「ま、待て! まだ攻撃するな!」
「卑怯な! ナチュラルめ!」
イザークが叫んだあの時、自分はどうすればよかったのだろう。
アスランは同じ失敗を繰り返さないために、先刻のことを思い出していた。
決して口には出さないが、自分も気持ちは同じだった。民間船を挟み、前後にジンが構えるという隊形。母船の動きを極限まで制限して、あまつさえ盾にするなんて、ふつうの戦闘ならば愚でしかない。ナチュラルもさすがにそんなことはしない。だから、ザフトでは対処法なんて習わなかった。自分でもシミュレーションしていなかった。
「きみ達の目的はラクス・クラインなのだろう? ならば利用するのが当然だ」
嘲笑うようなクルーゼの声。
アスランは血がにじむほど歯を食いしばりながら、自分の浅慮を憎んだ。
どうする? 何をすればいいんだ? 撃つのはダメ。かと言って近づけば撃たれる。そもそも近づいたところで、近接戦闘さえ危ないじゃないか。
アスラン達の第一目標は、あくまでラクス・クラインの奪還。その当人が乗っていると思わしき船に危害を加えるなど、あってはならないこと。
加えて、新人でしかないアスラン。こんなに早く自分で作戦を練るなんて思ってもいなくて、完全な準備不足だった。なのに、彼を支えるメンバーも新人揃いと来ている。
首脳陣はナチュラルだと判明したクルーゼを舐めていて、もしくは無能だと思い込みたくて、どうせだから婚約者のアスランに花を持たせようなんて言い始めた。彼を責任者にし、部下には彼と同等かそれ以下の者をあてがったのだ。アスランは新人でしかないのに。
もっともこれは、今すぐ使える人材がそれくらいしかいなかったから、でもある。ザフトの人材不足は深刻だ。単純な敵ではなく、身から出た錆だからなお苦しい。即座にとなると、クルーゼと少しでも繋がっている可能性のある者は省かなくてはならない。すると、彼は穏健派のシーゲルとも過激派のザラともそれなりに付き合いが深かったので、新人のアスラン達しか残らなかった。
クルーゼの声に、イザークは思わずバズーカを構えた。もちろん、さすがに撃たなかったろうとは思う。が、アスランはぎょっとした。他の隊員も同じ思いだったろう。ラスティは思わず射線上に入り、イザークを押さえようとした。
しかし、「敵に背を向けるとはな!」。何度でも思い出す、憎い声。こちらはおとなしくしていたのに、たった2機しかいないジンは、攻撃してきた。
バカだろうと思った。こちらはコーディネーターの乗る8機のジン。その上、戦える母艦がある。相手は弾薬の予備も無い。絶対勝てるはずがないのに、なぜわざわざ戦おうとするのか。
銃弾はラスティの乗るジンに命中した。しかも何かに引火して、腕と足が無くなった。傍にいたイザークのジンも、その爆発の煽りを受けて吹き飛んだ。
無事なジンは動揺しながら、クルーゼのジンに銃口を向ける。しかし、まともに狙えるはずがない。誰かが脅しで撃った銃弾も、全て明後日へと飛んでいく。そんな新人の乗るジンへ、クルーゼは的確に当てていく。
「う、うわあああ!」
「隊長! どうすれば!」
「撃ちます! もう撃ちますよ!」
「だ、ダメだ!」
部下の悲鳴ばかりがいくつも聞こえてきた。アスランが「ダメ」と言ったのも聞いてないようで、部下はマシンガンを乱れ撃った。照準は無茶苦茶で、やはり全て無駄玉に終わってしまったが。
このままではまずいと思っていると、イザークが復活した。
「きしゃまああああああ!」
一機突撃するジン。本来優秀な彼の、悪いクセが出ていた。頭に血が上って、周りが見えなくなるのだ。
「い、いかん!」
このままではラクスが殺されてしまう。
アスランは何も突破口が見いだせないまま、それだけは確かだと思えた。気付くと、重斬刀を出してイザークのジンに突っ込んでいた。
「アスラン! きしゃま何を!」
「落ち着け! イザーク!」
そういう自分も落ち着いてなかったと思う。
何故かその後、イザークと激しい戦闘を行ってしまった。気付いた時には、部下はみんなボロボロだった。自分とイザークのジンもボロボロで、空しく掴み合っていた。