『痴漢に注意』……か。ここにこんな立て札が現れたのは初めて見る。さすがに、近頃やりすぎてしまったのかもしれない。これまでは、車で誰も俺を知らない街まで出向いていた。が、我が家は来月に引っ越しを控えている。もうすぐ、
だからといって、古い漫画に登場するようなロングコートなどを羽織るようなことは決してない。そもそも男の着こなしとして、裾からズボンが
住宅地の細い路地――視界を遮るL字の角――それが、<日常>と<非日常>の境界だ。その、こちら側に潜んで、俺は向こう側に耳を澄ます。人々が終電で下車し、このあたりまで歩いてくると、ちょうどいまくらいの時間になるのだ。アスファルトをコツコツと叩く硬い踵の音――今夜の被害者は女らしい。もっとも、俺が求めているのは<非日常>に相対した際の驚嘆である。これについて、老若男女にこだわるところではない。が、若い女であれば、加えて後のオカズにもなる。ゆえに歓迎しよう。
ただ裸体を目の当たりにするだけならば、誰もそこまで怯むことはない。このような、似つかわしくない場所でなければ。さあ、この<非日常>に、お前はどんな顔を見せてくれるか――!?
「……ふっ、こうすれば逃げないと思ってましたよ」
な……んだと……ッ!? 初めて俺は、この俺の姿を見た者の気持ちがわかった気がする。まさか……曲がり角の向こう側から、
とはいえ……股間を覆う毛並みから、子供でないことくらいはわかる。胸も、それなりに厚みを持っているし。だが、あくまでそれなりだ。それに、腰のくびれも同様に。そのくせ、しっかりとした口紅にアイシャドウ――ウェーブの入った長い脱色髪も相まって、まるで学生によるキャバクラ嬢のコスプレである。
この不釣り合いな厚化粧も、俺のマスクとサングラスのようなものなのだろうか。それでは、顔の造形は隠しきれていない。そんな女が、笑顔のまま物怖じもせず、裸の
……くっ、ここで情けない姿など見せられるものか。<非日常>を見せつけるのは俺の方のはずである。思わず上げてしまいそうになった踵を、俺は改めてグイと踏みしめた。
幸い、俺の顔色は窺われていない。何故なら、ヤツの視線はまっすぐ下に向けられているようだから。
「先週もここでお会いしましたよね? 顔は隠してもちんぽとちん毛は覚えて――」
――ッ!?
「……あら? 触られたくないのでしたら、しまっておいた方がよろしいのでは?」
クソ……ッ! 俺としたことが、不覚にも後退ってしまうなんて。近づいてくるどころか、堂々と男の股間に手を伸ばしてくるなど若い女のするじゃないだろう。あまりにも面食らってしまい、無意識に身体が避けてしまった。
この女は物腰こそ大人びているが、身体つきの方はどう見ても幼い。そんな女に……蔑まれてたまるか……ッ!
俺は改めて、仁王立ちになり腰に手をやる。そこを、これ見よがしに突きつけるように。普通の女であればひと目見ただけで顔を背けるようなところを、コイツは嬉々として凝視し、そして……無遠慮に指を絡みつかせ……ッ!
「ふぅ……熱くて……それに、硬い、わね」
皮で包み込むように、上へ、下へ。裸の女にそのようなことをされては、男として黙っていられない。
「触られたくなければしまっておけ、と言っていたな?」
「ええ、そうね」
女は恥じらいもなく俺に向けて上体を反らす。小振りながらも張りはあり、その先端では小さな蕾が大きく膨らみ、まるで俺の愛撫を待っているかのようだ。
触りたくない――はずがない。目の前にはネット上でしかみたことのなかった映像の実物がある。しかも、こんな街頭の照らす夜道に。それは、まさに<非日常>。だからこそ――何らかの罠ではないかと疑わずにはいられない。かといって、グズグズしていてはまた女から嘲笑われてしまう。近づけた手を引っ込めてはなおさらだ。
ゆえに俺には――素直に誘われてやることなどできない。
「ひゃんっ!?」
上――と見せかけて、逆の手を素早く下へ。指先が少し割れ目に触れただけだというのに、毛が濡れそぼっている感触は確かに伝わってきた。
突然の強襲ではあったが、女に拒む様子はない。
「もぅ……おっぱいの方を待ってたのにぃ……♪」
そう言いながらも、こちらもまた待っていたようだ。女は少し足を広げて、俺の指を招き入れようとしている。そして、俺に向けられ反らされたままの胸も。
ならば――両方か。これ以上ない場所を辱めて拒む様子がないのなら、あとは己の欲望のままに……!
