海賊白兎は闘争と色を好む 作:黒旗
ここは西の
その理由は…。
【ロキ・ファミリア】
【フレイヤ・ファミリア】
【カーリー・ファミリア】
今の迷宮都市に君臨する最大派閥が三つ巴の状態で向かい合っているからだ。
「なんなのにゃ、この状況…」
「ほんとなんなんだよ、これぇ…」
「異様な光景ですね、都市最大派閥の主神と第一級冒険者達が揃っているというのは…」
「兄様…」
約四名の給仕達がその光景に感想を述べていると、女主人であるミアの一声が飛ぶ。
「バカ娘ども、サボってないでさっさと仕事しな!!」
「「「「は、はいぃいいいいいいいいいいいいいいっ!!」」」」
「全く、面倒なことにならないといいけどねぇ」
ボソッとミアが口をこぼすのだった。
何故、三つ巴の会談という異様な光景が出来上がったのかそれは春姫を抱いた翌日の事。
【カーリー・ファミリア】の
その人物は二人、【ロキ・ファミリア】幹部候補【
来訪の理由は両者似たようなものである、会談を設けたいとのことだった。
それに対しての答えは…YES。
しかし、ベルがとんでもないことを言い出す。
「二回も話すのめんどくせぇからまとめて話すわ」
そう、三つ巴の会談をするといったのだ。
ベルは知らないのだ、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は犬猿の仲であることを。
それを話したところで知った事ではないと突っぱねたその結果がこの異様な三つ巴の会談になったという事だ。
「それでお前らは何が聞きたいわけ?」
最初に口を開いたのはベルで、上から目線ともとれる態度でそう言った。
そんな態度に【フレイヤ・ファミリア】の団員は顔を顰め、【ロキ・ファミリア】の血気盛んな団員達も苛立ちを募らせる。
そんな中、【カーリー・ファミリア】の女達は殺気立つ場においても平然としていた。
いや、それどころかむしろ望むところとすら思っているだろう。
「そうやな、まずは自分の事や。ダンジョンのない外でどうやってLv.8まで上げたんかを教えてもらおかいな」
「そうね、私もそれは気になるわ」
口火を切ったのは【ロキ・ファミリア】主神・ロキとそれに便乗する【フレイヤ・ファミリア】主神・フレイヤ。
「あー、それなぁ」
「なんや、答えとうないんか?」
「いや、俺はカーリーの恩恵を貰った瞬間からLv.8だったから何とも言えねぇんだよ」
「は?」
「え?」
『⁉』
【ロキ・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】の両派閥がベルの言葉を聞き衝撃を走る。
さらに言えばそのことに最も衝撃を受けているのは神であるロキとフレイヤ。
神の恩恵を貰ったならばどんな存在であろうとLv.1から始まる。
しかし、目の前にいるベル・クラネルは最初からLv.8だったという発言は嘘ではなく事実であることを神の権能が告げている。
「自分、ナニモンなん?」
「元海賊の現役冒険者?」
「いや、なんで疑問形やねん」
「あなた、海賊をしてたの?」
「あぁ、異世界でな」
「そう」
異世界で海賊をやっていた、それにも嘘はない。
【カーリー・ファミリア】と神二柱以外の者達は怪訝な顔をする。
それもそうだ、突然異世界で海賊をしていたと言われても信じられようがない。
「テメェ、ふざけてんのか兎」
眉間に皺を寄せながらそう言ってくるのは【フレイヤ・ファミリア】副団長【
「やめなさいアレン、彼の言っていることはすべて事実よ」
『⁉』
フレイヤの言葉に突っかかって来たアレンを含めて全員が驚く。
神の権能によって下界の人間は神に対して嘘をつくことが出来ない、それ故にベルの言っていたことを肯定するという事はそれが事実であることの証明でもある。
「ごめんなさいね、うちの子が」
「別に気にしてねぇよ、そりゃこの世界の人間にとっちゃ眉唾もんだわな」
フレイヤが眷族の無礼を詫び、ベルは気にしていないと答える。
「それで海賊やった自分はどんなことしとったんや?」
「略奪とかだな。敵対する奴らは全て殺し、奪えるものはすべて奪った」
ロキの質問に平然とした態度で答えるベル。
「
「あぁ、あの時俺達は宿に泊まってたからな。ちゃんとした住処が欲しかったから奪った」
