付ける。
「セクハラですわ。お兄さんが悲しみますわよ」
ラクスは身をよじり、迷惑そうに言う。
「今さらさ。もうやってしまったし」
スウは兄を出されて少し悲しげな表情になった。しかし体は素直と言うべきか、目をつぶり、黙ってラクスに抱きつく。
「セクハラですわ……」
ラクスはもう一度つぶやくが、抵抗はしなかった。