「は、あ、あぁ……」
たとえ薄くとも、手の平いっぱいに集めればそれなりの肉厚は感じられる。そして、凝り固まった突起であればなおさらだ。
一方で、蜜の溢れる肉の隙間を、俺は指で掻き分けていく。実際には初めて触れるが、写真なら毎日使っているので、その構造はわからなくもない。指の両側から舐められるような感覚の中を――手前に引けば、女にとって敏感な場所。
「あ、あぁん……ふふ……♪」
逆に奥へと指先を流していけば、確かに感じるさらなる深み。そこは俺を拒むことなく、少し押せばむしろするりと飲み込んでいく。
「やぁん……いい……❤」
そこは思ったよりも柔らかい。むしろ、骨格をしっかりと感じられるほどだ。しかし、
「あっ、あ……もっとぉ……」
女は腰をヒクヒクと悦ばせながらも、決して握った手は放さない。だが、ポテと俺の胸へと額でもたれかかる。それは、俺の身体を味わうためではなく――すぐさま健気に俺を見上げてきた。だらしなく開いた口からてろりと舌をはみ出させて。
女の握り込んでいない方の手が、俺の顔へと近づいてくる。が、俺はもう逃げたりしない。細い指が、俺の鼻先に――マスクをグイと引き下げたとしても。その様子を見て、女の口の端がにやりと歪んだ。そして、瞳が閉じられれば、俺からも首をもたげていく。その唇に、吸い寄せられるように。
「あむ……あ、あ……むぁ……ふ」
ここまで互いの恥部に触れ合ってきたのだ。唇同士で女と触れ合うのは初めてだの、すでに唇だけでは済んでいないだの、そんなものは瑣末事に過ぎない。ただ、他人の口の中に舌を
俺の左手はいまも女の
たとえ、誰かが割り入ってこようとも。
コッ、コッ、コッ……
少々長居しすぎたか。再び何者かの気配が近づいてくる。それはきっと、女の耳にも届いているはずだ。しかし、俺から離れる様子はない。
「ん、ん……あん……はぁん……」
どこからこの姿で来たかは知らないが、こいつの度胸も余程のものだ。俺とて、このような小娘に負けるわけにはいかない。ここで引く素振りを見せれば、きっとニヤつきながらなじってくることだろう。ならば――これは、チキンレースなどではない。端から両者ともブレーキを踏むつもりなどないのだから。
「――ッ!?」
今度の通行人は、若い男らしい。彼からすれば、帰宅途中に角を曲がった先には、男の股間を握りしめる裸の女と、女の胸を揉みしだきながら股間をも弄り回す裸の男が、濃密な口づけを交わしている――路上という<日常的>な場所で行われる<非日常的>な行為。そこから先に踏み出す勇気など、<日常>を生きる者にありはしない。慌てて引き返していく様をチラリと視界の端に映し――どうやら、女も気にはなっていたのだろう。これまで頑なに手の内へと収め続けてきた俺を離し、今度は俺の身体ごと――むしろ、指先だけでは満足できなくなったのかもしれない。両腕で、いや、胸や腹まで擦り付けるように、俺にしがみついてくる。
だが、その気持ちは俺も同じだ。あんな無様な負け犬の背中を見られたのだ。こんなもの、燃えてこないはずがない……!
こちらからも背中ごと、肩ごと女を抱きしめているが、下から突き出したものはしっかりと女の足で挟み込まれている。そこは艷やかで温かく、腰を揺り動かしても縛り付けることはない。柔らかな腿に包まれ、男の先端が彷徨っている。これまで指で味わっていたものを、今度はそこで
<非日常>へと自ら踏み込んできたのは女の方である。――いや、女が裸のままやってきた先もまた、<非日常>なのかもしれない。この女の素性や目的は一体何なのか――そのような懸念は、目下の官能の前では二の次だ。この先何が待ち受けていようが、俺はいますぐこの女を――
――ん?
