デュランダルはザフトのネットセキュリティ会社に電話し、次いでその内容をシーゲルに伝えた。
「急げばまだ間に合います。こういうのはスピード勝負です。ご許可を」
それは、例のサイトにアクセスした形跡のあるコンピュータを全て調べて回り、動画ダウンロードしていた場合は動画を破棄した上で使用者を逮捕する、というもの。
しかし、もちろん容易ではない。ニュートロンジャマーで通信が遅いために、地球でこの動画を直接ダウンロードしたものはいないだろうが、他サイドのコロニーならばいるかもしれないし、プラントのコロニー間だってそれなりに距離がある。戦時の緊張感の中で、愛娘のためとは言え、さすがにそんな手間も人員も使えない。
「バカを言え、戦争中だぞ。一人か二人、見せしめに捕まえればよい」
「了解です。失礼しました」
「フンっ」
だからシーゲルは強がってそう言った。が、電話を切ると、途端に一人の子煩悩な父親の顔になる。悲しげに眼を細めて執務室の窓から外を見やり、空中に愛娘の涙して助けを求める姿を思い浮かべ、弱々しくつぶやいた。
「すまん。ラクス……」
一方、電話を切ったもう片方は、不敵に口端をつり上げながら、クライン派の面々に指示を出していた。
「そうだ。クルーゼと近かったザラ派を中心に探ってくれ。多少手荒でもいい」
ラクスはプラントの歌姫と呼ばれる人気歌手。狂信者と言えるような熱烈なファンは軍部(ザフト)にも多く、彼等はかなり過激な方法で他人のコンピュータを閲覧、出来なければ破壊していくだろう。
そして、デュランダルの予想は現実となっていく。使用者が閲覧拒否をしたパソコンが次々と破壊されいき、人がリンチに逢うこともあった。またその過程で、逆にクライン派の人間が例の動画をダウンロードしていたことがバレて、反撃を食らったり、関係ないファイルも勝手に見ていたために、ザラ派でもごく一部にしか知らされていなかった決戦兵器の存在がクライン派に知られ、大騒ぎになった。
結果、ザフト全体が身動きできなくなり、負けてみじめに帰ってきたアスランのリベンジも延期となった。
デュランダルは、計画通り、とばかりに笑みを浮かべながら、混迷の隙にとあるジャンク屋にクルーゼ達の引き取りを依頼した。
しかして、ザフトの追撃を前に、クルーゼ達のメンデル脱出が叶った。人質は解放され、ジャンク屋はクルーゼ達の盗んだジン2機を報酬として受け取り、クルーゼ達は中立であるオーブの所有するコロニー、ヘリオポリスで降ろされた。そこでデュランダルの用意した偽装IDを得て、オーブのシャア・アズナブル、エドワウ・アズナブルとして生活していくことになった。
クルーゼは落ち着くまでしばらく息を潜めてから、自分をこんな目に遭わせた、おそらく己と同じ遺伝子を持つ男、また元々の計画通り世界に対して、復讐するつもりだった。しかしその前に、ちょうどここ、ヘリオポリスに、人類の醜さを凝縮した宝石のような存在、スーパーコーディネーターことキラ・ヤマトがいるというので、興味本意で探ってみることにした。
残念ながら一家揃って引っ越したらしく、当人に合うことはできなかったが、友人からキラ・ヤマトの人となり、また能力の一部を聞き出すことができた。結論は、引っ込み思案で実力を出しきれていない、もしくは目立たぬよう隠している、というもの。こんな、しょうもないと言って差し支えないだろう結果のために、生まれながら人生を狂わされた、と思うと、いつものように人間のおろかさを笑う以上に、なんだか力が抜けた。いろいろとどうでもよくなった。
しかし、エドワウことレイが、サイ・アーガイルというキラ・ヤマトの1つ上の先輩にキラの仕事ぶりを尋ねている時、思わぬ行幸があった。
これは……。
「すごいですね。新しいコンピュータゲームのOSでしょうか?」
「ま、そんなところさ。あいつはすげえンだぜ、こっからここまでたった1週間だからな」
「へー」
はっきりとは分からなかったが、レイにはそれがモビルスーツのOSのように思えた。内心で怪訝に思いながら優秀で健気な少年を演じ、話が終わるとクルーゼに無線通信で疑惑を伝えた。
「ほう。よくやったな、レイ」
「いえ、まだ分かりません」
久し振りに聞いたクルーゼの嬉しそうな声。レイは見た目相応、いやひょっとするとそれ以上に幼げにはにかんだ。
「見せてもらおうか。連合のモビルスーツの性能とやらを」
電話越しの演技じみた声。よほど気分がいいのだろう。
もし使えそうなら、隙あらば奪取、むしろ隙を作って奪取する。クルーゼはそう言った。
学生であるキラ・ヤマトに、機密だらけの軍用モビルスーツのOSをそれと知らせずに作らせていたカトウ教授は、狙い目だった。サングラスに真っ赤なノースリーブジャケットといういかにも怪しい出で立ちのクルーゼは、パパと声が似ている、なんて理由で気に入られたフレイ・アルスターという少女と共に歩きながら、邂逅の時を待った。
「だからね、パパのことは好きだけど、ちょっとおせっかい過ぎるのよ。そのくせ一緒にはいてくれないでしょ。そりゃあお仕事が忙しいのは分かるけど、私よりも仕事を優先してるんじゃないかって思うときがあって」
「なるほど。すれ違いというわけか」
「そう! そうなのよ! サイとの婚約にしたって、彼はいい人で好きだけど、いきなりだから参っちゃうのよね。なにか一言フォローがあればスッキリしただろうに」
さしものクルーゼも、女学生のパワーに押され気味。内心苦笑いしながら耐え、適当に相槌を打った。
そして、やっとの思いで目的の人物を見つける。
「分かる話だ。私はナチュラルだが、ジャンク屋まがいをやっていた頃にモビルスーツを動かしたことがある。人の形をしているが、やはり機械だから感覚の違いに戸惑ったな。すれ違いだ。OSを弄るとなんとか様になるようになったのだが」
聞こえるように大きめの声で言う。ちょっと無理矢理過ぎると思ったが、目的が達成されればいいだろうとのみ込んだ。
「分かるわー。私ももちろんナチュラルなんだけど、コーディネーターと話したことあるのよね。その時はやっぱあいつら人の形をしているだけって思ったもん。だいたい妙に上から目線なのよね。あー、思い出しただけで腹立ってきた」
分かるものか! と思わずズッコケそうになったのを耐えて、頬を引きつらせながら、やはり話の内容いかんよりただ話し相手が欲しかったのだな、なんて思う。
「あの、今の話本当ですか?」
なんてやってると、本命が釣れていたらしい。
喜ぶべきところだが、クルーゼは疲れてしまっていたので、代わりに大きく一息ついた。