オーブはどこにも属さないと言いつつ、その一部は地球連合に迎合し、密かにナチュラル用モビルスーツを連合の技術者と共同開発している。
しかし、実はそれにすら裏があって、オーブの、というより軍部をあずかるサハク家の真の狙いは、連合の技術盗用による国内独自のモビルスーツ開発にあった。
注意深く観察してみると、用途不明の資材、異常な人員の動きは簡単に見つかった。また、カトウ教授に雇われる形でOS開発に関わっていたことも合わさって、クルーゼはほぼ真実にまで辿りついた。
であるならば、容易い。
そのモビルスーツならば、一度手にいれてしまえばこちらのものだ。何せ盗用した兵器なのだから、表だって返せとは言えないだろう。オーブと地球連合の力の差を考えても、オーブとその代表たるアスハの在り方を考えても。厄介払いのような形でもらえる可能性が高い。
だから、ちょうど連合の士官共が完成したモビルスーツを受け取りに来るのに合わせて、ザフトにちょっとした情報を流して襲撃させ、どさくさ紛れにオーブ製モビルスーツ3機のうち2機をいただくことにした。
それからは計画の時を楽しみにしつつ、比較的穏やかに過ごした。
フレイはあれからも話しかけてきて、実は大西洋連邦事務次官の娘であると分かった時にはさしものクルーゼも驚いた。その肩書きは利用するにはいいのだが、身が持たないので、レイを紹介して彼に犠牲になってもらった。
理論派のレイと感情的なフレイ。クルーゼは内心すぐさま険悪になってしまうかもしれないと思ったが、意外と問題はなかった。
母親がいないレイの気持ちを、同じく母親がいないフレイが汲んだのかもしれない。年上ぶるフレイはそれなりに面倒見がよかった。もっとも、年齢的に母と子ではなく姉と弟だが。
とある日、噴水周りの石垣に並んで座る姿は、まさに仲睦まじいそれだった。
「だから恋愛って言うのは衝動的なものなのよ。じっくり深める愛はまた別なの」
「いや、それはおかしい。というより、愛の定義の問題だな」
「だーっ、もう。かわいい顔して何『愛の定義』なんて言っちゃってんのよ」
フレイはレイの頭を撫でながら、呆れたように言う。
「悪いか?」
構わず、怪訝そうな目で問い返すレイ。
フレイはそんなレイをじーっと見つめて、耐えきれず吹き出す。
「ぷっ、ぷふっ。アハハッ」
「おい」
いつものことだが、かわいらしい容姿で大人びた言い方をするレイがおかしくて笑ってしまう。
対し、バカにされていると思ったレイは不機嫌になっていく。気付いたフレイは目尻を擦りながら、謝る。
「ゴメンゴメン。これで許してねっ」
「お、おい。ウワッ」
としかし、フレイは突然抱きついた。
レイは咄嗟のことに反応できず、もしくは避ける気がなくて、15歳と思えない豊富な乳房に、すっぽり顔が埋まる。
すぐさまレイは「おい」なんて言いつつ抵抗するが、動きは弱々しく、顔も急激に真っ赤になっていく。「かわいい! かわいい!」と奇声を上げるフレイになされるがままだ。
「くくくっ」
クルーゼはそんな彼らを見ながら、怪しげだが、実は何年かぶりのおだやかな笑みを浮かべていた。しかし、不意にそれに気付くと、すぐさま眉を顰め、プイと視線を逸らしてしまった。
そうして過ごしていく中で、クルーゼはレイを連れるべきか、残すべきか迷うようになった。
クルーゼの行く道は、利己的な復讐心からのみなる地獄道。自分と異なり、おだやかで使命感に燃えるレイには、明らかに合わない。そこへ来て、地球連合の戦力の大半を担う大西洋連邦の事務次官は、十分な後ろ楯である。まだ本人の人となりは分かっていないが、娘であるフレイの発言から想像すると、快く引き取ってもらえるように思えた。
しかし、クルーゼは愚かな人類に絶望しているはずだ。その思い込み、信条のようなもので、アルスター父娘を信じきれなかった。一方で、人類の破滅を望みながらレイの幸福を願っているという矛盾に対しては、自分でも不思議なほどすんなり受け入れられていたが。
そんな中、ザフトへ情報提供する前に、状況が動いた。
「すまない。彼女は?」
「ああ、シャアさん。なんでも、カトウ教授へのお客さんだそうですよ。ご存じありませんでしたか?」
そう言うサイ・アーガイルとクルーゼの視線の先には、アスハ代表の一人娘、カガリ・ユラ・アスハの姿があった。