これまで散々強気で煽っていたくせに、ここに来て怖気づいているのか? 俺が押し倒そうとすると、それに合わせて女は静かに
女は
しかし、女の方には容赦がない。
「あんっ……早く……キて……
自分の尻が着地するや否や、しがみつくように踵で俺の尻に催促してくる。いやしかし……ここに俺が膝を着けば、そこはアスファルトの上なんだが。いや、そんなことを気にしていても仕方あるまい。それほどまでに、俺は――俺の
「あ、あぁ……んん……んんん……っ!」
これが……女の
「あぁんっ! そうっ! もっと……もっとぉ……❤」
こんな……初めてからこんなことしちまったら、もう……ゴムなんて使えないぞ……!? ましてや、手淫や道具では至れなくなってしまうかもしれない。女の胸が薄いとはいえ、ここまで密着すれば、少なくとも乳首は
「はぁ……いい……ちんぽ……ちんぽいいのぉ……っ❤」
彼女からの自供がなければ、俺が一方的に強姦しているように見えてしまうかもしれない。だからこそ、女の口を塞ぐことなく――あえて、舌先だけで堪えている。
「えへ、えへぇ……好きぃ……ちんぽぉ……もっとまんこにちんぽしてぇ……♪」
さっき――角を曲がってきた男に続いて、もうひとりやってくる気配はあった。が、見通しがいいため、近づくことなく引き返していったと思われる。通報などされなければよいのだが――いや、通報されたとしても、いまさらやめることなどできるものか! もしかしたら、生涯最初で最後のセックスになるかもしれない。だったら、悔いの残らないよう――
「
ここまできたら犯しきるしかない! だが、それを聞いても、女は俺の拘束を緩めず、むしろ、嬉しそうに締め付けてくる。
「
ビュルッ!!
「あぁぁん……ッ! はぁ……ちんぽ……ちんぽぉぉぉぉぉ❤❤❤」
俺は子宮目掛けて徹底的にねじ込んでいく。ビュルビュルと
温もりに包まれながら射精を迎える――これまで繰り返してきたあらゆる自慰より勝るというものだろう。
だが――
男とは、どこまでも愚かな生き物らしい。
しかし、少なくとも女の方に不安は見られない。その笑顔は、満足そのものだ。
「はぁ……あぁ……♪」
俺はこれから、なんと声をかければいい? 何しろ、俺たちは今日初めて顔を合わせただけの関係である。いや、女の言い分からすると、どうやら先週もここで会ったらしいが。とはいえ、相手の<非日常>を目の当たりにした間抜けっぷりを堪能したら、<変質者>は早々に立ち去らねばならない。下手な動きを見せれば、<痴漢>として攻撃を受けてしまう。こちらとしては、指一本触れるつもりもないのに。このように女から迫られでもしなければ。
そんな俺を見上げて、裸の女は挑発的な目線で俺を誘惑する。まさか、この一発で終わりではないでしょう? と言いたげに。だが、俺の沽券はもう……すべてその
「色々とお話してみたかったのですけれど……今夜はこのくらいにしときますね」
俺の腹の下からズルズルと這い出し、女は何事もなかったかのように立ち上がった。不思議なことに、まだ男は健在である。それでも、心が萎えてはつまらない、と女の後ろ髪は語っているようだ。
ここがホテルの一室ならば素っ気ないだけで済まされよう。だが、ここは空の開けた道端であり、さらに抜けると、バス通りだ。
「あんまり長居してると危険でしょう? ですから、また……」
長居も危険だが、女の向かう先もまた危険である。しかし、俺には彼女を引き止めることもできない。
女は、しっかりした尻はそのままに、控えめな上半身だけをこちらに少しだけ覗かせる。
「また来週、同じ時間に、同じ場所でお会いしましょう」
そして……にこりと。
「きっと今度もまた……同じ姿で」
堂々と立ち去っていく小さな背中を、俺には追うことなどできなかった。にわかに静かになると、これが夢なのか現実なのかわからなくなってくる。
だが――膝の痛みが、この場に留まっている場合ではない、と教えてくれた。