そう言いながらベルは
「それじゃあその異世界では何か面白いものがあったのかしら?」
「面白いものねぇ…」
そう言ってベルは考え込むが、すぐに答えを出す。
「俺はこの世界の事をよく知らねぇからわからねぇな」
その言葉にロキとフレイヤが納得をする。
「それやったらまずウチ等に異世界の事を教えてくれや」
「そうね、それを聞いてそれからこの世界の事も教えるっていうのはどう?」
普通ならば自分の無知を晒すのは弱みに繋がるが、目の前の存在はそれらすべてをひっくり返す力を持つ可能性を持っていることを察する二柱はこんな提案をする。
「まぁ、それの方が手っ取り早いからいいか」
その提案にベルは応じることにした。
こうして、会談は続くのだった。
「まずはあなたの過ごした異世界はどんな世界なの?」
「クソッタレな世界」
「どういうことやねん?」
フレイヤがどんな世界かを問うとベルはそう答え、ロキが問いかける。
「俺のいた世界は海賊が闊歩する時代で、権力者共も好き勝手する場所だった。ある時、海賊島・ハチノスで一人の男が儲け話を持ってきた」
「儲け話?」
「儲け話を持ち掛けてきたのはロックス・D・ジーベック、儲け話の内容は世界征服」
『⁉』
この言葉にその場にいる人間が驚く。
「たった一海賊団にそないなことできる訳あれへんやろ」
「そうね、その世界にも抑止力と呼ばれる存在がいるだろうし」
ロキの言葉にベルは肯定する。
「ふん、あんなゴミクズ共を守ってる時点で俺としての連中の評価は同じゴミクズなんだよ」
「ゴミクズ?」
「あぁ、テメェら自身の事を“神”と称してる世界貴族。天竜人のことさ」
「あぁん?」
「…」
ベルの言葉にロキとフレイヤは顔を顰める。
「天竜人は世界の嫌われ者でいつ死んでもいい肉塊だと俺は思っている」
「貴様、人の命を何だと思っている⁉」
その言葉に反応したのは【ロキ・ファミリア】副団長【
「別に、何も。というか、あんな害獣をのさばらせておく方が世界の癌だ」
「なに⁉」
「じゃあ、お前天竜人の奴隷にされてもそんなことが言えんのか?」
ベルはリヴェリアを指さしながらそう言った。
「奴隷…だと⁉」
予想外の言葉が出てきたことでその場が静まり返る。
「
「尊厳も何もかもグチャグチャにされてもお前は今の言葉を吐けるのか?」
「…………っ⁉」
「それが理解できたならテメェの常識で語るな。いや、この世界の常識で語るなよ小娘」
「⁉」
ベルの言葉にさらに激昂しようとしたリヴェリアを他の団員達が止めに入る。
「神とは名ばかりのゴミクズ共を守ってんのが世界政府もとい海軍だ、何とも滑稽すぎる“正義”を掲げる軍隊だ」
「なんで海軍っちゅうんはその天竜人を捕まえれへんねん、仮にも正義を掲げとるんやったらそうするべきやろ」
「それはだな、海軍って組織は世界政府直下の組織だからだ。八百年前に二十もの国の王たちによって創設された組織で、天竜人はその二十人の王の末裔なんだよ。あらゆる治外法権を認められててな、一般市民を殺傷しても一切罪に問われることはなく、反対に天竜人が傷付けられた場合は報復として海軍本部の大将が軍艦を率いて派遣される。天竜人にとって、海軍の大将は直属の部下に位置付けられるらしい。また、天竜人に対する暴言は死罪になる。天竜人は傲岸不遜・厚顔無恥であり一般人を奴隷にして非人道的に扱うなど悪行の限りを尽くしている。天竜人の奴隷には天竜人の紋章の焼印「天駆ける竜の蹄」が焼きつけられ、その者は人間以下と見なされちまう。また、各加盟国の一般市民は世界貴族への貢ぎ金「天上金」を搾取されていて、天上金によって一国が飢餓で滅んだ事例もあるため一般市民からは「数百年分の世界の恨み」と表現されるほどの強烈な憎悪の対象となっているんだよ」
「なんなんや、それは⁉」
「不愉快ね」
ロキとフレイヤもベルによる天竜人の説明に嫌悪感を示し、それは声音にも表れている。
それは両派閥の眷族達も同様である。
「それに理由だってクソ下らねぇ、『天竜人の前を
『⁉』
天竜人の所業に子供思いの女神達は顔を顰める。
「とまぁ、胸糞悪い話はここまでにしようや。これ以上は飯が不味くなっちまう」
そうして、会談は一区切りを迎えたのだった。